サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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 日本政府が見せた()()によってNERV初の、使徒に対する攻勢作戦は頓挫する事となった。

 その事に面白く無いモノを感じつつ、葛城ミサトは受け入れていた。

 使徒撃滅こそを人生の目的、存在意義と感じている復讐者(バーサーカー)ではあったが、世界を受け入れない程にトチ狂っては居なかったからだ。

 とは言え、使徒を野放しには出来ないとして、継続的な監視を主張した。

 コレに関しては日本政府としても否定する要素は無いので、NERVの誰もが驚くほどに簡単に同意が得られた。

 

「なーんか、ネェ」

 

 腑に落ちないとばかりに愚痴る葛城ミサト。

 その横で苦笑する赤木リツコ。

 

松代(日本政府)が危惧したのはエヴァと使徒の交戦、その余波だもの。戦闘で無ければと言う事でしょ」

 

「そりゃ、分かるけどさー」

 

 そこにはNERV実戦部隊の指揮官、女傑(マム)葛城ミサトの姿は無かった。

 大学時代と変わらぬ、腑に落ちない事に文句を言う(ブー垂れる)学生めいた態度であった。

 この場に居るのが親友(マブ)だけだと言うのが大きかった。

 2人が居るのはNERV本部の技術開発局施設、その管理室だ。

 管理室から見下ろせる工作室では、大急ぎでの機材製造が行われていた。

 第8使徒として認定されたマグマ内の使徒、その使徒を捜索する際に壊した浅間山地震研究所の観測機の代わりを作っているのだ。

 葛城ミサトがNERVが弁償すると啖呵を切ったから、と言うだけではない。

 そもそも、現時点では損壊した観測機の他はマグマ内の状況を把握する手段が無かったのだ。

 NERVは渡世の義理以上に、自分の都合で観測機を用意しようとしていた。

 国の機関とは言え、予算カツカツな浅間山地震研究所が作った先代とは違う、NERVがエヴァンゲリオン用などで用意していた資材を流用して作られる観測機は、以前のモノよりも遥かに性能の向上した深々度特殊環境観測機(スーパーダイバー)であった。

 圧壊した先代観測機の運用情報を元に設計を再検討し、構造計算にはMAGIまで駆り出しているのだ。

 

「で、どれくらいで完成しそう?」

 

「このペースなら明後日には持ち込める筈ね」

 

「そっ、ならコッチも展開させておくか」

 

「展開?」

 

「展開。観測機の護衛って事でエバーを1機、配置させるわ」

 

「………大丈夫なの、そんな事して?」

 

「やねー 潜らせないって。地上配置よ」

 

 流石にそこまで無茶はしないと笑う葛城ミサト。

 只、日本政府に止められるまで、エヴァンゲリオンの出動準備を進めていたのだ。

 折角だから、訓練を兼ねて行おうと言う腹積もりであった。

 

 浅間山地震研究所のある一帯は、第7使徒と交戦した太平洋岸とは違いエヴァンゲリオンの運用基盤は一切ない。

 ()()()()()、であった。

 将来的な広域展開、第3新東京市からより遠方で使徒に対する邀撃戦を行う為の情報収集と言うのが目的であった。

 

「エバーもだけど………」

 

 言葉を濁した葛城ミサト。

 言われなくとも、理由を赤木リツコは理解した。

 支援機(機動電源ユニット)、JAだ。

 元が日本重化学工業共同体(J.H.C.I.C)の技術実証試験機 ―― 反応炉(ニュークリア・リアクター)を持つ人型ロボットを作ってみたと言うだけの機体である為、その運用は簡単ではないのだ。

 現在、JAと共にNERVへと出向して来ていた時田シロウ技術官を中心にしたチームによってJAの後継機、エヴァンゲリオンの支援機として1から設計された機体の開発が進められている。

 反応炉(ニュークリア・リアクター)よりも新世代の、より安全なN²反応炉(ノー・ニュークリア・リアクター)を搭載した支援機だ。

 とは言え、まだ概念設計の段階である為、如何に予算や人員を手配しても就役は当分先と見られていた。

 無茶なスケジュールを組んではいるが、それでも改良型JAが就役するのは最短で年末、そう見られていた。

 

 兎も角。

 折角の準備命令を発したのだから、せめて有効活用はしたいと言うのが葛城ミサトや作戦局の総意であった。

 それを碇ゲンドウも理解し、日本政府に対しても了承を求めた。

 日本政府も、観測と実働試験の範疇であればと受け入れたのだった。

 

「生体情報の収集と継続的な観測の実施は大きいわね」

 

「ええ。アレが使徒として羽化する際に何らかの反応を示すのであれば、それを元に地球全体への監視網の構築が可能になるんだもの。日本政府としても万々歳の筈よ」

 

 卵状態の使徒を察知できれば、或いは羽化情報を得られれば、日本の国土の外で対使徒戦闘(邀撃戦闘)を行う事が可能になるのだ。

 日本政府としても、是非にやって欲しいと言う話であった。

 

 

 

 

 

 浅間山一帯への出動訓練。

 それに際して投入できるエヴァンゲリオンは1機のみであった。

 3機(保有全機)は勿論、2機でもあらぬ疑いを招く為の処置であった。

 問題は、誰を連れていくかであった。

 トップスコアを誇る碇シンジ。

 抜群の操縦才覚を見せる惣流アスカ・ラングレー。

 沈着冷静さに優れる綾波レイ。

 非常時への対応力で言えば前者2人が圧倒的であるが、同時に()()()()()()

 とは言え、非常事態に冷静に対応できるが、同時に対応力と言う意味では2人に劣るのが綾波レイなのだ。

 一長一短と言う塩梅であった。

 さて、どうするか。

 指揮官(最高責任者)である葛城ミサトは、エヴァンゲリオン格納庫(ケイジ)傍に設けられている操縦者待機室で頭を悩ませた。

 眼前には、その3人が揃っている。

 作戦伝達を行う為、集まらせていたのだ。

 状況説明。

 手順説明。

 そこまでは良かった。

 後は配置発表と言う所で、止まってしまったのだ。

 

「で、どうするのよ?」

 

 いい加減、焦れたアスカが葛城ミサトに言葉を促す。

 同意する様にシンジも頷いている。

 即座の第8使徒との交戦が消えた結果、2人は勉強の為(修学旅行中向けの課題)に第3新東京市の市立図書館に行っていたのだ。

 そこで呼び出し(緊急呼集)を受けたのだ。

 戦意旺盛なアスカからすれば、とっとと決めろ。

 動くなら動こうと考えているのだから、当然の反応とも言えた。

 

「そうね、じゃ、折角だから__ 」

 

 アスカとエヴァンゲリオン弐号機を派遣しようか、そこまで言いかけた時に綾波レイが手を挙げた。

 

「決まって居ないのなら、私が出るわ」

 

「レイ?」

 

 誰もが綾波レイを見た。

 沈着冷静で寡黙であり、同時にエヴァンゲリオンにそこまで積極的(戦闘への意欲が旺盛)ではないと思われていた所に、この態度である。

 当然の反応であった。

 そして、綾波レイからしても当然の反応であった。

 もし、派遣されるのがシンジとなればアスカと2人で待機する事になる。

 ()()()()()()()()()()()()

 五月蠅い、と。

 お喋りなアスカは、何かと話しかけてきたりする。

 それが嫌だった。

 自分の世界を崩しに来ると綾波レイには見えたのだ。

 派遣されるのがアスカであれば、シンジと残るのであるが、此方であれば問題は無い。

 只、確率は五分五分(シュレーディンガーの猫)

 であれば、確定前に動くのが良い。

 そういう判断であった。

 黙って待っていては、状況は自分の好みから離れてしまう。

 欲するのであれば動かねばならない。

 それは、ある意味で綾波レイがアスカに学んだ事であった。

 

 

「ファーストって、どうしたのアレ?」

 

「さぁ? 僕に聞かれても困るよ」

 

「……それもそうね。それよりお昼のお弁当、ケバブ(ドネルケバブ)出来た?」

 

「無茶言うなよ。羊肉なんて、ここら辺だと売ってないんだから」

 

 それはお弁当のリクエストだった。

 勉強会での昼食、弁当を用意する際に何か食べたいものはあるかと尋ねたシンジに、アスカが思いついたのは、加持リョウジを護衛に街へ出た時の思い出の味だった。

 露店で食べた味。

 一流の味ではない(ジャンクフードではあった)が、数少ない遊びとしてドイツの街にでた思い出と共にあった。

 だから咄嗟にリクエストをしたのだ。

 問題は、日本では羊肉の流通量は極めて少ないと言う事だだ。

 今日明日と、短時間で用意出来る様なものでは無かった。

 

「そこを何とかするのが男の甲斐性って言うんでしょ、日本じゃ」

 

「男が困ってると、そっと助けてくれるのが内助の功(女性の嗜み)だって聞いたけど?」

 

「へぇー わタしってソウ言う日本語、語彙を知らナクて判らないワ」

 

 シンジの反論を鼻で笑って、如何にもな胡散臭いイントネーションで返事をするアスカ。

 口では勝てぬと、何度目かの敗北を理解したシンジは、深いため息をついた。

 それからそっと言い添える。

 

「一応、スパイシーに味付けをしたチキンのサンドイッチを用意したから、勘弁しておいて」

 

Danke(ありがとう)

 

 

 こそこそと会話していたシンジとアスカを見て、葛城ミサトは何となく綾波レイの心情を理解するのだった。

 2人が惚れた腫れた(steadyな関係)の類では無い事は、会話に親密さがあっても糖度(love)が感じられない事や碇家(プライベート)での姿を見ていて判っているし、そもそもアスカは常に加持リョウジが大好きだと公言しているのだ。

 だが、それでも誤解しそうな距離感がシンジとアスカにはあった。

 共に努力家であり目的の為には骨を惜しまぬ性格をしている。

 正に馬が合った、と言う事なのだろう。

 そんな風に納得した葛城ミサトは、綾波レイの上申を受け入れる事とした。

 

「ならレイ、今回はお願いね」

 

「判りました」

 

 

 

 

 

 地上を往くエヴァンゲリオン。

 展開用の専用システム ―― 鉄道輸送システムが浅間山付近までは無い為、陸上輸送専用車(エヴァンゲリオン・キャリー)に乗せられて運ばれる。

 幸い、高速道路であれば対向車線も含めて4車線占拠する事で移動が可能な為、浅間山近くの小諸市までは移動が可能であった。

 無論、その様は完全に高速道路を封鎖しての移動である為、移動するエヴァンゲリオンの姿はマスコミの手を借りる迄も無く民間に広がっていった。

 高速道路入り口を封鎖している警察や戦略自衛隊の車両、隊員の姿。

 赤色灯を回したパトカーに先導され、高速道路を移動していく超大型車両(エヴァンゲリオン・キャリアー)の姿。

 搭載しているモノの詳細は、薄灰色(都市型迷彩色)の防水カバーに隠されて判らぬが、尋常ではないモノを運んでいる事だけは、その物々しい雰囲気から、理解出来ると云うものであった。

 そもそも、それ以前の、第3使徒との闘いから日本の地図を書き換える勢いでの戦闘が続いていたのだ。

 隠蔽しようと言うのが無理、と言うべきであった。

 結果、NERVは日本政府と協議のうえで、NERVの事と使徒の事とを慎重に公開していく事としたのだった。

 だが、エヴァンゲリオンに関してはまだ良かった。

 少なくとも専用の輸送手段は整っていたのだから。

 問題は支援機、JA(ジェットアローン)である。

 元は技術実証機を改造した機体である為、そもそも、移送と言うモノを考慮に置いた構造になっていなかったのだ。

 幸い、エヴァンゲリオンに似た寸法であった為、分解して輸送する事となった。

 全幅をコンパクトにする為に両腕を肩部分から分離させたのだ。

 それ以外にも、作業支援用として増設されたクレーンの類も分解されている。

 結果として、輸送後には機能確認も含めて半日は必要と言う大仰なシステムとなっていたが、支援機としての利便性と、何よりも電力供給能力が評価されている為、現時点では仕方がない事とNERV作戦局としては是非も無いと受け入れていた。

 

 

 煌々とライトに照らされた高速道路を走る、大名行列めいた(NERV御一行様と言った塩梅の)車列。

 その様をNERV本部の上級者用歓談室に持ち込んだノートパソコンで見ながら、葛城ミサトは物思いに耽っていた。

 別に仕事はしていない。

 第3新東京市から小諸市までは、車列の長さもあって半日近く必要となるのだ。

 その間中、気を張っているのも面倒くさいと言うものであった。

 そもそも作戦局の部下が思い思いに休憩できる様にと、此方に来ていた。

 

 手には珈琲を淹れたカップがある。

 それが冷めきっている辺りに、葛城ミサトの思索が長い事が判る。

 考えているのは、部隊の移動であった。

 JA程ではないにせよ、エヴァンゲリオンも移送には手間が掛かっている。

 今回の事では移動に時間が掛かっても大きな問題とはならぬのだが、()()であればそう云う訳にはいかない。

 さて、どうするべきかと考えていたのだった。

 そこに赤木リツコがやってきた。

 

「あらミサト、まだ居たの?」

 

 疲れた顔をして、手には書類の束を抱えている。

 赤木リツコも又、仕事に来たのだった。

 

「移動は明日のあさイチ、レイと一緒にチョッパー(CMV-22B)で現地入り予定。四六時中、責任者が傍に居たって迷惑ってモンよ」

 

 チョッパーとは本来はヘリコプターのスラングであったが、葛城ミサトのいい加減さもあってNERVでは垂直離着陸機(飛行機)であるCMV-22Bの事を、そう呼んでいるのだった。

 尤も、軍事的素養の無い赤木リツコは知らなかったが。

 

「そうね。しかめっ面した指揮官何て鬱陶しいだけでしょ」

 

「へー へー その通り」

 

 葛城ミサトの隣のソファに座る赤木リツコ。

 天井を見上げる様にして溜息をつく。

 

()()()()?」

 

「ええ。何とか。予定通り明日の朝には現地に送れるわよ」

 

 尋ねたモノは勿論、NERV技術開発局で製造していた観測機だ。

 当初は余裕で完成し現地へと送り届ける予定だったのが、製造が遅れていたのだ。

 それは、通常の観測だけではなく、使徒の卵に接近できる様に限定的であっても機動力が付与されていて欲しいとの要望が追加で出た為、機体構造の再検討から始まって設計変更が行われた結果だった。

 責任者である赤木リツコの負担は極めて大であった。

 

「ゴミン、助かったわ」

 

「せいぜい感謝する事ね」

 

「しますします、神様仏様赤木リツコ様!」

 

 拝む様な仕草を見せる葛城ミサトに、赤木リツコも噴き出す。

 とは言え葛城ミサトの謝意は本気であり本音であった。

 観測機が無ければ、浅間山にまで行く意味が全く無いのだから当然であった。

 

「ホント、ミサトは現金ね」

 

「感謝しているのは本当よ? だから珈琲だって赤木リツコ様の為に淹れちゃうわよ」

 

「結構よ。ミサトが淹れるより自分でやった方が美味しいもの」

 

「ゑ~」

 

 気楽い会話を繰り広げる2人。

 葛城ミサトの分まで淹れてあげる赤木リツコ、珈琲が趣味だと言うのが良く判る仕草であった。

 豊かな香りが歓談室に満ちる。

 気分転換の雑談、その話題に関しては途切れる事は無かった。

 と、話題の中で特に盛り上がったのは綾波レイに関してであった。

 積極性を見せたその姿は、葛城ミサトは勿論、()()()()()()()赤木リツコすらも知らない姿であった。

 

「驚いたわね」

 

「ええ」

 

「あの後、ミツキから改めてレイの処遇の改善を図るべきだって強い調子で言われたわ」

 

「ああー」

 

 葛城ミサトと赤木リツコの大学同期で、NERVでは作戦局支援第1課課長として子ども達(チルドレン)の全般を支えるのが天木ミツキだ。

 その職務は、訓練と同時に生活全般も含まれている。

 そう、今の綾波レイの住環境その他の改善は、支援第1課が常に問題として考えている事であったのだ。

 隣人の住まない、廃墟同然の単身者用マンションに1人で住む綾波レイ。

 幼少期から()()であり、()()であるが故に、生活環境の変化による心理面への影響を考えて、手が出されていなかった聖域であったのだ。

 エヴァンゲリオンを動かすのは心。

 ()()であるが故に、心に影響が出る事にNERVは慎重であったのだ。

 

「それでミサトとしては?」

 

「受け入れるべきって思ってるわ。正論だし、何より他の2人(シンジとアスカ)と生活環境に差があり過ぎるってのは、正直、どうかって思うもの」

 

「そうね………」

 

「そういうリツコはどう見る?」

 

「ま、情動の発育が遅れていたレイが、そうね、成長し始めたって事ね」

 

 良い話だと、他人事の様に言う。

 とは言え本音は別だった。

 赤木リツコの情夫 ―― NERV総司令官である碇ゲンドウは、その野望故に受け入れないのではと思っていた。

 人類補完計画の鍵となる存在、それが綾波レイなのだ。

 そうであるが故に綾波レイの成長と言う名の変化、言ってしまえば()()を受け入れるだろうか、と。

 

「兎も角、そこは最後は碇司令の判断ね」

 

ミツキの所(支援第1課)が子どもの環境全般は担当しているから、そこまでの決裁は要らないでしょ?」

 

「あっ、そ、そうね」

 

 そう言えば、建前の為にそう言う風に(チルドレン関連の権限譲渡を)した事を思い出した赤木リツコ。

 どうやって止めるか。

 そもそも止めるべきなのか。

 怜悧な赤木リツコでも即決しえない問題であった。

 だから、最後には匙を投げた。

 或いは棚上げした。

 天木ミツキの要請を、葛城ミサトが自分の権限で受け入れて決定した。

 その事を自分は知らない。

 関係ない、と。

 

 そもそもとして、情夫の別の女の事まで考えてやる義理は無いでは無いか。

 疲れていた赤木リツコの理性的な脳細胞は、そう言う俗めいた結論を出し、女性としての感情がそれを支持した。

 後で知って、碇ゲンドウが慌てる様を見るのも楽しみだ。

 どれ程に慌てるだろうか。

 日頃澄ましている髭面をどれ程に歪めるのだろうかと、そんな手酷い未来予想図を赤木リツコは少しウットリと想像してしまって(駄メンズを愛でる母的な感情を抱えて)いた。

 

「ん? リツコ、どった?」

 

「何でも無いわ、何でも」

 

 

 

 

 

 関係各位の様々な努力や心労、疲労を乗り越えて第8使徒を偵察する機材、部隊の準備は整った。

 最初の機材よりも高性能、更なる深々度まで潜れる機材を得た浅間山地震研究所はホクホク顔であった。

 しかも、使徒の偵察任務での運用は、その費用をNERVが持つ事と定められたのだ。

 笑顔にならぬ方が不思議と言うものであった。

 

 そしてエヴァンゲリオン4号機とJAであるが、此方は少し離れたスキー場跡地に展開していた。

 直線距離で10㎞以上も離れていたが、浅間山地震研究所の敷地は全高40m級と言う巨大で重量のあるエヴァンゲリオンを配置する余力が無いから仕方がない話であった。

 或いは当然の話とも言えた。

 兎も角として、エヴァンゲリオンを含めたNERVの実働部隊は取り敢えずは数日、現地にて待機して撤退するモノとされた。

 使徒と向かい合うが、実戦の危険性はないと誰もが考えていた。

 最終日には手早く片づけを行い、近くの温泉宿に宿泊して英気を養う事も考えられていた。

 無論、NERVの予算で行う事を作戦局局長代行(葛城ミサト)が自らの権限で決定し、決裁していた。

 葛城ミサトは経費の使い方を心得ていたと言うべきであろう。

 

 誰もが気楽に構えていた。

 深々度特殊環境観測機(スーパーダイバー)がマグマに潜るまでであった。

 以前に計測した深さに潜った観測機が見たのは、以前とは異なる形へと変容していた使徒の卵であった。

 観測機のセンサー群は、その変化が急速に続いている事を示していた。

 それは信じられない速度であった。

 卵の内側に影も形も無かったものが急速に生まれていく。

 それは生命の成長にも似ていた。

 

「まずいわ、羽化を始めたのよ。計算より早すぎるわ」

 

 赤木リツコが信じられないとばかりに声を挙げる。

 科学者としての常識が、目の前の現実を処理しきれなかったのだ。

 信じられない、ただそれだけであった。

 だが、実務屋(軍人)である葛城ミサトは違った。

 

「まさか、コッチに気付いたって事!? エバーは離して置いてあるのに!」

 

「恐らくは観測機ね、あの極地に来た存在を敵として認識したんだわ」

 

「ちっ」

 

 忌々し気に舌打ちした葛城ミサトは、凛とした声を張り上げる。

 それは有無を言わさぬ命令であった。

 

「総員撤退! 浅間山地震研究所は放棄! それからエバーに連絡、レイに搭乗待機を伝達! 急いで!!」

 

 誰もが予想しなかった形で、第8使徒との闘いが始まる。

 

 

 

 

 

 




2022.06.19 文章修正
2022.06.25 文章修正

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