サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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11(Ⅱ)-1 Iron-Blooded Orphans

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 エヴァンゲリオンの第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)としてドイツに居る相田ケンスケ。

 その待遇は劇的に変化(好転)していた。

 

「スゲェ」

 

 着替えその他を詰め込んだボストンバックを抱えて新しい部屋に入った相田ケンスケは驚いたように声を上げていた。

 さもありなん。

 かつての廃校を手直ししただけの以前の宿舎とは全く別の、近代的な建物だからだ。

 錆びたパイプベットではなくピカピカの、新品の様なベットとなっていた。

 寝具も真っ白なシーツが付けられている。

 ロッカーに至っては上品な木製品となっていた。

 本棚も備えた机だってある。

 流石に個室と言う訳では無いが、それでも大部屋(8人部屋)ではなく2人部屋なのだから、私的空間(プライバシー)もそれなりと言えるだろう。

 

「人間扱いされる様になった気がするぜ!!」

 

 陽性の、ガッツポーズをしている相田ケンスケ。

 部屋は高級ホテルの様な、と言う訳では無かった。

 だが、ビジネスホテル程に手狭と言う訳でもない。

 相田ケンスケがTVドラマや映画で見た、高級(ハイソ)な寄宿舎めいた内装ではあったのだから感嘆するのも当然であった。

 自分が碇シンジや惣流アスカ・ラングレーが居る場所 ―― 夢見た場所(TV画面の向こう側)に近づけたと感じられたからである。

 とは言えその待遇変化は、相田ケンスケが考えていた自身の持つ個人的関係(コネ)によるモノではなかった。

 そもそも、外部との連絡が一切出来なかったのだ。

 与えられていたGPS機能付きの携帯電話は電話にせよメールにせよ受信専用となっていたからだ。

 それがどの様なモノであれ一切の情報を外部に漏らす事を禁止する措置であった。

 分別の出来ていない子供を相手とするのであれば、ある意味で当然の処置と言えるだろう。

 

 では、何故に待遇が変わったのか。

 ソレは資質によるモノであった。

 相田ケンスケは一次選抜で集められた1000名から200名へと篩い分けされる、実に5倍もの狭き門である一次選考を通過したが故の事だ。

 上位通過とは言わないが、2桁番台での評価で合格していた。

 資質と言う意味では、本人のあずかり知らぬ話であるが、適格者候補(第壱中学校2年A組生)であって実証されていた。

 その上で、一次選考での訓練に対して真剣に努力していたと言うのが評価された結果だった。

 ふるい落とす為の一次選考。

 その課題に含まれていた軍事教練的な内容を、愚痴や不平不満は休憩中に零しても、その内容から逃げる事無く、それどころか嬉々としてやっていたと言うのが大きかった。

 相田ケンスケの身体能力は決して高くはない。

 だが、高くはなくとも一次選抜の課題から逃げようとはしなかったのだ。

 多くの一次選抜通過者は、巨大ロボット(エヴァンゲリオン)乗る(座る)のに何でこんな汗と泥に塗れる様な選考過程を受けるのだと言う愚痴を零し、選考課題(内容)に対して真剣には当たらなかったのだ。

 趣味者(ミリタリーマニア)として軍事訓練的なモノを嗜好していたと言うのも大きい。

 又、日本人であるが故に(日本の教育システムで育った為)の、軍事訓練的なモノに対する順応性が高かったと言うのもある。

 だが何よりも、シンジとアスカを見ていたと言うのが大きかった。

 学校でとびぬけて高い身体能力を持った2人。

 その2人には劣るが、だが同世代の平均よりかは身体能力の高い綾波レイを見ていた。

 綾波レイは決して活動的、運動的な少女では無い。

 だが、その体は筋肉質(スポーツをするソレ)であり、体力測定の際には上位に居た。

 スポーツ系の部活がアスカと並んで欲し続けた逸材(特別帰宅部)であった。

 であればこそ、相田ケンスケは歯を食いしばって乗り越えたのだった。

 それ以外にも燃え上がったモノがあった。

 アスカへの懸想、そして何よりもシンジやアスカの居る場所に行きたいと言う強い思い。

 特別な自分でありたいと言う願い(厨二病心)

 NERV高官(NERV本部№3)である葛城ミサトとの個人的繋がり(コネ)

 此方は聊かばかり不純な理由が多くを占めているが、14歳と言う子ども(思春期の少年)らしいとも言えた。

 

 兎も角。

 一次選考合格通知書が配られ、合格者が集められた部屋で試験監督官であったNERVのスタッフは告げた。

 一次選考からが本番である、と。

 一次選抜の1000名 ―― 正確には1043名の合格者と言うものは、志願者の情報をマルドゥック機関が紙上調査(ペーパーテスト)しただけの結果であり、エヴァンゲリオンとのシンクロ能力さえ持っている可能性があるならば片っ端から合格させる様な()()()()()であったのだ。

 中には、将来(履歴書)への箔漬けとして、親が手土産付きで(タップリの寄付金と共に)子どもを一次選考合格()()()子どもも含まれていた。

 そもそもが、第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)の候補生では無いのだ。

 相田ケンスケが羨ましがっていた高待遇の一次選考合格者とは、そういう子ども達であった。

 正に政治(ヨーロッパ仕草)であった。

 これに対して一次選考合格者の200名は違う。

 ヨーロッパにある各NERV支部にて一次選抜合格者をそれぞれ見て資質を確認した、第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)としての選考と訓練(コスト)を掛けるに値すると期待できると判断された人間であるのだ。

 ここから先が、本当の第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)の選抜と訓練の始まりと言えた。

 その証拠に、200名は1つの施設に集められ、NERVの身分証(IDカード)や訓練生の制服その他が配られたのだ。

 正式にNERVと言う組織に所属するのだと、誰もが判ると言うものであった。

 

 ロッカーを開けた相田ケンスケ。

 そこには真新しい、黒を基調としたNERV適格者(チルドレン)用制服が吊るされていた。

 正式に任務に就いているシンジ達とは違って徽章の類は無く、白地に青色のラインが入った候補生腕章が付けられている。

 

「俺、俺もチルドレンだ!」

 

 感極まったとばかりに声を漏らす相田ケンスケ。

 鼻孔を擽る真新しい服の匂いは、改めて自分が階段を1つ上がった事を実感させた。

 

Aida(相田) ガンバロ?」

 

「Yes だぜ!」

 

 相部屋となった同じ候補生と頷き合う

 NERVの公用語である英語と日本語を片言の上で交じりで会話する相手はヨナ・サリム、エチオピア出身の候補生だった。

 線の細い少年であったが、その外見に見合わぬガッツを持っていた。

 適格者(チルドレン)に志願した理由も、NERVのスタッフになれれば治安の安定していない母国の家族に仕送りが出来ると言う実に健気な理由であった。

 エチオピアはセカンドインパクト(Catastrophe-1999)の影響による戦乱に荒らされた国家の1つであり、その経済状況はお世辞にも良好とは言えなかった。

 だからこそ国連特務機関NERVに志願したと言えた。

 二次選考まで突破した志願者は、例え適格者(チルドレン)に選ばれなくともNERVのスタッフとして就職できる事が約束されているのだ。

 経済的な支援欲しさで適格者(チルドレン)を志した子どもは、ヨナ・サリムだけでは無かった。

 否、それどころか一次選抜に手を挙げた3000名近い子どもの大半は、そうであったと言えるだろう。

 それを知った相田ケンスケが、自分の割と不純気味な動機を反省したのも当然の事であった。

 

 ともあれ、ヨナ・サリムと相田ケンスケは比較的仲良く過ごしていた。

 苦難の多い人生を送ってきたヨナ・サリムに比べればぬるま湯と言って良い環境で生きて来た相田ケンスケとが親しい友人関係となれたのは、1つは相田ケンスケの人懐っこい性格(コミュニケーションスキル)にあった。

 ある意味で趣味者らしい部分 ―― 多少、棘のある言葉を使っても意に介さない大らかさに、ヨナ・サリムや周りの人間は毒気を抜かれたと言うのがあった。

 そして実用だ。

 相田ケンスケが持ち前の知識(ミリタリー趣味)を生かしたアドバイスを、他の一次選考受験者相手に行ったりしていたからである。

 本来は競争相手に塩を送る行為であるのだが、コネのお陰で自分は一次選抜合格間違いなしと思って居た相田ケンスケは、その事に気付けなかった結果であった。

 何とも大らかと言うか、濃ゆい人間(シンジや鈴原トウジ)との友人関係を持った相田ケンスケらしい態度とも言えた。

 と、そこでアナウンスが場された。

 

attention(傾聴)Cadet Assemble(候補生集合せよ) The place is a lecture room(集合場所は講義室だ) Soonest(急げ)!』

 

 英語が常用語(ネイティブ)ではない人間向けに平坦な、ゆっくりとしたペースで行われた内容。

 それは、この施設に移動中のバス内で教えられていた今後の集団説明会を教える放送であった。

 200名の一次選考突破者が揃い、それぞれの居室に荷物を置いたでろう時間を計っての事であった。

 ヨナ・サリムと頷き合う相田ケンスケ。

 猛烈な勢いで今着ている服を脱ぎ捨てて、ロッカーの適格者(チルドレン)制服を着るのだった。

 服装の指定は無かった。

 だが折角の制服だ。

 着ないなんて勿体ない! そう以心伝心に2人は思って居たのだ。

 

「Hurryだ!」

 

「ソダ! Hurry Up! Hurry Up!」

 

 急かしあう2人。

 それは実に年齢相応の子どもの姿だった。

 

 

 

 

 

 一次選考を突破できた第2期適格者候補生(2nd-リザーブ・チルドレン)達の訓練に向けて、施設に集められた教官たち。

 その中には、かつてはアスカも含まれていた適格者候補生(リザーブ・チルドレン)の訓練を担当した人間も含まれていた。

 エヴァンゲリオンの操縦や、緊急時の護身術を教えていたNERVドイツ支部に設けられた支援ドイツ第1課の格闘(身体操作術)教官、アスカの師父とも言えるアーリィ・ブラストとその部下(一門)だ。

 非常時には適格者(チルドレン)の護衛も担当する為、アーリィ・ブラストの部隊は高い練度を誇っている。

 女子にも教育をすると言う関係上、デリケート(性的)な問題を発生させ辛いとして女性が主となっているチーム(部隊)であった。

 隊長であるアーリィ・ブラストの趣味と言う側面もあったが。

 

Accompanied by a man(アスカが男を連れて来たって)!?」

 

 魂消たと言わんばかりの表情で声を上げたアーリィ・ブラスト。

 その視線の先に居る副官が重々しくも頷いた。

 

Yes,ma'am(事実です)

 

It's unbelievable(嘘でしょ)!?」

 

No, it's a fact(残念ながら事実です)………」

 

Oh, my God(信じられない)!」

 

 アメリカの映画めいた仕草で、両手を自分の頬に宛てるアーリィ・ブラスト。

 アスカに対して乙女(処女)仲間等と言う強い共感(一方的シンパシー)を感じていたが故の事だった。

 そんなアーリィ・ブラストを微笑まし気に見ながら、副官はアスカを思い出す。

 NERVドイツ支部時代の、自分以外は誰も信じないとばかりに肩肘を張っていた姿を。

 母を喪い、父を信用できないとしていた姿を。

 だから早く大人にならねばならないと自分に言い聞かせていた姿を。

 可愛い外見を裏切る高い攻撃性は、実に野生動物(マヌルネコ)めいていたのを思い出す。

 下手に触れば、擁護であっても噛みついてくるのだ。

 

 ()()()()()()()()

 

 隊長であるアーリィ・ブラストと、アーリィ(ユニット)の総意であった。

 勝気と言う意味ではアーリィ・ブラストも負けてはいない。

 と言うか、何故かそういう人間の集まりなのだアーリィ班と言うものは。

 故に、アスカを勝手に妹分として見ていた。

 だからこそアスカが連れていた男であるシンジに興味を持つのだ。

 アーリィ・ブラストも、その副官も。

 そして恐らく(確定で)アーリィ班の面々も。

 

と、アーリィ・ブラストが腹を決めた顔で笑った。

 

Ok(いいわ),If so, let's check(考えるよりも確認すれば良いわ)

 

 副官は、アーリィ・ブラストの隣に立つようになって長いが為、その意味を誤る事はなかった。

 そっと1人の名前を口にする。

 

「Sinji Ikari」

 

Yes(その通りよ)

 

 それは、実に肉食獣めいた笑いだった。

 

 

 

 

 

 アスカに対する恋愛感情を自覚したシンジ。

 しかも、その想いをアスカの父親であるヨアヒム・ランギーに言ってしまったのだ。

 ようやくの思春期に突入したと言ってもよいだろうシンジにとって、羞恥心が限界を突破する行為であったが、目に前に居るヨアヒム・ランギーが真剣であったのだ。

 そこに、娘を思う気持ちを見たシンジに、韜晦する様な選択肢が浮かぶ筈も無かった。

 

 頬を赤く染め、羞恥心に塗れたシンジを見ながらヨアヒム・ランギーは笑う。

 笑いながら決定を下す。

 

「碇シンジ。君の残る予定はキャンセルだ。少し話たい」

 

 卓上の呼び鈴(ベル)を鳴らして秘書を呼んだヨアヒム・ランギーは、本日の自身とシンジの予定を明日以降に延期する様に支配者(NERVドイツ支部№3)の顔で命令した。

 そして、続けて父親の顔で言う。

 

「イギリスだが旨い鴨料理の店がある。ワインの品ぞろえも良い。アスカの日本での姿を教えてもらおう」

 

 シンジ的には、羞恥時間の延長戦確定の宣告であった。

 自分に拒否権が無い事を空気で察して降伏する様に少しだけ天井を仰いだ。

 清潔な青色のクロスが張られた天井は、当然ながらもシンジの救いを求める仕草に応える事は無かった。

 アスカは今、何をしているんだろう。

 そんな現実逃避めいた事を考えるのだった。

 

 

 

 

 シンジが味も理解出来ない料理とワインと共に絶望的苦境の時間に突入した頃、(ドーバー海峡)を隔てたヨーロッパ亜大陸で相方(アスカ)も又、苦境の時間を過ごしていた。

 シンジがヨアヒム・ランギーであれば、当然ながらもアスカはベルタ・ランギーである。

 義理とは言え愛する娘たるアスカが男の子(ボーイフレンド)を連れて来て、家に泊まらせたのだ。

 アスカが()()()()()と思うのも当然であった。

 であるからこそ、ベルタ・ランギーはアスカにシンジとの出会い(馴れ初め)から、想いから、その全てを聞きだしに掛かって居たのだ。

 シンジもヨアヒム・ランギーも居ない。

 であればこそ、女の時間だと言う事であった。

 

 夕食後、気楽な格好でリビングに居る2人。

 ベルタ・ランギーがアスカを誘っての時間だった。

 珈琲を手にソファに並んで座る2人。

 女中(メイド)がクッキーを用意して、そっと下がった。

 豊かな珈琲の匂いが立ち上る。

 それをアスカが堪能しようとした時、ベルタ・ランギーが言葉を発する。

 

Gefällt es dir(好きなの)?」

 

 直球と言うよりも剛速球(殺人ボール)めいた発言だ。

 アスカは手に持っていた珈琲カップを落としそうになる。

 

Huch(くぁwせdrftgyふじこlp)!?」

 

 慌ててベルタ・ランギーを見たアスカは、そこに逆らえぬ何か(母力)を見た。

 

 

 後に、親友たる洞木ヒカリと洞木グループに言うのだった。

 家に(鈴原トウジなり)を連れていく時は、色々と質問攻めに遭う事を想定し、そして想定問答集まで作っておいた方が良い、と。

 それは、洞木ヒカリが初めて見る様な、疲労困憊となった顔のアスカであった。

 尤も、洞木ヒカリはアスカの表情の根っこにはシンジと仲良し(Süß)になった喜びがあり、その照れ隠し(惚気)ではないかとも思っても居たが。

 実に甘い、と。

 アスカのヨーロッパ土産であるお菓子 ―― シュトロイゼルクーヘンよりも口の中が甘く感じる、と。

 季節のフルーツを使ったお菓子で、美味しいのに、美味しく感じられなく(糖分の摂取過多に)なった気がする。

 明日は珈琲でも用意しておこうかしらと等と洞木ヒカリが思う程の甘さであった。

 

 尚、余談ではあるがシンジとアスカの距離感に慣らされていた綾波レイは、普通に美味しくシュトロイゼルクーヘンを食べていた。

 畏怖の念めいたモノを抱いて、その様を見ている対馬ユカリ。

 それは第3新東京市が平和である事を示す光景であった。

 

 

 

 

 

 




2022.12.8 文章修正

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