【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件 作:◆QgkJwfXtqk
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修学旅行が終わった第3新東京市市立第壱中学校2年A組は、次なる学校イベントとして秋の文化祭を迎えつつあった。
クラスごとに発表会を行うという催しだ。
歌、或いは寸劇。
クラス委員長である洞木ヒカリを中心に2年A組は話し合いを行い、寸劇をする事となった。
歌は楽だけど、人前で歌いたくないと言う人間が多かったからだ。
その点、劇であれば裏方などをすれば人前に出なくて良いのだ。
只、主演や助演になった奴らは運が悪くてご愁傷様。
そう言う感じであった。
問題はそこから先。
何の劇をするか、であった。
当たり障りのない、昨日見たドラマを題材にした劇を主張する
どうせならシェークスピアを基にすれば良いと声を挙げた
ミリタリーな劇がやりたいと大声を出す
声を挙げる人間が出れば、それなら自分も意見を言いたいとばかりに、男女問わずにアイディアを挙げていく。
学級会は盛り上がっていく。
が、その流れから少しばかり離れているモノも居た。
例えば碇シンジ。
正直、劇自体に興味がないのだ。
クラスの一員として参加はするけども、自分から何かをしたいとは思っていないからだ。
だから、隣で同じく文化祭に興味の薄い鈴原トウジとグダグダと駄弁っていた。
尚、劇に積極的なのはクラスの約半分位であったので、シンジ達の行動が特別に目立つ様なものでは無かった。
「ほー チャリも部品を変えると、そんなに性能が上がるんやナァ」
「
話題は先の日曜日にNERVのジオフロントで行った、自転車走行会だ。
散々にカスタムしたアスカの自転車に午前中はぼろ負けも良い所だったシンジが、昼休憩の時間に見かねた人から貰った部品を取り付けた所、午後からは良い勝負が出来る様になったのだ。
アスカも驚いたが、勝ったシンジもかなり驚いていた。
尚、そんな2人の周りの大人たちは、
「なら週末は、センセも自転車の部品や巡りかいな?」
「
当然のアドバイスと言えた。
シンジが乗っているのはクロスバイク。
アスカが乗っているのはロードバイク。
路面状態の良い整地を疾走する事に特化しているロードバイクに比べ、クロスバイクは若干タイヤやフレームが太く出来ていた。
実生活での普段使い、実用性を重視している自転車と言えた。
そして同時に、そうであるが故に
無論、乗り手次第という部分はあるし条件次第という部分もある。
特に、公道での交通法規を守れば、性能の差は誤差めいてくるし、そうであるが故に第壱中学校名物化しつつある、シンジとアスカの
ジオフロントでの競争は、そういう諸状況で隠されていた純粋な自転車の差をシンジに教える事となったのだ。
「アノ紫っぽい奴やな。コッチに来た時に買ったんやなかったんか?」
「
尚、その贈ってくれた人たちが、自転車は
である以上は買うしかないと言うのがシンジの気持ちであった。
その様な話を聞いた鈴原トウジは、酷く楽しそうな顔でシンジに問うた。
「買うたん?」
負けず嫌いで
対するシンジも凄く楽しそうな顔で返事をした。
シンジは、
エヴァンゲリオンのパイロットになりはや数ヶ月。
その間だけでも結構な額の貯金が出来ていた。
少なくとも、普通に売ってるロードバイクであれば、現金で買える程度のお金はあった。
とは言え、衝動買いめいた行動は自制していた。
「
昨日の今日と言う短時間で決めたら勿体ないと言う
性能もだが、色や形などを色々と考えて選ぶべきだとの弁である。
それはそうだと思い、シンジは先ずはロードバイクの情報を集める事とした。
「センセなら、けっこうエエのが買えるんちゃう?」
「
「ほうか………」
自転車に乗る事に強い興味がある訳では無い鈴原トウジであったが、そこにシンジが尋ねた。
「
無論、クロスバイクの方である。
近々にロードバイクを購入するので余るのだ。
かといって貰い物である為、売るのは気が退けるから、誰か大事に乗ってくれる人は居ないものかというのがシンジの心情であった。
その問いかけに、鈴原トウジも慌てる。
「ええんか?」
「
「なら、貰うわ。乗ってみるのもええやろしな」
「
自転車の話題がひと段落したが、まだまだ学級会は紛糾していた。
特に壇上のアスカと相田ケンスケの応酬は凄い状態である。
現代劇が道具が要らない、衣装も要らない。
だけど小道具の
眼鏡が輝く勢いで圧がある。
それに洞木ヒカリでは弱いと見てか、アスカが
そんな感じだ。
嬉々として意見を述べている相田ケンスケに対して、アスカがウンザリと言った感じなのはご愛敬、そう言うべきであった。
興味の無いシンジは聞き流していた。
アスカがコッチに来いとばかりにシンジに
3人ばかり相田ケンスケの
だが残り半分は、興味なさげだ。
と、綾波レイは興味の無い側の女子のグループに居た。
何かの本、雑誌を見ながら
「
壇上とその周辺を見ない限りは。
と、鈴原トウジがそう言えばと声を掛けて来た。
「そう言えばセンセの進路相談、オトン来るんか?」
「
そもそも、エヴァンゲリオンと言う代物に乗って使徒と闘うのが仕事だ。
進路選択の自由なんて、あるのだろうかと言うのが義父との共通見解であった。
逆に言えば、選択肢は消えたけども
そもそもこのシンジ、その躾もあって
状況に特段の不満など抱く筈も無かった。
只、シンジは自分の事を
良く判らないシンクロ率等と言うものは兎も角として、
だがそれでも、何か出来る事があるのであれば、骨身を惜しまずに務めたいとは思っているのだった。
「いや、ソッチやのうてほら、ネルフの__ 」
「
心底嫌そうな顔を見せるシンジ。
父親と言われて即座に思いつかない相手なのだ。
進路相談をしろと言われても、正直、困ると言うのが本音であった。
と言うか、顎を砕いた時以来、別段に顔を会わせる事も無かったのだ。
シンジから会う必要は無かったし、碇ゲンドウから歩み寄ってくる事も無かったのだ。
そんな状況で父親面されても、嫌だとすら言えた。
「小遣いとか、生活費とか貰わんかったんかいな?」
「
ほぼ、絶縁と言って良い状況に、流石に顔を顰める鈴原トウジ。
仲が悪いとは思っていたが、ここまでとは想定外であった。
「
そこまでシンジが言った時、壇上の司会進行である洞木ヒカリが大きな声を挙げた。
「注目して!」
クラス中の耳目が教壇に集まる。
黒板に書かれているのは現代劇との文字。
但し、題材には
配役と書かれている所は洞木ヒカリとアスカの体に隠れて見えない。
ま、どうでもいいやとシンジは興味を失った。
「これで行きたいから最後に挙手で賛否をお願い」
だが、誰もが適当に手を挙げて賛意を示した。
シンジも手を挙げた。
鈴原トウジも眠たそうな顔で手を挙げた。
と、シンジを見て笑いながら相田ケンスケが手を挙げていた。
「
意味深げな行動への疑問は、すぐに晴れた。
賛成多数で決まった金色夜叉を基にした現代化劇、発表会で使える時間の問題があるので有名な貫一お宮の熱海での訣別のシーンに絞った寸劇とすると発表された。
そして疑問の氷解は、その配役を洞木ヒカリが読み上げた事で得られた。
「
「
唖然として声を漏らしたシンジを、クラス中が見ていた。
頑張れよと相田ケンスケが声を掛けた。
そしてアスカ。
「賛成に手を挙げたんだから、拒否は出来ないわよ」
それは、とてもとても良い笑顔であった。
「シンジ、コレ、少し大人げなくない?」
そうアスカが零したのは、その日の夕食の事だった。
シンジ宅での、アスカの机の前に置かれた晩餐は
大き目のジャガイモは丁寧に十字に切り開かれ、ほかほかと湯気を挙げるその真ん中に大きなバターが乗せられている。
実に美味しそうだ。
問題は、後はボイルしたソーセージ1本とグリーンピース。
それにトーストしたパンの1枚だけと言う事だろう。
「偶然だよ?」
しれっと言うシンジ。
そのシンジの前にはご飯と味噌汁、それに大ぶりのコロッケ2個を主役にしたおかず皿があった。
揚げたてで、実に美味しそうだ。
無論、ミサトも一緒だ。
アスカの前だけが違っていた。
「帰りのスーパーで美味しそうな北海道産のジャガイモを見たから、ドイツ風にアレンジしてみたんだ。懐かしいでしょ?」
善意ですよと笑うシンジ。
但し、目だけが違っていたが。
「どったの?」
言いながらも葛城ミサト、ほくほくそうなコロッケが辛抱堪らんとばかりに手元のビール、正確には発泡酒のステイオンタブを起こす。
ビールで無い理由は第8使徒との闘いのアレコレ、その想定外の出来事の
第8使徒による被害の原因は、葛城ミサトにもNERVにも大きく重いモノがあった訳では無いのだが、こればかりは政治と言うものであり、仕方のない話であった。
無論、
とは言え、将来の補填があったとしても、今現在で金が無いのだ。
「ご飯は美味しく食べるものだと思うわよ?」
嫌そうに不味そうに、葛城ミサトは発泡酒を一口呷ってから言う葛城ミサト。
「ハン! どうせミサトは飲めればいいんでしょ?」
「まさか。シンジ君の美味しい料理は最高よ? これでビールならもっと最高なんだけど」
「………まぁ、そこはご愁傷様」
事情を理解しているアスカは、少しだけ葛城ミサトに同情した。
兎も角、何と言うか追及する気がそれたので黙ってふかしたジャガイモを食べるアスカ。
ムカつくのは美味しいと言う事。
ボイルされたソーセージも、何時もの奴よりは良い奴らしく美味しい。
だけども自分だけ別メニュー、それも手抜きっぽいとなれば面白く無い。
もしゅもしゅっと食べながらシンジをジト目で見るのだった。
「何かあったの?」
シンジとアスカの関係に致命的な影響が出そうでは無い、雰囲気からそう踏んだ葛城ミサトは、食後にほろ酔い気分と言う表情のままにリビングに移ったアスカに尋ねた。
手には3本目の発泡酒がある。
対してアスカの手には、シンジが洗い物に行く前に淹れてくれた紅茶があった。
残念ながらも、アスカの好みであるミルクと砂糖がタップリと言う訳では無かったが。
と言うか無糖である。
それを文句も言わずに飲むアスカに、ミサトはどうやらアスカの側に原因があるっぽいと理解するのだった。
「ん、ちょっとばかし___ 」
昼の事を説明するアスカ。
文化祭でだまし討ちの様にヒロイン役をシンジにしたと言う。
その上で最後にアスカは、トドメの様に、見事に蹴っ飛ばしてあげると言ったのだと言う。
「それは言い過ぎ」
「そ、そう?」
呆れた口調と表情をした葛城ミサト。
指摘を受けて、アスカは恐怖にも似た感情を抱いた。
相容れないと心底から理解していたからだ。
だがシンジは違う。
競い合う相手、
そんな相手が自分を嫌う、或いは軽蔑するかもしれないと云うのは大事であった。
動揺するのも当然と言えるだろう。
「どうしよう」
その声は余りにも弱く、か細いモノであった。
だから葛城ミサトはそっとアスカの体を抱きしめて、耳元に囁いた。
「大丈夫よアスカ。あのシンジ君なら、素直に謝ったら許してくれるわよ」
それは本音であり、ある意味で実感の籠った言葉だった。
真剣に謝ったから赦された。
謝る気も無かった碇ゲンドウは顎を砕かれた。
割と感情は素直に出すシンジなのだ。
修復不能であれば、素直にそうするだろう。
そもそも、聞いた昼の話など葛城ミサトから見て深刻さなど欠片も無い。
痴話喧嘩の類でしかない。
先ほどのシンジの態度だって、拗ねた様なモノなのだから。
「うん、アリガト」
今はボタンの掛け違いみたいなものだ。
だから、それを拗らせさせない秘訣は、謝るのであれば出来るだけ速くと言う事であった。
だからアスカの背を葛城ミサトは押す。
「仲直りは早い方が良いわよ」
「そう、かな」
「そっ、そう言うモノ。こう言う事って後になればなるほど言いづらくなるし、それにシンジ君側だって受け入れるのも難しくなったりするから」
考えすぎてしまうのよね、と葛城ミサトは言う。
その表情を見たアスカは決断する。
紅茶のカップを下し、それから鍛えているのに、まだ見るモノに柔らかさを思わせる両のほっぺたを強く叩いて気合をいれた。
「謝ってくる」
「行ってらっしゃい♪」
シンジはアスカの謝罪を受け入れた。
但し、後ろから抱き着いてと言う行動が伴っていた結果、慌てたシンジが洗剤まみれのスポンジを投げてしまい、2人とも泡塗れになったが。
「ひっどーい! 何よバカシンジ!?」
「アスカこそアホだよ、急に変な事をするから!!」
「アホってなによ! 美少女であるアタシが来たんだから喜びなさいってぇの!!」
「忍び足で来られたら驚くのも当然だろ!!」
「後ろに目をつけておくべきね」
「家の中でまで、そんなに気を張らせたくないよ」
「なによ__ 」
「なんだよ__ 」
やいのやいのと盛り上がるキッチン。
2人の
2022.7.12 文章修正
2022.7.13 文章修正