サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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06-Epilogue

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 第8使徒を見事に撃破する事に成功したエヴァンゲリオンと子ども達(チルドレン)

 だが撤退は、展開程に簡単に出来る訳では無かった。

 エヴァンゲリオンを陸送可能な陸上輸送専用車(エヴァンゲリオン・キャリー)は1台のみであるからだ。

 エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機を運んだCE-317(Garuda)であるが、運用するには長い滑走路を必要とし、その上で路面荷重が大きい為に運用可能な空港は限られているのだ。

 そして浅間山の近隣で言えば松本空港があるが、残念ながらも運用不可能であった。

 結果、3機のエヴァンゲリオンが全て第3新東京市に撤収するまでは約1週間が予定されていた。

 

 

「ここら辺は、今後の検討課題よね」

 

 戦塵(砂埃)にまみれたまま、葛城ミサトは椅子に座って珈琲を啜る。

 打ち身に捻挫を抱えているが、特に大きな怪我は負っていなかった。

 エヴァンゲリオンの戦闘を間近で見てこの程度で済んでいるのだから、幸運と言うべきだろう。

 持ち込んでいた大型装輪指揮車は、落石で半壊しているにも関わらずなのだから。

 幸い、それは葛城ミサトに限らずであった。

 車を降りて、近くの遮蔽物などの陰に隠れていたお陰だった。

 

陸送車(陸上輸送専用車)3号機分、補正予算で欲しい所ですね」

 

 合いの手を入れる日向マコト。

 此方は少しばかり運が悪かったのか、頭に血の滲んだ包帯を巻いている。

 それを改めて見て、葛城ミサトは苦笑と共に言葉を発する。

 

「先ずは、ヘルメットの用意かしらね」

 

「ははははっ、いや確かに。私以外でも軽傷が5名出ましたからね」

 

「仕方がないって言うのは(指揮官失格)だけど、でも、今回は予想外よね」

 

「ええ、全くで」

 

 そもそも、大型装輪指揮車を浅間山地震研究所に持ち込んだのも、演習だからだったのだ。

 そこからシームレスに実戦に接続されると言うのは、確かに想定外ではあった。

 無論、それは油断()であり、その点を葛城ミサトは強く自省していた。

 自分たちが選択(攻撃)する側に居ると言う、思い込みが原因であった、と。

 

「取り合えず、今日は骨休めよ。近くの温泉宿を取らせているから、日向君も手持ちの仕事が終わったら、ソッチに行ってて」

 

「葛城さんは?」

 

「行くわよ? 指揮官(責任者)のお勤めが終わったら…だけどね」

 

 取り敢えず、日向マコトらが集めた情報を元に碇ゲンドウに報告せねばならないのだ。

 最悪、詰め腹かと思いつつも、そんな内心をおくびにも出さずにこやかに笑って答えていた。

 

 

 

 

 

 部隊集積場所に指定された菅平高原の廃スキー場。

 巨大と言って良いエヴァンゲリオン3機とJAが並ぶさまは壮観の一言であった。

 とは言え、エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機はうつぶせに寝そべった姿勢となっていた。

 トラブル(機体故障)が原因だ。

 高高度からの動力降下(パワーダイブ)による飛び蹴り(スーパー稲妻キック)を敢行したのだ、足周りに不調が出るのも当然であった。

 足回りに不調が出ているのはJA(支援機)も一緒だ。

 此方は別に無理をした訳ではないのだが、そもそもが実験機(技術実証機)

 山岳地帯で運用する様には作られていなかったのだ。

 それをMAGIと技術開発局の総がかりで作られた運用プログラムで、無理矢理に動かしている部分があるのだ。

 そうなるのも仕方がないと言う話であった。

 此方も酷い恰好で座っている。

 擱座と言うのが相応しい有様であった。

 とは言え、時田シロウを筆頭にしたJA運用班は、今回の作戦行動での実績(運用データ)に大喜びであったが。

 エヴァンゲリオンを支え活躍したと言うのも大きい。

 だが何より実用的なJAへの改良の為に、或いは後継機として計画されているX-JA2(スーパージェットアローン)に役立つ貴重な情報である、との事であった。

 

 そんな3機と比べ、無理をしなかったエヴァンゲリオン4号機は余裕があった。

 誘導員の持つ誘導用ライトに従ってエヴァンゲリオン4号機を動かし、指示された平地で駐機姿勢を取らせる綾波レイ。

 そこにエヴァンゲリオン4号機に機体固定作業車と整備ユニット車とが取り付いていく。

 巨躯を誇るエヴァンゲリオンは、単体での姿勢維持は簡単ではないのだ。

 特に補強がされていない、地盤強度の不明な場所では。

 

『機体各部、ロック(固定)確認。パイロットは野外マニュアルBに従って降機せよ』

 

「了解。04パイロット、降機します」

 

 野外に於いては機体管制官(コントロール)も担当するエヴァンゲリオン4号機機付き長の高砂アキの(仕事向け言葉)に従って、降機手順を進める綾波レイ。

 野外マニュアルBとは、その名の通り野外でのエヴァンゲリオンの運用に関するパイロット用のマニュアルであり、L.C.Lの機体への回収や、エントリープラグの排出停止位置などが定められている。

 特に重視されるのはL.C.Lの回収と再利用だ。

 L.C.Lも野外 ―― 第3新東京市の外では貴重品なのだ。

 

 

 綾波レイが機体の外に(エントリープラグから)出れば野外搭乗デッキ ―― エヴァンゲリオンの首元の高さに展開された整備ユニット車のデッキで、高砂アキが大きなバスタオルを持って待っていた。

 真っ白でフワフワのタオルだ。

 そっとL.C.Lに濡れた綾波レイに掛けてあげる高砂アキ。

 口調からは想像も出来ない、優し気な仕草だ。

 

「気を付けて降りてね」

 

「了解」

 

 

 

 専用の昇降ユニット(ゴンドラ式エレベーター)で地面に降りた綾波レイ。

 バスタオルで顔を拭きながら周りを見る。

 搭乗員(チルドレン)待機車を探した。

 タオルで顔や髪を拭いたとはいえ、乾きかけのL.C.Lは不快であるからだ。

 そもそも、血めいた臭いなのだ。

 好んで纏っていたいモノでは無かった。

 それに装いも。

 拘束感のあるプラグスーツも快適とは少し言いづらい。

 

 シャワーを浴びて、着替えがしたい。

 そう思っていた綾波レイの目に飛び込んできたのはプラグスーツのまま腕を組み、威風堂々と言った塩梅で立つ惣流アスカ・ラングレーと、碇シンジの姿だった。

 2人とも、バスタオルは当然としても体のラインを隠せる待機上衣(オーバーコート)すら着ずに何かを話している。

 議論している風にも見える。

 が、綾波レイにとって興味は無い。

 そこに近づくのは、2人が居るのが搭乗員(チルドレン)待機車のそばだからだ。

 

 と、綾波レイに気付いたアスカが良い笑顔で近づいてくる。

 

ファースト(綾波レイ)!」

 

「なに?」

 

「手」

 

 そう言いながらアスカは右手をかざす様に自らの顔の横に挙げた。

 

「……なに?」

 

「ほら、綾波さん、困惑したじゃないか」

 

 シンジが苦笑めいたものを浮かべつつツッコむ(指摘する)が、アスカは気にも留めない。

 プィっと顔をシンジとは別の方向に向けて悪態をつく。

 

「うっさいバカシンジ」

 

 其処に悪意めいたモノや反発などないのは綾波レイにだって良く判る。

 少しだけ拗ねた様な言い方だ。

 それから綾波レイに改めて話しかける。

 

「ね、こうやって真似して」

 

 にぎにぎっと右手を開いて閉じて、それを真似しろと言う。

 何がしたいのか判らない。

 判らないが、取り合えずしなければ気が済まない様だと理解する。

 

「………それで良いなら」

 

 綾波レイが右手を挙げた瞬間、アスカの右手が一閃する。

 快音。

 綺麗な音と共にアスカの右手は綾波レイの手を捉えた。

 ハイタッチ。

 

「使徒へのトドメ、良い根性を見せたわね。動きを止めさせた事と言い、ホント、アリガト」

 

 満面の笑みで言うアスカ。

 何故なら、動力加速キック(エナジー・フォールダウン)を喰らわせる直前、使徒の運動性能はアスカの読みよりも加速していた。

 綾波レイが根性を入れて正面から抑え込まねば命中しなかった可能性があったのだ。

 それは、或いはアスカのミス(計算違い)であった。

 綾波レイの献身が、それをひっくり返したのだ。

 謝意と感謝、そして勝利の情動をアスカが発散しようとするのも、ある意味で当然の話であった。

 

 只、綾波レイの反応は想定外であっただろうが。

 

「痛い」

 

 初めてしたハイタッチ。

 右の掌は、ジンジンとした痺れを綾波レイの脳みそに伝えた。

 

「ジンジンするわ」

 

「それが勝利の感慨ってモノよ」

 

「そう、勝利の。なら弐号機パイロット(アスカ)………」

 

 先ほどのアスカと同じ仕草を見せる綾波レイ。

 その意図を理解したアスカは同じように右手を差し出した。

 予想通りに右手を振るう綾波レイ。

 予想外であったのは、スナップが効いた()()は、間違ってもハイタッチなどでは無かったと言う事。

 あからさまに平手打ちであった。

 

「った!?」

 

「どうしたの? 勝利の感慨なんでしょ」

 

「オーケェ、アンタとは一度、じっくりと話し合う必要があると思ってたのよ」

 

「そう。アナタがそう思うのならそうなのでしょうね」

 

 綾波レイの言葉に、シンジは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()などの含意を聞いた気がした。

 そして、甲高い金属音(戦いのゴング)が鳴った風にも。

 

 只、自分が何か出来ると思う程に傲慢でなかったシンジは、それを口に出す事は無かった。

 義父の薫陶通り行儀良く、傍観者に徹するのだった。

 曰く、怒ってる女性は怖い。

 これが2人で喧嘩している時など怖さは二乗以上になってくる。

 そこに干渉などしたら自分に来るのだから、と。

 静観静観、息を潜める。

 男に出来るのはそれ位だ。

 実に亭主関白(カカァ天下)な鹿児島の漢らしい意見であり、妻や母、それに娘などの女傑(おごじょ)に囲まれて生きる男の処世術であった。

 シンジは勿論、一緒に居た義兄も素直に頷くしかない金言であった。

 

 悟りめいた表情のシンジの前で、10の20のと平手の叩き合い(殴り合い)を繰り広げたアスカと綾波レイ。

 女性と言うモノに対する幻想が剥げ落ちていく、事は無かった。

 そもそも、鹿児島で薬丸自顕流の鍛錬の場には妙齢から幼女まで居たのだ。

 護身やらストレス発散やら、理由は色々とあっただろうが、揃いもそろって奇声(猿叫)を挙げて、横木を折れろと言わんばかりに振るっていたのだ。

 そんな環境に居たシンジに、女性と言うものに幻想など抱けるはずが無かった。

 

 はたして。

 30を超えた辺りで、叩き合いはピタリと止まった。

 アスカは不敵に笑っている。

 綾波レイは無表情に見えて口元を歪めている、それは笑みの類だろうか。

 

「良い根性よ」

 

「そう、判らないわ」

 

「褒めてんだから、素直に受け取っときなさい」

 

「そっ、ありがとう」

 

「改めて綾波レイ、惣流アスカ・ラングレーよ。仲良くしましょう」

 

「あなたがそうするなら。綾波レイ」

 

 散々に叩き合った右手で握手するアスカと綾波レイ。

 それを見ていたシンジは、誰に言うまでもなく呟いていた。

 

まっこて(アスカも綾波さんも)

 

 それは只の感嘆詞であったが、シンジの内心を良く表していた。

 

 

 

 

 

 


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