サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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 未だ、第2次E計画が国連安全保障理事会で正式決定されていなかった。

 とりあえず建造数が12機から削減される事だけは決まったが、その数や配備先が議題となって未だに決定に至れていないのだ。

 経済力が低下した旧常任理事国と経済的勃興の著しい新強国の綱引きに、人類補完委員会(SEELE)の介入があるのだ。

 簡単に決まる方が難しいだろう。

 だが使徒襲来は喫緊の問題である。

 この為、先に補正予算が組まれ周辺の整備が進められる事となった。

 具体的にはNERV本部でのエヴァンゲリオン建造準備 ―― 建造設備の補修と、新しい適格者(チルドレン)の選抜である。

 

 エヴァンゲリオンは思春期の少年少女でしか操縦できない。

 適格者(選ばれた子ども)

 

 その2つは、世界の子ども達を熱狂させた。

 使徒と闘う事の意味を正しく理解出来ぬままに、子どもらしい純粋な義侠心や名誉欲、或いはその他によって適格者となりたいと手を挙げていた。

 この状況に、人類補完委員会が管理する適格者(チルドレン)選抜諮問機関であるマルドゥック機関は機敏に対応した。

 NERV戦術作戦局(エヴァンゲリオン実働指揮部門)と綿密な打ち合わせを行い、新しいエヴァンゲリオンの能力と、適格者(チルドレン)に要求される資質的なモノを策定しなおし、新しい選抜基準を作り上げたのだ。

 それは、ドイツが作り上げた天才的適格者(2nd チルドレン)惣流アスカ・ラングレーを基準とした選抜と教育システムの廃棄を意味していた。

 アスカが余りにもまぶしい成功例であった事が原因だった。

 NERV本部の秘密兵器(3rd チルドレン 碇シンジ)に匹敵しうるエースを生み出せた基準(教育システム)なのだ、それを踏襲しようとするのも当然であった。

 だが、アスカと同様の事を要求されただけにも拘わらず、適格者候補生(リザーブ・チルドレン)は誰一人として成功できなかったのだ。

 

 ドイツの適格者教育部門は、候補生の資質の差と言うモノを考慮していなかったのだ。

 アスカの血反吐を吐くような努力も甘く見ていたのだ。

 そしてもう1つ。

 明かされる事の無いアスカとシンジだけが持つ適格者(チルドレン)としての特殊性、或いは()()()()()()()()()()も大きな理由であった。

 

 兎も角。

 エヴァンゲリオンのほぼ全ての情報を知る赤木リツコはドイツで行われているアスカを規範とした適格者候補生(リザーブ・チルドレン)の訓練は無為であったとの結論を出し、指揮官たる葛城ミサトに告げた。

 シンジとアスカ、その2人に準ずる適格者(チルドレン)を生み出す事は不可能である、と。

 

「シンジ君とアスカが特別って事?」

 

「そうね、2人と同じ要素を揃えようとはしたわ。だけど、出来なかった………そういう事よ」

 

「その理由、詳細を教えては?」

 

「機密事項よ、特1級機密資格(GradeⅠ+ Access-Pass)が無い相手に告げられる事では無いわ」

 

「………それ程の秘密が2人にはある、と?」

 

「あの2人というよりも、NERVの、そうね、()()()()()()って奴かしらね」

 

 他人払いした、2人だけの会話。

 会議室めいて使う喫煙所。

 ガラス張りであるが故に誰が傍に居るかが判り、そして空調機が立てる機械音によって盗聴器も役に立たない、秘密の会話が出来る場所。

 そもそも、最近は喫煙者が減っている為、利用者は少ない。

 都合のよすぎる秘密の会談場所。

 当然だ。

 赤木リツコが発案し、葛城ミサトが予算を通させた場所なのだから。

 

 小さな赤木リツコの声が、不思議と轟々とした空調機の音にかき消される事なく葛城ミサトの耳に届く。

 煙草を吹かしながら細めた目で葛城ミサトを見る赤木リツコの目には強い疲労が浮かんでいる。

 だが同時に、ギラギラとした光を浮かべていた。

 

「聞かないわよ」

 

 断言する葛城ミサト。

 

ウチ(NERV)が真っ当な組織だなって夢はもってないわ。使徒さえ倒せるなら私は全ての事に目を瞑ってみせるわ」

 

 たとえそれが、赤木リツコに次ぐ朋友(天木ミツキ)に憎まれるとしても。

 葛城ミサトが生きる原動力は、使徒への憎悪であった。

 世界を変えた、全てを奪った、父を奪った使徒への感情が常に葛城ミサトと言う人間の腹の底で燃え続けているのだった。

 かつて、それを誤魔化す術は加持リョウジであった。

 大学時代に、自分には判らぬ理由で自分に近づいてきた男。

 だからこそ使った。

 加持リョウジは、どこか葛城ミサトの父とも似ていた。

 だからこそ縋った。

 歪な関係は簡単に爛れた関係へと進んだ。

 昼夜を忘れる様な肉の快楽に心の底から溺れる事が出来たのであれば、或いは、葛城ミサトは使徒の事を忘れる事が出来たかもしれない。

 だが、無理だった。

 組み伏せられている間でも、或いは、尻の下に抑え込んでいる間でも、葛城ミサトの胸の何処かには使徒への憎悪が燻っていた。

 だからこそ、と葛城ミサトは思う。

 佳き人であった加持リョウジとの関係は破綻したのだろうと。

 人の本質的な部分で破綻し(壊れ)ている葛城ミサトと比べ、加持リョウジは偽悪的にふるまおうとも余りにも普通(善人)であったのだから。

 

 結局、葛城ミサトの憎悪を癒したのは、エヴァンゲリオンによって屠られていく使徒の姿だけであったのだ。

 だからこそ、今の葛城ミサトは人生で一番に心穏やかに過ごせていると言っても過言では無かった。

 過労感を誤魔化す為の酒精(摂取アルコール量)は増えているが、それは常に乾杯しているのだと思えば、苦では無かった。

 

「その割り切りの良さは好きよ、ミサト」

 

「そりゃどーも。で、結局、どうするの?」

 

「とりあえずドイツ支部の教育部門は解体。新しい基準で選抜していく事になるわ。幸い、志願者は多いから何とかなるわ。多分」

 

 吐き捨てる様に、否、紫煙を吐き捨てながら言う赤木リツコ。

 事実だった。

 募集していないにも拘わらず、NERVには適格者(チルドレン)になりたいと言う声が殺到していた。

 或いは、させたいと言う声が。

 

 使徒戦役の実際を知らぬが故の、呑気さと言えた。

 或いは適格者(チルドレン)のお披露目が上手く行きすぎたのかもしれなかった。

 適格者への立候補が届きだす前には、ファンレターが3人の子ども達に大量に届ていたのだから。

 アスカや綾波レイは勿論、シンジに宛てたモノも届いていた。

 

「……気楽なモノよね」

 

 無論、それらは全て広報部に押し付けられていた。

 確認と廃棄、その他の業務(マネージャーめいた仕事)に関して、本来であれば支援第1課(天木ミツキ)が担うべき類の事であったが、この事態を引き起こした責任は第1に広報部にあった為の事であった。

 責任払い(罰符)であると言うのがNERVの3女傑、葛城ミサトと赤木リツコ、それに天木ミツキの結論であった。

 事、子ども(チルドレン)の保護に関してであれば、天木ミツキの持つ権威はNERVの上位に匹敵していた。

 善意を持って動いている為、如何なNERV総司令官碇ゲンドウであっても、詭弁をもって抵抗する事が難しい事が理由であった。

 そもそも天木ミツキは組織人として弁えており、笑顔を作る(牙を見せる)のは任務その他では無く、生活環境や待遇に関する事だけなのだ。

 子ども達への()()()()()()()()()()()()()()なのだ。

 であれば、抵抗できる人間などそう居ないのだった。

 そこに、自他ともに冷血(人非人)と認める碇ゲンドウも居たという話であった。

 

 尚、余談ではあるが天木ミツキの階級は中佐待遇中尉と言う配置が継続される事となっていた。

 本来はお披露目に合わせて臨時に与えられたモノであり、終わった以上は配置は解除されるべきであったが、それを止める事態が発生していたのだ。

 子ども達(チルドレン)が、お披露目以降はNERVの中にあっても政治的な案件になる部分が出て来ていたのだ。

 例えばアスカ。

 アメリカ国籍を持つ事を梃子に、アメリカ支部へと派遣しろ(母国に戻すべきだ)とか、後進の教育の為にも生まれ育ったドイツに戻すべきだと言う人間が発生していたのだ。

 綾波レイも、国籍記録まで含めて情報の抹消されたアジア系と言う事もあって、中国支部が色々と言って来ていた。

 最前線であるNERV本部(第3新東京市)配置も大事だが、続く適格者(チルドレン)の教育も大事だ等と、正論めいた事(お為ごかし)を口にしながら。

 流石に、シンジ(エース・オブ・エース)を派遣しろと言う声は少なかったが、それでも皆無では無かった。

 組織での事ゆえに、地位を盾に横車を押す人間が発生するのだから。

 これらへの対応の為、子どもの守護者たる天木ミツキ(正論でぶん殴るウーマン)は偉くなっていたのだった。

 

 兎も角。

 天木ミツキの縦横の活躍によって、今現在の子ども達には平穏が与えられているのだった。

 

「ま、選抜する側からすれば楽な話って思っておきましょう」

 

「そうね。子ども達に詫びを入れ、ミツキに説教される未来の為に」

 

「お互い、絞られそうね………」

 

「飲酒に関しては、チョッち刺されたわよ」

 

「……数字は悪くないわよ?」

 

 定期的に行っている健康診断、その血液の情報を思い出して抗弁する赤木リツコ。

 蟷螂の斧と言う自覚はあって小声ではあったが。

 

「14歳で悪くなってれば、そりゃ問題よ」

 

 馬鹿馬鹿しい笑いが、喫煙室に充満した。

 

「取り合えずミサト、エヴァ3号機の配置が決まったわ」

 

「あれま。アメリカ支部、ようやく手放す気になったの?」

 

 元々、アメリカ支部で建造されていたエヴァンゲリオン3号機とエヴァンゲリオン4号機は、ドイツ支部で建造中であったエヴァンゲリオン6号機と共にNERV本部に配備される予定であった。

 エヴァンゲリオン初号機。

 エヴァンゲリオン弐号機。

 エヴァンゲリオン3号機。

 エヴァンゲリオン4号機。

 エヴァンゲリオン6号機。

 エヴァンゲリオン2機で1(チーム)として2個班。

 これに支援用のエヴァンゲリオン1機を足した5機が、NERV本部に配備されるエヴァンゲリオンの定数だったのだ。

 にも拘わらず、アメリカ支部はアメリカ政府の影響を受けて2機のエヴァンゲリオンの移送に抵抗し、ドイツ支部はドイツ支部で、適格者(パイロット)未決定を理由に抵抗をしていたのだ。

 その潮目が変わったのは、アメリカ支部のエヴァンゲリオン4号機の強制的なNERV本部移管 ―― 所謂、碇ゲンドウの仕置きからであった。

 それでも尚、技術開発だの何だのと言ってエヴァンゲリオン3号機の引き渡しを渋っていたのだ。

 最近は、使徒の遺骸を研究分析して再現したS²機関(スーパーソレイド・リアクター)の実証実験などの必要性を叫んでいた。

 エヴァンゲリオン3号機を実験機として運用したがっても居たのだ。

 だが第2次E計画が全てを変えた。

 建造を開始したエヴァンゲリオン8号機に加えて、2乃至3機のエヴァンゲリオンの建造が要求されると言う事態になる事が半ば決定したのだ。

 こうなってくると、整備区画を解放する為に、とっととエヴァンゲリオン3号機をNERV本部に移送しろと言う話になる。

 なった訳だ。

 尚、コレに合わせて画期的なエヴァンゲリオン用動力源、S²機関(スーパーソレイド・リアクター)の開発も凍結する事になった。

 理論上は無限大の稼働時間を持つ事になるが、その安定した稼働にはまだ課題が多かった為であった。

 実現できれば素晴らしいが、今は実用化されたN型装備 ―― N²反応炉(ノーニュークリア・リアクター)がある為、優先順位が下げられていたのだ。

 又、エヴァンゲリオン8号機を、Bモジュールを設計レベルから組み込んだ機体として建造する事とした為、開発スタッフを其方に取られたというのも大きかった。

 

「ただし、パイロットは無しよ」

 

「機体試験役の子が居たんじゃないの?」

 

「ええ。男の子。中華系の、リー君といったかしら? とはいえ起動指数にはギリギリ。戦闘任務は難しそうだというのがアメリカ支部の言い分ね。本音は8号機、それに今後の建造する機体向けと言ったところかしら」

 

「機体が増えてもパイロットが居なければ意味が無いっつーの」

 

「ま、そこはマルドゥック機関の報告待ちね」

 

「………何かアテがありそうな感じなの? ドイツの子ども達はアテになりそうにもないし」

 

 起動指数ギリギリと言う意味ではアメリカ支部が管理するリー・ストラスバーグ適格者候補生(リザーブ・チルドレン)と同じ辺りに居るのがドイツ支部の子ども達であったが、その詳細情報を見た葛城ミサトは諦めていた。

 これは駄目だと。

 11人が候補と言う形で登録されているが、実際に起動できるのは2人のみ。

 操作まで期待可能なのはマリィ・ビンセントただ1人と言う有様であった。

 残る9人は、ドイツ支部の面子の問題や、或いは家柄からの箔付け的な意味で在籍しているだけと言う有様だった。

 少なくとも葛城ミサトは、自分の指揮下には必要ないと断じる類の候補生(子ども達)であった。

 そしてマリィ・ビンセントは、ドイツ支部でのエヴァンゲリオン建造の重要スタッフでもあったのだ。

 NERV本部に於ける綾波レイの立ち位置にも似た場所に居るのだ。

 必要だからと、NERV本部に簡単に転属させられるものでは無かった。

 

「そうね。期待してて良いわよ」

 

 詳細をボカシながら告げる赤木リツコ。

 如何に親友(マブ)であろうとも、言えることと言えない事があるのだ。

 例えば、シンジ達も籍を置く第壱中学校2年A組の子ども達が、適格者(チルドレン)の候補である事などだ。

 適格者候補管理番号α-Ⅱ(コード・アルファツー)

 20余名の予備。

 とは言え、今後は世界規模での適格者(チルドレン)志願と選抜を行う方向になりそうである為、エヴァンゲリオン3号機の専属操縦者(パイロット)を出す事で役割を終える事になりそうではあったが。

 

「取り合えず、4機体制になればシンジ君たちにも少しばかり纏まった休暇を出してあげられそうね」

 

「どうかしら。完全な素人よ、きっと」

 

 

 

 

 

 通常通りの授業が行われている第壱中学校2年A組。

 日常だ。

 

 日本に来て初めて通った時、アスカにとっては退屈だった。

 分刻みめいたスケジュールで適格者(チルドレン)としての訓練を受け、或いは延長線上で大学に通い、又は国連欧州軍(Europe-Aemy)で将校教育を大人たちに交じって受けていたのだ。

 そんな人間にとって日本の義務教育は、(刺激)が足らなかった。

 だからこそ最初は、自分と対等に張り合えるシンジを(ライバル)としていたのだ。

 ある意味で自分を追い込むような所業であり、或いは常日頃から針を張ったハリネズミめいた姿でもあった。

 だがシンジとの闘いが、それを変えた。

 シンジはアスカの挑戦に真っ向から立ち向かった。

 エヴァンゲリオンにせよ、学校にせよ、日常にせよ、競い合った。

 そして笑ったのだ。

 勝てばうれしそうに笑い、負ければ悔しそうに笑った。

 てらいのない笑顔。

 競い合えば勝ちもするし負けもする。

 故に、シンジにとって笑うのは当たり前の話であった。

 勝利者としての奢った笑みでも、敗者としての卑屈な笑みでも無い。

 真剣に立ち向かうが故の、競争の結果を素直に受け入れる笑い。

 だからだろう。

 何時しかアスカも、愛想笑い(猫を被った笑い)ではなく、心から笑う様になったのは。

 そして同時に、学校生活を楽しむ様(エンジョイ学生ライフ)になっていた。

 

 

 体育の授業。

 健全な肉体を育み、体の使い方を学ぶ学習。

 今日は、その一環として男女混合のクラス対抗リレーが行われていた。

 体育会系の(スポーツが得意な)生徒にとっては晴れ舞台だ。

 各運動部所属の生徒は男女を問わず、この世の春が来たとばかりに盛り上がっていた。

 そんな生徒に交じっているのが、シンジとアスカだった。

 

「いい加減、シンジもウチに来いよ。女子にモてるぜ!」

 

 バスケ部の部長がシンジを勧誘する。

 クラス対抗戦で活躍して以降、機会があれば声を掛けていたのだ。

 走り終わった気持ちよい疲労感に、笑みをこぼしながらシンジが答える。

 

勘弁しっくいやい(勘弁してよ)忙しせぇよ(忙しくて無理だよ)

 

「いや、忙しいからバスケでストレス発散すれば良いんだよ。お前なら即1軍だ。勿論、()の事があるから毎日来いって言わないからさ!」

 

そう言っくるっとはあいがてどん(そう言って貰えるのは嬉しいけど)なかなかな(簡単にはいかないよ)

 

 昼休みなどの遊びでバスケットも楽しむシンジであったが、部活として参加すると言うのには中々にハードルが高かった。

 心理的には低いのだけれども、物理的な意味で時間が無かった。

 

「駄目か、お前が来てくれたら西中にも勝ち越せそうなんだがな」

 

負けちょっとな(負け越してるの)?」

 

「馬鹿言え、互角だ互角」

 

 体格の良いバスケット部部長は、からからと笑う。

 この陽性な態度あればこそ、シンジも気楽に応対してるとも言えた。

 対して陸上部などは、シンジは勿論、その仲の良いアスカまで欲しくて、ネットリとした言い方をしてくるので早々に逃げ出す様であった。

 尚、剣道部に関してはシンジが、流派が違うから無理(剣道は性に合わない)と言って終わっていた。

 

 と、そこに乱入する影。

 アスカだ。

 走り終わって流れる汗を赤いタオルで拭いながらやってくる。

 

「また、勧誘しているの? 無理よ。シンジはウチ()の用事で忙しいんだっつーの」

 

()()、ね。そうだな惣流が居るものな。シンジへの勧誘で女の子にモテるってのは駄目な言い方だったな」

 

 普通に女子生徒からモテるバスケット部部長は、そうであるが故に14歳と言う年齢の割に大人になって(性的な意味での成長をして)いた。

 アスカの、シンジへの距離感を理解しているとも言える。

 恐らくは2年A組の男子の中で一番に。

 だからこそアスカは、警戒しているとも言えた。

 自分よりも10㎝から身長の高いバスケット部部長を、下から睨む。

 何と言うか猫めいた姿だ。

 

「なに? スケベな事でも言ってたのっちゅーの」

 

「まさか! そんなフケツな真似はやってないよ。な、シンジ? それよりリレーは勝ちそうだな!」

 

「アタシも走ってるのよ。あったりまえよ」

 

「あはははははっ」

 

 洞木ヒカリのキメ台詞(キャッチフレーズ)とあからさまな話題変更で誤魔化そうとするバスケット部部長。

 笑うシンジ。

 そんな2人をジト目で見るアスカであった。

 

 

 

 楽し気な雰囲気は、リレー競争で2年A組がぶっちぎりで勝ちつつある事もあっての事だった。

 クラスの三分の一が参加しての競争(ゲーム)は、クラスメイト達もやいのやいのと歓声を挙げて盛り上がっていた。

 そんな中にあって相田ケンスケは、楽しくさなそうにして(すすけて)いた。

 何時もは首から下げている記念撮影用のカメラも無く、タオルだけ掛けていた。

 

「………」

 

 トラック(コース)を鈴原トウジが走っていく。

 シンジやアスカ、或いは運動部の面々に比べれば拙い体捌きであるが、それでも前走者が稼いだ余裕を十分に生かして首位を守っている。

 と言うか必死さが顔から体から湧き上がっているのだ。

 応援席からの声も増すと言うものであった。

 特に、洞木ヒカリは日頃の穏やかさを投げ捨てた様に、タオルをぶん回して応援している。

 楽しそうである。

 

 だが、相田ケンスケはその輪から離れていた。

 かといって、運動に興味の無いクラスメイトの輪にも居ない。

 その中間点に居た。

 

「あそこに居たかったな」

 

 誰に言う訳でもない言葉が零れる。

 鈴原トウジが出るならば、と、リレーの選抜で相田ケンスケは手を挙げていた。

 だが、却下されていたのだ。

 他にも速い人は居るから、と。

 そもそも相田ケンスケという少年は、何時もはこの手の事に積極的で無かったのだ。

 手を挙げても却下されるし、或いは誘われないのも当然であった。

 今までの自分を、趣味を否定する気はない。

 だが、それだけでは満足できなくなった自分を、相田ケンスケは自覚していた。

 その原因も。

 

 人の輪の真ん中で輝いている煌き、アスカだ。

 

 お披露目の時の様な、TV画面越しの距離がある訳では無い。

 だが、いま改めて感じるのだ。

 同じ場所に居ても、同じところには立てない自分と言うものを。

 

「ふぅ~」

 

 深呼吸を1つ。

 そして決断する。

 エヴァンゲリオンに乗る、と。

 適格者(チルドレン)になる、と。

 TVでは、もうすぐ募集が始まると言っていた。

 そこに立候補するのだ。

 NERVと、NERVの重役である葛城ミサトとの(コネ)を自分は持っている。

 なら、最初の選抜で落とされる事は無い筈だ。

 そういう計算もあった。

 

 やる。

 やるぞ。

 やってやる。

 

 相田ケンスケは、自分の頬を叩いて気合を入れるのであった。

 

 

 

 

 

 




2022.10.31 題名修正

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