サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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 正式に4人目の適格者(4th チルドレン)となった鈴原トウジ。

 碇シンジらと共にNERV本部に通う様になった。

 とは言え未だ、その乗機となるエヴァンゲリオン3号機に搭乗した事は無かったが。

 エヴァンゲリオン3号機自体は既に第3新東京市NERV本部に持ち込まれてはいたが、搭乗員(鈴原トウジ)に合わせた最終調整と最終確認、それに、先行するエヴァンゲリオン4号機に準じた()()()が行われているからであった。

 そして表に出せない部分としての、操作システムの改修があった。

 綾波レイの持つ特性 ―― 綾波レイと言う存在の在り方に依存するType-Ⅰ。

 シンジと惣流アスカ・ラングレーの特殊性に合わせたType-Ⅱ。

 そして、鈴原トウジのType-Ⅲである。

 当初はエヴァンゲリオン3号機以降の機体もType-Ⅱ系列のシステムで運用する事が検討されていたのだが、それは現実的で無いと判断され変更されたのだ。

 Type-Ⅱはエヴァンゲリオンと操縦者(パイロット)とを、A10神経回路のみならず深い所(魂の部分)で繋ている。

 ソレは一切が公開される事の無い、エヴァンゲリオンに関する最高機密であり、人道的とは言えぬ部分であった。

 詳細を知る赤木リツコ等は、エヴァンゲリオンの持つ()と評していた。

 無論、狙って為されたモノではなく、偶然によって()()()()()()()()モノである。

 成功例と呼べるのは2例のみ。

 エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機、その2機のだけなのだ。

 その効果は抜群であり、2機のエヴァンゲリオンは操縦者の意思通りに動く事が出来るのだから。

 シンジがエヴァンゲリオン初号機に初めて搭乗した際に、即、動けたのも此のお陰と言えた。

 対して綾波レイ(Type-Ⅰ)が機体とシンクロするまでには数ヶ月の調整を要したのだ。

 その優位性は言うまでもないだろう。

 だが、その対価が重すぎていた。

 故にType-Ⅱのシステムを簡素化し、人道的にも利用可能なType-Ⅱ系列(Ⅱプラス)として開発が進められていたのだ。

 だが、それが実用段階に達する事は出来なかった。

 現時点で、魂の複製(デジタル・コピー)は不可能であるとされ、第2次E計画の成立に伴いType-Ⅱ系列システムの開発は凍結されたのだった。

 

 対してType-Ⅲ。

 此方は、実は概念研究に着手したのはType-Ⅱは勿論、Type-Ⅰよりも先であった。

 或いは、()()()()()()()()()()()()()()()と言えた。

 だがType-ⅡがN()E()R()V()()()()()()()()()()()()()()()()()、等閑にされたのだ。

 製造に於ける問題点以外の全てにおいて優秀なType-Ⅱがあるのだ。

 であれば、問題点さえ解決できれば問題は無いと考えたのだ。

 実にドイツ的合理性であった。

 Type-Ⅲが実用化されて考えれば、Type-Ⅱ系列の実用化は理論倒れの理屈であった。

 性能だけ見れば、Type-ⅢはType-Ⅱに比べて余りにも劣ったシステムである。

 だからこそ、Type-Ⅱの問題点を解決する事の困難さを理解しつつも、Type-Ⅱ系列の開発が継続されたとも言えた。

 だが高い目標を掲げた結果、実用化できなければ意味はない。

 その上、簡易型と言っても良いエヴァンゲリオン2型(セカンド・エヴァンゲリオン)が整備されるとなれば話が変わる。

 機体自体が簡素なのだ。

 であれば制御システムも簡素化されても問題は無い。

 状況の変化が逆転の発想を生み、Type-Ⅲの実用化を決めたと言っても良かった。

 尚、Type-Ⅲの開発は、Type-Ⅱ系列の開発に掛かっていた時間と費用がなんであったのかと問題になる程に簡単に行われたのだった。

 これは、Type-Ⅱ(シンジとアスカ)による運用情報があればこその成果であった。

 だが余りにも酷いこの状況に、NERVドイツ支部には再びNERV総司令官碇ゲンドウ直々の特別監査(ストレス発散)が入るのであった。

 

 兎も角。

 かくして、エヴァンゲリオンを用いた本格的な搭乗訓練が始まる前に、鈴原トウジに課されたのは身体トレーニングであった。

 実戦の場では基礎体力が全てを左右する、と言う事であった。

 

「エヴァンゲリオンに乗るんやったら、体力は要らんのとちゃうんかいな!?」

 

 鈴原トウジの嘆きが響いたのは適格者(チルドレン)用の操縦者待機室だった。

 操縦者待機室に居るのは適格者(チルドレン)である4人だけだ。

 とは言え綾波レイは我関せずと言った塩梅で、買い込んで来た服の雑誌を見ていたが。

 

 渡されたトレーニング内容を見た鈴原トウジは顔を真っ青にした。

 当然だろう。

 朝から晩までミッチリと汗を流す、そんな訳では無いが()()()()とされた内容は休憩や座学が盛り込まれつつも、同時にそれ以外は延々と走り続ける様な内容となっていたのだから。

 鈴原トウジが理解出来ないと云う顔になってしまうのも当然であった。

 だが、それを真っ向からシンジとアスカが否定するのだ。

 体力が大事。

 体力こそが重要になる、と。

 

「いざって時、体力の無い奴から諦めるのよ」

 

気持っも大事じゃったんどん(負けないって気持ちも大事だよ?)じゃっどん(だけど)そいをささゆっとが体じゃひとよ(体力が無いと気持ちが出し切れないんだ)

 

 シンジとアスカが異口同音に告げる。

 体が資本、そして基本。

 そういう話であった。

 

そいに(それに)待機がなげこっもあっでよ(待機が永くなる事もあるからね)

 

 狭いエントリープラグ内に何時間も居るのは流石に体がこる(石のようになる)、と珍しくシンジも嫌そうな雰囲気を漂わせていた。

 座って待機し続けるのも体力的に辛いのは事実だ。

 降りた時には全身ストレッチをせねば実に辛い。

 だがそれ以上に、精神的に辛い部分があった。

 そう、通電していない(アクティブモードではない)エントリープラグは、それなりに圧迫感があるのだ。

 シンジは閉所恐怖症と言う訳では無いが、空が広い場所(都市化されていない田舎)で育っているのだ。

 狭い場所が好きになれる筈も無かった。

 

 兎も角。

 ベテランである2人(シンジとアスカ)の言葉に、鈴原トウジは頷くしかできなかった。

 

「走り込みかいな。こら大変な仕事をワイも引き受けたもんじゃ」

 

じゃひと(そうかもね)

 

 そもそも、シンジとアスカもまた、鈴原トウジと一緒に走る積りなのだ。

 灰白色のトレーニングジャケットにランニングシューズ、それにタオルまで用意している。

 準備万端。

 独りでするトレーニングは寂しくて身が入らないだろうと、アスカが言い、シンジも同意しての事であった。

 とは言え綾波レイは居ない。

 此方は体力と言うか心肺能力の絡みもあって、プールでのトレーニング(プール・ウォーキング)が主であるからだった。

 シンジやアスカ程に頑健ではないのだ、綾波レイと言う少女は。

 

 兎も角。

 先ずはトレーニングとして、NERV本部地下空間(ジオフロント)でのランニングだ。

 アスカが威勢よく声を上げる。

 

「じゃ、行くわよ!」

 

 素直についていくシンジ。

 その背中を追いながら、鈴原トウジは改めて嘆息していた。

 

「こら、大変な事になりそうや」

 

 

 

 

 

 鈴原トウジの教練は、シンジとアスカと言う2人の先達との状況の差が余りにもあり過ぎるが故に、試行錯誤と言う部分があった。

 とは言え悪い話では無い。

 適格者(チルドレン)として選抜された素人をエヴァンゲリオン操縦者(パイロット)として仕上げると言う教育プログラムは、後に続くエヴァンゲリオン2型(セカンド・エヴァンゲリオン)の育成にも応用が効くからである。

 

 現在、ヨーロッパのNERV各支部で行われている第2次E計画向け適格者(チルドレン)の選考過程は、1000名の一次選抜者を200名に絞る為の一次選考が行われている。

 世界中から集まった志願者。

 その総数は10万を超えていた。

 世界の守り手となる名誉、或いはそれまでの生活環境から逃れる事を夢見た子ども達が手を挙げていたのだ。

 そこから、マルドゥック機関が書類審査で()()()()()()()()()()()()を1000名選抜する。

 其処から先が、本当の始まりなのだ。

 書類だけで行われた選抜から、先ず、実際の面接や学力、体力審査などを行う一次選考が行われる。

 そこで200名に絞られる。

 次が二次選考。

 様々な訓練が行われ、選考されるのだ。

 通過できるのは50名。

 そして、実際にエヴァンゲリオンに触れて様子を見る三次選考。

 ここで12名が適格者(チルドレン)として選出されるのだ。

 

 鈴原トウジが残していく事となる情報は、二次選考以降の訓練プログラムに生かされる事となるのだ。

 責任重大とも言えた。

 とは言え、疲労は別であった。

 とくに精神的な疲労は。

 

 鈴原トウジの運動神経は、正直な評価として良好では無かった。

 だが動体視力や反射神経と言う意味では、そう悪いものでは無かった。

 なのに何故かうまく出来ない。

 アスカ(訓練班長)も、葛城ミサト(訓練指導者)も首を傾げる有様だった。

 只、シンジだけが慣れだと達観した顔をしていた。

 素振りと一緒である、とも。

 一日に100回で足りなければ200回。

 200回で足りないならば1000回。

 1000回で足りないならば2000回と、体を()()()()()()()()と言うのだ。

 

「センセ、そら殺生やで」

 

 悲鳴めいた声を漏らしたのは勿論、鈴原トウジだ。

 流石のアスカもあきれ顔となっていた。

 継続的な訓練と言うモノの重要性はアスカも信じていたが、それは科学(合理性)に裏打ちされたものであったからだ。

 言わば、勝つまで続けろと言うが如き主張(極めつけの精神論)なのだから。

 尤も、アスカはアスカで科学によって人間の限界を見極め、その限界(ギリギリ)を見極めて訓練をすべしとしていたのだ。

 鈴原トウジからすればシンジもアスカも同じであった。

 

 尚、そんな3人を葛城ミサトは面白げに見ていた。

 正確に言えばシンジとアスカをだ。

 体の動かし方で言えば、合理と言う言葉を煮詰めたかのように無駄の一切ないシンジと、無駄は無いが獣めいた縦横な動きを好むアスカ。

 その根底(精神性)と真逆なのが面白い、と。

 さて、鈴原トウジはどちらに寄るのかと考えていた。

 尚、綾波レイは合理的に考えて無駄なく動く、高効率(エコ)派であった。

 

 

 

 

 

 NERVでのエヴァンゲリオンの操縦者としての訓練が始まった鈴原トウジであったが、まだその身は学生。

 義務教育の真っただ中の中学2年生なのだ。

 である以上は、所属する第壱中学校にも通わねばならなかった。

 中学校中退等と言うのは流石に、経歴として悲惨だと言うものであった。

 だがそれ以上に、NERV本部のエヴァンゲリオン部隊はシンジとアスカ、それに綾波レイと言う鉄壁の3人組(エースユニット)が完成しているのだ。

 その連携と支援は円熟の域に達しており、見る者に不安を感じさせない安定感があった。

 故に、促成せねばならぬと言う緊急性が乏しいが故の、余裕を持った訓練プログラムが組まれていた。

 

 尤も、それはシンジを基準にしたモノ(学校とNERVを交互に通う事)であり、正直、それまで一般人であった鈴原トウジにとっては過酷な日々(ハードスケジュール)であったが。

 

「アカン」

 

 魂が半分以上、口から出ている様な顔で、昼飯前だと言うのに栄養ドリンクを啜っている鈴原トウジ。

 ストローを差して飲んでいる辺り、本当に疲弊が酷い事になっていた。

 心技体とまでは言わないが、体の訓練のみならず、アレコレとした頭の教育(レクチャー)が入るのだ。

 それはもう、つい最近まで一般人だった鈴原トウジにとっては中々にギリギリ(スパルタン)な日々としか言いようがない。

 とは言え無理がある訳では無い。

 体の方は休養も十分に計算されていた。

 頭の方も判らない事は判るまで説明があった。

 ()()()()()()()()

 ギリギリまで絞られてしまう。

 体に無理はない。

 疲労感はあっても疲弊し果てた感じは無い。

 栄養ドリンクも、ある意味で元気が出るおまじない代わりに飲んで居るのだった。

 

「大丈夫、鈴原?」

 

 心配げに声を掛けたのは洞木ヒカリだ。

 授業を受けに来ているのか昼寝に出てきているのか判らない、そんな状態なのが外から見た鈴原トウジであったのだから。

 鈴原トウジがエヴァンゲリオンの適格者(チルドレン)に選ばれたという事は公然の秘密となっていた。

 バレていた。

 当然と言えるだろう。

 シンジ達3人と共に、()()()()と言って学校を休みがちになったのだ。

 そして何より、3人と一緒にNERVの車に乗って行くのだ。

 判らない筈が無かった。

 だが、誰も決定的な事を鈴原トウジに尋ねようとはしなかった。

 この場に相田ケンスケが居れば、空気を読まずに尋ねたかもしれないが、今は居ない。

 故に、シンジ達が戦う日々を見ていた2年A組のクラスメイト達は、そっと鈴原トウジも見守っているのだった。

 

「何とかや」

 

 虚ろっぽい(心のスタミナ0%な)目を洞木ヒカリを見ながら笑う鈴原トウジ。

 

「無理、しないでね」

 

「そやな。無理はせん範囲や」

 

 無理が掛からないからこそ延々と続く事(エンドレス・スパルタンデイズ)になって疲弊している、そんな格好良いとは言い難い部分(ホンネ)は、鈴原トウジも男として飲み込んでいたが。

 それよりも最近痛感する事への感想を口にした。

 

「とは言え、センセと惣流の奴は凄いワ。こういう事やってて元気一杯やっとるからな」

 

 鈴原トウジの目が動く。

 その先でシンジとアスカはやいのやいのと声を上げていた。

 昼飯時故に、内容は弁当だ。

 弁当のおかずだ。

 ウィンナーの味付けで、アスカがカリーブルスト風にしてくれと言い、シンジが他のおかずにカレーの匂いが移り過ぎると抵抗しているのだ。

 焼いてケチャップで味付けされたウィンナーに、やはりカレー風味が欲しいと言うのだ。

 何とも他愛ない話であったが、本人たちは真面目であった。

 

 聞いているクラスメイトの中には、カレースパイス(ガラムマサラ)の小瓶でも持って来れば良いじゃないのと思いつく人間も居たが口を閉ざしていた。

 実に賢明な態度であった。

 と言うか見れば判るのだ。

 アスカがシンジにじゃれついているだけなのだと言う事が。

 であれば誰も、馬に蹴られたくないと思うと言うものであった。

 アスカは実に悍馬(じゃじゃ馬)なのだ。

 蹴られた日にはどうなるか判らないと言うものであった。

 

「うん、まぁ」

 

 苦笑する洞木ヒカリ。

 お弁当を作ってあげたい派としては、お弁当を作ってもらいたい派のアスカの心情が全て判る訳では無い。

 内容に文句を言う前に、自分の好みで作って相手を染めてしまえば良いじゃない。

 そんな風にも思っているのだから。

 だが同時に判る事もある。

 そんな事でも会話(コミュニケーション)したいと言うアスカの心情が、だ。

 とは言え、今はアスカよりも自分の事であった。

 洞木ヒカリはそっと可愛らしい布巾に包まれたモノを鈴原トウジに差し出す。

 弁当だ。

 

「コレ。私、こんな事しか出来ないけど、鈴原の事、応援しているから。頑張って」

 

「おおきに。嬉しいで、イインチョ」

 

 

 

「春が近いわね」

 

 自家製のサンドイッチなお弁当を食べながら、何となく言う対馬ユカリ。

 据わった目でシンジとアスカ、鈴原トウジと洞木ヒカリを見ている。

 と言うか教室内を見ればどこそこで男女のペアが出来つつある風に見える。

 つり橋効果かとつぶやきは、口の中で辛子の効いた卵サンドと一緒に飲み込まれた。

 同じ席に座る綾波レイは、自分で作った大きく丸いおかかのお握りを小さく啄むように食べながら首を傾げた。

 

 常夏の国の日本。

 とは言え暦が消えた訳でもない。

 今は秋を過ぎて冬に入ったばかり。

 真夏めいた日差しが続く、冬なのだ。

 素直な綾波レイが首を傾げたのも当然であった。

 

「まだ、冬本番」

 

「そうね、私たちにはまだ遠いわね」

 

 非常に不本意そうな顔で対馬ユカリはサンドイッチにかぶりつくのであった。

 

 

 

 

 

 訓練漬けめいた鈴原トウジ。

 同じような内容(ルーティンワーク)では宜しくないだろうと、気分転換として入れられたのが最終確認が漸く終了したエヴァンゲリオン3号機との対面であった。

 NERV本部が迎え入れた5体目のエヴァンゲリオン。

 黒を基調に、随所に白と黄色のライン(差し色)が入っている。

 黒に黄色と言う組み合わせは、どこかしら()を思わせる雰囲気があった。

 無論、鈴原トウジのリクエストだった。

 

 03と書かれたケイジ(格納庫)で、L.C.L(機体冷却水)に浸かってはいてもエヴァンゲリオン3号機は威風堂々といった塩梅であった。

 その頭部はエヴァンゲリオン4号機と同じエヴァンゲリオン初号機のソレを簡素化した様なデザインとなっている以外は、正規量産型であるエヴァンゲリオン弐号機と同じであった。

 

「コレがワイのエヴァンゲリオン!」

 

「そう、実戦配備に就く世界で5番目のエヴァンゲリオン。貴方の乗機よ、トウジ君」

 

 キメ(ドヤァ)顔で言うのは、エヴァンゲリオン3号機の最終調整まで自分の手でやっていた赤木リツコだ。

 忙しい日々を送り、疲労している筈なのに艶やかさを増している肌は、NERV女性陣から羨望の眼差しで見られている。

 その眼差しが、赤木リツコに背徳めいた喜び(ゾクゾク感)を与えていたが、そこは言わぬが花であろう。

 少なくとも、日々ののアレコレから開き直った(情夫を尻に敷く喜びに目覚めた)赤木リツコに搾り取られている碇ゲンドウの名誉的な意味で。

 

 大人の事情はさておき、目を輝かせて満足げに頷く鈴原トウジ。

 

「うん、ええんやないですか」

 

 疲れも吹き飛んだ。

 そう言わんばかりの表情だ。

 そんな鈴原トウジが身につけているのは当然、プラグスーツだ。

 エヴァンゲリオン3号機に合わせて、黒地に白のラインと黄色の差し色が入っている。

 流石に此方は、虎などのイメージは無いが使用されている色は同じであった。

 

 今日、初めてエヴァンゲリオンに搭乗し、繋がる(シンクロする)のだ。

 日々はこの日の為であったと思えば興奮しない筈が無かった。

 

「あんじょう、がんばりまっせー」

 

「緊張する必要はないわ。既に模擬体では起動に成功しているのだから。練習通りにするだけよ」

 

「そうは言われても、それが難しいんでっせ」

 

「フフッ、案ずるより産むがやすしよ。さぁ、行くわよトウジ君」

 

「へぇっ!」

 

 元気よく返事をする鈴原トウジ。

 その、根が陽気な態度にエヴァンゲリオン3号機付きのスタッフも温かな笑みを浮かべるのであった。

 尚、エヴァンゲリオン3号機の起動は特に大きな問題なく成功するのであった。

 そしてこの起動試験の成功をもって、エヴァンゲリオン3号機は正式に実戦配備が為される事となる。

 

 エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機による、NERV本部戦闘団エヴァンゲリオン第1小隊。

 エヴァンゲリオン3号機とエヴァンゲリオン4号機による、NERV本部戦闘団エヴァンゲリオン第2小隊。

 2個小隊編成が充足する事となる。

 第1小隊が前衛を担い、第2小隊が支援を行うものとされた。

 作戦局の一部からは、エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機の組み合わせ(ペア)を解体し、2個小隊それぞれの戦力の均質化を図るべきとの声も上がったが、葛城ミサトが受け入れなかった。

 私情ではない。

 戦力の均質化によるローテーションの実現は、操縦者(パイロット)である子ども達の疲労軽減と作戦の幅を広げる事になるが、同時に、エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機の組み合わせと言う近接戦闘から中距離戦闘までをカバーできる突出した戦闘力の喪失を意味するからである。

 或いは第9使徒戦の様な、咄嗟の際であっても信用できる ―― 或いは、腹の据わった戦いが難しくなるとの考えであった。

 鈴原トウジは、まだ一人前とはとても言えないからだ。

 綾波レイは肝が据わっているが、戦闘の方向性がシンジやアスカと違い過ぎて、この2人の組み合わせの様な阿吽の呼吸を期待するのは難しいのだ。

 かくしてシンジとアスカと言うNERV最強の組み合わせは維持される事となった。

 

 第2小隊の小隊長となり後輩(鈴原トウジ)を見る事となった綾波レイは、改めてNERV本部戦闘団の充足に伴う関係者各位とのあいさつの場で、鈴原トウジに拳を突きだした。

 真面目な顔だ。

 それはアスカを、アスカとシンジを真似た仕草であった。

 とは言え、学校でそういう綾波レイの側面を見た事の無かった鈴原トウジは面喰らってしまう。

 周りを見る。

 アスカが腹を抱えて笑っていた。

 シンジも口を手で抑えている。

 傍に居た伊吹マヤも他所を見ながら肩を震わせている。

 この場に居る誰もが笑っていた。

 陽性の笑い。

 

 だが、その中にあって綾波レイは真剣だった。

 

「んっ」

 

 綾波レイの顔が少しだけ不満げになった。

 怜悧な雰囲気があった顔が、少しだけ膨れて(プクッっとなって)いる。

 

「いや、あの、アヤナミさん?」

 

「んっ」

 

 差し出されていた手がプルプルと震えて来た。

 腕を上げているのが辛いのだ。

 何とも、自分が悪い事をしている様な気になった鈴原トウジは再度、シンジを見た。

 シンジも腕を挙げていた。

 それで、漸く理解出来た鈴原トウジは拳を合わせたのだった。

 

「宜しく」

 

「こちらこそ宜しゅう頼むでぇセンパイ」

 

「ん。任せて」

 

 

 

 

 

 4機のエヴァンゲリオンが揃ったNERV本部戦闘団。

 その実戦は程なくして訪れる事となる。

 第12番目の使徒、その襲来である。

 

 第3新東京市近郊、その上空に突如として現れた謎の球体。

 真球めいたソレは、白と黒のマーブルな模様をしていた。

 

「使徒ね」

 

 MAGIによる判定が為される前に、自信満々に言い切る赤木リツコ。

 正体不明は全て使徒。

 未確認飛行物体(UFO)未確認生物(UMA)も、判らないものは全て使徒。

 科学者であるが故に、合理主義者であるが故に、もう使徒に対しては匙を投げているのだろう。

 少しだけ遠い所にいった親友(マブ)の心境に少しだけ思いを馳せながら、葛城ミサトは確認の声を上げる。

 

「MAGIは?」

 

ネガティブ(BloodType-ORANGE)! A.Tフィールド未検出の為、MAGIは判断を保留しています」

 

 日向マコトの声が響く。

 その手元のディスプレイには、診断不能の文字が躍っていた。

 

「………どうせ使徒でしょ」

 

 吐き捨てる様に言う葛城ミサト。

 自分自身で気づいていなかったが、その様は赤木リツコが断言したのと同じような仕草であった。

 実に類とも(マブ)であった。

 それに実務を担う葛城ミサトには別に気になる事があった。

 

「しかし、どうして此処まで入られたの、富士の電波観測所がやられたの?」

 

 言いながら、それは無いだろうと判断していた。

 攻撃を受けたと成れば、使徒発見との警報が鳴らずとも、緊急的な戦闘配置を告げる警報が発報して居る筈だからだ。

 青葉シゲルが声を張り上げる。

 

「2度確認しました。探知して居ません。直上にいきなり現れました」

 

「………市内のレーダーは?」

 

ウチ(要塞設備)のにも、郊外の国連軍のにも映って居ません!」

 

「最悪ね」

 

 レーダーに反応が無いと言う事は、ミサイル兵器の類が使用不可能であると言う事だ。

 野砲(特科)部隊の155mm榴弾砲などは使用可能だが、此方もレーダー誘導弾頭弾が使えない。

 そうなれば面制圧射撃として行わねばならなくなり、使徒の周囲の被害が手荒いモノとなる。

 なってしまうのだ。

 厄介な相手、と言えた。

 

 少しだけ考えて、葛城ミサトは命令を発する。

 

「命令! 市内の避難誘導は地下壕(シェルター)では無く、市外区域への移動に変更。地下ルートの使用許可を作戦局局長代行権限で出します」

 

 正体不明を通り越している、この第12番目の使徒と思しき相手だ。

 どこまでの攻撃能力を持つのか不明である以上、過去最大規模と言う想定で動くと言うのが正しいと判断していた。

 市外区域であれば確実に安全と言い切れる訳では無いが、それでも今よりは確実に良いと言えるのだ。

 

「良いのですか?」

 

 最近は日本人(ネイティブ)並みの発音になった日本語で、小さく確認と言った風に訪ねて来る作戦局第1課課長代理(次席指揮官)のパウル・フォン・ギースラー。

 地下ルートはNERVの要塞部の物資輸送機能を流用する事になる為、非常事態以外での使用は禁止されているからだ。

 とは言え、別に眉を顰めると言う風ではない。

 パウル・フォン・ギースラーは護民は本懐であるとの確信を持った軍人上がり(ドイツ連邦軍出身)なのだ。

 その点に迷いはない。

 只、次席指揮官と言う職責上からの確認事項を疎かにしない(チュートン的な態度を示した)だけであった。

 

「構わないわ」

 

 パウル・フォン・ギースラーの気分が手に取る様に判るが故に、葛城ミサトは快活に笑う。

 笑って答える。

 

「NERVも非公開だけど公然組織になったんだもの。なら、市民サービスも大事よ」

 

 サービス! サービスゥ! などと陽気に言い放つ。

 正に豪胆な指揮官の姿であった。

 そこに深い満足を覚えたパウル・フォン・ギースラーは黙って頷くのであった。

 口元に笑みを刻みながら。

 

「碇司令への報告は?」

 

「残念ながら衛星を介した通信網は全て止まって居ます」

 

 青葉シゲルが答える。

 碇ゲンドウは第2回ドイツ支部仕置きで、NERVドイツ支部に出張中だったのだ。

 何とも間の悪い話であった。

 

「海底ケーブル網の再建を後回しにしているツケよね」

 

「通常なら通信衛星で十分でしたからね」

 

 嘆息する青葉シゲル。

 大災害(セカンドインパクト)によって、世界は寸断された。

 世界中を網羅していた海底通信ケーブル網も甚大な被害を受けていたのだ。

 この為、比較的復旧の容易な通信衛星によるネットワークが構築されていた。

 勿論、通信システムの多重化が軽視されていた訳では無い。

 災害対応力の向上を目的に海底ケーブル網の再構築にも予算は投じられてはいた。

 だが大災害(セカンドインパクト)に絡む戦災もあってケーブル敷設船の数が激減してしまっている為、一朝一夕には復旧させきれないと言うのが実状であった。

 

「良いわ。冬月副司令は居たわよね?」

 

「はい。現在、折衝中であった第3新東京市市庁舎から戻られる途中です」

 

「ホントに使徒って空気を読まないわね」

 

 女にモテないワ、そんな冗談(ジョーク)を口にしながら葛城ミサトは命令を出す。

 別に何でも無いのだと言わんばかりの態度だ。

 その背に、その言葉に、部下たちが注視しているのを意識した態度であった。

 

「なら、コッチの人間だけで何とかしましょう。上手くやって特別賞与(ボーナス)査定のアップを狙うわよ!」

 

 

 

 エヴァンゲリオン4機と国連軍第3特命任務部隊(FEA.TF-03)の戦闘配置が終わり、市民の避難が完了する迄に要した時間は約1時間であった。

 その間、第12の使徒と思しき目標は黙って第3新東京市上空に漂っているだけであった。

 

『何がしたいのかしらね、アレって』

 

 アスカが呆れた様に言う。

 使徒は本能でAdamを求めているという。

 だからこそNERV本部地下の最深部、Adamが封印されているセントラルドグマを狙っているのだとアスカは聞いていた。

 にも拘らず、この第12番目の使徒らしきモノは動く気配を見せていないのだ。

 訝しがるのも当然であった。

 

『使徒で無い可能性もあるわ』

 

『あんなフザケた物体で、そんな可能性、あると思う?』

 

『………無いと思う』

 

『でしょ』

 

 最近の綾波レイはアスカと良く会話をする様になった。

 そんな事を思いながら、シンジは静かに呼吸していた。

 己の調子(コンディション)を整える(チャド―)めいた呼吸だ。

 L.C.Lの中で行うソレは座禅を組んだ時とは違う感じであった。

 だが、それでも意識して息をすると言う事はシンジの気持ちを落ち着かせていた。

 ゆっくりと行う深呼吸。

 薄く開かれた目が、ふと、鈴原トウジを捉えた。

 

 緊張しているのだろう。

 顔をこわばらせ、浅い呼吸を繰り返している。

 初陣なのだ。

 当然の事と思えた。

 

だいじょいな(大丈夫)?」

 

『お、おぅ、大丈夫やで』

 

 只、怯えてはいないのだ。

 初陣でソレならば合格点では無いかとシンジは思っていた。

 

『ナァ、センセが初めて乗った時って、緊張はしなかたんか?』

 

緊張な(緊張って言われても)緊張ちな(どうだろう)

 

 初めてエヴァンゲリオンに乗った時を思い出すシンジ。

 黒い、人型めいた使徒。

 第3使徒。

 だが、正直な話として緊張したと言う思いではない。

 

判らん(覚えてないかな)そん前にはらがきっせてたでよ(その前に、腹が立つ事があったから)

 

 シンジは、エヴァンゲリオンに乗って使徒とやらと戦って片付けて、碇ゲンドウを殴ると言う事しか考えていなかったのだ。

 そうだ。

 シンジにとってエヴァンゲリオンに乗るのも使徒と戦うのも()()でしか無かった。

 父親だからと言って偉そうな態度で言ってくる、不快な奴(おなごんけっされ)

 何年も音信不通になる様な完全な没交渉(ディスコミュニケーション)だったのに、必要だから呼んで使うとする様な阿呆(くされびんた)

 

『センセ、センセ?』

 

 使徒もエヴァンゲリオンもどうでも良かった。

 それよりもシンジは、もしかして自分はもう少しばかり碇ゲンドウを殴っても良いのではないかと今更ながらに思い始めていた。

 それ位、思い出しただけで腹が立つのだ。

 ギュッと両手に力が入った。

 

『シンジ、シンジさーん??』

 

良かが(我慢するけどね)

 

 かつて冬月コウゾウに諭されたのだ。

 言葉を連ねる事も無く、感情だけで安易に暴力を振るうのは非文明人(子ども)のする事である、と。

 そしてソレは、君を育て上げた鹿児島の父母の顔に泥を塗る事になるのだ、とも。

 シンジは冬月コウゾウに一定の敬意を払っていた。

 何故なら、そう諭した最後に、シンジが訓練でエヴァンゲリオン初号機に乗ったから碇ゲンドウを殴ろうかと言った事は冗談であると判っているが、と茶目っ気を出して笑いながら付け加えたからである。

 只、冗談であっても周りが驚くから考えて欲しい。

 緑茶に合う羊羹を差し出しながら、そうも言っていた。

 

 実に、人の気持ちを操るのが上手いものだとシンジも感心した程であった。

 大の大人(老境に達した先達)にそこまで言われては、下手な冗談(サツマンジョーク)は口にするまいと堅く心に決めたのだった。

 

『バカシンジ!!』

 

「何、アスカ?」

 

 アスカに名を呼ばれ、意識を今に合わせて見れば、何故かアスカは自慢げに(ドヤァ顔)している。

 意味が解らない。

 と、周りを見れば、先ほどまで会話していた鈴原トウジも綾波レイもあきれ顔をしている。

 

『戦闘配置よ。ミサトから後10分程度で避難誘導が終わるって』

 

「了解」

 

 

 

『センセは嫁はんの声は良く聞くんやな』

 

『そうなの』

 

『苦労しとるんやろ、アヤナミも?』

 

『そうでもないわ。面白いもの』

 

『神経が太いな!』

 

『そう? 判らないわ』

 

 思わぬ綾波レイとの長い会話(コミュニケーション)に、こういう性格だったのかと新鮮な驚きを覚えた鈴原トウジ。

 否、違うと否定する。

 そもそも、性格が判る程には学校では話した事が無かったのだと思ったのだ。

 そして馬鹿な話が、緊張を緩和させる効果もあったと思ったのだ。

 少なくとも体の強張りは抜けていた。

 

『おおきにな』

 

『なら良かった』

 

『ワシも頑張るで!!』

 

 両の頬っぺたを叩いて、鈴原トウジは気合を入れるのであった。

 

 

 

 4機のエヴァンゲリオンの戦闘配置。

 前衛の第1小隊。

 支援の第2小隊。

 エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機はビルに紛れる様に前進し、両機ともに第12番目の使徒と思しき目標まで約200mまで接近に成功していた。

 第12番目の使徒と思しき目標に動きは無い。

 対して第2小隊は分散配置となっていた。

 エヴァンゲリオン4号機は広い射界を得る為に高い場所、定位置となりつつある早雲山の射撃ポイントに支援機(ジェットアローン)と共に上っていた。

 そしてエヴァンゲリオン3号機。

 第3新東京市と早雲山との間にある市外区に配置されていた。

 コレは早雲山の射撃ポイントが狭いと言うのが理由が1つであった。

 だがそれ以上に、早雲山の射撃ポイントで使用する長射程射撃武器を使わせるには、まだ鈴原トウジとエヴァンゲリオン3号機の組み合わせに信用が足りないと言う部分があった。

 EW-23(パレットキャノン)にせよEW-24(N²ロケット砲)にせよ、下手な所に当ててしまえば着弾場所が悲惨な事になる大威力兵器なのだ。

 葛城ミサトと作戦局が慎重になるのも当然であった。 

 故の、早雲山の射撃ポイントと平野部との分散配置だ。

 とは言え、平野部だから棒立ちになっていると言う訳では無い。 

 遮蔽物と電源ユニット(バッテリー)を兼ねた配置盾を設置展開させ、その陰でEW-22C(長砲身化パレットガン)を構えているのだ。

 第5使徒並みの大威力射撃(荷電粒子砲)や55口径の560mm陽電子衝撃砲たるEW-25(ポジトロンキャノン)には耐えられないが、それ以外には十分な防護力の発揮が期待出来ていた。

 尚、EW-22がB型(バレット付き)D型(強化型)でない理由は、操作の簡単さが選ばれての事であった。

 B型(バレット付き)は格闘戦能力が無ければ無意味(デッドウエイト)であり、D型(強化型)は高威力化の対価として繊細な操作が要求されるのだ。

 初心者には単純明快である事が大事なのだ。

 尚、無印のEW-22(パレットガン)があれば良かったのであるが、此方は全てB型(バレット付き)に改修されていたのだ。

 結果、C型(長砲身型)しか無かった。

 

『エバー各機へ通達』

 

 葛城ミサトが声を上げる。

 戦闘を始めるのだ。

 L.C.Lに浸かっているにも関わらず、のどの渇きめいたモノを覚えた鈴原トウジは生唾を飲み込む仕草をした。

 実戦なのだ。

 緊張するのも当然であった。

 と、唐突に鈴原トウジの名前が呼ばれた。

 

『鈴原トウジ君』

 

「はい!」

 

『そんなに緊張しなくても良いわ。初手を貴方に任せます』

 

「わ、ワイにですか!?」

 

『そうよ。今回は国連軍部隊からの支援はチョッち難しいけど、その分、複雑に考える事は無いから安心して。それに他の3人から十分に支援してもらえるわ。だから安心して、ドーンとやっちゃって頂戴』

 

『失敗しても大丈夫』

 

 綾波レイが言う。

 安心させるように続ける。

 

『そこからなら外れても山に当たるだけ。問題は無いわ』

 

『使徒が何かしても、アタシとシンジで何とかするわ』

 

 自信と自負に溢れた顔で断言するアスカ。

 シンジは黙って頷いていた。

 

 ここでやらねば男がすたる。

 そう理解した鈴原トウジは、判りましたと、任せてくださいと言うのであった。

 

 

 遮蔽物から身を乗り出して、EW-22C(長砲身化パレットガン)を構えたエヴァンゲリオン3号機。

 レーダーによる照準は出来ないが、銃身下部に設置されたレーザーポインター(レーザー照準器)が代わりとなっていた。

 確実に当てられる形となっている。

 後は引き金を引くだけであった。

 

『エバー各機、及び国連軍部隊準備良し。良いわね、トウジ君』

 

「何時でも大丈夫でっせ」

 

『初陣と祝勝会で美味しいモノを食べましょう。では、戦闘始めっ!!』

 

 

 

 葛城ミサトの号令に合わせ、射撃を開始した鈴原トウジ。

 だが、着弾する事は無かった。

 

「目標、A.Tフィールドを展開! パターン検出(BloodType-BLUE)!! 使徒です」

 

 青葉シゲルが声を張り上げた。

 その声に被せる様に、葛城ミサトが気合の入った声を上げる。

 

「構うな! 戦闘続行、使徒の撃破確認まで総員は集中力を切らすな!!」

 

 第12番目の使徒では無いかと思われていた相手が第12使徒であると確定しただけ。

 それだけの事だと葛城ミサトは切って捨てた。

 それよりも大人(第1発令所)の気持ちが慌てていては、前線の子ども達が慌てる(不安がる)だろう。

 だからこそ、葛城ミサトはブレない。

 只、使徒となった相手を睨むのだ。

 

吶喊すっ!(突撃します)

 

『キメるわよ!』

 

 その睨む画面の向こう側でエヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機が遮蔽物を出て飛び上がる。

 幾多もの使徒を葬ってきた、2機による近接攻撃だ。

 誰もが決着が付いたと思った。

 だが残念、そうは成らなかった。

 使徒とは人知を越えた存在なのだ。

 相次ぐ戦勝の結果、誰もがその事を忘れていた。

 

 葛城ミサト、NERVの誰もの思いを無視する様に自由に動き出す。

 

「使徒反応、消失!? いえ、違います、エヴァンゲリオン3号機の下に!!」

 

 瞬間移動めいて、第3新東京市中心部付近に居た第12使徒が市外のエヴァンゲリオン3号機の真上へと現れたのだ。

 

「トウジ君、退きなさい。武器を捨てても良いわ! レイ、射撃支援実施!!」

 

『了解』

 

 発砲するエヴァンゲリオン4号機。

 逃げ出すエヴァンゲリオン3号機。

 だが状況は好転しない。

 

「使徒本体に命中、命中しているのか!?」

 

 日向マコトの悲鳴めいた報告。

 A.Tフィールドなど無かったかのように、空中に浮かぶ第12使徒にエヴァンゲリオン4号機が放ったEW-23(パレットキャノン)が当たる。

 当たるがダメージを受けた気配がない。

 貫通すらせず、微動だにしない。

 それよりも問題は、第12使徒がエヴァンゲリオン3号機の真下に黒い影を広げた事だ。

 逃げるエヴァンゲリオン3号機を追って移動してくる。

 それは影では無い。

 沼めいたナニカであった。

 如何なる手段によってか、地面より下(グランドライン・マイナス)へとあらゆるモノを飲み込んでいくのだ。

 

『な、なんじゃこりゃ!?』

 

 鈴原トウジが悲鳴を上げた。

 走って逃げる、その足を取られたエヴァンゲリオン3号機は、慣性のままに盛大にすっ転んだ。

 そこにさらに広がる影。

 エヴァンゲリオン3号機を飲み込もうとする使徒の影。

 

「なっ!?」

 

 今までの使徒とは全く異なる動き、攻撃を見せる第12使徒に、葛城ミサトの判断も追い付かない。

 正に絶句だった。

 エヴァンゲリオン3号機を捨てて鈴原トウジに脱出を命じたいが、仰向けになっている為、操縦槽(エントリープラグ)の射出は無理、無意味であった。

 又、国連軍部隊に支援を要求しても、第12使徒の真下にエヴァンゲリオン3号機が居るのだ。

 攻撃に巻き込まれかねなかった。

 

 両腕の拳を握りしめ、打開策を必死に考える葛城ミサト。

 だが、考えるよりも先に動く(チェストする)人間が居た。

 シンジだ。

 エヴァンゲリオン3号機と共に沼めいた陰に沈み込みつつあるビルなどを足場に突き進む(八艘飛びを見せる)エヴァンゲリオン初号機。

 否、シンジだけではない。

 アスカのエヴァンゲリオン弐号機も少しばかり後方で追随している。

 子ども達(チルドレン)は、只、奔る。

 

 2機の位置が前後しているのは、初動の差では無かった。

 シンジとアスカの意思疎通(阿吽の呼吸)の結果だった。

 

トウジサァ(トウジ)腕をあげやい(腕を上げて)!!』

 

『シンジか! おっ、おうさ!?』

 

 ソレが成功したのは、鈴原トウジがシンジに全幅の信頼を置いていたからであった。

 アスカの言葉を信じた結果でもあった。

 ヘマをしてもなんとかすると言った事を、幼子の様に信じ、受け入れていたのだ。

 だから成功した。

 

歯ァくいしばいやい(歯を食いしばってて)!!』

 

 素晴らしい加速で、空を飛ぶように走ったエヴァンゲリオン初号機は、沈みつつあるエヴァンゲリオン3号機の腕を掴んでビルの屋上に着地。

 寸毫の時間すら掛けず、その勢いのままに回転し、エヴァンゲリオン3号機をぶん投げる。

 投げた先はアスカ(エヴァンゲリオン弐号機)だ。

 

 拾うシンジ。

 回収するアスカ。

 見事な役割分担であった。

 その奇術めいた動きに、第1発令所の誰もが驚嘆の声を上げた。

 流石はシンジ(エースオブエース)

 流石はシンジとアスカ(ツートップ)

 

 だが、驚嘆と称賛の声は悲鳴に代わる。

 何故ならば、自らも脱出しようとしたエヴァンゲリオン初号機が闇に捉まったからである。

 闇から湧き上がった触手めいた、鞭めいたモノがエヴァンゲリオン初号機にまとわりついたのだ。

 

『っ!』

 

 四肢を、胴体を包んでいく闇。

 ゆっくりと闇がエヴァンゲリオン初号機を喰らおうとしていた。

 

「パイロット保護を最優先、エントリープラグ射出! 急いで!!」

 

「駄目です! 緊急システム、起動しません!?」

 

 見れば判る話だった。

 闇より生まれた触手めいたナニカは、既にエヴァンゲリオン初号機の首の所にまで及んでいるのだ。

 出来る筈が無かった。

 

『シンジ!!』

 

 アスカが悲鳴を上げた。

 自分の痛み程度では声を上げないアスカが、悲鳴めいた声色でシンジの名を呼ぶ。

 

 

 

 混乱、恐怖、混迷。

 通信機越しにも判るソレらの中にあってシンジは落ち着いていた。

 冷静に脱出しようと試みるが、闇はエヴァンゲリオン初号機の力を吸うかの如くあり、どうにもならない。

 緊急脱出システム(エントリープラグの緊急射出)も、作動出来ない(シーケンスエラー)と表示されている。

 紛う事無き非常事態。

 だからこそ、シンジは深呼吸を一つした。

 散々に使徒を屠ってきたのだ。

 それが自分に返ってきただけだと受け入れていた。

 だから受け入れる。

 

「アスカ」

 

 相棒の名を呼ぶ。

 

『何よシンジ! 待ってなさい。今ソッチに向かってるから。何とかそれまで耐えなさい!!』

 

 だが間に合う事は無い。

 もうエヴァンゲリオン初号機の機体は肩まで闇に飲み込まれているのだから。

 手も足も出ない。

 どれ程にエヴァンゲリオン弐号機が疾駆しても間に合わない。

 そういう状態であった。

 だからシンジは笑った。

 笑って感謝の言葉を紡いだ。

 

「ありがとう」

 

『Narr! Testamentみたいな事を言うなっ!!』

 

「ごめん。後は任せ___ 」

 

 

 

 

 

 その日のNERV本部の記録には、エヴァンゲリオン初号機の行方不明と碇シンジの生死及び所在確認(MIA)が記録される事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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