サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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11-epilogue

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 最早定番となりつつある、陰鬱な空気で行われるSEELEの会議。

 照明が暗いとか、参加者が年寄り主体だとか、そう言う次元では無い水準で空気が重かった。

 誰もが、肩を落とし、背筋が曲がっていた。

 

『碇君、第13使徒に侵食されたエヴァだが__ 』

 

 口ごもるSEELEメンバー。

 SEELEでも財務を預かる人間であった事が、()()を口に出す事を躊躇わせたのだ。

 絶望の色が乗る言葉を。

 故に、その気持ちを察した別のSEELEメンバーが引き継いだ。

 

『単刀直入に尋ねよう。復元は可能か?』

 

「………技術的な面からは、不可能では無いとの報告が上がって居ます」

 

 技術的な面から、である。

 エヴァンゲリオン初号機の攻撃によって全損した制御システム(エントリープラグ)周りや、中枢(コア)部。

 或いは使徒によって変質した腕や脚など。

 調査の上で廃棄する部位は多いが、使える部分も残ってはいた。

 具体的に言えば、第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンの全質量の2割位は無事であった。

 逆に言えば2割しか再利用できる部分は無い。

 丁寧に機体を解体し、部品を精査し再利用するとなれば手間は尋常でなく掛かる事となる。

 解体と精査の手間を考えれば新造した方が早いし、安いと言うのが赤木リツコの見立てであった。

 

『………あい判った』

 

『エヴァに関する処分、NERVが最良と考える判断に一任する。だが国連安全保障理事会に提出する為の書類は提出して貰おう』

 

 第2次E計画に絡んでのエヴァンゲリオンは安全保障会議理事国(マジェスティック・トゥウェルブ)に於ける重大関心事項であった。

 碇ゲンドウも、疲労の色を濃くしながら頷く。

 国連に提出する公文書としての報告書は、作成自体は現場が行うが、最終的にはNERV総司令たる碇ゲンドウの精査と承認が要求される。

 右から左へ流せない(めくら印は許されない)のだ。

 面倒くさいと言う気分が出るのも仕方のない話であった。

 ある意味で不遜な態度の碇ゲンドウ。

 だがSEELEメンバーの誰であれ、ソレに目くじらを立てるものは居なかった。

 状況にウンザリしているのはSEELEメンバーであっても同じだからだ。

 

『内々の話だが………碇ゲンドウ、安全保障理事会は今回の事件を重く見ている』

 

 SEELEの議長たるキール・ローレンツが重々しく口を開く。

 第13使徒が国連本部(第2東京)に近い場所に出現したと言う事で、緊急理事会が開催されているのだと言う。

 人類補完委員会(SEELE)の代表として参加していたSEELEメンバーが言葉を継ぐ。

 

『NERV本部を目的としない、地球規模での使徒の出現が現実味を帯びた、と言う事だ』

 

「………しかし、地球規模で見た場合、松代支部もNERV本部も至近距離と呼べるのでは?」

 

 当然の疑問を口にする碇ゲンドウ。

 だがソレを、安全保障理事会担当のSEELEメンバーは力なく笑いながら否定する。

 

『残念だが碇ゲンドウ。それは我々の判断であり、安全保障会議理事国(マジェスティック・トゥウェルブ)はそう思って居ない。況や、世界の世論は言うまでもない』

 

 感情的(ヒステリック)に使徒の脅威を叫ぶマスコミと、乗せられている世論。

 特に今回の闘いは、検閲も出来ない一般市民が撮影した動画や写真などがネットを介してばら撒かれたのだ。

 特に、時間的に長い、一方的に圧されていたエヴァンゲリオン3号機の姿が。

 力強い重装甲(G型装備第3形態)を纏っていたにも関わらず、である。

 その理由 ―― 操縦者たる鈴原トウジが適格者(チルドレン)として登録されたばかりであり、訓練が十分でない事や、エヴァンゲリオン3号機の足元で救急作業が行われていた為に、十分な運動が出来ないと言う事も、NERVの広報部から説明が為されてはいたが、それで治まる程に世論(感情)と言うモノは容易くはないのだ。

 

『国連安全保障理事会としては、建造途中の機体の素早い就役、そして失われた機体の補充を要求する決議が為される予定となる方向だ』

 

「はぁ」

 

『他人事の顔をするな。決議には()()()()()()()と付帯される』

 

「………これ以上の加速は難しいかと」

 

 物理的に無理。

 そう言う顔をする碇ゲンドウ。

 予算を与えられれば、失われた第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンの補充は可能である。

 設計図は既に存在するし、製造技術も確立しているのだから。

 とは言え、それはNERV本部で保管(廃棄)されていた部品の再利用した手早い製造の可能なα型では無く、正規量産型エヴァンゲリオンを基にしたβ型となるのだ。

 しかも、流用できたSEELEの儀式用エヴァンゲリオンの部品もそう残ってはいないのだ。

 それを急いで等と言われれば、無茶だと思うのも当然の話であった。

 その上で、NERVの本業がある。

 使徒との闘いである。

 そして、戦えば当然ながらもエヴァンゲリオンは傷つき、傷つけば修理を行わねばならない。

 実際、第13使徒との戦いでエヴァンゲリオン初号機は中破判定(侵食被害)を受け、エヴァンゲリオン3号機も小破しているのだ。

 これらの修理が最優先であるのだから。

 

『事情は分かっている。だが、それで世論は納得しない』

 

『政治だよ碇君。理解出来るな』

 

「………はい」

 

 光彩の消えた目(死んだ魚の様な目)で言うSEELEメンバー。

 その幽鬼めいた雰囲気に、碇ゲンドウも唯々諾々と同意する事しか出来なかった。

 第13使徒出現と撃破から既に1日。

 その1日の間、安全保障理事会の緊急理事会に参加していたのだ。

 疲弊もするのも当然であった。

 

『兎も角、予算については手配される事となった』

 

『約束の日まで、まだ我らは足掻かねばならぬ』

 

『だが全ては人類の為』

 

『………人類補完計画は必要だ』

 

『左様。人類の未来の為、我ら人類の導き手(大欧州)が復権の為、完遂せねばならぬ』

 

 それは、少しばかり自分自身に言い聞かせるが如き言葉であった。

 自分に言い聞かせねば挫けかねない、それ程にSEELEメンバーも疲労していたと言えた。

 不穏めいた空気を払う様に、キール・ローレンツは重々しく口を開く。

 

『左様。そして碇ゲンドウ、安全保障理事会が支援用の人形、ジェットアローンについても気にしている』

 

「はぁ?」

 

 怪訝な顔をする碇ゲンドウ。

 3カ所のNERVに配備されるエヴァンゲリオンと同数の汎用支援機(ジェットアローン3)が用意される事となっている。

 今回、実戦参加した機体は先行量産型であり、その製造経験を基に、より実用的な型が量産される予定であった。

 機体の性能自体は、今回の第13使徒との戦いで堅牢さと実用性を立証している。

 設計に問題は無いのだ。

 この上で何を欲するのかと言う表情であった。

 だが、安全保障理事会の反応は碇ゲンドウの予測の斜め上を行った。

 

『今回の闘い、最初に時間を稼いだ機体と、量産される機体は別物。そうだな』

 

「はい。量産されるのは電力の供給と武器などの運搬、後は諸作業への支援能力に機能に割り振った機体となります」

 

 NERVで運用する支援機(ジェットアローン2)が、元祖JA(ジェットアローン)構造(デザイン)を踏襲した人型であるのに対して汎用支援機(ジェットアローン3)は、安定性を重視した4脚であり、人型的な腕は無く作業用の多関節腕が設置されていた。

 目的を絞り、目的に合わせた機能を選択し、生産性を重視した結果だと開発主任の時田シロウは胸を張る機体。

 それが汎用支援機(ジェットアローン3)であった。

 

『多機能と聞く。だが、そこに()()()()は含まれていない。そうだな?』

 

「はっ?」

 

 文字通り絶句する碇ゲンドウ。

 その、聊かばかり礼を失した反応をとがめる事無く、SEELEメンバーは言葉を続ける。

 

『そこが問題視された。否、問題と言うよりも、だ。今回活躍したNERVの機体を望む声が大きく出たのだ』

 

 第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンの補助()()として、支援機(ジェットアローン2)を整備するべきとの要求であった。

 

『エヴァンゲリオンよりは安かろう、とな』

 

 疲れた声のSEELEメンバー。

 その余りの声色に、碇ゲンドウも安全保障理事会に対する正気を疑うと言う言葉(four-letter word)を飲み込んでいた。

 確かにエヴァンゲリオンよりは安い。

 支援機(ジェットアローン2)は、兵器と比較すれば原子力空母と艦載機一式と同程度には()()のだ。

 正気の発言とは言い難かった。

 問題は、値段もそうであるが、支援機(ジェットアローン2)の主機である(ノー・ニューク)機関の製造である。

 旧名が熱核反応炉と言う、この新世代コンパクト高出力機関の製造は簡単な話ではないのだ。

 それも、格闘戦を前提とした耐衝撃機能を付与するとなれば、その製造の手間は常軌を逸した水準となる。

 時田シロウなどは、その製造の繊細さを指して()()()()()()()()()()()()()()()()()()()等と言っていたのだ。

 エヴァンゲリオン以上に量産の容易な機体では無いのだ。

 今回、お披露目された汎用支援機(ジェットアローン3)は、このお披露目の為に支援機(ジェットアローン2)2号機向けの部品で作られた特別な機体であったのだ。

 正直な話として、エヴァンゲリオン以上に物理的無理と言う部分があった。

 

「………取り合えず、努力は致します」

 

 心底からの、面倒くさいと言う気分が漂う碇ゲンドウであったが、SEELEメンバーの誰も、それを咎めなかった。

 それどころか、苦労を労わる言葉を投げかける程であった。

 横暴な民意の代弁者たる安全保障会議理事国(マジェスティック・トゥウェルブ)を前に、SEELEメンバーと碇ゲンドウは強い連帯感を感じるようになっていたのだった。

 

 

 

 

 

 中破と判定される被害を受けているエヴァンゲリオン初号機。

 四肢で健在なのは右腕だけ。

 後は頭部が無傷であったが、それ以外は浸食による被害が大きく出ていた。

 特に左腕は、作り直す必要がある ―― そう赤木リツコは判断していた。

 

セカンド(第2期量産型エヴァンゲリオン)向けの製造設備、それが流用できるのが有難いわね」

 

 場所は何時もの上級者用歓談休憩室、終わらないお茶会(A Mad Tea-Party)であった。

 机に様々な書類を広げ、面倒くさげに煙草を吸っていた。

 隣の卓に座っている葛城ミサトも荒んだ目で煙草を吸っていた。

 2人の手元に置いてある灰皿は、共に吸い殻が山盛りとなっていた。

 煙草の空き箱も転がっている。

 後、缶コーヒー。

 日も暮れて久しく、既に部屋付きの給仕が帰っていた為に葛城ミサトが作戦局の備品を持ち込んできていたのだ。

 職権乱用と言う訳では無い。

 葛城ミサトが自腹で用意していた、残業者向けのモノ(備品)なのだから。

 

「どれくらいで修理は終わりそう?」

 

「そうね、左腕を含めなければ3日。左腕を含めれば2週間と言った所ね」

 

「生体部品?」

 

「ソッチはまだマシね。問題は生体パーツの中にある制御系の確認と交換よ」

 

 第13使徒の浸食によって酷い負荷が掛かっていると言う。

 予備部品が減っている為、制御系の新規部品との交換が出来ないのだと言う。

 第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオン製造、その納期の要求によって流用せざる得なくなった結果だった。

 新規の部品に関しては関連企業に対して発注済みであるのだが、精密機械である為に納入までまだ時間を必要として居た。

 

「………しゃーないわね」

 

 疲れ果てたと、ソファに背を預ける葛城ミサト。

 エヴァンゲリオン初号機を壊す許可を求めた碇シンジに、許可を出したのは葛城ミサトなのだ。

 そもそも、目的は第13使徒 ―― 第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオン1号機の中に囚われていた相田ケンスケの救助であり、それは推奨こそすれども批判するべき事では無かった。

 それは人道であり、同時に、計算であった。

 NERVは適格者(チルドレン)を、子どもを見捨てない。

 そうアピールする必要があるのだから。

 最終的に17機のエヴァンゲリオンが揃うのだ。

 17人の適格者(チルドレン)、人類を左右する強大な力(エヴァンゲリオン)を駆る子ども。

 ()()()()()、大人の信用を失う訳にはいかないのだ。

 

「そうね」

 

 資料を睨みながら同意する赤木リツコ。

 情よりも知を優先する癖のある、この才媛から見ても、シンジを筆頭に、今の適格者(チルドレン)は素直であり、或いは責任感の強い子ども達であった。

 永くNERVに所属し教育を受けている惣流アスカ・ラングレーや綾波レイは言うに及ばずであり、促成の鈴原トウジも責任感を示した。

 資質に関しては葛城ミサトが危惧を抱いていた相田ケンスケも、欧州での訓練と教育によってか、肝の据わった所を見せた。

 だが、これから先に選ばれる子ども達に、同じ水準を要求するのは酷である。

 不可能である。

 そう、冷静に考えているのだった。

 

「次の使徒が来るの、少し遠い事を祈るのね」

 

「そうする。断酒でもして祈ろうかしら」

 

「あら、シンジ君が退院したら祝勝会って言ってたのは誰かしら」

 

「………さぁ?」

 

 韜晦する葛城ミサト。

 カラ元気で笑う。

 と、少しだけ真面目な顔に戻して赤木リツコに尋ねる。

 

「そう言えばシンジ君の状態、どう?」

 

「何時もの検査入院の範疇ね。神経への過負荷は見られず、バイタルはすべて正常。使徒と接触していた相田ケンスケ君も含めて異常は無いわ」

 

「それは結構! トウジ君も異常なしよね?」

 

「ええ。彼の103(エヴァンゲリオン3号機)は浸食を受けていないもの。定例検査で異常は出ていないわ。そうね、レイが不満を漏らした位かしら」

 

「え、戦いたかったって?」

 

 戦意過剰かと葛城ミサトが危惧をすれば、赤木リツコが笑って返す。

 違う、と。

 

「自分だけ置いてけぼりを味わった、そんな気分よ」

 

 寂しいと言う気分。

 そして少しの不満。

 シンジとアスカは欧州に月単位で派遣されており、鈴原トウジも第2東京(NERV松代支部)に行ったのだ。

 なのに自分はNERV本部(第3新東京市)詰めだった。

 

 赤木リツコは、少しだけ愉快な気分で、頬を少しだけ膨らました綾波レイを思い出す。

 情緒が順調に育っている証拠だからだ。

 天木ミツキが主導し、伊吹マヤや自分が関わっている綾波レイの成長。

 それは情夫たる碇ゲンドウの望まぬ事でもあった。

 ()()()()()()

 この先、碇ゲンドウがどういう選択をするのか。

 赤木リツコは生温かい目で見る自信があった。

 

「へーっ、レイも情緒が育ってるわね」

 

「そうね。あ、後、アスカがシンジ君の付き添いで泊まるって」

 

「ちょっ!?」

 

 慌てる葛城ミサト。

 シンジとアスカがお付き合いを開始したってのは察している。

 だからこそ、盛り上がる事を心配したのだ。

 だが、赤木リツコはその心配を笑う。

 

「大丈夫よ。()()()()()()()()()()()って伝えてある(釘を刺している)から」

 

「だといーけど」

 

 愛欲に塗れた自分の頃を思い出して葛城ミサトは、取り合えず首に下げている父親の遺品でもある銀の十字架に祈りを捧げるのであった(アーメン・ハレルヤ・ピーナッツバター)

 ここ10年ほど、教会に足を向けた事もない不信心者の祈り。

 大学時代以来の(ネタ)に、赤木リツコは柔らかく笑うと、自分も祈りを口にしていた。

 

「南無阿弥陀仏」

 

「止めてよ! それ事後(死後)向けじゃない!!」

 

「どうかしらね」

 

 疲れを少しだけ忘れられる笑いが、終わらないお茶会(A Mad Tea-Party)に弾けるのであった。

 

 

 

 

 




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デザイナーズノート(#11こぼれ話)
 迷走としか言いようが無い欧州編____
 いや、本当に、真面目に、こういうオチになるのは想定していませんでした(コナミカン
 とは言え、アレだ
 サツマンゲリオンの時間軸だと、アスカも自己肯定力Ageageなので、そら欲しいと思えば喰いに行くし、シンジはサツマンな部分を除くと原作通りのピュアッピュアで、しかも自己否定力がメッチャ乏しいので、そら、お互いの気持ちが向けば、最短ルートなのは残当。
 個人的に、勿体付けるのが面倒くさい、もとい、趣味では無いので、そこら辺は普通に流してしまう件。
 ぶちゃけ、戦闘以外は全部が全部、物語を盛り上げるためのフレーバー ですしおすし(駄目な開き直り






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