【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件 作:◆QgkJwfXtqk
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見事な勝利を収めた第7使徒戦。
被害は実質無し ―― 消耗前提であった
それは、前線指揮車の中でも一緒だった。
誰もが完璧な報復戦に歓声を挙げていた。
これが初陣ともなる、NERVドイツ支部からの移籍組などは、特にそれが顕著であった。
只、葛城ミサトだけは微妙な顔をしていたが。
嬉しくない訳では無い。
別段に、戦闘最終段階での碇シンジと惣流アスカ・ラングレーによる
NERVと言う組織は、究極的に言ってしまえば
特にソレは、最前線で戦うシンジ達
正体不明の敵と、高速戦闘をするのだ。
発見した機、撃破のチャンスを後方へのお伺いと許可を受けて失しては良くないと言う判断である。
齢で13歳と言う、実に子供としか言いようが無い3人に与えるには余りにも大きな作戦遂行権であったが、少なくともNERV本部の人間で反対した者は居なかった。
第3、第4、第5、第6との戦でシンジやアスカが積み上げた実績と、信頼に基づく評価だからだ。
世界を預ける事に異存はない、そう思えるのだ。
故に葛城ミサトが少しばかり渋い顔になっている理由は、全く別の事だった。
第7使徒が大爆発したのは洋上、即ち大威力の
付近の魚は確実に全滅。
卵だって耐えられないだろう。
しかもN²兵器並みのきのこ雲があがっているのだ、海底の地形すらも変わり果ているのも容易に想像出来た。
まともに漁業が出来るまで、どれだけの時間が掛かるのか想像も出来ない。
今は未確認だが、使徒撃破による汚染などがあれば、未来永劫に無理かもしれない。
不確定な未来。
確実なのは、水産庁や地元漁業協同組合から猛烈な批判が追加されて来るであろうと言う事だ。
葛城ミサトが憂鬱な表情を隠しきれないのも仕方のない話であった。
そんな気分を振り払う様に空咳を1つ。
それから手を叩いて前線指揮車の中の耳目を集めると、明るい声を作って葛城ミサトは命令を発する。
「取り合えず、今の勝利祝いはそこまで。作戦終了はまだよ」
「本部に帰り着くまでが作戦です、ですね!」
葛城ミサトの狙いを理解する女房役、日向マコトが空気を壊さぬ様に楽しそうに答える。
それに
そして、NERVドイツ支部からの移籍組の取りまとめ役でもあるパウル・フォン・ギースラー少佐が、いかにもドイツ人と言う顔を楽しそうに歪めながら中佐殿っと声を挙げる。
「祝勝会は本部でですかな?」
「そうよ? だって、戻らないと戦術作戦部の予備費は使えないんだもの」
「それは仕方がありませんな! では諸君、我らが葛城中佐の御命令だ。ビールが冷えるまでの時間は仕事で潰そうじゃないか!」
役職は作戦局第1課課長代理。
即ち葛城ミサトの直属となるパウル・フォン・ギースラーは、その仕事をキチンとこなすのであった。
空気の変わった前線指揮車。
その中で、少し厳しい顔で画面を見ている者が1人。
赤木リツコだ。
気になった葛城ミサトは、撤収作業を邪魔しない様に小声で話しかけた。
「どったの?」
「別に悪い話があった訳では無いわ」
小声と言う事に色々と察した赤木リツコは、自身もまた小声で返す。
手元にディスプレイを指し示しながら言葉を続ける。
「アスカのシンクロ率、記録更新よ」
「余程にシンジ君とでテンションが上がったのかしら」
「それだけなら良いわ。だけど、付随して__ 」
ほっそりとした白魚の様な赤木リツコの指が、画面内のエヴァンゲリオン弐号機の
そこにはエヴァンゲリオン弐号機の瞬間出力が、エヴァンゲリオン初号機のソレに準じるレベルに到達したと表示されていた。
シンジの駆る、暴走めいたエヴァンゲリオン初号機の最大出力に、だ。
指先がボタンを押す。
最大望遠でエヴァンゲリオン弐号機を捉えた映像を呼び出す。
そこには、全力稼働である事を教えるかの様に、爛々と4つの目を光らせたエヴァンゲリオン弐号機の頭部が映し出されていた。
「暴走?」
「違うわ。初号機用に組んだ
「安心したわよ。でも、ならそんな深刻な顔をしないで欲しいわ」
「あら、機体としては問題が無くても、技術部としては話は別よ?」
「確認と整備箇所が増える。今日は残業ね」
「………ご愁傷様」
「作戦局からの差し入れを期待しておくわ。予備費があるんでしょ?」
「勘弁してよ。私の財布なんだから」
真面目な話として祝勝会なんてやってる暇は無いし、予備費と言っても葛城ミサトの自由裁量で出せる金額など多寡が知れている。
中佐でござい等と言っても、所詮は中間管理職なのだから。
そもそも、動かす為の書類が面倒くさい。
総務部の経理局からは、何時も書式だの期日などで怒られている葛城ミサトなのだ。
だから、使徒撃退に成功した日の
残業で後片づけ等をする為の栄養補給用、糖分追加の為の甘いおやつと一緒に。
「管理職は辛いわね」
「手当に羽が生えてるのよ、きっと!!」
バカ話めいている葛城ミサトと赤木リツコの会話。
だが、ソレを笑っていられない人間もいる。
より薄暗い所に居る、世に隠れて己の目的の為に世界を動かそうと言う人間たちだ。
SEELEであり、碇ゲンドウである。
『碇、これはどういう事だね!?』
『アダム由来の弐号機が覚醒したとなれば、とてもでは無いが許容できる事ではないぞ!!』
『左様。
『万が一にもアダムへの回帰などとなれば、安全装置はどうなっている』
蜂の巣をつついたような騒動とも言えた。
久方ぶりの
最近は善意と言う
当然、そういう感情は現実逃避である。
碇ゲンドウとて頭を抱えていたのだから。
アスカがシンジと
彼らにとって重要な予言の書たる裏死海文書には、この様な事態は載って居なかったのだから。
それは人類補完計画の
『問題となる弐号機の破棄はどうか?』
『どうかな? 現段階では原因不明だな、碇』
「はい。機体側の機材的な異常などは見つかって居ません、それは素体もコアも含めてです。無論、重点検による詳細な報告は後日__ 」
『細かい事は良い。仕込みでないのであれば偶発と考えるべきだ』
『であれば廃棄が妥当か? 計画に不確定要素があっては困る』
『だが、これが報告書の推測、
『左様。量産型とは言え、エヴァンゲリオンの建造費はバカには出来んぞ』
『経済的理由から人類の危機的状況が悪化したとなれば、笑い話にもならぬな』
斯くして、会議は踊り進まないままに時間だけが流れていく。
SEELEとの最高機密会議を終えた碇ゲンドウは、流石に疲弊していた。
常より昏い顔のままに、額を撫でる。
そんなNERV総司令官に容赦の無い声を掛けた人間が居た。
「どうだった碇?」
「どう、と言う事は無いな。老人共も弐号機には仕掛けはしていなかったようだ、と言うのが最大の収穫だな」
「泡を喰っていたか」
「ああ。カビの生えた古文書で未来の全てを見通せるなら苦労はしない。良い薬だ」
「……対応はどうする?」
「弐号機は運用継続だ。当分と言う但し書きはあるがな。赤木君には都度都度、報告書を挙げてもらう事になる」
「エヴァンゲリオン、その破棄も建造も手間だからな」
「ああ。
エヴァンゲリオンの
エヴァンゲリオン弐号機を廃棄するとなれば、当然ながらもリスク回避の為、使用されていたコアも廃棄される事となる。
即ち、アスカは
その場合には
だが話はそう簡単なモノでは無い。
アスカは伊達に、幼少期に適格者として
研鑽も実力も、他の適格者予備軍とは段違いであり、おいそれと代役を簡単に用意出来る様な人間では無かった。
そもそも、戦術作戦局が全力で反対するだろう。
情ではなく理として、能力を発揮し、実戦で戦果を作り出した
「隠し玉は無さそうか」
「無いな。今は開発局のマリィ・ビンセンスが資質的には一番マシだろう」
「アメリカ支部、いや、アメリカ政府から悲鳴が聞こえそうだな。彼らは今、2機の追加建造で大忙しだろう」
「ふん、身の程を忘れた覇権国家の残骸どもの悲鳴など知らんな」
碇ゲンドウの言葉に、シニカルな笑いを浮かべる冬月コウゾウ。
と、手元を確認する。
「取り合えず現状維持であるならば、
「問題ない。それまでの間は自由にさせてやれば良い」
「了解した。手続きを進めさせておく」
第3新東京市を掛ける紫めいた蒼色のクロスバイク。
その背を追う真っ赤なロードバイク。
乗っているのは言うまでも無くシンジとアスカだ。
学生服姿のシンジに対してスカートが邪魔になるアスカは長袖に七分丈のスパッツと言うサイクルウェア ―― ヘルメットまで被っての本気だった。
車の少ない道路故に、2人は車道を駆け抜けている。
抜きつ抜かれつの激しいデッドヒート。
段々と増えて来る同級生の乗る自転車や歩行者。
それらを置き去りにする勢いで奔る2台。
2人の表情は本気だ。
だが楽しそうに自転車を走らせている。
奔る。
走る。
通学途中の誰もが驚いてみる中で、わき目もふらずに2人は前だけをみて自転車をこぎ続ける。
正に戦い。
その戦いは、第3東京市第壱中学校の門を超えるまで続いた。
勝者はシンジだ。
アスカよりは通学路に通い慣れていた結果であった。
ガッツボーズをしてみせるシンジに、指ぬきグローブに守られた右手中指を立てて返事をするアスカだった。
「センセもホントに元気やのー」
一連の事を教室から見ていた鈴原トウジは、呆れた様に呟いた。
使徒との戦いの為に学校を休んでいたシンジ達が登校する様になったと言うのは、戦いが終わったと言う事であり、それは友人として素直に喜ばしいと思ったが、同時に、朝から自転車とは言え全力で走るのにはついていけない。
そう感じたのだ。
だが、達観した様な鈴原トウジとは違い、他の同級生の反応は違っていた。
「くっそー!?」
望遠レンズがあればと切歯扼腕している相田ケンスケ。
理由はアスカの、体の線が出た真っ赤なサイクルウェア姿だ。
その艶やかな姿は、他の同級生男子一同もに歓声を挙げさせている。
若さでもあった。
尤も、女子生徒たちは愚かな同級生に同じ感情を抱いていたが。
「バッカみたい」
そういう評価もさもありなん。
時間が流れて昼飯時。
食欲の赴くままにパンをかっ喰らおうとした鈴原トウジは、フト、アスカが近づいてくるのを見た。
否、鈴原トウジにではない。
隣のシンジの所にだ。
「シンジ」
「ん」
差し出されるのは海老色の、深い落ち着いた赤い布に包まれたモノ。
この時間である、もう簡単に弁当箱だと察する事が出来た。
自炊派のシンジがもう1個作ったのだと。
鈴原トウジも相田ケンスケも、目を剥いて驚いていた。
「おっ!?」
だが、その事を誰が何を言う前に、アスカは離れて行った。
女子グループ、洞木ヒカリの所へと向かって行った。
「弁当を作ってやったんか?」
「
「かーっ、センセも奇特なやっちゃなぁ」
「で、惣流が取りに来てレースになったのか?」
「
「ふーん…………ん? まてシンジ、来た訳じゃないのに、出る時が一緒って、まさかお前、同居が続いている訳じゃ無いよな!?」
凄い勢いで立ち上がってシンジに迫る相田ケンスケ。
「それは流石に、なんだ、少しイヤーンな感じだよ」
「
同居は解消された、と言う言葉に安堵の息を漏らす相田ケンスケ。
だが、であれば最初の話が判らない。
なので鈴原トウジが改めて尋ねた、アスカは何処に住んで居るのか、と。
シンジは事も無いと答えた。
「
「イヤーンな感じぃっ!!!!」
教室中の誰もが振り返る大声で、相田ケンスケは絶叫していた。