サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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 NERV本部内に設けられているプール施設、地下大空間(ジオフロント)に設けられたガラス張りで開放感のあるソレは、訓練施設として設けられたモノであった。

 1つは国連軍からの出向者 ―― 選抜者(チルドレン)護衛部隊向けだ。

 護衛なのに何故、水中訓練が必要であるかと言えば、エヴァンゲリオンが(使徒の都合と言う筋金入りの理由で)何処に展開するか判らない為であった。

 ヘリなどで移動する際に、墜落、或いは遭難した際に守れるようにと言う話であった。

 この為、一般的な護衛部隊はNERVでの生え抜きスタッフ(A幹部主体の部隊)で行えても、出動する際の護衛部隊は国連軍からの出向者(P幹部による部隊)が担っていた。

 さて、もう1つは技術開発部である。

 特にエヴァンゲリオン関連の技術開発局第1課だ。

 エヴァンゲリオンをL.C.Lに漬けての冷却中にも行わねばならぬ作業がある、と言うか使徒の襲来が始まった為、冷却を行いつつ整備をする必要となり、ある種の必須技術となっていたのだ。

 水中作業艇なども用意がされてはいたが、それだけで全てが済む訳ではないのだ。

 

 その様な汗と涙と、少し言えない様なナニカが滲むようなプールであるが、今は子ども達だけの楽園となっていた。

 綾波レイはかなり深めの(足が着かない所ではない深い)プールで物怖じせずに気持ちよさげに黙々と泳いでいた。

 対して碇シンジは、胸の辺りまでの深さのプールで水中ウォーキングをしていた。

 まだアスカは来ていなかった。

 故に2人だけのプール。

 だがそこに会話どころか、互いへの興味すら存在しなかった。

 共に自分の事をしているだけであった。

 

 

 水中を往く綾波レイ。

 水、水の中に居ると言うのは、この寡黙な少女の心に安寧を与える事であった。

 いっそプールの水がL.C.Lであったなら不便な息継ぎをしなくても良いのに、そんな考えを抱く程に水中を楽しんでいた。

 とは言え、如何に綾波レイとは言え体は人間のモノ。

 喉の渇きと身体の疲れ、そして冷えを感じた為、プールから上がった。

 と、姦しい声が聞こえた。

 チラ見をする。

 弐号機パイロット(惣流アスカ・ラングレー)だ。

 泳ぐ用途には向いてなさげなデザインの、派手な色をした水着をして初号機パイロット(碇シンジ)の前で仁王立ちをしている。

 何かを喋っているのが判るが、興味も無いので聞く気が無い。

 だが、プール際での大声なので耳栓を取れば自然と飛び込んできた。

 

「……コレが大人の魅力って奴よ!」

 

「……似合ってるとは思うけど、大人ってどういう所が?」

 

「アンタバカァ!? ワタシの……」

 

「…いや、格好は良いと思うよ…」

 

「………このナイスバディを見ての感想がソレ!?」

 

 流すように聞く。

 内容を気にする気は無いが、元気であるなと納得はした。

 弐号機パイロットは本当に元気だ(五月蠅い)

 そして前は静かだった碇司令(碇ゲンドウ)の息子、初号機パイロットも五月蠅くなった。

 本当に迷惑だ。

 

 世界は碇ゲンドウと赤木リツコ、それに甘木ミツキ(作戦局支援第1課課長)やその他の人たちだけで彩られていた綾波レイにとって、使徒が襲来する様になってから変わった日々は()()()()()()()

 何よりアスカだ。

 今まで、学校は兎も角としてNERVでは物静かで、甲高い声で喋る人間は居なかった。

 それだけでも癇に障る。

 その上で碇ゲンドウの息子、碇ゲンドウを殴った息子と言う事で興味があったシンジの傍に居るのだ。

 そして、何かあれば綾波レイをライバル視した言動、使徒の撃破数を誇る様に言ってくるのだ。

 鬱陶しい。

 それが、綾波レイのアスカに対する正直な気持ちであった。

 最初に出会った時、綾波レイは仲良くしましょうと言ってきたアスカに対して、命令があればそうする(命令が無ければ仲良くしない)と返した。

 本能的な(ゴーストの囁きに従った)言葉だった。

 自分でも吃驚する位に冷たく言った気がした。

 だが今は、言い過ぎた気は全くしなくなった。

 例え命令があっても仲良くしたくない(相手にしたくない)と言う気分になっていたのだから。

 アスカが、自分の領域に対する侵略者であると感じられるからだ。

 バスタオルを羽織って用意されていた飲み物を飲みながら、綾波レイは何か出来る事を考えるのであった。

 

 

 

 

 

「これではよく分からんな」

 

 そう呟いたのは、冬月コウゾウだ。

 場所はNERV本部の作戦局大会議室。

 そこには今、NERV第1発令所の主要スタッフが集まっていた。

 20人近い人間が集まって三々五々に椅子に座り、緊張と興奮と共に、薄暗くされた部屋の中で中央の大画面を見ている。

 大型画面には浅間山地震研究所からの情報 ―― 火口部から突入させた特殊環境観測機(マグマダイバー)が捉えた影が映し出されていた。

 浅間山地震研究所は、火山活動やマグマのメカニズムの解明を通して地震を研究しようと言う施設であった。

 そこが独自に開発したマグマ内の調査機材が、先日に影を発見したのだ。

 不明瞭な映像の中でぼんやりと見えるソレは、球と言うよりも卵めいた姿に見えていた。

 

 マグマの中で存在する直径で40m近い巨大なナニカと言う事で、話が即座に日本政府からNERVへと回ってきたのだ。

 今、作戦局大会議室はNERVの情報分析対応検討室となっていた。

 第1発令所で行わない理由は、通常業務 ―― 日本全域の監視業務が継続中である為であった。

 浅間山地下の影は、現時点では使徒と判断されていない。

 この状況で、全周警戒能力を低下させる訳にはいかないからである。

 

「しかし、浅間山地震研究所の報告通り、この影は気になります」

 

 青葉シゲルが、画面上の影をMAGIによって立体モデリング化させた、それこそ卵としか良い様に無いモノを表示する。

 

「人類にとって未知の領域であるマグマ内です。コレが異常な存在ではないと言う可能性もありますが………」

 

「40m、使徒と符合し過ぎるな。である以上は無視はできん」

 

「MAGIの判断は五分五分(フィフティーフィフティー)、と言った所かしら?」

 

 赤木リツコの質問に、伊吹マヤが即答する。

 

「はい。判断は保留していますが、使徒の可能性は否定されていません」

 

「使徒と認める情報が不足している。そう言う事かね?」

 

「はい」

 

 その声に冬月コウゾウは顎を撫でた。

 本来、この様な情報分析と検討の場に臨席し、或いは取り仕切るのはNERV副司令官と言う役職に求められる事では無かった。

 だが、担うべき作戦局局長である葛城ミサトが現場に出ている ―― 浅間山にて情報収集の指揮を執っているとなれば話は違っていた。

 これが通常の対使徒であれば、次席として作戦局第1課課長代理であるパウル・フォン・ギースラーが辣腕を振るう所であったが、まだ未確認であり、外部組織との連絡もあると言う事で冬月コウゾウが担っているのであった。

 

「葛城中佐は?」

 

「現地に到着、今は新規情報の収集準備中です」

 

「………では、具体的対応は追加情報待ちとして、我々は対応の準備を進めるとしよう。ギースラー少佐?」

 

「はっ! それでは現地へのエヴァンゲリオンの展開に関しまして、手順の確認を致します」

 

 戦争(使徒との闘い)は、大人たちにとって前準備だけが出来る全てであった。

 始まれば、後は子ども達に頼るだけとなる。

 だからこそ、自分たちに出来る事の完璧を目指すのであった。

 

 

 

 自らの職務を遂行すると言う意味では、現場に出ている葛城ミサトも同じであった。

 少しばかりの私情(使徒に対する個人的復讐心)もあったが、それは別にして子ども達に対する誠意は仕事に持ち合わせてはいた。

 プレハブ構造の、浅間山地中調査機の管制所にあって、葛城ミサトは凛として立っていた。

 

「マグマダイバー、限界域です!」

 

 観測機からの悲鳴を前に、研究員が作業の中止を叫ぶ。

 既に観測機は、想定されていた降下限界を超えており、何時、破損しても可笑しくない状態になっていた。

 圧力計は、冗談みたいな数値を表示している。

 だが、葛城ミサトは認めない。

 

「いえ、後500。お願いします(プリーズ)

 

 丁寧にお願い(命令)する。

 反論は許さない、認めない。

 

『深度-1200突破。耐圧隔壁に亀裂確認』

 

 操作作業室からのアナウンスが為される。

 モニターが幾つも消える(通信途絶)

 

「葛城さん!」

 

 観測機に、概念設計の段階から携わっていた研究員が悲鳴を上げる。

 完成したばかりの観測機に、マグマダイバーと言う愛称(ペットネーム)を与えた人間であればこそ、この使い捨てにするが如き運用は耐えがたかったのだ。

 10年は使える機材として開発していたのだから。

 だが、現実は非情であった。

 

「壊れたらうちで弁償します。後200」

 

 悲痛な研究員、だが観測機はよく耐えた。

 限界深度を30%以上も耐えた。

 それは作り手の願いを受けての献身であったか、或いは葛城ミサトの気迫が乗ればこそであったか。

 何れにせよ、勤めを果たした。

 

「センサーに反応アリ!? 捉えました!」

 

 日向マコトが声を張り上げた。

 観測機の最も強固な位置に特設されたNERVの特殊センサー群が、影を捉えたのだ。

 ノイズの多い中にあって、確かに卵の様な影が見えたのだ。

 

「MAGIとの回線に異常なし。解析始めます!」

 

「解析、急いで」

 

 言うまでもない事を口にした葛城ミサト。

 だが、そう言いたくなるほどに観測機の状況は悪かった。

 分析が終わるのが先か、それとも観測機が自壊するのが先か。

 ジリジリとした時間。

 浅間山地震研究所には観測機の予備は無い。

 1回きりの勝負であったのだ。

 後は祈るだけであった。

 

『観測機圧壊、爆発を確認』

 

 無慈悲な報告。

 だが、祈りは通じた。

 アナウンスと同じタイミングで、NERVとの直通(守秘)回線に繋がったパソコンが着信を報告したのだ。

 

「解析結果?」

 

「はい。ぎりぎりで間に合いましたね。パターン青です」

 

 日向マコトのパソコンには、大きく使徒(BloodType-BLUE)の文字が表示されていた。

 大きく息を吸って吐く、そして葛城ミサトが動きだす。

 その文字を目線で殺すような顔をしながら言葉を発していく。

 

「結構、使徒ね。研究所総員の献身にNERVを代表して感謝します。そして同時に当研究所はNERVの管轄下とし、封鎖します。一切の入室を禁じた上、過去6時間以内の事象は、すべて部外秘とします」

 

 影が使徒であった場合、浅間山地震研究所を接収する ―― 対使徒作戦を実施すると言う事は事前に伝えてあった。

 この為、反発は無かった。

 只、悲鳴だけがあった。

 

「そんな、葛城さん!?」

 

 情報の部外秘化、それは今回の深々度降下情報の活用が出来ないと言う事を意味しているのだ。

 研究員が悲鳴を上げるのも当然であった。

 

「使徒の情報はNERVの特務法(特務機関NERVに関する法案)で定められているわ。悪いけど諦めて頂戴」

 

 研究員に対するその言葉にだけは、少しだけ(葛城ミサトの甘さ)があった。

 

 

 

 

 

 使徒発見、そこから対使徒戦闘へとNERVが動こうかと言う時に、強烈な待ったが掛けられた。

 掛けて来たのは日本政府である。

 浅間山、その火山現場での作戦行動は勘弁してほしいと言う強い要請(脅迫)であった。

 その念頭にあったのは、先の第7使徒による最後の大爆発だ。

 海中の地形を一変させるような爆発であり、爆心地から離れた海底に、緩衝材としての海水があったにも拘わらず直径が100m近い巨大なクレーターを作る様な爆発をした事であった。

 そんなモノが地中 ―― マグマの中で爆発した場合、どれ程の影響が出るか想像も出来ないと言うのが実情であった。

 使徒を倒せても、そうなのだ。

 その前段階の戦闘も含めて考えれば、下手すれば浅間山の噴火に繋がりかねない非常事態であった。

 日本政府が本気でキレるのも当然と言えた。

 特に浅間山の近くは前橋市などの関東平野北域であり、壊滅した東京からの避難民が漸く定住を果たし出した場所なのだ。

 しかも、再開発で機械化された高度な農作業地帯に生まれ変わっても居るのだ。

 そんな場所を危険にさらすなど、日本政府が受け入れる筈が無かった。

 日本政府の行動の素早さ、そして怒りは、即座にNERVの上位機関である国連人類補完委員会の駐日本代表部部長を外務省に呼びつけた所にも出ていた。

 常日頃は、激発した態度を見せる事のない外務省官僚が、真顔で、NERVが万が一にも浅間山領域での対使徒作戦を強行するのであれば、日本政府は座視しないと告げたのだ。

 その会談のテーブルには戦略自衛隊のスタンプが押された小冊子が用意されており、日本政府の本気(軍事力の行使)が表されていた。

 無論、その小冊子を駐日本代表部部長が見る事は出来なかったが、その小冊子の表には赤いインクで大きくA-801の文字がスタンプされてたのだ。

 その意味は、NERVの日本国内での全権限、特権の剥奪である。

 誤解する余地など無かった。

 日本政府は、特務機関NERVに関する法案によるNERVに対し、使徒との闘いに関する優越権を認めている。

 だが同時に、国連に唯々諾々と従い、国民の死ぬ可能性を受け入れる気は無かった。

 そう言う事であった。

 この反応に先ず慌てたのはSEELEだった。

 急いで碇ゲンドウを呼び出すと、対使徒作戦の停止を命令した。

 厳命した。

 

 

『碇、今回はA-17を想定していると言う。こちらから打って出るのか?』

 

「そうです」

 

『駄目だ、危険過ぎる! 15年前を忘れたとは言わせんぞ!!』

 

「これはチャンスなのです。これまで防戦一方だった我々が、初めて攻勢に出る為の」

 

 強く反論する碇ゲンドウ。

 その発言も、一面では真実であった。

 まだ何も判らぬ使徒と言う存在を知る為、NERVは浅間山の使徒が卵状態である事を利用して捕獲を試みるとしていた。

 使徒の生体情報を得る機会との判断であった。

 

『リスクが大きすぎる』

 

 SEELEの議長を務めるキール・ローレンツが、断言する様に言う。

 生きた使徒の捕獲が成功したのであれば大きな成果と成る。

 だが、もしソレが捕獲後、観測中に使徒へと羽化しようとした場合、出来る対応は無いだろう。

 撃滅以外の選択肢は取りようがない。

 少なくとも現時点では。

 そして使徒に関する情報は、既に第3、第4、第5、第6と4体もの使徒を屠り、その遺骸からの情報の収集に成功しているのだ。

 危険を冒して、生きている状態の使徒を捕獲するべき理由が無かった。

 

『左様。しかも捕獲作戦、エヴァンゲリオンをマグマ内へと直接投入すると言う話ではないか! 此方のリスクも看過できん』

 

 前人未踏どころではない極地で、高価極まりないエヴァンゲリオンの喪失リスクが高い作戦など受け入れたくも無いと言うのがSEELEの本音でもあった。

 しかし、碇ゲンドウとて折れない。

 人類補完計画に於ける最大の障害となる使徒を知る機会を、みすみす見逃したくは無かった。

 知る事は対応に繋がるのだから。

 

「しかし、生きた使徒のサンプル、その重要性は、すでに承知の事でしょう」

 

 それに、卵から使徒が羽化しようとしても封印技術は実用化されつつある。

 SEELEも碇ゲンドウも口にしないA号封印体(Solidseal-α)、Adamの活性化封印技術は存在しているのだ。

 これを前提に考えれば、使徒を生きたまま捕獲し、安定させると言うのは絵空事では無いのだから。

 

 電子化された仮想空間で睨み合う、碇ゲンドウとSEELEの一同。

 誰も視線を揺るがす事はない。

 真っ向からのぶつかり合い、その勝者は言うまでも無かった。

 

『碇、君の任務に対する誠心は評価しよう。だが今回は折れよ』

 

『左様。これがSEELEの決定である。良いな?』

 

「………はっ、全てはSEELEの決定の儘に」

 

 

 

 意識が現実世界に回帰すると共に、碇ゲンドウは大きく息を吐いた。

 傲岸不遜、交渉者(タフネゴシエーター)として知られる漢とは言え、SEELEの意向に真っ向から逆らうが如き行為は実に大きな負担を与えていたのだ。

 目を閉じて、椅子に背中を預ける。

 

「冬月」

 

 名を呼ばれた冬月コウゾウは、長かったSEELEとの仮想会議の間中、碇ゲンドウの後ろで直立不動と言う姿勢で立ち続けていた。

 その疲労を表に出す事無く、碇ゲンドウの欲した情報を口にする。

 

「どうやら松代が動いた様だ」

 

「政治屋か」

 

「ああ。国に寄生する手合いどもではあるが、なかなかどうして、宿主(日本国)を気遣っているようだよ」

 

「交渉は可能か?」

 

「今回に限れば無駄だな。調査情報局の伝手(パイプ)でも、かなり態度が強硬だと言う。如何にお前であっても、今回は難しかろう」

 

 交渉と言う行為は、相互にその意思があって始めて成立する。

 今回の日本政府の様にシンプルに(Yes or Noと)要求を呑む(使徒捕獲作戦の中止)死ぬ(日本政府との全面衝突)かと腹を決めて来られた(選択を尋ねられるだけの)場合、出来る事など何も無かった。

 辣腕の交渉者であるが故に、碇ゲンドウはその事を良く理解していた。

 だから静かに受け入れる。

 

「そうか、なら、仕方があるまい。葛城中佐には監視と情報収集を命令するとしよう」

 

「仕方があるまいよ」

 

 

 

 

 

 


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