【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件 作:◆QgkJwfXtqk
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決戦。
前回と同じ場所で戦の準備を進めるエヴァンゲリオン3機と、
言うまでも無く前衛はエヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機だ。
但し、武装は前回とは異なっている。
損壊した
両機は共に主武装として
その上で、白兵戦装備だけが違っていた。
エヴァンゲリオン初号機は左肩甲骨部に特設した
技術開発部が昼夜を問わぬ突貫工事で完成させた
とは言え強度問題は解決しきれていない試作品であり、赤木リツコによれば5度ほど全力で叩き付ければ折れてしまう様なモノであった。
故にEW-12⁻と暫定を示す正式番号が振られていた。
何故に応急的な装備を選び、
技術開発部が、碇シンジと惣流アスカ・ラングレーの
対してエヴァンゲリオン4号機は、支援火器装備であった。
但し今回は
万全の体制と言えた。
少なくとも大人たちは、自分が出来る限りの努力を尽くしていた。
片膝立ちで待機姿勢を取っている3機のエヴァンゲリオン。
複数の特大型
又、エヴァンゲリオン用大容量電源車や整備ユニット車、或いは前線指揮車などが集まっている。
その中に、大柄な
巨大である理由は居住性も理由であるが、それ以上に狙撃 ―― 12.7㎜クラスの銃撃であれば全周に対して十分な防御力を発揮できる装甲が与えられているからであった。
尤も、その車内に入ればそう言う事を理解出来ない様な、居住性があった。
TVに冷蔵庫、簡単なキッチンは勿論、ソファセットや仮眠ベットにトイレユニットまで用意されている辺り、さながら、豪華なキャンピングカーめいた室内であった。
エヴァンゲリオンと言う兵器が、
その中でシンジとアスカ、それに綾波レイは思い思いに過ごしていた。
綾波レイは1人掛けソファで本を読んでいた。
シンジは簡易ベット上で座禅をし、瞑想し、
そしてアスカ。
3人掛けのソファの真ん中にドカッと座り、足を組んで目を閉じていた。
当然、腕も組んでいる。
だがその内心が戦いに向かって集中しているかと言われれば、それは否であった。
脳内は朝の目覚めた時の事に占められていたのだから。
朝。
柔らかい目覚め
温かい感触、それは何時くらいぶりか判らぬ程に穏やかさをアスカに与えていた。
幼子の頃の思い出、もはや顔をはっきりとは思い出せない母と眠っていた頃の事を思い出す。
優しく撫でて貰っていた頃を。
望めば望むだけ抱きしめてくれていた頃を。
「……ママ…………」
だからこそ哀しかった。
急速に目覚めつつあるアスカは、コレが現実では無いと自覚出来たのだから。
過酷な現実への帰還。
同僚としてそれなりに信用しても良いと思える
そこでアスカは救わねばならないのだ。
だが、シリアスでセンチメンタルなアスカの気持ちが維持されていたのは、目を開くまでだった。
「?」
目が覚めれば消えると思っていた体温は、そこにあった。
自分の手の中にある温かなモノ。
そして、自分を抱きしめてくれている手。
「んん?」
ゆっくりと目を開けた。
シンジの寝顔がそこにあった。
一瞬、綺麗なまつげだと思い、そこから一気にアスカの意識が覚醒する。
「!?
そして今。
一見すれば冷静に意識集中して瞑想している様に見えるアスカであったが、その脳内は
エリートとしての
朝、シンジが起きる前に四苦八苦してその腕の中を脱したアスカは、先ずは大いに焦った。
だから深呼吸。
深呼吸。
深呼吸。
深呼吸。
非常時こそ落ち着かねばならない。
ソ連
老齢ではあっても、
アスカは、実戦経験者の言葉を疑わなかった。
故の自己制御。
だから
とは言え、とても冷静にはなれなかった。
貞淑さとか処女性とかを大事にするキリスト教、
とは言え熱心とはとても言えなかった。
それ処か
家族の事、自殺した母や再婚した父。
何よりクソの様な現実を知ったエヴァンゲリオン適格者の選抜過程と、国連軍での士官訓練が大きかった。
乙女の羞恥心を破壊力に変える、凶技
その大きな影響だったかもしれない。
兎も角。
アスカが神様への愛を信じなくなるのも当然の話とも言えた。
とは言え、聖書などを読んで居れば少しはその考えに
その結果が、先ずは日曜学校に行けなくなる事をしてしまったのかとの反応であった。
或いはシンジが獣欲を見せたのかとも思った。
無論、即座に否定されたが。
体の違和感なども無いし、そもそも着衣の乱れも無いのだから。
だからこそ、冷静になる事が出来たとも言えた。
冷静に状況を把握する。
寝床の位置はシンジのモノであり、シンジの手は欲気から抱きしめたと言うには余りにも優しげだった。
結論として、自分が寝ぼけて抱き着いた。
抱き着かれたから抱き返してきた。
そんな所だろうと、アスカの虹色脳細胞は結論を出した。
事故にあった様なモノ、そう処理するべきであった。
或いは失敗したと笑うべきかもしれない。
だがそうならなかった。
理由は、
アーリィ・ブラストと、その
しかも、母親と死別して以来、アスカは誰からも
それはもう脳内
アスカが常に好きだと口にしている加持リョウジであっても、アスカが迫る事はあっても返される事は当然として、親愛のキスどころかハグすらもしてくれなかった。
大人として一線を引いていた。
そもそも、当時の加持リョウジはNERV特殊監査部EURO局第1課主席監査官。
特殊監査部の業務として
正直な話として、NERVドイツ支部の大人たちとは違う雰囲気から、自分が大人である事の
そうであるが故に、加持リョウジは
そもそも、加持リョウジと出会った頃のアスカは10代にも入ったばかりの頃なのだ。
その頃からのアプローチなぞ受けても、加持リョウジとしては
であるが故に、結果として
初めてハグをしてくれたヒト。
シンジをそう認識し、それはそれで悪くないと思うアスカと、
そのせめぎ合いめいたモノがアスカの脳内で勃発していた。
エヴァンゲリオン適格者として先に
容姿や肩書ではなく、修練を認めて来た相手。
そんな、内側に意識を向けて悶々としていたアスカ。
そこにいつの間にかシンジが寄って来ていた。
「アスカ」
「何?」
目を閉じたまま、鋼鉄の自制心で平素の声を出すアスカ。
だが、そんな事に気付く事無くシンジは質問を重ねた。
何か飲まない? と。
目を開ければ、シンジが給湯設備の前に居た。
「葛城さんから、
「銘柄は?」
「えっと、リプトン?」
手に持っていた黄色いティーバッグの包装をマジマジと見るシンジに、アスカは僅かばかり立っていた
「アンタバカァ? それはブランドだっちゅーの。銘柄ってのは茶葉の種類よ」
「余り考えた事なかったよ」
「いい加減ね、やっぱりバカシンジか」
脳内の沸騰を抑える為に、意図的に汚い言葉を選ぶアスカ。
有体に言えば暴言系。
だがそれをシンジは、仕方がないとばかりに苦笑と共に受け入れる。
実際、気にしてなかったのは事実なのだから。
横木打ちで、大事なのは振るう事であり、振るう木刀に頓着しないのと一緒 ―― それこそユスの木刀が無ければ丸太棒を振るう。
そういう事であった。
「
振るえれば良いのと一緒。
美味しく安全であれば問題は無い。
そんな実にアバウトなシンジにアスカは処置なしとばかりに溜息をついた。
だが内心は違う。
何となく、こんな毒にも薬にもならぬ会話が楽しかったのだ。
「で、あの娘には聞いたの?」
だから話を転がす意味で、流し目で3人目の
名を言われた綾波レイは本に集中していて反応をする事は無かった。
対してシンジは、飲むって言ってたよと返した。
それがアスカの癇に障った。
位置関係で言えば、先に綾波レイに声を掛けるのは当たり前だと思う反面、何となく面白く無いと言う感情を自覚するアスカ。
だがからこそ、我儘を口にした。
「なら、取り合えずアタシは珈琲で」
チョッピリの笑顔を添えて。
「インスタントだけど良い?」
「インスタント? 豆から淹れてよ、時間があるなら」
「無いよ、そんな道具なんて」
「インスタントなんて珈琲じゃないわよ。良くそれで我慢出来たわね。バカシンジってバカ舌も兼ねてるの?」
「僕は緑茶党だからね」
「グリーンティー?」
「そうだよ、
「じゃ、アタシも同じで良いわよ。砂糖は3つで良いわ」
「………お茶に砂糖を入れるの?」
「ティーじゃない」
「アスカの方が莫迦舌だと思うよ」
「ハァ?」
ボソッっと毒を吐くシンジに、キレるアスカ。
無論、共に冗談でのやり取りだ。
そうして、雑談の中でアスカは気が付けばリラックスしていた事に気付くのだった。
再侵攻を開始した第7使徒。
上陸し、水を滴らせるその姿は、少しだけ前回とは異なっていた。
前回の戦闘で荒れていない農地まで含まれる事になるが、確実に来るであろう日本政府からの抗議を覚悟した上での事だった。
第7使徒の手札を見る為、先ずは
国連軍装備の自走榴弾砲でも最新の部類に入る99式155㎜自走榴弾砲が全力で砲撃を開始する。
開発されたばかりのレーザー誘導式155㎜対使徒砲弾が雨霰と降り注ぐ。
が、当然ながらも被害は出ない。
但し、迎撃も応射 ―― 99式155㎜自走榴弾砲の居る方向に対する射撃もしない。
「どうやら、第5使徒みたいなふざけた射撃能力は持たないみたいね」
照明を落とした前線指揮車の中で、葛城ミサトがつぶやく。
副官役の日向マコトが合いの手を入れた。
「後は
「結構。
「作戦変更の必要性は低いと判断しています」
「結構。なら予定通り始めましょう。良いわねシンジ君、アスカ」
『
『
言葉は違えども、同じタイミングで声を返した2人。
その顔に自負と自信があった。
深い満足を覚え、それから綾波レイに命令する。
「レイ、目標が
『はい』
静かに進むカウント。
その最中、アスカはシンジに声を掛ける。
「いいわね、最初からフル稼動、最大戦速で行くわよ!」
『分かってる。62秒でケリをつける』
「〆はアレ、アレをやるわよシンジ」
『いいよ』
誰もが頼もしいと思うであろう表情で返事をしてくるシンジ。
そこに深い満足を抱きながら、アスカも頷き返す。
やるべき事はやった。
後は結果を出すだけなのだ。
今この時、2人の間に言葉は不要であった。
『目標、最終ライン突破! カウントスタート!!』
カウントが始まると共に寸毫の狂いも無く、2機のエヴァンゲリオンは発進姿勢を取る。
今、2機が配置されて居るのは第7使徒から小高い丘を挟んだ場所だ。
第7使徒による大威力攻撃を警戒しての事だった。
そして綾波レイのエヴァンゲリオン4号機は、もう少し離れた場所に配置されていた。
初手を担う関係から、反撃を受けるリスクを考えて離されていたのだ。
『5,4,3,1……0』
『作戦開始! 音楽スタート!!』
ゼロカウントに被せる様に吠えた葛城ミサト。
シンジとアスカがテンポを取る為に音楽が流される。
だが、集中していた2人の耳に音は届かない。
『
飛んで丘を越えるエヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機。
飛ぶ姿から着地時の姿勢まで、全く同じだ。
右腕で
片膝立ちのその様は、正にヒーローとプリマドンナの
その2機の眼前で、エヴァンゲリオン4号機の射撃が直撃し第7使徒が分裂する。
近接した2機によってA.Tフィールドが中和されたのだ。
『レイ、射撃中止! 別命ある迄待機!』
『了解』
その通りなのだ。
既に戦場には主役が降り立ったのだ。
であれば、他の者は全てが傍観者となるのみなのだ。
射撃しながら接近。
刺突。
だが分裂した第7使徒は、身を捻って
切っ先を掴んで反撃しようとするが、2機は同じタイミングで甲乙2体の第7使徒を蹴り上げ、
ケリによる慣性を利用してのバク転だ。
1回転。
そこから流れるような仕草で白兵戦装備を持つ。
『
陽の光を浴びでギラリと光る
切り込む。
2機が持つ装備の物騒さを理解してか、第7使徒側も挑みかかる様に前に出て来る。
恐ろしいまでの切れ味を持ったモノ同士の打ち合い。
1合、2号、3合。
そして4合目、限界に達した
退くシンジ。
合わせるアスカ。
既にエヴァンゲリオン弐号機は
2機のエヴァンゲリオンに残されている武器は、自衛用の範疇と言う扱いの
だが、2人の顔に焦りなど何も浮かんでいない。
『シンジ君、アスカ、一度後退して!』
ミサトの指示。
残り時間が15.01秒と言う事を考えれば妥当な判断かもしれない。
だが、2人の脳裏には届かない。
既に勝利への道が見えているからだ。
チラリとだけ視線を合わせるシンジとアスカ。
2人に最早言葉は要らなかった。
駆ける2機。
姿勢を低くして攻撃を掻い潜る。
そして飛ぶ、飛び蹴り。
『キェェェェェッ!!』
シンジの咆哮に呼応する様にエヴァンゲリオン初号機は顎部ジョイントを解放して吠える。
それは狂気めいた咆哮。
それがアスカにもエヴァンゲリオン弐号機にも伝染する。
「フラァァァァッ!!」
アスカの気迫を受け止めたエヴァンゲリオン弐号機は、顎部ジョイントこそ粉砕して吠える事は無かったが、頭部目保護ジョイントを開く。
エヴァンゲリオン初号機とは違う4つの目がギラギラと光る、それは正に
回転すら加わった飛び蹴り、その切っ先たる踵は見事に2体の第7使徒のコアを捉える。
勢いのままに、4つの巨体は海へと飛ぶ。
粉砕。
波打ち際でコアを砕かれた第7使徒は大爆発を起こした。
津波すらも生む威力の爆発。
その爆風を利用し、バク転をする様に後退し、エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機は着地する。
その最後のタイミングで残念、バッテリー切れとなってしまった。
停止する巨体。
通常電源が落ちたエントリープラグ、その中で非常用電源で維持されている通信機越しにシンジに話しかける。
「後、5秒は欲しいわね」
少し締まらないと残念がるアスカ。
対してシンジはあきらめ顔で笑う。
最大戦速だったから仕方がない、と。
「ま、そこは次に期待だよ」
『
「アスカもね」
笑い合う2人。
勝利の余韻に浸りながら、回収班を待つのだった。
2022.06.01 文章修正
2022.07.31 文章修正