サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件   作:◆QgkJwfXtqk

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 第14使徒戦での発生した多数の死傷者。

 その慰霊と、そして恐るべき脅威である使徒への人類の大団結を謳う事となる慰霊祭が開催される事となる。

 それも、第14使徒戦から1月も経ずしてである。

 行方不明者も多く、その人々も含めて()()するともなれば、色々と政治的な問題が発生する速さと言える。

 そもそも、第3新東京市の傷跡はまだ生々しかった。

 立ち入り禁止(Keep-Out)も真新しいままであり、血痕すら消されていない場所もあった。

 不心得者を警戒し、警察と戦略自衛隊によるパトロールも行われていた。

 本来、第3新東京市は第7世代型有機コンピューターであるMAGIによって監視運営されており、各所の警戒カメラの情報を基に効果的な警察力の使用が出来る場所であった。

 だが、第14使徒による広範な被害は、そのネットワーク網の多くを破壊しており、その再建の目途は全く立っていないと言うのが現実であった。

 

 第3新東京市の、そんな状況で行われる祭、祭事。

 だからこそ、ソレは慰霊祭では無かった。

 そっけない合同祭(TokyoⅢ-Record2015)の名前が付けられた理由であった。

 人類存続と生存の為の大団結の場であり、そして最初の使徒との接触 ―― 大災害(セカンドインパクト)からの死者行方不明者を偲ぶ場とされていた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 敵を正しく認識し、人類が団結する為の祭事であった。

 

 

「まさか、議長まで来られるとは思いませんでしたよ」

 

 そう述べるのは碇ゲンドウ。

 場所は第3新東京市の地上に設けられているNERV本部関連施設の総司令官公室だ。

 接待している相手はSEELEの議長、キール・ローレンツであった。

 嘆息交じりに返している。

 

「SEELEとしては兎も角、人類補完委員会としては責任者を出さぬ訳にはいかぬからな」

 

 公式な身分たる、国連安全保障理事会人類補完委員会委員長としての訪問であった。

 言うまでも無く合同祭(TokyoⅢ-Record2015)に列席する為であった。

 何時もの制服姿では無く、仕立ての良い背広姿であるし、目立つ視力補強用のバイザーも付けてはいない。

 富裕層であれば何処にでもいそうな、小太りの老人といった姿であった。

 

「安全保障理事会、その12ヵ国の代表が揃う訳ですからな」

 

「そう言う事だ」

 

 仕方が無いと溜息をつくキール・ローレンツ。

 少しばかり疲れの色が濃く浮かんでいる。

 本来であれば、SEELEメンバーで国連対応を任されている人間が出席するのだが、今は過労による持病悪化で入院していた為、議長(責任者)であるキール・ローレンツにお鉢が回って来たのだ。

 そのキール・ローレンツとて最近は、週末には栄養剤点滴を受ける日々であり、決して体調良好とはいえるモノでは無かった。

 当然、碇ゲンドウも似た様なモノだ。

 第2次E計画絡みの修正点で国連安全保障理事会や日本政府との折衝、情婦(赤木リツコ)に追い回される日々で、栄養剤を手放せない状態であった。

 

 尚、赤木リツコに関しては、仕事が忙しいだろうから当分は|NERV総司令官執務室なりに報告に来なくても良い《Sexは健康の為に辞めて置こうと遠回しに》提案したが、ヤッた方が調子が良いのでお気遣いなくとバッサリと拒否されていた。

 最近、赤木リツコとの力関係が完全に逆転している(尻に敷かれている)のではないかと思う碇ゲンドウであったが、疲労感から深く考える事は勿論、逆転する所まで思考が及ばなくなっていっていた。

 

「そう言えば碇、君がスピーチだったな」

 

「ええ」

 

「ならば久方ぶりに、君の演説を楽しむとしよう」

 

「マギに文面は考えさせていますので、内容()ご期待ください」

 

 差し向かいで会話する2人に、特別な緊張感は無い。

 昨今の過労状態が同志的な連帯感を生みだした、と言う訳では無い。

 元より1999年より昔(セカンドインパクト以前)に、碇ユイを介して出会っており、そしてSEELEに関する活動的な意味で関係を深めていたのだから。

 SEELEの現場指揮官としてキャリアを積んでいたキール・ローレンツ。

 その下で活動するSEELEの新参者(碇家の婿養子)としての碇ゲンドウ。

 当時(セカンドインパクト前)、只の利益互助会としての秘密結社であったSEELEは、裏死海文書を得た事によって己を世界の管理者(良き羊飼い)と自認し、世界の為に活動していた。

 第1始祖民族と呼ばれる人類種の祖の痕跡を求め、来訪者たる白き月と黒き月とを探していた日々であった。

 

「拗ねるな。貴様も一大組織の長である以上、公に向けて担うべき時がある事は判ろう」

 

「………ええ」

 

 キール・ローレンツの述べる事は正論であった。

 その程度は碇ゲンドウとて理解はしている。

 だが、流石に(おおやけ)と言うモノが全世界同時配信と言うモノは度が過ぎているのではないかと思うのだ。

 第3新東京市の市民公園で行われるソレは、現場に集まる人間はそう多くない。

 警備の関係もあって遺族その他の関係者2000名と、抽選で選ばれた3000名の一般参加者と言う規模に抑えられている。

 だが、同時に、世界中に同時(Live)放送されるのだ。

 億を超える目で見られる事態と言えるだろう。

 碇ゲンドウが聊かばかりゲンナリとした気分になるのも当然であった。

 これが、例えば政治家(売名商売人)などであれば、名を売る好機とばかりに張り切りもするのだろうが、如何せん、碇ゲンドウにそういう欲求は無いのだ。

 逆に、誠にもって迷惑な話と言うのが本音であった。

 その事を理解すればこそ、キール・ローレンツは笑っているとも言えた。

 

「NERVの総司令官として、役割は果たしますよ」

 

「そうして貰おう。全て(人類補完計画)が終わり、人が新しい夜明けを迎えた先にも繋がる事になるのだ」

 

「はい」

 

 SEELEの人類補完計画。

 碇ゲンドウの人類補完計画。

 その違いに気付けぬキール・ローレンツは、碇ゲンドウを慰める様に言う。

 全てを知る冬月コウゾウは、碇ゲンドウの後ろに控えつつ、腹の中で冷笑をしていた。

 実に滑稽であると。

 とは言え現段階で2つの人類補完計画は共に実現不可能な状況に成りつつあったが。

 それも又、実に滑稽だとも思って居た。

 

 と、その時、甲高い音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 合同祭(TokyoⅢ-Record2015)の参加者控室。

 世界中のVIPが集まる関係上、極めて厳重な警備が行われている。

 これは、使徒の存在公開によって生まれた新興宗教的存在 ―― 親使徒を叫び、使徒による罪の浄化こそが人類を新しい段階へと誘うと叫んでいる集団が存在するが為であった。

 特に使徒(ANGEL)が宗教的な意味を持つ宗教組織に於いて、その手の人間が少なからず発生していた。

 幸いな事は、この極東の弓状列島(日本本土)では、それらの宗教信奉者は極々少数派である事だった。

 そして、この祭事にかこつけて日本入りした人間の追跡は簡単と言うのが大きかった。

 国連安全保障理事会の要請を受けた国際刑事警察機構(ICPO)が、多国間で親使徒派の存在を追っているお陰で、入国時点で捕捉、別件逮捕(国家の力の全力発揮)まで持ち出して捕えていっているのだ。

 とは言え、油断は出来ない。

 高級ホテルを1棟まるごとに借り切った参加者控室は、敷地内には警察(機動隊)が配置され、国連極東軍(Far East-Aemy)憲兵隊が巡回している。

 無論、NERVの保衛部も人員を出しており、そして敷地の入口には各種装甲車まで配置される程の物々しい雰囲気となっていた。

 ある種の過剰反応(ヒステリー)めいた配置であり、一部マスコミなどからは独裁支配でもする積りかとの厳しい声も上がったが、仕方のない側面があった。

 この少し前、アメリカのNERV施設が襲われると言う事件が発生していたからだ。

 9人程度と小規模な、だが武装した人間がNERVの看板(イチジクのマークがついた)施設を襲撃したのだ。

 幸いながらも被害は出なかった ―― そもそも、人員が配置されていない施設であり、襲撃を察知すると共に地元警察へと連絡が行われ、早期に、そして物理的に排除されていた。

 この様な状況下で、安穏としているほどにNERVも日本政府も、国連も愚かでは無かった。

 そんな厳重な参加者控室にあって、一番に保護されていたのは、当然ながらも適格者(チルドレン)であった。

 

 他の参加者からも保護する為もあり、最上階(スイートルーム階)の全てが適格者(チルドレン)控室となっていた。

 着替えや仮眠なども取れる男女別の休息室、そして顔を揃えている待機室だ。

 

「何ぞ、首が苦しいわ」

 

 微妙な顔で首元を触っている鈴原トウジ。

 2回目の礼服姿であるが、見事に似合って居なかった。

 基本的にトレーニングウエア(ジャージ)姿で過ごしてきた為、姿勢が合っていないのだ。

 とは言え疲れたと言う顔でソファに座っている理由は、先ほどまでの惣流アスカ・ラングレーによる鬼教育によるモノであったが。

 自分たちと一緒に並ぶのだ。

 なら、敬礼などは兎も角として姿勢の一つくらいはしっかりとさせねばならぬと言う熱意であった。

 とは言え、鈴原トウジは今回、歩いたりはせず、車いすでの移動となっている。

 別に体調が悪い訳では無いのだが、これも1つの情報戦と言う事であった。

 

「鈴原も意地を張るからよ」

 

 弱ったとばかりな顔になった鈴原トウジに、そっと冷えた水が湛えられたコップを差し出したのは洞木ヒカリだ。

 コップを受け取り一気飲みして、己の頭を軽くはたいてみせた。

 

「そう言わんでくれ」

 

「そういう事するから、格好が乱れるってアスカに怒られてるのに」

 

「すまんのう、そういう癖や。しかし、そういう委員長も似おとるで」

 

「もう、誤魔化すんだから」

 

 少しだけ頬を膨らませる洞木ヒカリ。

 だが、鈴原トウジのいう様に、その恰好は決まっていた。

 NERVの適格者(チルドレン)用礼装にも似た格好をしている。

 アスカや綾波レイが着ている礼装との違いは徽章の類が無い事と、腕章(肩章吊り下げ腕章)が白地に赤十字の医療スタッフを示すモノとなっている事だろう。

 建前として、鈴原トウジの介助者であった。

 実際、鈴原トウジが座る車いすを押す役割を担っていた。

 とは言え、その髪型は凄い事になっている。

 腰まで伸びる艶やかな黒髪である。

 前髪も綺麗に揃えたお姫様カットであり、医療従事者としては些かの問題はあるが、実に美人に仕上がっていた。

 天木ミツキほか、支援第1課スタッフの暴走の結果であった。

 3人目の美少女なのだから、アスカと対を成す髪型(長さ)にしたいとか、綾波レイに近い感じで黒髪にしたいとか。

 装いたい(デコレーションしたい)と言う願望が暴走しての事と言えた。

 同じく、初披露な渚カヲルが、男子と言う事で余り弄りようがない ―― アッシュブラウンなウィッグで髪型はシンジや鈴原トウジと同様のツーブロック風であり、肌色も弄れないのだから、仕方が無い。

 

「いや、ホンマやで。これじゃ委員長と言うよりお姫様って感じや」

 

「もう! でも鈴原も似合っているわ」

 

「さよか!」

 

 褒められ、相好を崩す鈴原トウジ。

 本人たちの自覚の無い仲の良さ(イチャイチャ)に、少し離れた所に座っていた綾波レイは唇を尖らせる。

 

「痒い」

 

 掻いては駄目と言われているから我慢しているが、正直、耐えられないモノを感じていた。

 だから珈琲を飲む。

 当然ながらもブラックだ。

 だが、まだ手元には来ない。

 だから、とばかりに視線を動かせば元祖な2人、シンジとアスカが部屋に置かれていた楽器 ―― 弦楽器であるチェロを触っていた。

 仲の良い距離(イチャイチャ)だ。

 礼服姿である為に弾いたりはしていないが、シンジはチェロが出来るとか、アスカはバイオリンをやってたとか言っている。

 

「薩摩琵琶を学ぼうとしたら、お母さん(義母)コッチ(チェロ)にしてって言ったんだ」

 

「ふーん。でも何で?」

 

「御嫁入の時に持って来たけど、誰も弾く人が居なかったからって」

 

 シンジの義母は、趣味でチェロをしていた。

 だから子ども達にも教えようとしたのだが実子である長女は、フルートの方が好きだと言い、戦災孤児を養子とした長男は、父親(シンジの義父)の影響で薩摩琵琶を趣味としていた。

 だからこそ、シンジは逃がさぬとばかりにチェロを嗜む事となったのだ。

 鹿児島(薩摩)の碇家は、稀に休日には和洋合作(チャンポン)な合奏が響く事になっていた。

 

 兎も角。

 シンジが初めて口にする鹿児島の生活話に興味津々となるアスカ。

 北欧から入ったと言うシンジの義母の話にも食いついていた。

 

「でもコッチの家、ご近所さん? には煩いんじゃないの」

 

(鹿児島の家)は大きいし、庭も広いからね」

 

 霧島の裾のにある田舎だからと、500坪近い敷地があるのだと言う。

 庭には池があり、倉もあるのだと言う。

 

「へー」

 

「……………その、今度、行ける時があったら、アスカも行って見る?」

 

Weißt du, was ich meine(女の子を連れて帰る意味、判ってるの)?」

 

 思わずお国言葉(母国語)で漏らしたアスカ。

 それだけ、精神に来る一撃(クリティカルヒット)であったのだ。

 とは言えシンジは割と簡単に考えていた。

 自分もアスカの家に行ったのだ。

 なら、アスカも自分の家を、家族を見て欲しい。

 そんな素直(素朴)な感情であった。

 ガールフレンドを実家に紹介すると言う意味を、余り考えていなかった。

 何ともシンジらしい態度とも言えた。

 

「え?」

 

「楽しみって事」

 

 発生するであろう騒動 ―― 少なくとも、アスカは自分がシンジをランギー家に連れて帰った時の様な事になるんだろう事を想像しながら、でも、それをおくびにも出さず、誤魔化す様にシンジの鼻先を弾くのであった。

 

 

 アチラも、痒い。

 実に痒いと思う綾波レイ。

 

「お待たせ」

 

 そっと差し出されるマグカップ。

 ブラックの珈琲がなみなみと注がれている。

 差し出したのは渚カヲルだ。

 

「待ったわ」

 

 無慈悲な言葉と共に、マグカップを取る綾波レイ。

 だが取る仕草も、口を付ける仕草もその、内面とは異なった嫋やかなモノであった。

 

「ふふっ」

 

「なに?」

 

「君も面白いね」

 

 内面が見える渚カヲルにとって、自分を偽ると言う意味では無い表裏の違いを持っている綾波レイは面白い(リリス)であった。

 裏表に差の無いシンジや少しばかりひねくれているけども素直なアスカと言う(リリン)

 他にも鈴原トウジや洞木ヒカリ、第壱中学校のクラスメイト達。

 SEELEやNERVの大人(捻くれた人々)との対話で疲れていた渚カヲルにとって、第3新東京市での生活は、正に癒しであった。

 見たくないものまでも見えてしまう。

 そんな自分を誤魔化す為にも仮面の様に笑って(アルカイックスマイルを浮かべて)いた渚カヲルであったが、この第3新東京市に来てからの日々の中、何時しか普通に笑う様になっていた。

 

 尤も、アスカに言わせるといつも通りの顔(胡散臭い笑顔)との事ではあった。

 だが2人は、シンジが絡む際には劇的な衝突の多いと言う事があるので、割り引いて聞く必要はあるだろう。

 兎も角、渚カヲルにとっての第3新東京市での生活は充実したモノであると言えた。

 

「………そう? 判らないわ」

 

「それが良い所さ」

 

 同じソファで仲良く並んで珈琲を啜る2人。

 それを見ていた支援第1課スタッフは、只黙っていた。

 心底からコールタールの様に黒い珈琲を飲みたいと思いながら。

 

 そんな空気を叩き潰す音がなった。

 使徒襲来を告げる警報音(サイレン)だ。

 

 

 

 

 

「状況はどうかっ!」

 

 礼服姿のままに、状況報告を求める葛城ミサト。

 応じる青葉シゲルも礼服姿で制御卓(コンソール)を触りながら声を上げる。

 

「目標は衛星軌道上にあって、現在地球公転速度と同調中。NERVの望遠システムでは遠すぎる為、 NAOJ(国立天文台)経由で現在、情報確認中」

 

 礼服姿から判る通り、合同祭(TokyoⅢ-Record2015)に列席する為に第1発令所勤務から外されていた筈の青葉シゲルであったが、その本業 ―― NERVの外の各組織との意思疎通の窓口として役割から、急遽、オペレーター業務に就いていたのだ。

 NERV単独では探知困難。

 それ程の遠い位置に、使徒は居た。

 

「識別はどうか?」

 

「今だパターン青(BloodType-BLUE)、検知せず!」

 

 通常業務に就いていた日向マコトが声を張り上げる。

 遠すぎる、と付け加える。

 衛星軌道 ―― 高度約3000㎞に目標は存在するのだ。

 地球上での使徒の発見を目的に作られたセンサーには余りにも遠すぎていた。

 それはNERVの遠距離観測手段(望遠システム)にとっても同じ事であった。

 にも拘わらず発見できたのは、スペースガード計画との協定 ―― 世界中の天体観測所やアマチュア天文家による対宇宙観測通報網が出来ていたお陰であった。

 今回の使徒発見の第一報は、シベリアのアマチュア天文家の発見であったのだ。

 異物の発見と言う形で対宇宙観測通報網のネットワークに挙げられた情報を基に、各天体観測所やアマチュア天文家が詳細を確認。

 確かに非通常物(UFO)である事を確認するや、速やかに国連安全保障理事会を経由してNERVへと報告されたのだ。

 人類の総力戦。

 それが文字通りである事を示す事例であった。

 

「………レーダーによる反応は?」

 

ネガティブ(検知せず)です」

 

 と、そこで青葉シゲルが声を上げる。

 

「岡山天体物理観測所からデータ、入ります」

 

 その声に合わせて、第1発令所正面モニターに映し出される

 大型反射望遠鏡が捉えた画像、MAGIによって補正されてソレは、羽を広げた鳥の様な光り輝く存在であった。

 無論、有史以来、そんなモノが見つかったと言う例は無い。

 

「使徒ね」

 

 最近は心に使徒と書かれた棚を作り、理論的では無い事象を全部放り込む様になった赤木リツコが断言する。

 科学の敵を見る顔(女性がするには余りにも危険な表情)をしている親友(マブ)を見ないようにしながら、葛城ミサトも断じる。

 

「使徒として対処します。日本政府に対しA-18の発令を要請。及び目標を第10使徒と同等の能力を保有するものと仮定し対処します。作戦局は作戦案を至急策定しなさい。それから__ 」

 

「まだ判別できていません(BloodType-BLUE非検知)、宜しいですか?」

 

 作戦局第1課課長代理(作戦局№2)として確認の声を上げたパウル・フォン・ギースラー。

 右目に眼帯をし、右腕を吊っていると言う痛々しい姿であった。

 胸には真新しい名誉戦傷章(Purple Heart)が縫い付けられている。

 先の第14使徒との戦の際に信濃砲座での戦傷 ―― 第14使徒からの砲撃で破損した砲座から要員の避難指示を行い、その最中に、部下を落下物から庇った際に怪我をしていたのだった。

 通常であれば、治癒と療養が認められる状態であったが本人が固辞したのだ。

 前線に立つ子ども達(チルドレン)に比べれば、椅子を尻で磨くだけの仕事だから問題は無いのだと言って。

 それはパウル・フォン・ギースラーだけでは無かった。

 ベットに括りつけられる様な傷をしなかった大人たちの大多数は、異口同音にそう言って現場復帰していた。

 誰もが言う。

 子ども達の怪我(痛み)に比べれば、と。

 

 高い戦意に支えられたNERV本部は、正しく人類の砦であった。

 

「この情報、日本政府も見ているわ。なら結論は一緒でしょ」

 

 断じる葛城ミサト。

 使徒であると把握できるまで手をこまねいている方が問題であると言う。

 

「宇宙人であるかもしれないわよ」

 

 寸毫とて思って居ない声を出す赤木リツコ。

 そのジョークに葛城ミサトは乗る。

 乗ってから笑う。

 

「なら、駄目な時間に来た不運を嘆いてもらいましょ。淑女のお家訪問は時間を考えなさいってね」

 

 そこまで言って葛城ミサトは、全てを切り捨てる勢いで命令を発する。

 

「総員、第二種戦闘配置!!」

 

 

 

 キビキビと動き出すNERV本部スタッフ。

 その様を第1発令所後方の第1指揮区画、総司令官ブースで眺めているキール・ローレンツ。

 この場に居る理由は、NERV本部で最も安全であり、そして全ての情報が見えるからであった。

 背広姿を見るスタッフは誰もが訝しんでいたが、その首には臨時とも付け加えられた超VIPの証(特1級機密資格証)が下がっているのだ。

 である以上、一般のスタッフの立場で誰何など出来る筈も無かった。

 

「まさか、この私も使徒迎撃戦に直接触れる事になるとはな」

 

「避難は宜しいのですか?」

 

 碇ゲンドウの確認。

 だがソレをキール・ローレンツは笑いながら却下する。

 無用である、と。

 一般市民その他の避難活動で陸路、及び鉄道は極めて混雑していた。

 空路も似た様なものであった。

 そもそも、空路の場合、飛行機乃至はヘリコプターを準備するまで時間が掛かるのだ。

 即応できる機体は、全てが対使徒の為に動き出している。

 

 VIP(人類補完委員会委員長)の権限で席を取る事は不可能では無いのだが、非常事態でその様な行動をすれば政敵に非難の道具を与える様なものであるのだ。

 特に国連安全保障理事会の理事国には、人類補完委員会(SEELE)の権限を安全保障理事会に渡す様に主張する国家もあるのだ。

 下手な隙を見せる訳には行かないというのが本音であった。

 

「NERV諸君、そしてエヴァンゲリオンの活躍を期待させて貰おう」

 

 SEELEの議長と言う重鎮に相応しい態度で、キール・ローレンツは笑うのであった。

 

 

 

 

 

 


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