サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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 碇シンジと惣流アスカ・ラングレーのNERVドイツ支部への派遣。

 幸いな事に使徒が襲来する気配もない事もあって、期間は未定とした上で様々な作業(プログラム)が組まれる事となった。

 アスカとエヴァンゲリオン弐号機は言うまでも無いが、第12使徒と接触したシンジの心身の調査も、予定よりも厳重かつ慎重に行われる事となった。

 これは、エヴァンゲリオン初号機とシンジの高い同調(シンクロ)能力が興味深かったからであった。

 エヴァンゲリオン初号機の暴走めいた力を引き出すシンジ。

 その能力の一端でも調べる事が出来れば、第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンの制御システムに応用し、或いは第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)の選抜と訓練に使えるのではないかと言う話になっていたのだ。

 この点に関してNERV本部は、使徒への対応とエヴァンゲリオンの開発と強化が優先された為であると、技術部門の総責任者(技術開発局局長)である赤木リツコが公式に陳謝(アナウンス)していた。

 無論、その本音(正しい理由)は別である。

 シンジとエヴァンゲリオン初号機の関係の特殊性を表沙汰に出来ない為であったが。

 エヴァンゲリオン初号機だけではなく、エヴァンゲリオン弐号機も同じである。

 この2つのエヴァンゲリオンの特殊性は、当時の関係者には厳重な緘口令が敷かれており、新規に接する事が許されるのは特1級機密資格(GradeⅠ+ Access-Pass)保持者のみとされているのだ。

 尚、エヴァンゲリオン弐号機と惣流キョウコ・ラングレーの()()の際にNERVドイツ支部に居た人間もまだ残ってはいたが、その事件に関わるアレコレの陰惨さ等から誰もが口を閉ざしていた。

 それ故の、シンジの心身調査とも言えた。

 作業はNERVイギリス支部で行われる事となり、シンジはアスカと離れて単身でイギリスに渡るのだった。

 

 

 

 北大西洋海流のお陰で、ヨーロッパ亜大陸にあるNERVドイツ支部よりはまだ暖かいイギリス。

 とは言え常夏の日本に比べれば極地めいた寒さであり、イギリスの誇るテムズ川も多くの日々では凍り付いていた。

 心理テストの待機時間、手持ち無沙汰から温かい室内で珈琲を片手に外を眺めていたシンジは、誰に言う事も無く呟いた。

 

さみもんじゃ(本当に寒いや)

 

 NERVイギリス支部の窓から見える外は、寒々しいの一言であった。

 幾何学的に手入れされていた嘗ての姿が想像できる、だが新緑の色彩を失って久しい庭園が広がっている。

 第3新東京市は勿論、シンジの魂の故郷たる鹿児島でも見ない光景は寂寞たる感想をシンジに与える。

 だがシンジが何とは無く寒さ、否、寂しさを覚えるのは景色の問題では無かった。

 最近は自分の隣に居るのが当たり前になった赤い相方の不在だった。

 良く笑い、良く喋り、文句を言われ、文句を言い返す。

 出会ってまだ1年も経ていない、だが今は傍に居るのが当たり前となった存在。

 ドイツからイギリスに移動してまだ3日目であったが、今のシンジは何とも言い難い、心のどこかがぽっかりと欠けた様な気分を味わっていた。

 アスカ。

 

「惣流アスカ・ラングレー」

 

 背もたれに体重をかけ、天井を見上げながらポツリとその名を舌に載せるシンジ。

 そして考える。

 赤い女の子。

 同僚。

 隣人。

 戦友。

 自分とアスカの関係性を考え始めたシンジ。

 学校で、NERVで、そして使徒との戦いの時に、当たり前の様に隣にあってくれる存在。

 何時も居る。

 同居にも似た距離感で傍に居る。

 空気の様に、水の様に、そこに居て当たり前であったから気づかなかった。

 思索する必要も無かった、アスカとの関係。

 だが今は違う。

 だからこそ考えるのだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 架空の想定では無い。

 アスカとシンジの結びつきは、エヴァンゲリオンの操縦者と言う事だけだ。

 使徒を倒しきれば。

 もう、使徒が来ないとなれば結びつきは消える。

 そうなれば住む世界は判れる。

 天才と自称する通りの才女であり、正規の軍人であるアスカ。

 対して自分(シンジ)は、エヴァンゲリオンを動かせるからと呼ばれただけの臨時雇い(アルバイト)

 使徒が来なくなればお役御免になるだけのしがない、普通の人間でしかない。

 会う事は無いだろう。

 例えシンジが適格者(チルドレン)を除隊後にNERVへと志願したとしても、人並みでしかないので精々が一兵卒(三等兵)だろう。

 そんな下っ端(三等兵)から尉官(アスカの中尉)を見れば雲上人だと、ミリタリーに詳しい相田ケンスケが言っていたことをシンジは思い出す。

 そんな立場の差が出れば会う事は出来ないだろう。

 

「ふぅぅ………」

 

 深い深いため息をつくシンジ。

 何時か、忘れた頃にアスカから挨拶の手紙が来るかもしれない。

 結婚しました、と。

 そこまで想像した時、シンジの胃袋めいた部分にズンっとばかりに重いモノを感じた。

 相手は誰だろうか

 前は良く好きだと言っていた加持リョウジか。

 アスカが好きだと言った相田ケンスケだろうか。

 想像だ。

 妄想にもにた話だ。

 シンジとてその自覚はあった。

 だが、そうであると判っても、重さが和らぐ事は無かったが。

 

 自分はアスカをどう思って居るのか。

 アスカとどうなりたいのか。

 それは、木刀を振るって居れば満足していた薩摩兵児(よかにせ)が初めて向き合う事となった己の心であった。

 

 深く思索するシンジ。

 それは客が来るまで続くのだった。

 

「こんにちわ。碇シンジ」

 

 その相手はヨアヒム・ランギー。

 思索していた相手の、父親だった。

 流石のシンジも表情が止まった。

 だがその事を考慮する事も無く、ヨアヒム・ランギーは言葉を重ねる。

 

「悪いとは思う。だが、少し君と話したい」

 

 強い目力を見せるヨアヒム・ランギー。

 その姿はNERVドイツ支部の№3らしい力強さがあった。

 例えそれが、シンジと余人(アスカや妻)を交えず話す為に私情でNERVイギリス支部に出張してきたのだとしても、であった。

 

 

 

 

 

 第12使徒に関わる事後処理の1つとして行われているアスカとエヴァンゲリオン弐号機の徹底した調査はシンジのソレとは異なっていた。

 何故ならシンジの側の焦点がシンジと言う人間であるのに対し、アスカの場合はエヴァンゲリオン弐号機が焦点とされていたからである。

 エヴァンゲリオン弐号機は、()()()()()()()()であったからだ。

 この為、アスカの心身の調査も大事であったが、エヴァンゲリオン弐号機の状態を徹底調査する為に重整備 ―― 1万2千枚の特殊装甲を含めた第1次装甲の分離は勿論、構造体に絡む第2次装甲まで分解する大掛かりな整備が行われていた。

 尚、NERV本部(赤木リツコ)からは作業費用がNERVドイツ支部持ちと言う事で、これ幸いとばかりに消耗品の交換のみならず各機器の交換などまで要請されていた。

 電子装備や内臓兵器の一新のみならず、最新型であるエヴァンゲリオン4号機のデータを基にアスカの戦闘スタイルまで勘案した第1次装甲の形状変更まで含まれている。

 前腕部に近接戦闘用のハンドガードを追加し、更にはハードポイントの追加などなどである。

 骨格部までは触らないものの実に大規模な近代化改修であり、それは時間も掛かるというものであった。

 

 エヴァンゲリオン弐号機が生まれた建造ゲイジの中で、分解されていく赤い巨躯。

 それをアスカは手持ち無沙汰とばかりに見ていた。

 綺麗な眉が不機嫌を示す様に歪んでいる。

 

「………」

 

 既にアスカの心身のチェックは終わっていた。

 次はエヴァンゲリオン弐号機の徹底調査と確認を行い、1週間後に予定されている整備完了後に機体に搭乗とシンクロが予定されている。

 暇、と言えた。

 何も無ければシンジを誘ってドイツ観光(デートでも)と洒落込みたい所であったが、生憎とNERVドイツ支部は融通が効かない。

 手隙の正規適格者(チルドレン)が居るならば、やって欲しい仕事は山ほどあるとばかりにアスカに押し寄せたのだ。

 そもそもシンジはNERVイギリス支部に呼ばれている。

 (ランギー家)に帰っても会えないのだ。

 アスカが不機嫌な顔をする様になるのも仕方のない事であった。

 ピリピリとした雰囲気を漂わせているアスカ。

 その姿は、かつてのNERVドイツ支部時代のアスカそのものであった。

 適格者(2nd チルドレン)として選ばれたばかりの、尖っていた頃のアスカだ。

 それ故に、アスカの既知なNERVドイツ支部スタッフすらアスカに寄りつかなかったのだった。

 

 だが、そんなアスカに近づく人影が1つ。

 僅かばかりの足音。

 だがいら立ちが過敏化させたアスカの聴覚はしっかりと拾った。

 

「君がアスカ・S・ランギーさん?」

 

「そう呼ばれるのは嫌いって、アタシのリポートには書いてなかった」

 

 ギロリっと音のしそうな仕草で、接近者を睨むアスカ。

 睨まれた側の男、否、少年は、おどける様に両手を胸元でひらひらとさせる。

 

「ゴメン、そこまでは目を通してなくてね」

 

 綺麗な顔をした少年だった。

 銀色の髪に赤い瞳。

 どこかしら綾波レイに似た風の少年だ。

 アスカの見た事の無い相手であり、何よりも重要なのはその恰好であった。

 黒を基調としたNERVの制服を着ているのだ。

 NERVに於いて黒い制服は特別な意味を帯びている。

 即ち、適格者(チルドレン)を意味するのだ。

 

「誰?」

 

 短い誰何と共に、重心を変える。

 待機(アイドリング)から戦闘(コンバットモード)へと。

 不機嫌そうであった表情は消え、油断のない鋭さが瞳に宿る。

 自分の知らない適格者(チルドレン)

 葛城ミサトから、鈴原トウジに続く5人目(5th)の話は聞いていない。

 であれば敵、スパイ、工作員。

 様々な正体の予想がアスカの脳裏を走る。

 だが、アスカの意識はそこに囚われない。

 捉えてしまえば、幾らでも聞きだせるからだ。

 自分も、そして相手も無傷の状態で掌握する為の手段を一気に構築していくアスカ。

 その物騒さに気付かぬままに、少年は朗らかなままに自己紹介を始める。

 

「僕はカール、カール・ストランドって名前なんだ。()は、ね。宜しく、先輩」

 

「………適格者(チルドレン)って事?」

 

「そうだよ」

 

 とびかかる為の準備動作として、膝を曲げたアスカ。

 その肉食獣めいた仕草を見ても尚、少年は笑っていた。

 

「アタシは知らないけど?」

 

「仕方ないよ。僕が適格者(チルドレン)に正式に決められたのって昨日だもの」

 

「それを本当だと示す証拠は?」

 

身分証(IDカード)で良いのかな。ランギーさん」

 

 胸ポケットに手を入れるカール・ストランド。

 その動きをアスカが抑える。

 

「ゆっくりとよ」

 

「そんなに警戒されると傷つくよ」

 

「不審人物よ、今のアンタは」

 

「傷つくなぁ」

 

 呑気に笑う。

 笑いながら取り出したNERVの身分証(IDカード)は、アスカの手によってひったくられた。

 まじまじと見るアスカ。

 偽造を見破る為に作られた警戒部位(ポイント)をチェックする。

 異常は見られない。

 顔写真にも、歪みやカスレなどは見えない。

 発行元はNERVドイツ支部。

 発行日は本人の言う通り昨日付け。

 異常はない本物のNERVの身分証だ。

 只、1つの問題を除けば、であった。

 

「………名前、違うじゃない」

 

 警戒する様に眦を細めたアスカ。

 一触即発、そう言わんばかりの警戒感を漂わせている。

 書かれている名前は渚カヲル。

 カール・ストランドなどと云うドイツ人らしい名前は欠片も載って居なかった。

 だが、アスカの反応など気にする事も無くカール・ストランド、渚カヲルは笑った。

 

「だって、僕は日本に行くんだからね。だから日本風の名前にして貰ったんだ」

 

 カールは音が近いからカヲルに。

 ストランドは意味が近いから渚に。

 日本に馴染む為の努力何だと言う。

 

 アスカには全く以って意味が判らない行動に見えた。

 だから、面倒くさくなって携帯電話を取り出して、警備を呼び出す事とした。

 不審者アリ、と。

 だが通話ボタンを押すよりも先に、渚カヲルはアスカの欲する名前を呟いた。

 

「本当はランギーさんもだけど、碇シンジ君に会いたかったんだ。彼は何処?」

 

 良し、不審者で良い。

 アスカは決めた。

 決めつけた。

 身分証(IDカード)は本物だから、事前鎮圧は赦してやろう。

 だが護衛が来る前に動こうとしたら即座に鎮圧してやる。

 シンジに影響されてか、アスカは実に即断即決速攻めいた()意の高い決断を下すと、油断なく渚カヲルを監視するのだ。

 

 何ともらしいと言える出会い。

 後に、シンジが絡めば終生の不倶戴天(水と油なライヴァル)などと鈴原トウジが笑う、アスカと渚カヲルの出会いであった。

 

 

 

 

 

 




2022.11.27 文章修正
2023.04.08 文章修正

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