サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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 自分の持つ惣流アスカ・ラングレーに対する感情を自覚した碇シンジ。

 迷い、そして思索する。

 考えた事の無かった男と言う事と、女性と言うこと。

 他人を好きだと言う事。

 正に思春期であった。

 

 問題は、シンジが初めて意識した感情によって混乱した所に、その理由(アスカ)の父親たるヨアヒム・ランギーがやってきたと言う事だろう。

 思春期の衝撃(アスカリアリティショック)であった。

 取り敢えず顔だけは平素を装い、内心の混乱(ナンデ!? アスカのお義父さん!?)を出さぬ様にするシンジ。

 挨拶。

 座って行うのは、家に泊めさせて貰っている手前失礼であるとばかりに立ち上がろうとするが、それをヨアヒム・ランギーが手を挙げて止めた。

 

「慌てる必要はない」

 

 笑みめいたものを顔に張り付けながら告げて、そしてシンジの対面に座る。

 上品な作りの革張りのソファは、音もたてずに長身のヨアヒム・ランギーを受け入れた。

 手早く、部屋付きのスタッフが珈琲を用意して並べた。

 シンジの前の珈琲も、新しいモノへと変えられる。

 湯気の上るカップ。

 

「仕事の話ではない。君と2人だけで話がしたかったのだ」

 

 そう言ったヨアヒム・ランギーの後ろでは、部屋付きのスタッフが部屋から出て行く。

 あれよあれよとなった不可解な流れに、シンジが反応するよりも先に正真正銘の2人っきりとなる。

 とは言え、とりあえずは敵意は感じられないが為、シンジは鷹揚に構えていた。

 少なくとも外見上は。

 内面の混乱は収まりきらないが、郷中教育としての(自制心の鍛錬)が成果を見せている。

 そう評するべきかもしれない。

 

「私的な話をする為、席を離して貰った」

 

 最初の妻である惣流キョウコ・ラングレーが日系(ハーフ)ドイツ人であった事も影響し、ヨアヒム・ランギーは日本語を習得していた。

 流暢にも話せる。

 とは言え、聊かばかり堅い調子ではあったが。

 

「話を始める前に頼みがある。1つだ」

 

 何であるかと心持ち身構えたシンジに、ヨアヒム・ランギーは少しばかり苦笑いめいた表情を顔に浮かべながら続けた。

 

()()()。私は日本語、全てを理解している訳では無い。君と正しい意思疎通を目的に、君が娘に話す言葉を使って欲しい」

 

 ヨアヒム・ランギーとてシンジの方言(薩摩言葉)を理解出来ない訳では無い。

 表情から読み取れる情報もあれば、訛り(方言)と同様のイントネーションに近い言葉をシンジが使う事からも意図を理解する事は出来た。

 だが、それはあくまでもヨアヒム・ランギーの想像でしかない。

 だからこそ頭を下げて頼むのであった。

 真摯な態度。

 今の自分を作ったと言う意味で薩摩言葉(方言)に拘りを持っていたシンジだが、同時に、子どもである自分相手にすら頭を下げた大人の気持ちを汲めぬ人間ではない。

 1つばかり頷いて、喉を撫でた。

 そして言う。

 

「わかりました。これで大丈夫ですか」

 

「有難う。碇シンジ」

 

 

 

 さて、改まって何を言われるかと身構えたシンジに放たれた第一声は感謝、であった。

 

「改めてお礼を言う。有難う碇シンジ。私たち家族は家でアスカを見る事が出来た。家族の時間を得た」

 

 首を傾げたシンジにヨアヒム・ランギーは説明をする。

 アスカは惣流キョウコ・ラングレーが死して、そしてヨアヒム・ランギーが再婚した後には1度として家に泊まりに帰る事は無かったのだと。

 適格者(チルドレン)としての訓練、責務の重さがあるからとアスカは言っていた。

 だが、ヨアヒム・ランギーはNERVドイツ支部の中核的人間である為、そのアスカの弁が事実ではないと知っていた。

 幾らでも訓練その他の予定は変えられるにも拘わらず、アスカは休暇をランギーの家で取ろうとはしなかったのだ。

 隔意。

 それが判らぬ程にヨアヒム・ランギーは愚かでは無い。

 己の行いが、アスカの心を離れさせる事になったと理解していた。

 

 1つは惣流キョウコ・ラングレーがエヴァンゲリオンの実験で人事不詳となって即、ヨアヒム・ランギーは国籍をアメリカからドイツに移し、ラングレーでは無くランギーの姓を名乗る様になった事。

 1つは惣流キョウコ・()()()()が縊死した際、ランギー家から籍を抜き、惣流キョウコ・ツェッペリンとして葬儀を行った事。

 そして葬儀から1年も経ないうちにベルタ・クレマーを後妻として迎え入れたと言う事。

 理由はあった。

 ランギー家に戻った理由は、人事不詳となってしまった惣流キョウコ・ラングレーを守る為 ―― 開発途中であったエヴァンゲリオンでの事故と言う事で、惣流キョウコ・ラングレーを()()()()()と見る人間がNERVドイツ支部に居たのだ。

 ソレらを排除する為、ヨアヒム・ランギーは力を欲した。

 その為に、祖父に頭を下げもしたのだ。

 葬儀の際、籍を抜かれ家名を変えられたのは、ヨアヒム・ランギーが惣流キョウコ・ラングレーの死によって判断力が低下していた時に、葬儀を取り仕切っていた祖父が勝手に手配した事であった。

 後妻を得た事に関しては、惣流キョウコ・ラングレーの人事不詳からの縊死で傷ついていた所を秘書であったベルタ・クレマーが救ったと言うのが大きい。

 だがそれ以上に、クレマー家はランギー家の分家筋であり、純血主義であった(ナチズムの残党めいた)祖父による強要でもあった。

 ヨアヒム・ランギーは、残されたアスカを守る為にランギー家の力を欲し、それらを受け入れたのだ。

 大人の理由と言えた。

 そして、幼い子どもであったアスカが到底受け入れられないであろう話でもあった。

 そもそも、余りにも生臭い話であり、とうてい説明できるものでは無かった。

 愛するアスカからの憎悪の目を受けながら、ヨアヒム・ランギーは全てを受け入れた。

 それが、愛した惣流キョウコ・ラングレーを守れなかった悔恨、そして己への罰であろうとの思いからであった。

 

 その他の家族。

 アスカは後妻であるベルタ・ランギーと社交的態度(大人の距離感)に終始した。

 ランギー家の奥様、と言う事である。

 ベルタ・ランギーはアスカに歩み寄ろうとした。だがアスカは自分はただ一人ではあるがラングレー家の人間であると、姓を、国籍を変える事を拒んだのだ。

 自分までラングレー姓を捨てれば母である惣流キョウコ・ラングレーが悲しむと言って拒んだのだ。

 そこまで言われてしまえば、ヨアヒム・ランギーにもベルタ・ランギーにも出来る事など無かった。

 そして(異母弟)であるハーラルト・ランギー。

 この少年はアスカと比較的親しくなっていた。

 幼さ故にアスカの儀礼的(よそ行きの)態度を理解せずに接し、それにアスカが根を上げていたからである。

 無邪気さの勝利とも言えた。

 だが、それもあってアスカはランギー家に戻る事が無かったとも言えた。

 

 だが、そんなアスカが変わったのだ。

 日本に行って変わったのだ。

 

「アスカに週に一度、妻が電話をしていた。最初は世間話にもならなかった。だが第7使徒を倒してから少しづつ変わった。私の事もVater(儀礼的呼称)では無くPapa(愛称的呼称)と呼んでくれた。それがどれだけ嬉しかった事か」

 

 涙を流さんばかりの表情を見せるヨアヒム・ランギー。

 だがシンジは俄かには信じられなかった。

 シンジから見たアスカは、この半年余りの月日で変化した様には見えなかったからだ。

 距離感は変わったかもしれないが、でも態度は同じであった。

 そう感じられたのだ。

 だから言う。

 アスカが変わったのは自分のお陰では無いのだと。

 

「故郷を離れ、使徒と戦った事がアスカを変えたんだと思います。学校で友達も出来ましたから」

 

「聞いている。中等の学校(市立第1中学校)だったな。Prideの高いアスカが通うとは思わなかった。だが碇シンジ。教えよう。アスカが妻と話す一番が君だったのだ。君と競う事、勝利、敗北。色々な事を妻に話した。妻は言う。電話1回毎にアスカは楽しそうに話すようになったと。感謝を受け取って欲しい」

 

「………っ、そう言って貰えたなら嬉しいです。僕もアスカと居る時間は楽しいです。助けられてます」

 

「そうか………」

 

 感極まった表情で笑うヨアヒム・ランギー。

 それからシンジに珈琲が冷める前に飲むように続ける。

 自分も上品な仕草で珈琲カップを摘まみ、飲む。

 

「正直な感想だ。碇シンジ。アスカの欧州一時帰還でアスカが家に来るとは思わなかった。泊まるなど想定外だった」

 

 巨大なランギー家の邸宅(別邸)

 そこにあったアスカの部屋は、余りにも生活臭が無かった。

 整えられていた。

 清掃もされていた。

 だが、人の匂いが無かった。

 第3新東京市の、コンフォート17の、シンジの家の隣にあるアスカの家とは全く違っていた。

 掃除の手伝い、或いは映画が見たいからと付き合いなさいと呼ばれていった時に見たアスカの部屋は、エネルギッシュなアスカと言う存在が感じられる部屋だったのと対照的なのだ。

 それだけでシンジは、アスカが住んだことの無い事を理解した。

 

「有難う碇シンジ。アスカを返してくれて」

 

 それは父親の、誠心からの言葉であった。

 自分が何をした、何が出来たかなどシンジには判らない。

 故に、まだ自分は子どもだと理解した。

 だからこそ、ヨアヒム・ランギーの言葉に頭を下げるのであった。

 

あいがとさげもした(こちらこそ有難う御座います)

 

 アスカと言う少女を生み出した事を。自分が出会えたと言う事への感謝であった。

 

「ハハッ、君も感謝するのかね」

 

「はい。感謝してますから」

 

 好きだと言う気持ち。

 それ以前に、自分に刺激を与えてくれる存在。

 そして何よりも使徒との戦いで、全幅の信頼を持てる相手。

 その気持ちを素直に口にするシンジ。

 ヨアヒム・ランギーは苦笑と共に、ソレを受け取った。

 

「君は本当に武者(ファイター)なのだな」

 

「?」

 

 碇シンジと言う少年が、NERV本部の秘密兵器(特殊訓練を受けた存在)どころか軍人としての訓練を受けた訳でもない、只の少年だと言う事はヨアヒム・ランギーも知っていた。

 だが、それは誤りでは無いのかと思う程にシンジは、戦向きであった。

 血腥い臭いをさせている訳では無い。

 だが、腹を決めた人間の顔をしているとヨアヒム・ランギーは評価するのであった。

 NERVの対使徒決戦兵器たるエヴァンゲリオン。

 その、最も高い評価を与えられて(スコアを稼いで)いるエヴァンゲリオン初号機の専任操縦者らしいとも言えた。

 同時に、その態度に高潔さを感じても居た。

 アスカの傍に居る男の子。

 アスカの傍に居る事を許せる男の子。

 そういう評価でもある。

 だからこそ、ヨアヒム・ランギーは最後に大事な事を確認した。

 或いは、この最後の確認こそがNERVドイツ支部の高官(№3)と言う身でありながらヨアヒム・ランギーをNERVイギリス支部に行かせたとも言えた。

 

「碇シンジ。君はアスカを愛してくれるのかね?」

 

「ゴフッ!?」

 

 思わず珈琲を咽させたシンジ。

 それ程にヨアヒム・ランギーの言葉は合理的かつ直球的な質問であった。

 嘘は赦さぬ。

 詭弁などもってのほか。

 この日一番に厳しい目でシンジを射抜くヨアヒム・ランギー。

 

「あっ………」

 

 口元に零れた珈琲を拭いながら、シンジは真っ向からヨアヒム・ランギーを見る。

 その強い目力に既視感を覚えた。

 そう、それは故郷たる薩摩での事。

 義姉が血のつながらない義兄(元戦災孤児の養子)と結婚すると言い出した時の家族会議での義父と義母の目だった。

 ごねた義父を鎮圧した義母が、義姉の性根を見た時の目。

 直感的にシンジは自分では、この目 ―― ヨアヒム・ランギーに勝てないと理解した。

 だから、まるで告解するかのような気分で、今のアスカへの気持ちを口にしたのだった。

 

「好き。好きです」

 

 顔を真っ赤にしながら。

 生まれて初めて、好きだと思った相手。

 その相手の父親に、その事を告白するのだ。

 どんな悪い事をすれば、こんな目にあうのかとシンジは思って居た。

 ANGEL(使徒)と戦ったのが罪だとでも言うのか、とばかりに天を逆恨みもしていた。

 

 だが、ヨアヒム・ランギーの反応はシンジに想像も出来ないものであった。

 

「良い。良い回答だ」

 

 それは莞爾とした笑いでもあった。

 

 

 

 

 

 




2023.1.7 文章修正

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デザイナーズノート#11(Ⅰ)(こぼれ話)
 流れ的に決まった欧州編()
 実にてけとー に決まったこの流れ。
 合言葉が、読者サソの想像の斜め上に逝こうぜ? or 真下に逝こうぜ! なので、ええ。
 もうね、どうなるんだろう? と思ってたら、こうなった。
 シンジ君、もうね、大爆発めいた思春期突入感ェェェェェ
 いや本当に。
 テンパってアッパって、もうダメポ(お

 尚、現時点で11章は3部構成予定です。
 前後編の欧州編()と、第13使徒戦____
 予定は未定で、ネタが浮かぶとぶっこんでく予定(え
 プロット!
 プロットちゃんが行方不明です!!
 だれかご存じの人は居ませんカァ!?(割とマジに






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