サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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08-Epilogue

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「何で俺にも声を掛けてくれなかったんだよぉ!!!」

 

 相田ケンスケの絶叫めいた悲鳴が、市立第壱中学校2年A組に木霊する。

 週頭の月曜日、まだ早い時間と言う事もあって出てきている生徒が少ないが、その誰もが何事かと振り返る程であった。

 だが、声を上げたのが相田ケンスケと見るや、興味を無くして視線を戻すのだった。

 奇行癖がある奴(イロモノマン) ―― とまでは行かないが、それに類似する扱いをA組の中では受けているのだった。

 

 さて悲鳴の相手だが、此方は鈴原トウジだった。

 週末に碇シンジ達と行った買い物で、新しいジャージを購入したと話した結果であった。

 今までとは違うブランドのジャージを着ていた事に目ざとく気付いた相田ケンスケが、スポーツ用品店での買い物話に食いつき、その結果、知ったのだ。

 買い物に行ったのが鈴原トウジとシンジだけではなく、惣流アスカ・ラングレーや綾波レイに洞木ヒカリ、対馬ユカリまで参加していたと言う事を。

 アスカや綾波レイは当然であるが、可愛いと言う意味においては洞木ヒカリも対馬ユカリもクラスでは上位陣なのだ。

 アスカへ懸想している分も含めて、中学()としての目覚めが進んで居る相田ケンスケが悲鳴を上げるのも当然と言う話であった。

 とは言え、怨嗟を受ける鈴原トウジからすればたまったものではない。

 何故なら買い物で最初に誘ったのは相田ケンスケだったのだから。

 

「山にこもるゆーて断ったんは、ジブンやぞ?」

 

 ジト目を添えて言われれば、如何な()少年相田ケンスケとて自分の言動を思い出すと言うモノであった。

 先の週末、鈴原トウジが自転車用のジャージが欲しいと言い出して、なら、前に行った店を案内するよとシンジが答えた。

 そこで、相田ケンスケにも声は掛かった。

 が、相田ケンスケは前から準備していたミリタリーな一人キャンプを優先して断ったのだったと。

 男3人の買い物(友情)よりも、趣味を取った。

 それだけの話だった。 

 ところがどっこい、話が複雑骨折してクラス上位陣の女子4名が加わる買い物になったのだ。

 相田ケンスケとて理屈は理解し納得しても、感情ではおさまりがつかないというモノであった。

 ある意味で、自覚のある逆切れ。

 

「それでも話が変わったなら、教えてくれても良いじゃないか!?」

 

 理論的ではない、正に生の感情の奔流。

 来ていたA組の面々は、呆れるやら笑うやらと言った塩梅となった。

 或いは、相田ケンスケだしとなっていた。

 2年A組と言うクラスが生まれてはや半年以上が経過し、その最中に第4使徒が襲来した際に籠ったシェルターから鈴原トウジを伴って勝手に出た事や、文化祭での喧々諤々(大暴走)などもあって多くの人間が相田ケンスケと言う人間を見てきた結果ともいえた。

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 と言う立ち位置(ポジション)である。

 是非もない、身から出た錆と言うものであった。

 とは言え、その正面に居る鈴原トウジは感情的な反発は見せなかった。

 軽い調子で流す。

 

「ま、次の機会もあるやろ」

 

「本当かよ」

 

「ホンマや。綾波の奴は自転車買っとったし、イインチョも自転車に興味を持っとったからな。なんなら皆でサイクリングもええやろ」

 

「本当か!?」

 

「ホンマやホンマ」

 

 笑う鈴原トウジ。 

 ダチ(貴様俺の関係)もあったし、そもそもそう言う人間だとして受け入れているが故だった。

 とは言え、イインチョたる洞木ヒカリが興味を持っていたのが自転車だと誤認している程度には純情であったが。

 否、察しが悪い訳では無いだろう。

 シンジやアスカと一緒に鈴原トウジが自転車で街を回ると言った時に、洞木ヒカリが自分も一緒に行ってみたいと言ったのだから。

 洞木ヒカリが遠回り過ぎたのかもしれない。

 

 兎も角。

 サイクリングと言う休みの際に一緒に居られるかもしれないと言う千載一遇のチャンスを相田ケンスケは見た。

 問題は、この相田ケンスケ。

 自転車に乗った事は無いし、そもそも自転車自体を持たないと言う事だろう。

 高度な都市化がされている第3新東京市は、その行動の殆どをバスや電車などの交通システムで賄う事が出来ている為、自転車を欲する人間は少数派の側だったのか。

 

「どうしよう?」

 

 相田ケンスケは幼少期から小遣いその他を一切合切、ビデオやカメラに放り込んで来たのだ。

 インドア派(ヒキコモリ)などでは無く、サバイバルゲームだのキャンプだのも愛好するが、その際の足は概ねバスなどなのだ。

 自転車など欲しがる筈も無かった。

 

「そこは知らんがな」

 

「シンジの自転車の前に乗ってた、古いのは無いの!?」

 

「おっおう。買い物用のママチャリ(シティサイクル)ならあるで?」

 

 古い、実用性最重視の買い出し用の自転車であり、前も後ろにもカゴを付けてある主夫仕様だ。

 同居している大人 ―― 父親も祖父もNERV絡みの仕事で忙しいので、いつの間にか、鈴原トウジが買い出しなども担うようになって用意したモノだった。

 銀色のボディに錆びは多いが、タイヤやブレーキなどはキチンと手入れされている。

 他人に貸しても問題は無いと思えていた。

 

 とは言え、鈴原トウジは少しばかり躊躇する。

 転んで傷が付くなど今更の自転車であったが、とにかく積載能力重視の自転車であり重たい(スピードは出ない)のだ。

 2桁どころか3段の変速機すら無い古い自転車だから当然と言えた。 

 シンジから貰ったクロスバイクに乗った時、世界が変わって見えた程だというのだから、その差は言うまでもないだろう。

 

「頼む、後生だから貸してくれっ!!」

 

「そう叫ばんでんええけど、でもジブン、乗れるんか?」

 

「あ……」

 

 

 

 

 

 第壱中学校2年A組朝の喧騒(バカの騒ぎ)とは空気が違う、静謐さがあるのはNERV本部地下空間(ジオフロント)に設けられた大規模複合病院である。

 とは言えこの病院、実はNERV関係者専用と言う訳では無い。

 世の中には入院している事を知られたくない職業の人間も多いのだ。

 それらの口が堅いと認められ、情報を知れるだけのコネを持ち、そして何よりも金を持っている人間に対しても門戸は開けられているのだ。

 それは患者側のNERVに対するコネであるが、同時に、NERVから世界に対するコネでもあった。

 碇ゲンドウの交渉力の源泉、その1つとも言えた。

 

 日本国内のみならず、世界からも来るVIP患者の居る病院。

 その中でも一番に優遇される場所に居るのがシンジたち適格者(チルドレン)であった。

 30畳はありそうな巨大な部屋は個室、と言う訳では無い。

 調度の持つ高級感とは似合わない、機能性を重視した医療用のベットが2つ置かれている。

 1つはアスカが横になっており、もう1つの主は綾波レイであった。

 

「シンジ、珈琲飲みたい」

 

 半分起こしたベッドの上で、病院服姿のアスカは、包帯の隙間から覗く顔を気だるげに歪めながら3人目の部屋の住人に要請を出した。

 出された住人、シンジはソファに座ったまま一言で断る。

 

「まだ駄目」

 

「ケチ」

 

「碇君、紅茶が飲みたい」

 

まっちゃんせ(待っててね)

 

 と、アスカを挟んで向こう側のベッドから、綾波レイも要求を出す。

 喉が渇いたと言うよりも、要求(ワガママ)と言うモノを他人にしたい ―― アスカの真似がしたいと言う態であった。

 そもそも相部屋である事も綾波レイの可愛らしい我儘であったのだ。

 大きな部屋に独りは寂しいからと言って、相部屋を要求し、アスカも又、それを受け入れた結果であった。

 情緒の育ってきた綾波レイは、少しづつ普通の女の子になろうとしていた。

 それを理解しても、シンジは優しく受け入れる。

 アスカには、それが面白く無い。

 桜色の唇を尖らせて不平不満を口にする。

 

「何それ馬鹿シンジ! 差別と優遇は止めるべきよ!!」

 

「アスカは朝まで絶飲食って、看護婦さんに言われたじゃないか。明日まで検査入院したいの」

 

「………それはいや!」

 

「でしょ? だったら朝の診察が終わるまで我慢我慢」

 

「採血なんて、とっととやってしまえば良いのに」

 

「他の検査との兼ね合いがあるからって説明されたじゃないか」

 

「ワタシは喉が渇いたのっ! 珈琲が飲みたいのっ!!」

 

 子どもめいた、否、子どもそのものの(年齢相応めいた)態度をするアスカ。

 元からアスカにとって病院は嫌な場所であった。

 思い出したくない思い出、母の最期と紐づいているのだから仕方がない話だった。

 その上に、エヴァンゲリオンの訓練などで怪我した際に入院した際にも巨大な個室で独りっきりだったのだ。

 好きになれる筈が無かった。

 だが、今は違う。

 シンジが居る(朝から見舞いに来てくれた)し、綾波レイも同室者になっている。

 それが、アスカの楽しさ(子ども帰り)に繋がっていた。

 

 シンジは、そんなアスカの事情を知らない。

 互いに、まだ、己の深い所の話をした訳では無いからだ。

 だが何となく、アスカが楽しそうだと言うのを理解し、同時に、何かがあったのだろうと察したシンジは、アスカの我儘(子どもっぽさの発露)を受け入れるのだった。

 

「退院したらとびっきりのを淹れるから、それまで我慢我慢」

 

「私には?」

 

「今、飲んでるでしょうが!!」

 

 即座に行われたアスカのツッコミ。

 それが理解出来ないで綾波レイは小首を傾げた。

 実に小動物めいた仕草に、アスカは毒気を抜かれて只、溜息をついた。

 

「アンタがそーゆー風な性格だって、思わなかったわ」

 

「そう? 判らないわ」

 

「………でしょうね」

 

 素直すぎる綾波レイに、捻くれた所のあるアスカでは勝てなかった。

 それを微笑まし気に笑うシンジを睨んで、アスカはベッドに背中を預けた。

 

「ったく、暇よ」

 

「そうね。早く自転車に乗ってみたい」

 

「言っとくけど、アンタは練習からだからね。でないと転んでケガして入院する羽目になるんだから。今回みたいな()()()()じゃなくて、ギブスでガッチガチに固定される様な奴」

 

 綾波レイの入院は、アスカの様な外傷性のモノでは無かった。

 単純な体調不良 ―― その命の特性(不安定さ)と、半年ほど前の事故の後遺症などからくる突発的な体調不良から、大事をとっての検査入院であった。

 シンジやアスカは、後者の理由は知っていても、綾波レイの真実は知らない。

 ()()()()()綾波レイの体調不良に気を使っていたのだ。

 女の子同士と言う事で、学校やNERVでの着替えなどで綾波レイの体をまじかに見て来たアスカは、その体に残る過酷な傷跡を知っていた。

 エヴァンゲリオンの最先任(開発担当チルドレン)として苦労を重ねてきている事を理解すればこそとも言えた。

 

「そう、なら気を付けるわ」

 

「そうしなさい。取り合えず、紅茶はシンジに家で淹れてもらうから、それまでは大人しくしてなさいよ」

 

「判った」

 

 尚、賢明なるシンジは、全部自分に投げられている事を理解して苦笑をしつつも声を上げる事は無かった。

 雉も鳴かずば撃たれまい、の精神であった。

 

「何を笑ってるのよバカシンジ!!」

 

 訂正。

 新世紀の猟師は鳴かずとも撃つ、撃ち落とす名手であった。

 

「はいはい」

 

「何よ、はいはいって」

 

「診察が終わったら美味しい珈琲を淹れてあげるって事だよ」

 

「ケーキも付けてよね!!」

 

 ぷっくりと頬を膨らまして不満を顔で表明するアスカに、シンジは益々笑いを深めていた。

 そして綾波レイは小さく、だが確実に笑いながら見ていた。

 そんな病室の空気は、診察用のワゴンを引いた看護婦と医師が来るまで続いたのだった。

 

 

 

 

 

 


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