サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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 ある意味で第14使徒が世界を1つにした。

 人類が10と余年もの歳月を描けて建造した対使徒迎撃要塞 ―― NERV本部たる第3新東京市を簡単に一蹴してみせ、判りやすくその脅威を示した結果であった。

 

 使徒と言う脅威は認識していた。

 人知れず人類を護っていたNERVとエヴァンゲリオンと言う存在が公表された際に人々は熱狂した。

 だがそれは、現実とは少し離れた物語(パルプフィクション)めいたモノだと考えていたのだ。

 非公開特務機関。

 全高40mの汎用人型決戦兵器(巨大ロボット)

 しかも、戦場に赴くのは子ども(美少年と美少女)だ。

 現実的だと認識するのが難しいと言うものだろう。

 だからこそ、無邪気に第2次E計画での適格者(チルドレン)募集に、大勢の人間が手を挙げたとも言えた。

 大災害(セカンドインパクト)の苦境から回復しつつある、平穏な日常に加えられた一寸した刺激(スパイス)の様に考えていたのだ。

 

 だが第14使徒によって、ソレは間違えた考えであった事を世界は認識したのだ。

 それまで幾多の使徒を屠って来たエヴァンゲリオンも辛酸を舐めるが如き苦戦をしていた。

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 使徒は現実を、日常を脅かす敵であると明確に認識したのだ。

 使徒の脅威を理解した人類は、目の色を変えた。

 

 恐怖におびえ、身を竦ませた。

 あり得ない。

 目を閉じて、神に許しを願った。

 あり得ない。

 

 そう言う人間が居る事は否定しない。

 実際、宗教者や熱心な信者が教会やモスクに集まって祈りを捧げもした。

 特殊な思想を持った人間が、NERVの活動を神の意に背く事だと言って反政府デモを繰り広げ、使徒を受け入れる事を主張もした。

 だが、それはほんの極一部であった。

 大多数の人間は、その人類の歴史が示してきた範例通りの存在である事を示した。

 即ち、人類同士ですら飽くなく殺し合いを続けてきた戦争種族としての本質だ。

 

 

 

「ま、そういう訳で、こういうモンももろとる訳や」

 

 そう言って快闊に笑うのは鈴原トウジであった。

 手に持って見せるのは、世界中から集まって来た応援の手紙(ファンレター)、その束であった。

 発信場所が国内外を問わず、内容に差し障りが無いかを支援第1課と諜報課が合同で確認し、そして翻訳したモノが渡されていた。

 子ども達に手渡されるのは、実際に送られてきたモノの6割と言った所であり、残る4割はN()E()R()V()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 人間の敵は常に、人間である。

 その事実を煮詰めた様な文面が多かったのだ。

 

 最悪を友とする人間は兎も角として、鈴原トウジが居る場所はNERV本部ジオフロントに新設された第2適格者休憩室であった。

 地下設備のケイジ(エヴァンゲリオン格納庫)に併設された操縦者待機室とは別個に設けられている、身体訓練や座学などが主体の場合に使用される休憩室であった。

 ケイジに併設されている事由来の悪影響、大量のL.C.Lによる臭いや湿度の問題を簡単に解決できる事から、出撃が迫って居ない時にはよく使われる場所であった。

 

「凄いのね」

 

 そう合いの手を入れるのは洞木ヒカリだ。

 鈴原トウジと同じ色柄のNERVのトレーニングウエア(訓練用ジャージ)を着こんでいるが、別にNERVに適格者として選ばれたからでは無い。

 鈴原トウジのリハビリ協力者(トレーニングパートナー)としてD配置職員、新しく設定されたNERVの非正規(アルバイト)スタッフとしてであった。

 

 従来のNERVは3つの立場(配置)のスタッフで構成されていた。

 1つはA配置職員。

 これはNERV本部と第3新東京市要塞機能の運用を担う、戦闘配置も担う全任務対応(フルライン)スタッフだ。

 B配置職員。

 此方は総務や情報部門その他の、非戦闘関連であるがNERVの運営に必要不可欠な部門であり、その職責の重要さから有事には避難が命令されているスタッフだ。

 C配置職員。

 此方は組織運営その他に部分的に参加している、出向者を含むスタッフだ。

 NERVは、この3つの配置と、4段階の機密資格(Access-Pass)でスタッフの業務内容や業務範囲を管理していたのだ。

 だが、第14使徒による人的被害がそれを壊した。

 第14使徒との戦闘は、十分な避難活動が行えぬ中で行う事となった為、非戦闘関連職員であるB配置職員の被害も甚大であったのだ。

 戦闘職種や整備部隊の被害も影響が大きいが、総務部門の被害も決して侮る事は出来ないのだ。

 食事が出来なくなったら、医療サービスが受けられなくなったら、給与が遅配されてしまったら。

 組織は回らなくなる。

 この点に於いてNERV ―― NERV本部は戦闘も担う組織としては余りにも小規模であったが為に、被害への耐性が余りにも乏しいと言えた。

 だからこそ、非正規職員(アルバイト)とも言えるD配置職員と言うモノが新設されたのだ。

 職務内容は多岐に渡っていた。

 その1つが医療部門の補助であるリハビリ協力者(トレーニングパートナー)、それが洞木ヒカリの身分であった。

 

 この様なモノが洞木ヒカリがNERVに居る法的根拠であったが、とは言え居る理由は学徒動員めいたモノでは無かった。

 この場に洞木ヒカリが居る理由は主に乙女心であった。

 乙女心を理解した惣流アスカ・ラングレーを筆頭としたNERVの関係者が気を回し、そこに洞木ヒカリが乗った結果であった。

 

 鈴原トウジがリハビリを必要とする理由は、ある意味で心性のモノであった。

 先の第14使徒との戦いで、鈴原トウジは怪我をしていないのだから。

 だが、乗機であるエヴァンゲリオン3号機は腹部を第14使徒の帯状の鞭で貫通されると言う大被害を受けていたのだ。

 それも2ヵ所。

 戦闘後に被害状態を確認した際、大破状態と判定される程であった。

 だからなのだ。

 エヴァンゲリオン3号機と心で繋がっていた(シンクロしていた)鈴原トウジは、自分自身が腹に大きな怪我を負ったと感じる事となった。

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 結果として、鈴原トウジの肉体はリハビリを必要とする程の衝撃を再現(フィードバック)してしまったのだ。

 この問題、実は既にエヴァンゲリオン弐号機とアスカが第9使徒戦に於いて発生していた。

 故に、その様な事が再発しない様にエヴァンゲリオンと操縦者(パイロット)接続(シンクロ)には安全装置が設置されていた。

 一定以上の被害が機体に発生した場合、自動的に機体と搭乗者の接続(シンクロ)を遮断するというモノが、だ。

 その機能は、今回の第14使徒戦でも発揮された。

 只、問題は遮断する為の基準が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 戦闘中の被害、痛みを幻痛だと断じて悲鳴を上げず、歯を食いしばって使徒を叩きのめす事を優先するエース(バーサーカー)を基準としたのだ。

 尚、設定時には綾波レイにも意見を聞いていた。

 こちらも、被害上等で敵手たる使徒を叩きのめす事を優先する人間であった為、問題に気付けなかったのだ。

 ある意味で、当然の結果であった。

 鈴原トウジの後遺症を調べた赤木リツコは、その事実を理解した時、やりきれないとばかりに調査報告書を挟んでいたバインダーを壁に投げた程であった。

 そして、葛城ミサトと2人して1時間かけて1箱の煙草を吸っての気分転換を自らに強いていた。

 

 兎も角。

 軽度ながらも内臓の弱体化と四肢の痺れと言う後遺症を負った鈴原トウジ。

 だが心は折れなかった。

 否、それどころでは無かった。

 病院のベッドで、自分の体の事を伝えられた際、葛城ミサトらNERVの大人たちに謝っていたのだ。

 シンジやアスカが耐える事に自分が耐えられなかった事を。

 それは鈴原トウジと言う少年の、真っすぐな矜持でもあった。

 或いは健気さ。

 そして、責任感でもあった。

 使徒と言うモノの恐ろしさと対峙し、間近で見たからこそ、小なりとも戦う力を持っている自分が降りる訳には行かないと考えていたのだ。

 誠にもってシンジやアスカ達の戦友に相応しい心根と言えるだろう。

 だが、そうであるが故に葛城ミサトは、鈴原トウジを真っすぐに見返す事が出来なかった。

 適格者(チルドレン)を辞めると言うだろうと考えていたからである。

 だからこそ、NERVは鈴原トウジに最大限の配慮をする事を心掛ける事となったのだ。

 

 

 2週間近くタップリと時間を掛けて入院し、内臓の調子を戻してから行う鈴原トウジのリハビリ内容は、高度な内容では無かった。

 極々普通に体を動かすと言う内容であった。

 体には被害が出ていないのだから、体が、被害はないと受け入れるまでゆっくりと馴染ませれば良いと言う判断の結果だった。

 故に今、洞木ヒカリと一緒にジオフロントに居るのだった。

 安全管理の容易なジオフロントで歩いたり自転車に乗ったり。

 或いはラジオ体操をしたりと言う形で、体を動かしていくのだ。

 プールでの半身浴や水中歩行、そして水泳などもプログラムには入っていた。

 

「ま、センセと惣流のお陰やろ。アイツらは派手やからな」

 

「パープル・ワンとレッド・ツーだったわね」

 

「そうや。派手にカッコを変えとったしな。ワシもほらお披露目したけど、あんまり反応は無かったのがゴッつうムカつくわ」

 

 第2期量産型(セカンドシリーズ)エヴァンゲリオンのお披露目の際、鈴原トウジも4人目の適格者(ブラック・フォー)と言う形で変装して顔を出したのだ。

 だが、本人の言う通り余り大きな話題にはならなかった。

 男の子と言う事もあり、そして戦果もまだ挙げていない新人であるのだ。

 ある意味で当然の話でもあった。

 

 マスコミその他、無責任な聴衆はパープル・ワン(シンジ)レッド・ツー(アスカ)を出せと言い、その後は2人(エースペア)が居れば第13使徒戦は簡単に終わっただろうと噂していた。

 誠にもって無責任であり、自分たちの興味本位の態度であった。

 尚、広報部はそれらの発言があったマスコミをリストアップし、法務部と協力して()()()()()を行っていた。

 表側(法的措置)だけではなく裏側(マスコミのスポンサー)をも狙って動いた点に現れていた。

 その苛烈さは、最初に行われたNERVと国連、そして日本の金看板を背景にした()()に対して、非積極的であった一部の人間に対して更なる裏側 ―― 別件逮捕その他すら適用した辺りに出ていた。

 コレは、使徒との戦いが人類の全てを掛けるべき総力戦であると言う認識が広まった結果とも言えた。

 法的な意味では、これ等の行動は灰色(塀の上を歩く様)な行為どころではない真っ黒さであったが、NERVの大人たちはその選択を躊躇しなかった。

 子ども達を戦場に送り込んでいるのが大人であり社会である以上、その責任は取らねばならぬとの思いゆえであった。

 

 そんな世間の裏側を知らぬ鈴原トウジら子ども達は、素直な顔で笑っていた。

 

「メイクされる時に見せられたんやが、お転婆の惣流の奴なんて正に馬子にも衣裳って奴やったわ」

 

「TVだと余り判らないものね」

 

「変装がバレんように近写は許さんかったってミサトさん達がゆーとったわ」

 

 その言い様に興味津々となった洞木ヒカリ。

 女の子なのだ。

 元より美人な親友が、更に美人になったのだと聞けば興味も沸くというものであった。

 それに気づいた鈴原トウジは、今度、葛城ミサト(責任者)の了解を取ってから持ってくると言うのだった。

 一応は機密に類される写真であったが、洞木ヒカリも今はNERVスタッフであるし、そもそもアスカの親友であるのだ。

 問題は無いだろうと読んでいた。

 

「凄い楽しみ!」

 

「せやろな」

 

 和気あいあいの(青春をしている)2人であったが、そこに水を差す人間が加わった。

 

「や、仲が良いね」

 

 渚カヲルである。

 自転車に乗る為の体のラインの出る半袖半ズボン姿であり、体中から大量の汗を流していた。

 見るからに疲れていた。

 常の、余裕を持って笑っている口元も、力なく垂れる様な有様であった。

 

「渚君、タオル!」

 

 慌てて、部屋に備え付けの棚からタオルを取って渚カヲルに持って行く洞木ヒカリ。

 鈴原トウジはまだ未開封だった清涼飲料水のボトルを1つ、投げて渡す。

 

「大丈夫かいな?」

 

「いや、大丈夫だけど、少し辛いかな」

 

 貰ったタオルで顔を拭きながら、ソファに倒れ込む様な勢いで座る。

 座ってから、力の無い仕草で清涼飲料水の封を切って喉に流し込む。

 美形と言う事で、そんな乱暴な行動も様になってはいたが(色気を漏らす様であったが)、ここにそんな目で見る様な人間は居なかった。

 洞木ヒカリの趣味は野粗なれど卑の無い人間(鈴原トウジ)である為に眼中の外であり、鈴原トウジは異性性愛主義者であったのだ。

 当然の話であった。

 

「センセたちにおいて行かれたか」

 

「あの2人、元気だね」

 

 無論、自転車である。

 体力づくりの一環としてシンジとアスカは、習慣的に自転車でジオフロントを走っていた。

 それを見て渚カヲルも、ならば自分も参加したいと言い出しての事だった。

 であればと綾波レイが自転車の購入などを指南し、その日の内にスポーツ用の自転車を買ってくる様な即断即決ぶりであった。

 そして今日、始めて渚カヲルはシンジとアスカの2人と一緒に、自転車に乗ったのだ。

 

「そやな」

 

 合いの手を打ちながら、時計を確認する鈴原トウジ。

 3人が出て行ってから30分と経っていない。

 だが、鈴原トウジはその30分を、30分()と見た。

 本気で走り始めたシンジとアスカは、下手な原付よりも速いのだから。

 

 尚、綾波レイは本気モードで奔る2人には付いていけないと早々に理解していた為、現在、体力作りに精を出していた。

 黙々と自転車に乗り、或いは走り、体力を作っていく。

 その内容は、赤木リツコや医療スタッフに相談して決めていた。

 本気だった。

 何時かは一緒に奔ると言う野望の火を、胸の中で消さぬまま愚直に頑張ろうとしていた。

 

 

 ある種の猛烈女である綾波レイとは異なり、割と楽観的かつ能天気な男2人は、気楽な調子で会話していた。

 

「しかし、置いて行かれるのは悔しいやろ」

 

「良く判るね。そうだよ。僕は今、悔しいと言う感情を抱いている」

 

「当たり前や」

 

「当たり前、そうなんだね」

 

「そや。だからワイも頑張るから、ジブンも頑張ろうや」

 

「そうだね」

 

 鈴原トウジの激励に頷く渚カヲル。

 しかし、リリンの体は大変だ等とも小さく零すのだった。

 

 

 

 

 

 


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