サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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「シンジ君、作戦会議しましょう!」

 

 そう言ってシックスパック(ビールセット)を片手に葛城ミサトが碇シンジの家を訪れたのは、シンジが1日の疲れを癒す料理を作ろうかと取り掛かった時であった。

 具体的には帰宅直後である。

 

ないな(いきなりですね)

 

 苦笑と共に玄関を開ける。

 帰れだの何の用かだのと言う気配は無い。

 事実上の強襲を受けたにも拘わらず、軽い感じで受け入れる辺りシンジの人柄の大らか()さが出て居た。

 後、馴れであろうか。

 細かい事を考えても意味がない。

 特に()()()相手の場合には。

 突発的な飲み会が多発し、義父母の家で宴会めいた事が週に1度は発生する様な環境にあったのだ。

 酒を片手に襲撃された程度で驚く事など無かった。

 

「ごめんなさいね、シンジ君」

 

 襲撃者(葛城ミサト)とは違い、申し訳なさげに被害者(シンジ)に謝るのは赤木リツコであった。

 尚、手にはピザの箱や総菜の類が詰まったパックがある。

 晩御飯、或いはツマミとして買ってきたのだろう。

 

赤木さあもな(赤木さんもですか)ないがあったとな(何かありましたか)?」

 

「ミサトが気にしてたのよ、昼の、レイとの事を」

 

 今現在、世界に3人しかいない適格者(チルドレン)

 人類の存続と言う重たいモノを最前線で背負う事になる3人なのだ。

 その人間関係を良好にすると言うのは、決して軽視して良い話ではないのだ。

 だからこそ葛城ミサトは(アルコール)片手にシンジ宅を強襲したのだ。

 酔っ払いが絡めば本音が引き出せるだろう、そんな(スケベ)心からの行動であった。

 尚、赤木リツコが臨席する理由は、()()()()()()様にとの見張り役(ストッパー)であった。

 学生時代、酒席の撃沈王(アルコール・ゴジラ)と言う名誉なんだか不名誉なんだか判らないあだ名を持っていたのが葛城ミサトなのだ。

 それが、酒を片手の相談等と言い出せば不安を感じ、動かざるを得ないと言うものであった。

 葛城ミサトは赤木リツコにとって親友(マブ)である。

 だが、殊、酒が絡んだ場合での信用は皆無であった。

 

じゃひとな(そうだったんですか)ごくろうさぁこって(管理職は大変ですね)

 

「そーよー シンジ君。子どもたち(チルドレン)の関係を見るのも大事な事なのよ!」

 

 駆けつけ一杯を通り越し、出掛けの(帰宅するやいなやの)一杯としゃれ込んで来た葛城ミサトは赤ら顔で極めて調子が良かった。

 早々に、なんと言うか大人の人間としての恥ずかしさを感じ、苦笑いを浮かべた赤木リツコ。

 対するシンジは、よくあるよくあるとばかりに気にせずにいた。

 

なんもなかどんからん(何も用意はできませんけど)あがいやんせや(どうぞ寄って下さい)

 

 

 

 

 

 広いが故に、照明を点けても薄暗いと感じるNERV総司令官執務室。

 一通りの仕事を終えた碇ゲンドウは、その疲れを癒すためもあって、その豪奢な椅子に背を預けていた。

 その貌は痩せこけ、その鋭すぎる目つきと相まって幽鬼めいた風格を漂わせている。

 固形物を喰えない ―― 顎を砕かれたが故に流動食と水分摂取だけの日々が続いた結果だった。

 顎の傷に染みるからと、熱くも無い、冷たくも無い、常温の流動食。

 人が必要とするカロリーは得られるのかもしれないが、碇ゲンドウにとってソレは、正直な感想として豚の餌であった。

 食への拘りと言うモノを持たない碇ゲンドウであったが、いい加減、温かな食事が恋しいと思う様になっていた。

 そんな顎の傷であるが、NERV総司令官と言う特権を使って、ふんだんに再生医療だの先進医療だのを用いたお陰で治りは早まっていた。

 が、早いのだが、顎の骨折が治っても、次は前歯の治療が待っている。

 まともな食事が食べられるのは、この調子で言っても後1月は必要だろうと主治医が言っていた。

 

しぃめ(シンジめ)

 

 呪詛を漏らす。

 が、口と言うか顎が上手く動かないので間抜けな音にしかならぬ。

 最近はSEELEどころか日本政府からも、会議に際しては生暖かい目で見られる始末だ。

 碇ゲンドウにとって不本意極まりなかった。

 恐るべき敵手(タフネゴシエーター)と警戒されていた頃よりも話が通り易いのも、地味に腹立たしい。

 同情か、哀れみか。

 政敵と言って良かった、日本政府のタカ派議員から「子育ての反抗期は本当にたいへんだよな」等と慰められた時には、いっそ腹を切りたくなる程であった。

 切歯扼腕。

 その感情を全て仕事に回した。

 具体的には、各支部の綱紀粛正である。

 想定されていた使徒がとうとう出現したので、と言うタテマエでの憂さ晴らしだ。

 特にSEELEの手足となってアレコレと動いていたNERVドイツ支部や、アメリカ政府の支配色の強かったNERVアメリカ支部を〆た時が一番、碇ゲンドウを癒した。

 癒着や賄賂、不法な実験その他。

 叩くネタは幾らでも握っていたのだ。

 当初は強硬な態度を崩さなかった2つの支部であったが、NERV本部総司令官直轄の特殊監査部が集めて来た情報、それをホンの少し開帳するだけで簡単に膝を屈していた。

 それぞれの支部長は、訛りの強い日本語で碇ゲンドウに慈悲を乞い、それが通らぬとなれば怨嗟の声(豚の悲鳴)を上げた。

 その様は最高に良い気分を碇ゲンドウに齎した。

 そのオマケとして、NERVドイツ支部からは秘匿していたエヴァンゲリオン自体の兵器化研究の情報を回収。

 NERVアメリカ支部からは、建造中であったエヴァンゲリオン4号機の本部接収に成功したのだ。

 憂さ晴らしの対価としては、極めて上手く行ったと言えるだろう。

 

 だが、そんな碇ゲンドウを凶報が襲う。

 シンジと掌中の珠たる綾波レイの接触である。

 接触自体は良い。

 同じエヴァンゲリオンの適格者(チルドレン)だ、接触させない方が不自然になるだろう。

 だが問題は、綾波レイがシンジの頬を張ろう(叩こう)とした事だ。

 

「いやはや、綾波レイの気性はユイ君に似たのかもしれんな」

 

 凶報を持ってきた冬月コウゾウがいっそ朗らかと呼べる口調で言う。

 実際、楽しそうである。

 それを机を叩いて否定する碇ゲンドウ。

 妻である碇ユイは女神の様な女性であったのだ、少なくとも碇ゲンドウにとっては。

 兎も角。

 綾波レイがシンジを叩こうとした理由が、シンジが碇ゲンドウを殴ったからと言うのは、碇ゲンドウの正直な感想として嬉しい話であった。

 人類補完計画の鍵として綾波レイを見ているが、同時に、娘の様にも思う所があったのだから。

 だが、そうであると手放しに喜ぶわけにもいかない。

 

「だが、そう笑っている訳にはいかんぞ? 余り自我(パーソナル)が成長され過ぎてしまうと……」

 

「禁じられたアダムとリリスの融合の鍵、だからな」

 

「忘れていないのならば、何らかの手を考えた方が良いのでは無いか」

 

「……問題ない。その時は3人目を起動させるだけだ」

 

 消去(リセット)、裏技と言うよりも外道の手段。

 それを揺るがずに口にする碇ゲンドウ。

 冬月コウゾウは哀れむ様に告げる。

 

「それでお前が納得できるなら、問題は無いだろうな」

 

「全ては人類補完計画の為、ユイに会う為だ。冬月、その為には全ての手段は選択肢に在り続ける」

 

「ユイ君に再会した時に、お前が怒られぬ事を祈るよ」

 

 

 

 

 

 碇シンジと綾波レイを仲良くする方法を考える会。

 そんな馬鹿馬鹿しい事を言い出したのが葛城ミサトであり、推進者も葛城ミサトであったが、同時に持ち込まれたビールとシンジの家にあった焼酎で()()されたのも葛城ミサトであった。

 好き放題に飲んで騒いで、ソファに寄りかかって寝始めた姿は、何ともアレであった。

 一升瓶を抱えてひっくり返っているのだ。

 しかも、大口を開けていびきをかいている。

 見て仕舞えば100年の恋も冷めると言う程の惨状とも言えた。

 

疲れちょったんなぁ(疲れてたんでしょうね)

 

 風邪をひかぬようにとタオルケットを掛けるシンジは、酔人の介抱に手慣れた風であった。

 

「そうね。でもやっぱり嬉しいのよ。使徒を倒せた事が」

 

10日もたっとになまだな(もう10日も経ってますよ)?」

 

「祝勝会も出来なかったから、溜まってたのよ」

 

じゃったらしかたなかな(それは仕方がないですね)お茶、いっけ(お茶淹れますけど、飲みます)?」

 

「あら、ありがとう」

 

 焼酎のお湯割り用にと用意していた湯沸かしポッドを確認するシンジ。

 そんなに減っていなかったので、故郷から送られてきた知覧茶を手早く淹れて2人前用意する。

 焼酎のお湯割りとは違う、柔らかな湯気が上る。

 

「手慣れてるわね?」

 

そげんなかはっじゃっど(そうでもないと思いますよ)

 

「家事が出来る男性って、モテるわよ、シンジ君?」

 

 そう言いながら部屋を見る。

 リビングにはカーペットとソファ、そしてちゃぶ台があるだけだ。

 割とセンス良く纏められている。

 何より、掃除が行き届いているのが良い。

 先に見た、()()()()()の葛城ミサト宅のアレ(荒れ)っぷりを見ると特に。

 この3LDKと言う男とは言え子どもが住むには広すぎるシンジの家は、民間の企業(ディベロッパー)が建設した物件を一棟丸ごとNERVが借り上げたマンションにあった。

 専門の警備まで付いている、独身から小規模世帯の尉官上位者以上向け官舎だ。

 名はコンフォート17と言う。

 シンジがそんな高級物件に入れた理由は、世界に3人しか居ないエヴァンゲリオンの適格者であると同時に、現在の身分がNERV所属中尉待遇官となっているからであった。

 尚、綾波レイは少尉待遇官である。

 後から選ばれたシンジが先に昇進している理由は、先の使徒戦での戦勲からであった。

 被害を最小限に抑えられたとの評価が成されての事であった。

 階級章を安売りするが如きだと、作戦局の一部からは批判も出たが、そちらは葛城ミサトが抑えていた。

 所詮は()()であって、俸給その他が中尉と言う階級に準じているとは言え、権限はないのだからと言って。

 

ないがないが(まさか、ですよ)かごんまのおとこしぃでんこひこはすっど(鹿児島の男でもこれくらいはしますよ)

 

 下手だからと、邪魔だからと女性陣に怒られながらしているとシンジは笑う。

 酒精が残っているのか目元がまだうっすらと赤い。

 

「あら、昔は男尊女卑の僻地って言われてたものよ? 変わったのね」

 

そぁたてまえやっと(それは綺麗事ですよ)まっこてカカァ天下のひでがばしょやっち(本当は女性が強いですからね)だいも勝てんちゆぅもんじゃっど(誰も勝てないと言ってますよ)

 

「まぁ」

 

 小さく、だが陽性を帯びて笑うシンジ。

 そこに暗さは無い。

 事前 ―― シンジが第3東京市に来る前に見た情報、内向的な少年と言う評価がどこから来たのかと赤木リツコは首を傾げた。

 とは言え、丁度良いと話を動かす。

 綾波レイの事だ。

 本来の、今日の主題だ。

 やるべきであった葛城ミサトが轟沈しているので、自分がやるしかないだろうとお節介心が出たのだ。

 常であれば他人に干渉しないのが赤木リツコのポリシーだ。

 だがそれを越えて動いたのは、赤木リツコもアルコールが回っていたからなのかもしれない。

 

「なら、彼女にも勝てないと言う事かしら?」

 

綾波さぁな(綾波さんですか)

 

「そうよ」

 

 頭を掻いて苦笑するシンジ。

 何とも言い難い、と。

 

後妻ゆぅ話がちごとはわかったどん(後妻の話が違うにしても)ま、どげんしようもなかですよ(どうにもならないですよ)きらわれたごあっでな(嫌われたみたいですし)

 

「歩み寄れない?」

 

あたいが問題じゃねど(私の側の話じゃないですよ)あん子が妥協し貰わんとな(あの子が妥協しないと無理ですよ)

 

「シンジ君、怒って無いの?」

 

あひこん事っで(あの程度の事ですからね)

 

「………優しいわね、シンジ君は」

 

 赤木リツコは言葉を探した。

 探したけれども見つからなかった。

 だから、素直な言葉をつづけた。

 

「あの子は不器用なのよ、だからお願いねシンジ君」

 

ないがな(何がですか)?」

 

「生きる事が…………」

 

 

 

 

 

 


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