【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件 作:◆QgkJwfXtqk
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第壱中学校での学業終了後、NERV本部へと向かう碇シンジら4人の適格者。
平時と言う事で、保衛部の護衛班による護送ではなく各個人の自転車で地下鉄第壱中学校駅を目指す事となる。
1㎞も離れていない場所であるが、惣流アスカ・ラングレーが
シンジとアスカは自転車に慣れていたが、鈴原トウジは自転車通学を始めたばかりだし、綾波レイに至っては自転車にまだ乗り慣れていない状態だからだ。
ルートに関するディスカッション。
道路常態その他、注意点を事細かに告げるアスカ。
正直、鈴原トウジからすればその程度は判っとる! と言うレベルの話であったが、大人しく口を噤んでいた。
アスカが伝えたい相手が綾波レイであると判っていたからだ。
綾波レイも真剣な顔でアスカを見て、その言葉を聞いている。
だからこそ鈴原トウジは、そっとシンジの腹を肘で突くのだった。
目が合う。
シンジは
何とも評し難いシンジの返事に、鈴原トウジは天を仰ぎ、惚気られたと呆れていた。
「あっ、良かった。まだ残ってたわね!」
そんな4人の所に洞木ヒカリがやってきた。
4人同様に下校途中だったらしくカバンを肩から掛けている。
そんな洞木ヒカリが校門から離れている駐輪所に来た理由は案内であった。
「ありがとう」
感謝の言葉を軽やかに言ったのは、アイロンの跡も真新しい学生服に身を包んだ少年であった。
その顔を見たアスカが声を上げる。
「アンタ、ドイツ支部の__ 」
「渚カヲル、だよ」
NERV本部に配属されれば学校と言う所に行く事となる。
そう聞いていた渚カヲルは好奇心に駆られ、明日以降に先送り出来ずに碇ゲンドウへの挨拶もそこそこに第壱中学校へとやってきたのだった。
新しい美形の登場に、第壱中学校の生徒たちは好奇心を隠す事無く駐輪所を注視し、或いは囁き合っているのだった。
「渚カヲル。老人共の手、か」
手元の資料を見ながら呟く冬月コウゾウ。
資料は見事なまでに空白だった。
身長体重血液型、それに生年月日までは記載されている。
名前の改名に関しては、本人の強い要求によりとも書かれていた。
だがそれだけだ。
それ以上の履歴などの重要情報は
「大丈夫なのか、碇?」
「問題は無い。老人たちの狙いは使徒対応だ。初号機が大破状態なのを危惧し
「SEELEの老人共が使徒相手に、か? 俄かには信じがたいよ」
冬月コウゾウの弁も当然の話であった。
人類補完計画以外は全てが雑事だとばかりの態度を見せるのがSEELEであったのだから。
だが、それを碇ゲンドウはやんわりと否定する。
サングラス越しでも判る、かなり疲れた顔をしながら。
「考えても見ろ。使徒迎撃に何かがあれば
第10使徒から使徒による被害が洒落にならない事になりつつあるのだ。
何かあれば
第2次E計画にせよ、第13使徒戦の結果を受けて緊急的に決定した
否、既になっていた。
碇ゲンドウは国連安全保障理事会の臨時会議対応で4㎏程
SEELEメンバーも体調不良で入院による欠席者が出る始末であった。
この結果、それまで被害をかなり抑え込んでいた
エヴァンゲリオンの被害は出すが、周辺への被害は抑える傾向がある。
先の第13使徒も、2人とエヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機が揃って居れば簡単に撃破していただろうとも思って居た。
だからこそ、激励の意味でも追加の勲章その他を与えようと言う話が出ていた。
とは言え痛し痒しの面があった。
安定したシンジとアスカは使徒を打ち払っていくだろう。
だが人類補完計画と言う意味では、その発動の
未来は大事だ。
だが、今を乗り切る為の手を抜くわけにはいかない。
碇ゲンドウもSEELEメンバーもこの点に関しては匙を投げていた。
「………何とも散文的な現実だな」
鼻を鳴らす冬月コウゾウに、碇ゲンドウは興味なさげに返す。
「現実が幻想的な筈も無い」
口調は兎も角として断じる言葉。
碇ゲンドウにとっては当然であった。
現実が幸せに始まり、そして終わるのであれば自分から妻たる碇ユイが奪われる筈がないのだから。
「だからこそ、人類補完計画を成す。人類を新しいステージへと押し上げるのだ」
「そうなる事を祈りたいね」
そう呟きながら、フト、冬月コウゾウは思った。
祈りと言う漢字と、折れるとの漢字は一文字違いだったな、と。
碇ゲンドウの息子たるシンジに祈りが折られる可能性を思ったのだ。
そう言えば碇ユイも色々と折る女性であったなとも思い出していた。
「どうした冬月?」
「いや、中々に未来は波乱万丈の先にあるなと思ってな」
冬月コウゾウは人類補完計画に格別の情がある訳では無い。
碇ゲンドウの野望の果てを見守ってやろうと言う気分、そして碇ユイから託された事あればこそ、ここに居るとも言えた。
だからこそ、ある意味で
綾波レイは不満げな顔で自転車を押していた。
否、自転車から降りて押して歩いているのは綾波レイだけでは無い。
シンジもアスカも、そして鈴原トウジも自転車を降りて押していた。
これは渚カヲルが一緒にNERVに行くと言い出したが為、なら仕方がないと自転車を持たない渚カヲルに合わせて歩いていくとなった結果だった。
待ちに待ってた自転車通学。
アスカやシンジと一緒に自転車に乗って移動すると言う夢を邪魔されたのだ。
白磁めいた白い頬っぺたをプクッっとばかりに膨らましているのも当然だった。
しかも、交通の邪魔をしない為としてアスカとシンジの傍に自分は居る事が出来ないのだ。
2人づつのペアとなっていた。
集団の先頭を行くのはシンジとアスカ。
仕方がない。
鈴原トウジが、どうせならと誘った洞木ヒカリと一緒に居るのも仕方がない。
洞木ヒカリの鈴原トウジに対する
だが、だからと言って自分の隣が
情緒の育ちつつある綾波レイは、人並みの感情を身に付けつつあった。
否、渚カヲルに対して良好な感情とならないのは別の理由もあった。
「そんなに頬っぺを膨らましていると、元に戻らなくなるよ
コレが綾波レイを不機嫌にさせるのだ。
「私は綾波レイ。リリスでは無いわ」
前を見ながら、不快と言う感情を明確に口にする。
綾波レイと言う
それは碇ゲンドウが恐れる事態であった。
が、赤木リツコは敢えて報告していなかった。
面白いからと言う、科学者として女としての
兎も角。
綾波レイの本気めいた反応に、
「でも、リリスだよね?」
「綾波レイ」
「………えっと……」
「
1音節毎に強調した綾波レイに渚カヲルも陥落する。
「ゴメン。なら、綾波レイさん。これで良い?」
「十分」
フンスっと勝利を雄たけびめいて鼻息を可愛くならした綾波レイ。
そんな2人の会話を聞いていたアスカと洞木ヒカリは、同じ事を考えていた。
尚、渚カヲルは気づいていなかった。
当然ながら、自分の状況も含めて鈴原トウジは気づく筈も無かった。
唯一、何となく
「何?」
隣に居るアスカの綺麗な顔を見て頷くに留めるのであった。
「うん。なんでも無いよ。今日の献立を考えてたんだ」
「ハンバーグで良いわよ」
「週に1回で勘弁してよ。それより唐揚げは駄目?」
「
「それは良かった。葛城さんのリクエストがあったからね」
「………アタシよりミサトを優先するってぇの!?」
少しだけ眉を跳ねさせるアスカ。
とは言え外見ほどに不機嫌になった訳では無い。
夕食の献立で会話をする。
そんな自分に、少し驚いていた。
日常。
エヴァンゲリオンの適格者として選抜されて以降の、あの研磨の日々からすれば考えられない程の平凡な日々。
こんな日々がもっと続けば良いのに。
そんな事をアスカは考えていた。