サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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愛は強くして死のごとく、嫉みは硬くして陰府にひとし

――旧約聖書     









壱拾参) ANGEL-15  ARAEL
13-1 DYNAMES


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 甚大な被害を第3新東京市、及びNERV本部に齎した第14使徒。

 幸いであった事は、警戒されていた次なる使徒の襲来が直ぐでは無かったと言う事であった。

 そのお陰でNERVと人類は使徒への備え、その再構築に目途を付ける事が出来ていた。

 

 1つは要塞都市としての第3新東京市の再建である。

 とは言え、その機能が復旧したと言う訳では無い。

 第14使徒が作った巨大なジオフロントへの突入路は、特殊装甲材による暫定的な蓋をしたと言う程度であり、防護力は無いに等しかったが。

 又、信濃砲座を筆頭とする要塞砲群に至っては、復旧どころか破損した設備の撤去すら着手されていなかった。

 とは言え、第3新東京市の火力が低下したと言う訳では無い。

 国連軍部隊 ―― 第3特命任務部隊(FEA.TF-03)と交代で第3新東京市に配備された国連軍第4任務部隊(UNA.TF-04)が、従来の増強連隊戦闘団規模から旅団戦闘団規模へと拡大されていたからである。

 直接火力は従来と同様に戦車大隊であったが、支援火力(野砲部隊)が2個連隊規模へと無茶苦茶な増強が図られていた。

 国連極東軍(Far East-Aemy)のみならず、国連欧州軍(Europe-Aemy)からも砲兵部隊をかき集めていた。

 文字通りの全人類軍(コスモポリタン)と化していた。

 それが只の1ヵ月で臨戦態勢にまで持ち込めたのは、人類の本気と言う所があった。

 各国連軍の大型輸送機をかき集めてヨーロッパから一気に作戦部隊を日本へと送り付けていたし、各部隊指揮官から兵卒まで使徒と戦うと言う意思の下で日頃の対立、政治その他のアレコレを忘れて団結していた。

 それ程の脅威を、第14使徒は見せつけたとも言えた。

 最強の片割れたるエヴァンゲリオン弐号機では、3機のエヴァンゲリオンの支援を受けても勝ち切れず、修理途上であったエヴァンゲリオン初号機を投入せざる得なくなったと言う事実。

 そして2機掛かりで、それも甚大な被害を出しながら漸く勝てたと言う事は、極めて重かった。

 赫々たる戦果を挙げていたエヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機のペアをして、と世界は認識したのだ。

 エヴァンゲリオンが大被害を被ったのは第14使徒戦が初と言う訳では無いのだが、如何せん、使徒とエヴァンゲリオンの情報公開が行われてと言う意味では初であり、そして何よりも使徒との戦闘をリアルタイムで世界が見たと言う事が大きかった。

 

 胴体を貫かれるエヴァンゲリオン3号機。

 腕を消し飛ばされたエヴァンゲリオン初号機。

 

 編集された(過去の使徒戦の)動画では華々しい勝利だけを重ねてきたように見えたエヴァンゲリオンは、常に薄氷の上の勝利を重ねて来たのだと認識されたのだ。 

 使徒の脅威、使徒との戦いの過酷さが改めて認識された結果とも言えた。

 民意が動き、民意に従って政治が動き、そして総体としての人類が大きく動く事となったのだ。

 エヴァンゲリオン以外に於けるNERV本部の戦闘力が大幅に回復したのは群体としての人類、その総力が発揮される事となったお陰とも言えた。

 

 又、攻撃力だけではない。

 広域の哨戒網の構築と言う意味でも、大きな影響が出る事となる。

 使徒が忽然と現れる。

 しかも、最近の使徒は電磁波で捉えられない(レーダーに映らない)

 故に官民を問わぬ肉眼(Mark.Ⅰ アイボール)による索敵網が構築されていた。

 それは対地上や対空のみならず、宇宙をも含められていた。

 民間人主体(NPO)宇宙観測組織(スペースガード)まで国連安全保障理事会と協定を締結し、その指揮下に入っていた。

 正に人類の総力戦状態であった。

 

 

「お陰で私たちもいまだに、第3新東京市で呑気な生活が出来るって訳よ」

 

 結論としてそう述べるのは葛城ミサトだ。

 無論ながらも、気楽な口調に相応しくビール缶を片手に持っていたが。

 時は夕食時。

 久方ぶりに碇シンジ宅に、それも、食事の時間に襲撃できた幸せを噛みしめていた。

 本日の主菜はアジフライだ。

 揚げたてカリカリ、シンジが自分で作ってみたタルタルソースが添えられたソレは、市販のソレよりもピクルスの味が濃ゆく、実にビールに似合っていた。

 尚、炊きたての白ご飯。

 そして惣流アスカ・ラングレー謹製の味噌汁も実に美味しい。

 

 正に()福と言わんばかりの表情をしている。

 尚、申し訳なさそうな顔をしている赤木リツコも隣に居た。

 とは言えその内心は、表情程には申し訳なさを感じては居なかったが。

 NERV本部の再建もひと段落と言った所なので、息抜きも必要とばかりに2人で()()()となった際、ならついでに、初々しいカップルを襲撃して瑞々しい若さを吸収しようと言い出したのは何を隠そう赤木リツコであったからだ。

 連日の仕事に疲れ果て、家に帰ってもご近所(同じ宿舎棟)の伊吹マヤや綾波レイとの交流も無かった反動が出た結果でもあった。

 そもそも、常ならば良識的な発言をする(ストッパー役を任ずる)赤木リツコであるが、本質的に良識的人間であるならば、私人としては愉快過ぎる側面を持った葛城ミサトを親友(マブ)にする筈が無いのだ。

 それが、類は友を呼んだのか、それとも朱に交われば赤くなったのかは判らない。

 ただ言えるのは()は似ているからこそ、仲は続くと言う事だ。

 

「物流が安定したお陰で、生鮮食料品が普通に入手できるのは有難いわよね」

 

 アジフライの付け合わせである千切りのキャベツも、プチトマトも実に瑞々しいのだ。

 赤木リツコが舌鼓を打つのも当然であった。

 と言うか美味しそうに味わっている。

 何とも言い難い、人間の食事への感謝(温食万歳)を全身から漂わせていた。

 

 NERV施設の食堂、そのメニューに使われる食材も新鮮ではあるのだが、如何せん、調理から時間の経って冷えたり、或いは野菜類も萎れたりしているのだ。

 調理スタッフによる努力はあれども、手放しで美味しいとは言い難いのが実状であった。

 今現在の食堂が多忙なのは、第14使徒との戦闘で被害が出たNERV本部施設の中には幾つかの食堂施設が含まれていたが為であった。

 生き残った食堂施設は、その設備容量(キャパシティ)を超えるスタッフの胃袋を満たす為に努力し、その努力は実を結んでいるのだ。

 だが、口の肥えた人間(一般的日本人)にとってソレは何とも耐えがたい苦行めいた部分でもあった。

 メニューは固定されており、選択肢など無いに等しい ―― 麺類(うどん/そば)2種類の定食(A肉定食/B魚定食)の4つからしか選べないと言う有様であったのだ。

 無論、肉も魚も冷凍食品を揚げただけのモノだ。

 しかも夕食に至っては、昼の余りを詰め合わせた弁当となるのだ。

 かつてのNERV本部食堂群の、レストランもかくやという頃と比べれば絶望的状況と言えていた。

 そして赤木リツコにせよ葛城ミサトにせよ、それらをインスタント味噌汁で掻き込んで仕事をしていたのだ。

 それがこの1月の事なのだ。

 シンジの、手の込んだ料理と言うモノへの歓喜が出るのも当然であった。

 

「アスカのお味噌汁も美味しいし。言う事なしね」

 

「お代わり、まだあるわよ?」

 

「有難う」

 

「あ、私はビールで」

 

「はいはい」

 

 シンジ宅の主婦2号とばかりに甲斐甲斐しく味噌汁のお代わりを準備し、冷蔵庫からビールを取り出すアスカ。

 最初は、シンジとの時間を邪魔する闖入者めとばかりに葛城ミサトと赤木リツコを睨んでいたのだが、本当に美味しそうに、それも癒されると言って食べる姿を見ると毒気を抜かれていた。

 尚、主婦1号にして家主であるシンジは、葛城ミサトと赤木リツコに奪われた自分たちのアジフライを追加で揚げているのだった。

 三枚おろしのアジに下味を付け、パン粉にまぶして手早く揚げていく。

 その手慣れた感は実に主夫めいていた。

 手伝うアスカと並んでいる姿の初々しいさ、瑞々しさは、仕事に疲れた大人(アラサーめいた2人)には最高の肴であった。

 

「美味しいわね」

 

「でしょー」

 

 シンジとアスカに見えぬが故に、ニヤリと笑っている葛城ミサトと赤木リツコの両名。

 1000名からなるNERV本部の実務部隊トップらしい大人の仕草(ヨゴレ&腹黒さ)であった。

 

 

 

「美味しかったわね」

 

「ホント、生き返った気がするわ」

 

 貪る様に喰らい、浴びる様に飲んだ葛城ミサトと赤木リツコの両名は、勝手知ったる他人の家とばかりにリビングに移って焼酎に取り掛かっていた。

 常夏の第3新東京市に相応しいオンザロックだ。

 服の襟元を緩め、ストッキングは脱ぎ捨てている大人の艶姿は、()少年には少しばかり刺激的過ぎる所もあるのだが、そんなよそ見をアスカが許す筈も無かった。

 よそ見は許さぬとばかりにシンジの隣のソファを占拠して、シンジの視線も独占していた。

 その可愛らしい稚気(独占欲)には、流石の大人組(アラサー・コンビ)もご馳走様と言う顔をしていた。

 美味しい肴である、と。

 

「で、そんなにナニかあったの?」

 

 お土産として齎されたチーズを摘まみながら、アスカは尋ねた。

 やけに2人が元気だと言うのが、その言葉の理由であった。

 対して葛城ミサトは笑って答えた。

 

「取り合えず、1段落だからよ」

 

 そして秘密を明かす様に言う。

 対使徒用の特殊装備が支給される事となった、とも。

 

「ロンギヌスの槍?」

 

「碇司令が南極支部の特別研究機関と折衝して、回収した特別装備と言うものだそうよ」

 

 さらりと見せたソレ(資料)には、赤い槍状のナニかが写っていた。

 セカンドインパクトの原因、南極で羽化しかけた第1使徒Adamを還元して封じた喪失技巧(ヘリテージ)だと言う。

 

「使わせてくれるなら、とっととやって欲しかったわ」

 

 しゃぶると言うよりも齧ると言う塩梅でスルメを口にしながら愚痴る葛城ミサト。

 だが、と続ける。

 これで先の第14使徒の様な規格外の相手にも十分に戦えるだろうという。

 

「とは言え、使用には人類補完委員会による許可が必要なのだけどね」

 

 赤木リツコの補足。

 現在、ロンギヌスの槍は1つしかない為、おいそれと使用して喪失すると言った事になっては堪らない。

 だからこその安全策と言えた。

 

「ふーん」

 

「興味ない?」

 

「べっつに。だって初号機が直ってアタシの弐号機と万全になれば、なんだってぶちのめしてみせるわよ」

 

「………そうね」

 

 アスカの実績を背景にした自負。

 それは慢心では無かった。

 詳細不明な遺産よりも、積み上げて来た実績と言う意味では、正にアスカの言葉通りなのだから葛城ミサトとて同意するのみであった。

 実際問題として使徒が出現しなければ試射、試用が出来ないのだから、ロンギヌスの槍の性能、或いは信頼性など測れるものでは無かった。

 

 とは言え、赤木リツコは違う。

 科学者としての側からのアプローチとしては、そのロンギヌスの槍を分析して、その能力を再現した新装備を開発すれば、今後の使徒との戦いに有益だろうと考えていた。

 

「分析って、出来るの? 南極の研究所では素材の解析も出来なかったって話でしょ」

 

「やってみるだけよ。それに今のNERVは世界中の研究機関と提携を進めているから、判る事も多い筈よ」

 

「ふーん」

 

 尚、頑健な刀状の武器であれば文句を言わない(得物を選ばない)シンジは、アスカ達の会話をただ聞いていた。

 隣に居るアスカの良い匂いに意識が持って行かれている部分もあったが。

 好きと言う気持ちを交わして以降、距離が近い(濃厚なスキンシップの)日々はシンジにとって極めて刺激的であり、眩暈めいたモノを感じる所があった。

 酒精(アルコール)を摂取するよりも頬や耳を赤くしており、そこがアスカに堪らない気分を齎すと共に、周りの大人からの微笑ましい目線を貰ってもいるのだった。

 付き合いを初めてもう1月は経っていたが、いまだ初々しいシンジであった。

 尚、表には出さないがアスカも似た様なモノであった。

 幼少期にエヴァンゲリオンの適格者(チルドレン)として選抜され、それ以降は親から切り離されて、大人たちの間で厳しく鍛えられ、育てられてきたのだ。

 恋人(Liebhaber)と言う、無条件で自分を見てくれる、認めてくれる相手が生まれたと言う意味は、家族と共に育っていたシンジよりも大きい部分があった。

 だからだろうか。

 恋人と言う距離感よりも家族、親密な兄妹にして姉弟的な距離感となっていた。

 ソレは同時に、異性への感情に目覚めても、いまだ性欲の目覚めと言う部分では幼いシンジにとっても判りやすい距離感でもあった。

 好きだと言う気持ち。

 一緒に居たいと言う気持ち。

 離れたくないと言う気持ち。

 実に青春であると言うのが天木ミツキら、良識的かつ近い大人たちの評価であった。

 尚、そこに安堵が加わるのが葛城ミサトであったが。

 

 軽い家呑み。

 オンザロック用の氷を使い果たすころ、ぽつりと葛城ミサトが言った。

 

「そう言えば、前々から言ってたアレ。悪いけどする事になったわ」

 

 アレ。

 それは第14使徒との戦いで死傷した人々への慰霊式典であった。

 それは政治の要求であった。

 

 第14使徒との戦いでの被害は甚大の一言であった。

 NERVスタッフや国連軍将兵、それに民間の死傷者が合わせて1401名に上り、そこに1341名もの行方不明者が出ているのだ。

 しかも、世界の多くの人間は、使徒の恐ろしさを改めて実感し、政治に対して対応を要求していた。

 不安感情。

 故に、それを慰める為に1月を節目とした慰霊と、今後に向けた戦意の宣言をする式典を行う事を国連安全保障理事会が決定したのだ。

 無論、そこに華を添えると言う意味でも子ども達(チルドレン)の参加は必要であるとされていた。

 

 微妙な顔をするシンジとアスカ。

 お互いの顔を見やって頷く。

 代表する様にアスカが言う。

 

「流石にパーティとかは勘弁よ?」

 

 アスカでは無く、隙の無い化粧(変装)をしたレッド・ツーの姿は、長時間していたいモノではないのだ。

 座って笑っているならまだしも、その恰好での飲み食いも談笑も勘弁して欲しいと言うのが本音であった。

 

「ソッチは当然よ。バカがゴネたりしたみたいだけども、ミツキが本気で安保理にも噛みついたから大丈夫」

 

 シンジやアスカと言った適格者(チルドレン)は、世界の守り手などと言われ、ある種の世界的著名人に数えられる事となっているのだ。

 であれば当然、縁を繋ぎたいと言う生臭い(政治的欲望の強い)人間が出て来るのも当然であった。

 更に言えば、アスカや綾波レイはミラーシェードで目元を隠していても判る美少女なのだ。

 シンジだって美少年と言えるだろう。

 偶像(アイドル)的な意味で、男女を問わぬ政治よりも生臭い欲望を持った人間が近づこうとするのも当然の話であった。

 

 尤も、その全てを天木ミツキが叩き潰していたが。

 比喩的表現ではない。

 ()()()()()()()()()()()

 適格者(チルドレン)との親睦会開催を、自身の政治的立場強化の為に強引な形で要求してきた欧州の某国国連代表を、NERVの諜報部門(特殊監査局)を動かした上で政治的詐術を使う事で、代表の座を失う様に仕向けたのだ。

 政治的隙 ―― 敵の多い人物だったとはいえ、それを1週間でやってみせたのだ。

 剛腕をもって知られた交渉巧者たるNERV総司令官碇ゲンドウを使ったとは言え、正に辣腕であった。

 尚、物理的と言われる所は、その失脚した代表が離任挨拶と称してNERV本部に文句を付けに来た際、不埒(暴力)行為を働いたとして物理的に叩きのめした点からの事であった。

 

「なら良いけど」

 

「ま、トウジ君とカヲル君のお披露目も兼ねてるから、時間は少しばかり長いけど、許して頂戴」

 

「………そこは仕方ないわね。良いわよね、シンジ」

 

「ん。アスカが決めたんだったら、僕はそれに従うよ」

 

 シンジの言葉。

 それは自主性の放棄では無く、アスカを信じるが故であった。

 そして、それが判るからこそ、くすぐったげにアスカは笑うのだった。

 

 

「珈琲が飲みたくなるわね」

 

「もうお腹一杯よね、甘酸っぱさで」

 

 

 

 

 

 新しいNERV総司令官室、正確に言えば総司令官執務室はNERV本部地下施設の更に下部、地下中枢のターミナルドグマに近い場所に設けられていた。

 機密情報の管理などの面で効率的である事が理由だった。

 尚、使徒とNERVの情報公開後に増えた外部からのお客人を応接する為の総司令官公室は別に、地上(地表)施設側に設けられている。

 ある意味でNERVが、秘密組織(非公開特務機関)では無くなった事を象徴する処置であった。

 

 その新しいNERV総司令官執務室で碇ゲンドウは責任者らしい仕事を回していた。

 各外部組織との折衝、それはSEELEであり、国連安全保障理事会であった。

 特に日本政府との折衝は優先度の高いモノであった。

 第14使徒による甚大な被害は日本政府を震撼させるものであり、国民保護の観点から第3新東京市や御殿場市などの箱根カルデラ一帯の住民の避難計画の策定、或いは疎開に関する事が議題となっていた。

 住民の避難用シェルターなどは優先的な予算配分が行われていたお陰で十分な数が用意出来ていたが、如何せん、使徒の広域攻撃能力が高すぎるが為、避難場所として十分では無くなっているというのが実状であった。

 とは言え、シェルターの安全な場所への新規増設などは簡単ではない為に、議論は簡単に結論が出る類の話では無かった。

 本来、細かい点は実務スタッフで行われるモノであるのだが、そこに碇ゲンドウが駆り出されている理由は政治であった。

 NERV総司令官も問題解決に動いている、日本政府と足並みをそろえて行動していると言うアピールの為であった。

 

「………ふぅ」

 

 大きくため息をつく碇ゲンドウ。

 疲れが溜まっていた。

 高速鉄道(リニア)、或いはヘリを使うとは言え週に幾度も第2東京(長野県)まで出張を繰り返すのだ。

 如何に頑健な肉体をしているとは言え、疲労せぬはずが無かった。

 

「お前も疲れているな」

 

 第3新東京市の市政部分との折衝を担っているお陰で、出張の少ない冬月コウゾウが揶揄する様に笑った。

 とは言え、当人も結構な感じで疲労の色を浮かべていた。

 NERV総司令官である碇ゲンドウ不在の場合、NERVの代表代行まで担っているのだ。

 突発的な来客(VIPの来訪)などへの対応も含まれている為、気苦労と言う意味では碇ゲンドウと同じようなものであった。

 

「お前もな」

 

 責任者の仕事は責任を取る為にあるとは言え、実に大変であると言うのが2人の共通する認識であった。

 SEELEすら疲弊して、会議が減少していた。

 そもそも高齢者集団なのだ。

 過労による病気で入院したと言うのは、この1月余りの時間で3人に及んでいるのも仕方のない話であった。

 

『人類の未来。そして人類補完計画。少し考えなおすべき部分があるのかもしれんな』

 

 弱気な事をSEELEの首魁たるキール・ローレンツが零す程であった。

 日本政府との折衝で疲れている碇ゲンドウに対して、SEELEは国連安全保障理事会とEU(ユーロ)なのだ。

 1国である日本に対してEUは複数の国家の連合体であり、その意思は完全に統一されている訳では無いのだから、折衝の大変さと言うものは数段上と言う有様であった。

 碇ゲンドウとの2人だけの電話会談で弱気を見せる程には。

 

「残る使徒は3つと言う。コレを乗り切れば全ては終わる」

 

「その前に俺やSEELEの老人共の寿命が来そうだよ」

 

 寿命と言う言葉を、耐用年数と言うイントネーションで言う冬月コウゾウ。

 大学教授を前職とするとは思えない年齢不相応な強さ(タフネス)を誇っていたが、連日の折衝は、その冬月コウゾウをして己の限界を感じる所があったのだ。

 

「人類補完計画。老いも病も無いのであれば、それはそれで幸せかもしれんな」

 

「SEELEの計画であれば、人類は1つの階梯(ステージ)を上がる。そう言う結果になる可能性が無いとは言えぬ」

 

「だが、お前の計画は別なのだよな」

 

「ああ。エヴァンゲリオンを軸とした全人類の統合こそが新しい世界に繋がる筈だ」

 

「ユイ君もそこに居る筈、か」

 

「…………」

 

「まぁ良い。死ぬ前に結果が見たいモノだ」

 

「問題ない。既に使徒は14体目まで討伐する事に成功している。あと少し。あと少しなのだ__ 」

 

「そう願うよ」

 

 嘆息する冬月コウゾウ。

 それは実に実感の籠った言葉であった。

 

 

 

 尚、碇ゲンドウにせよ冬月コウゾウにせよ、行うべき仕事に忙殺されていた結果、人類補完計画の鍵となる綾波レイの成長を見落としてしまうのは、何とも大きな失敗(ポカミス)であった。

 

「ニンニクラーメン、チャーシュー抜き」

 

 正式にNERV戦闘団第2小隊を組む事となったエヴァンゲリオン4号機とエヴァンゲリオン6号機。

 その為、NERV本部での訓練に勤しんでいた綾波レイの隣に住む伊吹マヤが夕食の話を振った際、強い調子で主張するのだ。

 食べ物の主張。

 強い食べ物の主張。

 ある意味で実に日本人らしいと言えていた。

 

「駄目よ。今週はもうラーメンを食べに行ってるんだから」

 

 内臓が弱い綾波レイにとって、刺激物の多いラーメンは余り良い食事とは言えないのだ。

 だからこそ、赤木リツコは週に1回に抑える様に厳命していた。

 だが、その程度で綾波レイはへこたれない。

 抗弁だ。

 それも、キチンとした理由を添えて行う。

 

「渚君が食べてみたいって言ってたから」

 

 小隊を組む相手(パートナー)なのだから、同じ釜の飯を喰うのは大事。

 そんな言葉も続けた。

 とは言え、小動物的な仕草であり、その可愛らしさに伊吹マヤが抵抗するのは難しかった。

 

「本当?」

 

「本当」

 

 確認の為に振り返った伊吹マヤに、渚カヲルは笑顔(アルカイックスマイル)で頷いた。

 先に、綾波レイにそうしろと命令されていたのだ。

 見事に管理されていた(尻に敷かれていた)

 そんな事に気付かない伊吹マヤは仕方が無いかと受け入れるのであった。

 戦友(バディ)としての絆の為、と言われては反論も難しいのだから。

 とは言え、問題は3人で乗るには荷物の満載している伊吹マヤの車は難しかった。

 だから仕方が無いとばかりに、手慣れた仕草で遅番だと聞いていた青葉シゲルの電話を鳴らすのであった。

 少しだけ、仕方が無いからと自己弁護しながら。

 でも唇の端を緩めながら。

 だから気付かなかった。

 綾波レイが渚カヲルと覇気のない勢いでハイタッチをしていた事に。

 シンジとアスカの仕草を、綾波レイが憧れ、そして渚カヲルに仕込んでの事であった。

 

 

 

「僕も少しは本部に馴染めた気がするよ」

 

 そんな風にこの日の一幕を後日、渚カヲルはシンジと鈴原トウジに零すのだった。

 

 

 

 

 

 


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