【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件 作:◆QgkJwfXtqk
06-1 GUSION REBAKE
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第3新東京市は大規模な要塞機能構築の為に、
その額面に騙されてでも政府による
民間企業から見て第3新東京市は箱根カルデラの中と言う聊かばかり特殊な立地ではあったが、海の玄関口として旧小田原市街を再開発した第3新東京市小田原港を擁していた為、東日本の物流拠点としての価値が高かったのだ。
又、セカンドインパクトからの復興の中で、最優先で整備された通信や物流、そして生活インフラも大きな理由であった。
それは、NERVの都合 ―― エヴァンゲリオンの運用や、国連軍の展開などを運用する為の事であったが、それが功を奏した形であった。
無論、要塞都市としての機能が集中している場所を民間と共用している訳ではない。
流石にそれは危険であると判断されているが、その藩屏である箱根カルデラの周囲 ―― 特に使徒の侵攻経路に選ばれにくい第3新東京市北部域、旧御殿場市地域が1999年以前の面影が消える程の再開発が行われていた。
小田原港が整備された理由も、海抜の上昇と東京の壊滅で東日本の軍港群が消滅した事が理由であった。
その際に
沿岸域の埋め立てのみならず、巨大な防波堤を作った上で
そして今、惣流アスカ・ラングレーは買い物の為に第3新東京市御殿場繁華街に来ていた。
洞木ヒカリたちクラスメートから聞いた、小洒落た小物や服を扱うデパート巡りだ。
勿論、高級デパートの類では無い。
普通の中学生でも物怖じせずに来れる様な、デパートだ。
傍には、お供めいて加持リョウジを連れていた。
上機嫌でお店を見て回る。
黄色い
「久しぶりに加持さんとデート♪」
「いやいや。お姫さまと、良くてその冴えない従者って役回りだよ」
誰に言う訳でも無く抗弁する加持リョウジ。
ただしその声色には割と焦りがあった。
当然であろう、影で護衛しているチームに対する釈明でもあったのだから。
そもそも、13歳の美少女と
社会人としての危機なのだから。
それな
仕事着と言っても過言では無いだろう。
唯一、銀と青とのストライプなネクタイだけが仕事では無いとアピールしていたが。
「………もっとお洒落をして来れば良かったのに」
「いや、そうしたいのも山々なんだがこの後も仕事でね」
「部下に任せられなかったの? 昇進したんでしょ」
「今の俺は課長代理って言っても特命配置でね。仕事は来るけど部下は回して貰えないのさ」
心の底から嘆息する。
当初は
いろいろな場所に出没していた。
だが、万年人手不足のNERV本部で、何時までもそんな優雅な仕事が許される筈が無かった。
特に、無任所で、尚且つ高位機密へのアクセス権を持つ人材なのだから。
最初は特殊監査局の仕事が、次には戦略調査部の仕事が。
それらの面倒事を加持リョウジは持ち前の調整力と調査力で解決して見せたのだ。
称賛と感謝、そして少しばかりの自尊心の充足。
だが、それが更なる仕事を呼び込む切っ掛けとなっていった。
そして何時しか、NERV本部全体の組織横断型の面倒くさい事は加持リョウジの元へと持ち込まれる様になったのだ。
NERV本部の何でも屋。
加持リョウジにとって誠にありがたくも無い話であった。
例えそれが、
実に面倒くさい話であった。
「ま、だからこうやってアスカのお供って仕事が舞い込むのがいい気分転換になって有難いのさ。モグラだって偶にはお日様を浴びたくなるものだからな」
「加持さん!」
男臭い笑みでフォローの言葉を回す加持リョウジ。
これが加持リョウジであり、アスカが大人だと思う男の姿だった。
少なくとも
そこでフト、信じてよい同僚でありお隣さんである碇シンジを思い出す。
アイツにはこういう配慮が足りないのだ、と。
が、アスカはその原因を深く考える前に頭を振って、シンジの影を頭から追い出す。
新しく気の良い同僚であるが、今はどうでも良い。
今は憧れる加持リョウジとのデートなのだから。
今、シンジの事を考えるのは、
「どうした?」
「何でも無いわ! それより次よ次!! 次に行くわよ!!!」
「おいおい、元気だな」
「勿論♪ 加持さんと一緒なんだもの!」
「お手柔らかに頼むよ、お姫様」
一通り、冷やかして歩いたアスカは休憩の為にと、加持リョウジと共にデパート屋上の開放的なカフェに寄っていた。
重工業の類が無いお陰で空はどこまでも青く、高かった。
常夏の日差しは強いが、張られているシェードが程よく遮ってくれている。
加持リョウジはホットコーヒーを。
アスカはアイスコーヒーを頼んでいた。
手元には幾つかの
今日の戦利品だ。
「珈琲を冷やすって、最初に聞いた時は正気を疑ったけど、飲み馴れると美味しいって感じるから人間って不思議」
アイスコーヒーを上品な仕草で飲みながらアスカは感想を漏らす。
ドイツ系アメリカ人と言う国籍的な理由からでは無いが、アスカは嗜好品としては珈琲が好きであった。
だが珈琲ブラック党からすれば冒涜的とすら言える、ガムシロップとクリープを存分に入れた
「不思議だろ? そういう風に人生は、色々な驚きに満ちているのさ」
それこそ
蘊蓄めいた言葉に、素直に目を輝かせるアスカ。
それは年相応の姿と言えた。
「ま、それは兎も角。アスカ達はもう直ぐ修学旅行じゃなかったか? その
「水着とか?」
「アレは流石に中学生にはちと早すぎるんじゃないかな、って思ったがね」
アスカが冗談めかして持ってきた赤白のストライプ柄の水着は、ハイレグ気味のセパレートタイプであった。
後、10年は未来でないとアスカには過激すぎると言うのが加持リョウジの見立てであった。
それをアスカは笑う。
「加持さんおっくれてるぅ 今時あれくらい、あったりまえよ」
尤も、そう言うアスカの情報は、
「ほぉ、そうなんだ。確か、行先は沖縄だったか?」
「らしいわよ。メニューにはね、スキューバーダイビングも入ってるって」
修学旅行のしおりと一緒に渡されたパンフレット、そこには高い透明度の美しい海があった。
アスカの瞳の様な、蒼い海。
それを少しだけ思い出し、小さくため息をつく。
その事に気付いた加持リョウジは、訝し気に首をかしげる。
「なんだ、他人事みたいだな?」
「だって………行けないでしょ、私たち」
寂しさすら感じさせながら断言するアスカに、加持リョウジは何も言えずにいた。
シンジの家の食事時は姦しい。
別にシンジがTVを点けっぱなしで食べている訳では無い。
只、
更にはいつの間にか、その反対側のお隣さんも笑顔でやってくる様になっていたのだ。
それをシンジは、縁と言うのは面白いものだと受け入れていた。
尤も、流石に食費に関しては徴収していたが。
手慣れた仕草で味噌汁を炊きながら、今日の料理を用意していく。
メインディッシュとなるのは
とは言えドイツ料理をする訳ではない、と言うか出来ない。
スーパーにあったフランクフルトを焼いて、ケチャップと
1人前で2本焼いて、付け合わせには粉吹き芋をチョイス。
此方もドイツ風と言う事で仕上げに刻んだパセリとバターとを乗せてある。
シンジからすれば正直、これでご飯を食べるのは如何なモノかと言う話であったが、NERVでのエヴァンゲリオン訓練後の限られた時間で手軽く用意出来るのがこの程度なのだから仕方がない。
本当は日曜日なので、手遊びも兼ねて
尚、年上の
ご飯よりもビール党なので、此方の方が喜ぶのだ。
後は味噌汁を注いでご飯をよそえば終わる。
そこまでしてからエプロンを外して首を回す。
疲れた訳でも無いのだが、何となくの癖だ。
エプロンは冷蔵庫付けて置いたフックに掛けておく。
しみじみと見た。
ベージュ色のエプロンは、昔に養母の食事の支度を手伝おうとした時に養父からお下がりとして貰ったモノだった。
年季が入り、染みもあって古ぼけた感じのするエプロンだが、何となく手放し辛くてシンジは使い続けていた。
エプロンの裾が床に付くようだった頃。
着られる様に見えた頃。
そして普通に着られる今。
そろそろ洗おうかな、そんな事を考えながらお茶の支度をする。
急須に茶葉を入れ、お湯を注ぐ。
湯呑替わりのマグカップに注いでからリビングに移動、ソファに座る。
喧しいTVは趣味で無いので、何かのラジオでも点けようかと考えた時、チャイムが鳴った。
インターホンを見れば、家主よりも偉そうな隣りさん1号の赤毛が映っていた。
「
そう言って立ち上がったシンジの口元は、少しだけ優し気に歪んでいた。
色気の無いラフな格好 ―― シャワーを浴びた風呂上りを感じさせる湿気を帯びた髪を纏め、
だが同時にそれは、家に帰ってきたと言う安堵の表れとも言えた。
余所行きとは、即ち
笑顔のアスカにシンジも自然と相好を崩す。
「やぁお疲れ。楽しかった?」
「サイコーよ。加持さんとのデートだもの♪」
実に楽しかったのだろう、シンジの問いに答えるアスカの声は踊っていた。
憧れていた男性とのデートであれば、めくるめく時間だったのだろうとシンジも納得していた。
異性と居る事による陶酔、或いは異性への憧れと言うモノが今一つ理解出来ないでいるシンジは、アスカの気持ちが判らない。
判らないが、この性根の入ったお隣さんが楽しかったのは良い事だと理解していた。
と、そんなシンジの鼻先に、アスカが紙袋を突き付けた。
「なに?」
「幸せのおすそ分け、何時もの御礼って奴ね」
問いかけに澄まして返したアスカ。
要領を得ないままに紙袋を預かり、そして開けるシンジ。
「何?」
中からは、厚手のジーンズ生地で出来た新品のエプロンが出て来た。
広げて見るシンジ。
胸の所に入っている、ひよこの絵柄がユーモラスさを与えている。
取り敢えず、出来は良い。
「あ、ありがとう。嬉しいよ」
「あったりまえ、このアタシが選んだんだもの!」
褒められて胸を張るアスカ。
鼻高々と言った塩梅だ。
「でも、何でひよこ?」
「だってシンジ、まだまだオコチャマじゃない。だからヒヨコがお似合いよ!」
「何だよそれ」
ベロっと可愛らしく舌を見せたアスカに、毒気を抜かれたシンジは苦笑と共に肩をすくめた。
「アスカだって、料理が出来ないお子様だろ?」
「アンタバカァ? アタシは出来ないんじゃなくてしないだけ。そこにはルビコンよりも深く、大きな川があるの、
すきっ腹を抱えて、シンジの家に我が物顔でやってきた
只、そこに嫌味ではなく茶目っ気があった為、シンジは笑って流していた。
アスカが来て少しばかりして、葛城ミサトもシンジ宅に突撃してくる。
当然、手にはビール缶が、それも冷蔵庫から出したばかりでキンキンに冷えた
アルコールだけ持ち込みなのは、
兎も角、日曜日の夜
人一倍に元気なアスカと、アルコールが入れば呑気陽気適当になる葛城ミサトが居るのだ。
静かになる筈も無かった。
それをシンジは楽し気に見る。
大家族めいたところのあった故郷の家を思い出すからだ。
夕食会。
それが終わり、シンジが洗い物を終えた時に、葛城ミサトは2人を呼んだ。
真顔だ。
キッチンのテーブルで2人と相対した葛城ミサトは天井を見上げる様に大きく息を吸って、それから頭を下げた。
「ゴミン、2人とも修学旅行は駄目になった」
葛城ミサト個人は、子供の頃の思い出は大事であるとシンジとアスカ、それに綾波レイまで修学旅行に行かせたいと考えていた。
これには
第3新東京市を離れるとは言え、
だがそれを碇ゲンドウが止めたのだ。
如何に高速機であっても、搭乗までの時間も含めれば沖縄から第3新東京市までの移動は2時間以上は必要とする。
その2時間で破壊的な活動が可能な使徒が現れたらどうするのか、と言う考えであった。
誠に正論であり、そうであるが故に反論できる人間は居なかった。
「私としては行かせてあげたかったんだけど、その、ね?」
直属と言う訳では無いが、それでも階級上で言えば碇ゲンドウと冬月コウゾウに次いだ葛城ミサトであったが、決定権と言う意味では2人には天と地ほどの差があった。
そんな葛城ミサトを見たシンジとアスカは、肩を竦め、それから頷き合った。
「
「シンジ君」
「ま、元から期待してなかったしね。こういう時にババを引くのもエリートの務めってね」
「アスカ………2人とも、本当にありがとう」
「良いって事。その代わりと言っちゃなんだけど、ミサト、チョッとお願いがあるんだけど?」
「出来る事ならなんだってするわよ?」
「プールに行きたい」
「それ位ならお安い御用よ! 本部内にあるから貴方たち皆で楽しんできて!!」
ゴネる事も無く2つ返事で受け入れたシンジとアスカに、心底から安堵した表情で葛城ミサトは笑っていた。