【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件 作:◆QgkJwfXtqk
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サードインパクトによる地球の変容に伴って
そこに叩き込まれる
AAAブンダーの慣性制御を利用して射出するという実に雑な運用をされた、海水を満載した8発の<ruby><rb>大型タンカー</rb><rp>(</rp><rt>very large crude oil carrier</rt><rp>)</rp></ruby>転用弾であったが、その雑さ故に直撃したのは5発に留まっていた。
だが、その5発がNERV本部に致命的なダメージを与えていた。
激震。
そして電源が落ちたNERV本部第1発令所。
即座に赤色の非常灯が点灯していたが、薄暗さは隠せない。
湿度、陰気さが強まった中、NERV本部総司令官席に座っている碇ゲンドウは呆れる様に呟いた。
「WILLEか」
傍らに立つ冬月コウゾウが相槌を打つ。
「初号機を確保し
「ああ」
「どうする、碇?」
焦る色無く、尋ねる冬月コウゾウ。
実際問題として、WILLEへの対処の手段は幾つもある。
只、どの手段を選ぶかで碇ゲンドウの目的への道が変わってくるのだ。
「13号機の建造、艤装は最終段階だったな?」
「ああ」
「ならばよい。では冬月__ 」
「任せたまえ。今動かせるのは
何かが壊れる音。
断続的な振動。
WILLEが迫ってきているのが判る。
だが2人は淡々と応答する。
そして最後に、碇ゲンドウは黙って立っていた3人目に声を掛ける。
「出撃しろ、渚カヲル。13号機の真なる起動に必要な2つ目の魂、自分で捕まえてこい」
「僕は
「それが出来るのであればすれば良いだろう。だが、シンジは今、所在不明だ」
「僕のA.Tフィールドが教えてくれているよ。彼も来ている」
「そうか。だが、WILLEのエヴァは潰してもらう」
「仕方ないね。じゃ、それまでは式波Typeのオリジナルを使わせてもらうよ」
「好きにしろ」
「では__ 」
慇懃無礼めいた言葉遣いを最後に、渚カヲルが消えた。
冬月コウゾウも既に出撃に向かっている。
だだっ広い第1発令所に一人座する碇ゲンドウは、顔の半分を覆うようなバイザーを触り、独白する。
「さて、シンジ、オマエはどこに居る」
轟音と衝撃。
手回し式のサイレンが鳴らされている。
その中にあって碇シンジは乗り込まされた装甲トラックの片隅で縮こまっていた。
歯を食いしばり、頭を打たぬ様にしている。
『ゲート、爆破する! カウント3、2、1、ナウ!!!』
爆破音。
輸送艦おおすみの艦尾ゲートが爆発物によって解放される。
動力が切れている為、油圧式の開閉装置が動かないのだ。
「エンジン、始動!」
「始動します!!」
班長が声を上げれば、運転手が応答する。
数度、セルが回ってからディーゼルエンジンが起動する。
シンジが乗っているのは、中型の民間用トラックを転用した装甲車 ―― 四方に鉄板を溶接し銃座を作り、ついでにキャビンの助手席側の後ろを壁を撤去して、荷台と行き来が出来る様に改造すると言う無茶な改造の施された特設車であった。
否、この車だけでは無い。
おおすみに乗せられている車輛は、多かれ少なかれ、この様な民間車輛の転用品であった。
WILLEの陸戦部隊に純粋な軍事用車両、それも
そもそも、人をL.C.Lに還元するL結界と呼ばれるモノが地球を覆っている現在、人類が地表に立つ事自体が危険である為、陸戦部隊は都度都度編成される臨時部隊となっており、専用の装備と言うモノは少ないのが実情であった。
『戦車、前へ!!』
艦尾の最前線に居た、数少ない鋼鉄の塊が最初に前に出る。
陸戦部隊の盾であるのだ。
轟々とエンジン音を響かせて、前に出る戦車。
その様をシンジは装甲から頭を出して見た。
シンジは知らぬが、戦車は旧ソ連製のT-54と呼ばれる種類であった。
大量に製造されていたお陰で、保守部品が大量にあり、いまだ運用が可能なのであった。
とは言え、装甲その他の劣化が酷い為、鉄板などがめいめい、適当に増設されていた。
「坊主、頭をさげろ。今が一番に危ないんだ!?」
班長が怒鳴りながらシンジのヘルメットを掴んで装甲の内側へと引っ張りこむ。
それと相前後して、甲高い音が響き渡った。
悲鳴、そして怒号も。
NERV側の迎撃が始まったのだ。
火砲が戦車を狙い、装甲によって弾かれた弾丸、或いは弾片や弾殻が周囲に飛散していく。
敵味方、いずれかの判らぬ射撃音。
それは正に地獄絵図であった。
「班長!」
運転手が声を上げた。
蛮勇めいたナニカで、この地獄の中にあっても赤く光る誘導灯を持って立つ誘導員がシンジも乗る装甲車の出撃番が来たことを示したのだ。
「よし行け!」
「はいっ!!」
装甲車が出る。
狭い艦内を抜け、外へ、NERV本部へと出る。
装甲板が叩かれる音。
射撃が向けられているのだ。
射撃手が反撃する。
無理矢理に特設された、四方を装甲板で囲っている銃座にはM2 12.7mm重機関銃が搭載されている。
景気よく発砲していく。
射撃音と、床を叩く薬莢の金属音の中、シンジは乗せられている銃弾をせっせと銃座に届けるのだった。
と、後ろを見た。
外が、見えた。
見えてしまった。
搭乗用の扉の脇に用意されていた銃座越しに、地面に倒れている陸戦部隊の兵隊、そして幾人もの赤く色づいた青銀色の髪の人影を。
「なにやってんだよ、父さん!?」
歯を食いしばる様に怨嗟の声を上げるシンジ。
式波アスカ・ラングレーには聞いていた。
NERV側に人間は居ない。
碇ゲンドウと冬月コウゾウ以外は綾波Type、
シンジの知らない綾波レイが幾人も働き、幾人も武器を持っているのだと言う事を。
だが、事前に知らされていても、実際に見た衝撃は大きかった。
手に銃を持ち、白いプラグスーツの様なモノを着た綾波レイが大量に死んでいるのだ。
シンジたちを殺しに来ているのだ。
死んでいるのは綾波レイだけではない。
WILLE側の人々も多く死んでいっていた。
轟音。
火球が生まれる。
戦車が派手に爆発していた。
殺し、殺される戦場。
覚悟していても尚、衝撃を受けない筈の無い地獄であった。
だが、シンジには呆然とする事も恐怖に震える事も、或いは世界の理不尽さを呪う事も出来なかった。
何故なら、
「ボウズ、アモ! 弾だ、弾もってこい!!」
「はい!!」
装甲車の外の光景を頭から追い出し、慌てて弾を銃座に届ける。
それは、或いは役割に集中すると言う現実逃避でもあった。
AAAブンダーはNERV本部直上にて火力支援を行っていた。
主砲であるレールガンは大火力過ぎて使えないが、その代わりに船体各部に取り付けられていた機銃座、各艦からはぎ取って来た12.7mm砲などを盛んにばら撒いていた。
相手はNERV側が出してきている
AAAブンダーが相手とするには余りにも大人げない ―― と言う訳は無い。
そもそも戦争は
彼我共に命が掛かっているのが。
味方の損害が無く一方的に相手を倒せれば、虐めとなれば最高と言うものなのだ。
そしてもう1つの理由。
それは、NERVの歩兵は一般的な歩兵とは桁違いの
そのA.Tフィールドは防御の力は勿論として、身体能力を上昇させていた。
NERV本部に居た綾波Typeは、子供の体をしているのに、その力は成人男性のソレを遥かに凌駕する恐るべき兵士となっていた。
陸戦部隊の戦車が撃破されているのも、その力あればこそだった。
恐るべきことに綾波Typeは、大量の爆薬を持って我が身を顧みぬ
既に陸戦部隊が保有する戦車の4割が撃破されており、AAAブンダーによる対地支援はNERV本部攻略に於いて重要な役割を担っていた。
「陸戦部隊、侵入口まで300mです」
「結構。けど、もう少し急いで欲しいわね ―― NERV側の大型戦力は?」
「いまだ捉えられず、です!」
「A.Tフィールドに反応は?」
「現在の所、感無しです」
「結構。2人とも注意しておいて。エバーの1つでも出てきたら、地上の盤面は簡単にひっくり返るわ」
「はい!」
「了解です」
青葉シゲルと北上ミドリが異口同音に応じる。
葛城ミサトの警戒心も妥当な話であった。
今現在、NERVは綾波Typeによる抗戦以外何もして来ていない。
だからこそ、侵攻は比較的順調に進んでいると言えていたのだから。
「初手で内部設備を破壊できたのかもね」
赤木リツコによる、小さな楽観論。
それは、地上に残されていた対空兵器と思しき何かの残骸が大量に存在しているからであった。
ミサイル、レーザー砲、その他。
だがその全ては、
綾波Typeによる肉薄攻撃は苦肉の策。
或いは儚い抵抗であったのだ。
だが、葛城ミサトは楽観論に同意しない。
サードインパクトからの14年間。
何度も何度もNERVのエヴァンゲリオンなどによって苦杯を呑まされてきたのだ。
油断出来る筈が無かった。
「心配性ね」
「臆病なだけよ」
小さく自嘲する葛城ミサト。
顔に刻まれた皺は、今までの苦労の証と言えた。
だからこそ、赤木リツコは意図して楽観論を漏らしていた。
少しでも気が晴れるように、との意図であった。
だが、ソレが壊される。
電子合成音 ―― 警報が耳朶を打つ。
「A.Tフィールド感あり! 恐らくはNERV側のエヴァです!!」
「来たわね! 全艦、迎撃__ 」
葛城ミサトが命令を発するよりも先に、地中からの光芒は柱の如く虚空へと伸びた。
激震。
そして、地表が爆ぜ、開口部が生まれた。
多くの陸戦部隊が吹き飛ばされ、巨大なヒト型が出撃してくる。
それは白い、継ぎ目のないのっぺりとした外観をしていた。
WILLEが
WILLEが運用するエヴァンゲリオン同様にヒト型はしているが、頭部と呼べるモノは存在していなかった。
否、頭部だけではなく上半身も一般的なエヴァンゲリオンとは異なっていた。
コアが上半身の中央部にむき出しとなって見えており、それを囲むように肋骨めいた構造材が走っているという奇形。
そして頭部は目の無い蛇の様な鰻の様な形だ。
その数は10を優に超えている。
『Gyyyyyy!!』
吠えた。
手に持った双頭の大剣振り回し、地上に攻撃を加えている。
否、全てが陸戦部隊に攻撃している訳では無い。
約半分と思しきエヴァンゲリオンE97型はAAAブンダーに目掛けて突進してきていた。
「全砲門、開け! エバー出撃!! 緊急出撃を許可!!!」
葛城ミサトの命令によって、機体保護の為にギリギリまでAAAブンダーに収納されていたアスカのエヴァンゲリオン2号機と真希波マリ・イラストリアスのエヴァンゲリオン8号機が出撃する。
格納庫の扉を爆薬で吹き飛ばし、飛び出す2機のエヴァンゲリオン。
それは巨人、巨神の戦い。
だが、戦いはそれだけでは無かった。
「待ってください! これは別の、エヴァじゃないA.Tフィールド!?」
青葉シゲルの報告。
ブリッジの大画面に、新しいマークが表示される。
それはNERV本部を囲う雲海の中、雲を引き裂いて飛び出してくるエヴァンゲリオンよりも遥かに巨大な姿。
AAAブンダーと同じ姿。
NERVの巨大空中戦艦、NHG Erlösungだ。
挨拶代わりとばかりに、荷電粒子砲を発射してくる。
AAAブンダー、その船体各部に被弾。
爆発する。
激震に襲われるAAAブンダー、そのブリッジにあって葛城ミサトは手摺に捉まりながら吠える。
「AAAブンダー、離床! 舵、任せる!! 主砲、任意に発砲許可!!!」
「「了解!!」」
異口同音に応える操舵手の長良スミレと戦術長を担っている日向マコト。
ふわりと浮くAAAブンダー。
船体各部に設けられた主砲、レールガンが五月雨式に火を噴く。
NHG Erlösungに着弾する。
派手に火を噴き、よろけるNHG Erlösung。
「緊急避難はするなっ! 敵艦の目をNERV本部に向けさせるなっ!!」
地上の戦いは本番を迎える。
シンジの乗せられた装甲車は、NERVによる反撃が本格化する前にNERV本部地下構造体に飛び込む事に成功していた。
装甲があるからと、集団の先頭に立っていた事が功を奏する格好であった。
尤も、アクセルを踏みっぱなしで地下への入り口に突入した為、入って早々に壁にぶつかって停車していたが。
「クソッタレ! どこのジェットコースターだコイツぁ!?」
「生きてるから文句を言わんでくださいよ!!」
ラジエターから蒸気を噴き出している装甲トラックから逃げ出す様に降りた面々。
幸いな事にシンジは無傷であった。
「いててててっ」
与えられた肘や膝のプロテクター、何よりもヘルメットが効果を発していた。
だが、その幸運に感謝するよりも先に、状況は動いた。
侵入口の先から敵 ―― 武装した綾波Typeが登場したからだ。
「敵だ!」
誰かが叫んだ。
「撃て!」
班長が叫んだ。
銃撃戦。
火線が頭上を飛び交う恐怖に、シンジは身を屈めて耐える。
と、班長がシンジの横にやってきた。
「それで良いぞ坊主。怖いだろう? 俺も怖い。怖いのが正常だ………よし、死なない様におっかなびっくり、俺たちに付いてこい」
口調は荒いが、班長は丁寧な感じでシンジの体を確認する。
大きなけがの無い事を確認し、小さく安堵の息を漏らすと、それから立ち上がって吠える。
「後続はどうだ!?」
外の様子を確認に行っていた奴が、荒い息のままに応えた。
「無事なのが100人から居ます! 付いて来てます!!」
「そいつは朗報だ!!」
おおすみに乗っていた陸戦部隊、その総数は300余り。
それがエヴァンゲリオンの戦いに巻き込まれても尚、3割が生き残り、そして戦おうというのだ。
朗報と言う他に無かった。
問題は、指揮統制が失われているという事だろう。
上位者。
指揮官の類が見当たらない事であり、再編成するには時間的余裕が無いという事だろう。
NERV側の戦闘要員、武装した綾波Typeがおっとり刀の態で迎撃に出てきているのだから仕方が無い。
そしてもう1つ。
指揮官たちと共に、NERV本部攻略に必要な
複雑な構造をしたNERV本部で、碇ゲンドウが居るだろうと考えられているのは第1発令所であった。
第1発令所は、かつて第7世代型有機コンピューターたるMAGIが鎮座していたNERV本部の中枢であるのだ。
碇ゲンドウが居なくとも、このNERV本部を情報の意味で丸裸に出来るのだ。
だが、その第1発令所への道標が失われていたのだ。
NERV側の抵抗がどれ程のモノか、綾波Typeの様な戦力がどれ程に居るのか判らない状況でコレは、最悪と言って良かった。
「しらみつぶしで行くか?」
「無茶を言うな__ 」
銃撃戦の続く中、遮蔽物に隠れながら班長と、他の班の人間が頭を寄せ合って対応を考えている。
そこにシンジが声を上げる。
「僕が、僕が案内出来ます!」
周りを飛び交う火線の下で、でも目には力が漲っていた。
シンジにとってNERV本部に居たのは、ほんの最近なのだから案内は容易であった。
壁に書かれた文字を読めば、今、どこに居るのか良く判るのだ。
「判るのか!?」
「はい。ここは第6駐車場の第2出口です。第1発令所までのルートは覚えています」
今、シンジたちが居るのは本部地下第6駐車場の第2入り口であり、幾度も葛城ミサトの車で訪れた場所であった。
その思い出を口にする事なく、シンジは迷いの無い表情を見せていた。
「ははっ、最高だ。お前を連れてきた俺の判断を褒めたいよ。」
班長が呵々大笑し、それから厳しい声を上げる。
「総員、坊主を守れ。俺たちの守護天使だ! 行くぞ!!」
「応っ!!」
非常灯だけの薄暗さの中に沈んでいる第1発令所。
上層から流し込まれた海水によって、可動するものは全て流され果てている。
正に伽藍洞。
その中に唯一、無事に残っているNERV総司令官席は、まるで玉座の佇まいであった。
無論、そこに座っているのは碇ゲンドウである。
「状況は此方のモノとなったか」
空中戦艦同士の戦いは、火力の差によって天秤がNHG Erlösungに傾きつつあった。
AAAブンダーの抵抗が弱まれば、制圧用のエヴァンゲリオン ―― エヴァンゲリオン
そうなればAAAブンダーはNHG BußeとしてNERVの手に戻り、エヴァンゲリオン初号機も又、同じとなるだろう。
地上、エヴァンゲリオン同士の戦いに目を向ければ、此方もNERV側が圧しつつあった。
NERVのエヴァンゲリオンが数で優越しているから、では無い。
パイロットの技量の差でも無い。
圧倒的数的不利下での乱戦であるにも関わらず、アスカの駆るエヴァンゲリオン2号機は鬼神の如き強さを発揮しエヴァンゲリオンE97型の5機を屠っているのだ。
エヴァンゲリオン8号機が撃破した分も含めて、NERV側のエヴァンゲリオンは半数が脱落せしめていた。
その勢いは未だ完全に失われていない。
だが、それでも戦いの趨勢はNERV側に傾きつつあるのだ。
それはエヴァンゲリオンの差であった。
WILLEのエヴァンゲリオンが稼働時間に限界のあるバッテリー駆動であるのに対し、NERVのエヴァンゲリオンは
その差は歴然としていた。
対策としてWILLEも予備の外装式バッテリーを複数配置していたのだが、それらはNERVにとって最優先目標として駆除されていたのだ。
こうなっては、如何なアスカであってもバッテリーの残量を考えた戦闘機動しか出来なくなっていった。
無論、真希波マリ・イラストリアスも言うまでも無いだろう。
そして、今、出撃していったエヴァンゲリオン13号機が居るのだ。
もはや天秤が揺れる事は無い。
そう碇ゲンドウは考えていた。
人類補完計画の鍵は、シンジを除いて全てが揃おうとしていた。
否。
人類補完計画に於いてシンジの重要性は低い。
エヴァンゲリオン13号機が完全な形で起動する為には
「全ては、全ては我が手の中にある」
誰に言う訳でも無く呟く碇ゲンドウ。
口元を満足げに歪める。
嗤う。
だが、碇ゲンドウが重要視しなかった最後の
乾音。
それは、第1発令所入口扉が火薬によって焼き開かれた音であった。
勿論ながらも突入してくるのはWILLEの陸戦部隊だ。
油断なく銃を構えている。
その中には当然ながらもシンジの姿があった。
「碇ゲンドウ!」
先頭に立っていた男、班長が吠えた。
だが、碇ゲンドウは意に介する事無く笑った。
「奪ったモノを返しにきたか。殊勝な事だ」
立ち上がり、そして睥睨する。
「何を馬鹿な事を!? 返すのはオマエだ! この星を返してもらう!!」
「出来るのかな?」
小馬鹿にするように笑う碇ゲンドウ。
10を超える銃口に狙われつつ、それを意に介しない態度は豪胆と言うには余りにも異常であった。
不気味ですらあった。
だが、その感情を腹に押し殺して
「する。降伏しろ!!」
「フッ、弱者に膝を屈してやる謂れは無いな」
「ならば、死ね!」
それは激情では無く、WILLEの決定であった。
碇ゲンドウがWILLEの軍門に下れば良し。
その知識をもって地球を復元する為に働かせる。
下らないのであれば、NERVを止める為に殺さねばならない。
殺し、そしてNERVの全てを掌握し、地球を元に戻そうというのだった。
その事を道中でキチンと教えられていたシンジは、動揺する事無く、だが、歯を食いしばって、手に持った鉄パイプを握りしめながら碇ゲンドウの最後を見届けようとした。
閃光。
銃声の響き。
硝煙の煙り。
だが、それらが途切れても碇ゲンドウは立っていた。
立って笑っていた。
銃弾が体に当たらなかった訳では無い。
顔にも体にも、何処其処も銃弾によって酷い有様になっていた。
血が流れ出ていた。
だがそれでも、その立つ姿に苦の色は無かった。
「い、碇ゲンドウ、貴様!?」
「私は神だ。神は私である」
豪胆な班長も流石に血の気を失った表情となって、だがそれでも攻撃を命令した。
碇ゲンドウはA.Tフィールドなどを使ってはいない。
使徒では無いのだ。
であれば、倒せる筈との願いを込めた命令であった。
「う、撃て!!」
班長と共に第1発令所に突入して来た面々は、今度は手持ちの弾の全てを浴びせる様に碇ゲンドウに放った。
立ったまま、ぼろ雑巾の様になる碇ゲンドウ。
だが、それでも尚、口元に浮かんでいた不敵な色は消せなかった。
金属音。
最後の銃弾、その薬莢が地面に落ちた。
「満足したか?」
「化け物め!?」
「違うな、神だ」
「貴様が神なものか!!」
吠える班長。
その意思は折れて居なかった。
だが、銃弾の効かぬ不条理な相手に、多くの人間は腰が引けていた。
「お前が認めずとも実証されているのだ。さあシンジ、お前は来い。第3の少年としての役目がある」
シンジに向けて手を翳す碇ゲンドウ。
向けられた陸戦部隊の兵士たちは、思わずと言った態で避けた。
結果、2人を隔てるモノは消えた。
弧として立つ碇ゲンドウ。
個として立つシンジ。
視線がぶつかり合う。
だがそれは、決して平穏なモノでは無かった。
「父さん__ 」
シンジは腰のホルスターから右手で
へっぴり腰めいており、姿勢は良くない。
当然だ。
今まで一度も撃った事もなければ、訓練した事もないのだから。
だが、意思だけはあった。
強い意思があった。
だが、碇ゲンドウはそれを笑う。
「撃てるのか、シンジ」
「撃つ」
宣言。
そして宣言通りに行動する。
鉄パイプを持った左手で下から拳銃を支えて狙いを定める。
撃鉄を起こし、迷いなく引き金を引いた。
硬音。
1発は当たらなかった。
1発であてられるとはシンジも思っていなかった。
だから連続して発射する。
2発目。
外れる。
3発目。
外れる。
そして4発目、命中した。
それは碇ゲンドウの顔、その中央であった。
バイザーが砕ける。
だが、シンジは射撃を止めない。
5発目。
命中する。
6発目。
外れる。
「ハァハァハァ………」
手の中の衝撃。
初めて人を撃ったという衝撃が、シンジを揺さぶる。
人を撃った。
それも、自分の父親を撃った。
衝撃を受けない筈が無かった。
だが、それを気にする事無く碇ゲンドウは嗤った。
「気が済んだか、シンジ」
「ハァハァハァ………ハァッ」
最後に大きく深呼吸をしたシンジは、拳銃をホルスターに丁寧に戻した。
そして碇ゲンドウを睨む。
「父さんは、死なないんだね」
「そうだ。私は神となったのだ」
嗤う碇ゲンドウ。
その嗤いが、砕けたバイザーを顔から落とした。
素顔が晒される。
「っ!?」
誰もが息を呑んだ。
何故なら、其処には人の顔は無かったからだ。
否。
口も鼻もある。
だが、目の場所には昏い影の刻まれた
「コレが神となった証。納得したか? であれば我がもとへと来るが良い、シンジ」
その言葉に誘われるかのようにシンジが歩き出す。
ゆっくりと、進む。
「おっ、おい、シンジ」
班長が声を出す。
何を言おうという訳では無かった。
この場の空気に飲まれてしまっていたのだから。
だが、シンジは班長を見て、柔らかに笑う。
「大丈夫です」
そしてそのままに歩き、碇ゲンドウの元へと行く。
「外の決着も付く。シンジ、お前は13号機に乗れ」
「父さんは死なないんだね」
「? そうだ」
今更に言うシンジに、碇ゲンドウも少しだけ困惑した。
だが、そんな困惑を気にする事無く、シンジは言葉をつづけた。
「でも、痛みはあるんだね」
「……何が言いたい」
撃たれた時、碇ゲンドウは少しだけ動くのだ。
動いたのだ。
歯を食いしばってその姿を見ていたシンジは、その小さな挙動に気付いた。
持ち続けていた鉄パイプを振り上げる。
「神様だって言うなら、その神様が折れるまで打つ」
碇ゲンドウがシンジの言葉を理解するよりも先に全力で、一切の情け容赦なくシンジは鉄パイプを降り降ろした。
直撃。
顔 ―― 頭を砕かれる。
銃弾の雨霰にも膝を屈しなかった碇ゲンドウであったが、膝をついた。
余りにも想定外の事態に、呆気にとられた儘に綺麗に1発を喰らってしまったのだ。
その様をシンジは冷静に見ながら、血と言葉に出来ない何かに塗れた鉄パイプを振り上げる。
「折れてないよね」
「シン__ 」
碇ゲンドウが何かを言う前に放たれる2撃目。
死ぬ事は無くとも、衝撃と痛みを覚える碇ゲンドウは、その無慈悲なまでに断続的に打ち込まれる鉄パイプに無力であった。
そしてシンジは無慈悲であった。
そこから先は、只々、単純なまでの惨劇であった。
1発。
2発。
3発。
10発。
20発。
班長他、誰も口を挟めぬ暴力の嵐であった。
それが40発を超えようかと言う所で、唐突に倒れ伏していた碇ゲンドウが
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”」
絶叫し、そして激しく四肢が暴れる。
反射的に飛び下がったシンジ。
荒い息のままに、だが、鉄パイプだけはしっかりと握っている。
上段に構えている。
と、碇ゲンドウが人形めいた動きで立ち上がった。
まるで体に結ばれた糸で動かされる様な姿だ。
『[「碇シンジ!!!」]』
吠える。
それまでの碇ゲンドウとは全く違う、多重に響く声で叫ぶ。
だが口は消えていた。
口だけでは無い。
鼻も消え、目の亀裂が大きく開いていっている。
『[「恐るべしは軛なき者、
亀裂の奥から巨大な目が出た。
それは人のモノとはとても思えぬ、巨大な、人の頭ほどもあろうかと言う目であった。
ぎょろりと、シンジを睨んだ。
その意思を誤る事無く理解したシンジは、反射的に踏み込んでいた。
が、その柄が碇ゲンドウの様なナニカに届く事は無かった。
手が、手から吹き出た何かがシンジの鉄パイプを押し留めていたのだ。
『[「この舞台を良くぞ壊した。だが、それもコレ迄よ! 沈め!!」]』
手だけでは無い。
目からも噴き出したナニカが、世界を黒く沈めるのだった。