サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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 第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)候補生の寮は男女別となっている。

 200名を2人部屋に分ける為、都合100部屋を必要としている。

 とは言え、男女が綺麗に100名づつ選ばれたと言う訳では無いので、100部屋あれば良いと言う訳にはならなかった。

 そもそも、寮は新設ではなくNERVドイツ支部にほど近い閉鎖された(潰れた)ホテルを買い取って改装したモノであった。

 護衛部隊の配置その他も必要である為、大規模なリゾートホテルが選ばれていた。

 その由来故に設備の整った厨房があり、提供される料理は中々の旨さとなっていた。

 

 

Delicious(旨い)!」

 

 第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)の候補生であるヨナ・サリムは思わず声を漏らしていた、

 今日の主菜はボイルしたソーセージであったが、肉々しく、実にジューシーであったのだ。

 未だ大崩壊(セカンドインパクト)の余波が抜けきれない祖国に居る親兄弟に喰わせてやりたいと思う程に。

 とは言え、こちら(NERVドイツ支部)で食べ物を買って送る等は出来ない。

 途中で()()に遭う事が確実だからだ。

 それよりは、支給される生活費(給与)を家族の口座に振り込んだ方がまだ届くと言うものであった。

 

 ソーセージを齧り、ザワークラウトを平らげていく。

 これにシチューとパンが付くと言う実にドイツなメニューだ。

 安定した国(先進国)から来た候補生は、揃って飽きる等と文句を言っていたが、ヨナ・サリムからすれば何と贅沢な事を言うモノだと呆れる限りであった。

 と、ソーセージの最後を齧ろうとした所で、テーブルに新しい人間がやってきた。

 

Hi(お疲れ)

 

 咀嚼中だったので、軽くフォークを握っていた手を少しだけ動かして返事とした。

 食に五月蠅い候補生(贅沢舌)の筆頭と言うべき日本人の候補生、霧島マナであった。

 ヨナ・サリムの相部屋が日本人の相田ケンスケと言う事もあって、霧島マナとは割と会話をする(コミュニケーションを取る)関係にあった。

 

 第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)は最終的に12人が選ばれると言う事は公開されている。

 この一次選考通過した立場から見ても、実に6%しか残れない過酷な選考となる。

 全ての人間が(ライヴァル)となるのだ。

 適格者(チルドレン)としてエヴァンゲリオンに乗ると言う意味では。

 だが今となっては、そこまで思い詰めている人間は少数派だった。

 ヨナ・サリムを含めて大半の子どもは良い環境と、家族を支えたいと言う思いで手を挙げた人間が多かった為だ。

 一次選考を通過したお陰で、NERVでの採用が決まった(未来へのチケットを得た)と言う事が大きいと言えるかもしれない。

 とは言え、一次選考が行われるまでの対立的な人間関係(ギスギスとした雰囲気)が尾を引いおり、完全に融和的(フレンドリー)になったかと言えば難しい所があったが。

 

Not really.(そうでもないよ) I'm eating delicious food(御飯が美味しいからね)

 

Ok(それは良かった) Bat(でも) This person is not energetic(コレは元気が無さげよね)

 

 そう霧島マナが指したのは、しょぼくれた顔でスプーンを動かしている相田ケンスケだった。

 死んだ魚の様な目をしている。

 霧島マナがテーブルに来た事にも気付いていない。

 

Since what time is it in this state(何時からこのザマなの)?」

 

It is from noon(昼のアレからだよ)

 

Aha(そう言う事ね)

 

 深く頷く霧島マナ。

 同郷のよしみ(日本語が通じるから)と相田ケンスケとは雑談をする仲である為、ある程度は()()を知っていたのだ。

 相田ケンスケがRed-Two(2nd チルドレン)と同級生であった事、本名と素顔を知っている、と。

 こっそりと(満面の笑みで)自慢されていたのだから。

 そして、その話しぶりから特別な感情を抱いている事も察していた。

 別に霧島マナが敏いからと言う訳では無い。

 あからさまに語る際の熱量が、男であるPurple-One(3rd チルドレン)は勿論、相当な美少女に見えたBlue-Four(1st チルドレン)とも違っていたのだ。

 誰の目にも判ると言うものだろう。

 久々に会えたけど、顔を合わせるどころか声も掛けて貰えず凹んだと言った所だろうかと当たりを付ける。

 少しばかり楽し気な顔をする(悪い笑みを浮かべる)霧島マナ。

 

「ふーん」

 

 他人の恋路程に、愉快なモノは無い。

 そう言う顔であった。

 年頃の子ども(思春期の乙女)らしいとも言えるだろう。

 だから、俯いていた相田ケンスケの耳をそっと引っ張った。

 

「凹んでる?」

 

「………霧島か」

 

 上目遣いの相田ケンスケ。

 前髪から覗くその目は死にそうな色であった。

 

「セカンドさん、会えたけど逢えなかったから残念?」

 

「そんなんじゃ、ないよ………」

 

 ボソボソとした声で反論する。

 とは言え、目は即座に下におろされていたが。

 頭ごと俯いていた。

 深い溜息もついている。

 その様は正に傷心と言った所だろう。

 

「遠目でも美人ぽかったものね、セカンドさん。それにサードさんも格好良かったね」

 

Purple-One(3rd チルドレン)?」

 

 サードの言葉に誘われて、ヨナ・サリムが会話に入ってきた。

 相田ケンスケのお陰で少しだけ日本語が判るのだ。

 

Yes(そうだよ)! イカスよね!!」

 

He was strong(彼は強かった) ツヨイ! スゴイ、ね」

 

 相田ケンスケを放り出し、碇シンジの話題で盛り上がる霧島マナとヨナ・サリム。

 日本語と英語、それにアラハム語(エチオピアの公用語)が入り混じっている辺り、実に第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)候補生たちらしいと言えるだろう。

 それに、近いテーブルの面々も集まって来て、昼に見たシンジの格闘力を評価しあっていた。

 強いとか早いとか、躊躇が無かったというのもあった。

 皆が皆、二次選考に向けた訓練の中で格闘術も習っている為、シンジの動き(ワッザ)がある程度は理解出来たのだ。

 男子陣は、シンジの身のこなし(2人を瞬殺した事)を主に評価した。

 

He used KARATE(彼は空手を使ったんだ)! He's a KARATE-Master(空手の達人だよ)!!」

 

Not(違うよ)! Judo(柔道だよ)!!」

 

Yes(そうだよ) joint technique(関節技だった) He's a Learning JUDO(彼は柔道を学んでるんだ)

 

 対して女子陣は、王子様の様に襲われる姫(惣流アスカ・ラングレー)を守ってみせた事を主に評価した。

 

Appeared cool(格好良く来たものね)!」

 

Like a prince from a fairy tale(おとぎ話の王子様みたいだったわ)

 

And it's strong(しかも強かったわよ)!」

 

Perfect(完璧よ)!!」

 

I also want him to protect me(私もあの人に守ってもらいたいな)

 

 総じて言えるのは、誰もギード・ユルゲンスら適格者候補生に対して同情しないと言う事だろう。

 言葉に載せようともしない。

 身分を笠に着た横暴、暴言、そして暴力。

 嫌うのも当然だった。

 一方的に馬鹿にしてくるのだ、阿る人間は出なかった。

 だからこそ、()()()()などと陰口を叩いていたとも言える。

 第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)候補生が汗と涙、少しばかり血を滲ませて得た腕章(一次選考合格章)を持っていない、と。

 

 そんな盛り上がった食堂を他所に、相田ケンスケはポツリと呟いた。

 

「そんなんじゃないさ」

 

 遠目で見て近づけなかったから? 違う。

 会話が出来なかったから? 違う。

 そんな事で傷つく程に、相田ケンスケは自分とアスカとの距離が近いなんて夢は抱いていない。

 告白し、Nine(嫌っ)! と返された思い出は、まだ胸に痛みと共にある。

 だからこそ、あの懐かしい第3新東京市市立第壱中学校2年A組を抜け出て第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)に志願したのだ。

 エヴァンゲリオンの操縦者になりたいと言う願望(厨二病めいた情動)は確かにある。

 だが、それ以上に、このままではシンジに勝てないとの思いもあっての行動だった。

 シンジはアスカの直ぐ傍に居るのに、アスカの魅力に気付いていない。

 大事にしていない。

 だが自分は違う。

 アスカを大事にする。

 大事にしたい。

 そう思って居たのだ。

 

 それは相田ケンスケの胸にある、キラキラとした想いだった。

 初恋の煌きとも言えるだろう。

 だが今日、相田ケンスケは動けなかったのだ。

 アスカが素行不良の適格者候補生に絡まれた時、助けに動く事が出来なかったのだ。

 ()()と思って、足が竦んでしまったのだ。

 ギード・ユルゲンスら残っている適格者候補生たちは皆が武術を嗜んでいた。

 威圧する様に殴られた第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)候補生も居たし、試合と称して弄られた奴も居た。

 相田ケンスケも殴られた事があった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 強い適格者候補生が3人も居るのだ、と。

 だが、シンジは違っていた。

 アスカに暴力が迫ってる(拳が振り上げられている)と気付くや、最速で駆け抜けていって、それを止めた。

 止めただけで無く、1対3をものともせずにアスカを守り切ったのだ。

 出来る出来ないの前に、自分は最初の一歩が踏み出せなかった。

 そう、それは正しく敗北感だ。

 相田ケンスケもまた男の子であり、自分に嘘をつく事は出来ないのだ。

 だからこそ打ちのめされたと言えるだろう。

 

「元気ないわね」

 

「あるわけねーよ」

 

 ほっといてくれ、と言う思いを乗せて霧島マナを否定する相田ケンスケであったが、そうは問屋が卸さなかった。

 根が陽性な霧島マナは、暗くなった人間を見捨てないのだ。

 

「よし、おっぱいで元気出そう!」

 

「ハァ!?」

 

 オッパイと言う単語に思わず顔を上げた相田ケンスケ。

 実に思春期だ。

 だが、目の前に立っているのは霧島マナでは無かった。

 大きな影。

 第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)候補生で一番の大胸筋を持つ()、アルフォンソ・アームストロングであった。

 

Leave it to me(任せてもらおうか)

 

Nooooooooo(嫌だァァァァァ)!!」

 

 ムキっとした大男に抱きしめられるッという事に、相田ケンスケの感傷的(センチメンタルな)気分は吹き飛ぶ。

 大声で全力拒否を表明するのだった。

 

Don't hold back.(遠慮はするな)

 

No(違うって)!」

 

 必死になって逃げ出す相田ケンスケ。

 笑いながら追いかけるアルフォンソ・アームストロング。

 そんなコミカルな2人に、霧島マナや他の第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)候補生は腹を抱えて笑うのだった。

 

「チキショーメ!!」

 

 そして相田ケンスケも、逃げながら何時しか笑うのだった。

 

 

 

 

 

 笑って居られる第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)候補生たちと比べ、大人(教官)たちは笑っている暇は無かった。

 アーリィ・ブラストの働きかけで決まったシンジとギード・ユルゲンスの試合準備があったからである。

 準備、と言うか試合のルールをどうするかであった。

 ギード・ユルゲンスは男らしいフェンシングでの試合を口にしていたが、それはシンジが難色を示した。

 当然である。

 フェンシングの道具は勿論、ルールの類も一切知らないのだから。

 対してギード・ユルゲンスは全欧州ジュニア大会でのベスト4に入っているのだ。

 何ともあからさま過ぎる狙いに、血の気の多いアスカですら怒る前に失笑する話であった。

 だからシンジの代わりとばかりに、笑いながらEntlassung(却下)と言うのであった。

 この反応にギード・ユルゲンスは男の戦いから逃げるつもりかと声を上げていたが、シンジは勿論として教官たちも、そんな()()を相手にする事は無かった。

 そもそもとして、決闘めいた試合を欲した(決闘しろと手袋を投げた)のはギード・ユルゲンスだ。

 そして、古来より決闘は、手袋を投げられた側が戦いの内容を決める権利があるとされているのだ。

 故に、実家であるユルゲンス家すらもギード・ユルゲンスを支持する事は無かった。

 では防具を付けて無手での格闘戦、もしくヨーロッパでも愛好者の出ている剣道の道具(竹刀)を用いてはどうかと云う話となった。

 日本の伝統的な製法で作られている竹刀は、銃剣格闘訓練用の小銃を模したウレタン製のバトン(最新式の訓練道具)に比べれば少しばかり危険度が高いと言う部分があった。

 だが、試合をする両者が受け入れれたのだ。 

 シンジからすれば木刀に似た形なので問題は無かった。

 ギード・ユルゲンスにとっても、握れる所が制限されているバトンに比べれば、竹刀は剣と言う形であるので使いやすいと受け入れたのだ。

 とは言え教官陣からすれば、竹刀は少しばかり危険過ぎた。

 シンジにせよギード・ユルゲンスにせよ、怪我などされては困るのだ。

 結果、竹刀にウレタンを巻いたモノが使用される事となった。

 

 

 ウレタンを巻いた、試合向けの竹刀。

 重さも重量バランスも別物になったソレを振るうシンジ。

 その動作に別段の乱れはない。

 

「大丈夫なの?」

 

 見守るアスカが、秀麗な眉をまげて尋ねる。

 実に不機嫌そうであるが、ある意味で仕方がない話だった。

 シンジに告白する(シンジを自分のder Freundにする)と決めていたのに、邪魔者(ギード・ユルゲンス)邪魔(試合を要求)したのだ。

 アスカはシンジが負けるなど露ほども思っていない。

 だが、試合前に邪魔をするのは良くないと我慢したが故の事だった。

 盛り上がって()()()()()()をやってしまい、寝坊とか寝不足になっては駄目だと言う事だった。

 アスカ。

 真面目である。

 同時に、試合に勝った後にはご褒美(Heißer Kuss)をするべきか等とも考えていた。

 試合の発端は自分だ。

 シンジはアスカを守るが為に、試合になったと言えるのだ。

 であれば、褒美を下賜するのも当然ではないかと思ったのだ。

 同時に、公衆面前で実行する事で、大きな効果を狙う積りでもあった。

 ()()()()

 アスカは件の際、見ていた。

 気付いていた。

 自分に対して向けられた熱い視線、それと同じ位に熱い視線がシンジに向けられていた事に。

 乙女の感(恋敵レーダー)は万能にして完璧なのだ。

 自分はシンジと共にいる。

 シンジは自分の為にいる。

 そう満天下に示すべきだと、アスカの女の部分(アイギスめいた乙女の戦闘システム)が告げているのだ。

 シンジ以外の男は全て邪魔。

 世の女は全てが敵と敵の予備群。

 実にアグレッシブな恋愛観と言えるだろう。

 ある意味でアーリィ・ブラストの影響とも言えた。

 

 兎も角。

 そんなアスカの熱視線を背中に受けながら、シンジは熱心に素振りを行うのだった。

 振る速度。

 重量バランス。

 竹刀は勿論、木刀や木剣の類とも違う感じ。

 だがシンジは頓着しなかった。

 弘法筆を選ばずと言う訳では無いが、振りぬいて壊れないのであれば問題は無いと言うのが正直な感想だったからだ。

 刃の長さは間合いに直結するから重要ではあるが、極簡単に言えば飛び込んで得物を振ると言う単純明快な(シンプル極まりない)戦い方をするシンジにとっては、それは踏み込み具合を調整する事で何とでもなる事なのだから。

 横木打ちでも立木打ちでも無い、只の素振り。

 だからシンジは猿叫を上げない。

 素早くも行わない。

 只々黙々と、このウレタンを巻いた竹刀の具合を自分に馴染ませる為に行う。

 ドイツに来て色々とあった。

 アスカの家族にあった。

 アスカへの気持ちに気付いた。

 アスカを傷つけようとした阿呆が居た。

 

「………」

 

 竹刀を握るシンジの手の力が増した。

 不快だ。

 不快極まりない。

 アスカが自分を選ばないなら、それは仕方がない事だ。

 悲しいけども。

 細身な自分よりも、がっしりとした筋肉のある男らしい人が好きかもしれない。

 或いは加持リョウジの様な飄々とした態度の、大人が好きなのかもしれない。

 アスカにも好みはあるのだ。

 である以上は、辛いけど仕方がない。

 好かれる様に努力したい。

 だからこそ、ナニガシの暴力などでアスカを好きにしたいなどと云う奴は赦しておけぬ。

 アスカとの空気が好きだが、それと同じ位にアスカの放つ煌きが好きなシンジにとって、それを曇らせよう(力で手折ろう)と言うのは赦し難い行為であった。

 ギード・ユルゲンス。

 今日の試合相手、その実にドイツ人と言うべき風貌を思い出す。

 実家が良家(富豪)なのだと言う。

 国連に関係する家柄なんだとも言う。

 だから、NERVドイツ支部で傲慢に振る舞っていたと言う。

 アスカからも、昨日は俺の女にしてやる(Ich mache es zu meiner Freundin)等と言われたと聞いた。

 赦せるものでは無いのだ。

 

 素振りの速度が上がる。

 只、その顔は凪いでいた。

 息を乱す事無く、唯々、上下に振るう。

 

「シンジ!」

 

 と、アスカがシンジの名を呼んだ。

 素振りを止めたシンジが振り返れば、アスカの傍にはNERVドイツ支部のスタッフが来て居る。

 

「時間だって」

 

「判った」

 

 アスカが差し出したタオルで顔を拭い、そして水を飲むシンジ。

 

「熱心だったわね。やり過ぎてない?」

 

「丁度いいくらいに温まった感じかな」

 

 別に強がりなどではない。

 多い時には1000回からの、それも立木打ち(全力での振り抜き)叫びながら(猿叫を上げながら)するのがシンジだ。

 如何に数が多くとも、或いは早く見えても、余力があると言うモノであった。

 

「なら良いわ。防具を付けて試合の場(ステージ)に上るわよ」

 

 

 

 

 

 ギード・ユルゲンスは不快だった。

 不満だった。

 赦し難い状況であると思って居た。

 家柄も才覚も持った、選ばれた身である筈の自分がNERVを追放されると言う。

 あり得ない。

 シンジがNERV総司令官碇ゲンドウの息子と言う立場を利用し、卑劣な事をやったとしか思えなかったのだった。

 今まで問題になっていない軽い事を、さも大事であるかのようにした卑劣漢。

 確かに正規適格者(チルドレン)であるアスカに手を挙げたのは紳士的で無かった(ノンフェミニストな態度であった)が、男女関係には()と言うモノも大事なのだ。

 その意味では、ごく普通の事でしかない。

 にも拘わらず、自分はNERVから追放される(栄光の道を断たれる)

 ()()()()()()()()()()()()()

 男としての格の差を見せつけ、シンジの力は親の七光りでは無いかと突き付けてやる積りであった。

 

 全身の防具、そしてウレタンを巻いた竹刀を確認するギード・ユルゲンス。

 自分だけではなく、付き添いに志願してくれた分家筋の親戚であるヨハン・エメリヒと一緒にする。

 たった2人だった。

 最後まで一緒に居た仲間であるアルヴィン・マイネッケもバルナバス・ネッツァーも、拘束されていて、試合会場には来れない。

 試合会場の上にある観覧席で、NERVスタッフに監視されながら見ているのだから。

 フト、感じた寂しさにギード・ユルゲンスは2人の居る方向を見上げる。

 目と目が合う。

 大きく腕を振っていた。

 忠臣(取り巻き)の反応に気を良くしたギード・ユルゲンスは、日頃から慣れ親しんでいるフェンシング用のソレ(エペ)に比べて田舎くさく、デカく、重く、そして不細工にしか思えない武器擬き(ウレタンを巻いた竹刀)を掲げて応じた。

 勝って自分たちの正しさを示してやる。

 改めて、そんな気持ちが湧き上がる。

 

sie müssen vorsichtig sein(気を付けないと駄目です)

 

 と、ヨハン・エメリヒが注意を促す様に言う。

 その意図をギード・ユルゲンスも受け入れる。

 

Ich verstehe(判っている)

 

 シンジ、或いはシンジに阿ったNERVドイツ支部の卑劣漢が何の小細工をしたか判らないと思えるからであった。

 偵察とばかりにシンジの所へ送った人間は入り口で追い返されている。

 ユルゲンス家の名前を出しても無駄だった。

 入口に居たスタッフも買収か何かをされているのだろう。

 何か後ろ暗い事があるから、そうするのだ。

 決まっている。

 だからこそ、勝たねばならない。

 ギード・ユルゲンスの気分は、ただひたすらに盛り上がっていた。

 

Ich bin hier(来ました)!」

 

 見ればシンジが対面に来ていた。

 ヨハン・エメリヒの様に、介添え人としてアスカを連れている。

 実に許し難い。

 混血児だが、否、混血児だからこそアスカには純血のドイツ人には無いオリエンタル(日本人の血由来)な美しさがあった。

 だからこそ選ばれた人間である自分、ギード・ユルゲンスの傍にあるべきなのだ。

 それをNERV総司令官の息子だからと傍におくシンジ。

 実に許し難い。

 対使徒戦の英雄(エース)等と言われているが、野蛮な武器でただ殴り掛かっているだけではないか。

 あの様なモノ、使徒が弱いから倒せたのだ。

 自分ならもっとうまくやれるだろう。

 今日は良い日だ。

 英雄(エースオブエース)等と持て囃される3番目の適格者(3rd チルドレン)、碇シンジの化けの皮を剥がしてやる日なのだから。

 

Es ist Zeit für Bildung(教育してやる)

 

 鼻息も荒く言い放っていた。

 

 

 

 シンジとギード・ユルゲンスの試合。

 それは、形式としては武器ありの総合格闘戦となった。

 ウレタンを巻いた竹刀が最初に与えられるが、それを捨てて素手で戦っても良い。

 関節技や寝技も許される。

 但し、急所攻撃は禁止。

 試合の終了は降参(aufgeben)と声を上げるか、地面を2度叩く事とされた。

 正に無差戦(気がすむ迄、殴り合え)であり、実に実戦的(シュート)であった。

 その説明を外野 ―― 試合会場となる多目的体育館のテラスで聞いた相田ケンスケは呆れる様な気持ちとなった。

 第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)候補生も、後学の為として見学を許されていた。

 今後本格化する格闘訓練の為、であった。

 第2次E計画の下、建造が進められている第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンは、運用可能な適格者(起動し運用できる適格者)を増やす為に制御システムのみならず機体の構造なども徹底的な簡素化を行っていた。

 結果、現行の各エヴァンゲリオンに比べると全くと言って良い程に格闘戦闘に向いていない。

 だからこそ、運用計画も格闘戦闘を前提としない形で立案されている。

 とは言え戦闘となれば何が起こるか判らない。

 人類の理解力を越えた所があるのが使徒だからだ。

 NERVの科学技術部門のトップ()となる赤木リツコ技術開発部部長代行は使徒に対して曰く。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 実に現実的な話であった。

 だからこそ、可能性の格闘戦闘もカリキュラムに含まれるのであった。

 

 格闘技の基礎的な訓練はもう受けだしている相田ケンスケは、シンジとギード・ユルゲンスの試合のルールが持つ意味を誤解しなかった。

 必殺的な攻撃以外が許された、実質、何でもアリの喧嘩じゃないかと。

 

「ま、シンジだから勝つだろうけどさ」

 

「でも腕章無し(第1次E計画)でユルゲンスって、剣術(フェンシング)で凄いって話だったじゃない?」

 

「ソウダ。Top prowess in GERMANY(国内上位の腕前) Was bragging(自慢してた) ダヨ?」

 

 ヨナ・サリムの疑問。

 それを相田ケンスケは否定する。

 

If this match is played in fencing(これがフェンシングの試合ならね)

 

 この試合がフェンシングのルール下で行われる競技(スポーツ)であれば話は違う。

 だが、この試合は事実上の無差別格闘戦(ケンカ・ファイト)だ。

 である以上は、話が変わってくる。

 

Let's focus(注目しよう)

 

 周囲にそっと声掛けをする相田ケンスケ。

 シンジの性格を知り、そして実際にエヴァンゲリオン初号機での戦いを見たが故に判るのだ。

 決着は直ぐにつくだろうと。

 

 

 

 試合の場、その中央に立つシンジとギード・ユルゲンス。

 審判にはアーリィ・ブラストが立っている。

 何か在れば実力で止められる(制圧できる)からであった。

 

 既に、禁止事項の再確認などは終わっている。

 儀礼的な握手も済ませている。

 握手の際、見ていた周りの人間はハラハラとしていたが、()()()()()が起こる事は無かった。

 シンジは言うまでも無い。

 路傍の石の如く踏みつぶす、立木の様に倒す(叩き斬る)だけの相手に何かをするなんて無駄に興味など無かったのだ。

 ギード・ユルゲンスも、無駄な事をするよりも(ウレタン巻き竹刀)で殴った方が良い、気持ちが良い。

 そう言う話であった。

 2人の闘志は満ち満ちている。

 もはや言葉は不要と言う所であった。

 

 2人の目を見て最終確認を済ませたアーリィ・ブラストは二歩ほど下がって、右手を高々と掲げた。

 

Fight(始めっ)!」

 

 振り下ろされた手。

 その瞬間、シンジとギード・ユルゲンスの動きは全く同じだった。

 突進である。

 シンジは蜻蛉の姿勢では無く、八相の構えで腰を落として突進する。

 

「キィィィィィィィィィィ!!」

 

 狂を発したが如き猿叫が、体育館じゅうに響き渡る。

 対するギード・ユルゲンスは、ウレタン巻き竹刀をエペ(フェンシング用武器)の如く構えて奔る。

 

「Yaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

 シンジ同様に、声を上げ己を鼓舞しての突進だ。

 狙うのはシンジの喉元。

 如何に防御しようとも、当たれば1発で悶絶する場所だ。

 ギード・ユルゲンスがドイツのフェンシング大会で上位入賞した原動力となった、必殺技であった。

 

 広くはない試合場。

 両名、全速で前にでている為に3歩目で接触する。

 先に相手に命中(HIT)したのはギード・ユルゲンスの攻撃であった。

 竹刀を付きだしての突進なのだから当然と言えるだろう。

 だが、その切っ先がシンジの喉元を捉える事は出来なかった。

 八相に構える、そのシンジの左腕が盾となったのだ。

 これがフェンシングであれば有効であっただろう。

 或いは剣道の試合であれば小手打ちとなってギード・ユルゲンスが勝利していたかもしれない。

 だが、これはフェンシングでも剣道でも無いのだ。

 その事をギード・ユルゲンスは、シンジの突進 ―― 左腕に受けた突技をものともせず迫られた事で思い出していた。

 試合であって試合(スポーツ)では無い。

 咄嗟に逃げる事を選ぼうとするが、その様な時間を与えるシンジでは無かった。

 突進。

 その儘の勢いでギード・ユルゲンスの顔面に竹刀を握ったままの両拳を叩き込んだのだ。

 

 余りにも実用的 ―― 躊躇や容赦と言うモノを切り捨てた(血も涙もない蛮族めいた)シンジの一撃にどよめきが上がった。

 だが、そこからが本番であった。

 ギード・ユルゲンスが耐えたのだから。

 想定していた全ての戦闘予測を裏切るシンジの力技(パワープレイ)であったが、ギード・ユルゲンスとてドイツのフェンシング会では同世代の中で頭一つ抜け出た才能を持っているのだ。

 想定外であっても、鍛えられた足腰はギード・ユルゲンスの体を支えたのだ。

 ()()()()()()()()()

 それ故に、シンジの追加攻撃(ターン)が始まる。

 拳による打撃からの着地。

 そのまま両足、その足の裏でしっかりと床を掴む。

 着地の勢いを殺す事と併せて、それを予備動作とする様に膝を落とす。

 同時に竹刀の持ち方を八相の構えから蜻蛉の姿勢へと変える。

 本番の始まりである。

 

「キェェェェェェェッ!!」

 

 更なる猿叫と共に放たれる斬撃。

 一言で言うならば滅多打ちであった。

 人を折ろうとする様な恐るべき打ち込み。

 1発目は耐えられた。

 2発目も耐える事が出来た。

 3発目まで、何とか手に持った竹刀で防御しようとする事は出来た。

 だが4発目。

 姿勢が崩れて防御が出来なくなったギード・ユルゲンス、その首元をシンジの一撃が捉えた。

 しかも致命的な事に、防具(プロテクター)の隙間を通る事となった。

 

Aua(痛いっ)!?」

 

 悲鳴を上げるギード・ユルゲンス。

 フェンシングではあり得ない、今まで味わった事の無い痛み。

 ウレタンを巻いているとは言え、竹刀の威力はギード・ユルゲンスが想像する以上であったのだ。

 だが、それが終わりではなかった。

 5発目。

 6発目。

 猿叫の響きと共に、シンジの斬撃は途切れる事無く続いた。

 竹刀を取り落とした手を、逃げようとする頭を、動きの少ない身体を、一切の容赦なく滅多打ちにするシンジ。

 下がるギード・ユルゲンス。

 それを許さず迫るシンジ。

 凄惨とすら言える暴力性(薩意)

 だが、シンジは止めない。

 そして、審判役(立会人)たるアーリィ・ブラストも止めない。

 当然だ。

 試合の終了条件は()()()()()()()()()()()2()()()()なのだ。

 そのどちらもギード・ユルゲンスがしないのであれば、戦闘意志があると思うのも仕方のない話でもあった。

 竹刀を落としてはいるが、仕切り直しにはならない。

 無手での格闘も認められているのが今回の試合なのだから。

 

 正に暴力。

 それが終わったのは、ギード・ユルゲンスが悲鳴を上げて一目散に逃げだしたからであった。

 

 

 

「な、Very fast(とても速い)

 

 絶句していた周りの第2期適格者(セカンドステージ・チルドレン)候補生に、肩をすくめて見せる相田ケンスケ。

 その様は、数学の方程式を(当たり前の結果になったと)言うが如しと言う様であった。

 尤も、その目はタオルを持ってシンジに駆け寄るアスカの姿を追っていたが。

 とは言え、アスカがシンジに飛ぶようにして抱き着いた所で、視線を外していた。

 鈍痛。

 胸に感じる痛み。

 それは失恋を教えてくれる痛み。

 痛みを受け入れる様に笑って言う。

 

That's SHINJI-IKARI(アレが碇シンジ) Purple One(エースオブエース) Third Children(3人目の適格者だ)

 

 気取った風にも、すがすがしくも言う。

 アスカへの恋慕は忘れよう。

 だが、輝くシンジとアスカの場に行くと言う夢はまだ持っていても許されるだろう。

 だから頑張ろう。

 その決意を込めての態度であった。

 

「気取り過ぎ」

 

「そう言うなよ霧島」

 

 霧島マナの容赦ないツッコミに、ひょうけて肩をすくめる相田ケンスケ。

 少しばかり締まらない(ツッコミを受ける)のも、自分だよなと思いながら。

 

 

 

 

 

 


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