サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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 勝利者の満足感を満面に浮かべた惣流アスカ・ラングレー。

 高所的配慮で妥協しただけであると平素を気取る碇シンジ。

 空母の食堂で歓談を続ける事となった。

 葛城ミサトは、エヴァンゲリオン弐号機の運用準備の為に席を外しており、今残っている大人は加持リョウジだけであった。

 その加持リョウジは気持ち、距離を取ってシンジとアスカの会話に耳を傾けている。

 同世代相手に優位に立ち切れないと言う珍しいアスカと、何よりもNERV本部の秘密兵器であるシンジの情報を欲したのだ。

 人間、感情的になれば本音が出やすい。

 そこを狙っていたのだ。

 情報部に所属する人間らしい、職業的態度(汚い大人仕草)であった。

 

「へぇー 第3、第4使徒との闘いが評価されて中尉待遇官へと昇進したって訳ね」

 

「それで何が変わったかなんて判らないけどね」

 

「ミサトから説明は受けなかったの? NERVが非軍事経験者に配ってる待遇官は、その階級と同じだけの待遇が与えられるわ。後は敬意」

 

「ごめん、良く判らないよ」

 

 待遇で一番わかりやすいのは給与である。

 だが、シンジの場合はエヴァンゲリオン搭乗手当と使徒戦毎の危険手当が大きいので、基礎給与な棒給が少尉(少尉待遇官)から中尉(中尉待遇官)に上昇しても注視する程の額では無かったと言うのが大きいかった。

 しかも、子どもが大金を与えられて身を持ち崩しては良くないと言う良識的人間の配慮から、その給与の大多数は定期貯金に回っているのだ。

 これで、実感しろと言われても、それは無理と言うものであった。

 今のシンジは、普通の中学生に比べて多少は金回りが良いと言う程度でしか無かった。

 

「………戦闘訓練主体で育成されてたって事? 良いわよ、ならそこら辺は()()であるワタシが教育してあげる」

 

「お手柔らかに頼むよ」

 

 

 一見してにこやかに会話している2人。

 だが、その2人の内心が外見通りでは無いだろうと、鈴原トウジは当りをつけていた。

 出会ったばかりのアスカは判らないが、シンジの表情であれば別だ。

 薄っぺらい笑顔を貼り付けているのが良く判る。

 アレな教師や、絡んでくるソレな連中相手に張り付けている、優等生の仮面だ。

 常日頃のシンジは、言葉(鹿児島弁)こそ難解であったが喜怒哀楽がもう少しハッキリと出る側の人間であるのだから、実に判りやすい。

 そも、その言葉も標準語となっている為、益々もって鋭利な印象を与えて来るのだ。

 

 鈴原トウジは先ほど、アスカが席を外した(花を摘みに行った)際、シンジに尋ねていた。

 何故、方言を使っていたのかと。

 アスカとの会話で使っている標準語は、美事であり、イントネーションは国営放送(NHK)アナウンサーのソレに匹敵していた。

 なのに何故、と。

 それに対するシンジの回答は簡単、『舐められんごよ(舐められない様に)』だった。

 シンジは鹿児島に移って直ぐの頃、綺麗すぎる声質故に笑われたりしていたのだ。

 幼い子供同士故の残酷さから、いじられたりもした。

 ()()()()

 最初は泣いていたシンジに、預けられた先の家(碇家の本家筋)の養父が教えたのだ。

 舐められない様に戦わねばならぬ、と。

 その一環で、2000年(セカンドインパクト)以降に復活した薩摩の地方教育 ―― 郷中教育に学校が終わると放り込まれたのだ。

 心身を鍛える、その中に薬丸自顕流の鍛錬も含まれていた。

 温かくも厳しい養父の指導に、シンジは薬丸自顕流にのめり込んだのだ。

 その際に、併せて方言を意識して使う様にしたのだと言った。

 だからシンジは、自分の言葉遣い(さつまことば)は汚いと自嘲していた。

 耳に入る言葉で学んだ結果、鹿児島の地域性に根付いた様々な鹿児島弁とは少し違う、入り混じった(ちゃんぽん)な言葉になっているのだ、と。

 

『センセも大変やのう』

 

慣れもしたが(もう慣れたよ)

 

 非薩摩人である鈴原トウジにとって、シンジの言葉遣い(さつまことば)が汚いかどうかなんて分かりはしなかった。

 だが、標準語で話すよりも柔らかく聞こえたのだった。

 

 そして今。

 鈴原トウジは、せめて別のテーブルで、会話の聞こえない場所でやってくれないものかと、胃の痛みを感じていた。

 

 にこやかに、だがその実として鍔迫り合いめいた会話をしているシンジとアスカ。

 そこにNERVの制服を着た人間がやってくる。

 エヴァンゲリオン弐号機の輸送に伴って、本第1特別輸送任務部隊(Task Forth-7.1)に同乗していた連絡官だ。

 エヴァンゲリオン弐号機の換装作業が終盤を迎えつつあるので、その専属パイロットであるアスカに、エヴァンゲリオン輸送/作戦支援艦オセローまで来て欲しいとの事であった。

 

「ヘリを用意してありますので、甲板まで来てください」

 

「了解、そうね………」

 

 そこでフト、面白い事に気付いたとばかりに視線を動かす。

 無論、見るのはシンジだ。

 

「サードチルドレン! 付き合いなさい」

 

「なに、() () () () さん?」

 

 命令めいた言葉を受けたシンジは、ゆっくりと揶揄する様な(2番目の人と云う)口調で返事をする。

 微笑(アルカイックスマイル)を崩さないシンジ。

 対するアスカも、肉食獣めいた笑いを浮かべる。

 

「面白いイントネーションね?」

 

「変だった? ごめんね、僕は英語は得意(ネイティブ)じゃないから」

 

「………おーけぇ、アンタとは一度キッチリと白黒つける必要がありそうね」

 

「フフフフフフ」

 

「フフフフフフ」

 

 実は凄く気が合うのではないか、見る人にそんな感想を抱かせる様に笑いながら睨み合う2人。

 少なくとも加持リョウジはそう感じた。

 だが、そうは思わない鈴原トウジは感嘆していた。

 

「アリャ、アカン」

 

 基本的に善良であるし、穏やかな性格のシンジであるが、負けん気はとても強い。

 そこらへん、殴り合いまでした鈴原はよく理解していた。

 その上で、使徒との闘いを見ていると、自分からは絶対に折れないだろう事も理解していた。

 そして同様に、この短い時間のやり取りで、アスカと言う少女が折れないであろう事も直感していた。

 

「センセも大変やのー」

 

 それは祈りだった。

 自分が巻き込まれませんようにと言う願いだった。

 だが、そうは思わない相田ケンスケは憤慨していた。

 

「何がだよ! あんな美少女と一緒に居られる、会話できるんだぞ!! 男なら涙を流して喜ぶべきだっ!!!」

 

 血の涙を流しそうな勢いで力説する。

 先ほど、アスカが着る制服(ドレス)飾緒等の(ミリタリーな)話題で話しかけ、けんもほろろどころか完全無視を決められていたのだ。

 当然だろう。

 甲板上の一幕で、偶然とはいえアスカのパンツを撮影してしまう、その上、その事に興奮してしまっていたのだ。

 アスカから相手にされない(HENTAI扱いされる)のも当然と言うものだ。

 とは言え相田ケンスケ当人は、その事に気付かずにシンジ相手に嫉妬の焔を燃え盛らせていた。

 

「くそ! 予備のカメラを持ってきてないのが悔やまれるっ!!」

 

「コッチもアカンな」

 

 あきらめて、手元のマフィンにかぶりついた。

 空母側(国連軍)からの案内員が、先ほどに飲み物と一緒に取ってきてくれたのだ。

 食堂は、栄養補給用にと清涼飲料水とお菓子が自由に飲み食べ放題となっていた。

 尤も、そのマフィンはクソ甘い上にぼそぼそであったが。

 実にアメリカな仕様であった。

 

「食い物もアカンか………」

 

 救いはないんかい。

 そんなことを呟いていた。

 

 

 

 

 

 遠隔地へのエヴァンゲリオンの輸送と運用とを支援する目的で建造された特務艦オセローは、全長300m近い大型タンカーを改造した艦であった。

 艦橋を船体中央部に設け、その前方にエヴァンゲリオン2機搭載できる特殊ケイジが用意されている。

 船体後方はヘリ用の飛行甲板と格納庫、そしてエヴァンゲリオン用の武装その他が搭載されている。

 将来的には動力炉(原子炉なり)を搭載し、運用するエヴァンゲリオンへの電力供給も予定されていた。

 今はエヴァンゲリオン弐号機だけを搭載し、予備部品や試作装備などを満載している。

 

 アスカはシンジを連れてエヴァンゲリオン弐号機の元へと向かう。

 巨大なクレーンがあり、可動式の特殊繊維布のシャッターに閉ざされたエヴァンゲリオン格納デッキ(特殊ケイジ)、その01と大きく書かれた扉を抜けて入った。

 臭いが変わる。

 海の臭いとは違う、濃厚なL.C.L()の臭い。

 慣れないなぁ等と思いながら周りを見るシンジ。

 赤味がかったL.C.Lに浸かっているエヴァンゲリオン弐号機の姿が見える。

 L.C.Lの色に負けぬ、深紅の機体だ。

 

赤かとな、弐号機ち(赤いんだ、弐号機って)

 

 思わず漏らした感嘆であったが、アスカの耳がそれを拾う。

 

irgendetwas(んっ)!」

 

 鼻を鳴らし、不快気な一瞥。

 判らぬドイツ語であっても、その意味を理解出来ないシンジではない。

 目は口程に物を言うのだから。

 苦笑と共に言い直す。

 

「赤いんだね、弐号機って」

 

「そうよ、コレがアタシのエヴァンゲリオン! 正規量産型、本物のエヴァンゲリオン、エヴァンゲリオン弐号機よ!!」

 

 胸を張って(ドヤァ顔を)みせるアスカ。

 シンジは素直に拍手していた。

 この気の強そうな同僚の、この自負に関してはシンジは敬意をもって対応するに値すると想っていた。

 少なくとも、握った手には修練の跡が残っていたのだから。

 そして姿勢と歩き方。

 体の使い方を叩き込まれた人間の所作 ―― 薬丸自顕流の先輩(達人)たちのソレに近いのだ。

 後は出会って早々の()()

 シンジは、自分がそれなりに鍛えていると言う自負がある。

 その自分と互角に動いた、反応して見せたのだ。

 アスカと言う女の子は、言うだけの事はあると認めるに足るものであった。

 

 格納庫(ケイジ)を通って、隣接しているエヴァンゲリオン管制室へと入る。

 と、入って早々に先を行くアスカの足が止まった。

 余りに急であったので、ぶつかりそうになるシンジ。

 ナニ、と見る。

 周りも見る。

 目よりも先に、鼻で判った。

 それは、臭いだとシンジは表現するモノ。

 緊張感。

 第3新東京市に来て以降に良く嗅いだ臭い、戦いを前にした人々から放たれるアドレナリンの濃厚な臭いだ。

 

「っ!?」

 

 実戦と言うモノを越えて居なかったアスカは、味わう事の無かったこの気配に圧倒されていたのだ。

 そのアスカを再動させたのは葛城ミサトだ。

 

「アスカ、どうやら出番が来そうよ」

 

 管制室の中心に立った葛城ミサトは、鋼の意思を瞳に浮かべて剛毅に笑っていた。

 壁のモニターには使徒検知(BloodType-BLUE)の文字が流れている。

 それを見たアスカは、獣性に口元を歪める。

 同時に小さく震える。

 臆病、或いは恐れでは無い。

 武者震いだ。

 

「ハン! アタシのデビュー戦のチャンスって事ね」

 

「そういう事。派手なのは好きでしょ?」

 

「大好きよ! で、コッチに向かってくるの?」

 

「ええ。接触まで約60(ロクマル)1032(ヒトマルサンフタ)って頃ね」

 

 水中を時速100㎞近い速度で突進してくるのだと言う。

 突起が多いのか、轟々と音を響かせながら海を砕くように迫ってきている。

 使徒も、何とも派手な事であった。

 

「換装の方は?」

 

「もっち、海洋戦闘の準備も終わっているわ。だから急いで支度をして」

 

「了解!」

 

 更衣室へと駆けだしていくアスカ。

 その背を見守る事無く、葛城ミサトは凛として命令を発する。

 

「総員、第1種戦闘配置! オーバーザレインボーへ状況報告。NERV本部とのリンクは?」

 

「現在、リンクは正常接続中。MAGIによる支援、問題ありません」

 

「結構! 本部の作戦第1課、日向中尉を呼び出しておいて」

 

「はっ!!」

 

 

 

 

 

 オセローからの報告に、NERV本部は揺れた。

 急いで外洋戦闘で出来る支援の検討を開始する。

 時間は無い、大急ぎだ。

 その様とは別に、NERV総司令官執務室で碇ゲンドウはSEELEに緊急召喚されていた。

 使徒の詳細を記した裏死海文書、そこに想定されていない使徒によるエヴァンゲリオンへの強襲である。

 SEELEのシナリオ(人類補完計画)は、裏死海文書を前提に組み立てられている。

 それが否定される(ひっくり変える)かもしれない事態なのだ。

 慌てないと言うのは無理な話であった。

 

『状況は正しいのか、碇』

 

「はい。現場で収集した情報は、全て、水中の未確認物体が使徒である事を示しています」

 

『バカな、使徒がリリスでは無くエヴァンゲリオンを狙うと言うのか!?』

 

『左様、信じられぬ事態だ』

 

スケジュール(裏死海文書)からすれば、次は魚を司る天使と言う。そうであれば水中の使徒がソレである事に疑いは無い』

 

『碇、君はこの事態を想定していたのかね? S号装備と初号機パイロットの派遣、聊か都合が良すぎないか!!』

 

「使徒はターミナルドグマ(NERV本部最下層秘匿区画)を目指すと言う想定で動いております。葛城中佐とS号装備は洋上での試験運用です。それが今になったのは予算の都合です」

 

 世知辛い話ではあったが事実であった。

 葛城ミサトがNERV本部を離れる余裕もだが、そもそも、NERV本部で開発製造されたS号装備を輸送する為のコストが重要視されて、今となったのだ。

 先の第5使徒との闘いによる余波、とも言えた。

 碇ゲンドウからすれば建前であったが、それでも完全無欠に事実であった。

 

『では初号機パイロット、君の息子の件はどう言い訳する積りだ!』

 

『左様。何故、対使徒に於ける最大のカード(鬼札)とも言える初号機パイロットを派遣したのかね!?』

 

「………」

 

 シンジを派遣した理由。

 それは、アスカへの信頼性をゲンドウが問題視した結果であった。

 正確に言うならば()()()()()()である。

 SEELEのおひざ元、NERVドイツ支部から来るエヴァンゲリオン弐号機の専属パイロットであるのだ。

 碇ゲンドウが警戒するのも当然の話であった。

 だが、流石にそれは言えない。

 

 故に、凄く渋い顔で事前に用意していた嘘(カバーストーリー)を口にする。

 シンジに対するサービスである、と。

 山間での生活の息抜きに、友人ともども遊び(大きなお船でクルージング)に行かせたのだと。

 

『あ、うん』

 

『そうか』

 

『家族サービスは大事だな』

 

『大事だ。関係性を正しく保持せねば()()()()()の危険は高まるからな』

 

『左様』

 

『………碇、今回の件、公私混同ではあるが、それが功を奏したと言う事で問題には問わぬ』

 

 それまでの慌てっぷりを忘れた様に、揶揄を始めるSEELE一同。

 ある意味で、現実逃避めいていた。

 だが見事に碇ゲンドウの神経をささくれ立たせた。

 

「………」

 

 非常に生温かい目、そして激励に、碇ゲンドウは机を蹴飛ばしたい衝動に必死でこらえるのだった。

 冬月コウゾウが決めた、この話。

 効果は抜群であった。

 別の効果として、碇ゲンドウの神経にも痛打を与えはしたが。

 

 何とは無く、話が止まったのでと各人は水分を摂取し、口元を潤わせてから話題を再開させた。

 

『兎に角だ。問題は何故、使徒がエヴァンゲリオンを積極的に狙うと言うのか、だ』

 

『まて、もしや__ 』

 

『もしや?』

 

『エヴァンゲリオン弐号機は、その素体はリリスでは無くアダムの体組織がベースとなっている。もしやそこに惹かれたか』

 

『その可能性は否定できぬか。元より使徒はアダムを目指すものだと言う__ 』

 

『ではエヴァンゲリオンの整備計画が__ 』

 

『しかし__ 』

 

『__ 』

 

『__ 』

 

 再び喧々諤々と大騒動になっていく。

 常日頃は自分を揶揄ってくる人間たちが慌てている様は、碇ゲンドウにすこぶる負の満足を与えた。

 先ほどの揶揄にも、寛大な慈悲の心を発揮できそうになる。

 正しく愉快。

 いっそここで、解答として艦隊(第1特別輸送任務部隊)A号封印体(Solidseal-α) ―― ベークライトで固めたアダムがいる事を教えてやりたくなる位に、愉悦であった。

 その気分を表に出さぬ為、両手を合わせ俯いている。

 非常事態を前に、物事を考えている風を装っているのだ。

 だが、余裕をもっていられたのはそこまでだった。

 

 電子音、碇ゲンドウの座席に付けられていた緊急通話システムが存在感を主張した。

 

「失礼します」

 

 怪訝な顔をして受話器を取る。

 何事があったか、エヴァンゲリオン弐号機が勝利したと言う報告には早すぎる。

 予想されていた戦闘時間まではまだ30分近くある。

 使徒が行方を眩ませたのであれば、この場に連絡をしてくる事は無い。

 何があったのか。

 あったのだ。

 予想外の事が。

 

『この非常時に会議を邪魔する程の報告だ。碇、何があったのかね』

 

 混迷する会議から一歩引いていたSEELEの議長、キール・ローレンツが重々しく尋ねた。

 対する碇ゲンドウは焦りを出さぬ為にゆっくりと受話器を置いた。

 

現場(Task Force-7.1)との通信が途絶したとの事です」

 

『何だとっ!?』

 

『バカなっ!』

 

 怒声が広がった。

 

 

 

 

 

 手早く進められていくエヴァンゲリオン弐号機の出撃準備。

 格納庫(ケイジ)からL.C.Lを抜いて、

 寝そべって固定されていた状態から、固定/安全装置を解除して起立させる。

 S型装備の装着 ―― 機体各部に取り付けられていた水中での姿勢制御用のスラスター(スクリューポッド)群が外部指示(Test Mode)によって試運転を繰り返す。

 S型装備は緊急的に用意されたユニットである為、エヴァンゲリオン弐号機向けの塗装は行われておらず、基本色の白色のままである。

 

 差し色として赤に白が加わる様は美しいな、等とシンジは格納庫の脇に設けられたキャットウォークにて呆っとしていた。

 いざ鎌倉(戦闘が近い)となって入った気合が雲散霧消していた。

 機体の無いパイロットに出来る事など何もない、と言う事に気付いての事だった。

 であれば、邪魔しない場所で見学と応援をしているのが一番となるのだ。

 そこに少しだけ面白みを感じてはいた。

 今まで当事者であったのが、観客(第3者)となったのだ。

 そこに面白みを感じるシンジは、矢張り神経が太いと言えた。

 エヴァンゲリオン弐号機が使徒に敗れれば、そのままシンジの居るオセローも含めて第1特別輸送任務部隊(Task Force-7.1)が攻撃される可能性が高い。

 命を他人に預ける状況なのだ。

 だが、その事を理解して尚、シンジは面白みを感じていた。

 

 人間、生きていれば何処かで死ぬ。

 死ぬ可能性はあるのだ。

 たまたま、それが今日だったとして何の問題があろうや、と。

 

 そんなシンジの所に駆け寄ってくる人が1人。

 アスカだ。

 深紅のプラグスーツに着替えたアスカが、真剣な顔でやってくる。

 

「サードチルドレン! チョッと来なさい!!」

 

「なに?」

 

 シンジの問いかけ。

 だがアスカは返事をしない。

 大きく2度3度と深呼吸をしている。

 何か決意の居る事を言おうとしているのかと分かる仕草に、シンジは黙って待った。

 

「……悪いけど、アタシと一緒に弐号機に乗って」

 

なんち(何を言ってるの)!?」

 

 

 

 

 

 今、シンジは自分のプラグスーツを着込んで、アスカと共にエヴァンゲリオン弐号機のエントリープラグにあった。

 

『EVA02、コンタクト(神経接続)開始まで10分。繰り返すカウント600。各位、最終チェック実施せよ』

 

 アナウンスされる戦闘準備。

 それを聞きながら、シンジはエントリープラグの座席(エクステリア)に特設されたグリップを握りなおした。

 既にL.C.Lが充填されており、中性浮力に調整されている為、落ちたり浮いたりする心配は無い。

 何となくの行動だ。

 傍にある、アスカの顔を直視しない為の行動であった。

 改めて見れば、綺麗な女の子なのだ、アスカは。

 蒼い瞳と白い肌に映える、赤みがかった金髪。

 将来は相当な美人になりそうなアスカに、少しばかりシンジが気後れするのも仕方ない話と言えた。

 

「サードチルドレン、駄目ね。この言い方は駄目。ゴメン、碇シンジ、乗ってくれて有難う」

 

 アスカが前を睨みながらシンジに謝罪する。

 否、感謝を口にする。

 

「使徒に勝つ為だから」

 

 そう、シンジがアスカと共にエヴァンゲリオン弐号機に乗る理由は勝つ為であった。

 何故に勝つ為にであるのか。

 それは、今回の使徒が強烈な電波妨害を仕掛けてきているからであった。

 どの様な手段で行っているのか判らぬが、通信衛星を介したNERV本部との通信が完全に遮断されているのだ。

 その上、第1特別輸送任務部隊(Task Force-7.1)間でも通信に妨害が入っていた。

 強烈な電子制圧を受けている状況であったのだ。

 有線状態であ(アンビリカルケーブルが保持されてい)れば話は別だが、外れてしまえば、最悪、エヴァンゲリオン弐号機は孤立運用(スタンドアロン)と成らざる得ない。

 NERV本部の参謀組織(作戦局作戦第1課)とは既に切り離されており、この上で指揮官である葛城ミサトとの通信が途切れる事は大きな問題であった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 エヴァンゲリオン弐号機に乗れる(適格者である)シンジを、助言役として頼んだのだ。

 

 アスカは己がエヴァンゲリオン弐号機の専属パイロットである事に強い自負を抱いている。

 だが同時に、自分が絶対でない事も理解していた。

 実戦での経験を軽視する積りも無かった。

 だから、葛城ミサトの助言(アドヴァイス)を受け、素直に従ったのだ。

 そこには1つ、シンジに対する信用があった。

 NERV本部の秘密兵器だからでは無い。

 握手をした際の手が、信用できる(研鑽を重ねた)人間である事をアスカに教えていたからだ。

 後、単純に気楽に喋れると言うのも大きかった。

 今まで周りに居た適格者(チルドレン)候補生の様に、威圧したら一気に引くような柔い相手では無かったと言うのが、大きかった。

 正面からぶつかったのは面白かった。

 口喧嘩したのも楽しかった。

 だから、()では無く、何とは無しにだが、シンジを競い合う相手(ライヴァル)と認めて居たのだ。

 だからアスカは、無意識ながらも自分の玉座(心の座)に初めて、他人を招いたのだ。

 

「それでもよ。有難う碇シンジ」

 

 アスカとて思春期の子ども(女の子)

 自分の心の動きを全てを理解している訳では無い。

 だが、だからこそ素直な感謝を口にするのだった。

 下手をすれば自分と共に果てる相手なのだから。

 

「いいよ、良いんだ惣流さん。勝ちに行こう」

 

「そうね勝ちに行くわよ」

 

 視線が交差する。

 自然、2人は笑い合った。

 

「もし、勝ったなら。ご褒美をあげるわ」

 

「何?」

 

「アタシの事をアスカって呼ばせて上げる」

 

「………ゴメン、ご褒美の意味が判らない」

 

「何言ってるの! こんな天下の美少女の名前を呼び捨て出来るのよ!! 感涙して土下座するべき事態よ!!!」

 

 そこまで真面目に力強く宣言した後、アスカは吹き出す。

 シンジもつられて笑う。

 笑ってから、澄まして返事をする。

 

「なら惣流さん、僕の事もシンジって呼んでいいよ」

 

「よく言ったわね、このバカシンジ」

 

「なら惣流さんはアホアスカかな」

 

 会話にとげとげしさは無い。

 あったのは、戦い前の緊張を解きほぐす笑いであった。

 

「勝とう、惣流さん」

 

「当然よ!」

 

 

 

 年相応めいたシンジとアスカの会話。

 それを通信機越しに聞いていた葛城ミサトも他のスタッフも、その誰もが、2人の為に出来る全てを尽くそうと思いを固めるのだった。

 と管制官の1人が指を挙げた。

 接続(2次コンタクト)1分前の合図だ。

 指揮官の仮面を被った葛城ミサトは、先ほどの会話を聞いていなかった様に言葉を連ねる。

 

「2人とも、準備は良い?」

 

『何時でも大丈夫よ』

 

よか(問題ありません)

 

「結構! ではエバー弐号機、最終接続行程、開始せよ!」

 

 

 

 

 

『EVA02、Wake-up(起動します)!』

 

 どこかドイツ語めいた訛の号令の響きと共にエヴァンゲリオン弐号機、4つ目の赤い機神が目を覚ます。

 

 

 

 

 

 




2022.02.06 文章修正
2022.04.24 文章修正

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