サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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11(Ⅱ)-3

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 碇シンジは惣流アスカ・ラングレーとの距離を取り切れずにいた。

 好きだと言う気持ちの自覚は、アスカの父親であるヨアヒム・ランギーの手によって完全な形で為された。

 為されてしまった。

 好きと言う気持ち。

 言葉にして、口にだして認めてしまえば、後は楽になった。 

 アスカと一緒に居たい、そして離れたくないと言う想い。

 だからこそ迷ったのだ。

 自分が、アスカを好きだと口にして良いのかと言う思い。

 

 アスカと仲が良いと言う点は自信を持っている。

 が、それは友人(気の置けない相方)としてなのではないかとの疑念とも言えた。

 かつてアスカが常々言っていた、加持リョウジへの好きと言う言葉が、シンジの足を止めたとも言える。

 人一倍に、羞恥心と言うモノが強いが故にとも言えるだろう。

 

 兎も角。

 自覚してからというもの、()()()()()()()()()()()()に常に誤解するなと自分に言い聞かせていた。

 煩悩を払う様に、一心不乱に木剣(適当な木の棒)を振るった。

 横木が用意出来なかったので、適当な木を選んでの立木打ちをした。

 猿叫と共に振るう木剣。

 100回と200回と振っても消えなかった。

 アスカの顔が脳裏から消えなかった。

 だから1000回と振るった。

 木が折れた。

 そこまでしてもアスカの顔は消えなかった。

 消えなかったからこそ、一心不乱では無く雑念交じりに振るってしまったのではないかとシンジは思い、戻って休憩する事を選んだ。

 正に()春の悩み。

 だが、そんなシンジの悩みもアスカが見ず知らずの他人(ギード・ユルゲンス)に腕を振り上げられている姿を見た瞬間、消え失せていた。

 

おはんサァ()ないをしちょっか(何をしようとした)?」

 

 

 

 アスカに対して躾けてやるとばかりに腕を振り上げ、そして掴まれたギード・ユルゲンス。

 銀のスプーンを咥えて生まれた(実家が太く、配慮されて生きて来た)が故に、その様な物理的な邪魔をされたのは初めての経験だった。

 親からの教育、或いは家庭教師による教育は別として、NERVでの適格者(チルドレン)候補生として扱われていた日々に、そんな事などなかった。

 だからこそ、最初、腕を掴まれたと言う事に驚いた。

 睨まれると言う事にも、驚いた。

 驚きの余り、反応が出来なかった。

 

Huch(何だと)!?」

 

 とは言え、その声に仲間(とりまき)が反応する。

 

Lassen Sie Ihre Hände los(手を離せ)!」

 

Massenprodukte(第2次適格者候補生風情が)!」

 

 シンジを相手に殴り掛かった。

 今、シンジが着ているのは候補生が来ているモノと同じ灰白色のトレーニングウェアであり、適格者(チルドレン)を示すモノは何も身に着けていない。

 だから、なのだ。

 取り巻きの2人はシンジを、義侠心(蛮勇)を持ってギード・ユルゲンスに歯向かった愚か者(第2次適格者候補生)だと思い込んだのは。

 殴って躾けてやる。

 そういう()()であった。

 暴力は禁じられている。

 だが、多少の暴力沙汰は自分たちの(実家)でもみ消せる。

 そう思えばこその慢心であった。

 快音。

 堅い木の音と共に、慢心は止まる。

 2つ拳は、シンジが盾とばかりに動かした木剣によって止められた。

 2人分の重さを、シンジは腰を入れ、肩を入れ、真っ向から封じてみせる。

 

ないがちよ(それがどうした)

 

 笑うシンジ。

 殴り掛かられたと言う事で、正当防衛の様式は揃ったのだ。

 立木打ちでも発散できなかった()()を発散するには丁度良いとばかりの、正に獣の笑いだった。

 両手を離す。

 ギード・ユルゲンスからも木剣からも手を離す。

 踏み込み。

 利き手の側、先ずは右手に居た取り巻きから潰しに掛かる。

 1足で距離を詰め、避ける事も回避も許さず肘打ちを放ったのだ。

 コンパクトな軌道の、抉る様な一撃は、見事に吹き飛ばした。

 

Barnabas(バルナバス)!?」

 

 一見すれば優男風のシンジが、割と大柄な取り巻きBことバルナバス・ネッツァーを吹き飛ばした。

 その事に残った取り巻きAことアルヴィン・マイネッケは驚き、同時に、己を諫めた。

 相手はギード・ユルゲンスに手を出す様な馬鹿だが、格闘術(バリツ)を学んでいたバルナバス・ネッツァーを殴り飛ばした相手だ。

 決して油断は出来ぬと認識を改め、真剣にシンジを潰そうとする。

 アルヴィン・マイネッケはシンジよりも細身であるが、ボクシングを学んでいた。

 ギード・ユルゲンス程では無いが、アルヴィン・マイネッケも良い所(良家)の出であるが、そうであるが故に格闘技を学んでいるのだった。

 ある種の伝統として、体を鍛える事が義務めいているのだった。

 

 小刻みにステップを踏みながらシンジに迫るアルヴィン・マイネッケ。

 近代的な、科学を背景にして育てられたボクシングと言う闘術。

 牽制の為の小刻みなジャブ。

 そして踏み込み。

 だが、踏み込みと言う意味に於いてはシンジもまた決して劣る所は無かった。

 被弾上等とばかりに顎を引いての吶喊。

 

Tu()!?」

 

 アルヴィン・マイネッケのジャブは確かにシンジを捉えた。

 だが伸びきる前の拳が、堅い額に当たっただけなのだ。

 であれば威力を発揮する(シンジに痛みを与える)よりも、拳を痛めるだけに終わる。

 そしてもう1つ。

 シンジに間合いに踏む込まれたのだ。

 ジャブで伸びた右腕を掴み、そのまま一気に左に相手を巻き込み、そして押し倒す。

 肩を極める。

 NERVで、戦闘訓練の一環として学んだ格闘術、その応用だった。

 シンジはボクシングを舐めなかった。

 拳の応酬と言う意味では格上だろうと思い、であるからこそ関節を潰す動きを選んだのだった。

 

Was denn(何だよ)!?」

 

 悲鳴を上げるアルヴィン・マイネッケ。

 ボクシングでの痛みに馴れてはいても、関節を締め上げられる痛みと言うのは未体験だったのだ。

 さて、これからどう()()してやろうかとシンジが手段を考えた時、アスカが笑って

 停めた(レフリーストップだ)

 

「シンジ、そこでaufhörenよ。もう十分だもの。それから、Du bist ein Idiot.(馬鹿よね) Ihr könnt Shinji nicht schlagen(アンタたちがシンジに勝てる訳がない)

 

 後半は、ギード・ユルゲンスが相手だった。

 拳を握って、アルヴィン・マイネッケを助けに入ろうかと窺っている、その機を制した形だ。

 不快気に鼻で笑い、答える。

 

Was sagst du(何を言ってる)? Der Azubi ist frech(訓練生風情が生意気だ)!」

 

Ich disqualifiziere dich(失格にしてやる)

 

 殴り飛ばされ、顔に芝の枯れ草を纏わせたバルナバス・ネッツァーが吠えた。

 が、それがアスカの笑いをより深くする。

 

Auszubildenden(訓練生)? Fehler(間違いね) Disqualifikation(失格)? Das ist unmöglich(無理よ) Sein Name ist SINJI-IKARI(カレの名前は碇シンジ) Offizieller Kinder(正式なチルドレン)

 

 その紹介をするアスカは、その日一番の自慢顔(ドヤァ顔)であった。

 

 

 

 

 

 シンジとギード・ユルゲンス及び取り巻きとの一幕(暴力沙汰)

 おっとり刀でやってきた第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)候補生の教官たちや、スタッフが慌ててシンジとアスカ、そしてギード・ユルゲンスたちの間に入って隔離して終わる事となる。

 其処から先は大人の時間となる。

 公衆面前、沢山の第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)候補生が見ていたと言う事もあって有耶無耶になる事は無かった。

 同時に、その決着(裁定)はギード・ユルゲンスが今まで出来ていた様なモノでは無かった。

 最初に動いたとされるシンジは、VIP(重要人物)であるアスカが襲われているのを守ろうとしたと言う事でお咎めなし。

 否、小言は言われた。

 シンジも又、VIPである適格者(チルドレン)なのだから、自分を守る事も大事にして欲しいと説教された。

 ある意味で冗談(武勇伝)の範囲、或いは土産話程度の事だろう。

 対して洒落にならない事となったのはギード・ユルゲンスと取り巻き2人であった。

 子どものした行為とは言え、碇ゲンドウら組織トップを除いて()()()()()()()である適格者(チルドレン)に暴力を振るおうとしたのだ。

 否。

 未遂ではない。

 振るっているのだ。

 それが未遂めいているのは、振るわれた側(シンジとアスカ)が自衛する力を持っていた事、そして発揮したお陰であった。

 その意味に於いて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 特にアスカの父親であるヨアヒム・ランギー(NERVドイツ支部 №3)が激怒しているのだ。

 生半可な処置では許されないと言う勢いであった。

 尚、対してシンジの父親である碇ゲンドウは、NERVドイツ支部の人間からすれば空恐ろしい程に無反応であった。

 その本音的な部分としては、少しシンジが痛い目にあったのであれば良いし、適格者(チルドレン)保護と言う意味での制裁はシンジ自身がやっただろうから問題は無い ―― そんな極めていい加減なモノであったが。

 とは言え、周囲はそう取らない。

 特にNERVドイツ支部としては、この少し前にも処断(ゲンドウの仕置き)を受け支部長以下、数名の首が飛んでいるのだ。

 試されている、と思うのも当然であった。

 結果として尋常では無く重い処分が下る事となる。

 ギード・ユルゲンス以下3名の、NERVからの追放。

 及び経歴の抹消である。

 NERVに所属していたと言う経歴が消えるのだ。

 その上で、追放処分と言う事でNERVはおろか国連機関にも再就職する事は不可能になる。

 経歴に付いた染みと言う意味では、極めて厳しいものであった。

 

 当然ながらも、ギード・ユルゲンスは強く反発し、処分の撤回を要求した。

 ユルゲンス家を介してSEELE(ユルゲンス家の本家筋)にまで話を回したが、撤回が通る事は無かった。

 それどころか、以前からの素行の悪さを指摘され、更には第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)候補生を追放した事を言われる始末であった。

 今までの、ちやほや(腫れもの扱い)されてきた状況との落差に驚くギード・ユルゲンス。

 だが驚いている間にも情勢は動いていく。

 現実は過酷であった。

 正式にNERVからの追放が決まるまでの時間。ギード・ユルゲンスはせめてと1つの願いを口にしていた。

 自分とシンジの試合である。

 暴力沙汰で追放されるのは受け入れよう。

 だが、自分はシンジに何もしていない。

 だからこそ、一度、白黒を付けさせてほしいとの事であった。

 自分が優れていると言う事に自負を持っているが故の。態度であった。

 適格者(チルドレン)と、その候補生。

 NERV総司令官の息子と、SEELEメンバーの縁者。

 肩書では負けているかもしれないが、男としては負けていない。

 そう言う話であった。

 

 誠にもって子どもの気分(癇癪)でしか無かった。

 シンジとの試合などありえなかった。

 ()()()()()()

 

 

 

Es ist eine interessante Behauptung(面白い主張をするじゃないの)

 

 そう笑って言うのは第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)候補生の格闘教官であったアーリィ・ブラストであった。

 ギード・ユルゲンスは自負を持つ程度には強い。

 だがアーリィ・ブラストの見る所、シンジには先の暴力沙汰で見せた()よりももう一段、深い何かを持ってて見えた。

 だから良い。

 シンジの本質を見極めるのに丁度よいと言うものであった。

 アーリィ・ブラストとその一党(アーリィ班)にとってアスカは大事な、可愛い末の妹めいた存在なのだ。

 だからこそ、シンジを見極めたかったのだ。

 

 正に私情。

 私情をもって、ギード・ユルゲンスの訴えを認める様に手回しをするのだった。

 かくして、シンジとギード・ユルゲンスの試合が認められる事となる。

 

 

 

 

 

 




2022.12.13 文章修正

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