【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件 作:◆QgkJwfXtqk
+
国連安全保障理事会に提出された第2次E計画は紛糾し、会議は踊り続けていた。
さもありなん。
国連の軍事関連予算は勿論、人類補完計画への
その規模は、下手な国家の国家予算に匹敵していた。
それが複数年に渡って分割で良いのであれば、或いは渋い顔で認める事も出来ただろう。
だが、第2次E計画の場合、
当然ながらも維持費は別である。
そんなものを、はいそうですかと右から左に
尚、取り敢えずの方向性としては、第2次E計画におけるエヴァンゲリオン整備数を削減する方向となっていた。
ある意味で王道の対応であったが、問題は、何処のエヴァンゲリオンを削減するかである。
エヴァンゲリオンの建造中止は負担の減少を意味するが、同時に、それを簡単に受け入れる事は政治的にも国民感情的にも簡単な事では無かった。
更には、その状況を好機と見たSEELEが
影響力を有していた
平時では
又、他の国々に対しても可能な限りの交渉を仕掛けていた。
早期のE計画、及び第2次E計画の成立を図る為との建前を掲げて。
その流れに安全保障理事会理事国も乗った。
が、面子の為に素直に、そして即時には首を縦に振る事は無かった。
正に
故に
それに先立って公開された、エヴァンゲリオンの
アメリカ支部を経由して、
使徒に対して一歩と引かずに
様々な武器を使いこなし、優美さと凛々しさを両立させるエヴァンゲリオン弐号機。
銀色の追加装甲を身に纏い、槍の様にも見える火砲を持ったエヴァンゲリオン4号機。
3機のエヴァンゲリオンはそれぞれ、異なった魅力を持っていた。
そうであるが故に盛り上がったのだ。
どの様な
NERVの広報部は世間の期待を計算し尽くして、それが
その日、世界の耳目は日本の第3新東京市へと集まった。
「体が痒いわ」
ボソッと不満を漏らしたのは綾波レイ。
その身はスポーツブラ1つで上半身を露出し、
服から露出する場所全てにファンデーションを塗り込めて、肌色を
その感覚は、化粧と言うモノに縁の無かった10代の少女にとっては不快感以外の何物でも無いだろう。
綾波レイはアジア系適格者として公表されるのだ。
である以上、白磁めいた肌色などの特徴は隠さねばならぬと言うモノであった。
「掻いちゃ駄目よ………気持ちは判るけど」
窘める態で不平不満を口にするのは惣流アスカ・ラングレーだ。
此方は、肌色は染めなくても良いのだが、赤みを帯びた腰まである髪をウィッグに隠す関係で思いっきり後ろに纏めてひっつめているのだ。
頭の地毛が痛い事になっていた。
その上、鼻の所に
痒みはあり、かきむしりたくなっている。
我慢はしているのだが、中々に辛い事になっていた。
いや、それどころかアスカの場合は目の形を変えて見せる為に
綾波レイ以上に辛い所があった。
「大体、目元はサングラスで隠す予定なのに、何でこんな事をせにゃならないのかっつーの」
「隠す予定だけど見える事があるから、その対応ね。だから諦めて」
宥める様に言ったのは天木ミツキ。
マネージャーめいて2人に付いていたのだ。
支援第1課の課長で中尉と言う人間がする
碇ゲンドウやらの無理難題、或いはマスコミなどからの無理筋な要求から子ども達を守るのだ。
その心意気が表に出てか、
襟元に輝くのは中佐の階級章。
今回の対応の為もあって、中佐待遇中尉となっていたのだ。
マスコミのみならず、アレコレと偉そうにしてくる
「この1回きりで終わるのよね?」
「終わらせるわ。シンジ君も含めて3人の負担が大きいって私も理解しているから安心して。
そこに含まれている意志に、ヒュッとアスカのメイクを担当していたスタッフが息を飲んだ。
幸いな事にアスカは目を閉じていた為に、気付く事は無かったが。
完成した
キッチリと着こまれたNERV
黒を基調として金糸のモールで飾られた礼装は、飾られた勲章や徽章も相まって迫力があった。
何よりも視線が違う。
アスカも綾波レイも、足元は身長を誤魔化す為もあって特別にヒール付きのパンプスを履いているのだ。
ズボンのすそで隠れている為、簡単に見破られる事は無いだろう。
変装は本当に、徹底していた。
「なかなかね」
姿見を見ながら満足げに笑うアスカ。
身長的なモノも含めて言えば、数年先の自分の姿を見る様なものなのだ。
それが美人になる様にされていては、満足しない筈が無かった。
対して綾波レイ。
違和感があるのだろう、頭に乗っている赤いベレー帽をしきりに触ろうとしていた。
右側へと垂れた、機体色に合わせた青銀色の飾房を動かしても居る。
「あんまり触るとズレるわよ」
「違和感があるわ」
「ウィッグを付けて、ベレー帽だものね。仕方ないわ」
「………窮屈」
「そうね」
幼子めいて唇を尖らせる綾波レイに、稚気を感じつつ同意するアスカ。
そのアスカとて不快感を感じていた。
髪もそうだが、
綾波レイが
つま先の負担を感じるのも当然であった。
常日頃から動きやすさ優先のパンプスやスニーカー、或いは
化粧を行った部屋から今の待機室に移動する際にも、少しばかり足元がおぼつかない感じになっていた。
当然の話かもしれないが、不安があった。
「アスカも?」
「まぁね」
頷き合う2人。
何時もとは違う自分と言う点では面白かったし、アスカからすれば礼装の飾りは自分の実績の集大成でもある為に誇らしくはあったが、とは言え窮屈であった。
実績や能力
第3新東京市へ来てからの日々、大人たちは大人として接して来たし、正しく評価してくれた。
使徒を撃破すると言う事で自分を示せた。
年齢相応の学校に行った。
友人を得た。
そして何よりも、私生活で気兼ねなく話せる
シンジはアスカの肩書を見ない。
美しさを褒め称えない。
だが、アスカの努力こそ称揚し、評価してくれるのだ。
母を喪い父と疎遠となり、自分が自分である為には
努力を重ねた事に敬意を払ってくれているのだから。
その確信は、ある時、
もし、自分が怪我や病気でエヴァンゲリオンから降ろされたら役立たずの用済みよね、と。
それはアスカの心の弱さからの言葉であり、同時に、自覚せぬシンジへの弱音の吐露であった。
他人を信じきれないアスカの弱さと言えた。
だがシンジはそれを笑った。
『エヴァンゲリオンが無くったってアスカはアスカ
そう断言していた。
酒精によって呂律が回らず、標準語と鹿児島弁が
『簡単に、言わないでよね………』
『簡単じゃ
だから大丈夫。
そう断言してくれたのだ。
アスカの手を両手でそっと支えながら。
そこまで言われたアスカは、顔を真っ赤にしながら抗弁する。
『それでも、探すったってどれだけ掛かるか判らないじゃない! 簡単に言うケド、アンタ、そんなのに付き合えるって言うの!?』
言ってるアスカとて無茶苦茶だと言う自覚はあった。
この所収まっていた、お腹の底から湧き上がる
憤怒と悲観そして自己嫌悪。
様々な感情がないまぜになった泣き声に、アスカは自分でも情けなさを感じつつも、叫ばずにはいられなかったのだ。
だが、シンジは二パっと笑って答えた。
『
『何が良いってのよ!!』
『時間が掛かるって言っても、死ぬまで
アスカは、シンジが意味が解って言ってるとは思えなかった。
それでも嬉しかった。
欲してやまなかった、自分を全肯定される言葉だったのだから。
だから、照れ隠しに叫んでいた。
或いは最後の確認だ。
『バカシンジ! 一生かかっても知らないんだからねっ!!』
『
だがそれでも、素の自分が認められたと思うのはアスカにとっては救いなのだ。
只、それを素直に言うにはアスカは酔っていた。
シンジも酔っていた。
だから散文的に、心の中に湧き上がった気持ちを一言で吐きだした。
一杯一杯で言葉など扱えなかったのだ。
『標準語!』
林檎の様に赤くなった頬を見せぬ様に、顔を横に逸らしながら。
シンジは唯々、楽しそうに笑っていた。
いつの間にかアスカも笑っていた。
笑って、更に葛城ミサトのビールを消費していた。
そして翌日、余りの消費量から葛城ミサトにバレて小言を貰った。
こんこんと飲みすぎ注意と怒られた。
後、割と良いビールなので少し寸志を出せとも怒られた。
ついぞ飲むなとは言われなかった。
そんな説教をシンジとアスカ、2人して二日酔いで痛い頭を抱えながら聞いた。
笑い話になる様な夜があったのだ。
だからこそアスカは、
少しばかりしてからシンジがやってきた。
此方も礼装姿だ。
同じデザインの礼装に徽章類が付けられている。
エヴァンゲリオン搭乗員徽章は兎も角、
とは言えシンジの場合は
そもそも、搭乗機を示す紫色の
身長は年齢相応であっても体も顔も引き締まっており、歩き方ひとつ見ても俊敏であり隙が無い事を教えているのだから。
大人の将兵に交じっても違和感が働かないであろう威風と言うものがあった。
とは言え、当の本人は割と呑気な顔をしていたが。
否。
弱った顔をしていた。
「
着慣れない
指を入れて具合を調整して居る。
その様は、どうみても子どもであった。
アスカは小さく笑って、声を掛ける。
「余り触るものじゃないわよ。折角の仕上がりが崩れるもの」
「どうかな? 似合ってると良いけど」
「格好良いわよシンジ。で、アタシはどう?」
胸を張り、手を当てて魅せるアスカ。
だが、見るシンジは困惑の色があった。
「綺麗だよ」
開口一番は誉め言葉だった。
だけど、と続ける。
「まるでアスカじゃないみたい」
「当たり前じゃない! アタシだって簡単に見破られない様に変装しているんだもの」
前髪をかきあげて耳に掛ける。
可愛らしい耳たぶには綺麗な棒状の、磨き上げられた純銀のピアスが輝いていた。
「ピアス、開けたの?」
「驚いた? 似合ってる?」
「うん、似合ってるよ」
「でも残念、アンタの髪と一緒、耳の所
そう言ってアスカはほっそりとした手をシンジの刈り上げられた側頭部に伸ばす。
短い毛の感覚。
だがソレは、本来の頭皮と頭髪とは違っていた。
当然だろう。
薄い人造皮膚の上に植え付けられた、人造毛であったのだから。
簡単なのは髪を切る事であったが、それではシンジの正体が露見しやすくなる。
だから、このひと手間であった。
アスカのピアスも一緒だ。
実に手の込んだ話であった。
「へー 凄いや」
しげしげと自らの耳を見つめるシンジに、アスカもくすぐった気に笑う。
笑いながらシンジにジャブを放つ。
「そんなに似合ってるなら、そうね。シンジがプレゼントしてくれるなら穴を開けても良いわよ」
「う、うん」
「天木中佐、珈琲が飲みたいってこういう気分ですか」
「砂糖なしで、よね?」
「はい」
「………なら、仲間ね。私たち」
「はい」
凄い顔で頷いた綾波レイ。
そこには嘗て浮かべていた鉄面皮めいた、ある種の無表情さは無かった。
女の子らしい顔とも言えた。
伊吹マヤの隣に住ませた事や、あるいは交流のあるシンジやアスカが良い影響を与えたという事だろう。
その事を天木ミツキは素直に喜びつつ、部屋付きの人間に珈琲を注文するのだった。
2つ。
否、3つ。
部屋付きのスタッフにも振舞うのだった。
当事者は兎も角、周囲の人間には青春の瑞々しさは甘すぎるのだから。
第3新東京市
そこで完全武装を身に纏った3機のエヴァンゲリオンと
招待された各国の要人と厳格な身辺調査が行われた一部マスコミ、厳選された100名に届かぬ人々は、初めて見るエヴァンゲリオンの実物で圧倒されていた。
全高40mを超える巨躯は、片膝を付く駐機姿勢であっても迫力を放っていた。
それぞれの機体は、得意な武装を身に纏っている。
エヴァンゲリオン初号機は、腰の
追加武装の殆どない姿は、他の2機と比べれば貧相にも見えるが、誰も誤解しない。
エヴァンゲリオン初号機には追加の装甲も武装も不要なのだと思わせる実績があった ―― 少なくともそう思わせる
エヴァンゲリオン弐号機は、中距離火器たる
穂先に棚引くリボンには赤地に白くNERVの紋章が描かれている。
隣に駐機するエヴァンゲリオン初号機との
エヴァンゲリオン4号機は、槍と見紛うばかりの長大な
サブアームが持つ盾、そして傍に従者の如く控えている
誰もが、人類守護の力であると思うのだった。
始まる
お披露目自体は単純であった。
既に公開済みのエヴァンゲリオンの動画を流しながら各機体の情報を公開し、戦歴をアピールする。
その上で、
先ず呼ばれたのは綾波レイ。
『最初にご紹介するのはエヴァンゲリオン04と共に立つ、
壇上中央で声を張り上げる、タキシード姿のNERV広報部スタッフ。
特訓した、堂々とした歩き方で舞台の中央まで歩く綾波レイ。
手を振る事も無く、愛想も無い姿だ。
幾度ものカメラの
『ブルー・フォーは人類初の
用意されていた椅子に座る綾波レイ。
続いて呼ばれたのはアスカ。
『続きまして紹介いたしますのはエヴァンゲリオン02を駆る、
呼ばれた瞬間、緊張と慣れないヒール高が相まってよろけるアスカだったが、シンジが支えた。
「大丈夫?」
「任せなさいってーの」
ニヤッと笑ってからアスカは舞台袖から歩き出す。
威風堂々としていたが、同時に、歓声に対しては薄い笑みを浮かべ、手を振る余裕も見せていた。
『レッド・ツーは
履きなれない、歩きなれないミドルヒール靴でも、それを感じさせない。
歓声に小首を傾げる事でイヤリングの存在をアピールまでする芸達達者さがあった。
アスカが椅子に座る。
そして呼ばれるシンジ。
『最後に紹介させて頂きますエヴァンゲリオン01の担い手、
背筋を伸ばし堂々と歩くシンジ。
その姿が舞台袖から出た時、ひときわ大きな歓声が上がった。
戦績が公開されており、エヴァンゲリオン初号機とその
もう一つは、腰に佩いた銀色の軍刀の迫力だ。
片側の腰に軍刀を下げていても姿勢に揺るぎはなく、歩む姿に軸のブレはない。
軍経験者はそれだけで、シンジがキチンと足腰を鍛錬している人間であると理解していた。
同時に、この舞台の上に居る3人が
尚、武装はシンジだけではなくアスカもしていた。
白塗りの拳銃嚢を腰ベルトに装着し、中にはNERVの士官向け正式採用拳銃であるH&K USPのコンパクトモデルを入れていた。
綾波レイだけは、その手の個人的武装は不得手と言う事もあって非武装であり、何か問題があれば全力で逃げろと言い含められていた。
2人との差に、人間性の成長していた綾波レイは、少しだけ不満げに頬っぺたを膨らませたが、アスカが実際に
非体育会系な綾波レイには重くて歩きづらかったのだ。
『パープル・ワンは最も新しい
爆発的な歓声が上がった。
世界同時中継が行われている
当然ながらもTVでも中継されていた。
携帯電話の小さな画面からその様を見ている相田ケンスケ。
小さな画面越しであっても、その華やかさは見て取れた。
世界に居る。
そう感じられた。
対して自分が居るのは、只の公園。
鈴原トウジに頼んで借りた
今はペットボトルで水を飲みながら休憩中だ。
「センセたち、凄いもんじゃ」
呑気に感想を漏らす鈴原トウジ。
相田ケンスケは自分のいる場所とシンジ達の居る場所の距離に眩暈めいたものを感じていた。
同じ中学生。
同じ14歳。
同じ男。
なのにどこまでも差がある。
あの華やかなアスカの傍に居るシンジ。
ペットボトルが軋むくらいの力を籠める。
そして飲む。
「トウジ、俺、エヴァンゲリオンのパイロットになりたい」
それは宣言であり、己を鼓舞する言葉でもあった。
同じ男なのだ。
シンジに出来て自分に出来ない筈はない。
そう、思っていた。
「そうか、なら努力せんとな」
取り敢えず、自転車に乗る所からかと朗らかに言う鈴原トウジ。
相田ケンスケの決意を笑う訳では無い。
シンジとの距離を思う訳でもない。
相田ケンスケが決意したのであれば、友人として背中を押そうとは思っていた。
だが同時に、目の前の事から1つづつ片付けて行かないとダメだと言う現実的な意見でもあった。
「エヴァンゲリオンって思考制御って話だよな? 居るのかな、この練習」
「知らんわ。だが、その前にセンセや惣流の奴と一緒にツーリングに行きたいんやろ?」
「あ、うん」
「先ずは足元から一歩づつやで」
衒いなく笑う鈴原トウジに、釣られた様に相田ケンスケも笑っていた。
少年たちの居る公園の空はどこまでも青く、そして高かった。
2021.09.22 文章修正
2022.10.31 題名修正