サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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 極めて限られた時間の中で進められる事となった第10使徒の分析、そして迎撃作戦の立案。

 喧々諤々と殺意すら漂う勢いで議論が交わされている戦術作戦部。

 だが同時に、そこには前向きな雰囲気があった。

 今までのようなお膳立てをするだけで、実際の現場では子ども達(チルドレン)の才覚に全てを委ねるのではなく、大人として、使徒と対峙するのだと言う事の称揚感があったのだ。

 とは言え、出来る事は少なかったが。

 それでも少しでも現実的な迎撃作戦を立案していく。

 

 と、その最中に試験的攻撃とでも言うべきモノを第10使徒が実行した。

 体の一部を分離させ、降下させたのだ。

 質量攻撃(マス・ストライク)

 ユーラシア大陸内で行われたソレは、中国の大地に大穴を作り上げたのだ。

 国連東ユーラシア軍総監部が収集した情報が、MAGIによって分析され表示される。

 

「大威力ね」

 

 呆れたとばかりの声を漏らす葛城ミサト。

 日向マコトは青い顔をMAGIの端末から上げて、補足する。

 只の、単純な質量攻撃では無いと。

 

「質量もですが、恐らくはA.Tフィールドを使ってますね。被害状況がかなりコントロールされています」

 

「何それ?」

 

「時間もありませんので概算ですが、被害半径の割にクレーターの深さが浅い、()()()()()()()

 

 この場に居る人間の耳目が日向マコトに向いた。

 概算を基にした概略図が表示される。

 通常の、同じサイズの隕石等の落下によって出来るであろうクレーターと比較して、第10使徒による攻撃は確かに浅かった。

 明らかに、制御された攻撃であった。

 

「………そうね。目的は()()()()()()? エバーを、私たちの抵抗(対使徒迎撃要塞都市)を吹き飛ばす為………なら、本命はその後に降下してくるか」

 

 納得する葛城ミサト。

 概算で全長がKm単位となる、巨大な質量体だ。

 そんな代物が高速で、それもA.Tフィールドを纏って落ちてくれば、単純であれば地表は丸ごと吹き飛びかねない。

 地殻を貫通する可能性すら考慮すべき事態であった。

 だからこそ、制御された攻撃となる事に納得できるのだ。

 そんな攻撃を敢行すれば、使徒が進行してくる理由 ―― NERV本部地下施設(ジオフロント)最深部(セントラルドグマ)に封印されている目標体(リリス)まで消し飛ぶ事になるのだから。

 

「合理ね。良し、なら使徒は二段構えで攻撃してくるって想定で迎撃作戦、組み上げるわよ!」

 

「はい!」

 

 

 

 少しでも勝率の高い作戦を立案する為に努力する戦術作戦部。

 対して技術開発部は、エヴァンゲリオンの出撃準備を進めていた。

 特に、重点的に検査されているのは新装備であるEW-25(ポジトロンキャノン)であった。

 試射こそ済ませてはいたが、実戦投入は初であり、同時に、空からの敵を討つと言う事であればうってつけと言う事も相まって、技術開発部も又、熱意をもって仕事に取り掛かっていた。

 それは改良された支援機(ジェットアローン)の点検も同じであった。

 電力を馬鹿食いするEW-25の運用支援を目的に強化されたばかりであり、実戦投入前に確認するべき項目は多岐に渡るのだから。

 再誕した、と言うべき状況の機体なのだから。

 そもそも今の支援機を見て、ジェットアローンと言う対使徒人型兵器の試作品だったと思い出すのは難しいだろう。

 塗装は、灰褐色系の都市型低視認迷彩(ロービジ塗装)が施されている。

 だがそれ以上に外観が別物と化していた。

 動力炉(ジェネレーター)をより大出力のN²反応炉(ノーニュークリア・リアクター)に換装し発電能力を強化された胴体は、重量バランスを取る為に前後に伸びていた。

 四肢も、クレーン機能などを付与されて多機能化した腕や、脚に至っては安定性を強化する為に複脚めいた複雑な構造となっている。

 お披露目された(ロールアウトした)際の姿(原型)など、何も残って居ないとすら言えた。

 この現状を、時田シロウを筆頭とした日本重化学工業共同体(J.H.C.I.C)からの出向スタッフは喜んでいた。

 心血を注いで生み出したジェットアローンが、現実に立ち向かい成長している事を示しているのだから。

 そして現在、その血を継ぐジェットアローン2号機の建造が始まっている。

 対使徒と言う名目で予算をひねり出した、技術者の(浪漫)としての巨大ロボットは、今、確たる人の護り手として育っているのだ。

 この状況を喜ばぬ技術者など居る筈も無かった。

 

 

 

 喧騒に満ち溢れたエヴァンゲリオン格納庫(ケイジ)

 既に冷却水(L.C.L)は抜き捨てられ、3機のエヴァンゲリオンも準備が進んでいく。

 その喧騒を背に、3人の子ども達は落ち着いた時間を過ごしていた。

 戦を前にした緊張を納める為、ではない。

 命が掛かっている事も、世界を背負っている事も、哀しいかなもう慣れているのだ。

 碇シンジも、惣流アスカ・ラングレーも、綾波レイも、誰もがそれを日常として受け入れ、その上で乗り越えようと考える癖がついていた。

 だからこそ、この操縦者待機室でもリラックスして過ごしていた。

 

 シンジが綾波レイ用の紅茶と、アスカと自分用の珈琲を用意する。

 この場の待機時間の暇つぶしにと、シンジは操縦者待機室の給湯室に本格的なティーポッドやらサイフォンやらを持ち込んでいた。

 自分で買った機材に、天木ミツキが気を効かせて揃えてくれた珈琲豆やら紅茶の茶葉やらがある。

 無いのは生菓子の茶請けと、洒落たティーカップやマグカップの類だろう。

 茶請けは兎も角、紙コップが使われている理由は、飲んでいる最中でも即座に動ける(捨てて走れる)ようにとの考えだった。

 常在戦場(オールウェイズ・オン・デッキ)

 もはや染み付きつつある、シンジの癖であった。

 

「お待たせ」

 

 3つの、樹脂製のコップホルダーに差し込んだ紙コップの乗ったトレーを持って、ソファに座っているアスカ達の所に行くシンジ。

 暖かい、珈琲と紅茶のないまぜになった匂いがシンジの鼻孔を擽り、血生臭いとも評しえる、強いL.C.Lの臭いを僅かなりとも中和してくれるのだ。

 戦を前にした匂い。

 そんな感慨を抱いたシンジ。

 だが、幼少期よりソレに慣れ親しんできたアスカや綾波レイに、もはや感慨など生まれる筈も無かった。

 

Danke(ありがと)

 

 軽い調子で珈琲を取るアスカ。

 ミルクと砂糖マシマシのカフェオレめいた珈琲だ。

 綾波レイも、ありがとうと言いながら普通に紅茶に手を伸ばしている。

 此方は砂糖なしの、ミルクマシマシのロイヤルミルクティー風になっている。

 両方とも2人の趣味であり、好みの味だった。

 好みの飲み物を得た2人だが、その目はテーブルに広げられた、ジオフロント内の略図から動かなかった。

 

「どうしたの?」

 

 自分用の、ナシナシのブラックな珈琲を手に取って近くのソファに座るシンジ。

 

「ん? コレ? ツーリングのルートよ」

 

「来たら一緒に走りたい」

 

「あぁ、そういう」

 

 綾波レイが先ほどのスポーツ用品店で買った、自転車の事を思い出した。

 白を基調とした綾波レイに良く似合う、洒落た小径車(ミニベロ)

 アスカの、真っ赤な自転車(ロードバイク)と良い対色と言えるかもしれない。

 

「でも最初はゆっくりの方が良いと思うよ。綾波サァ(綾波さん)自転車にのっとったことはあっとな(自転車に乗ってた事はあるの)?」

 

「ないわ」

 

 フルフルっと可愛らしく首を左右にふる綾波レイ。

 文化系というか、余りアウトドアを好む風に見えない、その印象通りであった。

 と言うか、乗った事が無いのに安くない、本格的なスポーツバイクを買ったのだから、綾波レイもぼっけだ(肝が据わっている)とシンジは笑った。

 

「なら練習ね。レイ、アタシの指導は厳しいわよ」

 

「お願い」

 

頑張いやいな(頑張ってね)

 

「バカシンジ、アンタも他人事みたいに言うな。手伝いなさいよ」

 

「はいはい」

 

 和やかな空気。

 それを一変させたのは、1つの音であった。

 圧搾空気音。

 入口の扉が開いた音だ。

 弾かれた様に3人の目が一気に集まった。

 来たか、そう顔に書いてある表情だ。

 その予想に違わず、入ってきたのは葛城ミサトだ。

 溢れる気合が背筋を伸ばし、ヒールの音も高らかに大股で闊歩してくる。

 

「お待たせ! ブリーフィング、始めるわよ」

 

 

 葛城ミサトに続いて入ってきた戦術作戦局のスタッフの手によってテキパキと作戦指示(ブリーフィング)の準備が整えられていく。

 壁のモニターに地表の要塞機能(第3新東京市)図が映し出される。

 その前に立つ葛城ミサト。

 相対するシンジ達3人。

 共に表情は真剣(シリアス)だ。

 ケイジの喧騒が遠い世界の様に響く中、葛城ミサトから迎撃作戦の詳細が伝達されていく。

 

「さて、判ってると思うケド第10使徒は空から来るわ。有体に言えば落ちて来る。出来る事なんて逃げるか、それとも支えるかね」

 

 第3新東京市を担いで逃げられるなら、逃げたい位だと笑う。

 その葛城ミサトのジョークに、アスカが笑う。

 

「アタシはパス。逃げるなんて趣味じゃないもの」

 

「そうね。私もアスカと同じ意見よ。それに()()()()から逃げるって馬鹿馬鹿しいもの」

 

勝っとな(勝てるんですか)?」

 

「MAGIの計算ではモロモロの条件を合算すれば40.3%って所ね。ギリギリとは言え4割越えの勝率よ、野球ならエース(4番バッター)の数字ね」

 

「心強いの?」

 

「そうよ。と言う訳で、使徒にガツンと一発、喰らわせるわよ」

 

 綾波レイの質問に、自信ありげに笑う葛城ミサト。

 だが内心まで()()だった訳では無い。

 そもそも使徒との闘いは常に防衛戦であり本土決戦であり、負ければ最後の背水の陣なのだ。

 その意味において数字など無意味だ。

 戦わないと言う選択肢は取れないのだから。

 だからこそ、戦うのであれば景気の良い言葉を言うのも指揮官の仕事と割り切っての態度であった。

 胃と下腹部の痛み(指揮官故のストレス)を飲み込んで、豪快な指揮官の顔で葛城ミサト自信満々に続ける。

 

「とりあえず第10使徒への初手は弐号機よ。G型装備、EW-23B(バヨネット付きパレットキャノン)を使うわ」

 

「アタシが?」

 

 葛城ミサトがそう言った時、先鋒を指名されたアスカが覚えたのは驚きだった。

 耳がおかしくなったのかと隣のシンジを見る。

 見た。

 見られていた。

 シンジも少し驚いた顔でアスカを見ているのだ。

 自分の顔を指さすアスカに、シンジは頷いた。

 反対を見た。

 綾波レイが少しだけ表情を歪めて(不満げな顔をして)いた。

 どうやら自分の耳に異常は無いらしいと理解したアスカは、オカシイのは葛城ミサトであるかと理解して前を向いた。

 そんな剽げた様なアスカの仕草に、葛城ミサトは少しばかり好意的な笑みを浮かべながら捕足を加える。

 

「慌てないで、初手ってだけ。悪いけどアスカは前座になるわ。主役は早雲山の射撃ポイントに配置する4号機のEW-25(ポジトロンキャノン)よ。レイ、頼むわよ」

 

「はい」

 

 射撃は任せてと頷く綾波レイ。

 当然であるとか、それは少しばかり自慢げな顔だ。

 廃墟の様なアパートを出て、伊吹マヤや赤木リツコの居る女性尉官向け官舎(マンション)に済む様になってからの彩の加わった日常によって綾波レイの情緒は少しづつ、だが確実に育って居るのだ。

 

「第10使徒の能力、その全てが把握出来ないからこそ、本命であるレイのEW-25(ポジトロンキャノン)の前にアスカのEW-23B(バヨネット付きパレットキャノン)を叩き込むのよ。だから悪いけどアスカ、反撃を覚悟してて。その代わり、発砲命令後は回避その他の全行動の自由を弐号機に認めるわ」

 

「りょーかい。要するにアタシの腕を信じたって事ね」

 

「まぁね」

 

 アスカの自負を認める葛城ミサト。

 言葉は軽いが真顔であるが故に、アスカに心地よい高揚感を与える。

 

 実際、射撃戦闘のスキルと言う意味においてシンジとアスカを比較した場合、アスカとエヴァンゲリオン弐号機の組み合わせに軍配は上がる。

 アスカの射撃に関する高い戦闘センスを持つ事とシンジが射撃武器の訓練を受け始めてまだ間もないと言う点もあるが、それ以上にエヴァンゲリオン弐号機自体が射撃戦対応した装備を持っているというのも大きかった。

 一番わかりやすいのは複眼 ―― 4つの目を持つと言う外見上の特徴だろう。

 複数の目、センサー群によって目標との距離を測る事が出来るのだ。

 そして何より、その機能に応じた制御システムがエヴァンゲリオン弐号機には組み込まれている。

 葛城ミサトが頼るのも当然であった。

 

「まっ、任せなさいってーの」

 

 自信満々(ドヤァ顔)で、だが目だけはシンジに向けて言うアスカ。

 シンジは任せるとばかりに親指を立てていた。

 だが、今回は予備戦力(様子見役)かと思ったシンジに、葛城ミサトは違うと告げる。

 

「そしてシンジ君、貴方は最後の切り札(デッドライン)よ。最後まで気は抜かないでおいてね」

 

 それはシンジへの気休めではない、戦術作戦部の判断であった。

 第10使徒は、現時点で判明している質量攻撃機能の他に地下侵攻用の能力を持っている筈だと予測しているのだ。

 どの様な形態か、どの様な能力を持つのか、全てが不明。

 憶測すらも語れない、戦場の霧の向こう側の相手。

 だが、備えねばならない。

 

「レイの4号機はG号装備第2形態、重砲撃戦仕様だから直ぐには動けないわ。アスカも反撃を受けた後であれば即座に応援には回れないかもしれない。だけどシンジ君、貴方には退かせる訳にはいかないのよ」

 

 厳しい顔をする葛城ミサト。

 忸怩たる思いを出さぬ為の指揮官としての仮面。

 だが、その相手たるシンジは委細気にする事無く快諾する。

 

よか(判りました)

 

 それは正に男子の本懐と評すべき、笑顔であった。

 

 

 

 

 

 G号装備第2形態のエヴァンゲリオン4号機がケイジから規格外用パレットに乗せられゆっくりと早雲山の射撃ポイントへ向かっていく。

 その様を見送るシンジとアスカ。

 

 エヴァンゲリオン4号機に装着された重砲撃戦仕様たるG号装備第2形態は、便宜上第2形態と仮名(ナンバリング)されているが、実態としては別物であった。

 G号装備と同じく、大型キャパシタが搭載されているが搭載数が2倍になっている。

 その重量を支える為、そして射撃の安定性を高める為、副脚が用意されている。

 射撃体勢時には4つ足となって踏ん張る様にされているのだ。

 そして重量のあるEW-25(ポジトロンキャノン)は、腰の後ろ側のジョイント部に接続する形となっている。

 サブアームは左右両方とも大型盾装備となっている。

 G号装備第2形態はEW-25(ポジトロンキャノン)専用であり、エヴァンゲリオンの持つ汎用性(余力)を最大限に使い切った装備であった。

 

「ゴツいわね」

 

「だよね」

 

 出撃を前に、言葉が少しだけ少なくなった2人。

 とは言え、表情は別にこわばって居ない。

 只、時間が少ないと言う事が長話を止めているのだった。

 

「アタシの弐号機の(G号装備)、どうせなら赤色に塗っててくれれば良かったのに」

 

「流石に過労で倒れるよ」

 

「でもこの先、G号装備がアタシ用になるなら、それ位しても罰は当たらないわよ」

 

「赤に白のコントラストって綺麗だと思うよ」

 

「アレは白じゃなくてロービジ(灰色)だっつーの。銀色をベース色にしている4号機ならまだしも………」

 

 ぶつかたと不満を漏らすアスカ。

 シンジは優し気に笑う。

 

「アスカって拘りが強いよね」

 

「バカシンジ。人間、上を目指すなら一流のモノに触れてなきゃダメなのよ。妥協何て駄目、絶対。エヴァも服も何もかもよ!!」

 

「大変だ」

 

「ハン、それが生き甲斐に繋がるっちゅーの」

 

 胸を張ったアスカ。

 と、エヴァンゲリオン弐号機付きのスタッフがやってくる。

 第3新東京市中心を挟んで、エヴァンゲリオン4号機の早雲山の射撃ポイントの反対側に配置されるエヴァンゲリオン弐号機、その移動準備が終わったとの知らせだった。

 

「シンジ、行ってくるわ」

 

「アスカも気を付けて」

 

 拳と拳とをぶつけ合う。

 頷き合い。

 それからアスカは颯爽と、後ろを振り返る事無く、待機上衣(オーバーコート)の裾を翻しながら歩いて行くのだった。

 

 

 

 

 

 早雲山の射撃ポイントで射撃体勢を取るエヴァンゲリオン4号機。

 後ろに立つ支援機(ジェットアローン改)と第3新東京市、2つの電源線が繋がっている。

 それ程の大出力を必要とするのだ。

 否、それでも足りない。

 開発者たる赤木リツコが人類史上最大火力と胸を張るEW-25(ポジトロンキャノン)は、大都市の全電力や2基のN²反応炉(ノーニュークリア・リアクター)程度で満足してくれるほどに()()ではないのだから。

 日本全土の電力を全て食わせても尚、足りない。

 ある種、欠陥品めいた規格外兵器なのだ。

 故に、現状で発射できるのは1度に約2秒、それも最大出力の15.3%であった。

 とは言え、それで十分とも言えた。

 55口径560mmと言う途方もない大口径の陽電子衝撃砲は定格 ―― 最大出力で射撃すれば、理論上は山を溶かすどころか海を割れる火砲なのだから。

 

 今、綾波レイの前にはエヴァンゲリオン4号機のみならず、第3新東京市じゅうからの情報を元にMAGIが計算した射撃諸元があった。

 ソレに従って慎重に30mを優に超える巨大なEW-25(ポジトロンキャノン)の筒先を動かしていく。

 まだ、発砲しない。

 第10使徒は落下してきつつもまだ遥か高空にあり、EW-25(ポジトロンキャノン)有効射程内に入ってはいたが、アスカのエヴァンゲリオン弐号機が持つEW-23B(バヨネット付きパレットキャノン)の有効射程には入って来ていなかったのだ。

 否、入っていたとしてもまだ撃てない。

 日本政府からの許可が下りていないのだ。

 第3新東京市及びその周辺からの大規模な避難()()の可能なD-17条項、NERVの対使徒指揮権限を担保するA-17条項こそ発動が認められていたが、余りの大威力兵器であるEW-25(ポジトロンキャノン)の使用を日本政府がギリギリまで待つように()()していたのだ。

 第10使徒が、まだ使徒と識別されていない事が理由だった。

 第10使徒のその先が虚空とは言え、発砲したEW-25(ポジトロンキャノン)の余波がどうなるのか、皆目見当もつかない為だった。

 要請と云う形とは言え、日本政府が発したソレは強い意志が込められており、碇ゲンドウ不在のNERV本部では拒否する事など出来る筈も無かった。

 仕方のない話であった。

 ジリジリと耐える時間。

 最大望遠ですら、米粒の様なサイズでしか見えない第10使徒。

 深呼吸をする綾波レイ。

 その時、待ち望んだ報告が出た。

 

『目標、解析終了! パターン青、使徒です(BloodType-BLUE)!!』

 

 第1発令所に響く青葉シゲルの声だ(報告であった)

 続いて、日本政府よりEW-25(ポジトロンキャノン)の使用許可が出る。

 それを受けた葛城ミサトは仁王立ちに命令を発する。

 

エバー弐号機(エヴァンゲリオン弐号機)、射撃準備どうか?』

 

『三国山射撃ポイントにて待機状態、全状態異常なし! 何時でも射撃可能。但し、有効射程までは10,000!!』

 

 第1発令所の正面モニターに表示されるのは、戦闘配置に付いているエヴァンゲリオン弐号機。

 天を衝かんばかりにEW-23B(バヨネット付きパレットキャノン)を構えている。

 その様は正しく赤い騎士であった。

 

『結構! エバー初号機の配置はどうか?』

 

ポイント0.0(第3新東京市中央)にて準備完了』

 

 追加して表示されるエヴァンゲリオン初号機。

 その姿には、機動性発揮を阻害させぬ為に余分な装備は付けられていない標準形態(B号装備)だ。

 とは言え肩のウェポンラックに追加バッテリーが付けられ、腰の後ろ側兵装架(ハードポイント)にはEW-11C(プログレッシブダガー)では無くEW-12(マゴロク・エクスターミネート・ソード)が鞘に納められて固定されている。

 その装備の儘、何時でも奔り出せる様に前傾姿勢(クラウチングポジション)で待機していた。

 

『結構! 第10使徒の状況、どうか』

 

『降下軌道に変化なし。速度、変化なし。カウントダウン開始まで後距離1,000m!!』

 

『結構! 命令、総員はプランA-21に基づき行動せよ!!』

 

 指揮官たる葛城ミサトの号令一下、NERV本部戦闘団は作戦行動を開始する。

 綾波レイは、MAGIからの指示に基づいて照準を合わせアスカの射撃を、何より自分への射撃命令を待つ。

 深呼吸。

 その間にも、始まったカウントが進む。

 

『9、8、7……3…2、1、0!!』

 

 その瞬間、エヴァンゲリオン4号機のエントリープラグ内に表示されたエヴァンゲリオン弐号機が発砲した。

 60口径480mmのレールキャノンが3tにも達する砲弾を撃ちだす。

 G号装備に漬けられた冷却システムが、白煙を盛大に吐きだして強制的な冷却を開始する。

 素早い2射目に備えてだ。

 

『弾着……今!!』

 

 距離故に、如何に大加速しているとは言え数秒の時間を経てAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)の特殊合金製の弾体が直撃する。

 凶悪無比な破壊力を秘めた太い矢の様な弾体、だが撃たれた第10使徒は目視可能な程のA.Tフィールドを張って弾いた。

 だがアスカとて、否、NERVとて1発で効果を発揮するなど考えては居なかった。

 

『オォォォォォリャァァァァァァッ!!!』

 

 吠えるアスカ。

 その声に乗って、2射目が発射される。

 その気合にエヴァンゲリオン弐号機は答えた。

 MAGIの誘導、その先を示して見せた。

 1射目と同じ場所へと2射目を当ててみせたのだ。

 神業めいた技量であった。

 だが、第10使徒には届かない。

 再びA.Tフィールドによって弾かれる。

 だが、第10使徒も流石に無反応では居られなかった。

 

『第10使徒、反応をっ、これは射撃ぃっ!?』

 

 素っ頓狂な声を上げた日向マコト。

 そう、第10使徒は、体の一部を分離させ、矢の様な勢いでエヴァンゲリオン弐号機に向けて放ったのだ。

 EW-23B(バヨネット付きパレットキャノン)と同じか、それ以上の速度で撃ちだされた第10使徒の体の欠片(弾体)

 

『舐めるナァァァァァッ!!』

 

 サブアームが持つ大型盾を掲げるエヴァンゲリオン弐号機。

 否。

 真っ向から掲げるのではなく、少しだけ斜めに掲げた。

 逸らす積りなのだ。

 エヴァンゲリオンの機体の半分を超える様な巨大な弾体、その速度も合わせれば真っ向から耐えられるものではない。

 アスカの磨き上げられた戦闘センスが瞬時に判断した結果であった。

 

『反撃、02へ……っ』

 

 第10使徒の反撃、それをエヴァンゲリオン弐号機は逸らすだけでは無かった。

 弾体が大型盾に触れる瞬間、一気に外へと振らせて弾いて見せたのだ。

 正に神業であった。

 その対価として吹き飛ぶ大型盾と、支えるサブアーム。

 だがその対価は、アスカに齎された。

 3()()()

 動かなかった理由、それは諸元の再計算をせぬ為であった。

 恐るべき戦意。

 執念の乗った3射目は、第10使徒のA.Tフィールドを貫く事に成功した。

 とは言え、残念ながらも巨大過ぎる第10使徒にとって()()は痛打足りえなかったが。

 お返しとばかりに、先ほどとは違って7発もの弾体を用意する。

 面制圧射撃だ。

 だが、発射するよりも先に葛城ミサトが命令を発する。

 

『レイ!』

 

 短く呼ばれた己が名前。

 その意図を間違う事無く理解した綾波レイは、秒よりも短い速度でトリガーを引いた。

 大閃光。

 轟音。

 EW-25(ポジトロンキャノン)の、560mmにも達する巨大な筒先から放たれた陽電子は、その定格出力の20%にも満たない威力で撃ちだされたのだが、その計算通りに陽電子に乗った衝撃波が凶悪なまでの威力を発揮した。

 1発だ。

 只の1射で第10使徒のA.Tフィールドを打ち破り、たったの2秒の照射時間で第10使徒の巨体を焼き尽くした。

 豪砲一閃。

 そして大爆発。

 第10使徒は閃光に包まれた。

 

 その残照の下、EW-25(ポジトロンキャノン)が一気に水蒸気を噴き上げた。

 安全装置が働いたのだ。

 大電流を扱った支援機(ジェットアローン改)もだ。

 仲良く膝を付く姿勢となる。

 出来る限りの最高の一撃に、綾波レイは満足げに唇をゆがめた。

 

『やったか!?』

 

 日向マコトの声。

 誰もが第10使徒を仕留めたと思った。

 青葉シゲルを除いて。

 手元の計測機器が示す情報が、希望的観測を許さないからだ。

 声を張り上げる。

 

『使徒、A.Tフィールド健在!!』

 

 

 爆炎を裂いて出現する第10使徒。

 その姿は人型であった。

 地上 ―― 地下、NERV本部地下大深部封印層(セントラルドグマ)に侵攻する為の姿だった。

 第3使徒、或いはどこかしらエヴァンゲリオンを思わせる姿だ。

 A.Tフィールドを効果的に使い、光をまき散らしながら一気に地上へと降りる。

 否、真下にではない。

 早雲山の射撃ポイントを一瞥するや、一路エヴァンゲリオン弐号機の元へだ。

 エヴァンゲリオン4号機が即座に動けないと見ての事だった。

 

『第10使徒、02(エヴァンゲリオン弐号機)を狙ってます!』

 

『アスカ! 避けて!!』

 

 接触を避けろとの葛城ミサトの命令。

 だが、その命令にアスカが反応するよりも先に、人型を得た第10使徒はエヴァンゲリオン弐号機を襲った。

 咄嗟に反撃を図るアスカ。

 だが、EW-23B(バヨネット付きパレットキャノン)は何時もアスカが操っている武器(近接装備群)と違い過ぎた。

 重すぎた。

 大きすぎた。

 その事を、EW-23B(バヨネット付きパレットキャノン)を掴まれ、握りつぶされるまでアスカは忘れていた。

 G号装備も又、エヴァンゲリオン弐号機にとって(重荷)であったのだ。

 

『こんちくしょーっ!!』

 

 EW-23B(バヨネット付きパレットキャノン)を捨て、G号装備を爆破ボルトでエヴァンゲリオン弐号機から強制排除させたアスカ。

 近くに配置していた白兵戦用のEW-17(スマッシュトマホーク)へと手を伸ばさせる。

 だが、その赤いエヴァンゲリオン弐号機の手が紫に染まった。

 第10使徒に掴まれ、千切られたのだ。

 

『左腕損傷! 回路断線、損害不明です!?』

 

 日向マコトの悲鳴めいた報告。

 報告めいた怒号が飛び交い、騒然となる第1発令所。

 

『っ!?』

 

 だが、アスカは悲鳴を漏らす事無く歯を食いしばってエヴァンゲリオン弐号機を操る。

 そのエヴァンゲリオン弐号機の状態(コンディション)は一気に悪化していく。

 

『シンクログラフ反転、パルスが逆流しています!?』

 

『回路遮断、塞き止めて!』

 

『自立防御システムは!?』

 

『反応ありません!!』

 

 蹴飛ばされたエヴァンゲリオン弐号機。

 機体が受けた衝撃が余りにも大きく、エントリープラグ内に充填してあるL.C.Lでも中和しきれずにアスカの体が跳ねる。

 その衝撃で、インテリアで頭を打つ。

 アスカの赤い血がエントリープラグに零れる。

 

『アスカ!!!』

 

 葛城ミサトの悲鳴。

 大人たちの救助の努力。

 綾波レイは機体とEW-25(ポジトロンキャノン)を必死に再起動させようとした。

 

 だが一番速かったのは、声を一つとして挙げる事無く()意を持ってエヴァンゲリオン初号機を奔らせたシンジだった。

 既に鞘より振りぬかれ、天を衝かんとばかりのEW-12(マゴロク・エクスターミネート・ソード)

 踏み込み。

 そこで漸くシンジは声を発する。

 

『キィィィィィィ!』

 

 猿叫。

 シンジに応え、エヴァンゲリオン初号機も吠える。

 その様は正に剣鬼、戦鬼であった。

 知性無き獣ですらもおぞけをふるうであろう姿。

 第10使徒が気付いた時は、既にシンジ(エヴァンゲリオン初号機)の間合いであった。

 

『エェェェェェェイッ!!』

 

 蜻蛉の姿勢から放たれた打ち込みは、正に一撃必殺を体現していた。

 それは正に地軸の底まで叩っ斬るが如し。

 哀れ第10使徒は只の1閃をもって真っ二つとなり果てるのだった。

 

 

 

「んっ………」

 

 ズキズキとした頭痛を共にして失神から回復したアスカ。

 反射的に側頭部を押さえる。

 血だ。

 血がL.C.Lに流れ出ていた。

 だがそれ以上にアスカの目を占めたのは、己を見るエヴァンゲリオン初号機の姿であった。

 使徒の返り血を受け、真っ赤になったその様は地獄の鬼もかくやと言う有様であったが、アスカに恐怖など無かった。

 周りを見れば、通信用の窓に回線途絶(ロスト・リンク)の文字が浮かんでいた。

 誰の声も聞けない。

 誰にも声は届かない。

 だからだろうか。

 アスカは年相応の、幼げな表情をして小さく呟くのだった。

 

「遅いわよ、バカシンジ」

 

 それは、実に甘やかな音色だった。

 

 

 

 

 

 


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