サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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01-Epilogue

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 碇シンジは病室に寝かされていた。

 別段に怪我をしただの、失神しただのと言う理由では無い。

 エヴァンゲリオンに搭乗したから、そして生まれて初めてL.C.Lに浸かったのだから目や耳、口から始まって肺まで。

 粘膜その他に異常が無いかの確認をせねばならぬからであった。

 実に面倒くさい事であった。

 L.C.Lは人体に悪い影響はないとされている。

 実際、シンジの先任となる適格者 ―― 1人目(1st)の綾波レイにせよ2人目(2nd)の惣流アスカ・ラングレーにせよ、大きな問題が発生していると言う報告は無い。

 報告は無くとも、確認だけはしなければならない。

 何より、この先任2人は共に女の子なのだ。

 初めての男の子、又、体質の差もあるかもしれない。

 医療スタッフ、そしてエヴァンゲリオン関連技術を統括する技術局第1課E計画担当(部門)が神経質になるのもある種、当然であった。

 

 後、健康診断も兼ねて行われたソレの結果、流石に疲れたシンジは空き病室で寝入っていたのだ。

 歳の割に体を鍛えているシンジではあるが、流石に1日で鹿児島から関東へ移動し、飛行機に乗ってヘリコプターに乗り、そしてエヴァンゲリオンに乗るとなれば疲れると言うモノだ。

 特に、命の掛かった実戦をしたのだから。

 気持ちよさげに寝ているシンジ。

 監視カメラでその様を確認した赤木リツコは、少しだけ羨まし気に笑った。

 笑って、もう冷えてしまったコーヒーを飲む。

 苦みすら薄くなったソレは、彼女が長く仕事を続けている証拠でもあった。

 

 壁に掛けられた時計は、0300(午前3時)を回っている事を示している。

 技術局第1課室。

 白を基調とした壁紙が、部屋をますますもって広く感じさせる。

 伊吹マヤなどの手の空いた職員は先に帰らせている為、独りぼっちとなっている室内で赤木リツコは淡々と、各部署から上がってきた情報を精査、判断を下していく。

 自分用の執務室もあるのだが億劫になってしまい、先ほどまで議論(ディスカッション)をしていたこの部屋で指示をした為、資料を纏め、諸々の作業を行っていたのだ。

 いい加減、脳みその働きが低下している事は赤木リツコも自覚していたが、そこは明日に昼寝をしておけば良いと判断していた。

 それよりは明日、日が登って以降の各部に対する指示を纏めておく方が先決であると考えていたのだ。

 初陣を勝利で飾ったエヴァンゲリオン初号機。

 だがその次の戦がいつ起きるのか、誰も判らない。

 明日かもしれない。

 来週かもしれない。

 来月かもしれない。

 来年かもしれない。

 ()()()()()準備を怠れないのだ。

 

 責任(管理)者の仕事は、終わる事は無い。

 と、開けっ放しだった第1課室の扉をくぐって、同じ立場の人間(責任者)がやってくる。

 

「お疲れ様! コーヒーを飲みに来たわよ!!」

 

 空々のカラ元気率100%を振り撒く、戦闘部門の責任者である葛城ミサトだ。

 目元には隈が出来ている。

 とは言え、それを赤木リツコが視認する事は無い。

 資料を纏める為、パソコンのディスプレイを睨み続けているのだから。

 機械的に、口が返事をする。

 

「構わないけど自分で淹れてね」

 

「………カラって事ね。お疲れ様」

 

 コーヒーサーバーが空になっているのを確認した葛城ミサトは、手慣れた仕草で代替品(インスタントコーヒー)を用意する。

 局長の薫陶よろしくコーヒー党の多い技術局第1課であるが、であるが故に、非常用の備蓄も準備されているのだ。

 

「で、甘いものでもどぅ? 作戦局からの感謝のしるしって事で」

 

 此方も非常用と言う名目で、葛城ミサトが作戦局第1課の経費でたっぷりと買い込んでいたチョコレートバーだった。

 とは言え、作戦局第1課は飲兵衛が多い ―― 辛党の巣窟である為に甘いモノは余り気味であったので、賞味期限が近いものを()()と称して持ち込んできたのだ。

 無論、飲兵衛が多いのは()1()()()()の影響であった。

 

「あら、気が利くのね」

 

 無論、葛城ミサトと貴様俺(マブ)な関係である所の赤木リツコは、そこら辺の諸々を把握した上で受け入れる。

 休憩とばかりに席を離れ、チョコレートバーに手を伸ばした。

 

「糖分は脳みそを働かせるのに重要よ?」

 

「それは否定しないわ。ソッチは帰らせたの?」

 

「日が変わる前には強制的にね。キチンと寝ないと正しい分析は出来ないもの」

 

 初めての使徒との闘い。

 そこで得られた知見を元に、作戦局は第3新東京市をより戦いに向いた要塞都市へと生まれ変わらせる積りであった。

 主戦力 ―― 実際に稼働したエヴァンゲリオンの運用データも重要だ。

 

「あら、じゃぁミサトは?」

 

「UN及び国連向けのレポート。出来るだけ素早く上げないと厄介事に育つんだもの、やるしかないわよ」

 

「あら、私はてっきり()()だと思ってたわ」

 

「うっ…………」

 

 ばつが悪そうに頭を掻いて笑う葛城ミサト。

 流し目でソレを見た赤木リツコは、小さく笑うと、そっと、1つの機械を取り出した。

 小型の、マイクとイヤホンが一体化した小型無線機だった。

 

「出来てるわよ」

 

「リツコォ!?」

 

 感謝感激と言わんばかりに相好を崩した葛城ミサト。

 抱き着かんばかりの勢いだ。

 

「守衛局の通信機を改造して、MAGIとの専用回線を用意しているわ。当然、MAGIでも専用の計算領域を確保させてあるわ」

 

「助かったわ、リツコ、本当に感謝!」

 

 それは通信機であった。

 だが相手はMAGI。

 その主目的は翻訳だ。

 シンジの方言(かごしま弁)を理解する為の。

 

「謝罪するにしても、この後で指揮するにしても、あの子の言葉が判らないとどうにも出来ないもの。サイコーよ、リツコ! 愛してるわ」

 

「愛は返品ね。変なモノを押し付けられても困るもの」

 

「まーまー 感謝だけは本気よ?」

 

「判ってるわよ。だけど、シンジ君の言葉、全く理解出来無いの?」

 

 訝し気に聞く赤木リツコ。

 才媛と言う言葉に偽りなしの彼女にとって、シンジの言葉は難しくはあっても理解出来ない言葉では無かった。

 そして同時に、知性と言う意味では葛城ミサトを評価する面があった為、翻訳システムを揃えて欲しいと頼まれたのが意外だったのだ。

 葛城ミサトは大学進学後、NERV ―― 当時のGEHIRNを経由して国連統合軍に派遣され、そこで鍛えられているのだ。

 当然、日本語だけではなく国連の公用語扱いである英語や、果てはドイツ語まで堪能になっていたのだ。

 それが少し訛りがキツイとは言え、地方言語(方言)如きに手こずるとはと思っていたのだ。

 

「ある程度は判るわよ? でもチョッち細かい所が難しいのよね」

 

 その細かい所が、意思疎通をする上で大事だと言う。

 

「そういうものかしら?」

 

「そういうモノよん。これで明日はバッチリね」

 

 

 

 

 

 翌朝。

 目覚めた後のシンジは、普通の病室とは違う、上等な調度で纏められたゲスト(VIP)用の病室に移らされ、そこで薄味では無い、検査入院者(健常者)向けの朝食を食べていた。

 日本式の手の込んだものだ。

 米飯、味噌汁、目玉焼きに焼きサバの半身。

 一見すると質素だが、どれもこれも天然(ホンモノ)の高級品である。

 

 凄いものを食べる事になったと感動しつつ、だが生来の躾の影響で、下品では無い範囲で手早くかっ喰らっていた。

 それから病院服からNERVの訓練服 ―― 薄灰色のスウェットの上下に着替える。

 着て来た中学校の学生服は、強行軍の旅塵にまみれて居たのでNERVのスタッフの1人が気を利かして洗濯に回していたのだった。

 リラックスする格好と言う意味では、このスウェットと言うものは良かった。

 只、余りにも気楽いが故に、この部屋の調度からすると浮いてはいた。

 尤も、シンジは気にして居なかったが。

 本革にも似た合皮のソファに座ってTVを見ている。

 故郷である鹿児島とは全く異なるTV番組は、実に物珍しかった。

 或いは違和感があった。

 特に、天気予報に桜島の噴煙予想が無い事が、遠くへ来た事を実感させていた。

 昨日は強行軍であった為、長距離の移動を実感する間が無かったのだ。

 

 と、扉が叩かれた。

 

よかど(どうぞ)

 

 麦茶を片手に軽く返すシンジ。

 扉から入ってきたのは、NERVの赤い正装(佐官級作戦課制服)を着込んだ葛城ミサトだった。

 襟元までキチンとボタンを閉め、帽子まで被っており、一部の隙も無かった。

 

「朝からゴメンね、シンジ君」

 

ひまやったでよかよ(暇だったので問題ありませんよ)

 

「ありがと」

 

 出来る女の顔を崩さぬまま、内心で葛城ミサトはガッツポーズをした。

 髪で隠すようにして耳に差し込んだ透明なイヤホンが、殆ど時間差(タイムラグ)なしに明瞭な翻訳を伝えてきたからだ。

 赤木リツコに全力で感謝を捧げつつ、真面目な顔で言葉を紡ぐ。

 

「なら、ごめん。立ってもらえる?」

 

 その言葉、仕草、表情で察したシンジは丁寧な動作で立ち上がって直立不動 ―― 気をつけの姿勢を取る。

 シンジの心根を理解した葛城ミサトは、敬礼を行う。

 国連統合軍の教本に乗りそうな程に、綺麗な所作であった。

 そして、深々と頭を下げた。

 

「碇シンジ君、今回の一連の出来事に際し、貴方の意思を尊重する事無く、強引に物事を進めた事を、ここにお詫びします」

 

「………」

 

「貴方に来て貰わねば、人類に未来は無かった。昨日、人類は終わってたかもしれない。だから、強引であっても貴方を連れて来た事自体は恥じません。ですが、もう少し丁寧なやり方があったのではないか、そう昨日は考えました。だから、ごめんなさい、シンジ君」

 

 使徒との闘いは人類の存亡が掛かった事だ。

 その意味で適格者は、如何なる手段をもってしても確保しなければならない。

 全ての人類が天秤の片側に乗るのだ、であれば1人の人間の自由意志など尊重はされても優先される筈も無いのだ。

 だがしかし、であってもやり方と言うものがあった。

 葛城ミサトは自分がシンジを迎えに行った時に落ち着いて居られなかったのだと、最初の使徒戦役が終わって初めて理解したのだ。

 国連や日本政府の看板(代紋)で押しつぶすのではない、別のやり方が。

 シンジの反発を見て、そして戦闘が終わって冷静になって漸く、理解したのだった。

 だからこそ、真摯に頭を下げたのだ。

 

「………わかいもした(判りました)

 

 その事を理解したシンジは、葛城ミサトの謝罪を受け取ったのだった。

 

 

 謝罪と和解。

 そして改めて葛城ミサトはシンジに対して、NERVの事、エヴァンゲリオンの事、使徒の事を説明していく。

 どれもこれも複雑な背景その他があって簡単な話では無かった。

 幸いな事にこの部屋は、座って語るには都合の良いソファ等の調度が揃っていた。

 だから葛城ミサトはルームサービスでコーヒーを持ってこさせると、シンジをリラックスさせながら永い説明をするのだった。

 シンジはそれらを黙って聞き、時折、疑問に思った事を質問した。

 葛城ミサトは質問には真摯に答えた。

 その上で判らない事は、判らないと素直に答え、その上で後日の回答を約束するのだった。

 昨日とは打って変わっての和やかな雰囲気で行われる説明会(ディスカッション)

 それは昼を過ぎるまで続いた。

 

「ごめんね、永くなって。シンジ君、お昼を食べにいかない? 奢るわよ」

 

あいがとござさげもした(ありがとうございます)じゃっどん(ですけど)最後に1ぉあっとよ(最後に1つ聞く事があります)

 

 質問。

 いや、質問では無い。

 

ゲンドウはどこにおっとな(碇ゲンドウはどこに居ますか)?」

 

 葛城ミサトは、その言葉に撃鉄が上がるのを幻視した。

 

 

 

 

 

 NERVの総司令官碇ゲンドウは極めて多忙である。

 エヴァンゲリオンの運用や、部内での調整に関しては優秀な部下に任せる事が出来るが、そうでない部分、対外的な交渉その他は碇ゲンドウが行わねばならぬ事であった。

 特に、SEELEとのソレは、余人をもって代え難い事なのだ。

 第1報は既に上げている。

 だがそれだけでは足りない。

 葛城ミサトや赤木リツコが纏めて来た資料を基に、第2報を用意する。

 それは、本日の夕方に予定されている、ネットワークを介したリアルタイム会議に向けての作業であった。

 NERVとSEELE。

 組織の深淵に関わる部分であるのだ、碇ゲンドウが直接行う他ない所であった。

 

 そんな忙しい碇ゲンドウの下に面会の要請が舞い込んできたのは、太陽が頂点を過ぎてしばらくたった頃。

 そろそろ昼飯でも用意させようかと思った頃であった。

 

「誰だ」

 

 温度の感じられない声で、秘書官に尋ねる。

 答えは、シンジであった。

 葛城ミサトが連れて来たと言う。

 

「後にさせろ、今は忙しい」

 

 切って捨てるが如き言動をみせる。

 だが残念ながらも通らない。

 

なんちな(何を言っている)?』

 

 秘書官の居る席との直通通話機が、冷え冷えとしたシンジの声を伝えた。

 

「シンジか。私は今忙しい。子どもに付き合っている暇はない」

 

二言はなかちゆたとはだいよ(約束は違えぬと言ったのは誰だ)?』

 

「………」

 

 その言葉で、碇ゲンドウも思い出す。

 使徒を叩いた後に殴らせろと言っていた事を。

 子どもの癇癪だ、そう判断していた。

 だから、態々にやってくるとは想定していなかったのだ。

 

 面倒くさい。

 本質的に他人と言うモノを嫌っている碇ゲンドウは、例え血を分けた息子であっても、触れ合う事に恐ろしさを覚えるのだ。

 それは、世界との窓口であった碇ユイを喪って以降、特に顕著になった事であった。

 碇ユイさえいれば良い。

 それ以外は無意味であり無価値である。

 呆れるほどに凝り固まった碇ゲンドウの対人観、そう言うべきモノであった。

 

「後にしろ。今、私は忙しい。お前も子供では無い筈だ」

 

ぎをたるんな(言い訳をするな)おとなやればこそやっが(大人なればこそ、約束は守れ)

 

 シンジにひく気はない。

 頑なであり、強硬である事を声色で理解した碇ゲンドウは、問答を続けることの億劫さ、面倒くささから秘書官に案内する様に告げた。

 

 

 

「シンジ、殴りにきたのか」

 

他に何があっとな(それ以外の理由は必要を感じられない)黙って顔をだっしゃい(歯を食いしばって顔を出せ)

 

 交渉の余地など微塵も無いシンジの態度に、付き添って来ていた葛城ミサトは我が事では無いにも拘わらず背中に冷や汗を感じた。

 相対した時の迫力と言う意味で、碇ゲンドウは相当なモノがあったが、碇シンジのソレはより即物的な雰囲気であった。

 赤、血の色、暴力の匂いが漂っている顔だ。

 その右手はご丁寧に、病院でもらったバンテージでガチガチに固められている。

 本気だ。

 本気で殴る積りなのだ。

 

 その事に気づかぬ碇ゲンドウは、自分の死刑執行状にサインをする。

 

「…………良いだろう。好きにしろ」

 

 執務机から立ち上がり、シンジの(もと)へと歩いてくる碇ゲンドウ。

 若い頃からの悪癖 ―― 喧嘩っ早さからくる喧嘩慣れは、碇ゲンドウに余裕を与えていた。

 例え体を鍛えていても、齢14の子どもに何が出来る。

 そう言う気分があった。

 

 広いNERV総司令執務室で相対する碇ゲンドウとシンジ。

 彼我の距離は約3m。

 互いの後方には冬月コウゾウと葛城ミサトが、それこそ立会人の如く立つ。

 さながら決闘の風情があった。

 

顔をさげやいや(顔を下げろ)

 

「その約束はしていないな」

 

そうな(そうか)ならしかたなかな(なら仕方がない)

 

 何でもないかの様に告げたシンジが、次の瞬間に踏み込んだ。

 膝では無く、足の裏を使った無拍子の踏み込み。

 それに碇ゲンドウは対応出来ない。

 大学生の時分から喧嘩を避けなかった碇ゲンドウは、そうであるが故に自信があった。

 だがそれは()()()()()、体系化された技術によって効率化した人間の格闘術では無かった。

 故に対応しきれない。

 

 踏み込んだシンジは、膝を沈めてバネをためる。

 下から上へ打ちぬく為。

 

「キェッ!!」

 

 長身の碇ゲンドウ、その顎先を狙ったシンジの一撃は狙い誤らぬ。

 見事に打ちぬいた。

 

「ガフッ!?」

 

 堪らず、前へと膝をつくように体が折れた。

 丁度、シンジの眼前へと碇ゲンドウは顔を突き出すように四つん這いになる。

 シンジの狙い通り。

 である以上、後は一切の躊躇、一切の容赦なく拳を突き立てる。

 

「キェアッッッ!」

 

 正拳突き、ではない。

 近すぎた。

 だからシンジは、コンパクトに打ち込める肘を選択。

 その素早い判断と挙動は、冬月コウゾウにせよ葛城ミサトにせよ、止めるのが間に合わぬほどであった。

 そもそも、ここまで強烈(シュート)な一撃をシンジが(息子が父親に)行うと想像できる筈も無い。

 故に、シンジの追撃は綺麗に決まる。

 ショートなスイングと共に、右の肘は碇ゲンドウの口元へと叩き込まれるのだった。

 

 

 

 

 

 世界を牛耳るSEELE。

 その最高会議直々に行われた、NERVの使徒戦に対する()()()()()()の雰囲気は、ある種、和やかなモノであった。

 

「しかし碇君、NERVとEVA、もう少しうまく使えんのかね? 無理をしろと言っている訳では無い」

 

「零号機に引き続き、初陣で破損した初号機の修理代。そして第3新東京市の被害。国が一つ傾くよ! いや、君が良くやっているという事は理解している」

 

「それに君の仕事はこれだけではあるまい。人類補完計画、これこそが君の急務だ。無論、健康を大事にしてだがね」

 

 皮肉では無く、直接的な嫌味を言いつつも、後段にフォローを付ける。

 SEELEのメンバーは電子会議ではあっても、互いの顔を見合わせて、温情を付け加えた言葉を碇ゲンドウに与えていた。

 それ程に酷い事になっていた。

 口は包帯で固められ、目の周りには青あざが出来ている。

 眼つきも心なしか悄然としている。

 才覚があり、やり手のオトコ(タフネゴシエーター)として知られていた碇ゲンドウとは思えぬ姿であった。

 

 であるが故に、付き合いの長いSEELEのメンバーも思わず気を遣っていたのだった。

 その事が益々もって碇ゲンドウの恥辱に繋がるのだが、気付く者は居なかった。

 

 何とも言い難い雰囲気のままに会議は進行し、最後に座長であるキール・ローレンツが締め括りの言葉を告げる。

 

「いずれにせよ、使徒再来におけるスケジュールの遅延は認められん。予算については一考しよう。最後に碇ゲンドウ、ご苦労だった。今後の為にも体を労わる事を願う」

 

 ホログラムの形で列席していたSEELEのメンバーの姿が消える。

 暗かった室内が明るくなる。

 その明るい室内で、碇ゲンドウは恥辱に身を震わせていた。

 上位組織であるSEELEとNERVの関係性は良好であるとは言い難い。

 にも拘わらず、気を遣われた事が赦せなかったのだ。

 

 おのれシンジ

 

 怒りが碇ゲンドウを縛るが、声は発しない。

 シンジの打撃であごの骨にひびが入っていたからだ。

 前歯も3本ほど失われている。

 当分は流動食で過ごす事を覚悟してください。

 碇ゲンドウを診察したDrは、気の毒そうに告げる様な惨状であった。

 

「碇、もはや人類に後戻りする余裕はない」

 

 だから、と冬月コウゾウは続ける。

 

「体を労わる事も、大事な作業工程だぞ?」

 

 お前もか! 余りの腹立たしさに、碇ゲンドウは机を全力で叩いたのだった。

 

 

 

 

 

 




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デザイナーズノート(こぼれ話)#1

 当初のプロップと呼べるモノは2つでした。
 ① 取り合えずクソおやじからの呼び出しはブッチしようぜ!
 ② DVなゲンドウは殴ろうよシンジ君!
 までだった件。
 なのに、気分によって始めてしまったのが、本サツマンゲリオン。
 語呂感でサツマンになったけども、当初はサツマゲリオンとか色々と考えていた。
 下手な考え休みに似たり。
 何となくで決定してスタートと言う見切り発車状態。
 我ながらよーやる、と思う。
 割と本気で。

 取り敢えず、躾によって血の気の多くなったシンジ君が、割と考える事無くエヴァンゲリオンの世界を生き抜く物語です。
 コミュニケーション(肉体言語による意思疎通)は大事。



 ゲンドウの前歯=サン
 だーい
 後、綾波=サンフラグ、その2、だーい____

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