サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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 浅間山にてエヴァンゲリオン4号機が第8使徒と交戦を開始する。

 その一報を聞いた誰もが、NERVの現場指揮官が暴走した(葛城ミサトがやらかした)と思い込んだ。

 特に、葛城ミサトの性(使徒に対する高い戦意)を知る人間であればある程に、その独断専行を疑ったのだった。

 そして同時に、葛城ミサトを管理する碇ゲンドウ(陰謀屋の策動)を疑った。

 それはある意味で、実績や評判による評価と言うべきものであった。

 

 

 葛城ミサトには直接命令を下し、釘を刺した碇ゲンドウ。

 日本政府も国連人類補完委員会も、今回の使徒に対する攻勢作戦は認めなかった事を伝え、キチンと納得と同意も得ていた。

 実際、浅間山に持っていく機材を確認した際、エヴァンゲリオンがマグマに潜れる装備は無かった。

 開発中の特殊環境装備の所在も確認したが、所定の位置から動かされていなかった。

 だからこそ、碇ゲンドウは困惑していた。

 現場からの報告は、混乱したモノとなっており要領を得ない。

 腹心と言って良い赤木リツコも現地に居るのだが連絡が取れないのだから仕方がない。

 NERV総司令官執務室でジリジリと、続報を待っている碇ゲンドウ。

 その手元の電話機が鳴る。

 漸くの続報、詳細かと急いで取れば、予想外の相手であった。

 

「私だ」

 

『私だ、ではない!! 碇君! 君、これはどういう事だね!?』

 

 SEELEであった。

 NERVの部内回線に割り込んで来た上位者 ―― SEELEの構成員(メンバー)の中で、対外交渉の類を担当する人間であった。

 当然、()()()()()()()()()()()()()()()

 怒髪衝天と言わんばかりの勢いで、怒鳴っている。

 受話器を少しばかり離さねば、耳鳴りがするほどの大声だ。

 顔を顰めつつ、ご意見を拝聴と言う風に返事をする碇ゲンドウ。

 常日頃の、閉鎖回路仮想会議でなかったお陰で、顔を取り繕う必要が無いのが有難い。

 そんな事を思いながら。

 

「申し訳ございません。我々としてもまだ詳細が入っておりません、入り次第、即座にご報告いたしますので、それまでお待ちいただければ」

 

 慌てるなハゲ、と言う様な本音を幾重にもオブラートに包み込んで返事をする。

 

『情報操作は君の得意とする所ではなかったかね!?』

 

「そう言う懸念を抱かれている事は理解します。ですので、解析前の情報を提出致します。宜しいでしょうか?」

 

 生情報の海に溺れて溺死しろ、分析と解析と評価は面倒くさいのだと言う本音を飲み込んで、淡々と上申する。

 と、別の電話機が鳴った。

 部内の非常用回線だ。

 恐らくは浅間山での報告なのだろうと、手を伸ばす碇ゲンドウ。

 ついでに、この面倒くさいSEELEへの対応を終わらせる事が出来るとばかりに電話を終わらせようとする。

 

「失礼します」

 

『切るな! 報告なら私にも聞かせたまえ!!』

 

「はい ――」

 

 上位者(SEELEメンバー)に言われては仕方がないと、通話機を切らずに非常用回線を取る。

 ついでに、スピーカーモード(ハンズフリー)ボタンを押す。

 小さな嫌がらせと言う事も考えたが、聞こえないと怒鳴られても面倒くさいと思ったのだ。

 中間管理職の悲哀的なモノを感じつつ、組織トップらしい声を作る。

 

「―― 私だ」

 

『失礼します碇総司令官。作戦局第1課ギースラーです。現場との連絡が回復した報告が上がりました』

 

「ご苦労。で、ギースラー少佐。状況はどうなっているのかね?」

 

『はっ、葛城中佐ら現場スタッフは現在、使徒の羽化に伴って浅間山の観測ポイントから撤退。現在、山麓の実働(エヴァンゲリオン)部隊との合流を図っているとの事です』

 

「通信途絶は、使徒による妨害か?」

 

『はっ、詳細は不明ですが、第6使徒での前例がありますので、その可能性は高いかと』

 

「理解した。確認だが、葛城中佐はエヴァンゲリオンを浅間山の研究所付近へは持ち込んでは居ないな?」

 

 無論、この質問の目的は、SEELEに対する釈明であった。

 

『事前の計画通り支援機と共にポイントα、接収したスキー場跡地で迎撃準備を進めさせています』

 

「判った。A-17の発令、及び近隣住民の避難に関しては此方から日本政府に手を回す。作戦局として何かあるか?」

 

『今回、長距離移動訓練と言う事で国連軍(火力支援)部隊が現地におりません。至急、本部待機の2機を投入するべきと判断します』

 

「良かろう。作戦局の判断に口は挟まぬ。全力でやれ」

 

『有難うございます、全力で__ 』

 

 そこまで言った時、パウル・フォン・ギースラーの電話機の向こうで声が上がり、言葉が止まった。

 受話器(マイク)を手で遮り、会話する気配。

 少しばかりの時間の後、改めて話し始めた。

 

『現地からの報告です。地中から使徒が出現、空を()()()()()との事です」

 

 

「空を ―― 」

 

『―――― 泳いでる?』

 

 余りにも想定外の言葉(報告)に、異口同音にオウム返しをする事となった碇ゲンドウとSEELEのメンバー。

 それから、まるで目線を合わせる様に碇ゲンドウはSEELEと繋がる受話器を見たのだった。

 

 

 

 

 

 大急ぎで進められるエヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機の空中輸送準備。

 第3新東京市郊外の軍民共用型の大規模国際空港(第3新東京市空港)へ、直結された地下輸送路(ルート)を使って2機のエヴァンゲリオンを輸送。

 そこからエヴァンゲリオン輸送用の超大型全翼機、CE-317(Garuda)に積み込んでいく。

 その作業の傍ら、格納庫内の片隅で碇シンジと惣流アスカ・ラングレーの2人は現地情報と作戦内容の告知(ブリーフィング)を受けていく。

 共に既にプラグスーツを着込み、上にはポンチョ風の待機上衣(オーバーコート)を着ている。

 椅子に座り、現地に居る葛城ミサトに変わって指揮を執るパウル・フォン・ギースラーの言葉を聞いていく。

 第8使徒の情報。

 エヴァンゲリオン4号機の状態。

 そして近隣住民の避難状況。

 戦闘に必要な情報を叩き込んでいく。

 

「正直な話として、今回、あの現場での戦闘は想定されていなかった。故に、国連軍部隊の展開と住民の避難が遅れている。戦闘が始まった場所は過疎地であった事は幸いだが、戦闘を継続しながらも戦闘エリアはゆっくりと南下している」

 

コッチ(第3新東京市)を狙って動いているって事?」

 

「恐らくは。4号機との戦闘を継続しつつ、それを忘れていないと言った所だろう」

 

じゃっとなら(そうなら)こけをあけてよかとな(2機とも出撃してしまって大丈夫なんですか)?」

 

 シンジの訛のキツさに閉口しつつ、だが、それが正論であると認めて頷くパウル・フォン・ギースラー。

 歴戦(ベテラン)の機甲将校らしい果断さで、結論を口にする。

 逃がさなければ良い、と。

 

「第8使徒がどの様な能力を隠し持っているかは判らない。もしこのまま第3新東京市を狙ってきた場合、その過程でどれ程の被害が地上に齎されるか判らない」

 

 浅間山一帯から第3新東京市を狙う際、人口密集地帯としては甲府盆地がある。

 迂回された場合、関東平野北部が含まれる可能性もある。

 或いは日本の中心、首都第2東京(松代)に被害が出る事も想像される。

 逃す訳にはいかなった。

 そもそも、再度マグマにまで潜られてしまえば位置を捕捉する事は不可能になる。マグマを介した攻撃など行われれば、その被害は想像も出来ない事になるだろう。

 

「よって、今、あの場で使徒を仕留める。判ったかい?」

 

わかいもした(判りました)!」

 

Jawohl(任せて)!」

 

 力強い返事をした2人に、パウル・フォン・ギースラーは深い満足を覚えながら頷いた。

 それから細かい注意点を述べていく。

 最大のモノは、事前に物資の集積が行えていないので、携帯していく以上の武器の補充には時間が掛かると言う事であった。

 現在、大型輸送機は2機が就役している。

 その2機でエヴァンゲリオンを輸送後に、改めて武器を輸送する手筈となっているのだ。

 どれ程に急いでも1時間は必要と考えられていた。

 

「だって。シンジ、気を付けなさいよ?」

 

「最後に壊したのはアスカだと思うよ?」

 

「言うわね………」

 

「注意と、事実は大事だからね」

 

「オーケェー なら、この使徒との闘いで白黒つけようじゃないの」

 

 好戦的な顔を見せるアスカに、シンジも退かない。

 笑い合う。

 

「フフッフフフッッ」

 

「ま、僕が勝つよ」

 

「言ってなさい。その代わり負けたらFleischkäse(型焼きソーセージ)、出してよね」

 

「フラッ、ってアレ? 前に一緒に探した時に無かったじゃないか、納得したんじゃなかったの!?」

 

 2人で自転車にのって第3新東京市縦横に探したのだ。

 芦ノ湖周辺だけではなく北は甲府、南は小田原まで1日かけて走り回ったのだ。

 思い出して食べたくなったアスカが、案内役と称してシンジを引っ張り出し、何軒回っても見つからず、もはや引けぬとばかりに肉屋をしらみつぶしにしたのだ。

 ヤケクソと言える行動であった。

 その日の走行距離は100㎞を越えていた。

 それを可能とする2人の体力、そして根性であった。

 尚、そこまでしたにも拘わらず、フライシュケーゼは見つからなかったが。

 

「大丈夫、レシピを見つけたから作ってくれれば良いわ♪」

 

 我儘を、実に楽しそうに言うアスカ。

 シンジはため息と共に受け入れた。

 一度言い出したら引かない性格だとは、もう理解していたのだ。

 

「………出来には余り期待しないでよ?」

 

「そこは信じているわよ、シェフシンジ?」

 

「はいはい」

 

 

 子猫のじゃれ合いめいた2人の会話を、パウル・フォン・ギースラーは頼もし気に見ていた。

 それは2人が此れから挑む作戦を思えばこそだった。

 高高度から動力降下(パワーダイブ)しての戦闘。

 それも敵の能力は未知数。

 そして支援は少ない。

 大の大人でも、並の人間ではしり込みする様な難易度の高い作戦だ。

 軍事的に言えば、映画など(パルプフィクション)なら兎も角、現実であれば作戦内容の再検討を上申される内容(ミッション)だ。

 だが2人は、直ぐそこに命の危機と隣り合わせのソレが迫っているにも関わらず、緊張感のない常の態度を続けていた。

 否、緊張をしていない訳ではない。

 シンジは少しばかり口数が減っていた。

 アスカはいつも以上に饒舌 ―― 挑発的になっていた。

 だがそれは難易度故の事であり、責任感に由来するものであり、決して怯懦の類では無かった。

 それをパウル・フォン・ギースラーが判るが故の事であった。

 軍人にとって実戦経験を持つ事は重く、無条件で敬意を向けられる事がある。

 パウル・フォン・ギースラーは、自身も戦車乗りとして14年前の日々(アフター・セカンドインパクト)で数限りない戦闘をしていた。

 ()()()()()、数は少なくとも人類という重圧を背負い、濃密な戦闘を経験している2人を評価していたのだ。

 だからこそ、子どもであると侮らない。

 

 と、少佐! と連絡員が声を挙げて手を振った。

 親指を立てている。

 準備完了を意味するハンドサインだ。

 パウル・フォン・ギースラーも手を挙げて応じる。

 

「さて、小さき戦友(カメラ―ド)。戦争の時間だ。勝利を、そしてなにより無事の生還を祈る」

 

 シンジとアスカは立ち上がって背筋を伸ばしていた。

 

 

 

 

 

 第8使徒。

 マグマ内で羽化し地上へと飛び出してきたソレは、一見すれば腕のある甲殻類か魚の融合体とでも言うべき姿だった。

 或いはマグマを泳いでいたのかもしれない。

 だからこそ、葛城ミサトは撃破(料理/処理)は簡単であると思った。

 陸に上がった河童、或いは地面でピチピチとする姿は釣り上げられた魚めいていたからだ。

 だが、そんな楽観が通じたのは、地上に出現して数十秒の間だった。

 多関節の蛇腹めいた腕が変容したのだ。

 先ず骨が伸びて、それを覆う様に被膜が広がった。

 まるで翼の様になったのだ。

 腕の先、5本の爪も大きく巨大になる。

 

 変容が終わると金切り声めいた咆哮をあげた。

 或いはソレは産声か。

 

 

「またインチキ!?」

 

 浅間山地震研究所から離れた場所から避難し、近くの遮蔽物から双眼鏡で監視していた葛城ミサトが罵声めいた大声を上げる。

 隣で、同じように双眼鏡を見ていた赤木リツコは、嘆息する様に言う。

 

「あそこまで行くと、進化とでも言うべきね」

 

「神の眷属、その権能とでも言うつもり!?」

 

「さぁ? 科学者としては唯々、信じられないってだけよ」

 

 もう、諦めすら漂う貌で煙草を吸っている。

 本来であればもう少し遠くまで後退するべきであったが、第8使徒が地上に飛び出した影響で車が脱輪し、動けなくなっていたのだ。

 人の足の速度では逃げようとしても危険。

 下手な場所で地震めいた事が起これば危険。

 である以上は、身を隠せる場所に居る方が安全と言う考えであった。

 

「レイは?」

 

「先ほどの、本部(NERV本部第1発令所)との通信で、上がらせるとの事です」

 

 少し離れた場所に、通信機を抱えて来た日向マコトが声を張り上げる。

 そうでないと言葉が聞こえないのだ。

 第8使徒の吠え声と、羽ばたき音が響いているのだ。

 

「結構! さすがギースラー少佐、良い判断ね」

 

「後は支援機様々って所ね」

 

「そうね」

 

 エヴァンゲリオンが十分に活動する為には電気が必要なのだが、そうであるが故に僻地での運用には縛りが発生するのだ。

 それが、自走する電源としての支援機(ジェットアローン)によって運用の自由度は劇的に向上したのだ。

 ジェットアローンは当然で、それと時田シロウと日本重化学工業共同体(J.H.C.I.C)の開発チームには足を向けて寝られないと葛城ミサトは笑った。

 

「見えました4号機です!」

 

 

 

 

 今のエヴァンゲリオン4号機は火力戦を指向するG型(砲戦)装備、その最強の姿である第3形態であった。

 予算的余裕によって生み出された重火力形態である。

 B型(標準)装備との最大の差は、背負っている大型のバックパックであろう。

 これは電力安定供給用の蓄電器(キャパシタ)であり、そして弾倉であった。

 主武装となるEW-23B⁺の480㎜弾は、砲側に用意しようとした場合、どうしても携帯できる弾数に問題を抱えるのだ。

 それ故の、機体側に取り付けた大型弾倉(ドラムマガジン)だ。

 又、それだけではなく、G型装備には1対2本の支援腕(サブアーム)があり、肩に近い場所から伸びていた。

 右の腕は砲を支え、安定した射撃に助けるのだ。

 そして左の腕は、重量バランスも目的とした大型の盾を掴んでいた。

 射撃戦装備と言う事で、足を止めての殴り合い(砲撃戦)が発生するだろうとの想定であった。

 全身を覆える大型盾(カイトシールド)を持つ姿は、大型の槍めいた大口径砲(EW-23⁺)と相まって騎士を彷彿とさせていた。

 尚、EW-23Bが⁺と付くのは、改良が為されているからであった。

 威力に、では無い。

 砲身及びその周辺を補強し、より白兵戦(筒先のバレットでのド突きあい)に適応させた改良品であった。

 これによってEW-23B⁺は砲身で相手を殴っても簡単には歪まず、その後の射撃を可能としているのだ。

 

「本部のエバーは?」

 

「到着まであと15分程の筈です」

 

 先ほどの通信で得た情報と時間経過を加味して報告する日向マコト。

 中々の士官ぶりである。

 

「結構。後は信じて待ちましょう」

 

 

 

 綾波レイにとって第8使徒との闘いは、初めて1人で(前衛無しに)立ち向かう戦いであった。

 シンジが第3新東京市に来るまでは、それが当たり前であり訓練も受けていた。

 だが、訓練と実戦は別物であった。

 その事を認めつつ、エヴァンゲリオン4号機を操っていく。

 EW-23B⁺(強化型バヨネット付きバレットキャノン)を発砲する。

 480mmと言う空前絶後の大口径砲、その装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)が空気すら破砕するが如き轟音と共に吐き出される。

 直撃。

 だが、残念ながらも効果を発揮できない。

 真横から見れば平べったく流線形めいた体が、特殊鋼材で作られた侵徹体(弾頭)の侵食を許さなかったのだ。

 それどころか、攻守が入れ替わる。

 EW-23B⁺の次弾発砲への時間(インターバル)を利用して、第8使徒は吶喊してくる。

 

「っ!」

 

 盾を構え、はじく。

 此方も攻撃を直撃させる(痛打にする)事は許さなかった。

 

 射撃戦闘を主とするエヴァンゲリオン4号機と、空を自由に飛びながら自身を弾丸として突撃する事と主とする第8使徒の戦闘は、千日手めいた状況に陥りつつあった。

 だが、綾波レイは状況の悪さを感じていた。

 そもそも、エヴァンゲリオン4号機のEW-23B⁺は自由な発砲が出来ない。

 ()()()()()()()()()()()

 下手に発砲すれば山を貫通して周囲の、まだ避難の終わっていない居住区に着弾する恐れがあった。

 何より、付近には避難できなかった葛城ミサトや赤木リツコらも居るのだ。

 故に、ネットワーク先のMAGIによる射撃管理を受け入れていた。

 

 では射撃武器を捨て、白兵戦に移行しようとすれば良いかと言えば、そうそう世の中は甘くない。

 射撃武器と比較して射程が無いと言える格闘戦闘は、相手もその気で無ければ発生しえないのだから。

 今、第8使徒はエヴァンゲリオン4号機を敵として認識し攻撃してくる。

 だが、射撃武器を捨てた為に脅威と認識されなくなれば、或いはエヴァンゲリオン4号機を無視して第3新東京市に向かわれる可能性があるのだ。

 簡単に出来る決断では無かった。

 自分だけでは勝てない。 

 その事を理解した時、綾波レイは、L.C.Lとは違う液体、汗が肌を伝わるのを自覚した。

 自分は驕っていたとも思った。

 自分があれば良い。

 自分であれば出来る。

 一撃必殺めいた威力の武器を持つエヴァンゲリオン4号機があれば、勝てない相手は居ないとすら思っていた。

 初号機パイロット(碇シンジ)弐号機パイロット(惣流アスカ・ラングレー)も要らない、自分が居れば何とでも出来るのだと。

 そんな風に思っていたのだ。

 その事を自省した時、綾波レイはスッと肩の力を抜いていた。

 己を嗤う。

 弐号機パイロットの元気の良さ(五月蠅さ)に、自分らしくない事を考えていたのだろうと。

 勝てばよいのだ。

 自分でなくとも、最終的に使徒を倒しさえすれば目的は果たせるのだから。

 

 チラりと時計を確認する。

 先ほど聞いた援軍到達時間が近かった。

 口の端を少しだけ歪んだ。

 笑み。

 その瞬間、通信機が自己主張をした。

 綾波レイはますます笑った。

 

 それは小さな小さな、だが笑みであった。

 

 

 

 大空を往く2機のCE-317(エヴァンゲリオン輸送機)

 その腹の内でシンジとアスカは最後の確認をしていた。

 

「覚悟は良いわね?」

 

『やるよ、やってみせるよ』

 

「そこまで堅くなる事はないわ。難しい事なんて何も無い。アンタはアタシと同じようにすればよいだけだから。カウントから調整から全部、アタシがやる。決めてみせるわ」

 

『信じてる』

 

 緊張は無い。

 只々、覚悟だけがあった。

 シンジはアスカを信じると決めていた。

 その信頼を現す瞳を見たアスカは、深い満足感を覚えて笑った。

 笑いながらに全力で計算をしていた。

 MAGIによる支援はある。

 だが、減速では無く加速しながらの動力降下(パワーダイブ)をするのであれば、MAGIによる計算支援は()()()()()()

 

「あのファースト(綾波レイ)だって、お願いって言った。なら全てをこの惣流アスカ・ラングレーがやってみせる」

 

 それは宣言であった。

 先に行った3人だけの意思疎通(作戦ブリーフィング)、その結果として背負う事となった重圧を、アスカは楽し気に受け入れていた。

 

『ポイントC(チャーリー)通過! 投下予定エリアにカウント30!!』

 

 輸送機の投下管理官(ロードマスター)が通信を入れて来る。

 同時に、エントリープラグ内にカウンターが表示された。

 

「位置情報に変更は?」

 

『無い、機位および対地速度、1号機の位置も含めて合わせてある。リクエスト通りだ。存分にやってきてくれ中尉殿?』

 

「オッケー、パイロットには感謝を言っておいて」

 

『ソイツは終わってから、自分でやってくれるかい?』

 

 捻くれた、無事の帰還を祈る言葉にアスカは益々もって笑った。

 

「んじゃ、戦果を期待しておいて」

 

アイ(了解)! カウント、3…2…1……Good Luck(幸運を)!』

 

 その瞬間、エヴァンゲリオン2機は空中へと放り出された。

 其処から先はアスカの独壇場であった。

 高度から対地速度、その他の情報を読みながら機体を操っていく。

 その過密な情報処理に、アスカは歯を食いしばりながら笑うと言う器用な真似をしていた。

 そしてシンジは、アスカの操作、その一挙手一投足の全てを真似た(ユニゾン)

 

 

 高高度からの降下と言う、危険極まりない作業を、まるで赤子のように只、アスカを信じて真似るシンジ。

 全身全霊をもってアスカを見ていた。

 みるみる迫ってくる地上を見ても、恐怖など覚えてもいなかった。

 

『シンジ! ブースター(加速機)、点火、20秒後!!』

 

「了解!!」

 

 信頼するが故に、本来は減速用のブースターを加速に使おうと言う事に躊躇はしない。

 只、先に言われていた足元に円錐形にA.Tフィールドを展開する事に注力するだけであった。

 

『シンジ!』

 

「アスカ!」

 

 頷き合う。

 そしてアスカは宣言する。

 

Jatzt()!』

 

 その瞬間、寸秒の狂いも無く2機のエヴァンゲリオンは降下を加速させた。

 

 

 

 エヴァンゲリオン4号機のレーダーが降下してくる2機のエヴァンゲリオンを捉えた。

 アスカは宣言通りにやってみせている。

 であれば今度は自分自身(綾波レイ)の番。

 綾波レイは先の作戦会議を思い出す。

 

 アスカの立てた作戦は単純であった。

 綾波レイ(エヴァンゲリオン4号機)が第8使徒を受け止め、その瞬間を狙ってシンジ(エヴァンゲリオン初号機)アスカ(エヴァンゲリオン弐号機)が降下攻撃を敢行する。

 如何にマグマ下でも無傷で動ける様な、驚異的な強度を誇る第8使徒の外殻であっても、動力降下攻撃(エナジー・フォールダウン)を喰らえば無傷では済まないだろう。

 それでも健在であれば、降下吶喊した2機のエヴァンゲリオンで第8使徒を拘束し、3機がかりでA.Tフィールドを中和した上で、エヴァンゲリオン4号機の火力を零距離射撃で叩きつけると言う段取りであった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「やってみる」

 

 自分を鼓舞する様に呟く。

 加速して突進してくる第8使徒。

 それを前にして、エヴァンゲリオン4号機は盾を構える。

 だがそれは防御としての構えでは無い。

 大型盾の尖っている下側を、第8使徒へ突き付ける様に構える。

 腰を入れる。

 左のサブアームに加えて左腕でも盾を掴み、更に右腕も添える。

 

「パワー戦、4号機行くわよ」

 

 綾波レイの宣言に従って盾の裏側に潜んでいた巨大な歯、或いはペンチめいた物(相手を噛みしめ拘束する機構)が出て来る。

 凶悪なソレ()が、開く。

 

 隠されていた狂()

 ソレは綾波レイの戦意の象徴とも言えた。

 

「往くっ」

 

 

 

 

 

 其処から先を多く述べる必要は無いだろう。

 真っ向から力で挑み、第8使徒を見事に掴まえたエヴァンゲリオン4号機。

 後方に居たジェットアローンまで出て来て、2機掛で拘束する。

 そこに勢いよく突っ込んできたエヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機。

 大地へと串刺しにする一撃。

 痛打を受け、だが致命傷にはならなかった第8使徒。

 恐るべき強度、そして再生力。

 だが、もうお仕舞であった。

 

ファースト(綾波レイ)!』

 

綾波サァ(綾波さん)!』

 

 異口同音に放たれた言葉に背中を圧される様に、綾波レイは機体を駆る。

 第8使徒の口先にエヴァンゲリオン4号機は長大なEW-23B⁺を槍めいて突き刺し、そしてありったけの弾を口腔内へと叩き込んだからだ。

 如何に外殻が堅くあっても、内側はそうではない。

 そうでは無かったのだ。

 

 第8使徒はズダズダとなって終わった。

 尚、危惧された自爆も無かった。

 

 

 

 

 

 




2022.06.22 誤字修正

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