【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件 作:◆QgkJwfXtqk
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大規模スポーツ用品店に買い物に来ていた碇シンジと鈴原トウジ。
ジャンルは勿論、自転車だ。
学校でもジャージ姿を好む鈴原トウジだが、それは服の選択が雑なのではなく拘りなのであった。
その拘りが自転車用品、ウェアに及んだのであった。
生地としてはスポーツ向けと言えるジャージは余裕を持ったデザインである為に動きやすくはあるのだが、自転車に乗ると考えた場合、裾などが回転部分に巻き込まれたりする事があったのだ。
それも何度も。
古いジャージからおろしたてまで。
幾つもの、チェーンに巻き込まれて油まみれになったジャージの裾を手洗いした結果とも言えた。
「裾がバタつくしのう。惣流もぴっちりした格好をしとる筈やで」
何着かを見て嘆息する鈴原トウジ。
伸縮性と発汗性に優れた生地と言う事は、
最初の頃は、登校服として上から下までサイクルウェアで揃えていた惣流アスカ・ラングレーであったが、相田ケンスケを筆頭にした
如何に
意識していない、意識する気も無い有象無象からの視線とは言え、不快感と言う奴を覚えるのは当然なのだから。
そこまでしてサイクルウェアを着ている理由は、偏にシンジとの勝負が楽しいからであった。
勝負が楽しいからこそ、勝負に勝ちたい。
勝負に勝つための条件を揃えたいと言う訳である。
それは、シンジと競うという事が単純に楽しいが故だった。
命も掛かって居ない、生存競争でも無い、只の競い合いが楽しいのだ。
そしてソレは、実はシンジも同じであった。
互してくる相手との闘いは、実に楽しいものだからだ。
シンジが自転車にハマった理由の大半は、
「
「ワイは制服はきらん!」
「
黒系のサイクルウェアを手に胸を張る鈴原トウジ。
シンジも、新しいサイクルウェアを手に取っている。
紫に緑と赤の差し色が入っている。
今まで休日などでアスカと遠乗りする際、普通のTシャツとハーフパンツ姿だったのだが、
だが、今日、買い物に来ているのは2人だけでは無かった。
「どう?」
目にも鮮やかな赤いウィンドブレーカーを羽織っている。
自転車に乗っている時以外でも似合いそうなスポーツウェアだ。
「馬子にも衣裳やな」
「あ”?」
見せたい訳でもない相手からの塩反応に、更なる塩い声で反応するアスカ。
アスカと鈴原トウジ。
この2人、何となくと言うレベルではなく馬が合わないのだ。
方向性が違い過ぎると言うべきかもしれない。
態度の不遜さは別にして幼少期からNERVと言う組織の中で育てられてきたアスカは、本質に於いては品行方正であった。
悍馬ではあっても狂犬では無いのだ。
だが鈴原トウジは違う。
義務教育の中学校で制服を拒否し、指定されているジャージすら拒否しているのだ。
変な格好をする訳では無いので学校側も受け入れられているが、本質に於いては実に
そもそも、だ。
更に言えば、逸脱させ、叱られる原因となった
その辺り、鈴原トウジと言う人間性が表れていると言えるだろう。
尚、その中間に立つのがシンジと言えた。
戦と成れば上下の
本質に於いては
何時もの口喧嘩が始まりそうになるが、それを今日は止める相手が居た。
「どうかな?」
自分の
アスカとは色違いの、銀に近い灰色のパーカーだ。
何時もとは違う髪型 ―― 2つ結びのおさげ髪を後ろで一本に三つ編みにしているのと併せて、可愛らしくも初々しさが漂っていた。
髪を仕上げたのはアスカだ。
同時にアスカも洞木ヒカリの手で後ろ髪を、2本の三つ編みにして前に垂らしていた。
共に
其方も、ある意味で男心であった。
尤も、見せに来た相手を褒める甲斐性は持っていたが。
「ほー 似合っとるで!」
その褒め言葉に相好を崩す洞木ヒカリ。
そしてアスカは自慢げに鼻を鳴らす。
当たり前だ、と。
「アタシの見立てだもの」
洞木ヒカリに似合う色は多く、スポーツ用のウィンドブレーカーは色々な色やデザインがあった。
その中かから野暮ったくも見えやすい今の灰色を選んだ理由は、鈴原トウジだった。
日頃から着ているジャージから、同じ黒系を選ぶだろうとのアタリをつけて、
その為に、アスカは洞木ヒカリに今日の格好は黒系を選ぶように予め言っておいた程であった。
今日の買い物は、最初は鈴原トウジが自転車用の服を欲した事が発端だった。
アドバイス役をシンジが頼まれた。
相田ケンスケも誘われたが、興味が無いと言って拒否した。
前々から
自転車で行こうかと言う話になった時に、アスカが
なら私
当然ながらも主目的は洞木ヒカリだ。
アスカは洞木ヒカリから鈴原トウジへの気持ちを聞いていた。
優しい所が好きなのだ、と。
学校ではバンカラめいた態度に終始しているが、実はそれだけではない事を知った結果であった。
洞木ヒカリと鈴原トウジの妹が同じ小学校のクラスだったこと、そして共に片親であり2人は妹の為に親代わりに色々とやっていた事が理由であった。
女の子モノなどの
鈴原トウジが、言動や外見などに現れない所で繊細で他人の為に骨惜しみしない優しさを持っていた所を知った結果とも言えた。
とは言え、
洞木ヒカリとの
特に最近は仲良くなった綾波レイ。
シンジとアスカがNERV本部の
尚、グループ女子からの方は、殆どがクラブ活動や家庭の用事があって参加したのは1人だけだった。
対馬ユカリ。
いわゆる洞木グループに於いて、洞木ヒカリやアスカの
美人と言うよりは愛嬌のある表現が似つかわしい少女であった。
最近、綾波レイと席が隣であった事もあって仲良くなっている事もあって、今日は参加していた。
普通の女の子であるが、神経は図太い。
アスカが、人が増えたから
その対馬ユカリは今、綾波レイと共に自転車を見に離れていたが。
その場でクルっと回って見せる洞木ヒカリ。
その様は学校でのお堅い委員長ではなく、年相応の女の子であった。
気になる鈴原トウジに褒められての嬉しさがあふれ出ていた。
満足げに頷くアスカ。
だが、アスカにも奇襲があった。
「アスカも似合ってるよ」
シンジだ。
本当に何でもない様に、素で褒められたアスカは鼻を鳴らしてソッポを向いていた。
「アリガト」
「どういたしまして」
色々とあった買い物は、最後に大きなイベントがあった。
綾波レイが自転車を買っていたのだ。
白に薄いブルーとオレンジのラインが入った海外メーカー製の
ドロップハンドルを採用したスポーツな自転車だ。
既に支払い済みで、自宅配送をお願いしている。
お目付け役めいた対馬ユカリにアスカ達の目が集まる。
止めろよ、と皆の目が言うが、対馬ユカリは両手をクロスさせて抗弁した。
無理! と。
その気になった綾波レイを止める事は簡単ではないのだ。
そもそも衝動買いだと冷静になれと言えるが、欲しいと腹を決めて、自分の財布から金を出すのであれば他人が止められる話では無かった。
目で会話するシンジ達。
誰が声を掛けるか、と言う所であった。
押し付け合いは最初に
結論は1つ。
アスカだ。
「良いのを買ったわね、レイ」
恐る恐ると言った塩梅で声を掛けるアスカ。
自分のモノとなった自転車を見ていた綾波レイは、振り返って頷く。
「コレでアスカと走れる」
「そうね………」
名の知れたスポーツ自転車メーカーの製品であり、高級車とまでは言わないが、決して安物では無い自転車だ。
そこまで思った時、アスカは気づいた。
綾波レイの目的を。
「もしかして、走りたかった?」
アスカの問いかけ。
綾波レイは首肯する。
「2人とも、楽しそうに笑ってたから」
NERVでの待機時間にも楽し気に走っていたりしたのだ。
ソレを見て、
というか可愛らしいと言う気分が先に来る。
思わず綾波レイに抱き着くと、良いわよっと声を上げていた。
「そんな風に言われたら、レイ。ジャケット、お祝い代わりにプレゼントするわよ。一緒に走りましょう」
「うん、有難う」
少女たちの、思春期らしい会話を聞いていた
相方と目配せをする。
サングラス越しでも判る表情。
頷き合った。
尚、その護衛班からの報告書を見た碇ゲンドウの心痛胃痛沈痛を知る者は殆ど居ない。
更にそれから小一時間。
買い物を済ませて、帰るにはまだ早いと思える時間。
だからこそ、カラオケなどに行こうかと誰かが声を上げた。
良いねと賛同の声も上がった。
だが、流石に買い物をしたばかりで予算の厳しい洞木ヒカリが微妙な顔になった。
鈴原トウジに似合うと言われた服を、思わずどれもこれもと買い込んでしまっていたのだ。
委員長、洞木ヒカリの大敗北であった。
だがソレを、であればと自分が奢るとシンジが言い出した。
今月分の
「
「アタシは自分の分は自分で出せるわよ」
「アスカも、何時ものお礼って事で」
「何時もって何よ………」
「元気を貰ってるって事だよ」
「………格好つけるなバカシンジ」
ベッと舌を出して見せたアスカ。
それから破顔し、音頭を取る様に行こうっと叫んだ。
歓声が上がった。
子どもたちの時間。
子どもで居られる時間。
だが、楽しい時は唐突に終わる。
シンジとアスカ、綾波レイの携帯が一斉に鳴った。
滅多に鳴らない警報音。
この街に響く、8度目の音。
使徒の襲来だ。
鈴原トウジも洞木ヒカリも、対馬ユカリも見た。
シンジ達が顔を変えるのを。
雰囲気を変えるのを。
「車を回しました。5分で正面に来ます」
音も無くやってきた護衛班。
耳元の通信機を押さえながらだ。
周辺を警戒する人も居る。
それらの姿は、正に実戦であった。
気持ちの切り替えが一番早かった綾波レイは、既に自転車の事を忘れ店の正面に向かう。
同じ勢いでアスカも歩き出す。
シンジは、後をよろしく頼むと鈴原トウジに告げた。
切り替えが遅いのではなく、気遣いをしたのだ。
護衛班の1人が、予備車で友人の皆さんは家まで送りますと返した。
スッと頭を下げるシンジ。
「
「おう、そん時には頼むで」
ユーモアを含んだ激励を背に、シンジは玄関に向かって駆け出す。
後に鈴原トウジは友人である相田ケンスケに言った。
顎を引いて胸を張って進むその様は、正に