サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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 エヴァンゲリオン初号機と第5使徒との闘いは、熾烈ではあるが互いが決め手に欠く形で推移していた。

 エヴァンゲリオン初号機が装備しているのは格闘戦闘用で小ぶりなEW-11C(プログレッシブダガー)であった為、踏み込んで切り付けても痛打を与える事が難しかったからだ。

 物理的な問題だ。

 刃渡りが短すぎて、第5使徒の中核部分に届かないのだ。

 こんな場合に備えるかのように開発されたEW-14(ドウタヌキ・ブレードⅩⅢ)であったが、地表まで射出する事が出来ない ―― 規格外寸法過ぎて、(余りにも大きく、厚く、重いが為)標準用武装ビルはおろか規格外向け武装ビルの武装輸送能力でも輸送できない(キャパオーバーな)のだ。

 更に言えば、第5使徒の攻撃で戦闘域の兵装ビルが軒並み損壊しているが為、武装の補充が出来なくなっていたと言うのも大きい。

 エヴァンゲリオン初号機は攻撃力に欠いた状態で戦闘を継続していた。 

 対して第5使徒である。

 此方は、主要攻撃手段である大威力粒子砲は粒子の加速と収束に時間が掛かる為、(ましら)の如く飛び回ってみせるエヴァンゲリオン初号機に命中させる事が難しかったのだ。

 この為、3射目以降は、短い加速時間と緩い収束での小威力粒子砲を連射する事で、激しく動くエヴァンゲリオン初号機に対応しようとしていた。

 だが、簡単ではない。

 四方八方へと放たれる小威力粒子砲は、第3新東京市の中心部(戦場域)を焦土と化させていたが、エヴァンゲリオン初号機に痛打を与える事には成功していなかった。

 激しく動いていると言う事も理由ではあるが、それ以上に、操縦者である碇シンジが気合を入れていたというのが大きい。

 即ち、頭部や胸部、或いは脚と言った致命傷に繋がり(継戦能力を喪失し)兼ねない部位への攻撃は最優先で回避しようとするが、同時に、それ以外の場所への被害は看過する様にしていたのだ。

 結果、全てを避けようとするよりも回避行動に移る余裕が生まれた。

 余裕は過度な緊張を生まない。

 緊張しなければ、回避を確実に行える。

 良い循環を生んでいた。

 尤も、その対価としてシンジは、致命傷に繋がらないとは言えかなりの痛みを味わう事になったが。

 シンジは痛みを怒りに変えて、エヴァンゲリオン初号機を操っていく。

 

 

「イィィィィィィッ!!!」

 

 食いしばった歯の隙間から、押し出す様に痛みへの怒りを放つ。

 凶相をもって第5使徒を睨みつつ、シンジはエヴァンゲリオン初号機を走らせる。

 避けるだけではない。

 機を見て踏み込んでは切り付ける。

 第5使徒とて永続的に粒子砲を放てる訳では無いのだから。

 射撃と射撃の合間を、シンジは縫う様にして仕掛ける。

 

「キィィィィエェェェェェッ!!」

 

 猿叫の響きと共に打ち込み。

 エヴァンゲリオンの強大な力によって振りぬかれた一撃は、並の装甲であれば簡単に叩き斬る事が出来る。

 第3使徒級の構造を持った相手であれば、一撃必殺も可能だとMAGIも判断していた。

 だが、()()()()

 第5使徒の外殻を叩き割って見せるが、使徒の弱点であるコアは疎か殻の内に潜む柔らかな部分に斬撃が届かない。

 只、その外殻を傷つけるだけに終わった。

 そして外殻の傷は、()()()()()()()()()()()()()()()()

 シンジとエヴァンゲリオン初号機にとっては、分の悪い消耗戦であった。

 

 本来であれば、決め手に欠く事が判明した時点でエヴァンゲリオン初号機は退くべきであった。

 何らかの作戦を考案し、この要塞めいた第5使徒を攻略するべきであった。

 それをシンジが選ばない理由は本人の戦意 ―― ではない。

 勿論ながらも戦意自体に不足は無いが、そもそも指揮官である葛城ミサトからの命令(オーダー)があった為だ。

 エヴァンゲリオン初号機の攻撃力不足が判明すると共に、葛城ミサトが動いたのだ。

 可能な限り現在の戦闘を継続し、時間を稼いでほしい、と。

 その命令をシンジは忠実に守ろうとしていた。

 状況打開策を葛城ミサトが用意出来ると信じるが故に。

 

 追加の斬撃は行わない。

 行えない。

 第5使徒が報復の粒子砲を四方八方へと放つからだ。

 

『シンジ君! 粒子加速だ! 対象方向は……全域!?』

 

 通信が繋がっている(ネットワーク先の)、エヴァンゲリオンの専属オペレーターでもある日向マコトがシンジに情報を送る。

 併せて、第5使徒の射撃範囲予想がエントリープラグ内に表示される。

 赤く示された射撃範囲は、ほぼほぼ第5使徒の全周であった。

 エヴァンゲリオン初号機の運動性に、照準速度が追従しきれないと判断した第5使徒は、面制圧射撃(MAP攻撃)を敢行したのだ。

 エネルギーを一気に消耗する手段(射撃モード)であったが、いい加減、第5使徒も焦れていたのだ。

 

なんち(当ってたまるか)!」

 

 吠えながらシンジはエヴァンゲリオン初号機をバックステップさせて対応とする。

 既に被害の大きい左腕左半身を盾にする形でだ。

 直撃。

 衝撃と共にエントリープラグ内の照明が、一瞬だけ赤色灯(非常事態モード)に変わり、復帰する。

 だがシンジにはそれに割く意識の余裕は無い。

 致命打では無いが、それでも尋常ではない痛みがシンジを襲うからだ。

 

「っ、くっ!!!」

 

 歯を食いしばって悲鳴を殺すと、そのまま回避しやすい距離まで下がる。

 要塞めいた第5使徒との闘いは、第3使徒第4使徒よりも遥かに激しい運動戦の様相を呈していた。

 

 

 

 

 

 激戦となっているエヴァンゲリオン初号機と第5使徒との闘い。

 子どもであるシンジが身命を削って稼いでいる時間をもって、葛城ミサトは直接的なシンジへの運用支援全般を日向マコトに預け、自身はより大きな枠での第5使徒を打倒する為の手筈を整えて行く。

 全ては第5使徒を倒す為。

 葛城ミサトはシンジもNERVも、自分自身すらも駒として状況(盤面)を見ながら最適な準備を揃えて行く。

 シンジとは別のベクトルで葛城ミサトも戦意の塊(シグルイ)使徒撃滅だけを腹に決めた女傑(シトゼッタイブッコロスウーマン)であった。

 

 

 先ずは支援火力。

 当座は軽多目的ミサイル(LMM)ATM-4Advancedを投入する。

 形式名から判る通り元が対戦車ミサイルであるLMMは、対使徒としてみれば威力が限定的(物足りない)ながらも機動性が高いお陰で、射点や射線を問わぬ自由な射撃が可能である為、牽制役として最適であった。

 第3新東京市各地の武装ビル群に大量に用意されているLMMを、MAGIにコントロールさせて運用する。

 それも全自動(フルオートモード)だ。

 機械的に判断し射撃する為、素早い対応が出来る事を葛城ミサトは重視したのだ。

 

 その上で、第5使徒の要塞を打ち砕く火力を積み上げて行く。

 温存していた対使徒用大径ミサイル(成形炸薬弾頭弾)の射撃準備を進める。

 誘導能力と運動性が今一つである為、遮蔽物の多い第3新東京市で運用するには問題があって投入されて来なかったが、今の様に戦闘区域(第3新東京市の中心部)が半ば焦土化した今であれば問題は無い。

 又、国連統合軍第3特命任務部隊(FEA.TF-03)野砲(特科)部隊に対しては、とっておき(高価格)であるレーザー誘導徹甲弾(対使徒弾頭弾)効力射(全力射撃)準備を指示する。

 久々の妨害弾以外を射撃する機会に、部隊指揮官は楽し気に笑っていた。

 だが葛城ミサトの本命はエヴァンゲリオン零号機だった。

 早雲山の射撃ポイントへと移動させ、大威力兵器であるEW-23(パレットキャノン)で狙撃しようと言うのだ。

 60口径480mmと言う大口径の電磁投射砲(レールキャノン)は理論上、実体弾としては非常識なまでの威力を発揮する事が想定されている。

 これが葛城ミサトの本命であった。

 とは言え、早雲山の射撃ポイントは造成途中であり、本来であればエヴァンゲリオンの運用に必要な配電設備がまだ完成していなかった。

 だが、今のNERV本部には移動式動力源とも言える原子炉搭載の人型機材、JA(ジェットアローン)が在るのだ。

 問題は何も無かった。

 準備が終わるまでシンジが耐え抜く事を信じて、葛城ミサトは作戦準備を進めて行く。

 

 葛城ミサトはシンジを信じた。

 シンジも葛城ミサトを信じた。

 互いを信じて、第5使徒を打倒する準備を進めて行く。

 

 実戦投入と言う想定外の事態に驚く時田シロウら日本重化学工業共同体(J.H.C.I.C)からの派遣要員を拝み倒して動かし、同時に、赤木リツコには最優先でエヴァンゲリオン零号機用の射撃支援プログラムを作らせる。

 指揮官として、八面六臂と言わんばかりに動いていく。

 

 

「台ヶ丘観測所より入電! 補助観測システム、MAGIとのリンク正常作動確認との事です」

 

 青葉シゲルが良く通る声で報告を上げる。

 日向マコトを筆頭に、作戦局第1課がエヴァンゲリオン初号機に掛かりっきりになっている為、葛城ミサトの補助役となっていた。

 元より、外部との連絡役が青葉シゲルの役職でもあった為、ある種の本業とも言えた。

 

「結構。これで3カ所とも問題無いわね。MAGIによる補正はどうなってる?」

 

「正常に作動中です。補正プログラムに関しては赤木局長より後5分で仕上げるとの連絡が来てます……あ、3分だそうです!」

 

 青葉シゲルが訂正したのは、第1発令所第1指揮区画の下にあるMAGI管制区画の赤木リツコが右手を掲げていたのを見たからだ。

 指を3本起こして。

 恐ろしい勢いでタイピングしながらも、そうやって見せる赤木リツコ。

 掛け値なしに天才の類であった。

 

「結構。エバー零号機とJAの移動はどうなってる?」

 

「待ってください………予定地に到着。最終準備に取り掛かっているとの事です」

 

 ディスプレイを確認して報告する青葉シゲル。

 突貫で作られた手順表(フローチャート)が次々と青く(準備完了と)表示されていく。

 それは、この戦いに関わっている全ての人間が死力を尽くしている事を示しているのだ。

 シンジが稼いでいる(子どもが命を掛けて稼いだ)、1分1秒と宝石よりも貴重な時間を無駄にせぬ為に皆、必死になっているのだ。

 そんな第3新東京市の全ての情報が集まる青葉シゲルの制御卓(コンソール)は、この第3新東京市で行われている戦闘に関する諸行動、その全ての詳細が全てあった。

 

「結構。全ての準備が終わるのは、最短でも15分と言った所ね」

 

「それも試射無しでですから__ 」

 

 言葉を濁す青葉シゲル。

 もう少し時間を掛けたいと言うのが、成功率だけを見た時の気持ちだった。

 だが同時に、今この時間も身を削ってでも時間を稼いでいるシンジの為に、1分1秒でも速く準備を完了させたいと言うのが、人としての情であった。

 シンジは、見る者の背中を押す程の奮戦を見せていた。

 

「シンジ君! 後15分、15分だけ耐えて!!」

 

 伊吹マヤが戦闘周辺の情報で重要な点をシンジへと伝えていた。

 人間、先の見えない状況こそが最も消耗しやすいからだ。

 だからこその目標時間の設定だ。

 

 エヴァンゲリオン初号機の被弾状況は悪化の一途を辿っており、又、回避も戦闘開始直後に比べれば遅くなりつつある。

 シンジの集中力が途切れつつあるのと同時に、蓄積してきたダメージがエヴァンゲリオン初号機の能力発揮を明確に阻害しだしていたのだ。

 それは弱さでは無い。

 能力の低さでも無い。

 機体が脆弱な訳でも無い。

 現時点で既に()()()()()()1()()()()()()()()()()()()のだ。

 逆に、シンジは非凡なまでの集中力を発揮し、エヴァンゲリオン初号機は操縦者の期待によく応えていると評するべき状況であった。

 

 NERV本部スタッフは一丸となって、シンジの献身に応えようと努めていた。

 

 

 

 

 

 早雲山で大馬力で行われている射撃ポイントの準備。

 元より、第3新東京市全域を射界に収められるこの場所は、エヴァンゲリオンによる中距離射撃箇所として整備が進められていた。

 近くにエヴァンゲリオン発進口まで用意されており、又、地盤も大量のべトン(鉄筋コンクリート)で強化されていた。

 特殊装甲板を封入した掩体も設置されている。

 にも拘わらず電源設備などの工事が完了していなかった理由は、この射撃ポイントを使用する武器が完成していなかったからであった。

 電気工事周りは、第3新東京市戦闘街区の整備が最優先されていたと言うのも大きい。

 

 兎も角。

 整備未了な早雲山の射撃ポイントであったが、今は多くの人間が集まってエヴァンゲリオン零号機での戦闘準備を進めていた。

 特に入念に行われていたのは、エヴァンゲリオン零号機の火器管制システム周りであった。

 予備機としての整備が優先され、火器管制システムの更新などは後回しにされていたからだ。

 火器管制システムに基づいた射撃諸元をエントリープラグ内に表示するシステム。

 或いは、機体が集める射撃に必要な情報と第3新東京市各所からの情報とのすり合わせなど、突貫で行うには余りにも煩雑な作業であった。 

 だが、逆であった場合よりは遥かに問題が小さくあった。

 

 

「システム周りは仮想演習用04(デジタルエヴァンゲリオン4号機)と基本的に同じよ、大丈夫?」

 

「はい。大丈夫」

 

 エヴァンゲリオン零号機機付き長である高砂アキ技術少尉との機能確認(ブリーフィング)は、淡々と進んで居た。

 ショートカットの綾波レイと、坊主と見まがうばかりのベリーショートな高砂アキとが並ぶと、どこかしらフェミニンよりも中性的な雰囲気を漂わせている。

 そもそも、口調の音色にも色気が無い。

 共にハキハキとして喋る人間である為、実に事務的である。

 それでいて両者の関係は悪いという訳では無い辺り、面白いと言うのが男性NERV整備スタッフ陣の感想であった。

 尤も、2人を良く見ている人間が居れば、両者ともに緊張している事が判っただろう。

 唐突に決まった初の実戦と言う事は、どれ程に冷静な人間であっても緊張させるものなのだ。

 ()()()()()、高砂アキはいつもと同じ口調、同じ行動(ルーティン)を心がけていた。

 己を奮い立たせる為に。

 最前線に立たせる事となる綾波レイ、子どもに緊張を与えない為に、だ。

 

 実戦の様に訓練し。

 訓練の様に実戦で動く。

 

 その意味で、()()()()()()と言う事であった。

 

「いつも通りね、良いわ。最後までcoolに決めましょう。何かあったら我々(機付き整備チーム)が直ぐに片を付ける。だから任せるわ」

 

「退避はしないの?」

 

「貴方も、そして向こうでは碇君も命を掛けているのに、大人が退くのは好みじゃないわ。エヴァンゲリオンに乗れる訳じゃないけど一緒に居るから」

 

「……判った。だけど出番が無い様に努力する」

 

「良いわ、その覚悟」

 

「そう? 判らない」

 

「その内に判る様になるわ」

 

 特に意味の無い対話(コミュニケーション)も、緊張を解きほぐすのに役立つ。

 だからこそ無駄話を高砂アキは続けていた。

 と、駆け寄ってくる整備スタッフ。

 

「機付き長! 全確認終了です」

 

 差し出されたクリップボードを確認。

 赤ペンで全項目が二重に確認されている事を把握し、腕時計を見て頷く。

 予定時間よりも2分は短縮できている。

 

「宜しい、発令所へ報告! 早雲山、準備完了と」

 

「はい!!」

 

 裂帛の気合が込められた命令。

 そこから声の調子(トーン)を変えて、高砂アキは綾波レイに話しかける。

 優しく。

 その背中を支える声を出す。

 

「出撃準備、最終工程に行くわよ」

 

「了解」

 

 

 

 

 

「エヴァンゲリオン零号機、最終準備完了を確認しました。これで全部隊、最終準備完了です」

 

「結構。リンクに異常は無いわね?」

 

「現時点で誤差なし、問題ありません」

 

「結構!」

 

 葛城ミサトは、心地よい興奮と共にあった。

 否、彼女だけでは無い。

 誰もが真剣さと共に興奮を覚えていた。

 ある意味で当然であった。

 第3使徒や第4使徒の撃滅は、ほぼほぼシンジの個人的技量に帰する事であった。

 だが、この戦いはNERVの総力戦であり、誰もが傍観者ではなく当事者と言う自覚をもって臨む事となっていたからだ。

 

 第1発令所は、そこに詰めている人間が発散するアドレナリンによって異様な熱気に包まれつつあった。

 その中心に居る葛城ミサトは1つ、深呼吸をする。

 目を瞑って大きく息を吸って、そしてゆっくりと吐く。

 開く。

 目に力を込めて命令を発する。

 

「合図10秒後に全部隊射撃開始。エヴァンゲリオン初号機は被害半径を離脱。但し、A.Tフィールド中和圏内には待機。少し難しいけど、シンジ君、貴方なら出来るわ」

 

 エヴァンゲリオン初号機のエントリープラグが映している外部映像には、予想される被害半径とA.Tフィールドの中和可能圏が併せて表示される。

 その二つ円はかなり近い。

 20mにも満たない幅、そこにシンジはエヴァンゲリオン初号機を寄せねばならぬのだ。

 長時間による機動がエヴァンゲリオン初号機の足回りに大きな負担を与えており、その反動(フィードバック)がシンジを苛むが、それをおくびにも出さず快諾してみせる。

 

よか、まかしっくいやい(大丈夫です、任せてください)!』

 

「信じてるわ…………カウント開始!」

 

 

『10、9、8、7、6、5___ 』

 

 同時攻撃の為、MAGIが行っているカウントが第1発令所、各部隊、エヴァンゲリオン両機のエントリープラグに響く。

 

『___ 4、3、2、1、0』

 

「作戦開始!!」

 

 巨大な対使徒用大径ミサイル(成形炸薬弾頭弾)が盛大な噴煙と共に放たれる。

 国連統合軍第3特命任務部隊(FEA.TF-03)野砲(特科)部隊は、その練度の高さを示すように同時着弾のタイミングでレーザー誘導徹甲弾(対使徒弾頭弾)を叩き込む。

 そしてエヴァンゲリオン零号機。

 直径480㎜弾頭重量3tと言う特殊重弾頭を初速2.5km/sで発射すると言う凶悪無比なEW-23(パレットキャノン)を放つ。

 まるで竜が火を吐くが如き焔を引いて放たれた轟弾。

 その反動を受け止めるが為、支援機であるJA(ジェットアローン)は全力でエヴァンゲリオン零号機を支える程であった。

 天を裂くが轟音と共に放たれた一撃。

 NERVの総力を掛けた一大攻撃は、だが第5使徒には届かなかった。

 

 

「使徒、健在です!!」

 

 悲鳴めいた報告を上げる日向マコト。

 第1発令所の正面モニターにはA.Tフィールドによる相転移空間が肉眼で確認できる程に映し出されていた。

 

「バカな……」

 

 誰もが言葉を失った。

 碇ゲンドウすらも絶句している。

 機械的な音だけが、多くの人間が詰めている第1発令所を支配する。

 絶望感。

 だがそれを許さぬ者が居る。

 葛城ミサトだ。

 その途切れえぬ戦意が、心が折れる事を赦さない。

 

「まだよ! 再攻撃用意!!」

 

 その叱責に、多くの人間が己の職責を思い出して慌てて動き出す。

 赤木リツコは、A.Tフィールドの中和圏内設定に向けた計算が誤っていたかと歯噛みして再計算を指示した。

 葛城ミサトはエヴァンゲリオン零号機に弾丸の再装填を命令した。

 第3特命任務部隊に対しても再度の射撃準備を伝える。

 

 1撃目で駄目であれば2撃目を放ち、2撃目で駄目であれば3撃目。

 絶望に折れて立ち止まりさえしなければ、何時かは勝てるのだ。

 それ程の戦意(狂気)が葛城ミサトと言う女性の背骨であった。

 

 だが問題が1つ。

 1撃目で突破できなかったA.Tフィールドを2撃目が通るのか。

 崩壊させる事が出来るのか、と言う事だ。

 先の中和可能圏の算出は、事前の、エヴァンゲリオン初号機との交戦を観測して得られたモノだった。

 それが通じないとなれば、第5使徒にはどれ程の余力があるのか、底が見えないと言うものだ。

 その点、どうするべきかと脳みそを振り絞った葛城ミサト。

 そこにシンジが笑って告げる。

 ()を口にする。

 

チェストすればよか(吶喊すれば良い)

 

 縦横にエヴァンゲリオン初号機を奔らせて第5使徒の攻撃を吸収しながら、シンジは穏やかに言う。

 エヴァンゲリオン初号機を突撃させ、ゼロ距離となればA.Tフィールドは中和出来ると言う。

 確かにその通りであった。

 格闘戦闘を仕掛けてもいるエヴァンゲリオン初号機、その攻撃は第5使徒を傷つけてはいるのだから。

 

「意味、判ってるの?」

 

 流石に葛城ミサトも表情が険しくなる。

 シンジは、自分ごと撃てと言っているのだから。

 

わかちょっ(判ってますよ)じゃっどん、もう足がまわらん(だけどもう初号機の脚は限界です)じゃっで、泣こよかひっ跳べじゃ(なら、やるしかないじゃないですか)

 

 その言葉に葛城ミサトは伊吹マヤを見る。

 エヴァンゲリオン各機の状態を管理している、この少女めいた雰囲気のある女性技術少尉は泣きそうな顔で頷いていた。

 ディスプレイ上のエヴァンゲリオン初号機の状態(コンディション)は、動くのが不思議と言うレベルで真っ赤に表示されている。

 覚悟を決めた。

 

「シンジ君、恨んで良いわよ」

 

よか(言い出したのは僕ですよ)

 

 静かに顔を見あったシンジと葛城ミサト。

 共に、そこには静かさがあった。

 静かな狂気があった。

 シンジは、その躾故に。

 葛城ミサトは、その教育 ―― 人の命を掛札(チップ)にして勝利を追求する、全体の為に個を犠牲にする事を躊躇わぬ教育された人間故の決断でもあった。

 

 勝つのが本にて候(勝利こそすべて)

 共通するのは、勝たねば何も出来ぬと言う事が骨の髄まで叩き込まれていると言う事だ。

 

()()()()

 

じゃひな(ですね)

 

 それだけで言葉は終わった。

 獣めいて笑う葛城ミサト。

 己が畜生めいている事を自覚した笑みであった。

 子どもたち(チルドレン)を使い、血も涙もない作戦を遂行していく。

 自分は地獄に落ちるだろう。

 地獄に堕ちねばならない。

 だが、()()()()()()()()、使徒の悉くを地獄に叩き落して賑やかにしてやろうと決意する。

 静かなのは嫌いだから。

 

 裂帛の気合を込めて声を上げる。

 

「全責任は、私、葛城ミサト中佐が取る。総員、第2撃用意!!」

 

「ミサト!」

 

 冷徹ではあっても、人の情を失っていない赤木リツコが堪らずに声を上げる。

 だが、それを葛城ミサトは手で止める。

 

「勝たねば明日は来ないわ」

 

「………」

 

 否、赤木リツコも判っていたのだ。

 その冷静な計算力が、葛城ミサトとシンジの決断が合理であると教えているのだ。

 だがそれでも、ソレを瞬時に決断する事は出来なかったのだ

 

 

 

「第2撃、準備完了です!」

 

 青葉シゲルの報告に、葛城ミサトは深く頷く。

 そして命令を出す。

 子どもに死線を越えさせる命令を、出す。

 

「行動開始!!」

 

 エヴァンゲリオン初号機が、それまでの機動を捨てて、最速で第5使徒へと迫る。

 電源(アンビリカルケーブル)すらも捨てて駆ける。

 迎撃に放たれた粒子砲をシンジは左腕で受け、払う。

 その対価で左腕が千切れ飛ぶ。

 エヴァンゲリオン初号機との繋がり(シンクロ率)が、シンジにそれを己が腕が切り落とされたかの様に感じさせる。

 だがシンジは止まらない。

 一度放たれた矢が止まらぬように。

 振りぬかれた刀の切っ先が、振りぬかれるまで止まらぬ様に。

 

『キィィィィエェェェェイィィィィィィィィッ!!』

 

 猿叫と共に駆けるエヴァンゲリオン初号機。

 踏み込み毎に、脚が弾けて行く。

 ダメージの重なっていた装甲が剥がれ、そして生体循環液(Circulation Liquid)を血煙の様にたなびかせて征く。

 正しく吶喊。

 

-オォォォォォッォオォォォォォォォォン!-

 

 シンジの猿叫に呼応するが如く、エヴァンゲリオン初号機は顎部ジョイントを引きちぎって吠える。

 吠えながら奔る。

 最後の踏み込みで飛び、そして第5使徒の円周部へと最後の一撃を叩き込む。

 

 そしてその瞬間に合わせて葛城ミサトは命令する。

 

「撃てっ!!」

 

 

 

 エヴァンゲリオン初号機によってA.Tフィールドを中和された第5使徒は、守る術を奪われたまま、人類の凶器に晒される。

 NERVが用意したありったけが降り注ぐ。

 対使徒用大径ミサイル(成形炸薬弾頭弾)が豪快に第5使徒に大穴を開ける。

 大量に叩き込まれたレーザー誘導徹甲弾(対使徒弾頭弾)は、その表面を片っ端から砕いていった。

 そして止めとばかりに放たれたエヴァンゲリオン零号機のEW-23(パレットキャノン)

 特殊重弾頭は見事に第5使徒のコアをぶち抜いた。

 

 

 

 轟音と爆炎。

 第1発令所の正面モニターから見る戦場は何も判らなくなる。

 

「パターン青、消滅を確認……」

 

 悄然とした風の青葉シゲルの報告。

 勝利を告げる言葉。

 だが、誰も歓声を上げない。

 誰もが固唾をのんで正面モニターを見ていた。

 濛々と上がる煙の向こうにある筈の、エヴァンゲリオン初号機を望んでいた。

 

「リンクは?」

 

「途絶、しています」

 

 力なく報告する伊吹マヤ。

 有線(アンビリカルケーブル)は切り離されており、無線は電波状態が安定していないのか、それともエヴァンゲリオン初号機側のシステムが損傷しているのか、情報連結(ネットワーク)は途絶状態にあった。

 誰もがシンジの生還を願っていた。

 碇ゲンドウですらも、歯を噛みしめた顔で正面モニターを見ていた。

 

 風が吹く。

 煙が晴れた。

 

「えっ、エヴァンゲリオン初号機、健在です!!」

 

 日向マコトが感極まったとばかりの声を上げる。

 歓声が上がった。

 

 崩れ落ちた第5使徒。

 対して、自らの脚で立つエヴァンゲリオン初号機。

 仁王立ちめいたその機体は、攻撃の余波で酷い有様になっている。

 特に頭部。

 頭部装甲は完全に脱落し、その素体が姿を見せている。

 本来は無い目と口とが形成されている。

 その唇の無い、薄い口が獣めいた笑みを形作っている。

 威風堂々。

 傷だらけであっても、その姿は正しく勝利者のものであった。

 

 

 

 内部電源まで切れて、薄暗くなったエントリープラグでシンジは全身から力を抜いて笑う。

 取り敢えずは勝てたな、と。

 嘆息。

 顔を拭えば、L.C.Lと混ざり合わぬ脂汗が拭えた。

 

じゃっどん(だけど)いてもんじゃ(痛いもんだ)

 

 小さな笑い。

 それは年相応でもあった。

 シンジは痛みが好きな訳では無い。

 痛みが感じられない訳でも無い。

 只、必要があれば我慢するべきと躾けられているだけなのだから。

 インテリアにそっと背中を預け、目を閉じるのだった。

 

 かくして第5使徒戦は終幕を迎えた。

 

 

 

 

 

 




葛城ミサト=サンが使徒ゼッタイ殺すウーマンなのは原作通り
イイネ?

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