サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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09(Ⅱ)-1 XENOGLOSSIA

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 NERV広報部が提案し碇ゲンドウが承認した、人類の盾たるエヴァンゲリオンの宣伝用動画(プロモーションフィルム)と、適格者(チルドレン)の情報の一部公開。

 その一報に接した人間は、誰もが碇ゲンドウの正気の所在を(は狂ったのかと)訝しんだ。

 それ程の決断が成された理由は、1つには疲労であった。

 国連安全保障理事会での会議では第2次E計画についての質疑応答に深夜まで付き合わされるし、人類補完委員会(SEELE)からは延々と(SEELE)の人類補完計画への影響に関する会議に付き合わされるし、日本政府からは擾乱状態の民心慰撫に関する助言を要請(協力要求と言う恫喝)を受けていたのだ。

 止めは、男女関係における下克上である。

 道具として絡め堕としたはずの女 ―― 赤木リツコに、事、寝室に於いて勝てなくなってきていたのだ。

 公私共々に逃げ場のない日々。

 如何にタフネスな交渉人として知られた強面の碇ゲンドウとて疲れ果て、判断を誤りもすると言うものであった。

 

 とは言え適格者(チルドレン)の情報公開に関しては、この方針が打ち出されるや否や作戦局支援第1課(子どもの守り手)が本気の上申(カチコミ)をNERV総司令官執務室に行っていた。

 既に大人は子ども達の自由を奪い、戦う事を強要しているのだ。

 にも拘わらず、これ以上に子ども達から自由を奪う積りなのかとの事であった。

 その際の天木ミツキの相貌は、正に般若の如きであった。

 又、激烈な上申をしたのは支援第1課だけではない。

 適格者保護任務(チルドレンガード)の保衛部第2課も、全ての情報を公開した場合、その安全性の確保は不可能となると言う旨を上申していた。

 共に、大人の矜持故の事であった。

 その勢いに負ける形で、碇ゲンドウも、自分とて世界の為に適格者(チルドレン)を犠牲にする積りは無いと発言する程であった。

 

 

「人心の慰撫の重要性は言うまでもない事だ。人々が安心して生活できる状況を守る事こそがNERVの第一義であると言える」

 

「その言葉を聞いて安心致しましたわ。人類補完計画等と言う大層な名前の、その人類に子ども達が含まれているというのであれば、本官として申し上げる事は御座いません」

 

 般若めいた(攻撃性あふれた)笑みから影が減り、何時もの慈母めいた笑みに戻して、天木ミツキははんなりと釘を刺す。

 対する碇ゲンドウ。

 自分は何故に作戦局に支援第1課を作る事を認めたのだろうか、そんな過去の自分に怨嗟の声を向けながら、それをおくびにも出さずに静かに頷くのだった。

 

「………天木君、君の業務に対する真摯さを評価する。子ども達の露出に関しては、詳細を君の手(支援第1課)で纏めてくれればよい」

 

「有難うございます碇総司令官」

 

 

 

「良かったのか碇?」

 

 天木ミツキの退室後に、漸く口を開いた冬月コウゾウ。

 その質問に碇ゲンドウは淡々と答えた。

 

「別に問題は無い。荒れ狂った(ヒステリーを起こした)大衆に餌を与えると言うだけだ。その情報が事実である必要も無い。無論、全てが嘘であれば問題となるだろうがな。後は天木君が適切に行うだろう」

 

 吐き捨てる様に言う碇ゲンドウに。

 実際問題、この多忙なNERV総司令官にとってはその程度の話でしかなかった。

 関係各部がガチギレしたのは予想外であったが、であれば、その意見を受け入れて修正すればよい。

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 それ以外の全ては碇ゲンドウにとって些末事でしか無かった。

 とは言え、その右腕たる冬月コウゾウからすれば少しは言いたい事もあった。

 

「そうやって興味の無い事を丸投げするから、面倒事に育つのだと思うがね」

 

「面倒事は切り捨てるに限る。SEELEの老人共も大衆も、本質に於いては差はない」

 

「そうやって馬鹿にして切り捨てた結果が、その顎だと思わんかね?」

 

 少しばかり揶揄の籠った言葉。

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 その言葉の意味を碇ゲンドウは誤解しなかった。

 碇シンジ。

 息子であり、人類補完計画の鍵であり、その為に折っておかねば(自分の駒に落とし込まねば)ならなかった相手。

 だが結果は逆であった。

 碇ゲンドウが駒にされた訳では勿論無い。

 只、折る積りが折られたのだ。

 顎は砕かれ歯も3本も折られた。

 幻痛めいたものを覚え、思わず手を顎にあてた碇ゲンドウ。

 

「計算が狂う事とてある。その程度の話だ」

 

「それが再発しない事を俺は祈るよ」

 

「………問題ない」

 

 

 

 

 

 取り敢えず、先ずはエヴァンゲリオンの戦果報告動画(プロモーションビデオ)が作成される事となった。

 NERV本部付きの広報部が作ったが、その評価は散々であった。

 NERV本部(日本人)の反応は概ね、この程度だろうと言うものであったが、その手の事に本気を出す癖のあるアメリカ支部が大反発。

 人心を慰撫し、或いは鼓舞するのは、この程度の動画などでは不可能だと断じた。

 その上で自分たちが改善すると言い出した。

 

「01と02はもう少し躍動感を見せるべきだ。そして我々アメリカ人が作り上げた04が、この動画では置物の様では無いか!!」

 

 私情が大量に混じった主張であった。

 だが、ドイツやフランスの支部からもアメリカ支部を支持する声が上がった為、碇ゲンドウは最終確認以外の全権を本部及び各支部の横断的広報部の連絡会へと予算を付けて投げ渡したのだった。

 興味が無いから。

 それ所では無いから。

 NERV総司令官と言う役職はそれ程に多忙であった。

 

 又、公開される適格者(チルドレン)の情報に関しても、年齢と性別以外の全情報を非公開とする以外は、取り合えず広報部と支援第1課で纏めてくれとぶん投げるのであった。

 

 

 

 

 

「アタシたちの事を公開するってぇの?」

 

 休憩室と作戦伝達室(ブリーフィングルーム)を兼ねた適格者(チルドレン)専用の操縦者待機室。

 そこを埋め尽くさんばかりの声を上げた惣流アスカ・ラングレー。

 表情に困惑がある。

 アスカだけでは無く、相方でもあるシンジも同じであった。

 唯一、綾波レイだけは超然とした態度を崩していなかった。

 興味が無いから、であろう。

 絆であるエヴァンゲリオン(スピリチュアルアンカー)に乗り、親しい人たちを守る為に戦う。

 それ以外の事を全て些事と認識するが故と言えた。

 

 兎も角。

 アスカの悲鳴めいた質問に、葛城ミサトは応じる。

 これこそが仏頂面と言うべき表情のままに。

 

「ま、どういう形かは未定だけども、一度は記者会見をするって思っておけば良いわ」

 

ないごてな(どうしてなんですか)?」

 

「直接的に言えば広報部が莫迦を言って碇司令がハンコを押した(承諾した)から。でも広義で言うならば、多くの人達に誰が守って居ますと言う事を伝えて安心させたいから、かしらね」

 

 自分でもそれが正しいのかと思いきれていないが為、葛城ミサトは疑問符の付く言い方をしていた。

 シンジはそう言うものなのかと首を傾げていた。

 そこに綾波レイがそっと言う。

 

「暴力は駄目」

 

なんちな(暴力)?」

 

「碇司令を叩いては駄目」

 

 碇ゲンドウの名前が出たので、そうシンジが思うと綾波レイは感じたのだ。

 とは言えシンジは、ムカついたからと安易に暴力に訴える様な粗暴な人間では無い。

 碇ゲンドウに手を挙げたのも、あの急場で寝言を言う(ディスコミュニケーション)態度に余りに腹を立てての事であった。

 その後に謝罪でもあれば別であったが、そう言うのも無い。

 であれば宣言通りに殴るのみ。

 言わば、シンジは刀を抜くと言ったのだ。

 だが、碇ゲンドウはソレを事実であると受け止めず軽く流していた。

 だからこそ、である以上は宣言通りにしなければならない。

 そういう話であった。

 シンジが理性の無い狂犬で無い事は綾波レイも理解していた。

 だが、どうしても人間と言うモノは最初の印象の影響が大きいのだ。

 それは綾波レイにとっても一緒であった。

 

そげんこっはせんど(そんな事はしないよ)

 

「そう。なら良かった」

 

 手をヒラヒラとさせて否定するシンジ。

 いい加減、シンジとも会話をする様になって時間が経過した事もあって、綾波レイもその態度を信じるのだった。

 

「……むぅ…」

 

 そんな2人をじっと見るアスカ。

 自分の判らない話で会話している2人を見て何となく面白く無いモノを感じたが為の事だった。

 その内面の感情に従って、綺麗な眦が歪んでいた。

 相方の異相に気付いたシンジが、視線を送る。

 送られたアスカはプイっと横を向いた。

 

「どうしたの?」

 

「………ナンデモナイ」

 

「そう?」

 

 行き成りに変な行動に出たアスカに、シンジも綾波レイも首を傾げる。

 その様をチラ見したアスカは益々もって機嫌が急降下する。

 何故なら曲がっている首の角度まで2人は似ていたのだ。

 何となく、そう何となく、それが面白く無かったのだった。

 

 変な風になった空気。

 それを変える為、葛城ミサトは手を叩いた。

 乾いた音に、3人の子ども達の目が集まる。

 

「仲の良い事は結構。シンジ君、アスカ、痴話喧嘩は家でゆっくりやってくれる? 取り敢えず説明を先に進めたいから」

 

「ハァ!? バッカじゃないの!!」

 

ちっ、痴話ちなんな(何を言ってるですか)!?」

 

 2人そろって真っ赤な顔にはなっていたが。

 概して早熟になりがちな女子故にアスカが理解しているのは必然であろう。

 対して、男子と言う事を抜きにしても性の目覚めが遠いシンジであったが、それでも痴話喧嘩等と言う言葉は知って居る。

 悪い友人たち(相田ケンスケ&鈴原トウジ)からの情報でだった。

 情報は得ていたが、それが自身の性に繋がらない辺り、シンジは本当にシンジであった。

 

「はいはい。ご馳走様。レイ、私には貴方だけが癒しだわ」

 

「判りません」

 

「そのうち判る様になるわよ」

 

 ウィンクをする葛城ミサト。

 そこから表情を変えて説明を続けた。

 

 3人を公表する。

 とは言え公表するのは、エヴァンゲリオンを駆る適格者(チルドレン)は男の子1人と女の子2人と言う事。

 その上で、公表の場に3人には参列が要求されるが、3人とも特殊メイクを施した上で、ウィッグを装着して目元は色の濃ゆいゴーグル型サングラスを付けて隠す。

 礼装と帽子、ベレー帽を被る事も相まって、人相は判らなくなる ―― 有り体に言えば別人になるのだと葛城ミサトは言う。

 

「取り合えず、論より証拠。チョッち見て見て」

 

 その言葉と共に、画面にはMAGIによってCG合成された3人の完成予想図が映し出される。

 3人の姿は平素とは別物になっていた。

 

「へぇ」

 

 感嘆の声を上げるアスカ。

 最近は化粧にも興味を持ってきた綾波レイも、その様に驚いている。

 シンジだけは、へー と言う感動の無い感じであったが。

 兎も角。

 アスカと綾波レイの様に葛城ミサトは満足(ドヤァ)顔である。

 

 先ずは綾波レイ。

 葛城ミサトの指示に従って、綾波レイ(Children-01)とタグの付けられたキャラクターが拡大される。

 CGで変装した綾波レイは、先ず特徴的なのは日本人的な栗毛めいた茶色いウィッグを前下がりボブにしているという事だろう。

 その上で、口元にホクロを付けている。

 目の形も少し変わっている。

 隣には対比用のモデルがある為に差が良く判る。

 

「確かに別人ね」

 

 感嘆の声を上げるアスカ。

 綾波レイに至っては声も出ないと言う感じである。

 

「でっしょー 安心してアスカ。貴方も別人よ」

 

「美人なんでしょうね?」

 

「もっちろんよ」

 

 そう言って、次に拡大されたアスカ。

 アスカはゴージャスな純金めいた透明度の高い金糸のウィッグを被っていた。

 肩まで伸びる前髪は普通に垂らしている。

 後ろ髪は後頭部で纏められている。

 それだけで印象は大きく変わる。

 その上で、鼻の周りに雀斑(ソバカス)が配置されていた。

 ある意味で白人(コーカソイド)の女の子らしい特徴(アイコン)とも言えた。

 とは言え、アスカとしては少しばかり不満点となる。

 魅力的な特徴だと言うのは、少しばかり難しいからだ。

 

「アレ、無い方が良いんじゃないの?」

 

「完璧すぎるとリアリティーが消えるって話なんで、そこは我慢して」

 

「仕方ないわね」

 

「大丈夫、アスカは美人だよ」

 

 不承不承と言った風のアスカに、シンジがフォローを入れた。

 威力は抜群(クリティカルヒット)、と言う塩梅だ。

 その火力はアスカの白磁めいた頬を染めさせ、俯かせると言う戦果を挙げる事に成功した。

 問題は、その意味をシンジはまだ知覚する事が無いと言う事だろう。

 

「あっ、アリガト」

 

「どういたしまして」

 

 罪も性も無い、それはとても綺麗なシンジの笑顔だった。

 

 

「どう思う?」

 

 体の痒さを感じて、わき腹を掻きながら隣に立った天木ミツキに小声で問う葛城ミサト。

 天木ミツキも微妙な顔をしている。

 

「教育が必要な気もするわね。アスカが可哀そうにも思えるもの。とは言え、難しいわよね。心は自然な成長でないとエヴァンゲリオンとのシンクロ率に影響があるとかリツコが言っていたもの」

 

「なのよ。だから家ではツッコミを我慢するのが大変で大変で」

 

 冷静な天木ミツキは、家って言うけれども葛城ミサト宅では無くシンジの家だったと言う事実を礼儀正しく無視して頷いた。

 

「なら、なるようにしかならないわね」

 

「そうね。こればかりはチョッちね」

 

 

 さて、最後になったシンジの変装(イメージチェンジ)だ。

 長髪は似合わないと言う事もあって、逆に短めの髪にされていた。

 側頭部を刈り上げたツーブロック風になっている。

 短いながらも残されている頭頂部の髪は整髪剤(ポマード)でサイドから後ろに流す様に固められている。

 軍人でよく見る髪型とも言えた。

 引き締まった、精悍なシンジの顔立ちに良く似合っているが、同時に、日頃のシンジを見慣れている人からすれば別人であったであろう。

 尚、髪色は濡羽色とでも言うべき、深く艶やかな黒色であった。

 素で茶色の入った地毛との違いも、別人だと思わせる効果が大きかった。

 

「シンジ、アンタも似合ってるわよ」

 

「似合ってる? そう言ってもらえると嬉しいかな。ありがとう」

 

 プイっと横を見ながらシンジを褒めるアスカ。

 頬は少しだけ朱が差している。

 シンジは衒いの無い顔で喜んでいた。

 

 

「痒いわね」

 

「そうね」

 

 珈琲が飲みたい。

 砂糖ヌキヌキのブラックが飲みたい。

 そんな顔で頷き合う葛城ミサトと天木ミツキ。

 

 その横で綾波レイも首元を触っていた。

 

「コレが痒いと言う事?」

 

 

 

 取り敢えず、3人の予想図のお披露目が終わった。

 後は礼服用の採寸と言う話になる。

 新規に作ろうと言うのだ。

 以前の、NERV制服を作る際の採寸情報も残っていたが、成長期と言う事で改めて行う事となったのだ。

 やいのやいのと言いながら総務部の制服部門に移動中、フト、アスカは一つの事に気付いた。

 

「ねぇミサト」

 

「なに?」

 

「質疑応答ってアタシ達が行うんじゃないのよね?」

 

「ええ。ミツキがアスカ達の傍に付いた上で広報部の担当がする手筈よ。声質データを採られない為にも、そうなるわね」

 

 特殊メイクも併用して面相を変えているのだ。

 にも拘わらず、地声を採取されては意味が無い。

 そういう事であった。

 情報秘匿へのNERVと葛城ミサトらの努力を評価するアスカであったが、だからこそ疑問を覚えたのだ。

 

「だったらコレってアタシ達がやる必要あるの?」

 

「ゴミン、上の指示」

 

「………うん、別に良いんだけどね」

 

 咄嗟に、アスカは葛城ミサトに謝っていた。

 それ程に葛城ミサトの顔には疲労の色が浮かんでいた。

 否、葛城ミサトだけではない。

 隣の天木ミツキも同じであった。

 

「色々とあるのね」

 

「そう言って貰えると助かるわ」

 

 

 

 

 

「くしゅん」

 

「風邪か?」

 

「いや? ああ、問題ない」

 

 通常運転のNERV総司令官執務室。

 だがそれも、この適格者(チルドレン)の変装に関する報告書を見る迄であった。

 茶色い髪に変装した綾波レイの姿を見る迄の。

 

「ユイ!?」

 

「ユイ君!?」

 

 思わず発された2人の大声は、部屋の外に居た秘書が何事かと振り返る程であった。

 

 

 

 

 

 




2022.10.31 題名修正
2022.11.11 題名修正

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