サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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07-epilogue

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 第9使徒撃滅後、第3新東京市を中心とした謎の停電状態は復帰する事となった。

 やはり異常と言えた電力の消失は使徒が原因であったとNERV上層部は安堵していた。

 だが、安堵出来ない人々も居る。

 現場の復旧対策班だ。

 電気系統の再チェックに始まって各種電算装置(コンピュータ)群の動作確認までする事は山盛りなのだ。

 非常電源供給システムの構築などにより、元より停電と言う状態を想定していなかった諸々が、完全に電気を失っていたのだ。

 それも正規の手順を踏んでの終了ではなく強制的に(強制シャットダウンなの)だ。

 電気が戻った、それで大丈夫などとてもではないが言えることでは無かった。

 唯一の救いはNERVの本丸たる第7世代型有機コンピューターMAGIが健在だったと言う事だろう。

 

 そして同時進行として第9使徒による被害対応があり、此方も相当に厄介であった。

 世の全てを溶かす様な力を持った溶解液は、第9使徒が活動を止めた瞬間、無害化(溶解力を喪失)しており、赤木リツコはこの点から第9使徒の溶解液はA.Tフィールドの何らかの操作によって生み出された特殊化溶解液だろうと判断していた。

 何らかの操作(何も判らないと言う話)は、現場の人間は誰もが無視(スルー)した。

 赤木リツコすら匙を投げた。

 只、無害化に必要となる中和剤、その為の調査分析などをせずに済んだ事は良かったと誰もが割り切っていた。

 問題は原因的なものよりも、その効果であった。

 第9使徒が撃滅され無害化する迄の間、ビルから地表から散々に溶かしていたのだ。

 使徒とエヴァンゲリオンが交戦した直径1㎞圏内は、下手に修理するよりも全廃棄して再建した方が早いと言われる程の有様だった。

 しかも現在、所々で火災が発生していた。

 溶解液で断線した電路や、その他の理由によるものであった。

 第9使徒が噴射した溶解液がどこまで広がっているか、完全に調査せねば通電すら出来ないと言う有様だ。

 結果、安全をみて戦闘区域から直径で5㎞圏内の全ての施設や設備は、点検終了まで通電は行わない事とされたのだった。 

 相当に厄介と言う言葉でも、まだ手ぬるいと言うべき惨状であった。

 

 第5使徒との闘い以来の大損害。

 NERVの人間にとって、眠れぬ日々が始まったとも言えた。

 

 

 

「ま、それでも人的被害がほぼ無いと言うのが救いよね」

 

 疲れ果てた顔で、それでも希望を望ん(心が折れぬ様にとの防衛行動)で言葉を漏らしたのは、NERV本部で随一と言える楽観主義者の葛城ミサトであった。

 指揮官と言うものは最悪を想定した上で楽観的に動くべきである、そんな訓練の結果とも言えた。

 珈琲カップを両手で持って、魂の抜けた様な顔をしている。

 責任者として、上がってきた情報を片っ端から処理していたのだ。

 疲れ果てると言うものであった。

 否。

 ()()()()()()()()()()、葛城ミサトは。

 故に、戦闘終了後から先ほどまで働きづめであった。

 

「そうね。国連軍も死者重傷者は出なかったって話だったかしら」

 

 合いの手を入れるのは無論、赤木リツコだ。

 此方も疲労の色が濃ゆい。

 復旧計画の概案を作る為、被害状況を必死に纏めていたのだから仕方がない。

 その上、甚大な被害を受けたエヴァンゲリオン弐号機の修復もあるのだ。

 NERV本部の技術部門の統括官としては、今日もだが明日も明後日も当分は眠れぬ日々となりそうであった。

 そんな葛城ミサトと赤木リツコが居るのは、口さがないモノからは第2執務室(佐官用監獄)などとも言われている終わらないお茶会(A Mad Tea-Party)だ。

 部屋の広さ、机の多さを存分に生かして書類を置き散らしている。

 

「その通り! 重火器も使えない状況でよくやってくれたわ」

 

「そうね、超大型特殊機材部(ジェットアローン運用チーム)と併せて部隊感状を出して良いと思うわ。後は個人感状が………」

 

「アスカね」

 

 言葉を濁した赤木リツコ。

 罪の告解をする様に、惣流アスカ・ラングレーの名前を呼ぶ葛城ミサト。

 使徒撃滅に於いて己の乗るエヴァンゲリオン弐号機を盾として突撃し、第9使徒の元へとエヴァンゲリオン初号機を無傷で突入させたと言う献身。

 それは、間違いなく個人感状に値する。

 只、葛城ミサトが言葉を重くしているのは、その代償であった。

 或いは反動(バックラッシュ)だ。

 突撃の際にアスカは、損傷によるエヴァンゲリオン弐号機の機能低下を補う為に殆ど反射的にエヴァンゲリオンとの深々度同調(オーバーシンクロ)を行い、エヴァンゲリオン弐号機の全力稼働状態を引き出していたのだ。

 全力稼働自体は問題ではない。

 赤木リツコを筆頭にした整備担当が泣くだけで終わる話だ。

 残業代と上司の金で飲みながら怨嗟の声を上げれば晴れる程度の憂さでしかない(赤木リツコの財布は死ぬ)

 問題は、深々度同調(オーバーシンクロ)の状態で中破以上の被害をエヴァンゲリオン弐号機が受けたと言う事だ。

 過度な機体との同調(シンクロ)は、その影響をパイロットに与える事となっていた。

 

「取り合えず、診察した限りでは体に異常は見えないわ」

 

 赤木リツコの言葉は事実だった。

 被害を受けたのはエヴァンゲリオン弐号機であり、アスカでは無いのだ。

 只、過度な同調によってアスカの体が被害を受けたと誤認した(ファントム・ベイン)状態なのだ。

 四肢に痺れが出ており、特にひどいのは顔などの神経が麻痺状態になっていた。

 葛城ミサトが自罰めいて疲労し果てるまで働いた理由だ。

 自分たち大人がしっかりと役目を果たせていれば、そこまで過酷な任務を強いる必要は無かった。

 そう思えばこそであった。

 多かれ少なかれ、どの部署の人間が思う事であった。

 少なくとも、うめき声も上げずに担架で運ばれる姿を見た人間であれば。

 或いは、常の鋭さを含んだ顔を輝きが失せた、表情の乏しい顔を見た人間であれば。

 

「アスカは、それこそ気楽に()()()()()()()()()()()なんて言ってたわね。ねぇリツコ、治るまでどれくらい掛かりそうなの。そもそも治るの?」

 

「気休めは言わないわ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。エヴァンゲリオンの、特にこの分野の研究はまだまだだもの」

 

「………」

 

「正直、良くあの娘は耐えたわ。ログを見る限り、それこそ体を焼かれる様な痛みを感じていた筈なのに………」

 

「ごめん。止めてよリツコ」

 

「そうね、悪趣味だったわ」

 

 両手で顔を覆う葛城ミサト。

 重い沈黙が終わらないお茶会(A Mad Tea-Party)を覆う。

 気分を入れ替える様に、赤木リツコが言葉を紡いでいく。

 

「取り合えず1週間は様子見ね。その間は学校も訓練も中止って事ね」

 

「そうね。後はシンジ君も」

 

 碇シンジはアスカの付き添いとして休む事となっていた。

 本来は、子供たち(チルドレン)の生活支援も担当する支援第1課からアスカの日常生活支援の人材を派遣するのだが、アスカが嫌がったのだ。

 良く知らぬ人間が、例えそれが同性であっても自分の私的空間(プライベート)に入り込んでくる事が嫌だと言ったのだ。

 とは言え強く拒否した訳では無い。

 何とは無くの、抵抗感があると言う風に言った。

 だから、シンジが手を上げたのだ。

 隣人として何時もご飯の世話をしていたのだ。

 風呂だのの世話などは流石に勘弁だけれども、それ以外はアスカが良ければ手伝うよ、と。

 それにアスカは飛びついたのだった。

 シンジで良い。

 否、シンジが良い、と。

 

「取り合えず、神様にでも祈りましょう」

 

天使(使徒)を打ち倒す私たちが? 受け入れてくれるかしらね」

 

「日本の八百万の神々(メニーメニーゴッズ)なら、きっと受け入れてくれる柱があるわ。多分」

 

「………そうね」

 

 

 

 

 

「シンジ、お腹すいた。お肉が食べたい」

 

 葛城ミサトらの深刻な風とは裏腹に、アスカの表情は明るかった。

 恐れていた麻痺であるが、時間と共に勢いよく回復しているからだ。

 NERV本部を出た頃は、送られる車中でシートベルトをして座っているにも拘らず隣のシンジに支えられねばならぬ有様であったが、己が城と植民地(シンジ宅)に戻った頃には、痺れなど殆ど消えていたのだ。

 少なくとも歩く事の支障は消え失せていた。

 

 満面の笑みで晩飯を要求するアスカに、シンジは逆に表情の消えた顔で同意していた。

 

「はいはい」

 

 診断の結果として1週間の自宅休養が命じられたアスカ。

 その弱った姿にシンジは()()を感じ、出来る事は手伝いたいと手を挙げたのだ。

 だが、今は少し早まったかもしれないと思っていた。

 足を揉めだの肩を揉めだの、或いはお風呂の準備をしろだの、風呂から上がれば髪を乾かせだのと、シンジの家で我が物顔で命令してくるのだ。

 少しばかりシンジが、自分の行動に疑念を持つのも当然であった。

 

「でも、肉は昼の停電で駄目になってるから、明日かな」

 

「えー 何でよ。一時間もしないで停電は回復した筈でしょ」

 

「ブレーカーが落ちてたんだよ。僕たちが帰ってくるまで」

 

「あっ」

 

「しかも、冷蔵庫に入れてたのはひき肉だったから………」

 

「そう言えばハンバーグしてくれるって言ってたものね」

 

「そういう事」

 

 基本的にひき肉は足が速い(痛みやすい)のだ。

 夏の半日近い停電は致命傷となっていた。

 

「ねぇ、明日出来る」

 

「はいはい」

 

「二回言うのは駄目って言ってるわよね?」

 

「はーい」

 

「伸ばすな!!」

 

 シンジの家は今日も平常運転だった。

 

「ところでシンジ」

 

「何?」

 

「アンタ、アタシの介護で1週間のお休み………()()()()は辞退ね」

 

「忘れてたよ」

 

 すっとボケるシンジ。

 普通に忘れていたのだが、そう言う役得もあったのかとアスカの指摘で思い出していた。

 それを顔に出すヘマはしない。

 だが、その程度でアスカは手を緩めない。

 

「貸し、1つよね」

 

「ちょっと待ってよ!? 流石にそれは酷いよ」

 

「良いじゃない。アイスクリームで帳消しにしてあげるから」

 

「それ位、明日、お見舞いで買ってくるよ」

 

 アスカの好きな銘柄の名前を挙げていくシンジ。

 どれもこれも好きだとアスカが言えば、その全部を買ってくると返すシンジ。

 何だかんだと言っても自分に甘いシンジに、アスカは笑み崩れる。

 それを自覚せぬまま、アスカはシンジから顔を隠すように感謝の言葉を口にしていた。

 

Danke(ありがとう)♪」

 

 

 

 その翌日。

 着替えを取りに帰った葛城ミサトが、元気になったアスカを見て腰を抜かすのだった。

 

「早く言いなさいよっ!!!」

 

 泣き顔で怒鳴る(ガチギレする)と言う器用な真似をする葛城ミサトに、アスカはゴメンと頭を下げた。

 忘れてた、と。

 とは言えシンジが買ってきたアイスクリームの中で、一番の大好物な(フレーバー)のソレを舐めながらなのだ。

 悪びれないにも程があると言うものであった。

 アスカの満面の笑みには、昨日の神経麻痺めいた状態の影響(残滓)など欠片も見えない。

 かえって隣に居るシンジの方が、申し訳なさから無表情めいた顔(アルカイックスマイル)をしている程であった。

 

すんもはん(すいません)まこて普通やったもんで(余りにも普通だったんで)

 

 異常らしい異常が見られなかった。

 だから、異常と言う事を忘れてたと言う。

 

「はぁ~っ」

 

 一気に歳をとった様に、床にへたり込みながら息を吐きだす葛城ミサト。

 それは、その日、その週、その月で一番の大きなため息であった。

 

 

 

 

 

 




2022.07.24 文章修正
2022.08.13 文章修正

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