サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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10-Epilogue

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 NERV本部地下にある大規模複合病院、その適格者(チルドレン)用の特別室。

 もはや見慣れた、と言って良い柔らかな色合いの壁紙を見ながら碇シンジはだらしなくソファに背中を預けていた。

 ラフな院内服である事も併せて、実にだらけていると言えるだろう。

 

「……」

 

 呆っとした塩梅で、TVを見ている。

 入院している理由は、別段にケガをしていたからでは無い。

 検査入院である。

 長時間にわたるエヴァンゲリオンへの搭乗、そして第12使徒に囚われていたのだ。

 どんな影響があるか判らない為、それはもう身体的なモノから精神的なモノまでありとあらゆる検査のフルコースであった。

 故に、シンジの顔には疲労の色が濃ゆい。

 訓練や鍛錬でねを上げた事の無いシンジであったが、病院の検査と言うモノは別格であった。

 と言うか、長時間にわたる排泄ユニットの使用の影響なども調査されたりもしたのだ。

 男の子の大事な所を医師と看護士の前で開陳するとか、実に盛大な精神的負荷(ストレス)が掛かると言うものであった。

 如何な性的な目覚めの遅いシンジとは言え、やはり思春期(ナイーブ)なのだから。

 

 汚れたとか、汚されたとか、そんな愚にも付かない言葉(フレーズ)を弄びながらTVを見ているシンジ。

 見ていると言うよりも、流している感じだ。

 目は映像を追ってないし、耳も音を拾ってはいない。

 暇なのだ、正直な話として。

 検査は一通り終わっており、その結果待ちと言う状況であり、シンジとしては家に帰らせて欲しいと言うのが本音であったが、検査結果次第では色々と治療や追加の精密検査などが発生する可能性がある為、残念ながらもソレは許されていなかった。

 シンジのリクエストで自転車とクラシック音楽の雑誌が病室に届けられていたのだが、残念ながらも全てシンジの既読号であった為、暇つぶしにもならなかった。

 

 と、いつの間にかTVには白と黒のマーブル模様の球体が映し出されていた。

 第12使徒だ。

 TVによる最新の使徒戦の特集であった。

 シンジの顔が、何とも評しがたい微妙な形に歪む。

 

『………これが今回出現した、人類の敵なんですね』

 

『ええ。恐るべき能力を………』

 

『面白い色をしていますね~』

 

『何か意味が………』

 

 番組登場者たちが意味ありげな顔をしながら、或いは能天気に言葉を口にしていた。

 使徒の襲来とNERV ―― エヴァンゲリオンの戦いが公開されて以降、こうやってTVも使徒との闘いを放送する様になっていたのだ。

 提供される映像は、殆どがNERVが撮影した(検閲済みの)モノであったが、マスコミやTV関係者は気にする事も無く垂れ流していた。

 事実か否かの検証と言う事など欠片もなされていなかった。

 マスコミやTVの関係者にとっては、視聴者の関心さえひければ良いのだから、気にする筈も無いと言った所だった。

 

 とは言えシンジにとって、そういう事はどうでも良かった。

 心底からどうでも良かった。

 問題は、エヴァンゲリオンが表示される際に必ず付いてくる()()であった。

 

『今回は赤いエヴァンゲリオンが活躍した訳ですね?』

 

『ええ。詳細はNERVの発表が無いので不明ですが、特殊攻撃によって第12使徒を撃退したもようです』

 

『凄いですね、このエヴァンゲリオン02、そしてレッド・ツー(惣流アスカ・ラングレー)さんって』

 

 あの()()()()()での、キメた化粧と格好のアスカがTV画面に映っている。

 口元によそ行きの(特大の猫を被った)笑いを張り付けている姿が。

 

『凄い美少女ですものね』

 

『ファンが多いって言われてます。NERVの方でもファンレターが多くて大変だそうですから』

 

『凄いですねー 後は、バイザーを外した素顔も見て見たいのですが』

 

『いや、そこは子どもの人権もありますからね』

 

『とは言え視聴者としては見たいでしょうから………』

 

『え、もしかして、極秘映像!?』

 

『流石にNERVの方も見せてはくれませんので、ではなくて、番組で独自にレッド・ツーさんのお顔をCGで再現してみました』

 

 白人系(コーカソイド)なイメージが強い美少女が表示される。

 下に想像図(イメージです)の文字が添付されている。

 当然ながらもアスカとは全く似ていない感じに仕上がっている。

 吊り目になっているし、全体的に線が細くて鍛えられた感じが出ていない。

 磨き上げられたアスカの魅力が欠片も出ていない。

 何より、とシンジは思う。

 そんな映画などで登場する美少女的に作られていても、尚、アスカ本人の方が可愛いと思っていた。

 見慣れても、慣れる事の無い美少女だと思っていた。

 とは言え、当然ながらもそんなシンジの雑感など気にする事もなくTVは賑やかに進行していく。

 

『何か強い感じですね』

 

『お幾つ何でしょうか』

 

『いやいや、14歳だってアナウンス(紹介)があったじゃないですか』

 

『あはははっ』

 

 アスカの事は良い。

 問題となるのは別の事だ。

 

『そして今回救助されたのはエヴァンゲリオン01、そしてパープル・ワン(碇シンジ)です』

 

 ()()である。

 エヴァンゲリオン弐号機に抱っこされたエヴァンゲリオン初号機と言う絵も恥ずかしいが、何よりも併せて画面に出る、仮装した自分の画像(パープル・ワン)が本当に居たたまれないのだ。

 

『アジア系、なんですよね、この男の子って』

 

『口元は引きしまってますけど、彫りが深くは見えませんから、日本人の可能性だってあります』

 

『それは嬉しいですね!』

 

 最早、言葉に出来ない表情(アルカイックスマイル)でTV画面を見ているシンジ。

 そこまで嫌ならばチャンネル(番組)を変えれば良いのだが、変えれない理由があった。

 具体的にはソファに座るシンジの太ももの上だ。

 アスカだ。

 シンジと同じく薄手の院内服を着こんでいる。

 それだけではない。

 シンジの二の足を独占(に膝枕を強要)し、ポテトチップスを齧りながらTVのリモコンを抱えて(支配して)いる。

 正に暴君の貫禄(カカァ天下の態)であった。

 

『さて、ここでこのパープル・ワンも素顔の想像図です』

 

 厳つめと言うか、キツい顔立ちになっている辺り似ても似つかぬと言う塩梅であったが、何処かしら男子アイドルめいた想像図になっている。

 女性の出演者が公開された途端に黄色い悲鳴をあげる。

 勘弁してくれ、そうとしか言いようがない。

 心底からの溜息が出る。

 

「凄いわね。このシンジ、ケッサクじゃない」

 

「笑えないよ。ねぇアスカ、そろそろチャンネルを変えない?」

 

「ハッ!」

 

 シンジの太ももから頭を微動させる事無く、器用にアスカは鼻で笑う。

 と言うか、シンジからは見えないが、その表情は心底から邪悪な笑いを浮かべていた。

 

「エースなのに使徒に捕まったのは誰?」

 

「……僕」

 

「そんな可哀そうなエース、格好良いシンジ様を助けてあげた美少女は誰?」

 

「…………アスカ」

 

「宜しい。では、この番組を見続けるわよ♪」

 

「………………アッハイ」

 

 枕であるシンジに拒否権など無かった。

 この特別室にアスカが居る理由は、アスカも又、検査入院を受けているからであった。

 シンジを救う為、エヴァンゲリオン弐号機の過負荷運転(オーバードライブ)を敢行し、圧倒的な出力を背景に強烈なA.Tフィールドを展開したのだ。

 その負荷(フィードバック)の有無を調べる為、と言う事だ。

 要するには、シンジが原因だったのだ。

 故にアスカは、一通りの検査が終了した後、自分にはシンジで遊ぶ(甘える)権利があると主張し、シンジに枕への転職を強要したのだった。

 

 生還して早々。

 エヴァンゲリオン初号機を降りた際に、心底から心配していたのだと涙目のアスカに詰られ、怒られ、生きているのを確認する様にハグされたシンジに、拒否できる余地など無かった。

 とは言え、だ。

 この自分と似て非なる自分(パープル・ワン)を見ねばならぬ程に、何か悪い事をしただろうかとシンジは内心で溜息をつくのであった。

 無論、リアルに溜息は漏らさない。

 そんな事をすればアスカに、更にイジられる(遊ばれる)のだ。

 故にシンジは、禅の修行めいた気分でTVを見るのであった。

 

 尚、シンジが自分の心から排除(シャットアウト)している情報には、太ももの上のアスカの柔らかさや、匂いもあった。

 性への目覚めが遅めなシンジですら、煩悩めいたものを感じる様なアスカの破壊力であった。

 だが、鋼の自制心でシンジは耐える。

 自分は変態ではない。

 信頼に応えぬのは薩摩男子(よかにせ)では無い。

 そう、念仏の様に内心で唱えながら。

 

 

 

 自制心の限界チャレンジを強いられているシンジ。

 その限界を壊してやろうとしているアスカ。

 その見えない攻防戦を終わらせる救いの主(調停者)がやってきた。

 鈴原トウジだ。

 

「センセ、元気か?」

 

 手にはビニール袋を提げている。

 ビニール袋からは、脂めいた美味しそうな匂いが漂っている。

 お見舞い(さしいれ)品だ。

 成長期男子の親友、肉類(ホットスナック)にポテトチップスの様な菓子類。

 甘味も含まれている。

 

おお(うん)元気じゃっど(大丈夫だよ)

 

「ちっ」

 

 救世者来たれり、そんな顔をするシンジ。

 舌打ちしながら体を起こすアスカ。

 正に対照的な表情の2人を笑って見ながら、鈴原トウジは2人が居るソファに用意されているテーブルにビニール袋を置くのだった。

 

 鈴原トウジの格好は、白いシャツと黒いスラックス。

 普通の学生服姿であった。

 中学生としては普通であるが、事、鈴原トウジの格好としては珍しいと言えるだろう。

 これはNERVに於いて学生服が準制服として扱われていると言うのが大きかった。

 鈴原トウジがNERVに入った際、説明されたのだ。

 (国連/国外)から(お偉いさん)が視察に来る事も今後は考えられるので、流石にラフな格好(トレーニングウエア姿)で歩き回るのは勘弁してくれ、と。

 バンカラ(権威への非服従趣味)な鈴原トウジであるが、NERVが無責任に自由に子どもで居られるではなく責任を背負う大人の組織であると言う事を判らぬ程に幼稚では無かった。

 故に、場相応の格好をしているのだった。

 

そっちはどげんやったとな(トウジの方はどうだったの)?」

 

「ワイか? ワイの検査はチャッチャっと終わったで。センセという先例があったんで、割と見る所が少なくて済んだそうや」

 

そぃは羨ましか(それは羨ましいよ)

 

 心底ウンザリと言う声を漏らすシンジ。

 鈴原トウジもアスカも笑っていた。

 

 

「ん、判ってるじゃん」

 

 鈴原トウジのお土産を漁っていたアスカは、自分の好みに近いアイスクリームを発見し、早速とばかりに封を開けるのであった。

 

「ホンマ、ジブンは自由な奴っちゃナァ」

 

「あん?」

 

 棒状の、チョコミント味のアイスクリームに齧りつきながらアスカは、不当とも不正解とも言える自分への評価を口にした鈴原トウジを睨んだ。

 本来は柔らかな印象も与える事の多いたれ目なアスカであったが、睨む時 ―― 目を細めた迫力は中々以上と言えた。

 少なくとも鈴原トウジに剣呑極まりない印象を与える程度には。

 

「コワイコワイ。コワイもんや」

 

 怯えた様な仕草で、でも笑いながら茶化す様に言う鈴原トウジ。

 その程度には反抗心は強いものを持っていた。

 

 

 しばしのやり取り(応酬)

 それは4人目の人間が来るまで続いた。

 綾波レイである。

 

「ただいま」

 

 此方は箱を持っている。

 紙の箱。

 ケーキだ。

 だがその前にアスカがツッコむ。

 

「ここはアンタの家かっつーの」

 

 鈴原トウジとの言葉の応酬の最中であった為、少しだけ荒っぽい言葉を発するアスカ。

 だが、その程度で傷つく程に綾波レイは弱くない。

 小首を傾げて、判らないと返していた。

 

「もしかして泊まる気?」

 

「駄目なの?」

 

「レイは、今日は検査項目も無かったでしょうが!」

 

「でもアスカは碇君と一緒に泊まる」

 

 のけ者は嫌と全身から訴える綾波レイ。

 その無垢な仕草にアスカもタジタジとなる。

 

 そんな女子2人の会話をよそに、シンジの傍に来る鈴原トウジ。

 小声で言う。

 

「センセ、すまんかった」

 

 謝罪。

 真顔だ。

 先の第12使徒戦で、シンジが囚われる羽目になった原因は自分にある。

 鈴原トウジと言う真っすぐな性格をした少年は、そう自分を責めて居たのだった。

 だが、シンジはそれを受け入れつつも、笑って答える。

 気にする必要はない、と。

 

そいが二才頭っちよ(僕はトウジの先輩だからね)

 

 新人の手本となるし、或いは守るのが務めだと笑うシンジ。

 そこに気負った風なモノは一切ない。

 

そいに(それに)あいは予想できんがよ(あの第12使徒は凄かったからね)

 

「………そやな。なら、次は気を付ける」

 

じゃっど(そうだね)そいが一番じゃっが(二度としないのが一番だよ)

 

「センセが辛いから、ノウ?」

 

 目配せでアスカを指す鈴原トウジ。

 誠にその通りだと、シンジは肩をすくめるのだった。

 

 

 

 

 

 その会議は最初から紛糾していた。

 無論、SEELEと碇ゲンドウによる第12使徒戦に於ける諸情報の共有会議である。

 

『エヴァンゲリオン弐号機の覚醒! これはSEELEのシナリオに於いて全く予定されていない事だ!! 碇君、この責任はどう取る積りかね!?』

 

『左様。しかも使徒がエヴァンゲリオン初号機を取り込もうとした。コレは使徒が人間にコンタクトを試みたとも言える』

 

『非常事態だ!!』

 

『想定外と言えよう』

 

 喧々諤々と、日頃の冷静さ(気取り)を忘れた様に怒鳴り声を張り上げるSEELEの人間。

 当然だろう。

 使徒による人間との接触はSEELEの指針の背景(基礎)となる裏死海文書にも記載されていない非常事態であるからだ。

 その上でエヴァンゲリオン弐号機の覚醒だ。

 SEELEの人類補完計画に於けるシナリオからの大幅な逸脱と言えるだろう。

 人類補完委員会及び国連安全保障理事会での質疑応答に疲弊していた、高齢のSEELEメンバーにとってある種の閥値超える出来事となったのだ。

 蜂の巣を突いた様な、大騒動めいた会議。

 

 だがその糾弾の中心に居る碇ゲンドウは口を開いて抗弁する事は無かった。

 凪いでいた。

 否、違う。

 どこか魂の抜けた様な顔で、呆然としていた。

 その事に気付いたSEELEの議長たるキール・ローレンツは手を挙げて、SEELEメンバーたちの口を閉ざさせた。

 静かになる、電子的議場(SEELEデジタルコンフィレンスホール)

 徐に、キール・ローレンツが口を開く。

 

『碇ゲンドウ』

 

「……はっ」

 

『君はエヴァンゲリオン弐号機の覚醒をどう見た』

 

 覚醒。

 その言葉を聞いた碇ゲンドウの瞳に力が戻った。

 再起動したとも言える。

 深呼吸し、それから口を開いた。

 

「アレは、弐号機の状態は覚醒の可能性は限りなく低いと言うのが技術局の見解です」

 

 電力の過供給によって行われた過負荷運転(オーバードライブ)

 その影響によってエヴァンゲリオン弐号機は常にない力を発揮した。

 A.Tフィールドが通常では無い水準で強化され、それをアスカが第12使徒へと叩きつけただけだと言う事だった。

 後方に発生した2つ4枚の羽めいたモノは、過剰なA.Tフィールドが後方に噴射(漏れ出た)したモノ。

 それが赤木リツコの見解であった。

 

 エヴァンゲリオン弐号機の稼働状況を示すレポートを見れば、エヴァンゲリオン弐号機の状況は電力供給系以外は通常通りの状況であると書かれていた。

 理屈ではあった。

 だが、それをSEELEが簡単に受け入れるかと言えば、そういう訳には行かなかった。

 

『その検証が行われたのはNERV本部。偽証で無い証拠があるのかね?』

 

 要するには、碇ゲンドウの信用と言う問題であった。

 SEELEから見て、自分の利益確保に躊躇ないのが碇ゲンドウであるのだ。

 今回の件を大事(もめ事)にしない為、情報工作を図ったのではと懸念するのも当然の話と言えた。

 身から出た錆、とも言える。

 

『大体、全力稼働が覚醒と同一では無いと言う証明があるのかね?』

 

『然り。未だエヴァンゲリオンの全てが解き明かされた訳では無いのだろう』

 

 正論であった。

 とは言え、碇ゲンドウにも反論する論拠(ネタ)はある。

 エヴァンゲリオンの覚醒で想定されているS²機関(スーパーソレイド・ジェネレーター)だ。

 使徒にあって、エヴァンゲリオンに無いモノ。

 そして今回、回収後に行われた徹底的な検査でエヴァンゲリオン弐号機にS²機関が形成された気配は無い事は判明しているのだ。

 

「お言葉ですが、弐号機にS²機関が生成されたと言う報告はありません。覚醒は為されていないと判断するべきかと」

 

『黙り給え!』

 

 激昂するSEELEのメンバー。

 ある意味で当然の反応であった。

 S²機関に関する調査を行ったのはNERV本部技術局だ。

 SEELEにとっては信用に値すると、即答できるものでは無かった。

 

『そもそも、技術局の赤木リツコ女史は君の情人だと言う。その報告書など信用できるものでは無い』

 

『左様』

 

 頑迷と言って良いSEELEメンバーの反応に、思わずため息を漏らす碇ゲンドウ。

 どうしろと言うのか。

 そういう気分であった。

 

 そこに議長であるキール・ローレンツが徐に口を挟む。

 

『碇』

 

「はっ」

 

『報告の信用、信憑性と言う意味では取り込まれた君の息子の件もある』

 

「……」

 

 エヴァンゲリオン弐号機にせよシンジにせよ、碇ゲンドウは一切の偽りなく報告していた。

 無力感からである。

 SEELEでは無く、自らの人類補完計画の為、エヴァンゲリオン初号機の覚醒を願って策謀したにも拘わらず、その狙いを外されてショックを受けたが為であった。

 しかも、事前の計画を逸脱したと現場指揮官たる葛城ミサトに懲罰人事(八つ当たり)をしようにも、出来なかった事も大きかった。

 第12使徒との戦いは、蓋を開ければ大きな被害も無いNERVの大勝利として終わったのだ。

 にも拘わらず、現場指揮官(作戦の全権責任者)を処罰しては、信賞必罰の原則(組織理論)に大きなケリを入れる事となるのだ。

 出来るものでは無かった。

 

 かくして、内心の怒りを面に出さぬ様にした結果、能面めいた無表情となった碇ゲンドウは、公衆面前で葛城ミサトを褒めるしか出来なかったのだ。

 事前に策定された作戦、その余地に機転を利かせ、より見事な(被害の少ない)勝利演出をしてみせた、と。

 そして、功績を評価して少佐と言う本来の階級はそのままに、中佐配置から大佐配置へと昇進させねばならなくなったのだ。

 又、アスカに対しては身を挺して味方を救ったと言う功績を評価し、勲功章(レジオン・オブ・メリット)を与える羽目になったのだ。

 碇ゲンドウにとって自分の邪魔をした相手を褒め、評価を与える羽目になったのだ。

 誠にもってやるせない話であった。

 

 その鬱屈を、夜に発散しようと情人たる赤木リツコを呼び出せば、良い笑顔で来たのは良いが、最後はソファで尻に敷かれ、搾り取られていたのだ。

 歳の差(性欲は若さでPower)と言えた。

 少しばかり気持ちは良かったが、支配欲の発散と言う意味では負け戦であった。

 兎も角。

 本当に、踏んだり蹴ったりであったと言うのが碇ゲンドウの本音であった。

 

『使徒は知恵を付けて来た。その一端がエヴァンゲリオン初号機を取り込もうとした原因の可能性がある。問題は決して小さくない。判るな、碇』

 

 矢張り女性は碇ユイ以外は駄目だ。

 そんな事を思いつつキール・ローレンツの言葉を聞き流す碇ゲンドウ。

 

「はっ」

 

『よってエヴァンゲリオン弐号機及び専属パイロットたる惣流アスカ・ラングレー。及びエヴァンゲリオン初号機専属パイロットの碇シンジをNERVドイツ支部に召還。此方の手でも徹底調査を行うものとする』

 

「はっ、はぁっ?」

 

 素っ頓狂な声を漏らす碇ゲンドウ。

 想定外の話になったのだ。

 驚きもすると言うものであった。

 

『これはSEELEによる決定である。碇、反論は許さぬぞ』

 

「………あっ、はっ。SEELEの思いのままに」

 

 

 

「面倒事になったな、碇」

 

 嘆息と言う言葉が似つかわしい音色で、言葉を発する冬月コウゾウ。

 碇ゲンドウもホトホトに困って ―― 居なかった。

 煤けた顔のままに、軽く返した。

 

「構わん。全ては葛城君に投げれば良かろう」

 

「本部の守りはどうする積りだ?」

 

「問題ない。イザとなれば第2小隊、レイと新人で時間を稼がせ、その間にシンジを高速機で呼び戻せば良い。それだけの事だ」

 

 碇ゲンドウの出張などでも多用されている単段式宇宙輸送機(SSTO)は、大気圏外を介して移動する事で従来の飛行機とは比べ物にならない速度を発揮出来た。

 飛行ルートなどの状況次第であるが、地球の裏側(ドイツ)から第3新東京市まで長くても数時間で到達する事が出来るのだ。

 第12使徒迄の、発見と交戦までの時間を考えれば、十分な余裕とも言えた。

 

「お前がそう言う腹積もりなら、俺は何も言わんよ」

 

「ああ。冬月、ま、何とかなるだろう。多分な」

 

「おい、碇!?」

 

 その、余りにも投げやりめいた(無気力で黄昏た気配漂う)碇ゲンドウの言葉に、流石の冬月コウゾウも慌てるのであった。

 

 

 

 

 

 




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デザイナーズノート#10(こぼれ話)

 何でこうなったんだろ? と思わないでも無い第10章完結です。
 着々と尻に敷かれているシンジ君。
 とは言え父親の方も赤木リツコ=サソに下克上喰らって、もはや逆転不能の状態に陥りつつありますので、ええ。
 実に似たモノ親子なのかもしれませぬ(お
 と言うか、本作で一番Happyな人生街道邁進して言うのは赤木リツコ=サソではないかと思いだした今日この頃。
 その代わり、ゲンドー君の煤けっぷりが酷いレベルに。
 どうなるんですかね、人類補完計画(他人事発言
 諦めたらそこで試合終了ですよ?(でももう諦めたら?(かなり善意発言

 尚、太鼓の音はBGMがZINVがブラックホールをコネコネするシーンがイメージに来たからこうなった件ェェェェェ
 所で、毎度毎度のネタ切れである
 次の話はどうしましょう?
 ええ。
 本当に。
 深刻な副題不足____
 尚、話のネタも在庫zeroです。
 どうしてくれようこん畜生!!!

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