【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件 作:◆QgkJwfXtqk
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国連特務機関であるNERV。
その中心であるNERV本部の佐官用住居がコンフォート17は、その作りこそは普通よりは上程度のマンションと同じであったが、その警備の厳重さはけた違いであった。
敷地はフェンスで守られ、監視装置が死角無く配置されている。
言うまでもなく重要人物向けの施設であった。
鈴原トウジや洞木ヒカリの様な、
標準的な日本人からすれば、過剰と見える警備。
だがNERVと言う国連の、国連基準とすれば妥当な話であった。
日本ほどに
国連だから、世界の為の組織だから狙われない。
世界の為の組織であればこそ金がある、金があるからこそ狙う。
それが世界標準であったのだ。
世界標準で行われている警備。
だからこそ、相田ケンスケは憧れを感じていた。
日常とは違う世界。
或いは、ミリタリー趣味だからと言う部分もあったが、それ以上に下士官である父親を通して見ていた世界とも別の、築30年の中古住宅に住む事とは違う世界。
何時かは自分もそうなりたいと言う様な、ある種の願望とも言えた。
偉くなりたい、と言う。
それが、より明確な形となるのは碇シンジと惣流アスカ・ラングレーの訓練を見た時であった。
「う、う、裏切りも~ん!」
「まさか今時ペアルック、イヤ~ンな感じ!!」
アンケート書類を渡し、書いてもらった。
回収した。
だがそこで帰るのもナンだからと、シンジ達の休憩を兼ねての雑談をしていた所、話の流れで鈴原トウジたち3人はシンジとアスカの訓練を見学する事になった。
リビングルームに用意された、訓練用の機材。
その目的は
とは言え、その様はさながらダンスめいた。
テンポを取る為に音楽を掛けて、それに合わせて体を動かしていくのだから、そう感じるのも当然かもしれない。
相田ケンスケはその様に、アスカの動きを魅入られた様に見ていた。
躍動する体と飛び散る汗、そして真剣な表情。
言葉も出なかった。
それまで観賞兼商売用等と
それは、鉄槌で殴られた様な衝撃だった。
「綺麗だ………」
魂を持っていかれたかのようにアスカを見ていた。
そんな相田ケンスケ程では無いにせよ、鈴原トウジも洞木ヒカリも感嘆しながら2人の動きを見ていた。
2人の躍動感たるや、ダンスのプロめいてる。
だが同じ動きに見えていて、小さな違いがあった。
感想が異なると言うべきだろうか。
アスカは、しなやかさに力を併せ持った肉食獣めいた動きであった。
シンジは、肉食獣ながらも速度と共に豪壮な力を感じさせる動きだ。
何が、と言語化することは難しいが、それでも似て非なると言う事は判る動きの差があった。
にも拘らず、動きのスケジュールに狂いはない。
一曲終わって、洞木ヒカリには完成していると見えた。
だから素直に感想を述べた。
「恰好良かったわよ、惣流さん!」
拍手と共に洞木ヒカリが述べた素直な感想に流石のアスカも相好を崩す。
だが、賞賛の半分を受けるべきシンジは、少しばかり微妙な顔で壁際の計測機器を見ていた。
表示されている
1秒の壁は抜けていた。
0.5秒まであと少し。
だがシンジは余裕の類を顔に浮かべていなかった。
浮かべられないのだ。
それに気づいたアスカも頷く。
2人の空気の重さに、首をかしげる鈴原トウジ。
運動音痴めいた自身から見て、完璧の域に見えたのだから当然だろう。
「なんや、これは駄目なんか?」
「
鈴原トウジの問いかけに、難しい顔で答えるシンジ。
アスカも同じだ。
テーマ曲に従って、定められた動きであれば出来る様になってきた。
合わせられる様になってきた。
2人の運動センスは、そういう水準に達しつつあった。
だが、足りないのだ。
「使徒の動き、それが予想通りなんてありえないのよ」
髪をかき上げながら憂うアスカ。
後ろ髪はポニーテールめいて纏まられていたが、前髪は何もしていなかったのだ。
纏めた場合の、肌が引き攣る感覚が嫌だからだった。
と、シンジが意識を分ける事無く近くのタオルを取ってアスカに向ける。
アスカも同じように、見る事も無く受け取ってから汗を拭いていく。
互いに相手の事を考え、動きを合わせよう言う葛城ミサトの狙いは上手く出て来ていた。
2人の自然な仕草に、
大人の仕草に見えたからだ。
少なくとも
そして、洞木ヒカリと同様に思春期の自覚を持っていた相田ケンスケは、そこに少しだけ面白く無いモノを感じた。
それが何であるかを自覚する前に、新しい人間が来た。
「あらいらっしゃい」
「葛城さん!」
満面の笑みと共に声を挙げた鈴原トウジを、洞木ヒカリは微妙な目で見た。
飼い主を見た犬の様なだらしない顔をしているのだ。
仕方のない話とも言えた。
常ならば、鈴原トウジと同じように声を挙げていたであろう相田ケンスケは、アスカに気を取られていて反応が乏しかった。
シンジとアスカが顔を寄せて話していた事が気になっていたのだ。
と言うか、ジト目をして葛城ミサトを見ていた。
「アンタの家じゃないでしょうが」
「
「シンジ?」
アスカのジト目の対象にシンジが加わった。
その意味を理解出来ない訳では無いシンジは、空咳を一つして言い直した。
「
標準語、自分がシンジに対してイニシアティブを握っている事を実感するたびに、アスカは満足を覚えていた。
深く頷いてみせる。
笑顔も添える。
良く出来たと
「宜しい__ しかしミサト、面の皮は厚いわよね」
「あの
「家事能力が無いのと一緒よね。加持さんも、何であんなのと付き合ってたんだか。若気の至りって奴?」
「さぁね」
他人様の家で家主めいて強いと言う点でアスカは葛城ミサトと似ている、そんな言葉を賢明なシンジは飲みこんで居た。
鈴原トウジ達が練習の時間に来ることを葛城ミサトが認めた理由は、2人の息抜きであった。
同時に、どうにも最後の調整が上手く行かない2人の
シンジとアスカと言う、訓練を苦にしない努力家が昼夜を問わずに練習したのだ、当然の話と言うべきだろう。
問題は、実際の戦闘を想定した動作であった。
使徒の動きを想定した、ランダムな戦闘動作の方は、最初こそ誤差は1秒を切っているのが、5分10分と続けると、誤差が蓄積するのか常に1秒近い差が出る様になっていく。
シンジもアスカも真剣であるが故に、最後は睨み合いめいた事へとなっていく。
「テンポがオカシイのよ!」
「オカシイのはソッチだろ!?」
怒鳴り合い。
毎度毎度、一通りの戦闘動作を終えての
真剣であるが故に、原因が相手にある様に思えるのだ。
手を抜いていないと言う事は判るが故に、決定的な段階に話は進まないが、そうであるが故に原因が判らず、ストレスを貯め込んでいるのだった。
額を突き合わせる様な姿で睨み合うシンジとアスカに、頭を抱える葛城ミサト。
「あっちゃー」
正に内心の吐露であった。
尚、割と葛城ミサトは2人の気分がほぐれる様にと努力もしていた。
この鈴原トウジらが来るのを認めた事もだが、自分が飼っているペット、温泉ペンギンのペンペンを連れて来てもいた。
だが、それらが功を奏する事はなかった。
「くわっ」
凹む顔をした葛城ミサトを慰める様に、ペンペンは右の羽で撫でた。
その何とも人間臭い仕草に、洞木ヒカリはほっこり笑顔を見せていた。
対して相田ケンスケは真剣な表情をしていた。
「何が原因なんだろう」
上昇志向めいたモノを自覚していたが故に、NERVの有力者である葛城ミサトの前で
だが残念、先に原因に気付いたのは鈴原トウジであった。
「ありゃ?」
鈴原トウジは細かく体を動かすと言う事は得手とは言い難い。
だが、動きを見ると言う点ではそれなりのセンスを持っていた。
だからこそ、何度目かの、シンジとアスカの動作を見ていて気付いたのだ。
「センセに惣流、もしかしてやけど__ 」
それはある意味で2人が積んできた修練の方向性の差であった。
例えるならばアスカはレスリングやフェンシングに於ける攻めであった。
どこまでも食らいついて、相手を潰す動き。
対してシンジは違う。
薬丸自顕流の稽古も相手を叩き斬る為に全力を発揮するが、同時に、打ち込みが終わった際の
言うならば、突き進むアスカに対して余力を残すシンジ。
それが、攻撃の終点に於ける2人の違いに出ていたのだ。
ある意味で誰もが納得する話であった。
「鈴原君、凄いわ」
問題を見つけ出した功労者を、思わずと言った勢いでハグする葛城ミサト。
タハハっと苦笑するシンジとあきれ顔のアスカ。
対して洞木ヒカリは面白く無さげにペンペンを撫でまわす勢いが増していた。
そして相田ケンスケは、少し俯き加減で顔を隠しながら鈴原トウジを睨むのだった。
兎も角、するべき事、修正点が判ってからは話は早かった。
互いに問題点に注意して訓練を再開した。
アスカは少しだけ残身を意識し、シンジは少しだけ前に出る事を意識する。
どちらか一方が修正すると言う事は、互いに、相手の目を見た瞬間に無理無駄無意味と理解していた。
相手が折れる気が無いと言う理解とも言えた。
同時に、相手に無理に折れさせる事も良くないとも考えていた。
そういう程度には、シンジもアスカも相手の修練を評価していたのだ。
互いだけを意識し、全力で訓練に集中するシンジとアスカ。
その姿に鈴原トウジと洞木ヒカリは唯々圧倒された。
そして、アスカに見惚れていた相田ケンスケを連れて、邪魔をせぬ様にと帰るのであった。
対して葛城ミサトは、頑張る2人の為に夕食の準備をする事としていた。
買い出しである。
雑な料理しか出来ないと言う自覚はあった為、近所のスーパーマーケットに弁当なり総菜なりを買いに行こうというのだった。
まだ時間が早いお陰で、コンビニ以外が選択肢に上がるのは、誰にとっても幸せとも言えた。
そんな外部の動きを気にする事無く、シンジとアスカは一心不乱に訓練に打ち込むのだった。
それは連日連夜に及んだ。
ただ只管に、
体力が尽きるまで体を動かし、そして飯をかっ喰らって寝るだけの日々。
夜になれば葛城ミサトが泊まりに来るし、リビングで3人並んで雑魚寝しているからと言う訳でも無く、色気の無い、体育会系の正に合宿と言った塩梅の日々。
そして、決戦の前日。
翌日の報復戦を前に夕食を平らげるシンジとアスカの顔には、自負と自信とが溢れていた。
テーブルに並んでいるのは、勝つと言う縁起担ぎにシンジが選び、料理したトンカツにビーフカツ、チキンカツだった。
飲兵衛である葛城ミサト向けに唐揚げも用意していた。
残念ながらも、その葛城ミサトは明日の決戦に控えての準備で、NERV本部での泊まり込みとはなっていたが。
「勝つわよ」
「勝つよ」
兎も角、山盛りになったカツの山、これにご飯と味噌汁、それに漬物が用意されている。
何とも贅沢な、壮行飯であった。
奪い合う様に貪っていく2人、交差する箸とフォーク。
ある程度、腹が膨れた辺りでアスカがポツリとばかりに言葉を漏らした。
「この料理だと、ワインが欲しいわね、赤」
口元の脂分を流し込みたいと言う。
何とも我儘な話であった。
未成年でもある、が、流石にシンジはそう言う
とは言え、飲用のワインは流石に無い。
「料理用の赤ワインならあるよ?」
「アレ、美味しくないわよ」
既に盗み飲みしていた事を悪びれずに言うアスカ。
苦笑しながらシンジは代案を出す。
「ビール?」
「
不穏当な単語を聞いた気がしたが、見事にシンジはスルーして立ち上がる。
なら選択肢は1つだね、と。
「イモの蒸留酒ならあるよ」
「ショーチューでしょ。期待してるわよ」
オンザロックで焼酎を用意するシンジ。
グラスは2つ。
自分も飲む積りだった。
明日の決戦は昼からであり、それに芋焼酎は二日酔いする事はないと言う経験則に基づいた判断だった。
未成年で酒精を摂取するのは健康に悪いと言う言葉もある。
だが、命を懸けた戦争と言う、一番健康に悪そうな事を明日はするのだ。
神様仏様だってお目こぼしするだろう。
そんな風に思っていた。
「乾杯する?」
「もっちろん! 明日の勝利を祈るのよ!!」
「判ったよ。なら、明日の勝利に」
「勝利に、
腹一杯に食べて、アスカ曰くの
そうであるが故に、健康な体をした2人は夜に体の上げる強い生理的要求に気付く事となる。
それはほぼ同じタイミングであった。
先に起きたのはシンジ。
同じ部屋で寝ているアスカを起こさない様に、静かにトイレに行き、帰ってくる。
だがアスカはもぞもぞとしているだけだった。
単純に血圧、或いは寝起きの良し悪しに関する事であった。
シンジが寝床に戻ってからわずかばかりの時間後。
「ん……」
小さく呟いて、アスカは寝床から這い出す。
暗闇に沈む中でシンジは、呆っとそれを感じていた。
生々しい生活雑音を聞くのはデリカシーの問題ではあるとも言えたが、
そう言う部分を剥ぎ取った合宿めいた訓練をしていたのだから。
寝よう、そうシンジが思った時、その背に温かいものが来た。
アスカだ。
寝ぼけて寝床を間違えた様であった。
「……アスカ」
名前を呼び、体を揺すって場所を間違えていると告げるシンジ。
だがそれが逆効果となった。
アスカがそっと手を回してきたのだ。
「!?」
慌てて振り返ろうとするシンジ。
だが半分ほど振り返った所で、ギュッと抱きしめられる事となった。
動けない。
力を入れれば振りほどく事は無理では無いが、見えるアスカは哀し気な顔で寝ているのだ。
そんな相手に力を出す程にシンジは無粋では無かった。
勘弁してよ、そんな気分を溜息で吐きだして寝ようと考え目を閉じようとした。
「…ママ……」
それは日頃とは全く違うか細い声だった。
幼子の様な、迷子の子どもめいた声だった。
だからシンジはそっと動く手を回して抱きしめてあげた。
後で考えれば、どうしてそうしたのかと羞恥でもだえる様な行動であったが、その時、シンジはソレが最善であると想っていた。
道に迷った幼子の様なアスカを、そっと守るかのように。
「
シンジもゆっくりと瞼を閉じた。
2022.05.23 文章修正
2022.06.01 文章修正