サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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 葛城ミサトが碇シンジを連れて第3東京市に戻ってくる。

 その一報を聞いた碇ゲンドウは、思いの外にシンジが素直であった事に内心で驚いていた。

 赤いインクで描かれたいかん(行かぬ)の文字、そこに強い意思が込められていた様に感じられたから、ある意味で当然だった。

 所詮は14歳の子どもであり、子どもの反抗、文字通りの児戯かと納得していた。

 

 報告を告げてきた灰色の受話器を戻した碇ゲンドウは、正面のモニターを確認する。

 巨大な20m四方はありそうな大画面。

 そこにはNERV本部の置かれた第3新東京市とその周辺300㎞の地形情報が表示されている。

 ここはNERVの中枢部、NERV本部第1発令所であった。

 要塞都市第3新東京市の全システムを統括する場所でもある。

 その第1指揮区画に碇ゲンドウは居るのだ。

 

「碇?」

 

「何でもない。それよりも ―― 」

 

 重要な事があった。

 日本列島の東南東で哨戒任務中であった国連統合軍の駆逐艦もがみ(UN-JF DD MOGAMI)が発見した未確認海中物体(Unknown)だ。

 水中を100kn近い速度で一直線に日本の東海地方を目指して泳いでいる。

 無論、潜水艦などでは無い。

 発見した資料に添付されていた音響情報は、この対象が流麗な潜水艦とは違う複雑な構造をしている事を教えている。

 そもそも、100knを超える水中速力を出せる乗り物を人類は生み出せていないのだから。

 

 詳細情報が得られぬ為、未確認という文字と一緒にオレンジ色に表示されている水中目標。

 正体は1つだろう。

 

「使徒か」

 

 誰もが口にしない推測を簡単に言い放ったのは、副官よろしく碇ゲンドウの後ろに立っているNERV副司令官冬月コウゾウだった。

 この場に居る誰よりも年かさであったが、伸びきった背筋に隙は勿論、老いすらも浮かんではいない。

 そんな冬月コウゾウの言葉に、第1指揮区画に詰めていたNERVスタッフたちは思わずざわめいていた。

 使徒(ANGEL)

 NERVが立ち向かうべき人類の脅威、或いは試練。

 その事は、NERVに所属する際に誰へもしつこく教育されている。

 だから戦う事への忌避は誰も持っていない。

 只、それが今日であったと言う事には驚きと緊張が隠せないだけであった。

 生唾を飲む者、身震い ―― 武者震いをする者。

 男女を問わずそれぞれに反応していた。

 

「恐らくはな。後は人類補完委員会の決断次第だ」

 

「そしてUN軍(国連統合軍)の活躍次第か」

 

 揶揄する様に言う冬月コウゾウ。

 その細められた視線が見るのは第1指揮区画のすぐ傍、予備の第2指揮区画を占拠している蒼い軍服(ブルー・ドレス)の集団だった。

 国連統合軍、その5つの管区軍の1つであり日本列島を中心とした領域を守護する極東軍(Far East-Aemy)から派遣されてきた連絡官であった。

 目的は、NERVと国連統合軍との密な連携の為である。

 

 日本国自衛隊を母体とした極東軍は、施設その他が自衛隊時代のモノを踏襲している。

 この為、太平洋方面への警戒と作戦指揮を預かる府中作戦指揮所があり、極東軍の全戦力を統括している。

 その府中作戦指揮所との橋渡しが主任務であった。

 

「我々の出番が無いことを祈りたいが………難しいだろうな」

 

「ああ、通常兵器が有効であるならば南極の悲劇は阻止出来ていただろうからな」

 

 此方も準備を進めつつ、お手並み拝見。

 碇ゲンドウの言葉に対応した訳では無いが、国連統合軍の攻撃が開始される。

 重魚雷、対潜N²爆雷その他、大盤振る舞いだ。

 

 無駄と言う言葉を口にのみ込み、碇ゲンドウは総司令官としての命令を発する。

 

「NERV総員へ下命。エヴァンゲリオンの出撃準備の確認、要塞部も全機能の確認を実施せよ」

 

 キビキビと動き出すNERVスタッフ。

 だが、恐る恐ると言った表情で技術開発部技術局の若手技術者、伊吹マヤ少尉が声を上げた。

 

「総司令官、意見具申致します! 現在00(エヴァンゲリオン零号機)の修復は上を見ても35%程度にしか到達していません。又、パイロットも医務局からまだ2週間は安静を要求されています、これでは__ 」

 

「慌てるな。問題は無い。実戦には初号機を当てる。パイロットは予備が届く」

 

01(エヴァンゲリオン初号機)。それに予備、ですか?」

 

「そうだ。だから技術部は気にせず戦闘準備を進めたまえ」

 

 技術局を統括する赤木リツコには伝えていたのだが、急場の事で伝え忘れたか、それとも伊吹マヤが覚えていなかったか。

 だが、どちらにせよ碇ゲンドウにはその点を指摘する積りは無かった。

 NERVの初戦であり、特に新兵が慌ててしまうのは世の常であるからだ。

 だが、認識を誤ったにせよ、自らの職掌に於いて問題ありと思えば意見具申が出来た。

 その点に於いて伊吹マヤは良い人材であると評価するのであった。

 尤も、片頬も動かさぬその表情から、その内面を余人が理解する事は無かったが。

 

 

 

 

 

「派手にやってるわね………」

 

 そうつぶやいたのは葛城ミサトであった。

 その身は碇シンジと共にUH-1の機内にある。

 戦闘を避け、だが最速で第3新東京市の郊外ヘリ拠点に向かう為、地を這う様な高度を、頭がイカレているのかと思う速度で飛ぶ。

 所謂匍匐飛行(Nap-of-the-Earth)だ。

 遊園地の絶叫マシンなど子供騙しだと言わんばかりの乱暴な飛行(Air Combat Manoeuvring)だ。

 

 手段を問わぬから最速で、とパイロットに要請(オーダー)したのは葛城ミサトであったが、離陸して10分で自らの前言を激しく後悔していた。

 縦に横にと激しく暴れる機体は、さながら悍馬であった。

 尤も、女だてらに空挺徽章まで取った女傑、葛城ミサトの鍛えられた三半規管は、更に10分後には、周囲を確認する余裕を与えて居たが。

 閉められたスライドドアに張り付いて、窓越しに外を見る。

 体が飛ばない様にとキャビン内の手すりに掴まってまで外を確認し続けるのは戦術作戦部作戦局第一課課長と言う職務への責任感、そして使()()()()()()()()()()あればこそであった。

 空を飛び交うミサイル。

 そして、光学兵器の閃光。

 使徒襲来との一大事は、乗り換えの厚木基地で聞いている。

 だからこそ、自らの目で見たかったのだ。

 父親の仇であり、自らの生きがいとも言える怨敵、使徒の姿を。

 とは言え見る事は叶っていない。

 

「上手すぎて見えないわね」

 

 機体は稜線だのビルだのを縫う様に飛び続けている。

 ヘリパイロットの技量が高い為、機体を使徒の視界 ―― 射界に1秒と入れさせなかったのだ。

 脆弱なヘリが自身を守る為には慎重さこそが肝要、そう意識しているパイロットの技量の現れであった。

 安全である事は葛城ミサトにとっても重要である。

 だがそれでも少しだけ不満の色が混じった声を漏らしていた。

 独り言。

 だがそれに、パイロットは忙しく動かす四肢とは違う、落ち着いた(クールな)声で応えた。

 或いは、釘を刺す様に。

 使徒を視認したい、偵察しなければならぬと言い出さない様に。

 

『見えない方が良いですよ。Rレスチョッパー(VTOL攻撃機/YAGR-3B)が結構落とされてます』

 

 インカムを確認すると、スイッチが入っていた。

 独り事が聞かれた事に恥ずかしさを覚えつつ、葛城ミサトは開き直って会話を転がす。

 

「レーザー? ビーム?」

 

『さぁそこまでは。どっちにせよ、当たるとヤヴァイ代物ですよ、中佐?』

 

「そっ、じゃ安全大事でたのむわ」

 

『アイアイ、中佐。後5分は耐えて下さいよ』

 

「了解、機長(キャプテン)。貴方を信じるわ」

 

 そう言って、今度はキチンとインカムのスイッチを切る。

 円熟の域に達しているヘリパイロットの技量を称えつつ、一目で良いから使徒を見たかったという不満も抱えている。

 それが葛城ミサト。

 自身でも整理しきれぬ複雑(アンビバレント)な内心、それを外に出さぬ様に注意しつつ機内に視線を戻した。

 大事な荷物を見る。

 シンジだ。

 サイズの合わない大人向けのヘルメットを被り、必死になって手すりを掴んでいる。

 顔色は青い。

 だが、葛城ミサトはその姿を評価する。

 歯を食いしばって一言一句たりとも悲鳴を上げず、それどころか顔には恐怖の色を浮かべて居ないのだから。

 なかなかどうして、肝が据わっていると思うのも当然であった。

 

「大丈夫、シンジ君!」

 

よか(問題ない)!」

 

 葛城ミサトがローターの風きり音に負けぬ様に、怒鳴る様に聞けば、シンジも怒鳴る様に応じた。

 その優し気な風貌に相応しい変声期前の柔らかな声質、それを全く台無しにする様な言い方(方言)でシンジは言っていた。

 

 

 

 

 

 国連統合軍による防衛戦闘は、完全な徒労と言う形で終わった。

 既に洋上の時点で大威力兵器 ―― N²兵器を躊躇なく投入し、地上に上がれば標的が見えやすいとばかりに本来は拠点攻撃用の高額な極超音速弾(Hypersonic Speed Missile)までも投入した。

 その全てが、効果を発揮しなかった。

 地形を変える程の、地雷へと改造した超威力N²爆弾によって侵攻の足を止める事には成功したが、外から観測できるレベルでの自己修復を開始しており、倒したなどとはとても言えたものでは無い結果となった。

 

 

「碇総司令官、人類補完委員会と日本政府が合意しました。現時刻をもってA-18条項が発令されます。NERVへの使徒対応の為の非常権限の譲渡状です。確認とサインお願いします」

 

 連絡官が敬礼を行い、事前に用意されていた書類にサインをして碇ゲンドウに手渡す。

 受け取ったバインダーで碇ゲンドウも書類の内容と日時とを確認し、サインする。

 コレで法的にはNERVは使徒迎撃に関するフリーハンドを得る事となる。

 

「ご苦労」

 

 武官ではないので、答礼として右手のひらを左胸にあてる。

 解いて握手をする。

 

「極東軍の献身に感謝する」

 

「総司令官のお言葉、前線の兵も喜ぶでしょう」

 

 

 

 自らの配置場所に戻った国連統合軍連絡官の後姿を見ながら、冬月コウゾウは独り言のように碇ゲンドウに囁く。

 

「これからが始まりだな」

 

「ああ」

 

「勝てるのか?」

 

「その為のNERVだ」

 

 碇ゲンドウは決意を込めて嘯く。

 使徒に打ち勝つ。

 その為のNERV。

 そして、その先にあるI計画(人類補完計画)の為、こんな所で躓く訳にはいかないのだから。

 

「碇総司令官! 葛城中佐及び搭乗員候補生(Candidate Children)が第2ゲージに到着したとの事です」

 

「判った。冬月、ここは任せた」

 

「ああ。此方は老骨に任せておけ。それよりも息子の顔を見てこい。7年ぶりか?」

 

「いや、9年ぶりだよ___ 」

 

 捨てたと言われても間違ってはいない別離の時間。

 妻であった碇ユイを失ってからの日々、ただもう一度会う為だけに生きてきた。

 その為に捨てた全て、その中にシンジは居たのだから。

 

「そうか、なら1発は殴られて来い」

 

「アレにそんな気概があるのならばな」

 

 笑う様に、小さく口元を歪めた碇ゲンドウ。

 シンジと言う少年は内向的であり、自罰的な傾向がある。

 それはまだNERVが成立する前、GEHIRN時代にエヴァンゲリオンパイロットの候補生として選定した際に、マルドゥック機関を通して行った調査での評価だった。

 それから随分と時間が経ってはいるが、その性分は変わりはしないだろう。

 そう甘く見ていた。

 

 

 

 

 

 碇シンジは腹を立てていた。

 顔も覚えて居なかった父親からの、来いと言う訳の分からない手紙。

 今更に親子の縁にでも思いを馳せたのか、それとも添付されていた艶姿めいた写真の女性を後妻にでもする積りで紹介しようと言うのか。

 何も判らぬ手紙。

 だからいかん(バカ抜かせ)と明確に書いて突っ返した。

 そこで話は終わった筈だった。

 シンジと碇ゲンドウの道は交わらない、そういう決意だった。

 

 それが国連と日本政府による召喚状なるもので、こんな東の外れまで連れて来られるハメになった。

 気に入る筈が無かった。

 

 シンジは葛城ミサトに連れられて第3新東京市に来るまでの間、胸の内で常に呪詛を吐き続けていた。

 父親への、そして葛城ミサトへの、だ。

 迎えに来たと自称した葛城ミサトは、偉そうな態度が気に入らなかった。

 美人だし、あんな痴女っぽい写真を送りつけて来たような人間が、今更に才女を気取られても意味が判らない。

 小父さんも小母さんも拒否しようと、抵抗してくれたけど、それを偉そうに撥ねつけた態度なんてムカつくの一言だ。

 目の前にいる分、シンジは葛城ミサトへの呪詛を重ねていた。

 

 そんなシンジの内心を想像する事も出来ぬまま、葛城ミサトはシンジを指示されたエヴァンゲリオン初号機のもとへと誘う。

 迷う。

 迷ったので信頼する同僚、赤木リツコに泣きついて迎えに来てもらう事となる。

 迎えに来て貰う為に、ここで待機だと言う葛城ミサト。

 

「ゴミンね、チョッチまだ良く分からなくて」

 

ほぅな(そうですか)

 

 愛想笑いの1つでも浮かべる気にもなれず、シンジは渡されたNERVのパンフレットを見る。

 ようこそNERVへ、と大きく書かれた明るい雰囲気のパンフレットだ。

 人類を守る為の組織だとか書かれている。

 興味が出ない。

 文字を追うだけの時間つぶしだ。

 開いて2ページ目に、総司令官と冠された碇ゲンドウの写真がある。

 シンジには悪い冗談にしか見えなかった。

 葛城ミサトはNERVを、秘密機関とか言う大上段な表現で説明した。

 その秘密機関とやらが、構成員の顔写真を出してどうするんだ? と呆れにも似た感情を浮かべつつ、パンフレットの文字を読んでいく。

 何と言うか、全てが馬鹿らしくなって、素振りの1つでもやりたい等と思った頃に、迎えが来た。

 赤木リツコだ。

 

「ミサト、こんな所で道草を食ってるんじゃないわよ」

 

「ゴミン!」

 

 赤木リツコは競泳用のようなデザインの水着を着た濡れぼそった体に、白衣を引っ掛けていた。

 もう少しシンジが成長していれば(性を知っていれば)、魅力的だと感じたであろう煽情的な格好だ。

 だが残念。

 今のシンジは、そんな感情は浮かばなかった。

 気軽い会話をする2人をしり目に、シンジは、このNERVってアレな女性しか居ないのかと呆れるだけであった。

 

 一通り、葛城ミサトを怒った赤木リツコは、視線を動かす。

 シンジを見る。

 その目力を真っ向から受け止めて、目を細めて睨み返すシンジ。

 舐められたら駄目、()()()()()()()()()()()

 

「で、この子が()()()()()()()()?」

 

「そ、碇シンジ君よ」

 

 聞いた事も無い用語、サードチルドレンと言う呼称に、シンジはますますもって自分が面倒くさい事になっているのだろうと理解した。

 訳が判らないが、取り合えずろくでもない事だけは理解した。

 だから、腹を決めた。

 NERVと言う組織に抵抗は出来ないのだろう。

 国だの国連だのを動かす連中相手に、1個人が出来る事など限られているのだから。

 だから1つ、腹を決めた。

 取り合えず元凶である碇ゲンドウを殴る、と。

 全力で。

 全身全霊を以て拳を顔面に叩き込んでやる、と。

 

「初めましてシンジ君、赤木リツコよ」

 

ほうな(そうですか)おいは(私は)碇シンジじゃっと」

 

 愛想のない返事を返したシンジ。

 何の為に連行めいて連れて来られたのかも判らぬのだ。

 友好的になろうと言う気が湧く筈も無かった。

 

 葛城ミサトを見る赤木リツコ。

 肩をすくめるジェスチャーを見て、何かを察する。

 

「個性的なのね」

 

 貴方も相当でしょうに、そんな皮肉めいた言葉を返さない程度にはシンジも大人ではあった。

 

 

 

 親子の対面まであと、少し。

 

 

 

 

 

 




あるぇ~
ペースがおせぇ___

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