サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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 第12使徒に捕食され接触する事となったエヴァンゲリオン初号機と、その適格者(チルドレン)である碇シンジ。

 使徒が人間に興味を持った可能性が警戒され、その査問が行われたが、その結果と言うべきモノは何とも脱力する(ゲンナリさせられる)代物となった。

 そもそも、警戒と同時に期待もあったのだ。

 使徒との対話があったのであれば、そこから使徒の精神構造(思考形態)その他を把握できるのではないかと、だ。

 シンジの言葉から使徒の状況を分析する為、心理学博士などもNERVドイツ支部に招聘していたのだ。

 その全ては無駄となったのだ。

 名前を聞いて答えない。

 質問にも答えない。

 だから殴った(肉体言語)

 

「碇シンジ。初号機の適格者、やはり碇ユイの息子であったと言う事か」

 

 嘆息するキール・ローレンツ。

 椅子に体重を預けたその姿は、一気に10歳は歳を加えたかの様に見えていた。

 

「ですな。口よりも手が早い時点で、碇ゲンドウとは違うと言えるでしょう」

 

 SEELEメンバーの1人が相槌を打った。

 狷介な性格で知られている碇ゲンドウであるが、物理的な意味で手を出す事は最後の最後まで温存する所があるのだ。

 だが碇ユイは違った。

 必要があれば躊躇なく、そして一切の容赦なく、無慈悲に振る舞っていたのだ。

 結婚したと聞いた時に情報源の正気を疑い、良妻になったとの評価に接すれば自らの耳が不調になったのかと思うような女傑。

 科学に魂を売ったと思われていた才媛。

 それが碇ユイであったのだ。

 

「………彼女がエヴァンゲリオンに消えたのは人類100年の損失であったのかもしれん」

 

 エヴァンゲリオンと言う存在の基礎概念を組み上げた碇ユイ。

 そしてもう1人の天才、同世代で同じ女性と言う事での対抗心と功名心 ―― 家庭的事情から成果を欲した惣流キョウコ・ラングレーがエヴァンゲリオンの実用化に執念を燃やし、発展させて居なければ、或いは第3使徒の襲来時にエヴァンゲリオンが完成していない可能性すらあったと言われている。

 碇ユイ。

 惣流キョウコ・ラングレー。

 NERVの記録に、金字で名を刻む程の才能の輝きを見せていた2人であった。

 

「人類補完計画が成った暁には、或いは碇ユイも惣流キョウコ・ラングレーと共に()()()()()やもしれませんな」

 

「左様。そうなれば人類革新の立役者として厚遇せねばなりますまい」

 

「全ては我ら(SEELE)が為。だが、その為には先ずは残る5つの使徒を打ち破らねばならぬ」

 

「アダムの子を根絶やしにしてこそ、我らの願いは果たされる」

 

「知恵と命、その融合による人類の革新。夕暮れの迫る我らエウロペアの復権。それが成った暁には人類は我ら先進化せし者(善き羊飼い)の手で1000年の繁栄の道を歩む事になるであろう」

 

 人類の夕暮れ。

 大きな言葉であるが、実際の人類の状況はそこまで悪くはない。

 少なくとも、地球を激変させた大災害(セカンドインパクト)での致命的状況からは復興しつつある。

 油断は大敵である。

 だが食料と物資、或いは農地や漁業の漁場を奪い合う様な戦乱は遠のき、秩序と繁栄を取り戻す目途が立とうとしているのだから。

 先進国は勿論、発展途上国でも出生率の低下が起きている事が問題視もされてはいるが、それは食料と医療の供給体制(システム)の崩壊が呼び込んだ事であり、一部の特殊な政治家や運動家が主張する、地球環境の激変に適応できない人類 ―― 奢れる人類に下された神罰などというものでは無かった。

 にも拘らずSEELEが高い危機意識を持つのは、その権力基盤である欧州が凋落しつつあると言う事であった。

 

 大災害(セカンドインパクト)による地軸の変化による気象の変動は、SEELEの寄生する欧州の(経済力)を大きく奪っていた。

 1999年以前であれば経済力のみならず外交資本をもって、アメリカや日本の様な欧州外の大国を相手にする事(グレート・ゲーム)が出来た。

 冷戦に敗れたソ連 ―― ロシアや東欧諸国を取り込む事で、アメリカ覇権体制(ファイブアイズ+日本)とそれ以外の第3世界と対峙する(バランスを取る)事が出来た。

 ()()()()()

 だが、今は違う。

 政治の中心と言える国連本部は日本に移って久しく、経済に至っては南米を筆頭とする第3世界の勃興が著しい。

 そして欧州には、それらに対抗する力は常に先細りしているのだ。

 それを示すのは人口統計であった。

 大学などの高等教育機関は健在であり、それなりに人気ではあったのだが、そうでない人々は欧州を離れつつあるのだ。

 欧州は移民の来る場所では無く、移民を出す側へとなっていた。

 それが意味する事は即ち、人的資源の将来的な払底である。

 将来的に欧州は世界の片田舎と言う扱いに成るだろう等と言う悲観的な未来予測(レポート)が有識者から出されている程であった。

 それが、老人たち(SEELE)の焦りに繋がったのだ。

 人は栄華を、繁栄を失う事を簡単に受け入れる事は出来ないのだから。

 

 人類補完計画。

 神への道。

 それは、或いはバベルの塔を建造するが如き、奢りの果ての行為とも言えた。

 

「まあ良い。残る使徒は5つ」

 

「使徒との共存は認められぬ」

 

「左様、使徒の殲滅こそ人類が階梯を登る鍵となる」

 

「………その意味では碇シンジ、その戦意はうってつけと言えるだろう」

 

 そもそも、使徒との戦いは絶滅の危機を孕んだ生存戦争である以上、和解を目的とした使徒との対話はあり得ないのだ。

 使徒が人と合一する事を選ぶなら兎も角として、地球と言う星で繁栄を可能とするのはAdamの子かLilithの子か、そのどちらかでしかないのだから。

 

「問題は1つ」

 

「儀式の贄、ガフの扉を開く鍵に成りえるかと言う事ですな」

 

 人類を進化させる為の人類補完計画。

 その鍵に求められるモノは絶望、そして希死念慮。

 今への否定であるのだから。

 

 重い沈黙が部屋を満たした。

 誰もが口を開けなかった。

 エヴァンゲリオン初号機の搭乗者となったが故に、儀式の中心に立つ事になったシンジ。

 だがSEELEの誰もが、今の様なシンジで儀式が行えるとは思えなかったのだ。

 

「……………まだ時間はある。諸君、良案を探すとしようではないか」

 

「異議なし」

 

 唱和する(問題の先送りを決める)声。

 仕方のない話であった。

 だが、SEELEの議長であるキール・ローレンツは、それだけでは駄目であろうと考え、思索し、彼個人にとっては良案を考え付くのだ。

 

「………碇ゲンドウに腹案を考える様に命令するとしよう」

 

 仕事は、下に振る事こそが上役の務めである。

 そんな事を考えながら。

 

 碇ゲンドウ。

 国連人類補完委員会直轄の特務機関NERVの総司令官。

 人類に於いて上位に入る地位を持った人間であったが、大きな目で見れば、所詮は中間管理職であった。

 尚、SEELEの決定を知った碇ゲンドウは、シンジへの怒りを込めて机を叩いたのだった。

 

 

 

 

 

「査問会ってどうだったの?」

 

「良く判んないよ。取り合えず普通、なのかな?」

 

 興味津々との態で尋ねたのは惣流アスカ・ラングレーであった。

 相手は勿論、シンジである。

 時は夕方。

 場所はNERVドイツ支部では無くランギー家の邸宅、その応接室(リビング)であった。

 赤々と薪が燃える暖炉の前に置かれたソファで、2人は夕食を前に寛いでいた。

 スラックスとシャツと言うシンジとパーカーとスカート姿と言うアスカ。

 共に、家と言う事でラフな格好になっていた。

 その手には、少しだけブランデーが注がれた珈琲カップがあり、暖炉と相まって体を温めてくれる効果を発揮していた。

 

「怒られたりしなかったの?」

 

「別にそういう感じじゃ無かったよ」

 

 葛城ミサトを筆頭に、大人組からは散々にお偉いさんからの査問だの何だのと言われていたのだ。

 にも拘わらず、別段に険しい雰囲気では無かったのだ。

 シンジが拍子抜けを感じるのもさもあり何と言う所であった。

 

「じゃ、終わったの?」

 

「判んない。まだ検査を続けるって言ってたから」

 

「誰が?」

 

「ほら、アスカが警戒(マーク)しなさいって言ってたドイツ支部の……ヨハンさんだっけか」

 

「ああ、ヨハン・エメリヒね。あの陰湿な奴」

 

「………ま、良い人には見えないよね」

 

 余り興味なさげに言うシンジ。

 実際問題、何かすれば実力行使で片を付ければ良い(サツマン・クォリティー)と思って居るのだから、ある意味で気楽なのも当然と言えた。

 自分の良心に従う人間(ニュートラルグッド)らしいとも評する事が出来るだろう。

 

「というかアレ、シンジは気づかなかっただろうけど少尉だからね。アンタの方が上よ」

 

 顎で使えば良いと笑うアスカ。

 とは言え、流石にそれは好みでは無いとばかりにシンジは肩をすくめて流していた。

 碇シンジと言う少年は敵味方の分類と敵に対する扱いは峻厳であるが、同時に、完全に敵でない相手であれば年齢相応の距離感を守るべきだと躾けられていたのだ。

 ある意味で当然と言えた。

 痩せても枯れても日本と言う先進国(法治国家)で生まれ育っているのだから。

 見ず知らず(NERV本部以外)の人間から、その戦いぶりと逸話(碇ゲンドウの顎割り)から狂戦士めいて見られる事の多いシンジであるが、その根は郷中教育(文武の躾)でもって上下関係の重視が叩き込まれているのだ。

 決して、社会や組織の秩序を無視する様な野蛮人ではないのだ。

 無論、()()()()()()()()()()()

 

 とは言えアスカには少しばかり歯がゆい所があった。

 だが同時に、ある種の安堵もあった。

 シンジが別に超人(万能の人)では無いと言う事が、である。

 それは、自分がシンジに対して優越している所があると言う事は、別の言い方をすればシンジとの補完関係の構築が図れると言う事なのだ。

 シンジをアスカは認めている。

 自分の唯一にしたいと言う欲求を最近は自覚していた。

 だか同時に、今までの生き方がアスカの心に染み付かせたモノ(気の強い態度)が、万が一にもシンジとの関係で劣位になる事を嫌がっていたのだ。

 対等な、今の相方(バディ)と言う関係性を失いたくなかったとも言えた。

 

 そんな気分が表に出たのか、アスカはにんまりと笑った。

 それは、肉食獣めいた笑みでもあった。

 

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「………お手柔らかに」

 

 シンジは両手を挙げる(降参する)様に肩をすくめた。

 何となく自分はアスカには勝てない(アスカに尻に敷かれている)気がしていた。

 だがそれが、シンジにとって不思議な事に嫌では無かったのだ。

 今までのシンジの周りには居なかったタイプの女の子であり、そして距離が近い女の子。

 この宝石めいた焔めいた輝きを持った赤毛の、ご近所さん、戦友、なによりも相方との会話は心地よいのだ。

 楽しいのだ。

 

「訓練って好きでしょ? ビシバシと行くわよ」

 

「ありがとう」

 

 そんな内心をシンジは素直に口にするのだった。

 衒いの無い笑顔と共に言われた言葉は、アスカを真っ赤にするのだった。

 その赤さは、直後に夕食の時間を教えに来たアスカの弟であるハーラルト・ランギーが、アスカの体調不良を疑う様なものであった。

 

Ist alles in Ordnung bei dir(だ、大丈夫なの)!?」

 

 まだ幼いと言って良いハーラルト・ランギーは、年の離れた、滅多に会えない姉であるアスカに抱き着いて、心配そうに声を上げた。

 そのマシュマロめいた頬っぺたに顔を寄せて、アスカは楽しそうに答えたのだった。

 

Kein Problem(問題ないわ)

 

 それは実に柔らかな笑顔であった。

 色恋沙汰にまだ目覚めていない(無自覚であった)シンジであっても見惚れる程の、実に愛らしい笑い顔であった。

 

 

 

 

 

 アスカがシンジと一緒にNERVドイツ支部に来た。

 その情報を鈴原トウジとのメールで知った相田ケンスケは、歓声を挙げていた。

 

「まじかよ!?」

 

 与えられた4人部屋の、軍隊めいた狭い自分の個人的空間(プライベートスペース)だ。

 即ちベッド上での事であった。

 下がっている室温に耐える様に、毛布に包まっている相田ケンスケは何度も何度も無骨な携帯電話に写されているメールを見ていた。

 

 相田ケンスケの居る一次選抜者の選抜訓練校はNERVドイツ支部から離れた場所、廃校となっていた学校施設をNERVで接収し、仮設で訓練校とした場所であった。

 世界を守るエヴァンゲリオンの適格者 ―― 第2次E計画向け適格者(セカンド・エヴァンゲリオン・チルドレン)を選び、或いは育てる場所として余りにも侘しい場所であった。

 カーテンの裾は綻び、ベットやロッカーも錆の目立った中古品揃いであり、とてもではないが優遇されているとは思えない待遇だ。

 食事も、日本(豊かな先進国)で育った相田ケンスケにとっては貧相極まりなく、量はあって(胃袋は満足して)舌は満足出来(味は大味極まり)ない言うのが現実であった。

 趣味であるカメラなどの持ち込みは勿論ながらご法度であり、そもそも、趣味をする時間があれば学ぶべきだ。

 そう言う雰囲気があった。

 実際、相田ケンスケの同部屋たる3人の候補生は、図書館に行っていた。

 

 それは、世界の守護者(エリート)と言う相田ケンスケの想像を打ち破る現実とも言えた。

 そんな予算の乏しい軍隊のソレめいた訓練の場。

 とは言え、それも仕方のない話であった。

 この1000名の選抜と訓練と言うものはNERV側にとっては突発的に発生した事態であるのだ。

 応急的な、仮設であるのは仕方のない話であった。

 とは言へ、華やかな舞台(アスカの居る場所への階段)との夢を見て来た相田ケンスケにとっては過酷な現実であった。

 だからこそ、小さく無骨なNERV支給の携帯電話が教えてくれた事は救い(蜘蛛の糸)めいたモノであった。

 何とかアスカとシンジに話をつけて、待遇を改善して貰おう。

 噂で聞く、上級選抜者向けの施設への移籍をして貰おう。

 そう考えたのだ。

 自分はNERV本部の英雄的指揮官、葛城ミサトの知己も得ている。

 何よりシンジとアスカの友人なのだ。

 それ位の配慮は貰っても悪くない。

 そんな、夢を見ていた。

 

「これは、これはチャンスだ!!」

 

 鼻息も荒く、メールの文面を読む相田ケンスケ。

 興奮していたが故に気付けなかった。

 一次選抜に受かった結果、自分の情報がそれなりの機密に指定されており、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 とは言え、学校との両立を図りながら行われている鈴原トウジの訓練と違い、志願者と言う事もあって連日連夜に及んで訓練を受けていたのだ。

 考えが回らぬのも当然とも言えた。

 

 と、部屋のスピーカーが音楽を奏でた。

 夕飯の時間を教えてくれていた。

 慌てて飛び起きる相田ケンスケ。

 靴を履いて、服装を整えて駆け出す。

 食事時間は短く、そして食堂と相田ケンスケの部屋はやや離れているのだ。

 走って行かねば喰える時間が無くなってしまう。

 食事も又、訓練と言わんばかりの状況だ。

 

 相田ケンスケの頭は今宵のメニューで一杯になっていた。

 ある意味で健全極まりない話であり、先ほどまでの事など抜け落ちていた。

 

「米喰いてぇ!!」

 

 腹の底からの感情を叫ぶ。

 正確に言えば米は食事のメニューに含まれる事はある。

 だが、日本からの選抜者は相田ケンスケを含めて3名しか居なかった為、ジャポニカ米が出る事は滅多ないのだ。

 日本人としては、実にストレスな話であった。

 そんな欲しいモノを叫ぶ姿は実に少年らしい姿であった。

 相田ケンスケは、自分が思うのと少しばかり違うし自覚も無いが、それでもミリタリー趣味者にとって夢めいた青春を謳歌していたのだった。

 

 

 

 

 

 




2022.11.16 文章修正

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