サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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 異常の始まり、その時間軸上で最も古いモノは野島崎東海域に於いて哨戒任務中であったフリゲート、逢甲であった。

 航行中に突如として艦内に火花が走り、主機やバッテリーまで全電源が喪失状態に陥ったのだ。

 負傷者も全乗員の5割に達する大被害が発生した。

 幸いな事に艦齢30年を超えた古い船体に異常は発生せず、通信の途絶を把握した国連極東軍の府中作戦指揮所が捜索救難部隊を派遣するまで乗り切る事には成功していた。

 そして2番目。

 相模湾に面した市、港町で停電が発生。

 連鎖的に東京湾周辺にまで及ぶ巨大な電源喪失状態(ブラックアウト)が発生する事となる。

 大崩壊(セカンドインパクト)以来、電気化の進められていた日本に甚大な影響を及ぼす事となる。

 無論、そこには通信システムも含まれていた。

 

 人の営みの音が消えた町。

 その壮大さとは裏腹に、静かに、破壊は始まった。

 

 

 

 

 

 第3新東京市の地下全域に広がる地下大空間(ジオフロント)に設けられたNERV本部は、その巨大さ故に縦横にエレベーターやトラムの様な移動手段が整備されていた。

 エヴァンゲリオンと言う全高約40mと言う巨大なる兵器を運用する拠点であり、同時に対使徒迎撃システムその他の基盤が整備されているのだ。

 ある意味で当然の話であった。

 地下大空間(ジオフロント)の中枢、NERVの基幹ともなるNERV基幹施設(セントラルドグマ)に第1発令所やエヴァンゲリオンの整備区画などが集中しているが、ではそれ以外は余禄の様なモノかと言えば、違うのだから。

 NERV基盤施設(セントラルドグマ)はNERV本部と同一と呼べる重要施設だが、視点を対使徒迎撃要塞都市第3新東京市(フォートレス・トウキョウⅢ)として見た場合、その周辺設備が無ければ裸の王様(エスコートの居ないクィーン)でしかないのだから。

 

 そんなNERV本部の付帯施設に設けられた(トラム・ポート)で、葛城ミサトは首から下げていた自らのIC(ID)カードを非接触式パネル(カードリーダー)に当てる。

 軽やかな電子音と共に、第1級機密資格(GradeⅠ Access-Pass)の文字が表示さる。

 同時に、MAGIと直結している監視カメラが葛城ミサトを確認する。

 尚、指紋や網膜での確認方式が採用されていない理由は、この駅は最盛期(出勤時)には時間辺りで2~3000人も利用する場所であるからだった。

 一々もって確認するのは時間的に難しい。

 だからこそ、金を掛けて顔認証装置が導入されているのだった。

 尚、葛城ミサトが居るのは大人数向けではない、閑散期用の個人(ゲート)であった。

 

 兎も角。

 外部の人間も来る事がある場所の駅故の厳重な(2段階の)認証が終わると、厳つく太いステンレス管で封鎖(バリア)された(ゲート)の脇にあるランプが赤から青へと変わる。

 

Welcome To NERV(ようこそNERVへ)!』

 

 どの様な相手を想定しているのか判らぬ、電子合成された軽やかな女性の声と共にステンレス封鎖菅が左右へと開いた。

 先ほどまで行われていた、国連軍要人たちとの会議内容を反芻しながら門を潜る葛城ミサト。

 その顔に険は無い。

 現在、NERV本部と国連極東軍(Far East-Aemy)との関係が良好であるお陰であった。

 とは言え面倒が無い訳では無い。

 それが疲れとして顔に出ていた。

 ビールが飲みたい。

 そう言う顔をしていた。

 

 NERVと国連軍。

 国連と言う大看板の下で一緒に居るとは言え別の組織故に、組織の面子や意地と言ったモノが簡単に絡みついてくるからだ。

 故に、それなりの緊張感を帯びた会合となるのは仕方がない。

 特に今回は、定期ローテーションによって伴う内容であり、人命も関わってくる為に、いつも以上に大きかった。

 先ず定期ローテーションであるが、コレはNERV付き()である第3特命任務部隊(FEA.TF-03)常に戦闘準備態勢(オールウェイズ・オン・デッキ)である為、定期的に長期間の休息と訓練とを必要とする為であった。

 完全な休息も大事であるが、訓練も重要な事である。

 意外な話かもしれないが、実戦と言うモノは部隊の練度を下げてしまう。

 雑に言ってしまえば、実際に戦闘している時間外は待機状態にある為、訓練が出来ないからである。

 又、人員が死傷する事で強制的な入れ替わりが発生する事も見逃せない。

 故に、国連軍ではNERVに派遣している部隊 ―― 特命任務部隊の指揮下にある部隊を定期的に交代させているのだ。

 そして、特命任務部隊にもナンバリングされている通り、部隊の指揮官たちも定期的に交代するように設定されていた。

 使徒との闘いと言う、先の見えない生存戦争(サバイバルゲーム)である為に構築されたシステムであった。

 そして、入れ替わりに伴った部隊改変、派遣されて来る部隊構成に関する話し合い(ディスカッション)が先ほどまで行われていたのだ。

 NERV(戦術作戦部)としては、先の第8使徒との闘いの様なNERV本部からの遠隔地での任務に即応できる部隊を増強して欲しいとの願望があった。

 対して国連極東軍(Far East-Aemy)としては特科(野砲)部隊の増強に重点を置いていた。

 FH70や99式155㎜自走榴弾砲だ。

 方や牽引式野砲。

 方や装軌式野砲。

 共に、即応性と広域機動性と言う意味で難点を抱えていた。

 国連欧州軍(Europe-Aemy)になら装輪式のカエサル155㎜自走榴弾砲と言う装備もあったが、軍の管区的な問題その他があり、欧州から即座に部隊を極東まで持ってくると言うのは非現実的であった。

 

 喧々諤々の議論。

 正式な異動の指示が出る迄はまだ時間があったが、そうであるが故に議論が白熱したとも言えた。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 未来を見据えた地均し、そういう表現も出来るだろう。

 そして、そこに組織の面子などが乗ってくるのだ。

 どれ程に親しくとも、議論が面倒になるのは当然の話であった。

 

 

「もう早退したい気分だわ」

 

 怨嗟の声を漏らす葛城ミサト。

 クソの様に熱い風呂に入って、キンキンに冷えたビールをかっ喰らいたい。

 そこに碇シンジ手製の揚げたての唐揚げなどのおつまみがあれば最高だ。

 最高の気分で1日を終える事が出来るだろう。

 だが現実は非情だ。

 風呂は兎も角としてビールは発泡酒であり、シンジは学校(授業中)であるのでおつまみも無理。

 そもそも、まだ仕事(第8使徒戦の書類)が山積しているのだ。

 管理職特権での早退など出来る筈も無かった。

 

 トラムに乗り込み始動ボタンを押そうとした時、少しばかり緩い声が聞こえた。

 

「おーい、ちょいと待ってくれぇっ!」

 

 その声に聞き覚えのあった葛城ミサトは目元をひくつかせるや、躊躇なく扉の閉鎖ボタンも兼ねた始動ボタンを叩く為に腕を振り上げた。

 

「んっ!!」

 

 不快感めいた感情に基づいた行動。

 だが、それが逆効果となる。

 押すと言う1アクションでは無く、振り上げて下すと言う2アクションと言う差が、声の主の足をトラムの扉にまで届かせる時間となったのだ。

 扉の感圧センサーが()()を察知し、扉を開かせた。

 ひょっこりと言った感じで、開いた扉からするりと入ってくる男。

 

「よ、葛城」

 

 加持リョウジであった。

 NERVの制服を着崩し、無精ひげまで生やしている。

 とてもマトモに仕事をしている風には見えないが、これでも特殊監査局第1課課長代理であり少佐の階級を帯びている有能な人間なのだ。

 特に()()()()としては。

 又、判断力も高い。

 トラムに入るや否や、そっと始動ボタンを押したのだから。

 

「イヤー、走った走った! こんちまたご機嫌斜めだね」

 

「あんたの顔見たからよ!」

 

 軽妙に笑う加持リョウジと機嫌を急降下させた葛城ミサトを乗せ、トラムは地下へと走り出す。

 

 

 

 

 

 NERV本部、エヴァンゲリオンの開発と整備を担う技術開発局第1課。

 未だ全てを理解したとは言い難いエヴァンゲリオンと言う存在を解き明かす為、そして使徒との闘いでより効果的に運用する為の技術研究が常に行われる部署であった。

 現在、行っているのはアメリカで建造されたエヴァンゲリオン4号機に装備されていた運用補助システムだ。

 システムの概念構築を成した人物名を取って葉月Systemとも、或いはBモジュールとも呼ばれるソレは、搭乗者の獣性を刺激する事で攻撃力に転化させようと言う何とも理解しがたいコンセプトで作られたモノであった。

 コンセプト自体は怪しげであるが、操縦者の意識を人間の枠から解放する事で、エヴァンゲリオンをより自由に扱う事が可能になると言うのが謳い文句であった。

 人間には3本目や4本目の腕は無いが、腕があると思えば、使える。

 極端に言えば、そう言うシステムであった。

 

 使いこなせればエヴァンゲリオンの可能性は広がる。

 だが、その運用は実に難しいモノであった。

 

 

「実験中断、回路を切って」

 

 冷静に言う赤木リツコの目の前で、固定されたままに暴れているのは技術試験機として改造されたエヴァンゲリオン零号機。

 かつての姿との相違は、兵装パイロンなどの一切が撤去され、情報センサーが体の各部に大量に増設され、それらからの配線が冬毛の猫めいて伸びていると言う事だろう。

 今、エヴァンゲリオン零号機にはエヴァンゲリオン4号機のBモジュールを解析し、再現されたモノが搭載されていた。

 Bモジュール自体が搭載されていないのは、アメリカ支部から実物が送られてこなかったという事と、エヴァンゲリオン8号機建造に多忙である為、開発者である葉月コウタロウが来日しなかったという結果だった。

 では実物のあるエヴァンゲリオン4号機のBモジュールで実験しようとすれば、此方は物理的に簡単ではない。

 Bモジュールは複雑な構造をしている為、エヴァンゲリオン4号機から降ろそうとすれば、首回りは解体する勢いで分解を覚悟する事態となってしまい、数週間は戦闘配置に就ける事が不可能になる。

 それは止めてくれと、戦術作戦局から泣き付かれた。

 シンジ(エヴァンゲリオン初号機)惣流アスカ・ラングレー(エヴァンゲリオン弐号機)組み合わせ(ツー・トップ体勢)は強力無比であるが、支援火力を兼ねた予備戦力が無いと言うのは恐怖以外の何物でも無いのだからだ。

 

「回路切り替え、急げ!」

 

 伊吹マヤが第1課課長補佐(管理者)らしい凛とした声で命令を発する。

 その声に各オペレーター達が動いていく。

 電気が遮断されたエヴァンゲリオン零号機の動きが止まる。

 

「電源遮断実施」

 

「実施確認。第2回路、遮断確認」

 

00(エヴァンゲリオン零号機)、停止行程に入ります。入りました」

 

「では、機体固定状態の再確認まで実施せよ!」

 

 伊吹マヤ。

 はつらつと声を出す様は見事だった。

 まだ若いながらもなかなかの指揮官ぶりと言えた。

 だからこそ、並み居る第1課のスタッフの中で課長補佐(赤木リツコの右腕)に抜擢されたのだとも言えた。

 研究の才能があるだけでは、管理者にはなれないのだから。

 

 部屋が一瞬、暗くなる。

 実験棟を含めた区画の電気系統が再起動されたのだ。

 エヴァンゲリオンを動かすには大量の電気が必要故の事だった。

 

「電源、回復します」

 

 オペレーターの報告(コール)

 それを無視して赤木リツコはモニターを睨む。

 

「問題はやはりここね」

 

「はい、変換効率が理論値より0.008も低いのが気になります」

 

 モニターにはエヴァンゲリオン零号機と、その外側に仮設される形で取り付けられたNERV本部技術開発局第1課製のBモジュールの情報伝達回路、そのバイパス部分に問題が発生している事を示していた。

 赤木リツコらの手で作られたBモジュールが原因なのか、それとも接続部分に問題があるのか。

 慎重な調査、研究が必要な所であった。

 

「ぎりぎりの計測誤差の範囲内ですが、どうしますか?」

 

「もう一度同じ設定で、相互変換を0.01だけ下げてやってみましょう」

 

「了解」

 

 設定を変えていくオペレーター達。

 併せて機体側に異常が出ていないかの確認もしていく。

 

「局長、準備完了です」

 

 公私を分ける意味で、部下の前では赤木リツコを局長と呼ぶ伊吹マヤ。

 その生真面目さに内心で可愛らしさを感じながら、赤木リツコは命令を出す。

 

「では、再起動実験、始めましょう」

 

 凛と命令した瞬間、実験棟の電気が落ちた。

 

「あら?」

 

 

 

 

 

 唐突に、葛城ミサトと加持リョウジを乗せたトラムが止まった。

 丁度地下大空間(ジオフロント)の外壁路に差し掛かった辺りなので、NERV本部の情景が一望できていた。

 その全てから電気が喪われているのが判る。

 

「故障、いや停電か?」

 

「まさか、ありえないわ」

 

 NERV本部は、大電力を必要とするエヴァンゲリオンを複数運用する前提でシステム設計が為されている。

 2系統の回線、そして補助の3つだ。

 その全てが遮断されると言う事は物理的にあり得ない話であった。

 

「変ねぇ、事故かしら?」

 

「赤木が実験でもミスったのかな?」

 

「それなら煙でも上がっているわよ」

 

 トラムの窓に張り付いて、NERV本部を睨む葛城ミサト。

 だがその目には異常は見えなかった。

 寝静まったかのように、静けさに沈んでいる。

 

「どうだろうな。換気システムまで止まってしまえば」

 

「手動の強制換気システムがあるわよ。それにまぁ、すぐに予備電源に切り替わるわよ」

 

 楽観的に言う葛城ミサト。

 だが現実は、そう甘くは無かった。

 

 

 

 暗がりの中にあるNERV本部第1発令所。

 僅かばかりの明かりは、非常用補助電源装置の力で生きている第1指揮区画の非常用制御システムのモニターだけであった。

 

 その前に座った青葉シゲルが堅い声で報告を挙げる。

 

「だめです、予備回線つながりません」

 

「バカな!? では、生き残っている回線は何がある?」

 

 葛城ミサトの不在と言う事で、緊急の指揮を執る冬月コウゾウ。

 常であれば沈着冷静な態度を崩さぬ、この学者上がりの男が言葉を荒げている時点で、状況の容易で無さを示していた。

 

「2567番からの9回線だけです!」

 

「25系か、工事用の仮設回線だな?」

 

 25系とは第3新東京市の工事開始時に特設された太陽光発電システムの仮称(ナンバー)であり、67は回線の経由地を示していた。

 25太陽光発電システムが撤去されていない理由は、その位置が箱根の山中にあり、撤去せずとも第3新東京市の要塞機能に影響がないからであった。

 

「はい。太陽光発電システムです」

 

「供給力はどうか?」

 

「本施設の要求量の1.2%です」

 

 絶望的な数字であった。

 さてどうするべきか。

 冬月コウゾウが判断に迷った瞬間、声を挙げた人間が居た。

 

「生き残っている回線はすべてMAGIとセントラルドグマの維持に廻せ」

 

 碇ゲンドウだ。

 沈着冷静と言うよりも鉄面皮と言う表現こそふさわしい顔で、断じる。

 

「しかし、その場合ですと全館の生命維持に支障が生じますが………」

 

 恐る恐るといった感じで青葉シゲルが確認の声を出す。

 NERV本部は地下空間にある為、空調システムが止まれば空気の動力循環が不可能になる。

 更には温度調節も不可能になる。

 過酷な事となると言う確認であった。

 或いは死者が出る可能性すら危惧されると言えた。

 だが、碇ゲンドウは揺るぐ事無く命令を下す。

 

「構わん。優先順位を間違えるな」

 

「判りました!」

 

 

 

 

 

んだよ(あれ)?」

 

 シンジが停電に接したのは授業中の事であった。

 唐突に授業用のパソコンが電源断(ダウン)したのだ。

 見れば表示灯(ランプ)が消えていた。

 故障かと、隣を見ればアスカも電源ボタンをしきりに押している。

 

「駄目?」

 

「シンジのも?」

 

「うん。どうにも駄目っぽい」

 

「安物って事かしら」

 

 電源ボタンを押すと言うよりも叩くと言う塩梅に移行しているアスカ。

 だがパソコンが動く気配はない。

 

「アカンわ」

 

 と、近くの鈴原トウジも声をあげていた。

 そこでシンジは気づいた。

 パソコンが落ちているのはシンジやアスカのだけではなくクラス中であり、そして電灯もエアコンも止まっていると言う事に。

 何やらガチャガチャやっている綾波レイや、変な笑い声をあげて各種ドライバーをカバンから取り出した相田ケンスケなど。

 異変への対応は人それぞれと言う感じだ。

 

 

「困りましたね」

 

 教壇の先生が、まるで困って居ない様な口調で嘆息していた。

 人の営みが生む音の消えた第3新東京市は、只、セミの鳴き声が響いていた。

 

 

 

 

 

 


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