サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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第拾弐) ANGEL-14  ZERUEL
12-1 Demonbane


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困難にあって倒れるようでは、汝の力はまだ弱い

――旧約聖書     

 

 

 

 

 

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 その日、第3新東京市第壱中学校は久々に朝の名物が復活していた。

 碇シンジと惣流アスカ・ラングレーによる自転車通学(競争)である。

 勢いよく奔っている2台のスポーツ自転車(ロードレーサー)

 人口の減った第3新東京市 ―― 使徒と言う存在があり、そして第3新東京市を狙って襲ってくると言う事実が公表されて以降、一般市民の疎開や転居が進んでいる為、通学路は往時の半分以下の学生しか居なかった。

 寂しさのある光景。

 そこに、朝の名物が復活したのだ。

 ある意味で日常だった風景に、生徒たちは歓声を挙げるのだった。

 

 朝とは思えない響きに、窓から外を見た洞木ヒカリは友人たちの帰還に気付く事になる。

 

「アスカ、帰って来たんだ」

 

 赤系で纏めたアスカの自転車用のウェア。

 刺し色となる白いヘルメットから零れて棚引く赤い髪。

 シンジの、深紫めいた青に赤色ラインの入った新しい自転車(ロードレーサー)と共に駐輪場に自転車を置く。

 スタンドが無いので壁に立てかける様にしている。

 と、校舎に来るかと思いきや、誰かを待つかのように校門を見ていた。

 

「?」

 

 授業の準備を止め、その動きを見ていると。

 校門から1台の自転車が入ってくる。

 白を基調としたスポーツ系の小径車(ミニベロ)、綾波レイであった。

 お世辞にもスマートな動きではないが、それでも必死に漕いでいる。

 到着。

 アスカがグローブに包まれた拳を出し、綾波レイも力の無い仕草で拳を当てていた。

 

 

 

「綾波さんも自転車通学?」

 

「慣れるには乗るのが一番だって聞いたから」

 

 洞木ヒカリの質問に、疲労困憊と言った態で机に肘をついて俯いた儘に応える綾波レイ。

 曰く、シンジとアスカが帰って来たのでウッキウキで自転車を持ち出して一緒に乗ったら、直ぐに疲れて乗れなくなったのだと言う。

 だから、体力づくりも兼ねて、通学に自転車を使う様にしたのだと言う。

 が、体力不足な綾波レイにとって学校前の上り坂は体力の限界を超えるものであったのだ。

 

「レイってお嬢さま(箱入り娘)感があるわよね」

 

 揶揄する様に言いながら、だが同時にアスカは、購買部にある自動販売機で買ってきたスポーツドリンクを綾波レイに差し出した。

 アスカは口調や態度で誤解されがちであるが、根が優しいと言うか世話焼き型であると洞木ヒカリは微笑まし気に見ている。

 貰ったペットボトル。

 封を切って、煽るように飲む綾波レイ。

 コクコクっと喉が揺れる。

 だが、本人としては一気飲みをしている積りであるが、その1口は小さい。

 可愛いと言う感想を、アスカと洞木ヒカリは目と目で言い合っていた。

 尚、対馬ユカリはワシャワシャっと汗に濡れた髪を拭いていた。

 お嬢さまと言うか、手の掛かる(無垢な娘)だと言うのが、最近は綾波レイの世話(プロデュース)役も任じる事になった対馬ユカリの感想であった。

 自転車の時もそうであるが、買い物で綾波レイは思い切りが良すぎるのだ。

 その上、店員の言うがままに買ってしまう幼さがある為、見ていて不安なので付いていく事が多くなり、今に至っていたのだ。

 赤木リツコや伊吹マヤと言った綾波レイの保護者分とも仲良くなって、電話番号も貰っていた。

 それは、扱いは、綾波レイのストッパー(外付け常識回路)の役割を期待されての事であった。

 本人としては誠に、責任重大(胃が痛い)と言うものであったが、今更に見捨てられぬばかりに世話を焼いたりしているのだった。

 

 朝からワイワイとやっている女子グループに対して、男子グループは静かだった。

 2年A組の男子衆が別段に真面目と言う訳では無いが、能天気(賑やかし)筆頭めいた相田ケンスケが居なくなった結果、何となく静かになっていると言う状態であった。

 

「ケンスケの奴、もうヨーロッパに行ったの?」

 

「そやで。昨日の便で戻ったそうや」

 

 騒々しい奴ではあるが、嫌われてはいなかった相田ケンスケの事を心配するクラスメートに、機密が絡みそうな詳細はボカシながらもシンジと鈴原トウジが応えていく。

 

「怪我が軽かったのが何よりだ」

 

じゃっでよ(そうだね)

 

 第13使徒との戦いで打ち身などの軽い怪我を負った相田ケンスケであったが、()()()()()もあって治療や精密検査などはNERVドイツ支部で受ける事となっていたのだ。

 シンジ達は知らぬ話であったが、SEELEが使徒と物理的に接触した人間の詳細を知りたがったと言うのも大きかった。

 兎も角。

 少しばかり特殊な立ち位置にあるシンジやバンカラめいた鈴原トウジと比べ、相田ケンスケはクラスメートにとっては身近なキャラクターであった。

 ヲタク、普通の人と言う評価とも言えた。

 だからこそ心配していたのだ。

 

「急いで行くって、アッチで美人と知り合いになったのかな」

 

「彼女を作ったとか!?」

 

「相田だぞ!?」

 

「いや、相田だぞ!」

 

「スケベだったからな」

 

 鼻息も荒く、卑猥な手の仕草をする一部のクラスメート。

 何とも俗な部分での同胞意識かもしれなかった。

 

「パッキンのボンキュッボンとかかっ!?」

 

「ありそうだ!」

 

「惣流にホの字だったしな」

 

「相田の癖に生意気だ!!」

 

「そうだそうだ!!」

 

 気付いたら、相田ケンスケにはヨーロッパで美人な彼女を作ったと言う事になっていた。

 シンジは微妙な顔で笑った。

 確かに美人な女性も居たっぽいが、総じて二次選考に向けての訓練をしている為、それ所では無いだろうとシンジは感じていた。

 それは推測では無い。

 手すきな時間、体を訛らせない為としてシンジもアスカも参加していたが故の実感であった。

 

 

「そう言えば__ 」

 

 鈴原トウジが声を潜めてシンジに話しかける。

 NERVに絡む事だからとの配慮だった。

 

「ん?」

 

「新しい奴が来るゆう話、今日やったな」

 

じゃっど(そう聞いてるよ)

 

「じゃ、ココ(2年A組)に来るんかのう」

 

じゃろよ(多分)

 

 シンジの駆るエヴァンゲリオン初号機の状況が事実上の大破である為、その穴埋めの為、当初より予定されていた5機目のエヴァンゲリオンのNERV本部へ配備が至急行われる事となったのだ。

 新しく配備されるのは、NERVドイツ支部で調整中であったエヴァンゲリオン6号機であった。

 調整とは言うが、真実はNERVドイツ支部(SEELE)が、研究と手駒として手放す事に難色を示していた機体と適格者(チルドレン)だ。

 少なくとも公式には。

 

「付き合いやすい奴やとええナァ」

 

じゃらいな(そうだね)

 

 

 

 

 

 NERV本部に空輸されてきたエヴァンゲリオン6号機。

 エヴァンゲリオン弐号機の設計を基に建造された略同型機であり、エヴァンゲリオン3号機とエヴァンゲリオン4号機と同じ正規量産型エヴァンゲリオンであった。

 特殊な部分の無い標準的(プレーンな)機体だ。

 色は濃紺色に塗られていた。

 

「これで男子は寒色、女子は暖色って事になるわね」

 

ウチ(NERV本部)のはそうね」

 

 呑気な顔で第3新東京市の航空基地、その展望デッキからエヴァンゲリオン専用輸送機であるCE-317(Garuda)からの積み下ろし作業を見ている葛城ミサト。

 対する赤木リツコも気楽な顔で珈琲を片手に手元の資料を見ていた。

 

「コレでエヴァンゲリオンが5機目、世界と戦争が出来るわね」

 

 赤木リツコの声は、呆れの色が濃ゆかった。

 実際、そう言う懸念の声が一部ながらも国連で上がっていたのだ。

 NERVによる世界支配と言う懸念。

 とは言え懸念は本音では無い。

 NERV本部にエヴァンゲリオンを集中させるよりも、可能ならば自国に配備させたいと言う政治から(スケベ心)の発言であった。

 第2次E計画に基づくエヴァンゲリオンの建造と配備計画は進んでいるのだが、第2東京市を襲った第13使徒と言う現実があったが為の事であった。

 ある種の感情的反応(ヒステリー)と言えた。

 とは言え、使徒の存在に対する戦力の集中と言う合理性が感情的意見を否定し、大きな潮流()になる事はなかったが。

 

「アホ草。ンな批判した人すら信じてない話になんて興味は無いわよ」

 

「そうね。面倒事は使徒だけで十分よ」

 

 ウンザリと漏らす赤木リツコ。

 NERV本部技術開発局では使徒の存在を探る事も任務としている。

 だが、今まで襲来した第3使徒から第13使徒迄の11体に共通するナニカ、存在理由、或いは目的、その他を一切、解明できなかったのだ。

 肉体が人類、炭素生命体に似て非なる構造をしていると言う事。

 自在にA.Tフィールドを使える事。

 その程度しか判って居ないのだ。

 判らないと言う事を理解するのが科学とは言え、何とも疲労すると言う話だ。

 その回収した遺()から様々な研究成果を得てはいたが、それだけであった。

 

「しかし、これで漸く完全充足ね」

 

 嘆息する葛城ミサト。

 本部戦闘団(NERV本部エヴァンゲリオン戦闘団)は、2機のエヴァンゲリオンで戦闘小隊とし、2個の戦闘小隊と1機の支援用エヴァンゲリオンで構成されるとしていた。

 NERV本部戦術作戦部作戦局は本来、この5機をもって使徒と闘う事を前提に作戦や部隊配置、或いは第3新東京市の要塞機能を構築する様に計算していたのだ。

 その意味では、漸く本領発揮ができると云う話であった。

 最初の実戦投入された適格者(チルドレン)、シンジとエヴァンゲリオン初号機が想定外めいた破格の実戦能力を発揮したが為、今まで無事に乗りきれたが、そうでなかった場合、第5使徒、或いは最初の第3使徒の段階で人類が終わっていたかもしれないのだ。

 葛城ミサトがシンジに対して深い配慮をするのも当然であった。

 人類が最も危機的状況であった瞬間を支え抜いたのだから。

 

 当初、作戦局で対使徒戦の切り札と期待されていたのはアスカとエヴァンゲリオン弐号機であった。

 実際、NERV本部に配置配備されて以降、第7使徒からの闘いでシンジとエヴァンゲリオン初号機に匹敵する能力(パフォーマンス)を発揮はしていた。

 撃破数()こそシンジとエヴァンゲリオン初号機に一歩譲るが、それは運と組み合わせによるモノであり、決してアスカとエヴァンゲリオン弐号機が劣るものではない。

 少なくとも作戦局では判断し、公言し、アスカにも伝えていた。

 だがそれとは別の話なのだ。

 

 第3使徒が襲来した時点でNERV本部にアスカは着任していなかった。

 エヴァンゲリオン弐号機も到着していなかった。

 そう言う話であった。

 

「整備部隊の増員、もっとやって欲しいわね」

 

「ドイツから来なかったの?」

 

「7号機と第2期分の建造で引っこ抜けないって」

 

「あー」

 

 赤木リツコに恨みがましさが無いのは、NERVドイツ支部の技術部門総括が疲れ果てた顔をしていたからであった。

 碇ゲンドウの仕置きからの意趣返し、或いは邪魔(サボタージュ)では無い事を理解すればこそとも言えた。

 NERV本部での大変さも判るが、と本当に申し訳ないと言う声で言うのだ。

 赤木リツコも同病相憐れむとなるのも当然であった。

 

「何とかなりそう?」

 

「人員増の予定はあったわ」

 

「なら__ 」

 

「只、その予定分が全て第2次E計画に喰われたのよ」

 

 陰々鬱々滅々といった塩梅の赤木リツコ。

 葛城ミサトも只、アッハイと嘆息していた。

 珈琲を飲む音だけが響く展望デッキ。

 と、葛城ミサトが声を上げた。

 

「見えたわ」

 

 誰がと言えば、エヴァンゲリオン6号機の専属搭乗員(パイロット)だ。

 CE-317(Garuda)の搭乗タラップから降りて来る、周りからみて1周りは小柄な人影だ。

 間違う筈も無い。

 NERV本部でも有数の重鎮である2人が立ち会っている理由は、エヴァンゲリオン6号機が理由では無く、新しい子ども(チルドレン)を歓迎する為であった。

 

「NERVドイツ支部の秘蔵っ子、ね」

 

「そう言えば、アスカは面識が無かったそうよ」

 

「………正規の選抜ルートとは違うって事ね」

 

「シンジ君みたいね」

 

「なら、シンジ君みたいな子である事を祈りましょう」

 

 

 

 NERVの適格者(チルドレン)制服を隙なく着こなした少年。

 それが5人目の適格者であった。

 

「初めまして、渚カヲルです」

 

 エントランスで行われる歓迎の場。

 敬礼しての自己紹介。

 にこやかな笑顔をした渚カヲルは、その顔の良さも相まって実に人懐っこい雰囲気を見せていた。

 だが、対する葛城ミサトと赤木リツコは眉をひそめていた。

 さもありなん。 

 発音は見事(ネイティブ)であったが、顔立ちは白人系(コーカソイド)めいているのだ。

 そもそも、NERVドイツ支部から送られてきた書類にはカール・ストランドとの名前が書かれていた。

 にも関わらず、自己紹介では和名である。

 首を傾げるのも当然であった。

 

Es tut mir leid(申し訳ない) Es gab Änderungen(変更がありました)

 

 随員であったドイツ人スタッフが四面四角(チュートン的)な態度で書類を差し出す。

 受け取った書類。

 そこには5人目の適格者(5th チルドレン)に関する伝達としてUmbenennen(改名)が書かれていた。

 

Bitte erläutern Sie(ナニ、コレ)?」

 

 胡乱な声を上げる葛城ミサトに、随員のドイツ人スタッフは朗らかな(ヤケクソめいた)顔で断言した。

 

Die Person selbst wünschte(本人の希望です)

 

「折角、日本に来るんですから日本風の名前に変えてみました。ほら、郷に入っては郷に従えって日本語にあると学んでいますからね」

 

 楽し気なカール・ストランド、改め渚カヲルに葛城ミサトも赤木リツコも毒気を抜かれていた。

 改名で何故に渚と言う性なのか。

 何故にカヲルと言う名なのか。

 滔々と、説明していく。

 その様は実に楽しそうであった。

 ドイツ人スタッフだけは天を仰ぎ、溜息をつくのだった。

 

huhhh(ハァツ)………Bitte haben Sie dafür Verständnis(ご理解ください)

 

Aha(そう)

 

 同情を込めて同意する葛城ミサト。

 その親友(マブ)たる赤木リツコは冷静な顔を崩す事無く、その腹の中で中々に個性的だが類は友を呼んだかと思っているのだった。

 そもそも指揮官が指揮官(葛城ミサト)だ、とも。

 

 シンジとアスカのペアを筆頭に反骨心の強い鈴原トウジに、素直そうに見えて頑固一徹な綾波レイと言う我の強い(キャラクタの濃ゆい)子ども達と、負けず劣らずの引率役だ。

 赤木リツコは騒がしくなりそうだとの予感を飲み込みながら、煙草が吸いたいと思うのだった。

 尚、他人事めいて考えている赤木リツコであったが、第3者から見れば立派な葛城ミサトの親友(マブ)だと言う評価である。

 否、それどころではない。

 組織の総司令官を尻に敷いていると言う事実が表にでれば、葛城ミサトの親友と言うよりも、葛城ミサトを親友とすると言う評価に変わるだろう。

 

 世の中、その様な(自分は普通と思う)モノであろう。

 NERV本部は今日も通常運転中であった。

 

 

 

 

 

 


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