【本編完結】サツマンゲリオン ~ 碇シンジが預けられた先が少しだけ特殊だった県/件 作:◆QgkJwfXtqk
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第15番目の使徒を遠方で発見できたお陰で、NERV側としてはある程度、余裕のある準備を進める事が出来ていた。
第3新東京市の市民、NERVの非戦闘要員の避難。
そして、エヴァンゲリオンの戦闘準備と作戦立案である。
とは言え、作戦自体は
根幹となるのは
運用するのはエヴァンゲリオン3号機。
G型装備第2形態、その更なる改修型を装備している。
従来よりも更に大型のキャパシタを搭載しており、
G型装備改第2形態だ。
その対価として、冷却システムの巨大化その他もあったが為に副脚が更に巨大化しており、知らぬ人間が見れば4脚機と思うような姿となっていた。
当然ながらも機動性は劣悪の一言である。
このエヴァンゲリオン3号機を本命として、第2小隊であるエヴァンゲリオン4号機とエヴァンゲリオン6号機が助攻を担当する。
主武装はエヴァンゲリオン4号機が使い慣れた
新しくエヴァンゲリオン用装備として正式化された
その名前からも判る通り、
火力自体は
だがその火力の低下を代償として、使い勝手が極めて改善されているのだ。
砲身も約半分の長さになり、重量もかなりコンパクトとなった。
何より消費電力が段違いに改善されている。
そもそも、山1つを融解せしめる熱量を持った
従来の
第5使徒や第14使徒級とまでは行かないが、それ以外の使徒が保有していた粒子砲に準じる火力には到達しているのだ。
何も問題は無いと言えるだろう。
後は射程距離であったが、超々遠距離砲撃戦は困難であっても中遠距離戦は十分に可能となっている。
次期支援火器として期待されるのも当然だった。
エヴァンゲリオン6号機が装備するソレは、その期待すべき
この3機のエヴァンゲリオンは攻撃任務であった。
対して、常ならば
今まで襲来した使徒の悉くを討ち滅ぼしてきた両機であったが、如何せんにも近中距離戦を得手としている機体であり、乗り手なのだ。
である以上、衛星軌道上の第15使徒への攻撃の主力には成りえないのだった。
だからこその囮役。
予備であり、射程距離の問題から有効な打撃を与える事の難しい
「ま、今回ばかりは
葛城ミサトが快活に笑う。
それに惣流アスカ・ラングレーは仕方が無いとばかりに肩を竦めた。
操縦者待機室の
配置が発表される。
大容量の給電システムが整備されている早雲山射撃ポイントにエヴァンゲリオン3号機。
そして第1小隊は、最近になって整備の終わった湖尻峠射撃ポイントに展開するとされていた。
湖尻峠射撃ポイントは、地面こそエヴァンゲリオンが動き回れる様にと補強されてはいたが、べトンで固められた退避壕など何もなく、給電システムも仮設のモノしか用意されていない。
文字通り囮役の為の場所であった。
使徒に対して先制攻撃を実施し、その反応を吸収する場所として整備されていたのだ。
そして今回は、その設置目的を果たす事となった。
エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機の手で第15使徒への
本来ならば第3新東京市要塞機能、その火力で偵察攻撃が行われるのだが今回は不可能であった事が、この過酷な役割を第1小隊の2機が担う事となっていた。
人類の英知をかき集めて建設された対使徒迎撃要塞都市第3新東京市であったが、如何せん、その火力は主に水平方向に発揮されるモノとして整備されており、衛星軌道上 ―― この時点でも1000㎞を超える所に漂っている使徒に振り向ける火砲などは用意されていなかったのだから仕方が無い。
将来的には
兎も角、エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機は、第15使徒の攻撃を誘引するが、その攻撃手段も何も判らない状況である為に危険極まりない役割と言えた。
だが、担うのは
誰もそこに悲壮感を感じる事は無かった。
「使徒の情報が無いのは何時もの事」
「同じ姿の使徒は居ないもの。推測する事も出来ないわ」
アスカが軽口を叩けば、綾波レイも同意する様に合いの手を入れる。
その姿に古参である碇シンジは、2人も距離感が変わったものだと呑気に考えていた。
目の前に迫っている
「センセは怖くないんかい?」
「
最早一種の惚気めいたシンジの返事。
鈴原トウジも渚カヲルも顔を見合わせて笑い合った。
「ご馳走様って、こういう事だね」
「そやで」
「
「好きって事さ」
「
「韜晦って奴やな」
ケタケタと笑う鈴原トウジ。
ため息交じりに2人を見ているシンジ。
正に、子どもの姿だった。
それを見ている葛城ミサトは、只、全ての子ども達が無事に戻ってくる事を祈るだけであった。
「そんな顔、子どもに見せないようにしなさい」
「判ってるわよ」
本人も、何かを噛みしめる様な顔をしている赤木リツコからの苦言。
その通りなのだ。
指揮官と言うものは常に泰然自若と言った態度を見せ、率いる人々を安心させねばならぬのだから。
国連軍での教育で
指揮官と言う人間を演じるにはまだ若いと言えていた。
否、違う。
幼少期からの厳しい訓練によって兵士としての意識を抱いていたアスカや綾波レイ、
子どもに見えない時があった。
それが今、鈴原トウジや渚カヲルと言う触媒によって、年齢相応の態度を見せる様になっていたのだ。
ソレが、ツラいのだ。
自分たち大人が戦場に送り込むのは、子どもであると見せつけるのだから。
だが同時に、葛城ミサトは自分はそれで良いのではとも思って居た。
子どもを戦場に放り込むと言う業を背負っているのだ。
その業を忘れては、人として終わる。
そんな風に思い、自戒するのであった。
葛城ミサトは、そんな内面を出さぬ様に意識して不敵な笑みを作って言葉を続ける。
「緊張感が無くて結構。いつも通りやれば十分よ」
全員の顔を見ていく葛城ミサト。
髪が違うし、肌も違っている。
だが目だけは、その意思の込められた瞳だけは何時も通りだった。
その目を裏切るまいと固く決意し、葛城ミサトは笑う。
「みんなとっとと片をつけて戦勝パーティやっちゃうわよ」
「もしかして今日の奴、はよう終わらせたら、再開でっか!?」
「流石に今日は無理でしょ。だから、今日の為に用意されてた料理を持って帰れるって寸法よ」
一流ホテルの料理を取り寄せもしているのだ。
それを捨てるなんて勿体ないと笑う。
赤木リツコは葛城ミサトのそんな態度に、良い
第3新東京市の住人や、
その他、非戦闘員が大急ぎで逃げ出すなり、或いは避難所に身を隠し、静謐に沈んだ第3新東京市。
特に、郊外に設けられた湖尻峠射撃ポイントは静かであった。
そこに待機姿勢で居るエヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機。
既にシンジとアスカは機内で待機している。
反撃を受けるリスクがある為、整備などの人々も避難している。
NERV本部との通信も止まっている為、静かな、相手の息遣いだけが聞こえる環境だ。
文字通り、2人っきりであった。
「こういう空気って久しぶりよね」
甘い声を上げるアスカ。
シンジも静かに頷く。
『そうだね』
第12使徒戦から色々と忙しかった。
ヨーロッパに出張したし、或いは新人である鈴原トウジや渚カヲルへの教導もあった。
学校だってあった。
忙しさから家では、ヘトヘトになって飯食って寝る様な日々だったのだ。
又、操縦者待機室も、鈴原トウジや渚カヲルが加わった事で騒がしくなっていて、静かに会話する事は減っていた。
賑やかに声を上げる鈴原トウジ。
渚カヲルも、興味に合わせて色々な事を聞いてくるのだ。
静かに相手の息遣いを聞くような時間が取れるはずも無かった。
『賑やかなのも嫌いじゃないけど、静かなのだって悪く無いかな』
「そうね」
フト、周りを見たアスカは楽しそうに言葉を紡ぐ。
こういう場所を自転車で走るのも楽しそうだと言う。
『なら、お弁当を用意しておかないとね』
「
日本の主流は薄切りの食パンを使うが、ドイツの場合は普通のパン、それも歯ごたえのあるモノが使われているのだ。
日本の食生活も好んでいるアスカであったが、偶に、故郷の味が欲しくなる時もあるのだ。
シンジは澄まして答える。
『具はハムとチーズで良い?』
「あと
『きゅうり? アスカってサンドイッチにきゅうりを入れるの好きだよね』
「瑞々しいのが美味しいのよ。駄目?」
上目遣いめいた表情のアスカに、シンジは抵抗するそぶりすらない。
喜んで、と言った勢いだ。
洞木ヒカリからすれば、アスカも料理をしてシンジの胃袋を掴もうとすれば良いのに、と呆れる所があったが、それがシンジとアスカの人間関係とも言えた。
違う。
アスカの胃袋をシンジが掴んだと言うべきかもしれない。
『大丈夫、新鮮な野菜が入荷出来る様に成ってたから大丈夫だよ』
「
穏やかな時間。
だが、それも終わる時が来る。
『こちら第1発令所。
日向マコト。
NERV本部からの通信だ。
「大丈夫よ。準備はすべて完了。何時でも行けるわ」
『
『ならタイマーを確認してくれ。修正している。作戦開始が早まった。目標の降下速度が加速している』
作戦開始時刻とラベリングされたタイマーが、最初に見た時よりも10分以上も早まっていた。
更新されていたのだ。
時間的猶予が消えていた。
「手順は?」
『手順に変更なし。予定通りに頼む』
「
アスカはエヴァンゲリオン弐号機を待機状態から戦闘可能な態勢へと移行させる。
立ち上がり、己の武器となる
通常であれば射程距離は10㎞と無いこのロケット砲であったが、今回の弾頭は特別弾だ。
遠距離戦用としての射程増 ―― 推進剤の追加のみならず、軽量化の為に弾頭のN²弾が降ろされているのだ。
本作戦向けの
第15使徒側に脅威と認識させる必要から、軽量な炸薬も弾頭には仕込まれていたが、使徒のA.Tフィールドに被害を与える可能性など殆どなかった。
その意味では
『
シンジが報告する。
エヴァンゲリオン初号機の兵装である
だが、シンジの表情に油断は無い。
何をしてくるか判らないのが使徒。
そう理解しているからこそであった。
シンジとアスカは黙って頷き合うのだった。
「作戦開始まで
「エヴァンゲリオン各機、配置に問題無し」
「
全ての情報が集まるNERV本部第1発令所。
その空気を肌で感じながらキール・ローレンツは、今回は簡単に決着が付きそうだと考えていた。
今回の決戦兵器たる
あの第5使徒すら容易に叩き潰せるであろう凶器であるのだ。
しかも、敵第15使徒は空に居る。
何の制約も無しに発砲できるのだ。
苦戦すると考える事すら罪深いだろうとすら楽観していた。
「目標、高度1000㎞を維持中」
「軌道に変化なし!」
「結構。作戦に変更の必要なし。カウントは予定通り実施せよ」
「了解! …………カウント……10…7…6,5,4,3,2,1…
「
第1発令所正面モニターに、攻撃を開始するエヴァンゲリオン弐号機の姿が映し出される。
煙を引いて撃ち上げられロケット弾。
連続射撃。
それらが第15使徒へ着弾までの僅かな時間、誰もが固唾をのんで見守っていた。
と、青葉シゲルが声を張り上げる。
「目標、A.Tフィールドを展開!」
弾着時の花火、その煙によって輝く、広げた翼めいた第15使徒の姿が見えなくなった。
その瞬間、煙が一気にかき消された。
A.Tフィールドだ。
「目標! A.Tフィールドを___ これは!?」
「報告は鮮明にしなさい!」
「すいません、目標、A.Tフィールドを収束させて第3新東京市、いや違う
目に見える程に、第1発令所正面モニターにもはっきりと見える光の柱がエヴァンゲリオン弐号機を捉えた。
「敵の指向性兵器っ!?」
「いえ、熱エネルギー反応無し!」
「A.Tフィールドの接触が始まってます! これは浸食!?」
伊吹マヤが悲鳴めいた報告を上げる。
それまで見られていた攻撃の為のA.Tフィールドの中和 ―― 同調による無力では無く、全てを飲み込むような何かであった。
エヴァンゲリオン弐号機とアスカが、まるで飲み込まれる様な勢いであった。
『ううぅぅぅっ、こんちくしょーっ!!』
通信画面の向こうで、アスカは全身に力を入れて吠えていた。
「心理グラフが乱れています、精神汚染が始まります!」
それはまるでアスカの今の心の苦しみを現しているようであった。
「アスカ!?」
葛城ミサトの悲鳴めいた声。
指揮官失格めいた態度。
だが目立つ事は無かった。
誰もが、同じような反応を示していたからだ。
「使徒が心理攻撃…まさか、使徒に人の心が理解できるの?」
「エバー
「エネルギー伝達開始させてます。後、30秒下さい」
「急いで! エバー
「葛城さん!?」
葛城ミサトの指示に、思わずと言った感じで日向マコトが声を上げた。
エヴァンゲリオン4号機が攻撃を開始すると言う事は
電力は問題では無い。
だが、キャパシタ周りや給電系統に負担が入ってしまう。
文字通りの悪手。
だが、その事実を葛城ミサトが理解し、反応するよりも先に綾波レイが動く。
『了解』
沈着冷静を代名詞とする綾波レイであったが、滅多にないアスカの苦悶がソレをはぎ取っていたのだ。
閃光。
地より空を駆け上る光の柱。
だが残念。
或いは当然の結果の如く、距離による減衰もあって撃破は出来なかった。
とは言え第15使徒も無傷と言う訳にはいかなかった。
防御にA.Tフィールドを使う為、エヴァンゲリオン弐号機への浸食が止まったのだから。
『アスカっ!』
その間隙を逃さず、シンジはエヴァンゲリオン初号機をエヴァンゲリオン弐号機の元へと走らせる。
『シンジっ! あぁっ!?』
だが、それよりも先に第15使徒のA.Tフィールドが早かった。
エヴァンゲリオン弐号機を押し包むような第15使徒のA.Tフィールド。
光の柱めいたナニカ。
だが、シンジは躊躇する事無くその中へとエヴァンゲリオン初号機を飛び込ませた。
自らの武器たる
だが、第15使徒のA.Tフィールドは執拗にエヴァンゲリオン弐号機を、アスカを狙っていた。
『ああぁぁぁぁっ!?』
自分内側へと手を差し入れられる様な不快感。
嫌悪感。
憎悪。
フラッシュバックしてくるナニか。
何かが入って来る。
何かが見ている。
『ああぁぁぁぁっ!?』
それが何であるか、アスカには判らなかった。
だがヒトならざる大きなナニかであるとだけは判った。
自分が消えていく、壊されていく。
そんな感覚を味わう絶望感。
だが、そんなアスカの耳朶に声が届いた。
『アスカっ!?』
シンジだ。
シンジの声。
そして
そうだ。
それがアスカにとって全てとなった。
相方にして恋人たるシンジが己の全てをもって自分を守ろうとしているのだ。
であれば、それに応えねば女が廃る。
アスカの心に火が灯った。
物理的では無い、予想外の攻撃に受けた動揺をかき消す女の意地だ。
『シンジっ!!』
物理的干渉力をもって降り注ぐ第15使徒のA.Tフィールド。
その下で手を繋ごうと右腕を伸ばすエヴァンゲリオン弐号機、その動きを見たシンジはエヴァンゲリオン初号機の左腕で受け止める。
その感触がアスカを強くする。
『A.Tフィールド全開!!!』
宣言。
正しくそれは宣戦布告。
第15使徒による侵食を、逆に喰らってやるという咆哮であった。
エヴァンゲリオン弐号機が、第12使徒戦以来のA.Tフィールドの
『ああああああああっ!!!!!』
吹き上がる赤い柱。
その照り返しが、芦ノ湖を赤く染めている。
エヴァンゲリオン弐号機と第15使徒のA.Tフィールドはほぼ拮抗状態に突入した。
余りの光景に、第1発令所の誰もが唖然として正面モニターを見ていた。
「凄いわね」
理解を越えたとばかりな、そんな声を漏らす赤木リツコ。
心の棚で
と、伊吹マヤが声を上げた。
「駄目です、
「なんですってっ!?」
見れば光の柱は少しづつ、赤いエヴァンゲリオン弐号機のソレが天より圧されつつあった。
流石は使徒と言うべきかもしれない。
一転して第1発令所の空気が緊張感で固まる。
「エバー
「給電ルートの再チェック、もう少しだけ時間を下さい!!」
泣きそうな声を上げる伊吹マヤ。
エヴァンゲリオン4号機による
切歯扼腕と言う表情になる葛城ミサト。
誰が悪いと言えば誰も悪くはない。
原因としては葛城ミサトによる綾波レイに対する発砲指示であるが、ソレが稼いだ時間でシンジとエヴァンゲリオン初号機はアスカのエヴァンゲリオン弐号機の所へと到達したともいえるのだ。
誠にもって世の中は、難儀、或いは因果なモノであった。
が、状況が更にひっくり返される。
『シンジ、アタシに合わせて』
『A.Tフィールド?』
『そう…
シンジも、そして葛城ミサトは勿論、赤木リツコすら理解出来ない内容であった。
だが、言われたシンジは迷わなかった。
そして何より、誘ったのがアスカだ。
迷う必要など無かった。
『判った』
「シンジ君!?」
即答したシンジに、思わず声を漏らす葛城ミサト。
だが外野を無視するかの如く、2人は動く。
『聞こえるの、判るの。初号機と弐号機の力を一つに合わせなさいって……懐かしい声が』
『うん、やってみる』
目を閉ざして深呼吸をするシンジ。
内側へと、エヴァンゲリオンの中へと意識を向けた。
沈み込むような奥底。
エヴァンゲリオンの、エントリープラグ内の様な水底の様な空気を味わうシンジ。
何かがあると信じて探す。
その果て。
そこにあった何か、或いは意識。
誰かが
その誰かはシンジを更なる深い場所へと誘い、そして触れさせた。
シンジがソレに触れた瞬間、
閃光が溢れる。
「
「嘘でしょ!?」
葛城ミサトの悲鳴。
だが現実は、葛城ミサトを無視して進んでいく。
エヴァンゲリオン初号機から、エヴァンゲリオン弐号機と同様の赤い光 ―― 可視化したA.Tフィールドが吹き出している。
それはエヴァンゲリオン弐号機のそれと混ざり合い、そして強固な光の柱となる。
第15使徒のA.Tフィールドを一切許さない強固な光。
『判る?』
『判る。判るよアスカ』
『これがA.Tフィールド』
ある種の荘厳な光景。
誰もが見惚れてしまう、手と手を携えたエヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機の姿。
「リツコ、アレ、どうなってるのよ」
困った時の赤木リツコ。
だが、本当に困った時には、既に赤木リツコは走り出していた。
科学者としての本質故に。
「
切り捨てる様な一言。
視線を葛城ミサトに合わせもせず、第1発令所技術開発局の
目の色を変えているのは赤木リツコだけではなく、伊吹マヤもだった。
「そんな事よりも観測よ。マヤ、全ての情報を漏らさず収集するのよ!!」
「はい、センパイ!!」
人、
そんな、興奮状態の姿にあてられて、伊吹マヤも頬を赤く染めていた。
「………
戦闘中であるにも関わらず、脱力感すら漂わせる葛城ミサト。
だが、他人事めいた気分を味わえたのもそこまでだった。
エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機のA.Tフィールドに弾かれた第15使徒のA.Tフィールドが一気の第3新東京市全域に溢れたのだ。
光めいたナニカが、地表をも貫いてNERV地下施設たる第1発令所まで到達する。
「っ!?」
思わず口元を抑える葛城ミサト。
それ程に、ソレは不快感を伴っていた。
光が、ではない。
光に触れた事で見えた、何かが、だ。
自分のモノでは無い何か。
他人の心。
それも1人2人などでは無い量の人達の感情、記憶、その他の奔流だ。
その余りの数の多さは、真っ黒な塊のような何かであった。
視野すらも歪み、世界が多重に見える。
「このっ」
揺れる己を律する為、一切の容赦なく自分の頬を殴った葛城ミサト。
反射的な行動であったが、その痛みが自分を規定した。
少しだけ、酔った様な何かから脱し、耐える事に成功する。
だが耐えられない者も多かった。
床に倒れた者。
吐いている者。
のたうち回る者。
失神している者。
阿鼻叫喚といった有様だ。
「使徒の攻撃かっ!?」
吠える葛城ミサト。
その声に、必死の形相で
「不明! なれど、これは目標の、A.Tフィールドですっ!!」
「おのれっ!!」
葛城ミサト。
だが状況は最悪であった。
「両機、心理グラフシグナルが滅茶苦茶です!?」
倒れている伊吹マヤの代わりにとエヴァンゲリオン各機の機体状態も把握する青葉シゲル。
吐しゃ物で口元を汚しながら、必死の形相の日向マコトが2機のエントリープラグを確認させる。
「L.C.L.の精神防壁、どうなってる?」
伊吹マヤの据わる椅子にしがみ付いて姿勢を維持しながら声を上げる赤木リツコ。
椅子の主である伊吹マヤは床に倒れて肩で息をしていた。
だが、誰も助ける余裕が無い。
否、助けようとされれば拒否しただろう。
子ども達を優先してください、と。
「効果不明!?」
赤木リツコは察していた。
渚カヲルは兎も角として、綾波レイと言う
何とか対策を練らねば。
爪を自分の手に突き立て、その痛みで正気を維持しながら頭脳を走らせる赤木リツコ。
だが、思いつかない。
エヴァンゲリオンとの
考えた端から無駄であると断じる。
エヴァンゲリオンに乗っても居ない自分たちですら、第15使徒のA.Tフィールドによって酷い状態なのだ。
意味が無い。
「おのれっ」
らしくない、汚い言葉を吐く赤木リツコ。
だが、救いの手は差し伸べられた。
『視えるわね、シンジ』
『ああ。見えるよアスカ』
『やるわよ』
『うん』
「第1小隊がっ!?」
青葉シゲルの報告。
見れば、エヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機のA.Tフィールドが一気に広がったのだ。
赤い、羽の様にも見える両機の後方から伸びたA.Tフィールドが第3新東京市を覆う様に広がる。
その余波が湖尻峠の射撃ポイント周辺の山を崩す。
大地すら掘り返される勢い。
可視化した、物理的影響力を発揮する程のA.Tフィールド。
それが、盾となる。
それまでの暴力的、圧倒的な何かが少しだけ緩んだ。
第15使徒のA.Tフィールドがエヴァンゲリオン初号機とエヴァンゲリオン弐号機のA.Tフィールドによって中和されているのだ。
だが、その代償は決して軽くない。
「シンジ君! アスカ!?」
特にエヴァンゲリオン弐号機の心理グラフシグナルが一気に悪化する。
悲鳴を上げないのはアスカの矜持であった。
そして、第15使徒による精神攻撃は、エヴァンゲリオン弐号機のA.Tフィールドに同調しているエヴァンゲリオン初号機をも襲う。
シンジの心理グラフシグナルも一気にグチャグチャになる。
滅多にない耐える姿。
目を瞑り、歯を食いしばっているシンジ。
咄嗟に、2人を止めようとする葛城ミサト。
それを止めたのはシンジの叫びだった。
『
それは救いを望む声では無かった。
自分たちが稼げる時間で対応をしろと言う、叱咤激励であった。
少なくとも葛城ミサトと言う人間にとっては。
子どもが、己を顧みぬ献身を見せているのだ。
それに応えずして大人と言えようか。
鬼の様な形相で葛城ミサトが声を張り上げた。
「エバー
『大丈夫や。まだ大丈夫や』
エヴァンゲリオン3号機に乗る鈴原トウジの声。
苦悶にも似たモノが声に乗ってはいるが、だがまだ元気があった。
「行ける!?」
『行けまっせ!!』
「日向君、エバー
だが終わらせるのを待つ余裕はもう無い。
シンジとアスカが稼いだこの時間を無為とする訳には行かないのだ。
「安全装置、強制解除します!! エネルギー充填率、規定値に到達します」
「照準システムはどうかっ!」
「マギ誘導、正常稼働中。誤差修正、自動モードで行えます。行けます」
「結構!」
そこで少しだけ柔らかい表情を作り、葛城ミサトは鈴原トウジに語り掛ける。
「トウジ君、貴方に全てを任せるわ。派手にぶちかまして」
『やりますわっ!』
必死の顔で吠える鈴原トウジ。
新兵である。
子どもである。
だが、男の子であった。
シンジとアスカの献身を背負い。
大人たちの努力を背負い。
第三新東京市を背負い。
人類の存亡を背負って鈴原トウジ、天空の第15使徒を睨む。
深呼吸。
MAGIによって誘導された照準が第15使徒を捉える瞬間を待つ。
数秒が数十秒にも数分にも感じられる時間。
だが、遂に捉えた。
青く光る照準。
「いてこましたれ!!」
吠えた鈴原トウジ。
極太の光の柱が空へと駆け上る。
その輻射熱が早雲山の射撃ポイントを、エヴァンゲリオン3号機を焼く。
エヴァンゲリオン3号機が纏うG型装備改第2形態、その各部に用意された強制冷却システムが全力で稼働し、機体の過熱を防ぐ。
だが鈴原トウジの目は、はるか先の第15使徒を睨み続けていた。
只、結果だけを見ていた。
届くまでの数秒。
そして貫通。
『使徒、沈黙!』
『
その報告を聞いた瞬間、鈴原トウジは大きく息を吐いていた。
「してやったり、や」
そこには大役を果たした満足感が浮かんでいた。