【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件 作:◆QgkJwfXtqk
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虚空に佇む巨大な影。
全長に匹敵する長大な翼を持った、クジラにも似た雰囲気を持ったナニカ。
周囲に光の粒を引き連れたソレは
比較するモノが無い宇宙空間である為にその大きさを測る事は難しいが、周囲に浮かぶ芥子粒の様な光点を見れば巨大さが判ると言うモノであった。
そう、光点は全高40mに達する人型兵器 ―― エヴァンゲリオンであるからだ。
kmと言う単位を使ってもまだ足りない、それ程の巨艦であった。
名はGAGIEL。
かつては第6使徒とも呼ばれていた、白き月の子の1格であった。
GAGIELがこの場に居るのは人類と使徒との講和の影響であった。
人類との戦いによって魂だけとなっていた使徒たちであったが、講和による相互不
永劫なる存在としての
その
人類も約定に基づき、その再誕を拒否する事は無かった。
だが全く同じとなった訳では無い。
嘗てと違うのは知性。
白き月と黒き月の相克が為されたお陰で
結果、人類との共存の道を選ぶモノも居れば相互不干渉としての孤立する道を選ぶモノも居た。
後者の代表は第11使徒、IREULだ。
自分が再誕したことを知ると共に慌て、そして
調べても判らない。
恐らくは、誰も居ない場所で静かに存在し続けているのだろうという。
対してGAGIELは前者、共存の道を選んだ1格であった。
生存の為の共存戦略であり、かつてはマグマの海を泳ぎ、空を飛び、そして今は宇宙を奔る ―― 恒星間戦闘艦としての今であった。
巨体の中に
だが虚空にはGAGIELよりも更に巨大な存在があった。
球体。
それも直径で2000kmにも及ぼうかと言う超巨大構造体だ。
自然の存在、小惑星の類では無い。
表面が岩石的なモノに覆われてはいるがれっきとした知的生命体 ―― 白き月の子たるモノ。
ペルセウス腕の覇権的氏族たるトラディ氏族の1格たるギツアートであった。
周囲に姿が霞む程に衛星を引き連れたギツアートは、GAGIELとある程度の距離をとって相対している。
両雄がこの宙域、オリオン腕とペルセウス腕の腕間接続域にある恒星無き暗黒宙域で相対している理由は
ギツアートからの接触が理由となる。
自らをペルセウス腕の覇権的氏族であるトラディ氏族の好戦的対外拡張主義に対して同意しない
だが状況は和やかなモノでは無かった。
対話の為に軽武装で出た2機のエヴァンゲリオンがギツアートに近づいた時、唐突に通信が途絶したのだ。
強烈なA.Tフィールドが発生し、一切の通信が途絶したのだ。
それから、実に3日 ―― 地球標準日で
GAGIELの船体中央部、諸族の詰めている
罠だったのではないかとの猜疑。
だが同時に、一縷の望みとしての期待があった。
只、待機する時間。
通信の途絶状態が続いている事が対話に時間が掛かっているのであれば、迂闊な事をしてしまって対話に悪影響が出ては問題となるからだ。
強大なトラディ氏族、その一部とでも講和が出来たならば
否。
人めいた氏族だけではない。
鼠の様な小さな氏族やイルカに似た水中生物めいた氏族、或いは例える事の出来ない姿をした氏族が
更には白き月の子も居た。
部屋のやや後方に鎮座する樹だ。
単一の存在であり、惑星1つを樹木で覆った白き月の子であった。
存在した惑星の名前から、
ウルドは星1つを支配する強力な力を持つが、同時に非常に大人しい性格をしていた。
太陽光を浴び、
そういう格であった。
であるが故に、
主に恒星間広域通信を担う事となっていた。
オリオン腕宙域全体に
ウルドの樹、その樹の前に設けられた座席 ―― 数人が寝そべれる様な広いソファに腰を下ろしていた少女、どこか和服を思わせる布の服を着たウルドの巫女が声を上げた。
主に
その顔で白い布で隠した巫女が、幼さの残る声を張り上げる。
「
両エヴァンゲリオンに乗っているウルドの一片と、
どよめきが
状況不明であった所が晴れた、通信が回復したのだ。
先ずは安堵するモノが出たのも当然という話であった。
だが、そうでは無く事無く己の為すべきことをするモノも居た。
「両機からの
やや甲高い、気合が入った声を上げたのは空間の中央に設けられた1段高い階層 ―― 指揮官ステージに居るヒトだった。
とは言え人間ではない。
小柄な、イタチ科の小動物を思わせる姿をしている。
高重力惑星で知と力を養った黒き月の民、ジャバ氏族から派遣されてきているジャン・ジャバーニュ・ミャー・ジャバであった。
チョコっとと言う態でソファに座っている姿は、その純白の
黄金の飾緒は
軍上級指揮官を意味していた。
基幹人員が
「まだです!」
通信を担当する人間が叫んだ。
だが、通信の途絶は継続していても不明であった位置も直ぐに判明した。
「フィールドソナーによる位置捕捉、成功しました!! 変化が ―― あっ、両機とも移動を開始しました。こちらに向かっています!」
ギツアートによる強力なA.Tフィールドによって見えなくなっていたエヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機のA.Tフィールドを、GAGIELが捉えたのだ。
場を支配していた霧が急速に晴れていく。
だが、それは平穏を意味する事では無かった。
「これは!」
フィールドソナー担当官に変わってレーダー担当官が声を上げた。
A.Tフィールドに状況把握は、些かもって曖昧な部分はあるのだが
当然の話と言える。
片道 ―― 固有の波形を発振しているA.Tフィールドを把握するフィールドソナーに対し、レーダーは往復 ―― 自身から発信された電波が戻って来て初めて解るモノだからである。
だが、その代わりとしてレーダーは場の詳細を得る事が出来るのだ。
レーダー担当官は
「どうしたか!?」
「せ、戦闘機動です! 高加速と軌道変更を繰り返していますっ!」
レーダー担当官の、その目の前に
「2号画面に表示したまえ!」
「はいっ!!」
レーダー担当官が制御盤を操作し、大画面に
併せて、エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機の機動が
その動きは激しく、そしてその周囲に迫る機動をする存在も表示されている。
存在は消える。
そして増えてもいっていた。
どう見ても戦闘状況であった。
見たモノに決裂という単語が脳裏に浮かぶ前に、ジャン・ジャバーニュ・ミャー・ジャバは反射的に叫んでいた。
「全艦戦闘配置!!」
我々は対話の為に来たのではないのか? と言う疑念を持つモノは居なかった。
即座に、戦闘に向けた準備が始まる。
このフネに乗り組んでいる誰もがトラディ氏族との戦場を幾度も経験している歴戦であったからだった。
又、ジャン・ジャバーニュ・ミャー・ジャバへの信頼もあった。
身の丈40cmと言う小兵成れども肝の据わった指揮官であり、多くの戦場で戦い抜いてきた実績を持っているからだ。
「機動部隊、
「
船体下部から分離した、巨大な航宙体が前に出る。
巨大な翼を持ったエイにも似た何か。
それは、その名の通りの第8使徒であったSANDALPHONだ。
GAGIELと同様に
SANDALPHONに続いてGAGIELの船体各部から機動部隊、艦載機部隊が続いていく。
マク氏族の乗る巨大な三角形を組み合わせた様な時空戦闘機部隊や、或いはユニサル氏族の人型の汎用機動兵器部隊が出撃していく。
いずれも一騎当千の精鋭たちであり、何処かの部隊で主力を張る漢達であった。
それが、今回の対話に向けてGAGIELに集められていたのだ。
だが、ジャン・ジャバーニュ・ミャー・ジャバは戦闘開始を発令しなかった。
共に、戦意に不足の無い第1軍の先鋒である為、特に厳重に伝達していた。
対話が上手く行っていたとはジャン・ジャバーニュ・ミャー・ジャバも思ってはいなかったが、それでも万が一に備えるのが指揮官であるのだからだ。
相手が強大な
そこに、決定的な判断材料が与えられた。
「光学システム、
「信号弾、色はどうですか!?」
意外な話かもしれないが、この宇宙を舞台とした戦いでも信号弾は一定の役割をになっていた。
情報の伝達と言う意味で正確性の高い電波/
誤認しにくい原色に単純な意味を当てた
「3連、識別、赤、赤、赤、そして青です!!」
悲鳴のような声を受けて
「罠だったか!?」
誰かが吠えた。
さもありなん。
この対話に際して決められた意味、3つの信号弾の全てが赤と言うのは対話が罠であった事、襲撃を受けた事、そして戦闘を開始したと言う意味であった。
その上で最後に付けくわえられた青。
それは両機の
その怒号、或いは混乱を一刀両断とするかのように、ジャン・ジャバーニュ・ミャー・ジャバは命令を発した。
「命令! 各部隊は全力をもって戦闘を開始せよっ!!」
混乱を叩き壊す単純明快なる命令に、
宇宙での戦闘は光速に近い速度で行われている。
である以上は、1分1秒とて無駄に出来る暇は無いのだ。
「
管制官の指示によって、GAGIELのカタパルトから白亜の戦闘機の様なモノが射出される。
ヒトが乗っていては不可能な、大加速で一気に光点となる。
ソレは半自律型の、エヴァンゲリオンに亜光速空間戦闘への対応力を付与する
全長で100mを超える化け物。
主武装として
その上で
コレを使いこなせるのは覚醒したエヴァンゲリオン、
事実上の、エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機の専用装備と言える。
一応、その位置に最も近いのはエヴァンゲリオン4号機やエヴァンゲリオン6号機であったが、同時に搭乗者たる綾波レイと渚カヲルには始祖氏族による
対してエヴァンゲリオン3号機とエヴァンゲリオン8号機。
此方は、将来的には可能かもしれないが現時点では不可能と見られていた。
又、進化/覚醒に対して搭乗員にせよ、指揮側にせよ積極的でなかった。
それは搭乗者の方向性の違いもあるが、同時に搭載されているBモジュールが集団戦闘能力の付与である為、
兎も角。
その名に相応しい
尚、外されていた理由は、対話に際して過度な武装をして威圧しないようにとの配慮からであった。
「ラズゥ竜戦士団出撃! 出撃どうぞ!!」
エヴァンゲリオンにも匹敵する様な巨躯、人と竜の合いの子めいた姿をしたバス氏族の誇る生体機動兵器部隊が出撃を開始する。
他にも様々な氏族の部隊が出撃を始める。
GAGIELの巨体が、それらの艦載を可能としていたのだ。
忙しくなった
その喧騒を他所に、GAGIELの艦としての指揮官 ―― 昆虫にも似たジャド氏族出の艦長が、丸みのある左の義手で感謝する様に帽子を上げていた。
「助かりましタ」
「差し出がましい事かと心配しましたよ」
「まさかまサか」
周囲の喧騒を他所に、泰然自若としている2人。
既に命令は発しているのだ。
であれば、後は
同時に、将兵に安心を与える為に最高位の側にいる者は戦闘に際して余裕ある態度を崩してはならぬ、という理由からの演技と言う側面もあった。
「やはり罠でしたカ」
「罠、詳細は2人の帰還後になるでしょうけども、ギツアートは
「これハ、手厳しい」
とは言え艦長も笑っていた。
第1軍でも、事、近接戦闘と言う意味では無類の強さを持っているのがエヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機であるのだ。
それが
自殺願望の表明かと思うのも当然の話と言えた。
とは言え、その愚かさに付け込まないという選択肢は、歴戦と言ってよい2人には無かったが。
直径2000kmを超えるギツアートは、観測されたトラディ氏族の中でも大型 ――
常であれば戦線の後方に位置し、今までで撃破出来た例は1件しか確認されていない。
恐らくはトラディ氏族でも重鎮に類される相手だ。
今後の為にも、
だから、笑うのだ。
嗤うのだ。
常に守られている
だが、ギツアートとて無為無策の愚か者では無かった。
「強烈なA.Tフィールド反応! 場所は……
「
「ワープか!?」
「違います! ゲシュタム粒子は未検知です!!」
激震が襲って来る。
そして轟々とした軋音、それは空間が上げる悲鳴。
「来ます!! コレは、これは空間が割れます!!!!!」
「
ギツアートを中心とした空間が割れた。
逃げる為、では無い。
出現。
「敵戦力、
それはギツアートの直掩戦力であった。
10を超える直径100km級のトラディ氏族 ――
又、それらの周囲に姿を霞ませる様な光点が生まれる。
トラディ氏族の従族が操る機動兵器の群れであり、総数が1万を優に超える大軍団であった。
それはトラディ氏族の正規部隊の規模でもあった。
第1軍の、GAGIELが搭載する機動兵器群の総数の2桁は上の戦力規模だ。
「何ということカ」
「驚きますね」
この場の
否。
それは笑い。
嗤っている。
「
「
「やはり大きすぎて柔軟性が足りてナい。そういう事ですナ」
トラディ氏族は惑星規模の生命体である。
その殆どが脳みそであり、その有り余る計算力と超能力を武器としている。
だが、そうであるが故に弱点を抱えているのだ。
余りにも巨大な存在であるが故の、
故に、相手を推測し、想定し、動いているのだ。
「では、此方もカードを切るとしましょう」
ジャン・ジャバーニュ・ミャー・ジャバは後ろの巫女の座へと声を掛ける。
GAGIELとSANDALPHON、そしてウルドの巫女に続く4人目の巫女だ。
指揮官の決断。
それを為すのだ。
「
「わかりました」
LELIELの巫女が抱えていた白と黒のマーブル模様の
変異は静かに、そして一瞬であった。
GAGIELの周囲に黒い影が広がり、そこから怒涛の勢いで艦艇群が出撃して来たのだ。
その様、正に光の奔流であった。
「戦争なんて騙し合い、お互い様なんだから悪く思わないでね」
嘯くジャン・ジャバーニュ・ミャー・ジャバ。
艦艇は多くが1km級の船体を持った
その数は100を超え、1000を超え、10000を超えていく。
更には、万を超えた艦艇から機動兵器群が出撃していく。
数の暴力が生まれる。
否、第1軍だけではない。
第2軍と第3軍の艦艇群が続々とワープアウトしてくる。
圧倒的な数の暴力。
ギツアートの軍勢よりも多い数の光速複合効果ミサイルが初手に放たれた。
kmを超える大きさの
地獄の様な情景を背に、
「でも__ 」
呆れる様に言葉を漏らすジャン・ジャバーニュ・ミャー・ジャバ。
その目には冗談の様な巨大なる情景 ―― 小惑星規模のギツアートよりも巨大な赤い刀が光速を超える様な速度で振り抜かれたのが見えたのだ。
「ギツアート、まだ生きているのかな?」
半分は、死んでいるだろうと確信しつつの疑問を漏らすのであった。
シンジは激怒していた。
心底から激怒していた。
このン年で無かったレベルで、全力で激怒していた。
騙された自分が酷い目にあったのは自業自得だから赦せた。
碇ゲンドウにイイ様にされて、弄ばれて顎に1発も決められなかったのは剛腹ではあったが、あの様に育てられては仕方が無いと納得もしていた。
だがアスカは別だ。
式波アスカ・ラングレー。
シンジのアスカでは無い
だがシンジのアスカの内から生まれた存在であり、他人ではないのだ。
繋がっている
シンジだけではない。
シンジの内側に眠っていた
怒りが力を与えてくれる。
A.Tフィールドはヒトが存在する為の力であると同時に、心の力でもあるからだ。
特に、それを形とする器 ―― エヴァンゲリオンに乗って居ると。
「キィィィィィッィィィエエェェェェィ!!」
エントリープラグでの猿叫。
-オォォォォォッォオォォォォォォォォン!-
ギラギラと目を輝かせ、真空に咆哮を響かせながら、口元からA.Tフィールドの赤い粒子をまき散らしながら吠えた。
ソレは内側からの圧倒的な
振り抜かれる
赤い赤いA.Tフィールドを纏ったその刃は、星をも切り裂く大きさへとなっているのだ。
だが質量は無く、物理的存在ではない。
物質変換と呼ばれる現象を引き起こし、物理へと影響を及ぼせるにも関わらずである。
物理法則の埒外の存在、それがA.Tフィールドであるのだ。
故に
一閃、一撃。
そんなモノで終わる程にシンジの怒り、そのボルテージは低くない。
虚空にあって、自らの足からA.Tフィールドを噴き出して足場とし己を固定し、腰を据えた連続攻撃を喰らわせたのだ。
連続斬撃。
-オォォォォォッォオォォォォォォォォン!-
それは、立木打ちめいた暴力の具現化であった。
直径1000kmからの巨大な物体がなめろうにされるが如き、圧倒的斬撃を受ける。
余波で、後から出てきた護衛までもが切り裂かれる。
正しく
しかも恐ろしいのは、近い宙域で戦っているエヴァンゲリオン弐号機を巻き込まない様に制御する繊細さも兼ね備えているのだ。
だが、斬撃だけで倒せる程にギツアート、トラディ氏族も甘くは無い。
A.Tフィールドの手応えで、それを察したシンジは斬撃を止めた。
巨大すぎる頭脳規模によって、トラディ氏族は超能力を扱う事が出来るのだ。
割れて、その中身を晒したギツアートと呼ばれた小惑星規模体は、その中枢が空となっていた。
「……
虚空を睨むシンジ。
A.Tフィールドを探知に使い、広げる。
だが捉まえられない。
シンジが知覚できる範囲よりも遠くに跳んでいる様だ。
だが、シンジは1人ではない。
相方を呼ぶ。
「アスカっ!」
戦闘中で無い事は判っていた。
そもそも、戦闘にならぬであろうという確信があった。
そんなシンジを現実は裏切らない。
エヴァンゲリオン弐号機とエヴァンゲリオン13号機の戦闘は終わっていた。
勿論、エヴァンゲリオン弐号機の圧勝である。
今は残骸の如き姿となったエヴァンゲリオン13号機に、死体蹴りの様な勢いで、只の拳で胸部を叩き潰そうとしている所であった。
周囲には、エヴァンゲリオン弐号機の武威とA.Tフィールドに屈服したかのようにエヴァンゲリオンE97型が傅いていた。
エヴァンゲリオンE97型はそれぞれ、四肢が欠損していたりするなどのボロボロの状態のままに只々頭を垂れている姿は正しく獣の、敗者の態度と言えた。
自分への恐怖と服従 ―― 屈服をA.Tフィールドを介して理解したアスカは、エヴァンゲリオン13号機への
最初は、エヴァンゲリオン弐号機の1撃毎に中から悲鳴が上がっていたが、次第に力の無いカエルの潰れる様な
だがまだ生きている事はA.Tフィールドで判るのだ。
だから拳を振るい続けていた。
1撃で止めを刺せる
実に無情な、無慈悲な、圧倒的蹂躙者の姿と言えるだろう。
『なに!?』
ある意味で解体作業の最中であったアスカは、
「ゴメン、探すのを協力して」
『やられた?』
「うん。でも、まだ遠くには跳べてない筈」
『貸し、1つよ』
アスカとのA.Tフィールドが繋がり、共鳴を開始する。
それは足し算ではなく乗算、累乗の勢いで広がっていく。
2人のA.Tフィールドによる捜索能力は、恒星系規模へと達する。
「居た」
シンジの目が、逃げ出したギツアートを捉えた。
その頭脳の半分以上を切り捨てた姿を見た。
「行ってくる」
飛ぼうとするシンジ。
その時であった。
エントリープラグに電子合成音が鳴り響き、エヴァンゲリオン初号機が自動合体モードに入ったのだ。
GAGIELから打ち出されたスーパーパックが届いたのだ。
『
背中からエヴァンゲリオン初号機に合体したスーパーパックは、そのまま鎧の様に展開する。
40mもの巨体に繋がった100mもの強化システム。
正に白亜の鎧であった。
エヴァンゲリオン初号機に繋がった瞬間、その何処其処に紫のラインが浮き上がり、併せて月桂冠に包まれたNERVの記章が色鮮やかに輝いた。
スーパーパックはエヴァンゲリオン初号機と繋がった事で亜光速機関は全力稼働モードに入り、更にはA.Tフィールドを拡張する為の翼が展開する。
それは、スーパーエヴァンゲリオンとも俗に言われる姿であった。
「タイミングが良すぎるよ」
『日頃の行いって奴よ』
ぼやくシンジに笑うアスカ。
此方も、スーパーエヴァンゲリオンの姿となったエヴァンゲリオン弐号機だ。
「取り敢えず、ケジメを付けさせてくる」
『行ってらっしゃい』
光りを撒いて跳ぶエヴァンゲリオン初号機。
A.Tフィールドを利用した
ギツアートは怒りに満ち満ちていた。
『[「おのれ、おのれ、おのれぇっ!!」]』
只管に怨嗟で塗り固められた
簡単な話の筈だった。
対話と言う餌で
失敗する筈の無い話だった。
実際、捉えるまでは出来た。
洗脳もかなりの所までは出来ていた。
適格者としての責任感が動し続けてはいたが、同時に、それを評価しない肯定しない人間を周りに置いて14年もの月日を味わわせた事で、世界への絶望と憎悪の萌芽を与える事には成功していたのだ。
だが、それを相方たるシンジがひっくり返した。
洗脳の為に作り出された抑圧された人生で塗り替えられた仮初の人格ではなく、シンジ本来の人格が、ギツアートが作り上げた舞台を叩き壊したのだ。
体の大半が失われ、
間違いのない大敗北。
トラディ氏族と成ってからの記憶で、これ程の
だからこそ、次の
大丈夫だと思っていた。
逃げ切れたと思っていた。
シンジとアスカを舐めていた。
シンジを、所詮は矮小な存在だと思っていた。
物理的に失われた頭脳の多さが、ギツアートから思考力を奪っていたのだ。
だから、眼前に死神 ――
『[「あ"あ"あ"あ"あ"あ"!」]』
A.Tフィールドを利用した
知覚しても出来る事は無かった。
妨害する事も、先制攻撃を仕掛ける事も出来なかった。
只、悲鳴の様な
対してシンジ。
であればもはや言葉は不要となる。
「キィィィィィッィィィエエェェェェィ!!」
猿叫。
狂貌めいた、ただ
-オォォォォォッォオォォォォォォォォン!-
真空すらも震わせるエヴァンゲリオン初号機の
そして
一閃。
ギツアートは真っ二つとなる。
『[「あ"……あ"あ"っ"」]』
シンジはギツアートの核を捉えた、切り抜いた事を手応えで理解した。
だが、容赦はすまいと追加攻撃を加える。
空間を喰らうA級
それは正に暴力であった。
星を砕くが如き力の顕現であった。
トラディ氏族でも重要な地位にあった
柔らかな潮騒が式波アスカ・ラングレーの耳朶に届く。
子守歌めいた音。
ソレを知覚した時、夢うつつであった意識がすぅっと覚醒した。
ゆっくりと目を開いたその先には、満天の星が見えた。
優しい光だった。
「寝て、た……?」
驚きを内包した声。
その声に応える人が居た。
「Guten Morgen」
それはアスカ、
破れかかったボロボロのプラグスーツを着た自分とは違い、ピカピカに磨かれた白を基調としたプラグスーツを着ている。
羨ましいと思う事すら出来ない相手だ。
「アンタか」
「そっ、アタシ」
聡明であるが故に、自分が道具ですらない紛い物だったという事を理解していた。
だから己の終りを受け入れた筈であった。
「何でここに居るの? ここはどこ?
身が解けた事を覚えていた。
無へと回帰したと思っていたのだ。
当然の疑問であった。
だが、それを
「アタシの癖に随分と悲観的ね」
「………そういう風に作られてたのよ。今考えると、だけど」
虚ろな目で星空を見上げる。
蒼い瞳は星を見て、見ていない。
「重症ね、コレは特に療養が必要になるわ」
「ワタシはもう終わりよ」
「終わっていいの」
「紛い物の出番なんて、それが判った後である筈が無いでしょ」
「シンジ、アンタのシンジは良いの?」
「………」
シンジ。
好きだと言ってくれた。
だから、好きだと返せた相手。
「どうなの?」
「………逢いたい」
悲の色だ。
蒼い瞳からポロポロと涙を零しだす。
「馬鹿。初めからそう言えば良いのよ」
字面とは違う、果てしなく甘い声を出す
その指先が
「あっ………」
黒い眼帯は封印布であり、
その下。
左の眼窩は空洞となっており、使徒を示す蒼い焔が燃えている筈であった。
全てを見せあったシンジにすら見せなかったソレ。
だが、黒い封印布が取られた下には、醜い空洞など無かった。
綺麗な蒼い瞳が現れる。
そして同時に、
「ま、色々とあると思うけど。安心していいわ。だって
そう言って
指の先には大小2つの人影があった。
「……アスカ」
聞き間違える筈の無い相手。
小さい方の人影は、懐かしい第3新東京市立第壱中学校の制服を着ている
「シンジ!」
シンジとアスカ。
2人は共に駆け寄る。
但し、映画などの様に決まらなかったのは、2人が過剰な勢いで走ったが為に共に砂に足を取られて盛大にすっ転んだからである。
更に不運であったのは、大きな波が襲ったという事である。
全身ずぶ濡れになってしまう2人。
だが倒れ込みながらも2人の手は、互いの体を絶対に離さぬとばかりに掴み合っていた。
そしてキスをする。
息を忘れる様なキス。
「若いわね」
呆れる様に言う
その傍らに大きな方の人影がやってくる。
勿論、
違いは、踵にヒールがあるかないかであろう。
何方にヒールが付けられているかは言うまでも無いだろう。
「うわっ、ソレ、その言い方、葛城さんみたいだよ?」
砂に沈むヒールに気をつけながら立ち上がった
「うわっ、それ最悪じゃない!」
笑いあう2人。
唐突に動く
異を唱える事無く唯々諾々と従うシンジ。
否。
その鍛えられた手が
支える様に、逃がさぬ様に。
額と額を擦りつけ合う2人。
「バカシンジ、寂しかったのよ? 判る?」
「ん、ごめん」
言葉はそこで終わる。
そしてコレが大人のキスだとばかりに、まだ幼い2人に見せびらかすようにキスをするのだった。