【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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 第3新東京市に接近する正体不明の存在。

 第1発令所の正面モニターに表示されたソレは正八面体をした、青い水晶のような存在であった。

 駿河湾に敷かれた哨戒ライン、その第2警戒域に忽然と表れたのだと言う。

 使徒であろう。

 使徒以外は無いと言える、理解を超えたと言う言葉すら生ぬるいナニカであった。

 

「ナニ、アレ」

 

 呆然と言葉を漏らした葛城ミサト。

 それに対する赤木リツコの返事は、何とも酷薄なものであった。

 

「知る訳無いじゃない」

 

 否、不機嫌だった。

 さもありなん。

 閉鎖系加圧型全環境耐久服(オレンジ・スーツ)を着込んで汗をかいた体で、そのままに第1発令所へと駆け戻っているのだ。

 不快感から不機嫌になるのも当然であった。

 移動する車内(トラックの荷台)で無理やりにスーツを脱いで、それから手早く予備で用意されていた作業着(ツナギ服)を着込んだのだから。

 トレードマークめいた白衣を上から着ているが、着た理由は、そこに精神安定剤(予備の煙草セット)を忍ばせているからであった。

 不快感やら汗の臭いを誤魔化す為にも煙草が吸いたい。

 そんな事を赤木リツコは頭の片隅で考えていた。

 

 ご機嫌斜めね、とばかりに赤木リツコをチラ見した葛城ミサトは、自分の本分を進めて行く。

 

「使徒確認は(Blood Pattern Check)?」

 

 葛城ミサトの問いかけに、日向マコトは叫ぶように答える。

 

「パターン青、確認しました!」

 

「進行速度は?」

 

「時速約30㎞。一直線にコッチ(第3新東京市)へ向かっています」

 

「最短で1時間後に来るわね。判り易くて結構! 国連極東軍(Far East-Aemy)からは?」

 

 日本の法律 ―― 特務機関NERVに関する法案に於けるA-18条項が発動するまでは、地域の防衛は国連軍が担うのだ。

 現在、第1発令所正面モニターに表示されている使徒の望遠画像も、収集しているのは国連極東軍の哨戒艦(OPV)が収集したものであった。

 哨戒艦が直接接触するのではなく、安全の為に艦載情報収集機(UAV)が当たっていた。

 そもそも、A-18項は常時発動している様なものではない。

 使徒迎撃の為として強大な権限をNERVに与えるが故に、その運用(発動)は慎重に行われる事とされていた。

 日本国内で日本政府に対する指揮権を与える様なものだからだ。

 そんなモノが常時発動していては、日本政府の主権問題となってしまう。

 故に、A-18項の発動には、国連の人類補完委員会の助言に基づいて日本政府が自(・)主(・)的(・)判(・)断(・)で(・)の(・)決(・)定(・)が必要となっていた。

 政治(マツリゴト)であった。

 

「府中(UN-JF 府中作戦指揮所)からはNERVの要(・)請(・)に基づいて行動するとの託(ことづけ)が入っています」

 

 そう告げるのは、第1発令所第2指揮区画に陣取っている国連軍(UN-JF)連絡官であった。

 少佐の階級章を付けた壮年の日永ナガミ連絡官は、その仕事故にか柔らかな雰囲気を漂わせている。

 A-18項が発動されるまでは国連軍が主体。

 だが、既に敵は使徒と判明しているのだ。

 であれば専門屋(担当チーム)の指揮下に入るのは吝かではない。

 何とも柔軟な判断であった。

 

「……有難う御座います」

 

 少しだけ葛城ミサトの反応は遅れた。

 国連極東軍、要するには元自衛隊であり日本の防人と自認していた連中が、素直に指揮権を寄越して来るなんて、そんな気分があった。

 それが顔に出て居たのだろう。

 日永ナガミは、苦笑めいたものを浮かべながら言葉を足した。

 

「餅は餅屋、それを素直に受け入れる位には我々も柔軟ですよ?」

 

「失礼しました」

 

 謝罪の意味を込め、葛城ミサトは丁寧な仕草で背筋を伸ばし踵を合わせ(敬意を示して)ていた。

 

 

 

 全力で進められていく戦闘準備。

 エヴァンゲリオン初号機の状態は万全であった。

 予備機扱いのエヴァンゲリオン零号機も状態(コンディション)は良好であった。

 既に綾波レイによる起動試験は実施されており、起動指数(シンクロ率)はシンジと比べて高いとは言えないものの起動値には到達しており、必要であれば戦闘が可能となっていた。

 手札は2枚。

 それをどう使うか。

 指揮官である葛城ミサトの手腕に掛かっていた。

 

「取り合えずシンジ君が前衛(オフェンス)、必要であればレイによる支援射撃(ダイレクトサポート)って所ね。リツコ、例のビー・キャノン。使える?」

 

「ビー? ああ、EW-23(パレットキャノン)ね。試射はまだよ?」

 

 480㎜と言う大型弾を30m近い長大な砲身で加速させて叩き込む、通常の火器としては人類史上初クラスの大暴力兵器だ。

 で(・)あ(・)る(・)か(・)ら(・)こ(・)そ(・)実際に運用して見たら、どの様な問題(トラブル)が出るか判らぬ所があった。

 

「……リツコ達技術局を信じるわ」

 

「………筒内爆発にならない事を祈っとくわ」

 

 渋そうな顔で断言する赤木リツコに、葛城ミサトは祓詞(ハラタマキヨタマ・アーメン)を口にしていた。

 

 ある種の気楽さが漂っている葛城ミサトと赤木リツコの会話。

 それは、言ってしまえば演技であった。

 戦闘を前にして、無駄な緊張を解きほぐそうと言う配慮でもあった。

 実際、葛城ミサトのジョーク(無茶苦茶な祓詞)に第1発令所の空気は少しだけ緩んだのだから。

 

「目標、沼津市上空を通過」

 

 男性ながらも肩まで伸ばした髪が特徴的な青葉シゲル中尉が声を挙げた。

 軽い雰囲気の男性ではあるが、第1発令所の第1指揮区画を管理する若手三羽烏(伊吹マヤと日向マコト、青葉シゲル)で最も昇進しているのは伊達では無い。

 NERV副司令官である冬月コウゾウ直轄の戦略調査部、その中でもNERV管轄外の組織やシステムを統括する調査情報局第1課の課長代理であるのだから。

 

 今回の報告は、沼津市に配置されていた国連軍の哨戒部隊からの情報であった。

 葛城ミサトは使徒への通常兵器での攻撃は、徒に被害が出るだけであるとの判断から、情報収集に徹する様に国連軍に助(・)言(・)をしていたのだ。

 そして国連軍も、ソレを真摯に受け止めて行動したのだった。

 だからこそ、使徒の詳細な情報が得られているとも言える。

 

「周辺への被害は?」

 

「現在の所、確認されていないとの事です」

 

「結構!」

 

 やはり使徒は、敵と認めた相手にしか(攻撃を受けない限り)反撃はしないのだと葛城ミサトは認識した。

 であれば、戦場をリング(第3新東京市)に限定できるのだ。

 1つの朗報であった。

 

「葛城中佐! 日本政府、A-18項の発動を宣言しました!!」

 

「結構!」

 

 NERVの軛が解かれた事を意味する報告。

 葛城ミサトは責任の重さを思い、目を瞑って深呼吸をする。

 振り返る。

 見るのは第1発令所第1指揮区画後方、赤いカバーの掛けられた総指令官席に座るNERV総司令官碇ゲンドウだ。

 目に力を込めて尋ねる。

 

「宜しいですね?」

 

 碇ゲンドウも又、その視線を揺るぐ事無く受け止め、そして返す。

 それはNERV本部の総員、そして全人類の存亡を肩に乗せた漢の顔であった。

 

「ああ。葛城中佐、君に本戦闘に於ける全権限を与える」

 

「はっ! 日向少尉、全館放送。総員、待機から第1種戦闘配置へ移行!」

 

 

 

 

『総員、第1種戦闘配置! 総員、第1種戦闘配置! 急げ!!』

 

 戦闘が迫っている事を告げる放送を聞きながら、シンジはエヴァンゲリオン初号機の機付き長である吉野マキ技術少尉からエヴァンゲリオン初号機の説明(レクチャー)を受けていた。

 場所はエヴァンゲリオン格納庫(ケイジ)に付属した、作戦伝達室(ブリーフィングルーム)も兼ねた操縦者待機室だ。

 シンジは搭乗服(プラグスーツ)に着替えている。

 搭乗30分前待機の命令が発報されているからだった。

 とは言え、体の線が出るダイビングスーツの様な搭乗服の儘と言う訳では無い。

 青を基調とした搭乗服の上に、白い前開きのポンチョにも似た待機上衣(オーバーコート)を着こんで居る。

 思春期の少年少女(適格者)の羞恥心を慮って、搭乗服を着こんだ際などで着る為に用意されたものであった。

 制服の代用としても使える様に、配慮されている。

 右肩にはNERVのマーク(赤いイチジクの組織章)と共に、機体色に合わせた紫色で03と描かれている。

 襟元には中尉待遇官である事を示す徽章まで付いている。

 尚、パーカーなどの袖のあるデザインで無い理由は、搭乗服が、その肩や腕回りなどにも保護材や様々な計測機器などが取り付けられている関係上、動きにくいだろうと判断しての事であった。

 

 ひっつめ髪にメガネ、薄い化粧で白い技術官向けツナギ(現場)服と言う、色気と言うモノをどっかに捨てた吉野マキであったが、そうであるが故に仕事に対しては真摯であった。

 

「初号機の改修点3つ。うち、2つは事前の予定通りですが__ 」

 

 シンジにもA4紙で纏められた説明書を渡し、それを説明していく。

 エヴァンゲリオン初号機は、小規模ながらも改装が行われているからであった。

 小さなものはシステム周りの小変更。

 大きなものは格闘戦に向いた装甲配置の変更、そして内蔵兵器の交換である。

 従来は右側の肩に配置されていた至近距離向け刺突装備であるEW-11(プログレッシブナイフ)を撤去し、腰(胴体後下部)に兵装架(ウェポンラック)を新設して大型の(7m級の刃渡りを持つ)切断装備EW-11C(プログレッシブダガー)が装備されていた。

 EW-11Cは元々がEW-11開発時の試作品の一つであった。

 威力耐久性共に運用可能な域に達していたのだが、正式採用されていなかった理由は大きさにあった。

 切断性能を重視して設計された結果、肩のウェポンラックへの内蔵が困難な大きさとなってしまった為、試作で終わり死蔵されていたのだ。

 それを、シンジ向けの近接武装EW-14(ドウタヌキ・ブレード)が完成する迄の代替装備として運用する事としたのだ。

 EW-11Cはエヴァンゲリオンが持てばやや大きなナイフ、乃至は少しだけ短い小太刀といった塩梅(スケール感)である為、シンジから見ても扱いやすい刃(・)物(・)であった。

 

 それらの事は、改修が立案された段階でシンジにも伝達(ブリーフィング)されていたのだが、いざ実戦ともなれば再度、確認の為に伝えるのだった。

 第1種戦闘配置の発令は、丁度、それが終わった頃であった。

 第1種戦闘配置の発令に伴い搭乗員はエヴァンゲリオン(ケイジ)の後方に設けられているエントリープラグ搭乗室に移動する事になる。

 ここから先は悠長に会話している余裕は無い。

 

「第1種戦闘配置発令か。シンジ君の操作に関わりそうな所はここまでよ。大丈夫?」

 

 吉野マキによる最終確認。

 シンジは頷く。

 

「よかど(もんだいありません)」

 

「落ち着いているわね? 今回も期待しているわよ」

 

 誰もが不安を感じていた使徒との闘い。

 それを2戦連続で圧倒的勝利を収めたシンジなのだ。

 吉野マキだけでは無く、多くのNERVスタッフがシンジに期待の目を寄せていた。

 

「努力はしもんで(努力はします)、いきもんそや(いきましょう)」

 

 そう言ってシンジは、手に持っていたスポーツドリンク(清涼飲料水)のカップを呷った。

 

 

 

 

 戦闘準備の最終段階になったNERV。

 その実戦部隊の指揮官である葛城ミサトは最後の決断を下す。

 作戦は、使徒直近の出撃口からエヴァンゲリオン初号機を投入。

 奇襲、そして強襲によって一気にケリをつけようと言うのだ。

 使徒の能力は未知数である

 だが同時に、手を出さなかった事で、NERV ―― 第3新東京市側の機能も相手は判らないのだ。

 出撃寸前に、攻撃を開始して攪乱。

 その機を突いてエヴァンゲリオン初号機を、その最も得意とする格闘戦闘域(インファイト・ゾーン)へと投入し、撃破を図る。

 何とも乱暴な作戦であったが、同時に、初見殺し(見た時が死ぬ時だ)と言う意味に於いては合理的であった。

 それ程の信用を葛城ミサトはシンジの駆るエヴァンゲリオン初号機に与えていたとも言える。

 

 そもそも、戦闘に時間が掛かれば第3新東京市の被害は甚大なものになるだろう。

 相手はN²兵器すら平気で耐える化け物なのだから。

 速戦即決は、可能な限り死守するべき方針であった。

 尚、この葛城ミサトの作戦方針を第7世代型有機コンピューターMAGIで計算した所、使徒の情報が不明瞭ではある為に被害予想は困難であるが、勝率は77%と言う数字が出されていた。

 参謀役の作戦局でも、基本的に異論は出なかった。

 

「マギによる状況シミュレーション、便利ね。これ(計算診断速度)だと実戦で十分に頼れるわね」

 

「そうね、判断補助としては役立つと思うわ」

 

「技術部(技術開発局)が精通しているからって思うわよ」

 

「あらありがとう」

 

 第1発令所第1指揮区画の中央に仁王立ちする葛城ミサトと、その後ろに参謀然として立つ赤木リツコ。

 まだ若い2人であるが、その凛とした様は第1発令所に居る人間に安心感を与えた。

 

「目標、移動停止! NERV本部直上です!!」

 

 日向マコトが報告の声を上げる。

 葛城ミサトが命令を発する。

 

「エバー初号機、発進位置へ! 戦闘用意!!」

 

「初号機、発進準備に入ります!」

 

「ミサイルは?」

 

「射撃準備良し!」

 

「野砲は?」

 

「射撃、妨害(煙幕)弾で初弾用意。命令あり次第何時でも可能」

 

「電子戦?」

 

「各種システム異常なし。何時でもどうぞ」

 

 打てば響くと、葛城ミサトの声に、第1発令所の各所から声が上がる。

 儀式めいた作業。

 決戦(イクサ)が始まるのだ。

 

「エバー初号機」

 

「第2拘束具、解除状態で停止中」

 

 NERVと言う暴力装置の鯉口は切られた。

 後は抜くだけであった。

 最後に、それまでの凛々しい声では無く優し気な声でシンジに言葉を掛ける。

 

「シンジ君、準備は良い?」

 

『よかど(何時でもどうぞ)!』

 

 緊張感を乗せていない、何時も通りの落ち着いたシンジの声。

 それに葛城ミサトは小さく笑う。

 では始めましょう、と。

 

「発進は10秒後に射出開始! 各隊はエバー到達4秒前より行動開始せよ!」

 

 裂帛の気合と共に命令を発する。

 始まる。

 

 

 

 固唾をのんで見守るエヴァンゲリオン初号機の出撃。

 リニアカタパルトで一気に地表へと向かう。

 その動きに合わせてミサイルが降り注ぎ、煙幕弾が視野を殺し、強烈な電子戦によって各種電波帯が殺される(ブラックアウト)。

 

 だが、使徒はそれらに反応しなかった。

 

 対応できないから ―― 誰もがそう思った。

 困惑しているのかとも思った。

 違う。

 対応すべき相手を理解していたからだ。

 

「目標内部に、高エネルギー反応!」

 

 第1種戦闘配置後は、第3新東京市各地とその周辺に配置されている観測機器の統括を仕事とする青葉シゲルが声を張り上げた。

 

「なんですって!?」

 

 振り返った葛城ミサト。

 青葉シゲルのモニターを覗き込めば、使徒の胴体中央部 ―― 円周部を粒子が加速していく様が表示されていた。

 

「収束していきます!」

 

「まさか!?」

 

 初見殺し(デス・トラップ)めいたものを狙っていたのはNERV側だけでは無かったのだ。

 その様は、西部開拓時代の決闘めいていた。

 先に抜いたのはNERV。

 だが先に撃てたのは使徒であった。

 

 地表を融解させぶち抜いて、エヴァンゲリオン初号機を穿つ使徒の大威力粒子砲。

 だが、幸いなことに出撃の為の加速が付いていたお陰で大破は免れる事となる。

 

『がぁぁぁっ!!』

 

 シンジが悲鳴めいた声を漏らす。

 エヴァンゲリオン初号機のエントリープラグ灯が非常モードの赤色灯に切り替わる。

 

「シンジ君!?」

 

 悲鳴めいて名を呼ぶ葛城ミサトの前で、モニターに表示されているエントリープラグではL.C.Lが気泡化して上がる。

 異常状態。

 だが何の手を打つ前に、エヴァンゲリオン初号機は機体各部に被弾しながら地表へと出る。

 

「状況報告(ダメージリポート)!」

 

 赤木リツコが声を張り上げる。

 その職掌から機体、そして操縦者(パイロット)が最優先だからだ。

 

「駄目です! 01(エヴァンゲリオン初号機)、システム応答がありません」

 

 悲痛な伊吹マヤの報告。

 補強された、エヴァンゲリオン初号機との外部(NERV本部)との通信システム。

 その中でも最優先で行われたエントリープラグとの情報接続系は無事であったが、それでも直撃した粒子砲などの影響もあってか、接続状況は手ひどいモノとなっていた。 

 だが葛城ミサトはそこに意識を回さず、状況を改善する為に命令を出す事を優先する。

 

「機体回収、急いで!」

 

「駄目です! 被弾による被害、回収システム応答しません!!」

 

 次の悲報は日向マコトからであった。

 状況を映したモニターには、今し方エヴァンゲリオン初号機が使った出撃ルートの被害が表示されいる。

 使用不能(Warning)の文字。

 配線が断たれていた。

 レールも歪んでいる。

 射出システムによる回収は不可能であった。

 誰もが絶望感を抱いた。

 一縷の望みを掛けて葛城ミサトが声を張り上げる。

 

「シンジ君、逃げてシンジ君!!」

 

 だが回答は無情であった。

 

『退かん(僕は逃げない)!』

 

 気合の入ったシンジの声が、第1発令所に響いた。

 

「シンジ君?」

 

 葛城ミサトが状況を理解する前に、シンジも使徒も動く。

 

「初号機、最終安全装置を起爆排除!」

 

 日向マコトの報告。

 対抗する様に青葉シゲルも声を張り上げる。

 

「目標内部、再度、高エネルギー反応を確認! 第2射来ます!!」

 

 まるで飴細工の様に、使徒からエヴァンゲリオン初号機の射線上にある装甲ビル群を撃ち溶かしながら放たれた大威力粒子砲。

 だが、間一髪でエヴァンゲリオン初号機は回避に成功する。

 周囲の装甲ビルや戦闘支援ビルを蹴って、上下左右とジグザクに機動するエヴァンゲリオン初号機。

 使徒の粒子砲は第3新東京市を焼くが、無茶苦茶に動くエヴァンゲリオン初号機を追いきれない。

 

 葛城ミサトは、ミサイルと妨害弾の射撃停止を命令。

 シンジの邪魔になると判断したのだ。

 

 数秒、或いは数分の攻防。

 誰もが息を潜めて見守った戦い。

 そして途切れる粒子砲の光の奔流。

 合わせるかのようにエヴァンゲリオン初号機は地面に降り立つ。

 モニター越しに見ても、被害が出ているのが判る。

 紫を基調とした胸部装甲は黒く焼け焦げており、中破状態。

 又、左腕部分は更に酷かった。

 装甲は黒焦げどころか融解し、破壊され、構造(素)体が露出している。

 内部から血液めいて赤い液体が流れ出ていた。

 シンジは胸部への射撃から身を護る為、左腕を犠牲にさせていたのだ。

 

「01(エヴァンゲリオン初号機)とのリンク、回復します!」

 

 荒れ狂った荷電粒子が消えて、エヴァンゲリオン初号機との通信システムが復帰する。

 だが、それを希望が灯ったとは言いづらかった。

 エヴァンゲリオン初号機の状況が詳細に表示された(理解出来た)からだ。

 外見以上に、機体各部には被害が出て居た。

 各部から大量の異常発生(Warning)の文字。

 左腕など動かす事も難しいだろう。

 赤木リツコは、短時間とは言え粒子砲の直撃を受けた割には被害が軽微だとも思っていたが。

 だがそれでも戦闘継続は難しい(ネガティブ)と判断していた。

 大破状態と言える。

 異常はシンジのバイタルにも出て居た。

 血圧や脈拍に異常値がでており、シンクログラフも乱れていた。

 正しく惨状であった。

 だがシンジの戦意は折れていない。

 

「初号機、EW-11C装備!」

 

 腰のEW-11Cを右腕で逆手に抜き、そのまま半回転。

 順手に構える。

 被害など、痛みなど何もないと言わんばかりの仕草だ。

 

「聞こえるシンジ君、退いて」

 

 葛城ミサトはシンジが血気に逸って(頭に血がのぼって)撤退を拒否していると思い、出来るだけゆっくりと声掛けをする。

 新兵であればよくある事だからだ。

 

『そいはいかんど(それは悪手ですよ)』

 

 だが、その予想は外れる。

 返ってきたシンジの声は極めて落ち着いていた。

 油断なく使徒を睨みながら、言葉を操る。

 

『今じゃっでここにおったっが(左腕1本で使徒に迫れているんです)、そいを生かさんでどげんすっとな(この好機を手放してどうするんですか)』

 

 更に言葉を連ねる。

 そもそも、今退いて、この強力な使徒がNERV本部に侵攻するまでにエヴァンゲリオン初号機は修理が出来るのですか? と。

 攻撃手段を見つけられますか? とも。

 道理ではあった。

 エヴァンゲリオン初号機出撃までに行われていたミサイル攻撃 ―― 音速の質量弾も、或いは大径の成形炸薬弾頭弾であっても、被害を与える事が出来なかったのだから。

 回避行動の最中でも、それを見ていたシンジは戦うしかないと判断していたのだ。

 粒子砲の内側、極至近距離で戦うしか攻略の道は無い、と。

 ビルを大地を融解せしめる粒子砲に、正面から格闘戦闘を挑むと言うシンジ。

 冷静な判断であった。

 同時に、狂いきった判断(シグルイ)でもあった。

 

 その様に圧倒された様に声が出ない葛城ミサト。

 否、葛城ミサトだけではない。

 第1発令所の人間は誰もが息をのんでいた。

 否。

 只一人だけ、圧倒されなかった人間が居る。

 

「初号機パイロット」

 

 NERV総司令官碇ゲンドウだ。

 巌の如き顔、感情を感じさせない平坦な声で言葉を操る。

 

『ないな(何の用)』

 

「勝算はあるのだな?」

 

『あっが(あるよ)』

 

「具体的には?」

 

『あんとは時間が掛かっで(使徒は攻撃の再発射まで時間が要る)、そこをいっとよ(その隙を突いて攻撃する)』

 

「そうか。ならば良い」

 

 キチンとした合理(計算)による攻撃。

 碇ゲンドウもそれを認める事となる。

 

「葛城中佐、私は初号機パイロットの判断を尊(・)重(・)す(・)る(・)」

 

 少しばかり回りくどい言い方であるが、これは戦闘に関する全権を葛城ミサトに与えているからであった。

 この状況下で碇ゲンドウが葛城ミサトに命令する事は、慎まれるべきだからだ。

 葛城ミサトの権利と権限、そして何よりも権威を傷つける事になるからだ。

 だからこその、尊重すると言う言葉。

 その意図を葛城ミサトも過たずに理解する。

 

「シンジ君、慎重な攻撃を。後、攻撃が通じなかった場合には撤退もあると判断して動いて頂戴。いいわね?」

 

『よか(わかりました)』

 

 視線は使徒に固定されたまま、獣性の笑みを浮かべるシンジ。

 葛城ミサトは、その様を頼もしげにも、或いは正気の所在(狂気)を疑う様にも見ていた。

 

 かくしてエヴァンゲリオン初号機と第5使徒との戦闘は継続される事となる。

 

 

 

 

 

 




+
※補足
 本世界に於ける第1発令所はTV版とは少し構造が違います
 国連軍スタッフが常駐している事もありますが、ミサト達NERV基幹スタッフが居る場所とゲンドウと冬月の居る場所がフラットとなっています。
 総責任者と最高指揮権者とを兼任する人間と、現場指揮官が距離遠くてどーすんよと言う話です
 なので、雰囲気としては、護衛艦のブリッジなどをご想像下さいませませ





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