【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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 第14番目の使徒。

 その出現は正に忽然としたものであった。

 

「強羅防衛ライン、突破されました!!」

 

「ミサイル、照準不能!?」

 

「避難誘導を急がせろ」

 

「っ!! 第34避難シェルターが通信途絶!?」

 

「火力がデカすぎる」

 

 怒号の飛び交うNERV本部第一発令所。

 第14使徒は、その仮面めいた顔造形の眼窩から四方八方へと乱射している。

 その威力、第5使徒程に凶悪さは無いが、それでも他の使徒群が持っていた光学系射撃火力の比では無かった。

 片っ端から火点が潰されていく。

 その様、正に地形が変わる(地図を書き直させる)勢いであった。

 

「状況報告!」

 

 第一発令所に駆け込んで来た葛城ミサトが状況を掌握する為に声を張り上げた。

 教育の結果と言うべきだろう。

 それまでの蜂の巣をつついたような喧騒は、一気に鳴りを顰めた。

 日向マコトが先ずは報告する。

 

「使徒、東方にて確認。現在、強羅防衛ラインを突破されてます」

 

「侵攻速度は?」

 

「目測で約50㎞/hです」

 

「迎撃は?」

 

「レーダー管制が不可能な為、現在MAGIコントロールによる迎撃戦は不可能、各火点及びTF-03(極東軍第3特命任務部隊)が任意で戦闘を実行中です」

 

「プラン3(迎撃作戦3号)ね。とは言え__ 」

 

 第一発令所正面の大型モニターには、各火点、迎撃部隊の必死の努力の痕が刻まれていた。

 だが、その甲斐は無く、第14使徒の侵攻は些かも止められずにいた。

 余りにも死屍累々の様。

 チラリと見た第2指揮区画、国連軍から出向してきていた連絡将校は顔面蒼白となっているのが見えた。

 歯を噛みしめる葛城ミサト。

 火点の人員(NERVの戦闘スタッフ)や国連の将兵が悪いのではない。

 余りにも使徒が規格外過ぎるのだ。

 

「通達! 各部隊は使徒の遅滞戦闘は中止、現時刻より避難行動を第1とせよと………ギースラー少佐は?」

 

 遅い命令かもしれない。

 だが、秒にも満たぬ成果しか望めない状況で将兵を悪戯に喪わせるというのに葛城ミサトは耐えられなかった。

 だからこそ、次席指揮官(課長代理)の所在を確認した。

 歴戦の将校であるパウル・フォン・ギースラーなれば、早々にこの判断をしていたのではないか、との思いだ。

 それは、自覚無き怒りの発露であった。

 だが現実は無常だった。

 

「本日のギースラー少佐は信濃砲座への視察に行っていましたので………」

 

 砲撃支援に於ける効果的な行動の為、46cm砲と言う第3新東京市要塞部最大の火力を持つ信濃砲座 ―― その管制所で極東軍第3特命任務部隊(FEA.TF-03)の砲兵部隊との意見聴取会を行っていたのだ。

 無論、その信濃砲座は第14使徒の砲撃によって消失していた。

 

「そう………」

 

 一瞬だけ目を閉じた葛城ミサトは、それから火の噴きそうな眼付をもって命令を下す。

 

「エバー各機はジオフロント内に配置! 地表部分は諦めます」

 

「葛城さん!?」

 

「これは指揮官権限による命令よ。急いで」

 

「はっ、はい!!」

 

 慌てて伊吹マヤが出撃準備に関する命令を伝達していく。

 それを横目に赤木リツコが声を潜めて尋ね。

 

「いいの? そんな命令しちゃって」

 

「現状で出撃を図った場合、第5使徒の時みたいに出た所を狙われる危険性があるわ。全くの同時タイミングで出せなければ各個撃破されるのがオチよ」

 

 小声で返す葛城ミサト。

 既に使徒は第3新東京市要塞エリアに侵入しつつある。

 第3新東京市のエヴァンゲリオン発進口は既に第14使徒の攻撃圏内に入っていると判断しての事であった。

 第5使徒の凶悪無比な大威力粒子砲に撃たれたエヴァンゲリオン初号機は1発で大破した。

 そこから戦闘を継続し、勝利すら収めた碇シンジは称賛に値する。

 称賛しかない敢闘精神の発露であったが、先ず指揮官として葛城ミサトは、その様な事態の再発を許さぬ事が大事であると考えていた。

 誰もがシンジ(ぼっけもん)ではないのだから。

 

「仕方ないわね」

 

「そう言えば碇司令は?」

 

「ここだ」

 

 冬月コウゾウを連れて、やってきた碇ゲンドウ。

 その表情は険しい。

 手早く敬礼し、葛城ミサトは先の判断を報告する。

 第3新東京市要塞部での戦闘の放棄、そしてNERV本部本丸とも言えるジオフロントでの決戦である。

 しようとする。

 だが、それを碇ゲンドウは手で止めた。

 

「構わん。玄人(プロフェッショナル)である君の判断を尊重する。委細構わぬ。全力で対処したまえ」

 

 ジオフロントへの正面からの使徒侵攻と言う恐るべき状況であって、碇ゲンドウの表情に揺るぎなど無かった。

 只、葛城ミサトと現場を信じるとだけ告げた。

 最高指揮官のその姿に、第一発令所の誰もが、一瞬だけ背筋を伸ばして踵を打ち合わせていた。

 敬意の表明。

 

「はっ!」

 

 全スタッフを代表するかのように葛城ミサトは敬礼をするのであった。

 

 

 

 

 

 人形めいて短い手足をしたヒト型っぽい第14使徒は恐るべき勢いで光学兵器を地面へと叩きつけ、ジオフロントへの道を作っていた。

 使徒らしい馬鹿げた力技だ。

 何層にも用意されていた特殊装甲板は、その悉くが使徒の暴威に屈していた。

 ゆっくりと降下してくる第14使徒。

 立ち向かうのは4機のエヴァンゲリオン。

 

「目標(第14使徒)のA.Tフィールドは圧倒的強度を誇っているわ。悪いけどアスカは攻撃よりも中和に軸足を置いておいて。攻撃はトウジ君、カヲル君で頼むわ。レイはいつも通り支援を頼むわね」

 

 第一発令所から命令を出す葛城ミサト。

 操縦者待機室まで足を延ばしている時間的余裕は無いが為であった。

 既に、シンジを除く4人はそれぞれのエヴァンゲリオンに乗り込んでいた。

 シンジとエヴァンゲリオン初号機は出せない。

 戦闘自体は可能であるが、整備の為に装甲の多くを外しており、何よりも左腕が無いのだからだ。

 故にシンジは、プラグスーツに着替えはしても、操縦者待機室にて待機していた。

 

 通信機越しに全員の顔を見る葛城ミサト。

 誰もが焦りや畏れなどを顔には浮かべていなかった。

 

『ま、A.Tフィールドはアタシが一番だってのはその通り。で、初手は?』

 

「レイにお願いするわ。被害は気にせず全力射撃よ」

 

『判った』

 

 短く頷く綾波レイ。

 エヴァンゲリオン4号機は何時ものG型装備、それにEW-23B⁺(強化型バヨネット付きバレットキャノン)だ。

 間違っても狭いジオフロントで使うような火力では無いのだが、葛城ミサトは躊躇なく使用を選んでいた。

 地上での戦いで得た戦訓(血の情報)から、第14使徒のA.Tフィールドが圧倒的な強度を持っていると把握しての事であった。

 可能ならば、付帯被害を考慮せずにEW-25(最終兵器)を使用したい所であった。

 使用しない理由は、今回は電力を十分に供給できる余裕が無かったが為だ。

 

「トウジ君とカヲル君は、レイが射撃開始すると共に使徒へと接近し、攻撃を実行して」

 

『任せてな!』

 

『やってみる』

 

 エヴァンゲリオン3号機とエヴァンゲリオン6号機は、共に軽装となるB型装備。

 右腕でEW-22B(バヨネット付きパレットガン)を持ち、左腕でG型装備のモノを流用した手持ち盾(カイトシールド)を持っていた。

 第14使徒の火力の大きさを考慮しての事だった。

 戦闘用の、遮蔽物などは無いジオフロントでの戦闘だ。

 可能な限りの防御力を各エヴァンゲリオンに、子ども達に持たせたいと言う整備部隊の親心とも言えた。

 

「使徒、ジオフロント到達!!」

 

 青葉シゲルの報告(絶叫)。

 葛城ミサトは裂帛の気合を込めて命じる。

 

「全機、戦闘開始!!」

 

 

 事前の予定通りに走り出したエヴァンゲリオン弐号機、エヴァンゲリオン3号機、エヴァンゲリオン6号機。

 先頭を往くのは、EW-24(N²ロケット砲)を担いだエヴァンゲリオン弐号機だ。

 流石に弾頭は通常弾では無く特別弾となっているが、それでも直径が600㎜を超えている成型炸薬弾(Shaped Charge)だ。

 非広域向けと言う意味で、馬鹿げた侵徹力を発揮する凶悪弾頭であった。

 有効射程距離は短くなるが、そこはア(・)ス(・)カ(・)の(・)敢(・)闘(・)精(・)神(・)で(・)補(・)う(・)とされている。

 2歩ほど遅れて、重量物の盾を持った2機のエヴァンゲリオンが追う。

 

『惣流!? ワシらの後ろ、盾に入らんかい!!』

 

『アタシに当たる予定は無いっちゅーのっ! レイの火器が叩き込まれている間に距離を詰めるわよ!! 遅れるんじゃないわよ!!!』

 

『なんちゅーじゃじゃ馬!?』

 

『惣流さんは元気だね』

 

 文句を零す鈴原トウジに、苦笑を浮かべる渚カヲル。

 だが2人のエヴァンゲリオンはエヴァンゲリオン弐号機に遅れる事なく第14使徒へと一直線であった。

 

『射撃、開始します』

 

 そして、綾波レイのエヴァンゲリオン4号機が攻撃を開始する。

 何とかなるだろう。

 そう葛城ミサトは祈った。

 祈(・)り(・)、だ。

 確信では無かった。

 それ程の被害を、第14使徒は第3新東京市要塞に与えていた。

 

 口に出す事の無かった不安。

 だがそれは残念な事に実現する。

 

「104(エヴァンゲリオン4号機)、被弾!?」

 

 日向マコトの絶叫。

 エヴァンゲリオン4号機が発砲した瞬間、第14使徒も発砲したのだ。

 3tを超える超重量砲弾が着弾するよりも先に、大口威力粒子砲がエヴァンゲリオン4号機に着弾する。

 吹っ飛ぶエヴァンゲリオン4号機。

 G号装備の装甲は全く意味を為さなかった。

 更なる攻撃 ―― 粒子砲がエヴァンゲリオン4号機へと降り注ぐ。

 

「レイ、逃げて!!」

 

 伊吹マヤの悲鳴めいた叫び。

 幸い、EW-23B⁺(強化型バヨネット付きバレットキャノン)の重量砲弾が直撃したが為に第14使徒は姿勢を崩しており、追加攻撃がエヴァンゲリオン4号機に直撃している風では無いが、それが何時まで続くかは判らないのだ。

 手酷い損害を受けている様には見えない第14使徒。

 その姿を憎々し気に睨みながら、葛城ミサトは私情を殺して叫ぶ。

 

「被害報告(ダメージリポート)!!」

 

 可能ならば後退。

 不可能であれば綾波レイには機体を捨てて撤退を命令する。

 判断の為の情報が欲しかった。

 だが伊吹マヤが答えるよりも先に状況は動く。

 

『おりゃぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

 アスカの叫び。

 そして発砲。

 エヴァンゲリオン4号機への攻撃を妨害せんとばかりにEW-24(N²ロケット砲)を発砲する。

 

「102(エヴァンゲリオン弐号機)、交戦開始(エンゲージ)!!」

 

 連続攻撃。

 だが、それらは第14使徒の強靭なA.Tフィールドによって防がれていた。

 第14使徒が動く。

 

『っ!?』

 

 顔めいた第14使徒の仮面が、確かにアスカを見た。

 培ってきたアスカの戦闘勘が警告を鳴らす(レッドアラート)。

 アスカは、その声に逆らわなかった。

 思いっきり良く、左へと飛ぶ。

 飛んだ瞬間、それまでのエヴァンゲリオン弐号機の進路をなぞる様に、第14使徒の粒子砲が焼き払った。

 だからこそアスカは、一度のジャンプで終わらさず、連続して飛ぶ。

 低く飛ぶ。

 それは空へと上がる事での自由度が奪われぬ為であった。

 

『上等!!』

 

 アスカもまた、獣性の笑みを浮かべていた。

 そして鈴原トウジ(エヴァンゲリオン3号機)と渚カヲル(エヴァンゲリオン6号機)も参戦する。

 

『足を止めるな、走り回れ!!』

 

 アスカが2人に叫ぶ。

 その言葉を受け、2人はアスカのエヴァンゲリオン弐号機を真似る様に低いジャンプを繰り返していく。

 先に言い含められていた。

 戦場ではアスカの指揮は絶対であり、その指示には必ず従え、と。

 飛び回りながら射撃を行う。

 対して第14使徒は、微動だにせず粒子砲を発砲してくる。

 砲弾と粒子砲とが交差するジオフロント。

 その被弾の衝撃が第一発令所を激しく揺さぶる。

 だが悲鳴を上げる者は誰も居ない。

 歯を食いしばって耐え、務めに向かっていた。

 最も危険場所に居るのは子ども達であるとの意識あればこそであった。

 

 だが、状況は良好とは言えなかった。

 

『惣流! 中和はどないなっとるんや!?』

 

『やっとるっちゅーのっ!』

 

 第14使徒のA.Tフィールドは余りにも堅牢であった。

 アスカとエヴァンゲリオン弐号機が全力で中和しようとしてもしきれていなかった。

 3機のエヴァンゲリオンによる攻撃は、痛打どころか痛痒すら与える事が出来ずにいた。

 

『これはもう少し迫るしかないかな』

 

『フン! 渚、アンタの意見、採用! 渚、行くわよ!! 鈴原、アンタはそこから支援射撃!! 任せたわよ』

 

『仰せの儘に』

 

『任せい!!』

 

 加速していく状況。

 ただ、見ているしかない大人たち。

 だが朗報も1つあった。

 エヴァンゲリオン4号機だ。

 G号装備の重装甲のお陰で損害は軽微であり、綾波レイも戦意旺盛の儘であった。

 とは言え、主兵装たるEW-23B⁺(強化型バヨネット付きバレットキャノン)は被弾によって破損しており、即座の戦闘は不可能であったが。

 急いで後退し、新しい兵装を装備しようとするエヴァンゲリオン4号機。

 装備したのは特殊兵装であるEW-31(フレームランチャー)だ。

 EW-23B⁺(強化型バヨネット付きバレットキャノン)等に比べれば射程は短いが、連続した攻撃を相手に与える事となる為、第14使徒のA.Tフィールドを飽和させられるのではと考えての事であった。

 

「レイ、近接戦闘、行けるわね?」

 

『大丈夫』

 

「頼むわ。ソレ(EW-31)が勝敗を分ける。そう考えて頂戴」

 

『了解』

 

 G号装備を脱ぎ捨てて、身軽くなったエヴァンゲリオン4号機は些かの躊躇もなく吶喊を開始した。

 物静かではあれども戦意旺盛。

 綾波レイと言う少女らしい姿であった。

 その姿を見ながら、歯がゆげに表情を歪める葛城ミサト。

 もう、大人に出来る事は残されていないからであった。

 先の第13使徒戦で活躍した支援機(ジェットアローン2)を出す事は出来ない。

 余りにも戦闘速度が速すぎるからだ。

 支援機(ジェットアローン2)では追随する事は不可能な、高速戦闘が行われているのだ。

 要塞機能での火力支援に至っては論外であった。

 NERV本部にはジオフロントで使用する様な火器は用意されてはいなかったのだから。

 計画はあった。

 だが対使徒戦が要塞戦闘区画で終始していた為、その予算は要塞戦闘区画の強化に充てられていた。

 ある意味で合理であった。

 シンジとアスカが圧倒的である為、死蔵する可能性の高い装備は後回しにすると言う判断なのだから。

 だが今、それが裏目に出ていた。

 極東軍第3特命任務部隊(FEA.TF-03)のジオフロント投入も考えられていたが、輸送ルートが半壊しており、現実的な選択肢にはならなかった。

 そもそも、先の戦闘で甚大な被害を被っているのだ。

 戦意は旺盛なままであったが、有効な組織戦闘能力を回復させる為の再編成は必至であった。

 

 腕を組み、歯を食いしばって戦況を見ている葛城ミサト。

 その視線の先は、正しく死線上でのタップダンスであった。

 

 

 

 アスカは焦りを感じていた。

 今、この場に居る人間の中で自分が一番戦闘力が高いと言う自負があった。

 それは掛け値なしの事実であった。

 だが同時に、最もA.Tフィールドの操作が得意なのもアスカであった。

 それがアスカの焦りに繋がるのだ。

 

 第14使徒に痛打を与える事が可能なのはアスカであるが、第14使徒のA.Tフィールドを中和する為にはかなり集中する必要があるのだ。

 その状況下では、流石のアスカと言えども近接戦闘を行うだけの余力が無かった。

 そして、余力が無いのはアスカのみならず他の3人にも言えていた。

 不慣れな近接戦闘を挑んでいる綾波レイ。

 戦闘経験自体がまだ乏しい鈴原トウジ。

 只一人だけ涼しい顔を崩していない渚カヲルであったが、その操縦は最初の頃程の精度を失っていた。

 このまま戦闘を継続していては、何時かは破断する。

 それがアスカに焦りを与えていた。

 息が荒れてきているのが理解できていた。

 

 だが、状況はアスカが決断するよりも先に動いた。

 第14使徒が射撃(応射)を止めて降下したのだ。

 

「………?」

 

 地表へと降り立った第14使徒。

 思わず、といった感じでアスカも、他の3人も攻撃の手を止めていた。

 油断なく筒先を第14使徒に向けつつもトリガーを引き絞れず、様子見をしてしまっていた。

 無音(天使の間)。

 だがそれは決して、第14使徒が戦闘を諦めた等と言う訳では無かった。

 否、それ所では無かった。

 パタパタと言う様な軽い音を立てて、その突起めいた両腕と思しき場所を展開させた。

 布の様な、帯の様な何か。

 

『なんや、アレ』

 

『なん、だろうね』

 

『………』

 

 誰もが見入ってしまっていた。

 それが致命的な隙となった事を理解したのは、その帯の様な腕が振るわれた瞬間だった。

 

「回避っ!!!」

 

 アスカがカ(・)ン(・)に従って叫んだ。

 だが、それに反応出来たのは綾波レイだけであった。

 横っ飛びをしたエヴァンゲリオン弐号機。

 咄嗟にしゃがんだエヴァンゲリオン4号機。

 だがエヴァンゲリオン3号機は棒立ちのままに射撃をしていた。

 エヴァンゲリオン6号機に至っては声に誘われてアスカ(エヴァンゲリオン弐号機)を見てしまっていた。

 致命的な隙。

 それを第14使徒は見逃さなかった。

 帯の様な腕が、エヴァンゲリオン6号機を薙ぎ払い、それを予備動作にして最後にエヴァンゲリオン3号機へと叩き込まれていた。

 鋭い切っ先は、エヴァンゲリオン3号機の胴体を貫通していた。

 

 

 

 エヴァンゲリオン3号機の戦線脱落を機に、戦況は悪化の一途を辿っていた。

 次に狙われたのはエヴァンゲリオン4号機であり、綾波レイの技量では連続的な攻撃から逃れる事は出来なかった。

 とは言え致命傷にはならなかった。

 アスカが渚カヲルとエヴァンゲリオン6号機に支援を命令していたからであった。

 1人(1機)では難しくとも2人(2機)であればなんとかなる。

 何とか耐えれていた。

 その対価として、攻撃の負担が全てアスカの双肩に掛かる事となっていた。

 

 槍の様な鞭の様な帯めいた第14使徒の攻撃を避け、そして可能であれば攻撃するエヴァンゲリオン弐号機。

 その献身は大人たちの心を打つが、同時に、その献身が健気であればある程に、耐えられぬ痛みを大人たちの心に与えていた。

 食いしばり過ぎて口の端から血を流している葛城ミサト。

 と、伊吹マヤが声を上げた。

 

「…」

 

 無言で睨むように伊吹マヤを見る葛城ミサト。

 その理由は予想外であった。

 シンジだ。

 

『葛城サァ(葛城さん)、出撃させっくいやい(出撃させてください)』

 

「………死ぬ気?」

 

 整備の十分ではないエヴァンゲリオン初号機。

 片腕の無いエヴァンゲリオン初号機。

 そんな機体で出撃したい等、葛城ミサトには自殺(ヒーロー)願望にしか見えなかった。

 だからこそ、険しい声で尋ねたのだ。

 だがシンジは柔らかく否定する。

 

『ないごて(そんな積りはありませんよ)』

 

 逆に、と言葉を続ける。

 今であれば勝利の機が残っていると言う。

 アスカの戦える内であるならば、あの恐るべき第14使徒の喉元に迫る事が出来る、と。

 

「………」

 

 瞳を、一瞬だけ閉じる葛城ミサト。

 深呼吸。

 そして瞼を開いた時、そこに逡巡は欠片も浮かんでいなかった。

 

「行けるのね、シンジ君」

 

『ないが(違いますよ)。こげん時は(こういう時は)、行けちゆわんなよ(行けって言ってくださいよ)』

 

 不敵に笑うシンジ。

 第一発令所の全ての耳目が集まっている事を理解する葛城ミサト。

 だからこそ、揺るがぬ声で命(・)令(・)する。

 全ての責任は自分にあると宣言する様に。

 

「そうね。命令! 碇シンジ中尉待遇官はエバー初号機で出撃、使徒を撃滅せよっ!!」

 

「葛城さん!?」

 

 思わず声を上げた日向マコト。

 だが葛城ミサトの視線はシンジから外れない。

 そのシンジ、男子一生の快事とばかりに笑っていた。

 

『よか(はい)! 任せっくいやいや(任されました)!!』

 

 

 NERV本部の誇る鬼札(エース)が、場へと投入される。

 第14使徒との戦闘は更なる激化を迎える事となるのだった。

 

 

 

 

 

 

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