サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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神は誠実である
あなたたちが耐えられない試錬に出会わせることはないばかりか、
それに耐えられるように逃れるための道も備えてくれる

――新約聖書     









拾) ANGEL-12  LELIEL
10-1 Hyperīōn


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 多くの時間。

 多くの組織。

 多くの人間の悲喜こもごもを飲み込んで成立した第2次E計画。

 その目的は広域にわたる使徒からの人類護衛が主任務と定められた。

 そしてエヴァンゲリオンの配備予定が公表される。

 防衛部隊(ユニット)が1つ。

 NERV本部のある第3新東京市に配備されるNERVエヴァンゲリオン戦闘団。

 2機のエヴァンゲリオンで小隊とし、2個小隊と予備機1機を含めた5機が配備される事と定められた。

 機動展開部隊(ユニット)が3つ。

 1つはアメリカ大陸に配置されるアメリカ隊(仮名)。

 管理するのはアメリカNERV、南北アメリカ大陸と大西洋と太平洋東側での緊急出動を担う。

 1つはヨーロッパ亜大陸に配置されるエウロペア隊(仮名)。

 管理するのはエウロペアNERV、ヨーロッパ亜大陸とアフリカ大陸、中東までの緊急出動を担う。

 1つは東ユーラシア大陸に配置されるユーラシア隊(仮名)。

 管理するのはユーラシアNERV、インド亜大陸から東のユーラシア大陸全域とオーストラリアまでの緊急出動を担う。

 それぞれに3機1組の機動小隊を構成し、配備される。

 都合14機のエヴァンゲリオンが必要となる。

 結果、第2次E計画では6機のエヴァンゲリオンが建造される形となった。

 これに合わせて支援機として、建造途中の2号支援機(ジェトアローン2)を改良した汎用支援機(ジェットアローン3)が各機動小隊に2機ずつ配備される事とされた。

 汎用支援機(ジェットアローン3)は、それ以前の支援機(ジェットアローン)とは異なり、比較的コンパクトに分解輸送が出来る様に改設計が行われる予定であった。

 目的は勿論、被輸送能力の付与である。

 エヴァンゲリオンと同様に、空中投下を可能とするのだ。

 その上で、3機分の電力を賄えるだけの発電力を付与し、又は予備の武器の輸送も担うものとされた。

 又、その操縦に関して従来は完全無人機であったが、支援の受けられない場所へと投入される可能性を鑑みて有人化される事とされた。

 何とも過大な要求(欲張りハッピーセット)であったが、使徒への対抗(予備戦力としての機能)などを諦めれば可能だと言うのが時田シロウを筆頭とした日本重化学工業共同体(J.H.C.I.C)超大型特殊機材部(ジェットアローン開発チーム)が出した結論であった。

 エヴァンゲリオンに代わる人類の守護者たれとの願いと共に生み出されたジェットアローンは、エヴァンゲリオンと共にある人類の守護者となっていくのだった。

 兎も角。

 機動展開部隊の拠点となるのは3ヵ所。

 アメリカNERVはNERVアメリカ第2支部に同居する形となる。

 エウロペアNERVはNERVドイツ支部に同居する形となる。

 問題はユーラシアNERVだ。

 他2ヵ所の前例を踏襲すれば、NERV日本第2支部かNERV中国支部に同居する形となる。

 日本第2支部が日本の首都(松代/第2東京)にあり、技術実験など(国連へのデモンストレーション)が主な役割である事を考えれば、エヴァンゲリオンの建造設備まで有している中国支部が配置先として妥当となる。

 通常であれば。

 だがソレにオーストラリアとインド、そしてインドネシアといった国々が反対したのだ。

 エヴァンゲリオンの安全保障理事会旧常任理事国による独占であると噛みついたのだ。

 結果、中国を含めた4ヵ国の中間辺りと言う事で決着する。

 ベトナムだ。

 問題は、現時点ではエヴァンゲリオンの運用どころか整備する設備すら無いと言う事であった。

 短期的にはエヴァンゲリオン輸送/作戦支援艦であるオセローともう1隻、洋上整備艦を建造配備して代替し、長期的には時間を掛けてユーラシアNERVとしての設備を揃えるモノとされた。

 正に政治であった。

 国連安全保障理事会12ヵ国に弄ばれる形となったNERV(碇ゲンドウ)人類補完委員会(SEELE)は、エヴァンゲリオンの純増と言う方向で決着しなかった事に安堵するのだった。

 

 

 

 日曜(休養)日の昼下がり。

 TVから流れて来る第2次E計画の方針成立と言うニュース。

 それを惣流アスカ・ラングレーは、だらしなくソファに寝ころびながら見ていた。

 

「取り合えず、決着ね」

 

 緩い、興味なさげな物言い。

 そもそも格好もだらしない。

 上は白のTシャツで、下はホットパンツと言うやる気皆無(ゼロ)の部屋着姿だ。

 手にはポテトチップスの袋がある。

 薄しお味。

 ポテトチップスを1枚とって齧る。

 齧ったついでに指先に残った油と塩を舐める。

 実に行儀が悪い。

 カウチポテトめいた姿だ。

 だが、アスカがすれば不思議と絵になっていた。

 ポテトチップスの宣伝にでも使えそうだ。

 その絵を乱す様に。アスカの持つポテトチップスの袋に手を伸ばすのが碇シンジ。

 居るのは当然だ。

 ここはシンジの家であり、同時にアスカの植民地でもあるのだから。

 此方も自宅らしいラフな格好である。

 白のTシャツに青い7分丈のズボン姿だ。

 ソファの横のちゃぶ台でノートパソコンを広げている。

 と、シンジがノートパソコンを睨んだままと言う事に気付いたアスカは、プイっとポテトチップスの袋を横に動かして手が入るのを邪魔した。

 シンジの指が空を切る。

 探す様に動く。

 その様を声を出さずに笑いながら、アスカはポテトチップスの袋を逃がしていく。

 

「アスカ!」

 

「気づくのがおっそ~い」

 

 シンジの前で美味しそうにポテトチップスを齧るアスカ。

 音まで美味しそうな、そんな仕草だ。

 シンジの顔が不満げに歪む。

 当然だろう。

 このポテトチップスを買ってきたのはシンジなのだから。

 作業の合間用のおやつの予定が、何時の間にかアスカが袋ごととって食べ始めていたのだから。

 食べるなとは言わない。

 だけど、全部喰おうというのには断固抗議といった塩梅であった。

 

「シンジ、美味しいわよ~♪」

 

 ワザとらしい仕草で袋から一枚取り出した、そのアスカの手をサッと掴んだシンジはそのまま齧りついた。

 

「うん、良い塩味だね。有難うアスカ」

 

「ほーん」

 

 解放された手。

 指先で掴んだままの、シンジの齧って持って行った残りポテトチップスを優雅に齧りながらアスカは不敵に笑う。

 シンジも笑っている。

 睨み合い(肉食動物同士の戯れ)めいた雰囲気。

 

「なら………」

 

 シンジが口を開いた瞬間、素早く袋に手を入れるアスカ。

 同時に袋ごと下がる。

 だがシンジも踏み込んで掴もうとする。

 が、今回はアスカが一枚上手だった。

 下がると見せかけて前に出して見せたのだ。

 アスカの作戦勝ちだ。

 日々積み重ねた尋常ではない修練(素振り)によって、顔立ちに似合わぬ無骨さを漂わせたシンジの手は、鍛えられた精悍さと女性らしい柔らかさを両立させているアスカの手首を掴む事に成功するが、そもそもポテトチップスを掴んで居ないのだから。

 

「外れ」

 

「そうでもないかな?」

 

 シンジはポテトチップスの袋自体に噛みつき、首から肩の筋肉を総動員して(スナップを効かせて)アスカの手から袋を取り上げたのだ。

 

「ずっこいわよシンジ!」

 

「だいたい、アスカはコンソメ味が良いって言ってたじゃないか」

 

「アッチは食べ終わったんだもの仕方ないじゃない」

 

「大袋だよ!?」

 

「美味しかったわ」

 

 

 やいのやいのとじゃれ合う2人。

 それを肴に葛城ミサトは焼酎を手酌していた。

 シンジの影響もあって、のんびりと時間を掛けて飲む時には葛城ミサトも、焼酎を湯割りで嗜む様になっていたのだ。

 特に、シンジの()()から、第3新東京市(関東圏)では珍しい鹿児島の地の焼酎が届いているのだ。

 ご相伴に預かろうというのも妥当な行動とも言えた。

 年上が年下の酒を飲むと言う事の微妙な情けなさからは目を逸らし、肴の材料費を大目に払って罪悪感からは逃げていたが。

 そもそも、自宅は隣なのだ。

 なのに休日は真昼間からシンジの家に入り浸って酒を飲む。

 実にダメ人間感満載であった。

 

「くわっ」

 

 最近は葛城ミサトのペット、温泉ペンギンのペンペンまで来る様になっていた。

 シンジの家で酔っぱらった葛城ミサトがペンペンの食事の準備を忘れた事があり、激怒したペンペンに数日間はソッポを向かれたりツンツンと嘴で突かれた結果であった。

 実に葛城ミサトであった。

 

「ペンペン、この焼酎って辛口だった筈なんだけど不思議よね」

 

 甘いわー 等と言いながらもろきゅうを齧るのだった。

 

 

 

 休日にシンジがNERV支給のノートパソコンに触っている理由は、この第2次E計画に絡んでの事であった。

 即ち、自分自身が受けた適格者(チルドレン)としての訓練内容に対する感想(レポート)作りなのだ。

 訓練内容と実戦での事を比較して、役立ったか否かなどの様々な評価を求められていた。

 尚、同様の事はアスカにも要求されていたが、此方は()()()()()と言う事でシンジに比べれば参考程度のモノでしか無かった為、とっくの昔に終わらせていたのだ。

 だからこそ、シンジの傍で寝ころんでいた(ダル絡みしていた)とも言えるだろう。

 シンジが嫌がらない(面倒臭がらない)と言うのも大きかったが。

 その様を葛城ミサトなどは、猫だと評していたが。

 

 

「追加で建造する6機に正規の6人と予備の6人。併せて12人の選出って事だったわよね?」

 

「そうね、そういう予定って聞いてるわよ」

 

 葛城ミサトが手酌するダイニングキッチンに、飲み物を取りに来たアスカがフト、と言う感じで確認する。

 

「一次選抜で素質のありそうな子を1000人。そこから性格とか協調性とか様子を見て二次選考で50人にまで絞って、訓練に取り掛かる感じね」

 

「ふーん」

 

「興味がある?」

 

「べっつにー 只、ドイツの………いや、いい。別に何でもない」

 

 言いかけた言葉が何であったか。

 それを知るのはアスカだけであろう。

 口を閉ざし、拒絶する様に冷蔵庫に向かうアスカ。

 

 だが、ドイツと言う言葉(フレーズ)が何を言いたかったのか判らぬ程に葛城ミサトも鈍くはない。

 アスカのドイツでの生活の報告書(レポート)を見ていたのだから。

 同期とも言える適格者候補生(リザーブ・チルドレン)との折り合いの悪さとでも言うべき部分への事を。

 何時までたっても適格者(チルドレン)に選ばれない、候補生止まりと見下すアスカ。

 混ざりモノ(クオーター)風情が豪そうに、と言う差別意識(エスニック・ハラスメント)をまき散らしていた適格者候補生(リザーブ・チルドレン)たち。

 その態度はアスカのみならず、ドイツ支部内での非白人(コーカソイド系)全般にも及んでいた為、正直、ドイツ支部内でも持て余すところがあった。

 同じ白人(コーカソイド系)スタッフからも白眼視されている辺り、態度の悪さ(酷さ)の度合いが判ると言うものであった。

 適格者(チルドレン)としての資質は低い事もあって、適格者候補生(リザーブ・チルドレン)の一時解散も真剣に検討された程でもあった。

 だが、その中心的な子どもが人類補完委員会(SEELE)の血縁関係者であった為、事態を面倒くさい(合理性だけで処理できない)モノにしていたのだ。

 アスカに対する男子候補生の態度は嫉妬だろう。

 同時に、好意/好感が裏返ったモノであったとも、葛城ミサトは理解していた。

 レポートの行間から見える態度、そもそもまだ子ども(ローティーン)なのだ。

 否、それ以下(ティーン未満)なのだ。

 感情の抑制が十分に出来ないし、自分の感情に振り回されて支離滅裂な態度になるのも、ある種、当然と言えるだろう。

 その湿度を含んだ子ども達(候補生)に、正式な適格者(チルドレン)と言う看板を背負って正面から殴り返していたのがアスカなのだ。

 拗れるのも当然の結果であった。

 そして拗れていたからこそ、気になったのかもしれない。

 とは言え今のアスカに、家柄しか背骨の無い適格者候補生(リザーブ・チルドレン)が太刀打ちできる筈も無かった。

 実戦を重ねた事で積みあがった実績が自負を与え、そして何よりも()()()()()のだ。

 どうでも良いと言うのもその通りなのだろう。

 歯牙にもかけぬ、と言う意味で。

 

 そもそも、今のドイツの適格者候補生(リザーブ・チルドレン)たちの()では二次選考を乗り切る事は不可能と言うのが赤木リツコの見立てであった。

 第2次E計画として建造されるエヴァンゲリオン2型(セカンド・エヴァンゲリオン)はシンジやアスカが乗る正規型のエヴァンゲリオンとは違う、様々な機能を削除(オフミット)した簡易型だ。

 その簡易型ですら、起動させるのは難しいだろうと評価していた。

 だからこそ赤木リツコは、最近になって艶やかさを増した表情で笑うのだ。

 第2次E計画は良い点もあったと。

 世界中に使徒の脅威とエヴァンゲリオンが知れ渡った結果、世界中から適格者(チルドレン)に立候補する人間が出て来たので資質面だけで選ぶ事が出来る様になった、と。

 

 だから葛城ミサトは全てを飲み込んでアスカの背中に告げる。

 

「大丈夫よ、全ては良い風になるわ。アスカは可愛い女の子だもの。可愛い女の子の努力は、神様だってきっと見てくれてるわよ」

 

「酔っぱらい。アタシ達の敵は、そのカミサマの御遣い(ANGEL)でしょうに」

 

「人類の生存を邪魔する邪悪な神様なら、問答無用でぶっ飛ばせば良いのよ」

 

「ホント、気楽ね」

 

「だって、悩んでると小じわが増えそうだもの」

 

「そう言えばミサトもお肌の曲がり角、お歳(アラサー)だものね」

 

「うっさい小娘」

 

 吐き捨てる様に言う葛城ミサト。

 睨むアスカ。

 それから馬鹿みたいに2人は笑うのだった。

 シンジが五月蠅いと声を上げるまで、笑い続けるのだった。

 そんな平和な休みの昼下がりだった。

 

 

 

 

 

 


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