【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件 作:◆QgkJwfXtqk
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NERVドイツ支部はドイツ西部域、ハンブルク市郊外に設けられた大規模な複合施設であった。
世界に6台しかない第7世代有機コンピュータたるMAGI-System。
その1台を持ち、エヴァンゲリオン関連の開発、それに建造を担っている組織だ。
エヴァンゲリオンを建造した設備を用いて、日本から持ち込まれた使徒の生体材料の研究も担っていた。
主に対使徒に於いて重要な意味を持つ
使徒の動力源でもある
実用化が為されれば、エヴァンゲリオンは運用制限と言う頸木から離れる事が出来る。
だがそれ以上に、重要な役割 ―― 人類のエネルギー事情を劇的に改善させる事が期待出来るのだ。
研究機関でも力が入ると言うモノであった。
そして、今はそこに
一次選抜で選ばれた1000人。
その1000人から、
訓練による伸びしろを見て、
そして最後に、
三次選考で6機の
機体が6機であるのに12人とされている理由は、第1次E計画のエヴァンゲリオンと異なり、ローテーションでパイロットとなる事が計画されているからであった。
第2次E計画のエヴァンゲリオンは広域展開遊撃任務に就く事が予定であり、故にパイロットは常に緊張状態に置かれる事が想定される為であった。
兎も角。
そんな
一次選考を通過した200名の候補生。
その200名の1人である相田ケンスケは、教育/訓練プログラムの一環で運動場で汗を流していた。
体力の涵養である。
その内容は
例えば長距離走。
距離は短めであり、同時に負荷として持つのも実銃では無く
当然だろう。
候補生は、まだ体が
人類を守る為とは言え、過大な行為をさせる訳には行かないとなるのも当然であった。
そして何よりも、碇ゲンドウらNERVの要人とSEELEメンバーがソレを必要としなかったのが大きい。
それは、無論ながらも子どもへの愛情、或いは友愛だのそういう理由では無い。
即ち、
使徒の目標となるのは第3新東京市地下のNERV本部、その
であるからには政治の要求、民心慰撫と言う目的で整備の決められた第2次E計画に期待どころか関心を寄せる筈も無かった。
国連安全保障理事会の決定であればこそ、国連の特務機関としてのNERVは、給与分は働きます。
露悪的に言えば、そう言う事であった。
尤も、そんな大人の都合など意に介する事無く、子ども達は汗を流していた。
コレが未来に繋がると信じればこそ、であった。
「ハァハァハァ………ァア、っ、疲れたぁ」
膝を付き、顔から倒れ込むように前かがみになる相田ケンスケ。
相田ケンスケだけでは無い。
軽くはない荷物を抱えて10㎞もの距離を走り終えた候補生たちの誰もが、息も絶え絶えといった風に地面に寝転がっていた。
正に死屍累々。
対して、同じ距離を走った筈の
無理をした候補生は居ないか。
終わった途端に緊張感が途切れて体調を崩した人間が居ないか、見て回っていた。
「
「
「
判り易い様に単語で、休憩を命じている教官たち。
その
汗を、熱さを捨てる為に訓練服の
その姿に、訓練生の男女差など無かった。
インナーシャツを脱いで、裾から
かつては小遣い稼ぎに
そんな事よりも休憩。
候補生は誰もが声も出せずに居た。
誰かが声を上げる、その時まで。
「
誰かの候補生の声。
それに応える声。
「
「
「
「
ポツポツっとした声。
拙い
追加なのかもしれないと相田ケンスケは呑気に考えていた。
先週、10人近い候補生が体調不良その他で脱落していっていたのだ。
その補充だろう等と考え、それから意識を外していた。
只、元気な奴も居るモンだと呆れていた。
そんな相田ケンスケが飛び起きたのは、
美人で赤髪の適格者。
その言葉が合致するのは1人しか居ない。
他に居る筈がないのだ。
「惣流かっ!?」
飛び起きて周りを見る相田ケンスケ。
候補生男子衆が見ている方向を見る。
見た。
居た。
相田ケンスケたちの居るグランド周りから少し離れた場所のベンチに座っている、黒いNERV適格者制服を着ている女の子。
赤い髪が風に揺れている。
目元は濃ゆい色のサングラスで隠されている。
少しばかり距離がある事と相まって、顔は見えない。
判らない。
女の子だと判るのは、タイトデザインのスカートを履いているから。
「
「
「
深紅のエヴァンゲリオン弐号機を駆る
とは言え、別に秘密にされている訳でもない。
候補生達も一次選考を通過して末端とは言えNERVに加わっており、守秘義務に関する書類にもサインしていたのだから問題は無いのだから。
只、訓練生のカリキュラム内容的に、現役適格者の情報公開を行う必要が無かったからであった。
「
「
適格者用の制服に肩から吊るす形で装着する腕章は、その立場を教えるモノであった。
白地に青色のラインが入るのは候補生の立場である事を教えている。
ラインが1本であれば一次選考合格者。
2本であれば二次選考の合格者。
そして三次選考の合格者、即ち正式な
そう、教えられていた。
そして件の候補生が左の二の腕に巻いている袖章は赤、エヴァンゲリオン弐号機である事を示すのだ。
男女を問わず、
全世界に公開された3人の
世界を、たった3人で守ってきたと言う、凄さ。
そして
強さ。
その魅力に、家族の為、立身出世の為と言った理由で志願して来た候補生であっても、逃れる事など出来ずに、当然の如くに囚われていたのだ。
その中にあって相田ケンスケは、俺の激励に来てくれたのか等と
無論、そんな筈はなく、事態は相田ケンスケなど相手にする事も無く進行していく。
「
唾棄する様に、そして恐れるように言った
それは腕章の無い適格者制服を着た適格者候補生を指す言葉だった。
勿論ながらも、一次選考どころか一次選抜を通過した候補生と言う訳では無い。
即ち、第1次E計画で適格者となる事を期待され、しかし成る事の出来なかった子ども達である。
結構な予算と時間を掛けて訓練されていたにも関わらず
同時に、恐れられている理由は、彼らの家が
目の前で馬鹿にした
そして殴られた
そういう権力を持った、
「や、ヤヴァイだろ、アレって」
怯えた様に言葉を漏らした相田ケンスケ。
アスカはエヴァンゲリオン初号機を駆る
自分に何かできる事は無いのか、必死になって考えながら固唾をのんで状況を見守るのであった。
アスカの機嫌は極めて悪かった。
NERVイギリス支部への出張から帰ってきたシンジが、アスカに対して微妙な距離を取る様になったのだ。
但しソレが、悪い種類のものでは無い事は顔を見れば判っていた。
シンジはアスカが顔を近づければほんのりと頬を染め、或いは必死になって顔をそむけるのだ。
それ自体は実に良い事だった。
だが同時に、シンジがアスカを意識する様になった結果として、物理的な意味でのシンジとの距離が遠くなったのだ。
これが許しがたい。
隣で珈琲を飲もうとすれば、微妙に距離を取られる。
食べているモノを差し出せば、真っ赤になって首を左右に振る始末。
意識したのなら距離を詰めて来れば良いのにそうしない。
そもそも、シンジだって
にも拘わらず、である。
実に許しがたい。
殆ど支離滅裂な事を考え、或いは怒っているアスカ。
シンジとアスカの関係はキスどころかそう言う意味でのハグすらまだしたことも無い、言わば
シンジの側に立つ人物、例えば鈴原トウジ辺りであれば、「無茶言い過ぎや!」と言ってくれたであろう。
だが残念。
此処には、それを指摘してくれる人間は誰も居ないのだ。
故にアスカの
「っ!」
否、急に止まった。
それはアスカが聞きなれない、告白と言う単語に絡む事だった。
そう、日本式の人間関係の進化に関する情報を、アスカの虹色脳細胞は思い出したのだ。
区切りなく関係を深めていくドイツ式に比べ、告白と言う区切りを大事だと思う日本式という
その事に気付いたアスカは、閉じていた目を開く。
文化の違いなら仕方がない。
であれば、
碇シンジと言う人物は、惣流アスカ・ラングレーの人生に於いて最早必要不可欠なのだから。
誰に盗らせる事など許せない。
距離があるなど認めない。
今夜、告白をしてシンジを掴まえよう。
そこまでの決断をアスカがした時、その目と耳が周辺の情報を拾った。
「
ベンチに座っている自分を囲む影に気付いた。
「あっ?」
不機嫌な顔で影の主を睨むアスカ。
見れば興味を無くした。
3人の第1次E計画適格者
相手をするのも阿呆くさい雑魚でしかないからだ。
どっかに
本当に雑魚であるとアスカは嗤う。
だが、笑われた側はそうは思っていなかった。
「
唯一、下がらなかったギード・ユルゲンスがドイツ人らしい彫りの深い、額の高い顔を憎々し気に歪めて言う。
それをアスカは鼻で笑って答える。
自分は正しい対応をしているだけだ、と。
顔を真っ赤にするギード・ユルゲンスであったが、激発する事は無かった。
今日、アスカに接近した理由があったからである。
「
理解不能、そして何様の積りかとアスカが眉を歪める。
だがギード・ユルゲンスは良い対価を口にしたとばかりに頷いている。
その上でアスカが聞いても居ない事をペラペラと口にしていく。
曰く、第2次E計画に基づいて
結果、高貴なるギード・ユルゲンスら第1次E計画の適格者候補生の
教官からは期日は未定ながらも第1次E計画候補生の解散と、帰宅の予定が告げられると言う屈辱的状況となった。
だからこそ、アスカを仲間にする事で回避しようと言うのだった。
「
心底呆れた様に言うアスカ。
要するに、アスカの
何とも他人任せ極まりない話であった。
長き訓練をしてきたのに
しかも対価は、アスカをギード・ユルゲンスが彼女にすると言う。
アスカの理解力。知性をもってしても理解出来ない、正に寝言であった。
ギード・ユルゲンスは悪くない顔をしている。
身長も高く、引きしまった均整の取れた体をしている。
家柄に至っては
それ故に、自信満々であったとも言える。
「
だが残念ながらギード・ユルゲンスの魅力は、アスカにとっては魅力的では無かった。
そもそも、かつてのギード・ユルゲンスはアスカを
努力もしないし、結果も無い。
そんな
だから一言で切り捨てる。
「
「
「
アスカの人生に於いてギード・ユルゲンスは不要だ。
だが、それがギード・ユルゲンスには判らなかった。
顔色を変えて手を振り上げる。
「
正に激昂であった。
だが振り上げたこぶしが振り下ろされる事は無かった。
「
シンジだ。
シンジの手がギード・ユルゲンスの腕を掴んでいたのだ。
走ってきた事を示す様に、その灰白色のトレーニングウェアからは湯気が上がっている。
そう。
アスカが此処に居た理由は、
ギード・ユルゲンスの腕を掴んで居ない手には、木刀 ―― 丸い只の棒を持っている辺り、横木打ちもしてきたのかもしれない。
「ナイスタイミングよ、シンジ」
笑うアスカ。
それは、ギード・ユルゲンスたち
2023.1.7 文章修正