サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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 碇ゲンドウは簡単に考えていた。

 息子、碇シンジを操る事を。

 来いと伝えた事に反発していたが、それは子どもっぽい感情の発露である、そう考えていたのだ。

 その考えが、ブチ殺される。

 

 NERVの牙たるエヴァンゲリオンを格納し整備する為の区画、初号機用の第1ケイジに立つ碇ゲンドウ。

 威圧的、心理的効果を考えてケイジ上方の機体監視所(展望ブリッジ)に立ってシンジを探す。

 見つける。

 エヴァンゲリオンの肩部を前方から固定している第1拘束ユニットのブリッジ部に、葛城ミサトや赤木リツコと共に居る。

 対爆ガラス越しに、20mからは離れて居るのだ。

 何を話しているのかは伺えないが、機体の説明をしているのだろうと辺りを付けて、碇ゲンドウは手元のマイクのスイッチを押した。

 

「久しぶりだな、シンジ」

 

『……』

 

 碇ゲンドウの挨拶、だが返事はこない。

 シンジは下から見下す様に、碇ゲンドウを見ている。

 否、睨んでいる。

 口は真一文字に絞られ、何かを発しようかと言う気配は無い。

 

 沈黙。

 機械駆動音、L.C.Lを循環させる為のポンプ音だけが静かに響いている。

 

『し、シンジ君?』

 

 その余りにも重い沈黙に耐えかねた葛城ミサトが、シンジに恐る恐ると声を掛ける。

 が、無視される。

 葛城ミサトを一顧だにせず、シンジは碇ゲンドウを睨み続ける。

 呼びつけたのだ、用があるなら自分から言え。

 そう思っているが故にだった。

 無理やりに連れて来させた様な相手に挨拶など不要、それ位にシンジは怒っているのだった。

 直接顔を合わせるなら兎も角、逃げ腰めいて距離を取ってマイクで話しかけて来る。

 何かを頼む、或いは強権を以て命令しようとするならば直接するべきだろうが、そうしていない。 

 何と、男として情けないのかとも思っていた。

 

 そんなシンジの内面を理解も想像も出来ない碇ゲンドウは焦れた。

 子どもが親に歯向かっていると感じたのだ。

 別離して9年を数え、その間に親らしい事をした事も無いにもかかわらず、である。

 何とも勝手な話であった。

 さてどうするか、そう碇ゲンドウが考えた所で、手元のモニターに情報が表示された。

 

 目標が行動を再開。

 現在の進行速度であれば、第3新東京市到達まで約50分と予測。

 

 だから物事を進める事にした。

 

「出撃」

 

 

 

 何を言っているのだというのがシンジの正直な感想であった。

 意味が判らない。

 出撃? 出撃と言ったか。

 だが何のために、何故自分に言うのか。

 血縁上の父親である碇ゲンドウは気が狂ったのかとすらシンジは思った。

 

 無論、そう思ったのはシンジだけでは無かった。

 

「出撃? 零号機は凍結中でしょ!? まさか、初号機を使うつもりなの!?」

 

 葛城ミサトが理解出来ないと赤木リツコを見れば、赤木リツコも常日頃浮かべている冷淡さを示すような流麗な眉を顰めさせて応える。

 

「他に道はないわ」

 

「ちょっと、レイはまだ動かせないでしょう? パイロットがいないわよ」

 

「さっき届いたわ」

 

 事更に冷静ぶって言い、シンジを見る赤木リツコ。

 碇ゲンドウの息子、碇シンジ。

 この状況で落ち着いている少年。

 マルドゥック機関が選び出した新しいエヴァンゲリオンの適格者。

 だが、まだ何も説明されていない子ども。

 にも拘らず自分は、その子を資質があるからと言う理由で戦場に放り込もうとしている。

 他に道は無い事は自覚しているし、理解もしている。

 だが、赤木リツコは自分を許せなくなる ―― そこまで考えた所で、フト、気付いた。

 最初の適格者、綾波レイの事を思い出したのだ。

 ()()だと言う事を。

 だから、全てをのみ込む。

 悪にでもなろう、と。

 

「碇シンジ君、貴方が乗るのよ」

 

 事更に冷静に、冷徹に聞こえる様に言葉を発する赤木リツコ。

 せめて憎まれたい。

 憎まれでもせねばやってられぬ、そんな気分からであった。

 

 だが、それでも説明不足であった。

 出撃と言う碇ゲンドウの言葉、乗れと告げる赤木リツコ。

 誰が何にどうしろと言うのだろうか。

 だからシンジは素直に尋ねる。

 

なんち(何を言っているのですか)?」

 

 ネイティブめいたシンジの方言(かごんま弁)であったが、赤木リツコは意図を理解する。

 

「このエヴァンゲリオン初号機、貴方に乗ってもらわねばならない」

 

ないごてよ(どういう理由か、理解出来ませんよ)?」

 

「………座っていればいいわ。それ以上は望みません」

 

 所が、そこに葛城ミサトが噛みつく。

 乗ってればよいと言うが、と。

 

「レイでさえ、エヴァとシンクロするのに7ヶ月もかかったんでしょ!? 今来たばかりのこの子にはとても無理よ!」

 

 最初にして、このNERV本部の所属する唯一の適格者。

 それが綾波レイ少尉待遇官。

 シンジ同様に14歳の子どもだ。

 

 幼少期からエヴァンゲリオンの操縦者としての訓練を積んできたレイですら、機体を起動(とシンクロ)するのに7ヶ月も必要としていたのだ。

 今日来たばかりのシンジに出来る筈が無い。

 そう葛城ミサトが判断するのも当然であった。

 

「今は使徒撃退が最優先事項です。そのためには誰であれ、エヴァとわずかでもシンクロ可能と思われる人間を乗せるしか方法はないわ。分かっているはずよ、葛城中佐」

 

「そう……ね…」

 

 深刻な表情で会話を交わす赤木リツコと葛城ミサト。

 その雰囲気をぶち壊す様にシンジは尋ねる。

 

ないごてのっち話になっとな(どうして私が乗ると言う話になるのですか)? 」

 

「え?」

 

しらんど(知りませんよ、そんな事)

 

 止めを刺すように断言する。

 そう大きくはない、だが明確な拒絶が、エヴァンゲリオンの格納庫に響いた。

 方言に造詣の深くない葛城ミサトであったが、その言葉の意味を違えて理解する事は無かった。

 白け切った顔をしているシンジを、葛城ミサトは信じられぬモノを見る様に見る。

 対して赤木リツコは気づいた。

 その白けた顔に輝く目、そこに潜んでいる憎悪の火を。

 

「し、シンジ君?」

 

他人を攫うしの下知(他人を攫う連中の言う事)ないごて聞くとおもとな(何故、聞くと思った)?」

 

 誰もが想定していなかった反応。

 だが、事実であった。

 来いと呼んで、来ないと言ったシンジを無理矢理に連れてきたのは葛城ミサト。

 そして、連れてくる際にシンジの翻意を促すために説得をするのではなく、手っ取り早く国連と日本政府を背景にした()()を行ったのも葛城ミサトだった。

 合理的ではあった。

 只、それは人間関係を完全に破壊する行為でもあったのだ。

 

「乗りなさいシンジ君。貴方が乗らなければ世界が終わるのよ」

 

しらんちゆうがな(知った事ではありません)

 

 シンジに翻意を迫る様に睨む葛城ミサト。

 その目つきは、文字通り()()()()()()様な厳しさであった。

 この第3新東京市に迫りくる敵、使徒に対する憎悪を滾らせているこの女傑にとって、戦う術を持つにも拘わらず戦わぬと断言する人間は許しがたい存在であるからだ。

 対するシンジも、狂相めいた目つきで葛城ミサトを睨む。

 当然であろう。

 自分を、強権を以て拉致した相手に好意的になれるなど余程に特殊な人間だけであろう。

 その上で、いきなり戦えと言う。

 ()()()()の如き扱いなのだ。

 人間として、その尊厳から断じて受け入れる訳にはいかないのだ。

 

 睨み合い。

 

 聊かばかりシンジの言葉が理解できる赤木リツコは、面倒になった背景をある程度、理解した。

 与えられた権限(特権)を十全に使うと言えば聞こえは良いが、実態として調子に乗りやすい、この古い友人が物事を拗らせたのだろうと。

 無論、そのお陰でこの場にシンジが間に合っているのだ。

 功罪相半ばするといった所かと考える。

 さて、どうやってシンジを説得しようかと考えた時、碇ゲンドウが口を挟んだ。

 

『乗れ、シンジ』

 

 頭を抱えたくなった。

 矜持を傷つけられて反発しているシンジを、更に煽ってどうすると言うのか。

 だが、冷静な赤木リツコを他所に置いて碇ゲンドウは言葉を重ねて行く。

 

『今、お前が乗らねば世界は滅んでしまう。それで良いのか』

 

「………そいがほんのこっか(それが事実かどうか)だいが証明すっとか(誰が証明できると言うの)?」

 

『説明を受けろ』

 

 轟音。

 衝撃波。

 大きく建物が揺れた。

 使徒の攻撃だ。

 そして碇ゲンドウが地雷を踏む。

 

『この場所に気づいたか………もう良い、シンジ、乗らないならば帰れ。ここは()()()の居る場所では無い』

 

なんちやっ(何を言うか)!!」

 

 シンジが怒鳴った。

 本当にキレていた。

 

わぁなにさまかっ(お前は何様のつもりか)無理に連れっきっせぇ(無理矢理に連れて来ておいて)あぁ(ねぇ)?」

 

 シンジの余りに怒りっぷりに、碇ゲンドウも言葉を無くす。

 まくし立てたシンジの言葉(かごんま弁)は、殆どが理解出来なかった。

 取り合えず怒っているという事以外。

 

 正直な話として碇ゲンドウという人間は、外の人間との対話(立場を基にしたネゴシエーション)は出来ても、そうでない人間との対話(相互理解の為のコミュニケーション)は苦手としていたのだ。

 特に、この様に感情を激した人間を相手にする時は。

 だから黙り込んでしまう。

 

「シンジ君」

 

 助け舟、と言う訳では無いが口を挟もうとした葛城ミサトであったが、赤木リツコが止める。

 腕を強く掴んで、強い視線で止める。

 

「(止めなさいミサト)」

 

 小声で、耳元へと囁く。

 シンジに聞かれない様に、そういう配慮を理解した葛城ミサトも小声で応じる。

 

「(止めないでよリツコ。今、あの子を乗せないと、駄目になる瀬戸際なのよ)」

 

「(アナタの言い方では拗らせるだけよ。今は碇司令を信じましょう)」

 

 言葉通りに信じて居る訳では無い。

 と言うか無理では無いかと思っていた。

 碇ゲンドウの情婦でもある赤木リツコは、かの人間の本質に触れていたのだから。

 弱い人間。

 弱いが故に強くあろうとする人間。

 即ち、()()()()()()

 そうであるが故に社会的立場と言うモノが通用しない身内、それも親子関係が壊れている相手に碇ゲンドウが上手く立ち回れるとは思えなかったのだ。

 

 実際、親子喧嘩は激化の一途(ヒートアップ)となる。

 そして最後にシンジが言い放つ。

 

よかっ(もういい)のっがよ(乗ってやるよ)!! ひっかぶい言われてさがるっか(臆病者などと言われて黙ってられるか)

 

「え?」

 

「ゑ??」

 

 葛城ミサトと赤木リツコは顔を見あう。

 何故、喧嘩の果てで此方(NERV)の言う事を受け入れるのか全く判らない。

 互いにそう言う顔をしていた。

 

じゃっどん(その代わり)あいから降りたらなぐらせい(エヴァンゲリオンから降りたら殴らせろ)そいが対価じゃ(それで良ければ乗る)

 

 シンジの事を反抗期程度と見ていた碇ゲンドウは、その程度であればと受け入れていた。

 若い頃、荒事も好んでいた人間であるが故に、子どもの1発など蚊よりも痒い程度だと馬鹿にしていたという面がある。

 後に、その軽視の対価を自分の身で払う事になる。

 

 

『良いだろう』

 

「後1つ」

 

『何だ』

 

あんとにもあやまらせっくいやいや(あの人にも謝ってもらいたい)

 

 親指で差すのは葛城ミサト。

 強引な手法でシンジを連れてきた上で、丸一晩、昨日からの時間があったにもかかわらず、一切の説明をしてなかったのだ。

 シンジが腹を立てているのも道理ではあった。

 

『良いだろう。終わった後には一考しよう。だが、全ては使徒を倒してからだ。いいな』

 

よか(構わない)二言は無かな(約束、違えたら許さないよ)?」

 

『ああ、問題ない』

 

 睨みあうシンジと碇ゲンドウ。

 それは親子と言うよりも、漢と漢の睨み合いであった。

 

 

 

 

 

 




綾波レイ=サンフラグ、1本目、ぽっきりンゴー

2021/11/28 文章修正

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