サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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03-Epilogue

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 第3新東京市、その要塞都市としての中枢部に残骸として残る事となった第5使徒。

 半壊し、ゴロリとばかりに大地に身を横たえた正八面体は、戦いの激しさとは相反するユーモラスさがあった。

 そして美しくもあった。

 そう思えるのは、少なくとも人的被害が無かったからだろう。

 面倒ではあるが悲劇は無いのだから。

 意識的に(精神コントロールとして)物事を呑気に考えるようにしている葛城ミサトは、第5使徒の残骸を前にして、宝石だったら良かったのに、と呟いてみせていた。

 

「宝石だったら売り飛ばして臨時ボーナスが期待出来たんだろうけど」

 

 技術開発局を中心に組まれている第5使徒被害調査班は、陽性の笑いを浮かべて反応した。

 そして、葛城ミサトの内面を理解している赤木リツコは、同じ調子(ノリ)で返していた。

 

「宝石だったとしても、これだけあると値崩れするわね」

 

「そりゃ残念!」

 

「とは言え、この残骸を分析して新しい論文を発表出来れば、或いは何かのパテントに繋がれば儲かるかもね」

 

 赤木リツコは全くそう言う事を考えていない事を口にする。

 換金できそうな研究結果が出たとしても、機密と言う壁がそれを阻止するだろうと理解しているから。

 そしてソレは、英才揃いの調査班も判っていた。

 判っていたが、笑って見せていた。

 人は明るいと言う事が力となる事を理解していたが故に。

 

 

 

 現場の苦労。

 それに対応する様に、上には上の苦労があった。

 NERVの総司令官碇ゲンドウは、使徒撃退に伴ったSEELEへの報告に苦労していた。

 内容にでは無い。

 事実を全て開陳すれば良いだけなので、そちらに関しては問題は無い。

 只、彼らの態度が気にいらない。

 只々、彼らの言い方がストレスなのだった。

 現場に出て、それこそ第5使徒の残骸を手で運んでいた方がはるかにマシだと思う程度には。

 

『碇君、今回の戦いでの被害、余りにも大きい』

 

『左様。大破したエヴァンゲリオン初号機、壊滅的被害が出た第3新東京市要塞街区、補正予算が年度予算を大きく上回る事になるよ』

 

 概算ではあるが被害状況を纏めて、提出しているのだ。

 その額たるや、NERV本部の1年間の運用経費を遥かに上回っていた。

 碇ゲンドウですらも、上がってきた数字を二度見し、担当者に確認の電話を入れた程であった。

 そして同時に、SEELEのメンバーすら絶句する数字ではあった。

 

『とは言え、君の判断、葛城中佐の指揮、そして君の息子の戦闘に問題は無い』

 

『多少なり判断の順序を考える部分はあっても、概ね良好と言える』

 

『信賞必罰を考えればこれは評価する必要があるだろう。葛城中佐および碇中尉待遇官に対し戦勲を認め、葛城中佐は本来の階級を昇進させる』

 

 中佐待遇大尉である葛城ミサトを中佐待遇少佐へと昇進させる事は、現在の待遇で見れば差は無いし、処理的にも簡単な話であるが、恩給その他には大きな影響が出て来るので、決して軽い評価では無い。

 手間の掛からない割に、楽な褒美とも言えた。

 

『問題は碇、君の息子だよ』

 

「はっ」

 

『左様、余り子どもの内から褒章の類を与えてしまっては()()()()()からな』

 

 奥歯を噛みしめる碇ゲンドウ。

 コレだ、コレなのだとばかりに苦虫を噛み潰したような顔となる。

 

 そもそも、先の第5使徒戦で碇ゲンドウは噛みしめすぎて奥歯を痛めていた。

 ()()()()()()()()()()()を死地に平然と投入する葛城ミサトの指揮にも、雑にエヴァンゲリオン初号機を扱うシンジにも、口に出せぬ不満を抱いていた。

 大事な妻、碇ユイの事。

 人類補完計画に於ける大事な鍵である事。

 口には出せぬ事をのみ込む為の対価であった。

 葛城ミサトにせよシンジにせよ。

 その作戦なり方針なりに問題があれば、総司令官としての強権発動も可能であったが、両名共に限られた状況下においては最善であろうと言う行動をしめしてたのだ。

 コレでは止められない。

 それ故の痛みであった。

 

 そんな碇ゲンドウの表情をにこやかに見つめるSEELEの指導者たち。

 最高の気分を味わっていた。

 

『まぁ良かろう。初号機操縦者碇シンジには2等勇功章(シルバースター)を与えるとしよう』

 

『異議なし』

 

『妥当かと思われます』

 

『碇君、少しは喜びたまえ。君の息子が評価されたのだからね』

 

 

「………はっ、有難う御座います」

 

 全く以って嬉しくも無い話で感謝を述べざるを得ない。

 その事が益々もって碇ゲンドウの顔を歪ませる。

 それがSEELEの人間を喜ばすと理解しているが、抑えきる事が出来ないでいた。

 

『今回の被害対応に必要な予算も、早急に国連総会を通す。問題は無い』

 

『エヴァンゲリオン弐号機及び4号機の配備に伴う人員の増員についても一考しよう』

 

『碇君。NERVと君の息子の奮闘、我々は高く評価しているのだよ』

 

「……有難う御座います」

 

 怒りが限度を超えて、もはや能面めいた顔で感謝を碇ゲンドウは口にしていた。

 それが更に笑いを誘っていた。

 

 報告会は他に、早雲山の射撃ポイントに立ち会った者たちへも3等勇功章(ブロンズスター)が配られる事を決めて閉会した。

 立体映像が消えて、真っ黒になったNERV総司令官執務室。

 その執務机に座った碇ゲンドウはしばらく動かないでいた。

 噛みしめすぎた奥歯の痛みに故にであった。

 鬱屈晴らしめいて机を蹴る元気すら出ないでいた。

 

「シンジめ」

 

 怨嗟の声だけが、NERV総司令官執務室に響いていた。

 

 

 

 

 

 少しばかり時間は巻き戻る。

 

 第5使徒を撃破したシンジは、回収されるまでの時間、眠っていた。

 流石に1時間以上も命を掛けた集中をしていたのだ。

 シンジは、如何に鍛えているとは言え基本(生理年齢)は14歳の子どもなのだ。

 集中が途切れれば気絶もしようというものであった。

 又、回収してもらうまで暇であったと言うのも大きい。

 その意味では、気絶と言うよりも昼寝であった。

 とは言え、それを見た回収班がどう思うかは別の話であった。

 

 救急班が呼ばれて緊急調査入院と相成り、そしてシンジは暇となる。

 検査問診etcと。

 夜は、ぐっすり眠れとばかりに、TVも本も無い特別病室(VIPルーム)に放り込まれる。

 誠にもって暇であった。

 天井の染みでも数える位しか出来る事の無い夜。

 だが、疲労を蓄えた14歳と言うシンジの体は、消灯と共に速やかな眠りに沈むのだった。

 そして朝。

 レースのカーテン越しに朝日を感じたシンジが目を覚ます。

 と、体を起こせば、寝すぎの影響か体中に痛みがあった。

 後は空腹だ。

 若い身体が根源的な渇望を訴えて来る。

 昨晩は身体調査で時間を取られて、軽食(サンドイッチ)が晩飯であったのだ。

 腹も減ると言うものであった。

 

腹が減ったが(腹減った)

 

 ベットサイドのテーブルに置いておいた水のペットボトルを取って飲む。

 と、ノックがされた。

 シンジが起きるのを待っていたのだろうか。

 勤勉な事だと内心で呟きながらシンジは許可を出す。

 

よかど(入っても良いですよ)

 

 扉から入ってきたのは看護婦でも無ければ医者でも無く、ましてやNERVスタッフ(作戦局の人間)でも無かった。

 同僚にして同級生、綾波レイであった。

 

「おはよう」

 

 平坦な声色(トーン)での挨拶が来た。

 その朝駆けっぷりに、流石のシンジも驚く。

 朝日を後光の如く纏った綾波レイは、その驚きに興味を示さない。

 否、謝罪していた。

 

「驚かせてごめんなさい。聞きたい事があって待ってたの」

 

 何時から? と言う言葉が喉元まで上がってきたが、シンジはそれを飲み干した。

 この病院はNERV本部施設内にあり、NERVのB級以上のスタッフであれば(IDカードを持っていれば)自由に来る事が出来ると聞いている。

 であればB級職員枠(準中枢スタッフ)であるエヴァンゲリオンの適格者(チルドレン)、綾波レイが居るのはおかしい話では無い。

 朝から居ると言う点だけはおかしいけれども。

 

よかどん、なんな(良いけど、何を聞きたいの)?」

 

「どうしてあそこまで、したの?」

 

ないがな(何の話)?」

 

 別段にシンジがとぼけていると言う訳では無い。

 只、綾波レイの疑問が理解出来無かったのだ。

 

 綾波レイにとってエヴァンゲリオンは、自分が自分として居る為の絆(スピリチュアルアンカー)であった。

 だからこそ拘りがあった。

 又、()()()1()()()()()()()()()()()()()()

 だからこそ、死すらも恐れるものでは無い。

 だがシンジは違う。

 別段にエヴァンゲリオンに拘りがないシンジが、先の第5使徒戦で命を掛けて見せた理由が判らなかったのだ。

 死ねば終わる、普通の人間(モータル)なのだから。

 

「あなたは、何のために戦っているの?」

 

 何の為にと言われたが、そんな事を言われても正直困ると言うのがシンジであった。

 使徒を倒さねば人類は終わる。

 使徒を倒すのにはエヴァンゲリオンが居る。

 エヴァンゲリオンに乗れる人間は限られていて、シンジはその限られた人間の1人だった。

 であるならば、戦わないと言う選択肢など最初から無い ―― それがシンジの感覚であったのだから。

 それを、できるだけゆっくりと伝える。

 

理由ちな(戦う理由って言われても)……そうな(そうだね)戦ってくいやいちいわれたでよ(戦って欲しいって頼まれた)そひこんこいよ(それだけの話だから)

 

「………それだけで、戦えるの?」

 

 綾波レイの脳裏に浮かぶのは、1時間以上にも及んだエヴァンゲリオン初号機と第5使徒との熾烈な攻防戦だ。

 そして第5使徒の防御(A.Tフィールド)を中和する為に吶喊したエヴァンゲリオン初号機の姿だ。

 どちらにせよ頼まれたからと言う程度の理由で出来る事では無いと感じられた。

 

じゃっど(うん、出来るよ)

 

 納得できない綾波レイの気持ちを、軽く流すように頷くシンジ。

 

「怖く、無いの?」

 

怖いはあっが(怖いと言うのはあるよ)じゃっどん(だけど)他人に頼っせぇに(誰かに頼って)隠れっとはすかん(隠れているのは好みじゃないかな)

 

 しかも戦うのは綾波レイ、女の子だ。

 いやしくも男子たる者が、自分も戦えるのに戦わず、女の子を戦わせると言うのは最低だ。

 臆病者の卑劣漢(おなごんけっされ)だと、シンジは確信していた。

 だから戦うのだ。

 流石にシンジは、女性である綾波レイ相手に鹿児島(さつま)で一番の罵倒表現、それも男相手のソレ(女の腐った様な奴)を口にしようとは思わなかったが。

 

 兎も角、シンジが戦う理由は矜持であると言えた。

 脅威を前に、戦う力があるのに誰かの陰に隠れるなど男子のする事では無いと言う()の結果とも言えた。

 

「そう………」

 

 赤い綾波レイの目がシンジを凝視する。

 シンジも又、その目を真っ向から見る。

 

 綾波レイが碇シンジと言う同僚を理解したとは言えない。

 だが、シンジと言う人間の本質を見た気がした。

 

「教えてくれてありがとう」

 

 感謝の言葉。

 対するシンジは笑って受け取った。

 

よかど(どういたしまして)

 

 

 

 

 

 




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※補足
 国連軍の勲章は、基本的に米軍基準デス
 国連軍の骨格を成しているのがアメリカ連邦軍なので残当__
 それに各国の良さそうな勲章が加わってマス
 騎士十字章が、デザインを変えて加えられてますが、割と非ドイツ系は削ろうとして、政治的暗闘がががが

 ■

 綾波レイとのフラグが微妙に折れきれませんでした。
 でもコレ、どうみても戦友フラグヨネ__
 多分
 きっと
 ンナ希ガス






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