サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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 今だに迷走し続けている(会議が躍り続けている)国連安全保障理事会であったが、下部組織であるNERVは、エヴァンゲリオンの追加量産の準備を進めていた。

 特にNERV本部は、閉鎖していたエヴァンゲリオンの建造区画の再使用準備に追われていた。

 幸い、使徒の出現が無かったお陰で悲劇的状況(デスマーチ)が発生する事は無かったが、それでも大変な日々であった事に変わりは無かった。

 だがそれに並行して技術開発局第1課は面倒な業務を背負っていた。

 第2次E計画で採用される予定の適格者(チルドレン)に適応させたエヴァンゲリオンの制御システムの改良である。

 綾波レイと惣流アスカ・ラングレーでの育成経験を基に作られた、エヴァンゲリオンの特性や機体性能を100%出しきれる様な現行システムではなく、技量の無い人間であってもそれなりに扱えるシステムの開発である。

 言ってしまえば、従来のエヴァンゲリオンが戦場の主役(単騎での決戦兵器)であるのに対し、第2次E計画で建造されるエヴァンゲリオンは戦闘団の戦力要素(CTに於ける戦力要素)と言う事となるのだ。

 言うならば、前線に位置してA.Tフィールドを展開する事で使徒へ通常兵器での攻撃を有効化させる事が目的とする機体となるのだ。

 一部からは簡易量産型と言う表現もあったが、機体機能の簡素化とは別に、機体に要求される役割が従来のエヴァンゲリオンとは全く別となる為、それが普及する事は無かった。

 故に、シンプルにエヴァンゲリオン2型(セカンド・エヴァンゲリオン)と呼ばれる事となる。

 

 兎も角。

 新しい制御システムの開発は技術開発部のみならず、碇シンジたち現役適格者(チルドレン)の協力の下で行われていた。

 主目的は可能な限りの自動化である。

 柔軟性が高い代償として、操作に労力を要する現行の制御システムの動作を簡素化し、自動化させる事で簡単に出来るようにするのだ。

 葛城ミサトなどは、自動車のトランスミッションのMT(マニュアル)からAT(オートマ)にする様なものだと言っていた。

 とは言え、その作業に携わる場合は話が違ってくる。

 

 

『めんどうくさい』

 

 ブスっとした顔で不満を述べるアスカ。

 何時もの赤いプラグスーツではなく、白を基調とした試験用の様々な計測機器を取り付けたプラグスーツを身に纏っている。

 当然、居る場所もエヴァンゲリオン弐号機の操縦槽(エントリープラグ)では無く、MAGIが管制する情報収集用疑体の操縦槽(エントリープラグ)であった。

 今、アスカが行っているのは、エヴァンゲリオンの基本動作パターンの収集であった。

 無論、アスカだけではなく、綾波レイも隣の擬体で同様の作業を行っていた。

 碇シンジがそこに含まれていない理由は、シンジがエヴァンゲリオンに行わせている挙動の大半が()()()()()()、動作の標準化には不適格であるとの判断の結果だった。

 シンジの戦闘スタイルは近接戦闘が主体であり、それによって撃破数(スコア)を重ねてきたのがエヴァンゲリオン初号機なのだ。

 である以上は、中距離からの射撃戦闘を行いつつA.Tフィールドの中和を担うエヴァンゲリオン2型(ネクスト・マスプロダクトモデル)に採用されるべき動作パターンに含まれる筈も無かった。

 

 居ないのだシンジは。

 だからこそアスカは不満を漏らしている(ブー垂れている)と言えた。

 少なくともその場にいる大人たちはそう理解していた。

 微笑ましい、と。

 そもそも不満を口にするのも、休憩時間をキチンと選んでいるのだ。

 作業自体は真面目にやっている。

 だからこそ作業を管制する伊吹マヤは、柔らかく笑いながら告げる。

 

「そう言わないでアスカ。後輩の為だし、回ってはアスカの為にもなるんだから」

 

『でも………こんなトロそうなエヴァで役に立つの?』

 

 特殊な給水用ボトルを口に含みながら不承不承と云う塩梅で眉を顰める。

 アスカの言う通りではあった。

 基本動作はこなせる。

 だが、思考直結(機体とのシンクロ)による柔軟な操作性は失われるのだ。

 アスカが不満 ―― 不安を覚えるのも当然であった。

 それを伊吹マヤは窘める。

 

「完璧でも居ないエヴァよりは、不十分な能力でも居るエヴァよ」

 

 そこまで言ってから少しだけ声を落とす。

 秘密を漏らす様に言う。

 

「それに、2型が実戦配備になればアスカ達にも十分な休暇を出せるわ。一寸した旅行だってシンジ君たちとも出来る様になるのよ」

 

『し、シンジと旅行って!?』

 

 たち、と言う伊吹マヤの言葉を聞き落としてか、ポンっとばかりに真っ赤になるアスカ。

 実に思春期だ。

 が、それに不満を漏らすモノも居る。

 綾波レイだ。

 

『私も行きたい。駄目?』

 

『………駄目な訳無いでショ』

 

 伊吹マヤがフォローを入れる前に、アスカが受諾していた。

 少しだけ残念そうな顔をしている。

 これで、綾波レイにシンジ相手の下心があれば拒否も出来るのだが、そうでないから仕方がない。

 純粋に、仲間と言われたのに仲間外れは嫌(置いてけぼりは寂しい)と言う思いの上での言葉なのだ。

 コレを無下に出来る程にアスカと言う少女は、我が強くない。

 

『有難う』

 

『アンタがそう言う奴だとは思わなかったわよ』

 

 嘆息めいた言葉に、両手を挙げるお手上げだ(勝てない)と言うジェスチャーを添えるアスカ。

 人との対話も拒否する、ツンケン冷血ガール。

 それがアスカにとっての綾波レイへの最初のイメージだった。

 アスカが出会った早々の頃は、そのイメージ通りであった。

 だが、日本に来たアスカがシンジの家の隣に引っ越したのと前後する形で人並みの生活を与えられた綾波レイは隣に住む伊吹マヤの影響を受けて変わった。

 第8使徒戦役以降に関係の改善したアスカとアスカから紹介を受けて関係の深まった洞木ヒカリと洞木グループ(女子班)を通じて変わった。

 大人からも子ども(同級生)からも遠巻きに見られていた綾波レイと言う幼子は、アスカと言う触媒によって劇的に変わって行ったのだ。

 他人を見るようになった。

 他人に自分から関わる様になった。

 今までが独りであった事を知った。

 他人と触れ合った事で、独りは寂しいと言う事に気付いた。

 そして今となる。

 アスカが触媒となったという事を理解するからこそ、綾波レイは幼子の様にアスカになついているのだった。

 かつては、アスカの喋り声にも不快感を覚えていたのが凄い変化とも言えた。

 人間、仲よくなれば欠点も美点に見えて来る。

 そう言う類の話であったのかもしれない。

 綾波レイも、人間なのだ。

 

「ま、その時は皆で楽しめる場所に行けば良いわ」

 

『………なら、マヤが車を出してくれるの?』

 

「私は車は持ってないもの」

 

『彼氏のがあるでしょ』

 

『青葉中尉が大きな車に乗ってる』

 

「ちょ、ちょっと止まって!?」

 

 煽り気無し、ド直球な2人の言葉に伊吹マヤも焦る。

 只、ほんのりと頬を赤らめている。

 擬体管制室のスタッフの耳目が伊吹マヤに集まった。

 概ね、驚愕であった。

 技術局第1課の出世頭(赤木リツコの愛弟子)にして不沈艦、男を寄せ付けなかった鉄の処女(アイアン・バージン)に春が来ていたのかとの衝撃だ。

 目配せし合う。

 青葉中尉って誰? ウチ(技術局)じゃないよね。

 中尉って事は年上? まって、私知ってるかも__ 等などである。

 擬体管制室に一寸した息抜きを与えながら、当事者たちの会話は盛り上がる ――事は 無かった。

 

 甲高い電子合成音。

 NERV本部に於いて、最も重要な意味を持つ警報。

 使徒の襲来が告げられたからである。

 その瞬間、全ての人間のスイッチが入れ替わるのであった。

 

「作業停止! 各員は終了手順を実行、終了次第個々に通常業務へと復帰せよ。現場班はアスカとレイの回収、待機室へと案内しておいて!!」

 

 キビキビとして命令を発する伊吹マヤ。

 その声に弾かれたかの様に、各員は動き出す。

 

 

 

 

 

 第11番目となる使徒の襲来。

 だがそれは予想外の形でのモノであった。

 

「説明を開始して」

 

 葛城ミサトの言葉から、状況の説明と分析とが始まる。

 先ずは施設維持局からであった。

 

「B棟のエヴァ生体パーツ建造(培養)槽の再検査時に発見されたものです」

 

 画面に映し出されたのは、白を基調とした蛋白壁の写真だ。

 そこに染みめいたものが映っている。

 

「異常の確認後、調査に出したUUV(水中無人作業機)が__ 」

 

「乗っ取られた、と」

 

 調査の為に侵食部分に接近したUUV、その作業アームが染みめいたモノに触れると共に、染みめいたモノはUUVへと広がり、その後に暴走。

 僚機を巻き込んで大事故となる。

 その際に検出されたのがパターン青(BloodType-BLUE)であったのだと言う。

 

「碇総司令への報告は?」

 

「実施済みです。又、緊急マニュアルに従い、セントラルドグマの物理閉鎖を実施。現在、発見されたB棟及びシグマユニットは隔離状態にあります」

 

「点呼は? 隔離内に取り残されている人間は居ないわよね」

 

「MAGIによって、本部地下設備内の人員に異常が無い事は確認済みです」

 

「結構。で、使徒は何をしているの?」

 

「不明です。現在、B棟内部、建造槽内部で大人しくして居ます」

 

 幾つかの画像が表示される。

 脇に刻まれているタイムスタンプで見る限り、発見されて30分以上が経過しているが、何かをしている気配はない。

 

「コアの確認は?」

 

「不明です」

 

「では、アレが本体で無い可能性もある訳ね」

 

「或いは、コアを持たない使徒(群体としての使徒)の可能性もあるわ」

 

 赤木リツコが忌々し気に言う。

 最近、暇な時間にはSFの類の本を読んでいるという。

 想像力を磨き、どんな使徒が来ても驚かない為だと言う。

 そんな親友(マブ)の姿に痛々しさを感じつつ、葛城ミサトは考える。

 如何にして、本部施設の被害を抑えて第11使徒を叩き潰すのか、をだ。

 

「世界の終りまでそうであれば、楽なのにね。いいわ、取り合えずエバーの出撃準備を進めさせて」

 

「どうするつもり?」

 

「取り合えず使徒のA.Tフィールドを中和してみて、そこから反応を見る」

 

 仕掛けて見て、反応を見る。

 そう葛城ミサトが判断した時、既に使徒側も動いているのだった。

 

「葛城中佐!」

 

 通話機を抱えた連絡スタッフが、信じられないというような顔で声を発した。

 ただ事ではないと見た葛城ミサトが無言で頷き、続きを促した。

 誰もが口を閉ざして静かになった室内。

 耳目が集まる。

 

第3護衛班(グループ3)が使徒と接触との事です」

 

「ハァ!?」

 

 素っ頓狂な声を上げる葛城ミサト。

 だが、奇異の目を向ける者は居ない。

 誰もが目を剥いて、連絡スタッフを見ていたのだから。

 第3護衛班とは即ち第3適格者護衛班(3rd チルドレン・エスコートチーム)、シンジの護衛部隊なのだ。

 NERV本部に於いて最重要護衛対象群に含まれ、現時点では間違ってもB棟付近には居ない筈であったのだ。

 それが使徒と接触したと言う。

 理解を超えるのも当然であった。

 

「どういう事!? 使徒は既にB棟を抜け出しているって事? リツコ!」

 

「ええ。監視チーム、情報の再チェックを急いで!!」

 

「で、状況は!? シンジ君はっ無事なの!!?」

 

「それが、撃破したとの事で………」

 

 返された現実は、理屈を超えていた。

 

「ハァァァァァッ??」

 

 

 纏めれば、次の様になったのだと言う。

 本日の新しい制御システムの情報収集任務が割り振られていなかったシンジは、使徒発見の一報が齎された際、通常の訓練を行っていた。

 この為、急いで操縦者待機室へと向かっていた。

 その最中に、壁に広がる染み(使徒)を発見。

 護衛班の1人が確認の為に近づいた所、染みが広がって襲われた。

 

「それで?」

 

 そこまでは判る。

 ある意味で理解しやすい話である。

 そこから、何故、撃破したと言う事になるというのかが判らない。

 

「で、襲われた班員を救う為に3rd(シンジ)が吶喊、班員を襲っていた染みの大本に手に持っていた木刀を叩き付けたら、ええ。潰せた訳で」

 

「まって、まってまってまって。()()()()()()?」

 

「木刀で潰した」

 

「………ごめん、頭痛い。リツコ、B棟の方は?」

 

「居るわね。但し、再チェックを行った所………聞く?」

 

「聞く。後、ビールが欲しい」

 

「頑張りなさい。どうやら自己増殖型みたいね。広がっているわ」

 

「それがシンジ君の所にも現れた、と」

 

「ええ。但し、増殖型といっても、弱いみたいね」

 

「弱いって言ったってUUVは乗っ取るし、襲われたスタッフも居るのよ!? それが何で木刀で潰されてるのよ、使徒を舐めてるの。人間を舐めているの!? 意味が判んないわよ!!!」

 

「使徒に意味なんてあるの?」

 

 感情の一切乗って居ない声を漏らす赤木リツコ。

 意味が判らない理不尽である。

 もはや使徒とはそういうモノだと考えるべきだと思っていた。

 その吐露であった。

 無慈悲な赤木リツコの言葉に冷静さを取り戻す葛城ミサト。

 溜息。

 改めて口を開く。

 

「そうね。でもどうして木刀で、シンジ君に潰されたの? 木刀が良かったの? 例えばアレがゲームとかである御神木とかで作られた奴だとか」

 

「馬鹿ね。シンジ君のは1本ン千円の量販品よ。大体、買ってきたの貴女だったでしょ?」

 

「じゃあ何でよ!!」

 

「推測で良ければだけど、答えみたいなモノはあるわよ」

 

「教えて」

 

 縋る様に言う葛城ミサト。

 現実の意味不明さを、酒の力も借りずに乗り切るにはナニカが必要であった。

 そういう顔をしている。

 

「意志よ」

 

「意志?」

 

「そ。最近の研究だとA.Tフィールドとは自己保持力とも見られているわ?」

 

 人を形作る力である可能性を言う。

 自我の境界線とか、動物はどうなるのかとか、植物はどうなのとか。

 そもそも物質はどうなるのとか、ある意味で超常現象(オカルト)めいているが、と付け加えた。

 全身全霊で信じていないが、そんな顔で赤木リツコは口にした。

 

「結論として、どうなの?」

 

「要するに、シンジ君の()意が上回ったから潰せたんでしょ」

 

「使徒なのに?」

 

「細菌みたいなものだもの」

 

 会議室を何とも言えない空気が満たした。

 pcの電子音や、ファンの音だけの静かな室内となった。

 

「じゃあリツコ、もしかして私たちでも?」

 

「可能性はあるわね」

 

 葛城ミサトは思わず、腰に佩いた拳銃(H&K USP)を確認するのだった。

 

 

 

 NERV本部作戦部と保衛部、それにNERV本部施設内に駐在していた国連軍の将兵との合同チームで行われた、取り敢えずの試験。

 使徒を人間が叩き潰して見ると言う実験は、見事に成功した。

 拳銃で撃った。

 死んだ。

 木刀やバールで叩いた。

 死んだ。

 死ねとの殺意を込めて行われた全ての行動で、使徒は死んでいった。

 

 報告を聞いた葛城ミサトは、狂ったように笑った。

 笑ってから叫んだ。

 

「狩りよっ! 使徒を狩れ!! 但し、銃器の使用は禁止!!!」

 

 

 使徒との闘いを子どもに押し付けていた事に忸怩たる思いを抱いていた大人たちは、その号令に歓喜し従った。

 各々、鈍器を手に使徒を探し、潰して回るのだった。

 その様は正に狩りであった。

 ハンマーやパイプレンチ、或いは銃床で。

 はたまた手袋をした手で靴で踏みにじっていく。

 それだけで第11使徒の欠片たる群体は消えていった。

 自分たちで使徒を潰せると言う喜び。

 それがNERVスタッフを駆り立てた。

 国連軍将兵を駆り立てた。

 戦闘部署の人間だけではない。

 清掃を担う人々はモップを槍の如く抱えて徘徊した。

 調理を担う人々は中身の詰まった一斗缶を鈍器の如く担いで徘徊した。

 勿論、見つけ次第にソレらを振るう事に迷う事は無かった。

 

 使徒への憎悪もあったが、最近の過重化した労働への鬱屈も又、その行動の原動力であった。

 使徒さえ居なければ、子ども(チルドレン)を戦わせる事はなかった。

 使徒さえ居なければ、こんな残業まみれの日々を過ごさなくても良かった。

 振るわれる単純な暴力は人を酔わせた(ストレス発散に駆り立たせた)

 狂乱めいた勢い。

 全てのNERVスタッフは獣の如く第11使徒を探し、潰して回っていった。

 

 

 

「冬月、ここを頼む」

 

「碇、行くのか」

 

「ああ」

 

 NERV本部総司令官執務室の隠し金庫からA号封印体(Solidseal-α)を入れたトランクを取り出す碇ゲンドウ。

 勿論、戦いに行くのではない。

 逃げるのだ。

 使徒が狙うのはアダムである。

 NERV本部地下(セントラルドグマ)のアダムに偽装したリリスであるが、碇ゲンドウの手には本物のアダムがあるのだ。

 第11使徒は細菌状であり、どこにでも入ってくる使徒なのだ。

 厳重な警戒が成されている総司令官執務室であっても、やってくる可能性は零ではないのだ。

 であれば、逃げるほか(逃げるんだヨォ しか)なかった。

 

「取り合えず、セントラルドグマに潜る」

 

「気を付けてな」

 

 

 

 個でエヴァンゲリオン(群体たる人類)に勝てないのであれば、同じ土俵に上がろう。

 使徒がそう考えたのかは判らない。

 だが、取り合えず言える事が1つ

 群体同士として見た場合の人間の殺意の大きさと言うモノは、使徒とは比べ物にならないと言う事であった。

 瞬く間に封鎖されているB棟以外の使徒が狩られていく。

 群体としてのサイズ、細菌レベルの体で張れるA.Tフィールドは余りにも貧弱であり、多少、強度をあげた所で、強烈な殺意を込められた人間(物理)力の前では無力であった。

 有意に、己が減っていく事を知覚した第11使徒は能動的に動き出す。

 群体を捨て個体へと戻ろうとするのだ。

 コアを形成し、体を作ろうとする。

 だが消えていく末端の自己の速度が速すぎた。

 出来る事など何も無かった。

 故に、逃げる第11使徒。

 細菌状の体を利用し、配管を伝って逃げる。

 閉鎖されたバルブであっても、微細な隙間はあるのだ。

 どうにでも出来ていた。

 途中、アダムの気配を感じた。

 気付けば誘導されていた。

 先ずは自己の保存を優先して動いたが、祖たるモノ(Adam)への帰還と言う誘惑は自己保存欲を上回るのだ。

 

 能動的に、攻撃的に動く第11使徒。

 だがそれは巧妙な誘導であった。

 それを理解するのは、アダムの気配を追って出た先の事である。

 エヴァンゲリオン弐号機である。

 

 それは赤木リツコによる作戦だった。

 エヴァンゲリオン弐号機の素体がアダム遺伝子ベースである事を逆手にとって、使徒を誘引しようとし、見事にソレに成功したのだ。

 

『こういうのを言うのよね。トンビに油揚げを攫われる(ごっちゃんゴール)って』

 

 最近学んでいるコトワザを口にするアスカ。

 その内容が状況を正確に表しているとは言い難いが、兎も角、物騒で何よりも楽し気であった。

 その目に油断は無い。

 獣めいた笑みを口元に刻んでいる。

 そして、使徒の全体が出たと見るや、一気に攻撃を行う。

 

『フィールド全開!!!!』

 

 空間を砕く程の勢いで放たれたA.Tフィールドは、使徒が現れた空間 ―― 地下整備区画を滅茶苦茶にした。

 勿論、その目的である第11使徒もだ。

 

『死ね』

 

 止めめいて放たれるのは焔。

 エヴァンゲリオン弐号機が持つ近接火炎照射武器EW-31(フレームランチャー)だ。

 ナンバーから判る通り、初期に開発されていた武器であったが今まで実戦投入されなかった理由は、射程距離の短さと、何よりも高温で全てを焼き尽くすソレと言う性質から付帯被害が余りにも巨大になる事が予想された為であった。

 そして今、封印を解かれたEW-31(フレームランチャー)は想定通りの力を発揮した。

 第11使徒を、その悉くを燃やし尽くして見せたのだから。

 

 使徒が燃え尽きていく轟焔の中に立つエヴァンゲリオン弐号機。

 その様はさながら焔の女王であった。

 

 

 

 

 

 




2022.10.31 題名修正

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