サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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たとえ私が死の影の谷を歩もうとも、災いを恐れない
あなたが私と共にいるからだ

――旧約聖書     









四) ANGEL-06  GAGHIEL
04-1 BREAK-AGE


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 NERV本部ジオフロント内部の設備で一番巨大と言って良いエヴァンゲリオン格納庫(ケイジ)

 今まではエヴァンゲリオン零号機とエヴァンゲリオン初号機の2機だけが居た場所に、新たに3体目のエヴァンゲリオンが収容されていく。

 銀色の下地を兼ねた特殊塗装だけが施されたエヴァンゲリオン、エヴァンゲリオン4号機だ。

 NERVドイツ支部が完成させた正式配備型(プロダクトモデル)エヴァンゲリオンであるエヴァンゲリオン弐号機の設計図を基に、様々な修正が施された機体である。

 とは言っても、別段に大規模な設計変更が行われた訳では無い。

 エヴァンゲリオン弐号機の建造経験に基づいた、建造効率の向上に主眼の置かれた設計変更である。

 この為、技術開発局の一部にはエヴァンゲリオン弐号機を先行量産型であるとし、エヴァンゲリオン3号機以降の機体こそが正規量産型であると言う意見もあった。

 実際、エヴァンゲリオン弐号機は頭部カメラに特殊な4つ目型を採用しており、他にもNERVドイツ支部の手で幾つかの実験的な設計変更が行われている為、強ち間違いでは無かった。

 

 兎も角。

 就役したばかりのエヴァンゲリオン空輸用超大型輸送機(CE-317 Garuda)にてNERV本部へと運び込まれたエヴァンゲリオン4号機は、そのままD整備が行われる事となる。

 修理や大規模改修以外では最も手間を掛けた整備であるD整備を、塗装以外はアメリカで竣工状態にあったエヴァンゲリオン4号機に行う理由は、アメリカでの建造工程に関する情報収集があった。

 今後、運用していく上で重要な、エヴァンゲリオン初号機等(NERV本部にて基本設計と建造が行われた機体)との差異の確認とも言えた。

 又、表沙汰に出来ない理由が1つ、あった。

 移管に関する経緯(碇ゲンドウによる恫喝)が経緯である為、NERVアメリカ支部上層部関係者によるサボタージュ等が警戒されたのである。

 なんにせよ、機体各部の入念な確認と整備とを行い、コアの換装と専属パイロットとなる綾波レイとのマッチング(シンクロ調整)を実施、そして最後に塗装をして就役となる。

 

 全身を銀色の特殊塗装で染められたエヴァンゲリオン4号機は、ケイジにあっても中々に異質感を漂わせていた。

 機体各部に取り付いた機付き整備班が丁寧に、だが手早く仕事をしていく。

 半分はエヴァンゲリオン零号機の機付き整備班であり、もう半分はNERVアメリカ支部からの移籍組 ―― エヴァンゲリオン4号機の建造スタッフであった。

 半分しか来ていない理由は、NERVアメリカ支部で更なるエヴァンゲリオンの建造が計画されているからである。

 エヴァンゲリオン8号機だ。

 5、6、7の番号(ナンバー)は使用済み ―― 各支部での建造が開始されている機体に使用されていた。

 NERV中国支部でエヴァンゲリオン5号機が建造されている。

 エヴァンゲリオン弐号機を建造したNERVドイツ支部では更に2機、エヴァンゲリオン6号機とエヴァンゲリオン7号機の建造が行われていた。

 いずれも2013年に策定された、エヴァンゲリオン第1次整備計画に基づいたものであった。

 

 エヴァンゲリオンは当初から8体の整備が予定されていた。

 使徒が目標とするであろうNERV本部の防衛に専属する3機と世界に配備する5機だ。

 ユーラシア大陸の東西、南北のアメリカ大陸、そしてアフリカ大陸に配備し、人類の存続に務めると言う予定である。

 その意味では本来、エヴァンゲリオン8号機まで建造されるのが正しい。

 だが現実は厳しい。

 予算的な問題からエヴァンゲリオン8号機の建造はキャンセルされ、エヴァンゲリオン零号機を実戦向け改装によって8機揃えるものとされたのだ。

 だが、先の碇ゲンドウによるNERV総司令官による査察(アメリカ支部仕置き)によってエヴァンゲリオン4号機はNERV本部へと移管し、そして新規にアメリカ政府の予算でエヴァンゲリオン8号機の建造が命令される運びとなっていた。

 アメリカ政府は、このエヴァンゲリオン8号機の建造予算に悲鳴を上げる事となる。

 国連の人類補完委員会(SEELE)管理下のNERVアメリカ支部を、アメリカ政府は自らの支配下に収めようとしていた事への()()であった。

 旧世紀(1999年以前)と比較して、国力低下の著しいアメリカにとっては尋常では無い負担であった。

 

 

「チョッち、バタついてるけど、取り合えず何とかなりそう?」

 

「悪くは無い感じね。アメリカのスタッフも()()()()()()()()()()()()

 

 作業状況を確認に来た葛城ミサトに対し、赤木リツコはパソコンのモニターから目を逸らす事無く答える。

 耳にはイヤホンを差して、機付き整備班班長などからの報告も受けている。

 忙しくしていた。

 

「それは良かった。作戦部としては戦力が増強されるのは有難いけど、この様を見ると気楽には言えないわね」

 

「裏方の苦労を理解してくれてありがとう? 制御プログラムに問題は無いわね」

 

「そこまで確認するの?」

 

「確認と言うよりも改修(バージョンアップ)ね。シンジ君のお陰で初号機の運用データが取れたから、それを基にした改良版を開発してたのよ。その4号機への実装よ」

 

「シンジ君のだと白兵戦ばっかよ? 大丈夫??」

 

 割と真剣な顔で疑念を口にする葛城ミサト。

 エヴァンゲリオン初号機のデータを移設していくと、後の機体まで白兵戦特化(脳筋ゲリオン化)されては困るのだ。

 諸兵科連合(コンバインドアームズ)は無理でも、せめて前衛(近接戦闘)後衛(支援戦闘)と言う程度には役割分担をさせたいと言うのが作戦局の願いであった。

 

「バカね。機体の運動の効率化よ? パイロットへの教育で何とかして頂戴」

 

「でも最近はレイまで突撃するじゃない?」

 

 事実だった。

 碇シンジの駆るエヴァンゲリオン初号機とのデジタル演習に際して、綾波レイは武装を主にEW-23(パレットキャノン)と設定されているが、この長大な装備を持って隙あらば吶喊しようとする様になっていた。

 正確に言えばEW-23では無い。

 綾波レイたっての希望で改造(改修)された装備、筒先に銃剣(ブログレッシブダガー)を装着したEW-23Bである。

 30m近い砲身を持ったEW-23Bを、まるで騎兵槍(ランス)の様に保持して突撃するのだ。

 シンジのエヴァンゲリオン初号機がEW-14(ドウタヌキ・ブレードⅩⅢ)を構えて突貫するのも暴力的であったが、此方も負けず劣らずと言う有様であった。

 流石に綾波レイは奇声(猿叫)を上げる事は無いが、それも時間の問題では無いかと葛城ミサトなどは見ていた。

 実に頭の痛い問題である。

 

「以前の、後退しようとした所に踏み込まれて負けていたのが相当に気に入らなかったみたいね? 問題はないでしょ」

 

「問題だらけよ。戦意があるのは有難いんだけど、支援を主とするなら冷静に退いて欲しいんだけどね」

 

「あら、泣き言?」

 

「愚痴よ愚痴。1対1での演習が続けば、人間だれしもそれに最適化していくのは判るんだけど、判るんだけど、チョッちね」

 

 デジタル演習は、極端に言ってしまえばゲーム(遊戯)でしかない。

 決まった相手との、殆ど同じ条件、装備での戦い。

 それは実戦とは全く異なる。

 使徒は、どの様な相手が来るのか判らないのだから。

 第3使徒と第4使徒は、人型めいている点で類似点はあった。

 南極に眠っていた第1使徒もそうであった。

 だが、使徒は人型を基とすると言う想定を、第5使徒が完膚なきまでに粉砕したのだ。

 その意味に於いて葛城ミサトの苦悩は深い。

 戦闘では無くエヴァンゲリオンを動かす事、或いは武器の操作に習熟するのは役立つのだから。

 何とも難しい話であった。

 

「なら、アスカ待ちって所かしらね」

 

 アスカ、惣流アスカ・ラングレー。

 NERVドイツ支部からエヴァンゲリオン弐号機と共にやってくる、NERV本部が迎える3人目の適格者(パイロット)だ。

 幼少時より過酷な選抜と訓練を乗り越えてきた、正しくエリートである。

 しかも学士号(大学卒業)を持っている天才でもある

 様々な点が評価され、適格者たち(チルドレン)の中で唯一、正式に中尉(中尉待遇少尉)の階級章を帯びていた。

 

 葛城ミサトも、NERVドイツ支部に出張した際に顔合わせを行っている。

 勝気な所はあるが努力家であり、正式な階級章を持てる程には戦術面での訓練も受けているのだ。

 葛城ミサトとしては、現場指揮官役として期待する部分があった。

 

「船団はもう太平洋に入った頃かしらね?」

 

「明日あたりの筈よ? 国連軍の誇る第7艦隊の護衛(エスコート)付き、スケジュールに狂いはないだろうから」

 

 空母3隻と戦艦4隻を中心とする27隻の第1特別輸送任務部隊(Task Force-7.1)だ。

 空母は勿論、戦艦も駆逐艦も潜水艦までも精鋭揃いであり、護衛されているエヴァンゲリオン輸送船は艦齢も新しい為、揃って20Knotからの速力を連日発揮出来ていた。

 現在、南シナ海を航海中であり、明日にもバシー海峡を越えるだろうという状況であった。

 これだけの戦力が投入されているのは、その予定航路を先行哨戒していた駆逐艦が不明水中存在(Unknown)を発見したからであった。

 使徒の可能性が高いと判断されていたからである。

 

「しっかし、次の使徒は水中から? どうやってここまで来る気なのかしら」

 

「空を泳いでくるかもね」

 

「アンタ、科学者がそれを言う?」

 

「使徒に関して………私は諦めたの」

 

 深い深いため息とともに、赤木リツコは呟いていた。

 否、諦めていた。

 

 

 

 

 

 太平洋に使徒と思しきモノが出現した。

 その一報は、葛城ミサトなどの人間にとっては朗報であった。

 第3新東京市の遠方で発見できたと言う事は、それだけ準備を行う余裕に繋がるからだ。

 或いは精神的な余裕。

 だが、そう思っていられない人間も居るのだ。

 使徒の狙いが読める人間、使徒が輸送船団(TF-7.1)を狙うであろう理由を想像できる人間には。

 

「どうする碇、使徒が船団の付近に出現したというぞ」

 

 困ったと言う表情を隠さない冬月コウゾウ。

 対する碇ゲンドウは、NERV総司令官執務室の机に両肘をついて考え込んでいる。

 

「ああ。狙っているのはA号封印体(Solidseal-α)だ。間違いはあるまい」

 

「弐号機では誤魔化せなかったか」

 

「………老人共は誤魔化せたがな。まぁ良い。移送中の弐号機は確かB装備(Basic)だったな。ならば丁度良い。弐号機による洋上作戦()()として迎撃準備をさせる」

 

「洋上戦装備を積んでいたか? いや、そもそも船団にはエヴァの運用に必要な人員は載せて居なかった筈だぞ」

 

 ()()()()に備える為として、エヴァンゲリオン弐号機の操縦者であるアスカは機体と共に居たが、その運用を支える機付き整備班などは殆どが飛行機でNERV本部へと来ていた。

 エヴァンゲリオン弐号機は、起動する事は出来ても運用する事は出来ない。

 そういう状況であった。

 

「問題ない。此方で手配すればよい。コレも緊急展開訓練として行えば、SEELEの老人共に対する目くらましにはなろうだろう」

 

「お前の屁理屈には呆れるよ」

 

「理屈など軟膏と一緒だ。確とした理由さえあれば屁理屈でも道理であるかのように聞こえるものだ」

 

「お前らしい意見だな。では日本政府の方へはワタシが手を回しておこう」

 

「ああ、頼む」

 

 

 

 

 

 空を往く垂直離着陸機(CMV-22N)

 国連海軍向けの輸送機型であるCMV-22Bを基に、NERVが長距離緊急人員輸送用として開発配備した機体だ。

 飛んでいるのは東シナ海。

 沖縄で給油後、一路、南を目指していた。

 1機だけでは無い。

 2機のCMV-22Bを随伴を連れて飛んでいる。

 

 緊急人員輸送用と言う事でCMV-22Nは、普通の輸送機型のCMV-22Bとは比べ物にならない程に快適なものとなっていた。

 十分な防音(エンジン音対策)と、空調設備まで完備されている。

 座席も、民間航空機のビジネスクラス並とまでは言わずとも、NERV高官が搭乗する事を想定して良質なモノが設置されている。

 そんな、ある意味で贅沢な機内で1人、大きくはしゃいでいる人間が居た。

 

「あぁ凄い凄い凄い! CMV-22B!! こんな事でもなけりゃあ、一生乗る機会ないよ!」

 

 相田ケンスケである。

 シンジ経由で葛城ミサトに誘われて、鈴原トウジと共に来ていた。

 許可を貰って、機内の何処をビデオカメラで映していく。

 何とも趣味者らしい態度と言えた。

 このCMV-22Nに乗って既に1時間から経過しているにも拘わらず、この興奮状態(高いテンション)である。

 何とも元気であった。

 

「まったく、持つべきものは友達って感じ! なぁ、シンジ!!」

 

「あ?」

 

 相田ケンスケの隣の席に座っていたシンジ。

 暇つぶし用にと持ち込んで居た音楽雑誌、クラシック系のソレを読んでいて返事が出来ない。

 何を言っているのか、聞いて居なかったのだ。

 だが、相田ケンスケはそんな事に頓着しないし、そもそも、別の人間が返事をしていた。

 

「毎日同じ山の中じゃ息苦しいと思ってね。たまの日曜だから、デートに誘ったのよ♪」

 

 向かい側の席に座っていた葛城ミサトだ。

 呑気そうに笑っている。

 だが、誘った理由は正確に言えば違う。

 ご褒美なのだから。

 相田ケンスケはNERV(葛城ミサト)に対する()()()として、シンジや綾波レイの学校での動向を報告する仕事を担っていた。

 だからなのだ。

 軍事趣味者である相田ケンスケの様な人間にとって、こういう風にミリタリーに触れられる事は最高の報酬であった。

 金銭などよりもよっぽどに嬉しい報酬であった。

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 赤木リツコが言う通り、悪趣味であった。

 

「ええっ! それじゃ、今日はほんまにミサトさんとデートっすか? この帽子、今日のこの日のためにこうたんですわ!」

 

 尚、相田ケンスケだけを誘っては違和感をシンジに与えるだろうからと、シンジと相田ケンスケとも仲の良い鈴原トウジまで誘われていた。

 建前としては遊びであった。

 

「ミサトさぁん!!」」

 

 感極まった様に声を上げた鈴原トウジに、サービスとばかりにウィンクを返した葛城ミサト。

 使徒が傍に居る可能性があると言う状況であったが、葛城ミサトは戦闘に繋がるとは思っていなかった。

 使徒は第3新東京市を狙ってくるモノであると言う先入観があったからである。

 故に、碇ゲンドウから命じられたこの仕事(出張)を、将来的なエヴァンゲリオンの広域展開任務に向けた情報収集としか考えていなかったのだ。

 貴重な適格者(パイロット)であるシンジを連れて行く様に命じられたのも、護衛をしながらの移動試験であった。

 又、万が一にも葛城ミサトやシンジが不在の状況で使徒が第3新東京市を襲った場合は、緊急移動の訓練も出来ると言う腹積もりでもあった。

 今までの使徒の侵攻速度から着上陸から第3新東京市までの到達時間を算出した所、船団(TF-7.1)からCMV-22Nを最大速度で飛ばせば十分に間に合う結果が出て居たのだから。

 

「豪華なお船で太平洋をクルージングよ」

 

 誠に以って呑気であった。

 

 

 

 葛城ミサトの言う豪華なお船、第71任務部隊(TF-7.1)の旗艦であり目的地でもある拡大ニミッツ級大型原子力空母のオーバーザレインボー。

 その艦上で1人の少女が挑発的な表情で空を見上げていた。

 赤い髪に青い瞳。

 整った顔立ちが特徴的なこの少女こそが、第2の適格者(2nd チルドレン)アスカであった。

 

「早く来なさいよサードチルドレン、NERV本部の秘密兵器。どっちがエースとして相応しいのか白黒つけてやるんだから」

 

 黄色いワンピースを着て自分の魅力と言うモノを十分に計算したオシャレをしているのだが、仁王立ちと言う辺りが色々と台無しであった。

 軍服や作業着姿の人間が多い空母の甲板上で激しく浮いていた。

 だが、だからこそ格のつけ合い(序列争い)と言う意味では重要であるのだ。

 服1つとっても意味が出る。

 自分は、その場のルールの上に居るのだと主張する道具となるのだから。

 

 

 様々な人間の運命が交差するまであと少し。

 

 

 

 

 

 


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