【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件 作:◆QgkJwfXtqk
探せ、そうすれば、見いだすであろう
門を叩け、そうすれば、あけてもらえるであろう
09(Ⅰ)-1 We Are Legion
+
SEELEとの会議は碇ゲンドウにとって面倒事であった。
碇ゲンドウとNERVは誠心誠意、その手足となって人類補完計画の為に奔走しているにも関わらず何かあれば呼び出しして、在れや此れやと文句をつけて来るからである。
無論、碇ゲンドウとてSEELEの不安は判る。
使徒から人類を守る事も、
だからこそ碇ゲンドウは従順な態度をとる。
自分以外を己の飼い主とは認めない、傲岸不遜と言う言葉こそ似つかわしい男であったが、
「とは言え、こう何度も頻回に呼ばれては付き合いきれぬがな」
愚痴る碇ゲンドウ。
だが腹心の冬月コウゾウは笑う。
「老人たちに出来るのはその程度だ。計画を動かしだしてしまえば、もはや修正は効かぬ。止めるか進めるか、それだけしか出来ぬのだ。であれば日々、不安に駆られもすると言うモノだ」
「………ふん、何が不安だと言うのだ。E計画は順調だ。使徒との闘いに不安要素は無い」
拗ねた様な物言いをする碇ゲンドウ。
実際、使徒と言う人間の脅威を払う為の
不安と言われても困ると言うものである。
現在、
アメリカ支部で進んで居る
他に、技術試験機としての
そして、E計画の目的である使徒撃退と言う意味でも、第3新東京市に襲来した7体の使徒は悉くを倒すという赫々とした功績を上げているのだ。
文句を付ける余地など無い。
それらを成す為に碇ゲンドウはNERVの総司令官として奔走しているのだ。
不安と言う感情によって邪魔をされ、本来の目的が達成できなければ無意味ではないのかと憤慨するのもある意味で当然であった。
「裏死海文書で予想されている使徒は17、リリスまで数えるのであれば残るは7体。油断をする訳にはいくまいよ」
「だからこそだ。私の邪魔をして何をしようというのだ」
「老人、だからな。老いは全てへの猜疑と不安とを与えるものだ。この手から零れ落ちていく時と言う砂が、彼らには金の欠片の様に見えるのだろう」
「詩人だな」
「移動時の暇つぶしには本は役に立つ。そう言う事だ。それに人類補完計画に関しては順調とは言えぬのだ。老人たちには其方の方が重要なのだ。であれば仕方あるまいよ」
「人類補完計画とてそう遅延している訳では無い。アダムの解析も順調だ。そもそも、使徒を全て倒さぬ限りは人類補完計画の発動自体が不可能だ」
冬月コウゾウの弁に、呆れる様に嘆息する碇ゲンドウ。
NERVに求められる大切なもう1つの役割、それが人類補完計画。
その実行責任者たる碇ゲンドウにとって、現状は順調そのものであった。
「とは言え、扉を開く全ての鍵が揃っている訳では無い」
「それは時間が解決してくれる」
不満を隠そうともしない碇ゲンドウを、窘めるように笑う冬月コウゾウ。
その時間こそが問題なのだと。
SEELEが重大事と捉える人類補完計画。
それは、人を人の身の儘に進化させる
或いは、人が知恵の実と生命の実を兼ね備えた地球の正しき支配者への
SEELEは、凋落しつつある己らの再生を願った。
碇ゲンドウは、失われた自らの妻との再会を夢見た。
同じ人類補完計画の名が付けられていても、その到達点は全く異なる2つの
同床異夢。
SEELEは自分たちの欲望を達成する道具として碇ゲンドウを見ていた。
碇ゲンドウは己の欲望を実現するための財布としてSEELEを見ていた。
最後には決裂する定めを負っていた両者。
だが、少なくとも現時点では
兎も角として、現在進行形として凋落しつつある人類史
「老人の身には時間が無いのだ。それに、時間に焦がされているのはお前も一緒だろう」
「………ああ」
冬月コウゾウとの会話で気分転換をした碇ゲンドウ。
そして開かれたSEELEの会議は、その鉄面皮にヒビを入れるものであった。
『碇、
「はぁ?」
思わず変な声が出た碇ゲンドウ。
それ程にSEELEの人間、そのトップであるキール・ローレンツの声は疲れ切っていた。
余りの声色の悪さに驚き、次のその意味を碇ゲンドウは考えた。
追加、エヴァの整備と言う言葉。
そして安全保障理事会と繋がれば、結論は一つであった。
「………キール議長、新しくエヴァンゲリオンを整備する。そういう事、でしょうか?」
『他にどう捉えるというのか』
『左様』
眼鏡のSEELEメンバーが、ズレた眼鏡を直す事無く力なく呟いた。
メンバーの誰もが疲労しているのが判る。
「何があったのですか?」
『造反よ。安全保障理事会の新加入どもが、反旗を翻しおったのだ』
地の底から響くような怨嗟の声。
その声が続けた。
安全保障理事会の秘匿定例会議にて
今後のNERVとSEELEの予算獲得に向けた
人類にとっての恐るべき脅威、使徒。
だが国連特務機関NERVは十分に活動し、成果を挙げている。
人類は守られている。
この状況を維持する為に、人類が生き残る為にももっと予算配分をお願いします。
それは緻密とは言い難いし的確とも言い難い、有り体に言えば
正確に言えば、迫力があり過ぎたのだ。
国連軍の正規装備では打破しえない使徒と言う脅威。
倒せるのはエヴァンゲリオンのみ。
そのエヴァンゲリオンは、使徒の目標となる第3新東京市に集中配備されている。
NERVと
だが、これが良く無かった。
使徒は正体不明であり
少なくともSEELEとしては使徒の目標となるアダムの情報を、例え国連安全保障理事会のメンバー国であろうとも
莫大な予算を喰うNERVは、陰謀論の標的となりやすいからだ。
故の秘密主義。
これが良く無かったのだ。
使徒の脅威を知った、安全保障理事会の新加入国 ―― 嘗ての選挙製の非常任理事国では無い
ある意味で当然の話であった。
その5ヶ国、オーストラリア・トルコ・インド・ブラジル・インドネシアはエヴァンゲリオンの更なる建造と自国への配備を強く要求したのだ。
これにはSEELEも頭を抱えた。
寒冷地と化した欧州からの移民も多く英連邦加盟国と言う事もあって影響力を発揮しやすいオーストラリアやインド、ブラジルは兎も角、縁の遠いトルコやインドネシアをSEELEが抑える事は困難であるのだ。
そして、抑えられぬからと2ヶ国に認めれば、残る3ヶ国も黙ってはいられない。
そして、5ヶ国が自分たちの国に配備を強いるとなれば、残る安全保障理事会メンバー国たる7ヶ国も黙ってはいられない。
正に政治であった。
国民世論に阿る定めとなる民主主義国家の宿命とも言えた。
世界史を動かす民意と言う
人類史の裏側で暗躍し続けて来たとは言え、所詮は秘密結社でしかないSEELEが太刀打ちできる筈も無かった。
「それで、エヴァンゲリオンの第2次整備計画ですか………」
流石の碇ゲンドウも絶句する。
寝耳に水であったのだ。
使徒迎撃戦役が始まり、NERVも組織として目標が明確化した事で安定しており、その為、国連への情報収集活動が疎かになっていた結果とも言えた。
『左様。
『しかも、非常時以外での自国指揮権まで要求してな』
従来の軍隊が保有する装備に対してエヴァンゲリオンは明らかに優越しているのだ。
その様な危険物を国連とは言え
「………最低でも11機の追加建造」
ズシんと胃に重いモノを感じる碇ゲンドウ。
現在のE計画を倍以上にするのだ。
必要な予算や人員その他、実行責任部門となるNERVの総責任者として碇ゲンドウが強い負担を感じるのも当然の話であった。
冷や汗を自覚する碇ゲンドウ。
眼鏡の位置を戻す仕草で、額のソレを拭う。
SEELEのメンバーは心なしか、他人の悪い顔で笑っていた。
碇ゲンドウの参加する寸前まで、その件で心労を重ねていたのだ。
新しい
『碇よ、間違うな。11ヶ国ではない。
「日本も、と言う事ですか」
『左様。きやつらNERV本部とは別の、NERV日本支部の設立まで要求しおった』
沈黙が舞い降りた。
重い重い沈黙だった。
誰もが、もう今日の会議は此れ迄としたい。
そんな気分で居た。
が、碇ゲンドウは気力を振り絞って確認をした。
「何時までに、でしょうか」
5年先、10年先であれば問題は無い。
エヴァンゲリオンの整備計画も完遂しているだろうし、そもそも人類補完計画が発動した結果、エヴァンゲリオンと言うモノを必要としない世界になっているかもしれないのだから。
だが、その儚い希望は現実によって叩き壊される。
『出来る限り速やかに』
「………………善処します」
『碇君、残念ながらそう誤魔化せるものではないのだ』
『左様。基本計画は年内に作成、来年
その言葉を碇ゲンドウは飲み込む事に聊かばかり努力を必要とした。
SEELEのメンバーが、キール・ローレンツを筆頭に誰もが疲れた顔をしている理由を理解したが故にだった。
ある意味で、この時初めて碇ゲンドウとSEELEのメンバーは心を1つにしたとも言えた。
「努力します」
『ああ。君の献身と努力に期待する』
『碇君、我々も予算措置に関しては努力する。君も健康に気を付けてやりたまえ』
それは皮肉では無かった。
「………努力します」
後に碇ゲンドウは冬月コウゾウに述べた。
SEELEとの会議に於いて、最も最低で最悪の雰囲気であったと。
2022.09.07 文章修正
2022.10.31 題名修正