【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件 作:◆QgkJwfXtqk
愚かな者の友となる者は害をうける
07-1 Asterism
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綾波レイの日常は、浅間山の山中で自分の殻 ―― 自分だけで何とでもできると言う自負が壊れた日から激変する事となった。
1つは家。
廃墟めいた団地の1K部屋からNERVの官舎、割と広めの尉官級向けの1LDKに移る事となったのだ。
最初は転居を主導した天木ミツキが、綾波レイの
検討を重ねた結果、白羽の矢が立ったのが伊吹マヤ、そして赤木リツコの居る
以前から関係があった事もあって、綾波レイはその両名との距離感は比較的親しかった事が決め手であった。
赤木リツコは仕事がら、家に居る事は少ないが、伊吹マヤはそうでもない。
そこが、ある意味で
そして今日。
引っ越しをする際に判明した綾波レイの私物の余りの乏しさに憤慨した伊吹マヤは、これはイケないとばかりに天木ミツキに連絡。
あれよあれよと話を付けて翌日、綾波レイを家具一式から食器その他の買い漁りに連れ出したのだ。
家具屋に始まって雑貨屋、アパレルショップまでの大梯子だ。
「レイちゃん、次は部屋服も買っちゃいましょう♪」
「………必要なら」
「勿論、必要よ! 女の子は可愛いが正義なんだから」
そう言ってガッツポーズめいた動きを見せる伊吹マヤ。
その姿はNERVでは見る事のない年相応の、或いは子どもっぽい仕草であった。
ストレス発散に買い物が好き。
特に可愛いモノは大好な伊吹マヤは、自分自身の可愛らしさに無自覚な綾波レイのコーディネートに燃えていた。
だが違っていた。
買い物に出て可愛いモノを見た時、綾波レイは少しだけ表情を動かし、興味深げにしていたのだ。
伊吹マヤは理解した。
綾波レイは可愛いモノを、世界を知らないのだ、と。
だからこそ、燃えているのだった。
「可愛いって元気をくれるのよ! 仕事で疲れて果てても、家に帰って可愛いぬいぐるみを抱っこしたら、それだけで元気が湧いてくるもの!!」
「そう………」
力強く力説する伊吹マヤに圧倒された綾波レイは、唯々、頷いていた。
とは言え唯々諾々と従っているだけ、な訳ではない。
綾波レイも、可愛いモノを見れば少しだけ口元を緩ませて喜んでいた。
だからこそ伊吹マヤは盛り上がっていたとも言える。
いろいろなモノを買いあさっていく。
その膨大な買い物 ―― 綾波レイの新生活に向けたそれらを購入する予算はNERVから出ていた。
今までの綾波レイの境遇が余りにも酷過ぎたと言う事で、
幼少期からNERVに縛られていた綾波レイに、人間らしい生活をさせねばならぬ、と言う主張が、組織を動かしたのだ。
その余りの正論は、碇ゲンドウですら抵抗出来なかった。
NERVは
碇ゲンドウの権限は強大でありある種は独裁的でもあったが、
公式に綾波レイは、全経歴を抹消済みであり、碇ゲンドウとの深い関係性は無い。
そしてSEELEですら、綾波レイはエヴァンゲリオンと融合した碇ユイの縁者を引き取ったとしか理解していなかったのだ。
最初の、エヴァンゲリオンとの接触者である碇ユイと資質が近いからこそ選抜されたのだと理解していた。
綾波レイに、SEELEの目を向けさせない為にも。
『
綾波レイの待遇改善に関する予算措置、その稟議書を持ってNERV総司令官執務室に突撃して来た天木ミツキに対して、碇ゲンドウは非常に渋い顔で決済印を押したのだった。
尚、その後小一時間は碇ゲンドウはNERV総司令官執務室から出て来る事は無かった。
そして秘書は、中から聞こえて来る音に対して
閑話休題。
兎も角、綾波レイの為であれば好き勝手に買える
そう、青葉シゲルである。
にも拘わらず、青葉シゲルが居る理由は車であった。
バンドやその他の趣味の関係性から大きめのワゴン車を持っているのだと、以前の雑談時に話した事が運の尽きとばかりに伊吹マヤに頼まれたのだから。
後は、基本的に異性と距離を取りたがる伊吹マヤにとって青葉シゲルは、
青葉シゲルは、この日、予定が無かった事も相まって、快諾し今に至っているのだ。
折角の休日を潰される事となっているにも関わらず、気の良い青葉シゲルは不平不満を口する事無く、笑顔で荷物を持ちながら伊吹マヤと綾波レイを追っていた。
ここら辺の
尚、当然ながらも綾波レイの
荷物などを持てば、
取り敢えず、当座は必要と思える家具一式を揃え終わり、次は小物や普段着の類 ―― 綾波レイを可愛くコーディネートする本番に取り掛かろうかと伊吹マヤが鼻息を荒くして
少し休憩をしよう、と。
それは荷物の重さに耐えかねてではなく、色々な店舗を回って少し疲れた風の綾波レイを慮っての事であった。
第3新東京市郊外にある複合商業施設は、シネマコンプレックスまで備えた大規模なモノであり、人の賑わいたるや圧倒的であった。
規模を言えば、NERV本部地下施設とは比べるのもおこがましい程に小規模であり、人員と言う意味でも圧倒的な差があったが、密度が違っていた。
密度が齎す圧。
少なくとも綾波レイの今までの人生で見た事の無かった圧であり、圧倒されていたのだ。
それに、言われて気付いた伊吹マヤは、おやつタイムとばかりに珈琲を主体としたお洒落なチェーン店に行き先を変えたのだった。
伊吹マヤの趣味と少し離れていたが、
目をまん丸にした綾波レイが、伊吹マヤの長い呪文の様な注文を終えて出て来た甘い珈琲を手に取った所で、声が掛かった。
「アレ、綾波さん?」
恐る恐ると言った塩梅で声を掛けて来たのは、市立第壱中学校2年A組の
「こんにちわ」
綾波レイが返事をしたとたん、一気に寄ってきた。
制止しようかと伊吹マヤが迷った瞬間、その動きを青葉シゲルが止めた。
そして、見上げて来る伊吹マヤに視線だけで護衛班を見る様に促す。
少しだけ離れた場所に居た2人の黒い背広姿の男は頷いている。
1人が、右手の指を耳に充てる
既に照会済みだったのだ。
MAGIに。
第3新東京市は高度な監視網が構築されており、監視カメラなどの映像で誰が何処に居るかと言うのが即座に把握できる体制となっているのだ。
尚、別段に
主として避難誘導向けに構築されたシステムであった。
最初の第3使徒との闘いで
後、その兄たる
使徒との闘いを第3新東京市という人口密集都市で行おうとするのは、伊達や酔狂で出来る事ではないのだから。
「やっぱり綾波さんだ! 可愛い服着てるから見違えちゃった!!」
「わー 似合ってる」
「こんな所であったなんてね!」
綾波レイを取り囲んでの姦し3人娘と言った塩梅だ。
3人は
「あの2人ってお姉さんとお兄さん?」
「ロックンロールって奴なの?」
「お姉さんのあのバック、可愛い!!」
「えっと………」
公園でハトに襲われた人の如く圧倒される綾波レイは、どうすれば良いのかと困惑顔のままに伊吹マヤを見た。
対する伊吹マヤは凄い良い笑顔で、行っておいでと答えていた。
心なしか肩を落として
「青春ね。最初は疑ってたけど、本当に仲良くなってて」
「仲良く? うん、まぁそうとも見えるけどな」
ほっこりしている顔の伊吹マヤ。
対して青葉シゲルは綾波レイの姿に、友好的肉食獣の檻に放り込まれた兎を幻視していた。
とは言え、別段に悪い事だと思っていた訳でもない。
コレも綾波レイの日常の変貌、そのもう1つの理由なのだから。
友達が出来ました。
そう言うべき状況であった。
第8使徒との闘いを経て行われた、劇的な惣流アスカ・ラングレーの関係改善。
それによって綾波レイをアスカが引き回す様になった結果だった。
独立独歩的と言えば良いが、その実、孤立気味であった事にアスカが気を効かせた結果とも言えた。
先ずは、アスカの
昼食を一緒に食べる様にした。
洞木ヒカリも独りで居た訳ではないので、自然と複数の女の子と話す様になった。
その上、クラス委員長を担う程には生真面目な洞木ヒカリと頭の切れる文武両道型のアスカが居る為に他所からの相談事が持ち込まれる事が多くあり、自然と綾波レイも他のクラスメイトとコミュニケーションを取る様になったのだ。
それでも最初は少ない口数での応対であった為に距離を測り兼ねられていたが、アスカによるツッコミと洞木ヒカリによるフォローによって、いつの間にか女子の輪に綾波レイも入る様になったのだ。
超然とした、と形容されるような一方的なイメージは叩き壊され、素の、
同時に、綾波レイの持つ
兎も角。
ある意味で、素直な、クラスの妹分的に見られ綾波レイはクラスの本当の意味で一員になっていた。
それを知ればこそ、伊吹マヤは綾波レイに行く事を勧めたのだ。
少しだけ離れたテーブルに座る伊吹マヤと青葉シゲル。
世間話をしながら微笑まし気に綾波レイを見守る。
「ホント、青春って感じ」
「おばさんのセリフだぜ、それ」
「ひどい! まだ20代前半の乙女相手に言う言葉じゃないですよ」
「あの子たちからすれば年上だ」
「それを言うと青葉さんだって、オジサンですよ?」
「それは、辛いな。参った、ゴメンよ」
降参と両手を挙げながら笑う青葉シゲルに、伊吹マヤは緊張感も無く笑った。
笑いながら、甘いカフェラッテを口に含む。
「子どもが子どもしているのは良い事さ。平和の証拠だ」
「出来ればシンジ君
暇があれば自主訓練してたりする碇シンジとアスカ。
そこに痛ましさを伊吹マヤは感じているのだった。
だが、青葉シゲルの感想は少しばかり違う。
訓練ではあるし、それは本気ではある。
だが、ソレだけでは無いのだと言う。
「2人だからな」
「と言うと?」
「要するに体育会系の部活の延長にあるって事さ。競う相手が居て練習すれば結果も出る。1人だけだったら違うだろうが、あの2人なら違うさ。訓練を見てて、そう思わないか?」
「………そっか。確かにあの2人って、楽しそうに訓練やってた」
「遊びとしてやってない。本気だからこそ、競い合うからこそ、楽しんでいるのさ。それに今日はあの2人、何しているか知ってる?」
「え、自主訓練ですか?」
「外れ。ジオフロントで
NERV本部施設の使用申請書、そこにあった参加者一覧に2人の名前があったと言う青葉シゲル。
ジオフロントの遊歩道を使って、総数50と余人ばかりでのレース大会なのだと言う。
いつの間にかシンジとアスカは自転車を趣味にしていた。
服だの靴だの自転車専用のモノを競う様に買い、アスカに至っては凝り性を発揮して部品の交換などまでやり始めていた。
それに
部品交換に手を出すのも間近というのが、自転車同好会メンバーの言である。
沼に、競って活きの良いのが来て
「な、あの2人も青春しているのさ」
「レイちゃんが疎外されてなければ良いけど………」
「そこは体育系と文科系の違いが出るから、ま、フォローしてやるしかないな」
「アスカは学士号持ちだし、シンジ君だって学業優秀だって
「素直に脳筋って言っても良いと思うぞ?」
「もー 青葉さん!」
綾波レイが青春をしているように、此方もどこかしら甘い雰囲気を漂わせている伊吹マヤと青葉シゲル。
尚、その近くで黒い背広の護衛班は、ただ無心に無糖の珈琲を啜っていた。
2022.10.3 文章修正