サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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 第2次E計画が国連安全保障理事会で成立し、即日で計画に基づいた諸々が動き出した。

 その勢いは、世界を変えるものであった。

 変わる世界の範疇には、当然ながらも第3新東京市も含まれていた。

 公開された使徒。

 エヴァンゲリオン。

 そしてNERV。

 第3新東京市に於いて公然の秘密であったNERVが、公開はされぬものの公的組織として公表されたのだ。

 

 そして世界の変革は碇シンジたちの通う第壱中学校にも及んでいた。

 2年A組の生徒数は、1月前と比較して約2/3にまで減っていた。

 NERVと関係の浅い第3新東京市生活者は積極的な避難 ―― 疎開を行っている影響だった。

 無論、人口だけを見れば国連組織足るNERVとのビジネス(ビック・トレード)を目指す流入者(ビジネス関係者)も少なからず居たのだが、流石にその手の人間も子どもや家族を連れて第3新東京市に来ては居なかったのだ。

 送別会などを行ったりもした。

 教師の許可を貰って放課後に、お菓子やジュースを持ち寄って別れを惜しんだり、再会を誓い合ったりしたのだ。

 誰かが持ち込んだカラオケマイクで歌ったり、或いは踊ったりして楽しんでいた。

 正にバカ騒ぎ。

 記念撮影も数多くなされた。

 意外、という訳では無いが女子クラスメイトからシンジは良く呼ばれ、一緒に撮影されていた辺り、地味にシンジのクラスでの人気ぶりが出ていた。

 少なくとも男子生徒の中では断トツであった。

 言葉遣いに癖はあるが、清潔感があって礼儀正しく優しい人柄なのだ(少なくとも味方には)

 そこにスポーツ全般に優れ、学業も優秀と来ればモテない筈がないと言うべきだっただろう。

 それが告白の対象にならないのは、有体に言えばシンジと対となるが如く輝く惣流アスカ・ラングレーが居たからと言えた。

 時に競争者(ライヴァル)であり、時に阿吽の呼吸(ツーと言えばカー)で協力する2人なのだ。

 そんな姿を見て割り込もうと言う勇気ある女子は居なかった。

 尚、そういうアスカを排除する動きが出なかったのは、転校して来て早々にアスカが得た親友(マブ)洞木ヒカリと洞木グループあればこそとも言えた。

 洞木ヒカリはクラスの女子からは一目置かれていた。

 学業が優等でありクラス委員長も担っていた事もだが、何よりも土壇場になれば顔を出す気の強さ(肝っ玉ガールっぷり)があった為であった。

 ある意味で、アスカの朋友(マブ)になれたのは伊達では無いと言う事だろう。

 鉄の統制(カースト)めいたモノがある女子に対し、男子にそんなモノは無かった。

 作れたとすれば文武両道のシンジか或いは鈴原トウジならば不可能では無かったが、両人共にそういう事に一切興味を示さない人間であった為、そうはならなかったのだ。

 陰でアレコレとする男子が居ない訳では無いのだが、シンジと鈴原トウジの腕っぷしの強さとバンカラめいた気性によって、強い(影響力)を持てずにいたのだった。

 だから、と言えるかもしれない。

 突発的な告白大会が発生した理由は。

 無論、男子から女子へであった。

 狙われたのは勿論、2年A組の誇る惣流アスカ・ラングレーと綾波レイであった。

 尤もアスカは告白を鼻で笑って却下した。

 お友達で居ましょうと返す事すら無かった。

 正に、歯牙にもかけずである。

 対して綾波レイは、小首を傾げて真面目な顔で「付き合うって何?」などと純粋過ぎる(イノセントな)発言を返していた。

 言質を取られぬ様に対馬ユカリなどが慌ててフォローに入る有様であった。

 

 やいのやいのと、ドタバタした送別会。

 司会進行がある訳でも無く、只、惜別の思いから仲間(クラスメイト)との触れ合う時間を楽しむ一時。

 そんな中、少しづつ日が傾きだしていく。

 窓際の席に座って紙コップを傾けているシンジ。

 別に酒精は無い。

 ごく普通のジュース(コーラ)だ。

 勉強のやり方と言う少々アレなお題目で独演会を始めたアスカの居る教壇を、優しい目で眺めている。

 場を白けさせかねないお題であったが、それをアスカがおっぱじめた理由が、中学校こそ別れ別れになるが高校で、著名な進学校で再会したいと言う(思い)を聞いての事だった。

 綾波レイとのふれあいで育った、アスカの面倒見の良さが出たと言えるだろう。

 そして、真剣な面々が熱心にソレを聞いていた。

 

「惣流はええ奴やのー」

 

 鈴原トウジだ。

 手には烏龍茶の入った紙コップと、ペットボトルがある。

 どっこらしょっとばかりにシンジの隣の席に座る。

 肴とばかりにそっとポテトチップスの袋を差し出すシンジ。

 コンソメ味だ。

 アスカの趣味で、シンジが買いこんで提供したポテトチップスはコンソメ味ばかりになっていたのだ。

 コーラの銘柄だけはシンジも妥協しなかったが、ポテトチップスでは勝てなかったのだった。

 尚、チョコレートその他に関しては、綾波レイの趣味が通っていた。

 シンジはこっそりビーフジャーキーやらも入れていたが。

 

じゃっど(そう思うよ)

 

「………寂しくなるのう」

 

じゃんなぁ(そうだね)

 

 鈴原トウジは疎開しない側の人間であった。

 親と祖父がNERV関係で仕事をしているのも理由であったが、それ以上に個人的な理由があった。

 それが、何となく鈴原トウジの口を重くしていた。

 

「ケンスケの奴も一足先にヨーロッパやしな」

 

あいは驚いたが(驚いたよね)志願したち、なぁ(エヴァンゲリオン操縦者への志願だもの)

 

 この場に居ない相田ケンスケ。

 2年A組の記念撮影担当とも言えたこの少年は、今、ヨーロッパに居た。

 第2次E計画による適格者(チルドレン)募集に手を挙げての事であった。

 本人曰く、NERVとのコネ(葛城ミサトの推薦)のお陰だと言って、必ず適格者(チルドレン)に成って帰ってくる。

 シンジに負けない、アスカの隣に立てる男になりに行ってくる。

 そう言って第3新東京市を離れたのだ。

 

「思い詰めっとったからな、アイツも」

 

「………ないごてかね(何でなんだろうね)

 

 コーラを注いだ紙コップを飲み干す。

 ヌルい(常温の)コーラを手酌する。

 シンジには、別にエヴァンゲリオンに乗る拘りがある訳ではない。

 頼まれたから乗っているだけだからだ。

 人類の為に乗ってくれと言われたれば、郷中教育(サツマンスクール)で躾けられたシンジに拒否する選択肢がある筈も無かった。

 否、男子の本懐と言うべきモノであった。

 だが同時に、別にエヴァンゲリオンに執着する事は無かった。

 偶然にもシンジに適正があったから乗っているだけで、それ以上の才覚のある人間が来れば()は譲るものだと考えていたのだ。

 

 世界で3人しか居ない適格者(チルドレン)

 世界を守るエヴァンゲリオンを駆ると言う立場。

 

 ある意味で相田ケンスケが渇望した、思春期の気持ち(厨二病めいた名誉欲)を充足する立場であったが、シンジはそれを特別なモノだと思えなかったのだ。

 ()()()()()()()

 その事を郷中教育と薬丸自顕流の鍛錬で思い知らされ続けていたからだ。

 個々の人間と言う奴は実にちっぽけな存在だ。

 だからこそ、為すべき時には身命を惜しむ(命捨てがまるを恐れるな)と思って居た。

 ()の結果だった。

 シンジの受けた、2015年の、平和な日本とかけ離れた様な苛烈極まりない(教育)

 それは嘗ての、世界が破滅の淵(セカンドインパクト)にあった頃の混乱 ―― 世界が、九州が地獄となっていた名残であった。

 

「ま、そう言う趣味やろ」

 

じゃっとやろな(そうなんだろうね)

 

「ま、それは兎も角や。シンジ、()()()()()()()()()()()()

 

 そう言った時の鈴原トウジの表情は達観の域にあり、ある種の僧めいていた。

 快活な、快男児と言って良いこの鈴原トウジらしくない表情であった。

 その声色に、シンジは鈴原トウジを見た。

 シンジの目を真っ向から見返し、頷く鈴原トウジ。

 それでシンジは理解した。

 先に、エヴァンゲリオン3号機が来ると言う話を聞いていたから繋がったのだ。

 鈴原トウジが4人目(4th チルドレン)となると言う事を。

 

「………乗っとな(乗るんだ)

 

「先週にミサトさんが来てな、おう、出来るなら乗って欲しい何て言われたんや」

 

 ガシガシと頭を掻く鈴原トウジ。

 それから烏龍茶を一気に干して、言葉を紡ぐ。

 

「センセたちが頑張っとるから今の平和じゃと判っとる。だからこそや。ワシが何が出来るかなんて判らんし、自信なんてあらへん。だけど、逃げるのは嫌やな」

 

じゃどんあ(そうだね)逃ぐっとは嫌やっどな(逃げるのは性に合わないよね)

 

「その通りや。だからセンセ、いやセンパイ。宜しゅう頼むで」

 

特訓じゃんな(特訓になるね)

 

 笑うシンジ。

 シンジは鈴原トウジの決断を批評しない。

 男が決めた事に彼是と言うなど失礼千万であると思えばこそであった。

 だからこそ、その決意を手伝うだけだと思うのであった。

 

「トウジ」

 

「ん」

 

 シンジと鈴原トウジは、拳と拳を軽く叩き合うのであった。

 

 

 

 

 

 エヴァンゲリオン3号機。

 NERVアメリカ支部で建造された、漆黒の塗装が施されたエヴァンゲリオン。

 綾波レイのエヴァンゲリオン4号機の同型機だ。

 この機体がNERV本部に配備されれば、NERV本部戦闘団は2個小隊編成が可能となる予定であった。

 

「作戦局にとっては悲願達成と言った所かしら?」

 

 エヴァンゲリオン3号機の受け入れ準備で忙しい技術局、その支配者たる赤木リツコは熱い珈琲がなみなみと注がれたマグカップを両手で支えながら笑う。

 忙しいとは言え、随分と余裕のある態度であった。

 第2次E計画のドタバタ、狂騒曲(カプリッチョ)が漸く終わったのだ。

 その上で使徒の襲来が無い。

 余裕があるのも当然であった。

 

「そうね。これで割と安心していられるわ」

 

 対して、疲れた顔で同意するのは葛城ミサトであった。

 此方は小隊編成や教育プログラムの用意その他で、本気で多忙となって居た。

 紡がれた言葉も、その内容程には安心の気配は含まれていなかった。

 深淵めいた、深い深い声色。

 ある意味で当然だった。

 エヴァンゲリオン3号機、その専任適格者としてマルドゥック機関が選抜した4人目の適格者(4th チルドレン)が鈴原トウジであるが、正真正銘の素人なのだ。

 その訓練はどれ程に手間が掛かるのか、正直判らないと言うのが実情であった。

 面接等で性根を見た葛城ミサトは、鈴原トウジと言う人間は適格者(チルドレン)に足ると判断していた。

 だが、性根は兎も角として、戦闘経験の類は一切持たないのだ。

 アスカの様な専門の戦闘訓練を受けた訳でも無ければ、シンジの様な武術の修練を重ねていた訳でもない。

 極々普通の14歳の少年(子ども)だった。

 そんな、戦火から遠い場所に居た鈴原トウジを出来る限り早期に、エヴァンゲリオンの操縦者(戦士)へと鍛え上げねばならぬのだ。

 その道の難しさと、何よりも子どもを武器にする(エヴァンゲリオンに乗せる)と言う事に大きな精神的な負荷を葛城ミサトは実感していた。

 綾波レイは既にそこに居た。

 アスカは専門の訓練を重ねていた。

 シンジは戦士(もののふ)だった。

 だから、今まで葛城ミサトが感じる事の無かった負担であった。

 

 とは言え、エヴァンゲリオン3号機と鈴原トウジを拒否すると言う選択肢は葛城ミサトには無い。

 組織人としてNERVの方針だからと言うのもある。

 だがそれ以上にシンジ達3人の負担減に繋がるからである。

 どれ程に注意していてもケガや病気と言うリスクはある。

 体調不良な状況下でも、他に適格者(チルドレン)が居なければ戦わねばならぬ。

 戦わせねばならぬ。

 幸いにも今まではその様な最悪の事態は無かった。

 だが、この先もそうであるとは限らない。

 ()()()()()()()()

 

「それでも、シンジ君ともアスカ達とも関係は良好だと言う1点だけは有難いわ」

 

「そうね。そう言う点も考慮して選抜されたのかもね」

 

「マルドゥック機関が、そこまで考慮するものかしら?」

 

「さぁ? 取り敢えず、良かったという意味で感謝しておけば良いんじゃない」

 

 我関せずと言わんばかりの態度で珈琲を楽しんでいる赤木リツコ。

 実際、最終的に鈴原トウジに決めたのは葛城ミサトだったのだから、その態度も当然であった。

 相田ケンスケ。

 鈴原トウジ。

 洞木ヒカリ。

 マルドゥック機関は適格者(チルドレン)としての資質ありと、3人の事を報告して来ていたのだから。

 葛城ミサトは相田ケンスケを真っ先に外した。

 第2次E計画に志願したから、では無い。

 単純に、その性格に不安を抱いたからであった。

 第4使徒戦役の際に相田ケンスケが示した行動は、あらゆる意味で兵士として不適格(イネリジブル)としか評し得ぬものだからだ。

 自己の趣味を優先し、危険性を正しく判断できず、上の指示を無視した。

 論外であった。

 尚、にも拘らず相田ケンスケが第2次E計画の適格者(チルドレン)応募に際して支援したのは、ある種の報酬(手切れ金)であった。

 第壱中学校でのシンジ達の動向などを報告してくれていた事に対するモノだ。

 本人が希望するチャンス、その入口への門を叩く権利(チケット)は与えた。

 その先は本人の努力次第と言う葛城ミサトの所感であった。

 己を磨き、選抜を潜り抜けるならそれも良し。

 挫折して道を変えるならばそれも良し。

 葛城ミサトにとって相田ケンスケとはそう言う相手であった。

 

 続いて、洞木ヒカリが脱落した。

 此方は純粋に、性格や性向が戦闘に向いていないと言う事であった。

 どうしても他に適格者(チルドレン)が居ないのであれば採用するべきであったが、今はまだそこまで差し迫った状況には無い。

 であれば、無理をする必要は無いのだ。

 

 だからこそ、最終的に鈴原トウジが選ばれたのだ。

 

「そうね。とは言え配備される最後の1機が問題よ」

 

「一応、ドイツの6号機かアメリカの8号機が予定されているわね」

 

「とは言え、専任の適格者(チルドレン)は未定なんでしょ? いつ来るかも判らない、パイロットも居ないエバーなんて画餅と一緒よ」

 

「そうでも無いみたいよ」

 

「ハァ?」

 

「6号機ではナニか動きがあったっぽいのよね」

 

「嘘でしょ!?」

 

 葛城ミサトの驚きは当然だった。

 今現在、NERVドイツ支部に在籍している適格者候補生(リザーブ・チルドレン)は使えないと言う評価が上がって来ていたのだから。

 その評価がひっくり返ったのであれば、訓練を積んでいた子で使えるのが居るなら寄越せ。

 獲物を聞いた猟犬めいた顔になる葛城ミサト、

 だが赤木リツコは肩をすくめて流した。

 

「詳しい事は知らないわよ? 只、難航していた6号機の建造がかなり進捗しだしたって事からの推測めいた話よ」

 

「詳細は、ドイツ支部の秘密主義で五里霧中って事?」

 

「そんな所ね」

 

「あっきれた。あそこの先代支部長って碇司令にボコられてて、まだそんな気合があったなんて」

 

「ま、ドイツですもの、妥当かもしれないわね」

 

「………ジャガイモ(クラウツ)め。リツコでも何も掴めなかったの?」

 

「判らなかったわ。只、イニシャルなのかしらね。子どもを差しているのならば、だけどもN.Kと言うフレーズが度々、出ていたわ」

 

N.K(ナイス・キッズ)とでも言う積り?」

 

「さぁ? 取り敢えず、ドイツはそうね。で、8号機はパイロットの製造もなんてアメリカ支部のレポートに書いてあったわ」

 

()()?」

 

「製造。秘匿名称(開発コード)はM²、或いはBMだそうよ」

 

 適格者(チルドレン)を製造すると言うのだ。

 絶対にマトモな話では無いだろうと理解して、何とも言えない顔になる葛城ミサト。

 

「どこもかしこもロクでもないわね。ウチだけ? ウチだけなの、マシなのって」

 

「さぁ。どうなのかしらね」

 

 関心なさげな風に葛城ミサトの言葉に同意して見せた赤木リツコは、綾波レイに関わっている事をおくびにも出さないのだった。

 かつては情夫たる碇ゲンドウの指示の下、綾波レイを製造し、メンテナンスし、道具としてだけ見ていたのだ。

 無論、今の情緒が育ちつつある綾波レイをそう見る事は難しくなった。

 綾波レイは普通の子ども(女の子)に育ちつつあるのだ。

 その成長の一端に、隣人として携わっている赤木リツコは、だからこそ自分の薄汚い部分を忘れる事が出来ないのだった。

 己を科学者だと、冷たい女だと自負する赤木リツコ。

 だが本人が思う程に冷血な人間では無いのだった。

 

 

 

 

 

 


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